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2017年10月01日
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テーマ: 本日の1冊(3697)
カテゴリ: 考古学



「日本海を望む「倭の国邑」妻木晩田遺跡」濵田竜彦 神泉社
私が妻木晩田(むきばんだ)遺跡を初めて訪ねたのは、国指定遺跡になる直前の98年の夏だったと思う。中国山地を越えると、右手に見事な伯耆富士大山が聳えているのに気がつく。その目下に孝霊山。その麓に、発掘作業が終わったばかりの四隅突出墓が現れた洞ノ原地区を抱えた「日本最大級の弥生遺跡」があった。その墓の特異な形に驚き(私はまだバリバリの考古学ファン初心者だった)、更にはそこから見える弓ケ浜半島の美しさに、私は一挙に弥生時代に戻された。表紙の写真がそれだ。この景観は遺さなくてはならない。説明員ではないが、当然そう思った。あれから約20年。何度ここを訪れたことだろう。今ふと気が付いたが、私はこの遺跡とともに、考古学ファンとして育ってきたのだ。

幾つかのシンポも聞き、遺跡も整備され、幾つか報告書や関連本も読んだ。ただ、このシリーズから本が出るのはまだ先だと思っていた。まだ発掘中と聞いていたので、それが済むまではと諦めていた。ここにはこの遺跡のおそらく最先端の知見がある。カラー写真豊富でわかりやすい。発刊を大いに歓迎したい。全てがわかるまで、まだ数十年かかる。こういう普及本で、先ずはこの遺跡の価値を知らしめて欲しい。これが出るということは、そろそろ青谷上寺地遺跡も検討されているかもしれない。

この本には、当時盛んにされていた「弥生都市」という言葉や、この地方の王国の「首都」だという表現はされていない。「国邑」といい、「村」といい、「中核遺跡」と表現されている。妻木晩田クラスの遺跡が、全面保存はされなかったが続々と見つかったからだろう。むしろ、それらの遺跡との関連や違いをこれからまとめていかねばならないだろう。

以下、新しい知見並びに重要だと思った部分をメモする。
○国引き神話に大山が登場するように、出雲地域と鳥取県西部とは結びつきが強い。
○「出雲国風土記」で大山を「火神岳」と呼ぶ。有史の噴火の記録はない(最終は一万年前)。当時何かの「伝説」があったのか。
○松尾の絵画土器により、中期後葉に、村に祭祀を行う者、戦闘を指揮する者がいたことが見通せる。
○大山山麓には中期後葉から後期前葉にかけて、妻木晩田のように規模を拡大するところと、青木や越敷山のように規模を縮小するところ、更には茶畑山道のように営みが絶えるところがあった。
○洞ノ原は、墳丘下部の埋葬施設は発掘していない。
○洞ノ原は2基が一対になるように配置。親子か夫婦か兄弟か。或いは、有力ニグループのリーダーか。
○洞ノ原は後期前葉に始まり後期中葉に途絶える。50年から80年ほど継続⁈3世代。その間、小型墳丘墓が11基。子どもの早世はそれくらいはあったのか?
○洞ノ原の2号墳丘墓は四隅突出墓は採用せず。その後の1号で出雲との結びつきを強めた。
○妻木晩田が最盛期を迎えるのは、洞ノ原が終わり、その南の環濠が埋没した後。
○後期後葉になって、「山陰随一の大集落」へ。居住単位に3-5世帯とすると、最盛期は最大で100世帯が生活していた。
○環濠埋没後に後期後葉に松尾頭地区に庇付大型掘立柱建物が現れる。
○松尾頭地区3区で最大(直径7ー8m)の竪穴住居跡から銅鏡片。この建物は、10回以上拡張や建て替えをしていた。特異である。祭祀をする人物か。ただし、鏡や規模以外は、ここは他の居住単位と変わらない。日常生活において、他の村人との大きな差はなかったのでは?
○仙谷墳丘墓群は後期中葉から終末期前半、そして古墳前期に作られた。東丘陵の3号(方系)、西丘陵の1号(四隅)、東丘陵2号(四隅)、5、6、7号と作られた。1号こそが、妻木晩田を最盛期に導いた立役者だったのでは。四隅突出墓が採用されていることから、出雲との関係を背景に強力なリーダーシップを発揮していたのか。
○妻木晩田で鉄器製作はされていただろう。越敷山では、後期中葉から後葉の住居一棟につき1、2点の小型砥石が出土。小型鉄器が各世帯レベルに普及していた証拠。
○山の上に暮らす利点。土地や資源をめぐる他集団との争いを回避。洪水・水害のリスク回避。燃料資源や建築木材。大規模集落では、建築資材の安定供給は欠かせない。よって、数が後期後葉にピークを迎えたとき、資源を再生産する仕組みが機能しなくなり、人口が減ったのではないか。
○仙谷では1号以降、四隅突出墓の築造は途切れる。出雲との関係は薄れたかもしれないが、管玉の生産はしていて、その産地が松江市花仙山の碧玉。
○洞ノ原のそばに、古墳前期後半から中期前半の古墳(晩田山3号墳は前方後円墳)があるが、洞ノ原墳丘墓群を避けているので、妻木晩田村ゆかりの人たちだったと推測。おそらく、洞ノ原から見渡せる何処かに妻木晩田村の末裔たちが暮らした集落があるはず。
2017年9月28日読了





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最終更新日  2017年10月01日 17時43分52秒
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