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テーマ: 戦ふ日本刀(97)
カテゴリ: 戦ふ日本刀

野犬と烏の群

 このあたりには、いたる所に野犬が群れていた。
飼い主を失って野犬の群に投じた犬も、いつしか野性に還元してしまっているらしく、
これらの犬は、その体躯も大きく、激戦場附近に蝟集〔いしゅう〕して来ては、
彼我の死屍をあさり回した。
遺棄されている敵のしたいが、この連中の爪牙にかかっているのを時々見受けた事がある。
人肉の味を覚えた彼らの眼は異様にかがやき、二人や三人でその一群にあうと、
実際敵群に遇ったより薄気味が悪かったと、よくそうした事を耳にした事があった。
野天で露営する時に、この野犬群に注意しないと、
生きたままがぶっとやられるかも知れんというので、
かなり綿密な注意を払ったという事も聞いた。
 ひまな時には野犬狩りをやった。
餌で釣って門扉のある構内へおびき寄せ、急に扉をしめて構内を追い廻し、
一隅に追いつめて試し斬りをするのを見た事がある。
歯牙をむき、恐ろしい顔をして飛びかかるようなけはいであったが、難なく斬り伏せされた。
敵兵を斬るより始末が悪く、毛のあるせいか刃の通りがわるいといっていた。
犬を斬った刀を吊って歩くと、かなり遠くいる犬でも逃げるそうである。
嗅覚の異状に発達した彼らには、よくわかるものと見える。

 戦場にはまた人間の腐肉をねらう烏が大群をなしていた。
支那ほどに烏の多い所はない。高い樹という樹には、この烏の巣がいくつも球状をなしている。
烏の中にも、日本のような真っ黒なもの、
首の所だけ輪のように白いもの、全体の白いものなどで、
啼き声もカアカアでなくややかすれてヤヲヤヲというようになく。
これが、収容のできなかった敵の死屍のあるあたりに、
何百という大群をなして集〔たか〕り、
風にあおられる秋の木の葉のごとく、舞い上がり舞い下って、
腐肉を貪食しているのをよく目撃した。
烏ぐらいの鳥で、黒と白の交じった羽の鳥、
名は知らぬが、内地の鶺鴒〔せきれい〕を大きくしたような恰好なのがいる。
こやつと来たらまったくの悪食残忍で、死屍の腐らぬうちに目の玉などをつつき出してしまう。
群居はせぬが、比較的低いところをとんでいて、人が追っても容易に逃げ去らない。
 よく、この鳥の散見から、はからずも、
収容洩れの戦死者を発見したというような話も聞いた事がある。





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Last updated  2017年08月29日 08時45分13秒


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