再出発日記

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2021年08月05日
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テーマ: 本日の1冊(3693)


「津山事件の真実」津山事件研究所
さて、三十人が殺された「津山事件」の「現場」を見たい、その一点だけで、この本を頼りに場所を探した。この本には、当時の警察の捜査資料が約200ページ以上に渡ってそのまま載っている。第一級の一次資料である。2ページ略地図が載っていた。


津山市⚫︎⚫︎地区は、津山市に住んでいた35年前とほとんど変わらない景色を持っていた。ここだけ時間が止まっているかのようだ。中国山地の山沿いに少し大きめの川が流れ、それに沿って因美線が通っている。昔から交通の要所だったところなのである。「現場」は、その川沿いから一本山道に逸れてずっと行く。そこから更に一本左に入った山沿いの村のはずなのだが、どの道に入ってゆくか、さらにはそこからどの集落が「現場」なのか、この本の(アメリカにあったという)「津山事件報告書」の略地図を見ないことには決して確信できなかったろうと思う。スマホの検索では、決してわからない。確かに、「現場」は土地勘のある私からしても「県北の辺鄙な奥地」だった。



少し津山市に住んでいたからわかるが、冬には雪深い厳しい土地柄なのである。県南は33度の真夏日で一日中晴れだったのに、此処に来ると一挙に5度ほど温度が下がり、小雨まで降ってきた。



それでも、わりと車が往来する。いまだに住んでいる人が多い。私は「現場」は、廃墟のような野原になっているか、ポツンとしか家が立っていなくて、あとは田畑だけが広がる寂しい土地を想像していた。



ところが行く途中、かなり近くの村に行っても家屋が途切れない。平家物語の熊谷次郎直実の「慰霊の桜」の木まであった。法然の弟子であった直実は、久米南町にある法然の誕生寺を尋ねることはあったとしても、そこから何十里も離れたこんな辺鄙な道を、何故歩いていたのか。それとも、此処はそれほどに交通の要所だったのか。



また、「現場」のはずれの小さな祠は綺麗に管理されていた。歩いて10分ほどのところには、バスさえも来ていた。



それでもちょっと迷いながら「現場」の近くまできた。車を降りて歩いてゆく。「地神」や「大日如来」石碑は、この小さな村の入口を守っていた。83年前の事件ではあるが、入口にあるのは、人々がそういう事件を忘れていない証拠だろうと思われた。村はわりと小高いところにあった。意外にも、家々は当時と同じくらいに建っていた。家族全滅の家もあったので、遺族がそのまま住んでいないのは明らかではある。村は消滅していなかった。それどころか、此処に来る途中ずっと棚田が続いているのだけど、休田はあるにせよ、それを含めて田んぼは一つ一つは整備されてこの地域の生産活動はまだ活発に行われている気配がした。村は10数軒しかない。走れば10分で一回りできるほどの集落だった。それでも、83年前、この共同体は「強かに」村を残したのである。犯人が感じた「閉塞感」は、その凶暴な最強最悪の手段を持ってしても、村そのものを無理心中させることはできなかったのだ。




夏の光と雨と風が、村や山々に降り注いでいた。美しいところだった。犯人がそれを感じることができていたならば、キチンと軽い結核を療養して真面目に働き、地道に村の信頼を勝ち取っていたなら‥‥と思わずにはいられない。






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最終更新日  2021年08月05日 10時32分42秒
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