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テーマ: 戦ふ日本刀(97)
カテゴリ: 戦ふ日本刀

運命信者

 福栄部隊のある兵隊が話した。
某隊では、隊長以下、戦死または戦傷戦病で、
最初から残っている者はたった三人だけであった。
その中の一人は、不思議にかすり傷一つ受けずにぴんぴんしていた。
臺兒荘のある戦で、地物を利用しながら、ぢりぢりと敵に迫っていく時、
内地から補充で来た一人の兵隊が、生き残りの兵隊のすぐ後ろから進んでいった。
幸いに敵弾はない。もう一足か二足進めば土手のかげに遮蔽のできる地点で、
かくれていた敵が二百メートルほどのところから、狙いうちにその生き残りの兵隊を撃った。
ところが、弾丸は兵隊の右首をすれずれに飛んで、
後ろにいた内地から来たばかりの兵隊の額にあたって即死させた。
 敵の陣地を占領した。敵の居住していたらしい宿舎に各自の宿舎を求めた。
その夜はばかに寒かったので、皆焚き火をして暖をとった。
 ある室に錻力〔ぶりき〕でつくったストーブが据えてあった。
煙突も立派についている。
念のため中をしらべて見たが異状がなかったので、たきつけをつめ込んで、
その兵隊がマッチをすった。
何本すっても軸木に火が移らないで消えてしまう。
他に誰もマッチを持っていないのでその兵隊は、「待て待て」といい残し、
他の宿舎へ借りに行った。
その間に、ある兵隊が試みにそれですって見るとよくついた。
何ァんだという事で、たきつけに火を移すと、
しばらくしてから轟然たる爆音と共に、ストーブの下で何物かが炸裂して、
それを囲んでいた三人の兵隊は、粉微塵に吹っ飛んでしまった。
マッチを借りに行った兵隊だけが、その難をまぬがれたのであった。
 蘭陵鎮の宿舎で、ある晩軍医さんが語った。
「ある時自分は部下の衛生兵を連絡にやるために、先方の位置を説明したが、
その衛生兵は、いわゆる勘がわるくてなかなかのみ込めない。
自分は、急ぎの用でもあったので、少しむっとし、
小木片を拾って、地面に略図を描いて説明してやった。
一度もとの直立体に復したが、まだわからないために、
『馬鹿だなァ。いいか。』
といいながら、再び身を屈して略図について説明を繰りかえした。
ちょうどその時、敵の小銃弾が衛生兵の軍帽のてっぺんを打ちぬき、
自分の背中すれずれのところを飛んで過ぎた。
直立しておれば、二人ともやられてしまったのだ。
つまり、衛生兵の徹底的にのみ込みの悪いのが、二人の命を救ってくれたのだ。
と語った後、
「運というものは慥〔たし〕かにある。たしかにある。」
と強くいい切った。科学者もついに兜をぬいだわけだ。
 三度負傷し、三度とも野戦病院で全癒し、原隊に帰って活動をつづけていた兵隊からも、
そうした話を聞いた事がある。
最初の一弾は貫通銃創で、肋骨の間から入り、左肺臓の外側を除けて背に抜けた。
二番目の弾丸は左腹の面を深く抜けたが内臓にさわらずに水筒を貫いた。
三番目には迫撃砲弾の破片で左の頬の肉を直径一寸ほど円形にすくい取られた。
顔に浅い盃状のもの、つまり篦棒〔べらぼう〕に大きい笑窪ができてしまったが、
三つとも身体の機能には影響しないらしいという。
戦場では、誰でも無条件で、運命論者ではなく、運命信者になってしまう。





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Last updated  2017年08月25日 02時32分38秒


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