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本著の解説に登場する『クラインの壺』を読んだとき、 「これが本当に平成元年に書かれた作品か!?」と驚嘆させられた。 そして、その翌年に発表されたのが、この『レベル7』。 こちらも、今読んでも古さを全く感じさせられない。 読み始める前、そのタイトルから『クラインの壺』のような SF的要素の強い作品だと勝手に思い込んでいたのだが、全く違った。 1982年のホテルニュージャパン火災と 1983年の宇都宮病院事件を下敷きにした、宮部さんらしい作品。記憶をなくした男女が、隣の部屋に住む男の力を借りながら、自分たちは何者なのかを探し求めるというお話と、保険会社が営む「電話駆け込み寺」に勤務する女性が、突然失踪した女子高生の居場所を突き止めようとするお話。この二つのお話が結びつくのが、潟戸友愛病院。総入院患者数800余名という、日本屈指の精神科専門病院。その院長が村下猛蔵で、地域の有力者なのだが、ホテル経営にも、表面には出てこないが関わっていた人物。そして、その潟戸友愛病院で勤務しつつも、自らのクリニックで診療に当たっているのが、猛蔵の長女の夫である榊達彦。この榊と、猛蔵の次女の夫・遠山顕が共同で開発したのがパキシトン。 この物質を注射すると、見事に記憶障害が起きる。 ただし、これから学習することを覚えられないわけじゃないし、 覚えてもすぐ忘れるということでもない。 あくまで、それまでに脳のなかに貯えられた記憶を、 甦らないように閉じ込めてしまうという作用だけだ。(p.517)得意げに語るのは、村下猛蔵。さらに続けて そこで、うちでは、電気ショック療法を併用しているんだ。 分裂病の治療法だがな。 これを続けると、重い健忘症になることがあるのは、有名なんだ。 ただ、これだけじゃ、最低60回はかけないと、そういうふうにはならない。 でも、これとパキシトンの投与を組み合わせて使うと、 薬の副作用はほとんどなしになり、電パチの回数は十分の一以下で、 記憶喪失の人間をつくることができるってわけだなまぁ、これがこのお話の肝になって来る言葉なのだが、私が強く心に残ったのは、榊クリニックに勤務する太田明美という事務員の次の言葉。 ええ。 アメリカなんかではそんなことないけど、 日本ではまだ、『精神科の医者にかかる』っていうだけで、 なんかもう途方もなく恥ずかしいことのように 思いこんでしまう人たちが多いんですよ。 『社会から落後してしまった』って思うのかしら。 これはまあ、今の社会に、 心の病気で病んで治ったあとの人を、 ちゃんと受け入れてあげられるだけの度量も設備もない、 ってことがいけないんですけどね。 それじゃ駄目なのよ。 どんな健康な人でも、 一生に一度も病気にかからないというわけじゃないでしょ? それと同じで、心だって病むことはあるんだし、 とりわけ特別なことじゃないんですからね。(p.255)四半世紀を経て、この言葉は今も同じなのか、それとも変化があったのだろうか?
2016.12.29
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大野先生の書かれた本は読んだものの、 今一つよく分かっていなかったDSM-5。 本著が出版されたことも、以前から知ってはいたのですが、 何やかやで、ズルズルと月日だけが過ぎてしまいました。 そして、やっと今回読んでみたのですが、 思ったのは「もっと早く読んでおけばよかった……」ということ。 DSM-5のあらましや、IVとの違いがコンパクトにまとめられており、 おおよそのイメージを、自分なりに掴むことが出来ました。 ***まず、児童青年期の精神疾患については、いわゆる発達障害に属する「神経発達障害」が創設され、それ以外の疾患が、様々な大カテゴリーの中に散らばって記載されたことが、DSM-5における大きな変更点です。神経発達障害は、知的障害、コミュニケーション障害、自閉症スペクトラム、注意欠陥/多動性障害、特異的学習障害、運動障害、他の神経発達障害に分類され、運動障害には、発達性協調運動障害、常同的運動障害、チック障害、トゥーレット障害、固執運動性・言語性チック障害、その他のチック障害があります。その他の児童青年期の精神科疾患については、栄養補給と摂食障害、排泄障害、睡眠覚醒障害、睡眠時異常行動障害、うつ病、不安障害、強迫および関連障害、トラウマとストレス因子関連障害、性違和障害、破壊的衝動コントロールと素行障害、臨床的に注目されるその他の状況に分類されています。トラウマとストレス因子関連障害には、反応性愛着障害、脱抑制社会関係障害、外傷後ストレス障害(6歳以下の)、適応障害(児童青年期の)があります。また、「今後の研究対象となる状況」の中には、インターネット依存などの問題も取り上げられています。一方、成人の精神疾患には、統合失調症スペクトラムおよび他の精神病性障害、双極性障害とうつ病性障害、不安障害・強迫関連障害・身体症状関連障害、哺育と摂食の障害、物質関連および嗜癖障害、神経認知障害、人格障害があり、哺育と摂食の障害では、「むちゃ食い障害」という疾患が登場しました。 ***DSM-5が世に出たのは2013年5月、日本語版は2014年6月に出版されました。そして、本著が出版されたのは2014年2月のこと。DSM-IVの枠組みからDSM-5の枠組みに頭を切り替えておかないと、今後、色々不都合が生じてしまうと、強く感じさせられました。
2016.12.29
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什造を倒したかに見えたクロナ。 しかし、反撃にあってあえなく逃走。 向かった先は、嘉納のもと。 そこで、シロを助けてくれと頼むが、あっさり却下されてしまう。 そして、嘉納の命令を受けたQsオカヒラたちが、クロナを襲う。 そこへ嘉納を探していた西尾が登場するが、ロマに妨害される。 そのロマを倒したのはクロナ。 西尾と共に嘉納を追うことに。 ***タタラと対峙中の法寺、そして暁。そこへオウル(滝澤)が登場し、法寺に代わってタタラと対峙。さらに、タタラを援護するため登場した小瓶も合わせ一挙に撃破。が、法寺は部下に向かってオウル攻撃を命令。オウルは法寺を倒すが、そこに亜門登場。唯一の成功作は、失敗作(フロッピー)を簡単に打ち破る。が、次の標的を暁に定めた時、六月の放った強烈な一撃を食らってしまう。そして、六月がオウルに止めを刺そうとした時、暁が身を挺して庇う。さらに、亜門が六月に反撃を開始した時、瓜江たちが到着。亜門は滝澤に暁を連れて逃げるよう促し、一人で瓜江たちに対峙する。亜門は善戦し、瓜江たちを窮地に追い込むが、最後は才子に止めを刺されてしまう。 ***宇井たちに追い詰められた三枚刃のミザ。それを瀕死のナキが救う。そこに、月山が現れて二人を援護。黒狗(入見カヤ)ともう一人のフードを被った喰種も加勢。結局、殲滅率が98%に達したことで、流島上陸作戦は6日目で終了。そして、旧太の正体が和修家分家・和修旧多宗太と判明。 ***それにしても分かりにくい……今巻を読もうという人は、もう、ほとんどと言っていいほど、ノーマークからずっと読み続けている人たちでしょう。そんな人たちなら、パッと見ただけで、それがどのキャラなのか、皆、分かるものなのでしょうか?残念ながら、今巻に関しては、一読で理解できないところが私には多数ありました。なので、これまで書いた記事を全て読み返し、さらに、前巻については全編読み直し、その上、ネットでネタバレ記事をいくつか読んで、やっと理解できた次第。所々にエピソードは挿入されていたものの、戦闘シーン過多で食傷気味です。
2016.12.24
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茂田はクジラでした。 少女を襲っている最中に、環のスタンガンを食らい撃沈。 しかし、廣瀬と桜田が現場に到着した時には、部屋はすっかりもぬけの殻。 桜田は、クジラの存在を探るべく、廣瀬に協力を依頼する。 一方、琢磨は幼き日に入院中の鈴原真琴に出会い、心をときめかせていた。 が、彼女は出産を終えると、あっけなく逝ってしまう。 十数年後、医者になった琢磨は、真琴と同じ顔を持つ少女・環に出会ったのだった。 そんな琢磨の元に桜田と廣瀬が現れ、環の現況について話し始める。一方、環は学校でいじめにあっていた。カバンの中にあったはずのジャージとスタンガンが無くなっており、代わりにごみが詰め込まれていた。椅子の上には、押しピンが多数散りばめられている。スタンガンを取り戻すべく、要求に応じて体育倉庫へ出向く環。しかし、竹刀で殴り倒されると、処女判定行為の生贄に……その時、スタンガンによる反撃で男子生徒は卒倒。そこに現れた加藤と共に、環は去って行った。崇は、茂田を解体する環に、これまでとは違うものを感じていた。体育倉庫での一件では、環が人形から人間へと変わろうとしていることを感じとる。植物人間となって眠り続ける兄・渉の心臓は環から移植されたもの。崇は、加藤に環の新しい心臓を調達してくれと頼む。その頃、琢磨は桜田と廣瀬に、環出生の秘密を伝えていた。真琴の受精卵が採取凍結保存され、死後代理出産で生まれたのが環なのだと。 ***渉が心臓疾患で生まれてこなければ、崇と環はこの世にいない。この崇の言葉が、今後キーになって来るのでしょう。環の心臓が渉に移植されたことは判明しましたが、環の心臓がどこから来たものなのかは、依然不明です。また、環の父親は一体誰なのでしょうか?まだまだ謎は多いです。
2016.12.18
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ウォール・マリア奪還作戦に先立ち、エルヴィンは調査兵団たちに語った。 この注射を打てば、巨人になれる。 そして、この注射を打たれた者が、巨人化できる人間の背骨を嚙み砕き、 その脊髄液を体内に摂取すれば、超大型や鎧、獣の巨人の力を奪うことが出来る。 そうすることで、巨人の力や情報を得られるだけでなく、 瀕死に至った人間を蘇らせることも可能だ。 巨人の力を持つ敵を捕らえ、四肢を切断して安全を確保せよ。 そして、重傷者を優先し、この注射を打て。その唯一の注射を誰に打つのか、その最終判断はリヴァイに委ねられた。そして今、ベルトルトとライナーの二人は捕えらえ、四肢を切断されている。しかし、獣の巨人の急襲によって、ライナーは奪い去られてしまう。残るは、誰に注射を打ち、ベルトルトの持つ超大型巨人の力を与えるか。目の前には、瀕死の重傷を負ったアルミンがいる。そして、そこに瀕死の団長・エルヴィンも運び込まれてきた。リヴァイは、エルヴィンに注射を打つ判断を下す。その判断に激しく抵抗を示すエレンとミカサだったが……。リヴァイの最終判断で、団長を引き継ぐことになったハンジは、リヴァイ、アレン、ミカサを伴って、アレンの父、グリシャ・イェーガーの秘密の地下室へと向かう。そこで見つけた三冊の本には、驚くべき事実が記されていた。グリシャは、人類が優雅に暮らす壁の外から来た人間だった。幼い頃、レベリオ収容区の壁外に出たエルディア人のグリシャと妹のフェイは、マーレ治安当局の男たちに捕まってしまう。結果、フェイは翌日遺体で発見されるが、当局の説明に父は抵抗を示さなかった。1820年前、ユミル・フリッツは、大地の悪魔と契約し巨人の力を手に入れた。ユミルは死後も9つの巨人に魂を分け、エルディア帝国を築く。エルディアは、古代大国マーレを滅ぼし、大陸の支配者となった。約1700年後、マーレはエルディアに内部工作を仕掛け内戦を誘発、弱体化に成功する。マーレは9つの巨人のうち7つを手駒に従えて、70年前の巨人大戦に勝利した。その際、フリッツ王はパラディ島に三重の壁を築き、そこに逃げ込んだ。大陸に取り残された非マーレ派のエルディア人残党は、収容区に閉じ込められ、マーレに逆らうと「楽園」送りとなるのだった。グリシャが18歳の時、エルディア復権派を名乗る男が現れる。復権派の中には、マーレ政府に内通する・フクロウという人物がいるという。彼は姿を見せることなく、武器・資金・歴史文献を提供して復権派を導いていた。文献に記された古語が解読できていないにも関わらず、ユミルを信奉するグリシャたち。そして、フクロウがグリシャたちの元へ遣わしたのが、王家の血を引くというダイナ・フリッツ。巨人大戦末期、パラディ島に逃れることを拒んで、大陸に留まった王家一族の末裔。フリッツ王がパラディ島へ都を移した際、壁の中に持ち去ったのが始祖の巨人。始祖の巨人は、他の全ての巨人を支配し、操ることが出来る。この始祖の巨人を継承した145代目の王は、戦うことを否定して島へと移った。これにより、他の8つの巨人を分けた家同士の均衡が崩れたのだった。グリシャたちは、自分たちを見捨て壁の中に逃げ込んだ王から始祖の巨人を取り戻し、自分たちと共に大陸に留まった真の王家に、それを納めようと目論む。そして、マーレを倒し、偽りの歴史を正し、自分たちの誇りを取り戻そうとする。グリシャはダイナと結婚し、ジーク(獣の巨人!?)を授かる。やがて、マーレ政府は、大陸各地の収容区に住むエルディア人の中から「マーレの戦士」を募る。パラディ島のフリッツ王が、大陸を再び支配すると宣告したからだという。「マーレの戦士」は、7つの巨人を継承するに値する器でなければいけないとも。その裏事情について、フクロウからグリシャたちに手紙が届く。近年、軍事技術は著しい進歩を遂げているが、その背景となるのが化石燃料。それが、パダディ島には大量に眠っており、マーレとしてはそれを見過ごせない。ただし、幾千万の巨人が壁に潜んでいるため、その征服は容易ではない。マーレ政府は、グリシャたちと同様、フリッツ王を刺激せぬよう壁内に侵入し、始祖の巨人を手に入れようとしていたのだ。グリシャは、ジークを「マーレの戦士」として送り込むことを決意する。が、7歳になったジークは、両親をマーレ政府に密告する。結果、エルディア復権派は、全員「楽園」送りとなってしまう。パラディ島を永遠に彷徨う人喰い巨人となるべくして。 ***一読しただけでは、よく分からなかったところもありましたが、こうやってまとめてみて、何とか理解することが出来ました。特に後半は、お話のベースとなる事実が、次々に明らかにされていくので、流れをしっかりと把握しておく必要がありますね。
2016.12.18
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著者はライフネット生命副社長の岩瀬さん。 東京大学法学部在学中に司法試験に合格しながらも、 ボストン・コンサルティング。グループ東京事務所に就職。 その後、6年余りの間に2度転職。 そして、ハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得してから、 ライフネット生命の母体となる会社を設立。 こういった経歴を持つ方が書かれたものだということを頭の隅に置いて 読み進めれば、得るところは大きいと思います。本著は50の提言と4つのコラム、著者お薦めの本と、著者がチェックしているTwitterで構成されています。著者お薦めの本12冊のうち、私が読んだことがあるのは、池波さんの『男の作法』だけでした。50の提言につていは、所々に「そうかな……」と思うものもありましたが、大部分のものは「確かに!」と頷けるものばかりでした。入社1年目の社員には、大いに役立つアドバイスだと思います。知っているのと知らないのとでは、大きな差が出てくるでしょう。 「情報は疑ってかかれ」 「物事には常に表裏両面がある」 新聞を書いているのも、テレビを制作しているのも人間です。 絶対的な真実などありません。 書き手や製作者のフィルターは、何かしらかかってきます。(p.85)この姿勢は大事です。著者が言うように、原典にまで当たっていくのは大変だと思いますが。次は、資格試験への挑戦について。 もちろん、資格を取得するのが目的ではありません。 資格を持っているからといって、 ほとんどは肩書として役立つものはありません。 本当の目的は、刺激を受けること、ペースメーカーとしての効果なのです。(p.128)次は、コラムの中から、リーダーに共通する資質、そういう人たちと伍して戦うためには何をすべきかについて。 まず一つは、リーダーたちは超がつくほど健康だということです。 とにかく健康でなければどうしようもないというのです。 ビジネスパーソンの資質として最も大切なのは、健康であること。 よく食べてよく寝て、それなりに運動して、 健康を維持しなさいと言われました。 二つ目は、 世界で起こる出来事に常に目を向けなさいというアドバイスです。(p.133)二つとも納得です。次もコラムの中から、人磨きについて。 趣味を伸ばすこと、本を読むこと、体のコンディショニングなどは、 仕事が終わってからの空き時間で済ますような 重要度の低いものではありません。(p.191)先ほどの、リーダーの条件と重なる部分も多いですね。入社一年目では、なかなかそこまで余裕が持てないかも知れませんが。そうそう、本著の中で最も読みごたえがあるのは、p.220から始まる『おわりに 社会人の「勝負どころ」は最初の瞬間』です。仕事の具体的な進め方の例として、とても参考になります。途中で投げ出さず、ここまでしっかりと読み進めましょう。
2016.12.17
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著者は「セキュリティ集団スプラウト」。 まず、ここからよく分からない。 正式名称は「株式会社スプラウト」。 2012年創業のサイバーセキュリティ企業とのこと。 実際に執筆したのは、取締役の高野聖玄さん、 リサーチャーの岡本顕一郎さんと宍戸ラファエラさんに フリーライターの江添佳代子さん、 そして、フリーのセキュリティ研究者・西方望さん。 現在、インターネットの世界は三つに分かれている。 世界中の誰もがアクセスできる自由な空間と、 限られた一部の人だけが触れることのできる空間、 そしてサイバー犯罪者たちが跋扈する闇の空間とに。(p.20)検索エンジンで補足可能なウェブサイトを「サーフェイスウェブ」、補足できないものを「ディープウェブ」という。ただし、「ディープウェブ」も大半は、そんなに怪しげなものではない。ウェブメールやマイページ、ソーシャルメディアの非公開ページがそれ。そして、「ディープウェブ」のさらに奥底にあるのが「ダークウェブ」。そこは、専用のソフトウェアによる通信方法でないとアクセスできない。「Tor(トーア)」「I2P」「フリーネット」の三つが代表格。最も広く使われているのは「Tor」。迫害を受けている政治活動家やジャーナリストが利用していた空間が、現在では、犯罪者が群がる場となっている。世界最大のサイバー闇市場「シルクロード」が摘発されたことで、その存在が、世に広く知られることになった。闇サイトで取り扱われる商品のうち、15.4%を占めるのが麻薬関連。その他には、偽造パスポートに偽造免許証、世界各国に偽札、盗難品である貴金属、銃器に流出情報、詐欺商材、ハッキングツール、未発表の脆弱性情報、違法ポルノにサイバー攻撃や殺人依頼の請負サービスと多種多様。そこでの取引で多く用いられるのが「ビットコイン」。2009年に運用がスタートしたこの電子決済サービスは、匿名で資金のやり取りができ、さらに信頼性も高いことから、闇市場の住人に、大きなメリットをもたらしてしまった。これらの闇市場について、最新の情報を記したのが本著。インターネットの裏側に潜むものを知っておいて損はない。
2016.12.17
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『愛着障害』、『回避性愛着障害』に続く、 岡田さんによるシリーズ?第3弾。 私は、まだ『回避性愛着障害』は読んでいませんが、 読み進めるうえで、全く問題ありませんでした。 そして、『愛着障害』とは趣が全く違いました。 岡田さんの、この分野に関する研究が進んだこともあるでしょうし、 何と言っても、実践的でリアリティにあふれる一冊になっています。 「愛着アプローチ」という言葉が、本著の肝。 *** 暴言には反応しない冷静さとともに、 暴言の背後にある本人の気持ちを読み取って、 そちらに反応することのできる能力が必要になる。(p.33)「優れた支援者となれる人に共通して備わっている能力」として、岡田さんが書き記しているものです。「専門家といえども少ないのが現実だが」と書き添えられているように、分かっていてもなかなかできることではありませんが、精進を重ねて参りましょう。 だが愛着モデルでは、患者は患者ではない。 本当に病んでいて、病状を引き起こす原因になっている者は、 他に存在するのである。 医療少年院の少女の例に見られたように、 症状を呈している子どもをいくら診断し、治療しようとしたところで、 改善は難しい。 なぜかといえば、症状の本当の原因が、子ども本人にあるというより、 子どもを育ててきた環境や、周囲の大人との関係の方にあるからである。(p.37)本著に述べられていることの、最も基礎となる考え方。「発達障害は脳の病気であって、親の子育てに問題があるのではない」ということが、ある時期から盛んに喧伝され、主流となっていったわけですが、ある意味、その流れに一石を投じるものです。 治療できないものは、診断しても治せない。 だが医師の本能としては、「患者を直したい」と思う。 それゆえ、自分が治せない診断をして治療を断るよりは、 治療の可能性がある診断をして治療をしようとする。 それは言い換えると、 医師がもつ治療のレパートリーに診断が左右されるということだ。 医師の治療の中心は、薬による治療である。(p.53)「うつ」や「ADHD」などの発達障害の診断・治療に関する、現場の精神科医による、鋭い指摘です。 安全基地がうまく機能すれば、 休みが必要な間は、ゆっくり休養をとり、 傷ついた思いが癒されて元気を回復すれば、また本来の活動へと戻る。 別に出て行けと言わなくても、自分から行動を再開する。 失敗したことを責めたり、求められてもいないことに意見をしたりするのは、 本人を余計に痛めつけ、回復を邪魔することにしかならない。(p.175)にもかかわらず、無自覚にも、本人が今いちばん話したくないことを、心配のあまり聞いてしまう。 たとえば、学校や会社のことで悩んでいる人に接する場合、 むやみに学校はどうだ、会社はどうだと、根掘り葉掘り質問することは、 傷口に塩をすり込むようなものである。(中略) そういうことを、いきなり聞いてくる人に、 気持ちを開こうという気にはなりにくい。 こうした状況では、まず本人にとってさして重要でない、 たわいもない話をすることから始める。 それさえもしんどそうなら、黙って一緒にいるだけでもいい。 無理に話しかけないことも大事なのである。(p.175)さらに、次のようなことも、岡田さんは指摘しています。 本当に目指すべきは、 問題の答えを見つけることでも、解決することでもない。 問題に本人が向き合い、 本人なりの答えを見つけていくことに付き合うことなのである。 付き合うことができない人は、安全基地にはなれない。(p.193) 安全基地が「安全」なのは、自分の本音を出しても、 それを受け入れてもらえるからだ。 不満一つ言わせてもらえず、それに対して教育的指導が入り、 説得や批判をされるとなると そこは思想改造のための収容所になってしまう。(p.198)何と示唆に富んだ言葉の数々!「優れた支援者」を目指すなら、心に留めておくべき事柄。そして、愛着アプローチによって愛着を改善していくための極意は次の通り。本人にとっての安全基地となってもらいたい人(両親など)への接し方です。 安全基地となってほしければ、 相手の非を責めるよりも、 こちらが安全基地となって、 その人の安定を図った方が、よほど効果的なのである。「優れた支援者」にならねばならない方は、ぜひご一読を!
2016.12.17
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なぜ巨大組織の不祥事が続くのか。 その謎に挑むのが本著である。 第1部は「軋む巨体8つの失敗を解く」として、 その実例が示される。 理研、マクドナルド、代ゼミ、ベネッセ、 東洋ゴム、ロッテ、三井不動産、化血研。 いずれも、問題発生時には新聞の一面、 TVでもトップニュースとなったものばかり。どの記事も、コンパクトに要領よくまとめられており、とても分かりやすい。リアルタイムでニュースを追っていた時には気付かなかったことも、丁寧に解説してくれている。 ***東洋ゴム会長・信木明が、免震ゴム性能データ偽装事件に際し、長野市長・加藤久雄の元に謝罪、説明にやって来た。信木は「責任を持って対応する」と繰り返すばかりで、原因や具体的な対策は出てこなかった。かつて、地元建設会社の経営をしていた加藤は、小学校の工事で、従業員がコンクリート材料を間違えて作業した際、本人が夕刻にそのことに気づき、総出で工事をやり直した経験がある。加藤はその夜、従業員に注意はしたが、それ以上とがめることはしなかった。 「どんな組織でもミスは出てくる。 トップはそれを吸い上げて、 全員で助け合う雰囲気を作らなければならない。」(p.110)加藤の言葉は、危機対応の基本を的確に述べている。 ***STAP細胞事件の舞台となった理研についても、これまでに読んだ関連書では分からなかった背景を本著によって知ることが出来た。ただ、もう一歩踏み込んでくれれば、よりスッキリしたとは思う。第2部は「失敗の系譜 巨体を蝕む6つの病」として、巨大企業の失敗の要因を探っていく。その膨張期には、肥満化・迷宮化・官僚化が、そして、維持期にはムラ化・独善化・恐竜化があるとする。こちらについても、EIE、長銀、アムウェイ、そごう、雪印乳業、郵政、道路公団、武富士、カネボウ、JR西日本、日本航空、GMを例に述べられていく。第1部同様、読みごたえがある。 ***2001年にUSJがオープンした際、JR西日本は、大阪駅からユニバーサルシティ駅へ直通列車を計画。「10分運行」を目指して、途中駅の停車時間を20秒から15秒に短縮したり、「ドアが閉まります」のアナウンス前のブザー音を省略したりする。これらによって、運行時間はそれまでの12分から10分台にまで短縮される。そんな限界への最後の砦は、現場社員の技量頼みとなった。高速化と増便という戦術を推進するためには、とにかく予定ダイヤを順守。現場は、技量ぎりぎりにまで追いつめられていく。 「時速120キロで走っていって、短時間に50キロも速度を落とす。 そんな離れ業は、ベテラン運転士ならともかく、 経験11カ月の若手にできるはずがない」。 ある私鉄の鉄道事業本部長は、事故の報道を聞き、驚愕したという。(p.246) 「下の部分(線路や路線)が改良されていないのに、 上の部分(車両)だけが高速化されてしまった」 (元鉄道総合技術研究所主任研究員の芳賀繁・立教大学教授)(中略) 「極端に言えば、F1マシンで田舎道を走るようなもの。 高い性能を発揮すると危険な状態に陥る」(鉄道関係者)にもかかわらず、 JR西日本は、ローカル線時代の貧弱なインフラに大きく手をつけず、 高速化と増便を押し進めてきた。 この転換なくして、事故は避けられない結末だった。(p.243) ***20世紀型を極めた超高速調理や世界統一接客マネジメントが、逆に足かせとなっている。このマクドナルドに関する記述も、たいへん印象深いものだった。 あまりにも完璧に作り上げられたシステムは、 違うベクトルに調整することを許さない。(p.277)著者が言うように、「20世紀=大企業時代」は、このまま終焉を迎えてしまうのだろうか。
2016.12.17
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現在、楽天ブックスでは扱っていないようですが、 私は、紙書籍版で読みました。 著者は、上越教育大学教職大学院教授の西川純さん。 親世代の常識が、今では全く通用しないことを教えてくれます。 偏差値60の大学より、実業高校の方が良い就職先がある場合も多い。 大卒の実質就職率は6~7割で、正社員になれない人も増えている。 大学生の過半数が利用する奨学金だが、卒業時の借金額は500万円。 とにかく大学に入れば、後は何とかなる時代ではなくなっているようです。 いまは、「親の落ちた大学に受かり親を馬鹿にして、 親が内定を蹴った企業から内定をもらえず愕然とする」 という時代なのです。(p.28)先術したように、現在の状況は親世代の常識が全くと言っていいほど通用しません。本著を読むことは、そのことに気づく第一歩になります。特に奨学金やオーバードクター、大学入試制度改革に関する記述は必見。親だけでなく、教育に携わる方はぜひ一読を。
2016.12.11
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今年は、本当にたくさんの謝罪シーンを目にすることになりました。 ベッキー、SMAP、桂文枝、三遊亭円楽、石井竜也、ファンキー加藤、 乙武洋匡、大渕愛子、巨人・高木投手、男子バドミントン・田児、桃田選手、 経済再生担当大臣・甘利明、衆院議員・宮崎謙介、東京都知事・舛添要一。 さらには、高知東生の妻・高島礼子、高畑裕太の母親・高畑淳子といった、 本人以外の謝罪も話題になりました。 そんな謝罪について、『ウェブはバカと暇人のもの』の中川さんが書いた一冊。 例によって、過激な言葉も飛び出します。 *** 昨今のこうした非常識な発言に対しては 徹底的に糾弾するというブームは一体なんなのか。 私はこの現象を「怒りの代理人」と呼んでいるが、 頼んだわけでもないのに怒り狂って その当事者が活動自粛や辞任をするまで叩き続ける。 そして、その目的が達成されたら次のターゲットを見つけ、 同様の行為を行う。(p.76)これは、日本という国の持つ特性が、顕著な形で表れた現象だと思います。この特性は、上手くいけば、良い方向に力強く前進していく原動力となりますが、一つ間違うと、危険な方向に一気に突き進んでいってしまう危うさを併せ持ちます。残念ながら、現在はその負の側面が前面に出てしまっているような気がします。 この日の謝罪についてはその後の参考になることがたくさんあった。 いくつか箇条書きにしてみよう。 1.怒っている人には理詰めは通用しない 2.カネが絡むと、人は変わる 3.とりあえず裁判を起こされなかったり、 金銭的に支払う必要がないのであれば下でに出ている方がいい 4.とりあえず「反省している風」のポーズは学んだ方がいい 5.謝罪要求の呼び出しを食らった場合はすぐに行く 6.本気で反論するのであれば、逆に名誉棄損で訴えるぐらいの覚悟を持て 7.逆ギレは絶対にしてはいけない。相手の怒りはそれほど長くはもたない。 逆ギレにより、その怒りの時間を長くするだけ(p.110)これは中川さんが編集するニュースサイトに、女性芸能人と男性芸能人の関係を記事にしたことに対して、女性芸能人が所属する事務所から呼び出されたときの経験について記したもの。参考になります。 となると、私は、宣伝材料を持つ企業や有名人はともかく、 一般人がネットで情報発信をする意味というのは ほとんどないと正直考える。(p.135)これは昨今のネット炎上の現状を鑑みての中川さんのお言葉。結構、考えさせられました。今後は、心して臨むことにしましょう。
2016.12.10
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著者は1973年生まれの、現在おそらく43歳。 そして彼が作ったのが「U26平成男子コミュニティ(U26)」、 首都圏に住む20~26歳の独身男子18名の集まり。 そのメンバーとの会話やLINEトークを通じて生まれたのが本著です。 なので、本著の記述の中にどの程度一般的傾向を見出し、 「なるほどね」と頷くことが出来るかは、読む人の気持ち一つ。 すんなり受け入れられない方は、 「その人たちの間では、そういうことなんだね」としておきましょう。 ***結論から言うと「平成男子の方がいまを楽しんでいる」「平成男子にもやりたいことや欲しいものはある」「平成男子は消費している、消費のしどころが変わっただけ」で、必要があれば買うけれど、そうでなければモノを欲しがらない。そして彼らは、興味や関心のあることはまずスマホで瞬時に調べ、膨大な情報を高速処理し、画像や動画で”パッと見で”判断、「自分ログ」として、戦利品の画像や動画をスマホに記録し、「自分の琴線に触れるか」どうかで最終判断するのだそうです。SNSの投稿やユーチューブでの疑似体験で、ある程度気分は満たされてしまい、所有しなくてもよくなってしまうのが平成男子。情報だけで消費してしまった気分になり、満足してしまうのです。これを著者は「シミュレーション消費」と命名しました。そして、彼らが買ってくれる「新しい売り方」を提案しています。一般人のリアルなコーディネートをインスタグラムで紹介するGUや独自の売り場をつくるコストコやドン・キホーテ、ヴィレッジヴァンガード、カーシェアリング事業で唯一成功したタイムズカープラス等がその例です。「平成男子は、シミュレーションできない”本物”の体験を求めている」若者の行動原理について知るには、良い一冊だと思います。
2016.12.10
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正式なタイトルは『水鏡推理IV アノマリー』。 この「アノマリー」という言葉が、今回のお話の肝となります。 なので、その意味を知ったうえで読み進めるのと、 知らずに読み進めるのとでは、読み手の推理の幅に大きな差が生じます。 私は、そんなこと気にも留めずに読み進めたものだから、 終盤に至るまで、様々な出来事や登場人物の関連を読み切れませんでした。 今回のお話の裏に潜む背景は複雑です。 結果、読み応えとしては今シリーズの中で、今のところ一番かも。ただ、その読み応えの根源となるのは、今回のお話が、単なるミステリー作品に留まっていないから。今回描かれているのは家族関係、中でも父と娘との関係。松岡さんは元・臨床心理士なので、その周辺知識も豊富なのでしょう。ただし、岡田さんレベルの専門家ではないでしょうから、お話の中に出てくる内容を一つ一つ詳細に見ると、所々に少々引っかかるところがないでもありませんでした。あくまでも、エンターテイメント作品ということで。
2016.12.04
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『掟上今日子の退職願』というタイトルだけど、 第1話「掟上今日子のバラバラ死体」、第2話「掟上今日子の飛び降り死体」、 第3話「掟上今日子の絞殺死体」、第4話「掟上今日子の水死体」の4話を収録。 「退職願」が登場するのは、第4話の中。 ただし、「退職願」を書いたのは、相棒役の波止場警部。 今日子さんの場合は、書くんじゃなくて…… この波止場警部補をはじめ、第1話の佐和沢警部、第2話の鬼庭警部、 第3話の山野辺警部のいずれもが同世代の女性。「女性から見ると、今日子さんはどんなふうに見えるのか?」というコンセプトで書かれた短編集。これまでの、男性視点からの作品とは少々趣が異なります。でも、「最速の探偵」の謎解きは、今回も軽妙。ミステリーとしての完成度や、その背景にある人間模様も、納得・充実の4話。これらも、いずれTVドラマ化してほしいけれど、「逃げ恥」後には、やっぱり「リーガルハイ」が見たい!
2016.12.04
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