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2018年10月24日
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テーマ: 本日の1冊(3696)


「沸点 ソウル・オン・ザ・ストリート」チェ・ギュソク 加藤直樹訳 ころから発行

表紙はクライマックスの作品の一場面である。この表紙に至るまでの、80年代の話。垂幕には「호헌철폐 독재타도(憲法変えろ、独裁打倒)」と書かれている。日本の市民パレードの姿と違うのは、その数だ。特に若者の数と、国旗そして催涙弾である。7年前には光州で虐殺が起きているので、民衆の決意には並々ならぬものがあり、それが大きな国旗にも表れているだろう。チェの漫画は、有名写真を換骨奪胎して更に絵画的に仕上げる。映画的な大胆な編集もやってのけ、欄外の解説が無ければスルーしてしまいそうな重要場面が多くある。また、完全脇役として登場していた青年が実は6月革命に火を点けた朴鐘哲だったという仕掛けや、まさかのお母さんが主人公を追い越して最も登場回数の多い「闘うお母さん」に覚醒してゆく構造にも驚いた。この原作で映画化しなかったのが不思議なくらいの出来である。この漫画の8年後に、全く同じ時代を描いた「1987、ある闘いの真実」が上映される。未見だが、文政権を誕生させた韓国で87年が国民的な記憶になろうとしているのだろう。

「ヨンホ、水は100度になれば沸騰する。あとどのくらい火をかければ沸騰するのか、温度計で測れば分かることだ。しかし世の中の温度は測ることができない。今が何度なのか、あとどのくらい火をくべる必要があるのか。そのうち、もともと沸騰しないものなのかもしれない、と考え始める。だけどな‥‥世の中も100度になれば必ず沸騰する。そのことは歴史が証明している」

「沸点」が刊行された09年、私は​ 3年前の韓国旅行中に親しくなった韓国青年 ​にソウルで再会した。いろんな話をする中で、​ その前年のBSE狂牛病による牛肉輸入自由化反対デモの話になった ​。
「あのデモに行ったんですか?」私は聞いた。
「行きました」
「確かにBSEは不安点もあるけど、頑なに拒否する必要があるのだろうか(日本ではいっとき輸入が禁止されただけで、1年後に再開された。デモなどは起きなかった)」
当時私は、独裁政権や独裁企業を米国が温存する歴史的構造や、やがてFTA(韓米貿易自由化)に移る動きなどは全く知らなかった。青年は、そもそも宮崎アニメが好きで日本語が喋りたくて私と仲良くなった普通の非正規労働者だったと思う。断じて「活動家」ではなく、日常的にデモに行くこともないとも言っていた。反米ではあったと思うが、深い考えまでは無かったと思う。それで彼は私の言葉に何と反論していいのか言葉を見つけられ無かったようだ。困った顔をしてこう言った。
「安全な肉が欲しいだけ」
そして仁川に住んでいたのにもかかわらず、ソウルまで来てデモに参加したのである。日本の青年と韓国の青年との間には、私は大きな川があると思う。それは「歴史」という大きな川である。恐ろしい犠牲を伴った「成功体験」が韓国にはある。

漫画の作画技術や作劇構想の高さには驚嘆したが、1番驚くのは、やはりそれを生み出した韓国の若者の土壌であり歴史なのである。

2018年10月9日読了





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最終更新日  2018年10月24日 07時59分19秒
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