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田舎やくざ場所は、江戸から遠く離れた港町になります。湊屋の二階に文字春の姿があります。文字春はおたかを探すためにこの茶屋で女郎に身を落していました。女衒がどこへ住み替えさしてもお客をとらなく、困ったあげく連れて来られた女を連れてきています。この時、客と一緒に二階から降りて出かけて行った文字春は、おたかが来ているとは気が付いていなかったのです。文字春が帰ってくると、お客だといわれ部屋の障子を開けると、権が来ていたのです。久しぶりの再会です。文字春がおたかのことで来たのかと聞きますと、権はそうではないがいい話だと言い、文字春の前に三十両の小判を置きます。「何だいこれ?」といぶかし気な顔をする文字春に「師匠の身代金だよ、・・・誰がくれたと思う・・・次郎公だよ」と権が言うと、「ほんとうかい」と文字春は三十両の小判をかかえはしゃいだが、急に静かになり文字春「権ちゃん、・・折角だけど受け取れないよ。・・・もし、おたかさんが見 つかってごらん、このぐらいの金すぐにだって」それを聞いた権は、周りに用心しながら、権 「今の次郎公なら、・・・百や二百の小判は右から左だよ」文字春が、次郎吉がいくら博打が強いからといったってと沈んでいるところへ、権 「師匠、江戸で評判の鼠小僧の話聞いたろ」それがどうしたという文字春に、権 「へっへっへ、鼠小僧の名前なんてったっけなあ」文字春「鼠小僧の次郎吉じゃん」そう言った文字春がびっくりしたように、権に「まさか・・」と言い寄ります。権 「そのまさかなんだよお。さすがの俺もね、当人の口からいわれるまで、考 えもしなかったよお」そのとき「あの、すいません」と女の声がして障子が開き、酒を持ってきた女の顔を二人は見て「おたかさん」と声をかけます。湊屋の玄関先には、女将がおたかを身売りさせようとしている十手を持った二足草鞋の桝安親分がやって来ました。おたかを呼びに文字春のいる部屋を開けた女将に、権が「急な話だが、この二人は俺が身請けする」と言い三十両を見せますが、女将は動ぜずお金さえいただければと言いたいところだが、おたかには大事なお客様がいるのだからそうはいかないと、「それともこの上に百両積んでくれますか」といい、権の様子を見て、二人だなんて無理はおっしゃらないでとおたかを連れて行こうとしたので、頭に来た権は文字春が止めるのを振り切り、「見そこなうねえ。・・・俺をいってい誰だと思ってやんでい」と啖呵を切ってしまいます。権 「女将、百だろうが二百だろうが金に糸目をつける俺じゃねえや。ただ今日 のところは、俺の名前で・・信用借りだ。俺を誰だと思うんだ、ほかでも ねえ、鼠小僧の次郎吉だあ」女将が桝安親分に知らせに、権は二人の証文はどうしたと二階から降りて来たところを「鼠小僧御用だ」と暴れますがねじ伏せられ捕えられてしまいます。責めたてられ自分は鼠小僧じゃない、ただの友達だという権に、桝安が「手紙を書いてそれを届けることはできるな」といってくると、「できます」と権はつい言ってしまいます。桝安が言うように書くことになります。「おたかさんが見つかりました、ところが病気で動かすことができません、すぐ金を持って迎えに来い」飛脚の格好をした子分が、権の書いた手紙を持って江戸に旅だったのと入れ違いに、桝安一家の表に、右足を引きずった田舎やくざがやってきます。 続きます。
2022年05月20日
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次郎吉でござんす江戸屋に蜆売りの男の子が、蜆を買ってくれないか、と立止まったところ竹がいらないと断ると、次郎吉が「竹、待て」といい、男の子に「蜆はいくらだ」と聞き、次郎吉「おっと、食うんじゃねえや。銭は俺が払ってやっから、全部その蜆を川ん 中へ抛り込んできな」川に全部捨て終わった男の子を、店の中へ入れ、その子のしもやけで傷む手の処置を女将さんに頼むのです。(この男の子に吉五郎が重なったのでしょう) その子供が具合が悪く寝たっきりの姉と目の見えない母親との生活と聞くと、次郎吉は竹に、次郎吉「おっ、竹、それを坊主に食わしてやってくれ、・・食わしてやれ」竹が料理を食べるようにいうと、子供は女将さんに、折詰の古いのがあったら、詰めて持って帰り母親と姉に食べさせてやりたいというのです。 次郎吉「坊主、いいからそれはおめえ食いな、おっかやお姉ちゃんには、また別に 段どってやるから」というと、竹にもう一度仕出し屋に走るよういうのです。 そして、次郎吉は男の子に次郎吉「坊主、おじさんに訳を話してごらん、しでえによっちゃ、力にもなってや ろうじゃないか」男の子が話し始めます。・・・姉は芸者をしていて質屋の若旦那と好い中になった。若旦那が大金を使い込んでしまったため困って心中することにして、川へ身投げをするところを、鼠小僧という泥棒に助けられてお金まで恵んでくれた。そこで、権がそれだったら、めでたしめでたしじゃないか、といいます。 ・・・あとがいけないんだ、と男の子が続けます。(そして、ここから話しを聞いている次郎吉の心境に変化がおきます)・・・その恵んでくれたお金には刻印があり、お手配済みの小判だったため、若旦那と姉はお召取りになり、厳しいお調べで泥棒だけの疑いはやっと晴れたが、若旦那は牢内で病気になり死んでしまうし、姉は寝たっきり、母親まで悲しい悲しいと目を泣きつぶしてにわか目くらになってしまった。・・・と。 鼠小僧が次郎吉とは知らない権は、権 「なるほどねえ、鼠小僧も義賊だ義賊だと世間に騒がれ、てめえもいい気持 ちになってなってるか知んねえが、いっぺんここへ来てこの話聞きなっ て・・・」 次郎吉は自分が良いことだと思いやったことが、こんなことに・・とやりきれない気持ちになっていました。次郎吉「おう、こんなかに三両と二分ばかりあるはずだ、さあこれ持ってき な。・・・おめ、落とすんじゃねえぞ」懐から財布を出し男の子に渡します、そして、権にはこう言います。次郎吉「権三よ、金は俺が何とか考えるから、てめえ、文字春をむけえに行って幸 せにしてやってくれ。・・・おたかは俺がさがす、必ず・・きっと探す」 決心を固めた次郎吉が、その夜更けに黒装束に身をかため、御中老の部屋に入って行きます。寝入っている御中老をゆりおこすと次郎吉「動いちゃいけねえ、黙って・・・そのまま・・・次郎吉でござんす。今じ ゃ鼠、と結構な名前をいただき、とうとうやってめえりましたぜ。・・・ 本当をいや、まだまだ来る気じゃなかった。だが、三千世界の宿無し者 と、今はときめく御中老様、住む世界に昼と夜との違いがあっても、五分 と五分との貫録で、おめえさんに言いてえことがあったんだ。・・・とこ ろがよう、とんだところで帰り打ちだい。へっへへ・・・もうここだけ避 けて通る訳はなくなっちまった。・・・御中老さん、御当家の御金蔵へお めえさんの手からあんねいしてもれえてんだ」 と言い布団をはねると、恐怖におののくその人は、次郎吉が想っていた御中老ではなかった。次郎吉「誰だい、てめえは・・・こりゃあいったい・・・」次郎吉は驚き慌てますが、落ち着きをもどし次郎吉「・・・この部屋の人は・・・どこ行ったい」去年の初午に殿様の目にとまってお手が付き、ご懐妊あそばされた、と聞き次郎吉「何?・・・初午の日・・・」元々お体が弱く難産のためお亡くなりになった、と聞かされ次郎吉「えっ、死んだ・・・」そのことを聞いて涙する次郎吉でしたが、気を持ちなおして御金蔵へ案内させます。 続きます。
2022年05月13日
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逢いたかったぜ雪の降る朝、宗匠姿に高下駄、そして蛇の目の傘をさした一人の男が「ご免よ」と言い入って店にやってきます。朝帰りのように見えます。 伊豆屋の女将が「おやまあ、茅場町の旦那ですか、ほんとにまあ、お珍しい」と言い、男を迎い入れます。「例のところで、てんてんいかれてのお戻りさ」と話をしたりして、女将が出迎えたところをみると、上客のようです。 女将が、お客さんだよ、と船頭の竹を呼ぶと腹が痛いとごねますが、お客が茅場町の旦那だと分かると急いで二階から降りてきます。男は、「おかみさん、小言を言っちゃあいけないよ、別に急ぐ旅でもなし、一杯飲んで体((を温めてから、それから海賊橋まで送ってもらう」と、なかなか羽振りのよさそうな客です。「病気だったんだってね」と旦那に言われ、竹は旦那の顔を見たら病気も治ったと、旦那の召しあがるものをみつくろっておいで、と女将に言われ急いで出ていきます。 料理が来るのを待ちながら、熱燗を一杯飲みほした旦那は、「おかみさん、いこうか」と勧め、「寒さのためかはらわたに沁みわたるよ」と言い酒を注ぎます。次に船頭の竹にもと猪口に注ぎます。注がれた酒を飲もうとした竹が、「しかしね旦那」と話をしてきました。 旦那が「うーん」と気軽な返事をすると、竹が続けます。(竹と女将の話をするのを聞いている時の旦那の表情の移り変りにご注目ください)「例の鼠小僧、大した評判ですねえ。あっしが泥棒ならね、あのくれいの大泥棒になってみてえね」と。そして女将も「この一年ばかりの間に、やられた屋敷が三、四十、とられた小判が三千三百三十三両、・・・」「こりゃまた憎いや、盗んだ金は右から左へぱぱあーっと江戸中の貧乏人にほどこして回るってんだから・・・百年に一人の大泥棒ですね」そこまで、黙って聞いていた旦那が「いくら大泥棒でも、おまえ、やっぱり泥棒は泥棒さ、あっはは」女将と竹の話を聞いていて、悪い気はしなかったような感じです。そこへ、出前持ちが料理を運んできました。 勝手口ではなく表から来た新前の出前持ちが、宗匠姿の客を見て首をかしげてじっと見つめています。その旦那はびっくりした顔をして立ち上がると「あっ、権」と声をかけます。その旦那が懐かしそうに、嬉しそうに「権三・・・」と言います。 その旦那が懐かしそうに、嬉しそうに「権三・・・」というと、権三と呼ばれた男は駆け寄り、旦那と呼ばれている男は「逢いたかったぜ」と、二人は再会を喜びます。この二人、おたかが失踪したとき以来の再会をした次郎吉とデッチリの権だったのです。 次郎吉も権も思いがけない再会に涙ぐみながら、次郎吉「おめえも変わったなあ。おっ、ときに、あれからどうしたい」権 「どうしたもこうしたも・・あれから一年、おたかさんを探して旅の空、文 字春師匠も、おたかさん探さなきゃ女が廃る、宿場女郎に身を売って」次郎吉「えぇっ、また、どうしてそんな・・・」権 「手ずるを掴むには客商売、人の出入りの多いところがいいって、ええ、次 郎公、あの女、心底からおめえに惚れてるよ」「おーい、権」と周りを気にする次郎吉。 すると、権が吉五郎のことを聞いてきました。「死んだ」と答え、それ以上は今はきかないでくれ、いずれ話すと次郎吉がいい、静寂のところへ「しじみよー、しじみー」男の子の蜆売りの声が響きます。その声を聞いた次郎吉は・・・。 続きます。
2022年05月06日
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どいつもこいつも見てやがれ御中老様と約束した烏森の初午の日。参詣人でにぎわう境内に次郎吉と吉五郎の姿があります。通りの方で賑やかになると「あんねが来るぞ」と次郎吉がいい飛び出していくのですが、がっくり。首を長くして御中老の行列の来るのを待っているのです。 次郎吉「違ったな、また」吉五郎「あんね、遅いなあ」次郎吉「約束したんだい、きっと来る。・・・・びっくりするぞー吉坊、あんねは 綺麗になってるぞ」吉五郎「弁天様みてえか」次郎吉「ああん、もっと綺麗だ。追ってたまげるぞ、へっへへ」吉五郎のいつ来るつもりかということに、次郎吉は、あんねは偉くなったから御用が山ほどある、といいながら、次郎吉自身もいつ来るのかと気が気ではありません。 その御中老は邸内の鎮守に祭った稲荷の社に参詣した大名の目に止まり、代参の役は、友をしてきた二名が馬で行くことになったのです。(この二名の乗った馬により大変なことになるのです)いつまで待っても御中老の行列が来ないことに思い余った次郎吉は、 次郎吉「あっそうだそうだ、あんねの屋敷の前で待っていりゃ間違えねえや、 なっ。それでよう、行列が出て来たら、ずーっとお稲荷さんまでついて 行こうや、なっ」 次郎吉は吉五郎を促しながら、御中老様のいる屋敷の門前に来ました。「あんねは、あん中にいるんだぞ」と言った次郎吉の言葉に、「入って見てえな」と行こうとする吉五郎を「いけねえ、いけねえ、いけねえよ、ここで待たなくちゃいけねえ」と止めます。 代参を頼まれた二人の侍は昼までに帰ると馬に鞭を入れました。その時、門の外にいた吉五郎が次郎吉の止めるのも聞かず「門の傍ならいいべえ」と門の方へ走っていきます。そのときです。侍が乗った馬が、疾風のように門を飛び出して来たのです。それを見て「危ない!危ない!吉坊―っ」と叫ぶ次郎吉、馬に蹴り飛ばされぐったりする吉五郎。 「待ちやがれーっ」と次郎吉は馬を追いかけ、後ろの馬に飛びつこうとしますが、殺到した足軽達に袋叩きにあいます。 止めに入った侍の「ご代参のご使者の出発にこのような騒ぎを起こして、殿のお耳に入ってみろ」という言葉が聞こえました。無礼討ちにしても文句はでぬところだ、すぐ帰れといわれた次郎吉に、むらむらっと憎しみが湧いてきたのです。次郎吉「畜生ッ、・・・代参の奴らだったのかい、・・・あぁぁあっあぁ ぁ・・・」 冷たくなった吉五郎の死骸を抱き男泣きをしながら、次郎吉は半狂乱で叫びます。次郎吉「騙しやがったな、(次郎吉が叫びます)騙しやがったな畜生・・・見てやが れ、どいつもこいつも見てやがれ・・・」自分を欺いた御中老の仕打ちが憎く許せなくなっていたのです。 数年後、厳しい警備を潜って江戸の町に闇から闇へと出没する怪盗、鼠小僧が出没します。彼がねらうは大名屋敷ばかり、奪った小判は貧乏長屋など困った人にまき散らすのです。江戸じゅう鼠小僧の噂で持ちきりになりました。次郎吉「おう、与力、俺の盗みは、てめえの栄誉永劫の盗みとは訳が違う ぜ。・・・どいつもこいつも見てやがれ・・あっはははっ」 続きます。
2022年04月27日
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江戸へ行きぁ雪が降り積もった山道で馬に乗った次郎吉達は、山道を登って来た二挺の駕篭とすれ違います。すると。駕篭が急に止まり、女が次郎吉の乗った馬の前にふさがり、「ちょいと、ちょいと次郎さん、ふん、いい気なもんだね」と言ってきたのは、文字春でした。次郎吉「おめえは・・・」次郎吉は、まさか・・と狼狽して後ろを振り向くとデッチリの権が「すまねえ、これには訳が・・・」というと、次郎吉は馬から降りてデッチリの権をつかまえ、次郎吉「おれがあれほど言っといたのに、おめえは、ばかやろ」権は申し訳ないと、しかし、「次郎さんとしたことが、師匠にだけは・・・」と言っているところに、文字春が割り込んできます。「ここで会ったが百年目だよ」言いたいことがいっぱいある、と・・・。いうことで、文字春と権と一緒の行動になりました。 その晩の夕食時、気まずい雰囲気が流れていました。次郎吉が吉五郎とお風呂にたったあと、文字春はおたかに強い言葉を浴びせます。「はっきりと言っとくけどね、次郎さんには私って女がちゃんとついてるんだからね。お前さんなんか一時の浮気だよ。・・いいかい、浮気。しかも、大名の奥のね・・・」権がそこで止めますが、嫉妬に燃えている文字春は権を振り切って、私はこの子のためにはっきり言ってやるんだといい、「大名屋敷の奥に御鎮座の御中老様と申し上げる高嶺の花、その高嶺の花に次郎さんポーッと来ちゃったんだよ。その御中老様が、お前さんにそっくりだったというだけの話、ふん、どうだい、夢は覚めたか」おたえには、あまりにも残酷な言葉が投げかけられたのでした。誰もいなくなった部屋、おたえは『らはじゃまもの、きっちゃんだけはたのみます たか』と書置きを残し、旅籠を出ていきます。魂を失ったように泣きながらあてもなく夜道を歩いていたおたえの肩を叩いたのは、女衒の久蔵でした。書置きを見て次郎吉達がおたかを探しています。必死におたかを探すが見つからず、おたえがいなくなったことで泣き止まない吉五郎を抱きしめるのです。 次郎吉「あんねは何処も行きゃしねえよ。・・・泣くなぃ」何処にいるのと吉五郎に言われた次郎吉は、こう言ってしまうのです。 次郎吉「そりゃ、おめえ、それ・・・・(ふとよぎったことが) それって、江 戸・・・そうだい江戸だ。・・・おい、吉坊、江戸へ行きぁあんねに会え るんだぞ、・・・江戸へ行こう」 江戸に戻って来た次郎吉は、御中老のところに再び忍び込み吉五郎のためにお願いをします。次郎吉「いかがでございましょう。・・・もしも、吉五郎の奴に、御中老様のお顔 を一目見せてやっていただけるようなことができましたら、姉はあの通り 御奉公の身の上と、一時得心させることが出来る、そのうえで何とかおた かを探して・・・・そりゃ、もう無理な、勝手なお願えと重々承知はして おりますが・・・」 御中老は次郎吉が必死にお願いをする様子を見ていて、御中老「そなた、必ず堅気の暮らしをたて、姉弟を幸せにすると約束できますか」次郎吉「へえ、出来ます、必ず」御中老「では、こうなさい。初午の日に、あたくしは奥方様の御代参で烏森のお稲 荷様に参ります。・・・そこで見せてあげなさい」次郎吉「えぇーっ、ほんとですかい、・・・ありがとう存じます・・・」次郎吉は深々と頭を下げるのです。 続きます。
2022年04月20日
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おめえは誰にも負けねえ御中老に言われた通り、次郎吉はその日に江戸を発ち生まれ故郷に向かっていました。しかし、家の前に着いたとき、家の中から聞こえる話し声と吉五郎の泣き叫ぶ声に何事かと覗いてみると、十両の借金の形に身売りされるところでした。借金の返済をもう少し待ってほしいというおたかに、庄屋辰右衛門が今日こそは待てない駄目だと、連れて来た女衒の久蔵におたかを売ろうとしていたのです。その話を聞いていたがどうにも出来ずたたずむ次郎吉。 辰右衛門から仏になった人と自分たちにひどいいい方をされていたおたかが、こんなとき、次郎吉兄さんがいたら・・と泣くと辰右衛門は、あんな奴返ってきやせん、といいおたかの心次第で借金は明日にでも返せる、久蔵と一緒になって無理矢理連れて行こうとして辰右衛門が戸を開けると、立っていたのは怒りに身を震わせる次郎吉でした。 一瞬みんながびっくり、そしておたかが「兄やん」と次郎吉にかけよります。辰右衛門の「俺に楯突くきか」に、こらえていたものが爆発し暴れまくります。そして、次郎吉は辰右衛門に、金は俺が払ってやる、と捨てゼリフを残し、おたかと吉五郎を連れて村を逃げだし故郷を捨てます。 しばらくして、雪降る町に風呂敷包を大事そうに抱えて足早に宿に入って行く次郎吉の姿があります。その次郎吉を女衒の久蔵が川向こうから見ていました。 次郎吉は宿の一室の障子を開けるや、誰もいないのが不思議に思いましたが、ひとまず暖を取ろうと火鉢に、そしてお茶を飲もうとしたとき「吉っちゃん」と声をひそめていう声が聞こえます。 その声は押し入れから聞こえました。次郎吉は急いで隠れ、・・・そーっと襖を開けたおたかと吉五郎の様子を見ています。 いるはずの次郎吉の姿がないので押し入れから出て来た二人を反対にびっくりさせます。どきどきした、というおたかに、次郎吉「誰ももう追っかけて来やしねえよ。だって、俺がついてらい」 次郎吉が古着屋で買ってきた着物を羽織って喜ぶ二人、次郎吉は懐から安物の簪を出すと次郎吉「似合うかな?」といい、おたかに差し出すとおたかは簪を見つめ、そして次郎吉におたか「ええのかね、兄やん」次郎吉「なんでい、おめえに買ってきたんじゃねえか」 下を向き簪を差し出しても受け取らないおたかの髪に、次郎吉が簪をさしてあげます。涙ぐんで次郎吉を見つめるおたかに戸惑う次郎吉・・・簪をさしたおたかが次郎吉を見つめ、次郎吉の心が・・・そんな次郎吉が笑いかけるとおたかも明るい笑顔になり、次郎吉、おたか、吉次郎の笑い声が響きます。 髪結いを頼み髪を結いあげたおたかを見て、次郎吉は御中老の面影が重なってしまいます。 三人での夕ご飯のとき、おたかが次郎吉に酒を注ごうとしてこぼしてしまいます。このとき、ふと触れ合った手が・・二人のお互いの気持ちの気まずさを表しますが、吉五郎の「あんにゃとあんねが、おらの本当のとととかかだったらいいと思うな」の言葉に、おたかは次郎吉への思いの嬉しさを隠しきれなく、次郎吉には辛いものがありました。 就寝時、おたかが次郎吉に話しかけて来ます。おたか「兄やん、おらあ、兄やんおらあのことなんか忘れてしもたとばっかりおも ってた」次郎吉「忘れた奴が迎えになんか来るもんかい」おたか「兄やん」次郎吉「何だい」おたか「江戸は、綺麗な女の人ばっかだろうね」次郎吉「なあに、ピンからキリまでよ」おたか「おらあ、こんな在郷もんだし・・・」悲しそうにうなだれているおたかを見て次郎吉は、次郎吉「なに、おめえは誰にも負けねえ、・・負けるもんけえ」その言葉におたかが泣き出したので、どうしようと思っていると吉五郎がおしっこで起きだし、おたかが連れて出て行ったあと、次郎吉はどうしてもおたかに御中老を重ねてしまう自分に「いけない」と何度も頭を振るのです。 (この旅籠での次郎吉の心境・・・故郷から二人をつれ逃げ出した次郎吉が、ひとまず落ち着いた時、許婚であるおたえに、御中老をどうしても重ねてしまい思い出す気持ちとても分かります。しかし、遠いところの人ですからね。・・・この心の動き、感情を橋蔵さんの表情、目の表情がとても強く訴えてきます。この作品の中で、とてもひきつけられる場面です。橋蔵さんのお化粧っけない顔の表情、この世代だったら世話物的役によかったのにと思いました) 続きます。
2022年04月13日
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そっくりそのままの・・・そのお顔次郎吉とデッチリ権は百叩きを味わったのにこりもせず博打に手を出します。しかしついてない時は仕方ないものです、今晩もスッテンテン。デッチリ権がしみじみと語ります。いい加減に考えなければいけない。悪銭身につかず、堅気の暮らしを考えよう、と権が言います。すると、次郎吉は打ち消すように次郎吉「馬鹿、馬鹿だなあおめえは・・・この道はね、百姓で真っ黒になって働い てさ、てめえで作った米をてめえで食えねえような暮らしだった。・・・ ところがよお、銭なんてあるところにはふんだんにあるもんだあ。ええ、 そんなお宝を楽しみながら頂戴できる・・・それが、おめえ、サイコロ」 こんな調子での帰り道、大きな屋敷前に来たとき権が「御殿女中の寝顔でも拝んで行こう」と言い出します。次郎吉「よせよせ、・・・女を見るだけでなんになる。腹の足しにもならねえぞ、 止めとけよ」といいましたが、次郎吉の止めるのも聞かず、権はおび紐を木にかけ塀を登り「つき合えよ」といい先に行ってしまいましたので、仕方なく次郎吉も塀を越えて行きます。 屋敷内に入ったのはいいのですが権がいないので次郎吉はあちこち探して歩きます。その権は、「こういう場合は、たとえ友達でも、別々の方がいいの、・・・お楽しみ」といって次郎吉とは別に行動しているのです。探し歩いていたとき、部屋の中から「だーれ・・誰です、これへ参れ」という声に、覚悟を決め入って行きます。 御中老の部屋でした。次郎吉を見た御中老は短刀をとり身構えるが、病にかかっているのか咳をして倒れ込んでしまいます。 その様子を見て「こいつは大変だ」と慌てて近寄った次郎吉は、苦しみながらも用心している御中老に対し、次郎吉「あっしは、けっして泥棒じゃねえんですよ」といい、咳き込む御中老の背中を「大丈夫ですかい」とさすろうと近寄ると、次郎吉を突き放す御中老。 傍にあった湯呑に薬湯を入れ御中老に差し出します。すると、御中老は苦しい中顔を上げ次郎吉のほうを向きます。灯りの中、次郎吉は、その顔を見て驚きじっと見つめてしまいました。 御中老が次郎吉に「何故そのように見る」と聞いてきます。次郎吉「もったいねえが、・・・あんまりよく似ていなさるもんで」御中老「似ている?」 次郎吉「国の二親が拾って育て、行く末はわしの嫁と決めておりました、 おたかっていう娘にそっくりそのままの・・・そのお顔・・・」 御中老「おだまりなさい」という言葉に、「すみません」も声にならなく、そして次郎吉は悲しい顔をしてぼーっとしています。 続きます。
2022年03月29日
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御用提灯、十手の波をかいくぐり、大名屋敷の屋根から屋根へ、神出鬼没の義賊鼠小僧次郎吉の活躍ぶり、そして意地となさけ、義侠心にとんだ一代の義賊鼠小僧の半生を大川橋蔵さんと香川京子さんの初顔合わせコンビで描く話題作です。この作品は、鼠小僧誕生の陰に秘められた次郎吉のほろ苦い人生に焦点をあて、ドラマチックに描いたモノクロ映画作品です。そして、この作品が橋蔵さん初の汚れ役になりますね。加藤泰監督の作品は、撮影技法に特徴があるため、「大江戸の侠児」からも追ってみました。戦前の片岡千恵蔵主演「時代の驕児」の山上伊太郎のシナリオをもとに、加藤泰監督がシナリオも手がけ映画化した作品です。加藤シナリオの次郎吉は、ねずみ小僧になる前もなった後も、大きな心理的動揺を経験していきます。次郎吉は、信頼していた人の裏切りや義の弟吉五郎の死によって、鼠小僧になることを決意し、なった後で、貧しい人にお金を恵んだことが、逆に不幸にさせたり、信頼していた人の裏切りが、自分の誤解であったりと、反省させられることが多々あります。こうしたことが次郎吉に動揺を与えていることは、映画を見ればはっきりとわかります。普通の人が普通でない鼠小僧になり、その普通の人が、心理的動揺を隠せないまま悩める鼠を演じてしまう・・・連続して見られる大きな振動がこの作品の特徴のようです。加藤泰監督のシナリオは撮る方法と季節を定めているところが面白い効果を生んでいると言います。モノクロ映画の中に・・・故郷に帰った次郎吉が、許婚のおたかと義弟の吉五郎を連れ家を飛び出した後疾走する場面は遠景ショットで収められています。普通なら息せき切って走るところを寄りのショットで収めてもいいはずなのに、正反対の超ロングショットで撮ることで見ている私達は尾根の暗さ、黒さを強く印象付けられます。次の場面で、今度は白い雪が降り積もる宿場町に話を移し、私達は一転して雪の白さを受け入れます。映画の面白さを観客に十分伝えるため、冬の特徴を利用したある映像美を創りだしているといわれています。撮影スタイルは、ローアングル、固定、長廻しなどで構成される独特なことで有名です。橋蔵さんが主演の1958年の「緋ざくら大名」でも、その手法が用いられていましたが、完全なるものが出来上がったのは1960年代以降だといわれます。1960年の「大江戸の侠児」はローアングルとハイアングルショット、固定と流動的なカメラ使い、長廻しと組立て、と相反する撮影技法が使かわれています。義賊のほろ苦い人生に焦点を当ててこの作品は作っていくということです。「鼠小僧次郎吉」を主題にした映画はかつて多くの名作がありますが、加藤監督が作る映画も、「そんなに変わったものを期待することはできないですよ」とおっしゃっています。今度の映画は「時代の寵児」という原作をもとに、次郎吉を中心として織りなす人間模様や人生の哀歓を描き出したいと思っているそうです。「橋蔵君はこの映画の初めの方では、チンピラとして出てきて汚れ役という設定です。」今までの映画では、その役柄を犠牲にしても、なるべく橋蔵さんを美しく見せる作品が多かったのですが、今度の場合は、役柄そのものに生きているという映画になるということです。しかし、たんに橋蔵さんの汚れ役という面だけを見てほしくない、ということをいっています。セットで本番待ちをしていた橋蔵さんは「ぼくは、鼠小僧みたいな気っぷは大好きですよ」という江戸っ子橋蔵さん、それだけに大江戸の侠児の撮影は快調にすすんでいます。御用提灯の波の中を、すいすいと切り抜けていく鼠の橋蔵さん。「やっぱりスポーツマンは違うね」というスタッフ、見物人の声にニヤリ。「いくらピッタリでも、泥棒はしないよ。だけど、あまり政治がでたらめだと、鼠の気持ちがよく分かる」と、世相批判も忘れない橋蔵さん。「本番」の声に、黒装束の橋蔵さんはすっくと立ちあがりました。◆第60作品 1960年2月7日封切 「大江戸の侠児」 鼠小僧次郎吉 大川橋蔵御中老・おたか 香川京子伊豆屋の女房 浪花千栄子文字春 青山京子デッチリ権 多々良純子分長吉 徳大寺伸庄屋辰右衛門 沢村宗之助女衒の久蔵 吉田義夫船頭の竹 星十郎桝安親分 上田吉二郎湊屋の女将 清川玉枝二代目の御中老 松風利栄子一寸良い女 霧島八千代吉五郎 佳田知仁蜆売りの子供 川上正夫殿様 小笠原章二郎御殿女中の寝顔が見たいと、相棒にそそのかされて、大名屋敷に忍び込んだ次郎吉。忍んだ部屋は御中老寝所、その顔は故郷の恋人おたかにそっくり。御中老に諭されて、里心のついた次郎吉は故郷に向かったが、ひどい飢饉でおたかは身売り寸前。次郎吉はおたかと弟の吉五郎を連れて江戸へ行くことにします。次郎吉を追ってきた文字春の言葉を真に受けたおたかは行方をくらましてしまいます。傷心の吉五郎に、おたかに似ている御中老に会ってもらう約束をしたが、当日御中老はどうしても出られなくなってしまいます。そうとは知らず屋敷前で待っていたとき、突如屋敷から疾走する馬に吉五郎がはねられてしまいます。おたかと吉五郎を失った次郎吉は、その後大名屋敷の御金蔵を破る怪盗鼠小僧として現れ、江戸の町を駆け巡ります。おたかの 消息は・・・。人だかりができています。ご法度の博打で捕まったチンピラやくざの次郎吉とデッチリ権の二人は、百叩きの刑で釈放されます。端唄の師匠文字春は次郎吉を家に連れて帰り傷の手当てをします。文字春は惚れている次郎吉ばかり介抱し、デッチリ権のことはほおりっぱなし、自分で手当てをするよう酒を渡されたデッチリ権が、自分の背中に自分で霧を吹くのにはどうやるのか、と聞いてくると、次郎吉が、「口に酒を含んで首をぐーっと回してふっふっとすればいいんだ」と言いたいことをいい、文字春のすることに気持ちよさそうにしているところに、一人の女が飛び込んできます。 次郎吉はその女に「いやーあ、達者かい」、女は次郎吉に「あんまりじゃないか」というと、文字春がここは私の家だよ、女が「次郎さんは私のもんだ」といったから大変です。 次郎吉「おーっと、おいおいおい、誰が決めたいそんなこと」「まあ悔しい」「出て行け野良猫」ここから次郎吉の取りあいの女同士の大喧嘩が始まります。 次郎吉とデッチリ権は外へ、次郎吉はもたもたしているデッチリ権に「男は女に捕まってはいけない」といい、慌てて逃げて行くのです。 続きます。
2022年03月22日
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浪路への想いを胸に闇太郎が捕り方相手にしているところから、大立回りの中村座に再び戻って、雪之丞が土部三斎を追い詰めていくところからの展開になり、いよいよ十五年待ち続けた父母の仇討ちです。中村座の外での大立回りの場面と変わります。土部三斎が外に出てきました。 三斎に近付こうとしますが家臣に阻まれます。平馬を斬った後いよいよ三斎と直接対決になります。 三斎を追い詰めたかのように見えたとき、奉行安藤左近将監が「静まれ、静まれ」とやってきます。三斎は、「雪之丞を召し捕られい」と奉行に言い寄ります。将軍家お側浪路の方の父親をつかまえ、雪之丞が証拠もなく土部三斎を父の仇とはけしからん、という訳で、そうそうに召し取られいと言っているところへ 浪路を連れてきたお初が「そのお方様のお出ましだよ」と、そして浪路に「頼みますよ」と言い背中を押します。下がれ下がれと言い三斎のところへ行った浪路の手を取る三斎を振り切り「下がれ、・・三斎そちが雪之丞の父母の仇だと、わらわが知っております」 そして、浪路は奉行に、上様に申し立てるがよい、中村雪之丞父母の仇をはらすため土部三斎を討ち果たした、と言ったのです。雪之丞は孤軒の方を見て喜びを表します。 その瞬間「おのれ、親不孝者め」という声に雪之丞は振り向きますが、遅かりし、三斎が振り上げた刀に浪路を斬られ絶命します。 雪之丞は、すかさず三斎を斬り捨て父母の仇を浪路の犠牲をもち討ち果たすことが出来ました。お初に抱かれ横たわる浪路を見ている雪之丞にお初がいいます。 お初 「雪さん、抱いてやんな、浪路様をよお」お初に促されそばに駆け寄りしつかりと抱いてやるのです。雪之丞「浪路様、浪路様、ありがとうございました」 女形中村雪之丞は、いつものように艶やかな舞台を見せています。舞台はちょうど「鷺娘」の場面で見事な早変わりに拍手喝采の中、雪之丞が足元に視線を落とします。浪路が屋形船で渡した恋文の短冊色紙です。急いで拾い大事そうに・・・雪之丞にも、復讐を越えて、ひたむきな愛情にこたえる愛の深さがあったのです。 お江戸日本橋では、孤軒先生、安藤左近将監、鉄心和尚、ムク犬の吉、長次が、江戸を去り旅に出る闇太郎とお初を見送りに出ています。闇太郎「じゃあ、ご免なすって」闇太郎「ええ、どうでい、江戸お構いの咎人を、お奉行様が見送ってくださるなん て、おいらちょっとしたもんだな」お初 「ほんとだ、・・・兄いはこれから何処へ行くき」闇太郎「さあてね」お初 「上方だろう」闇太郎「てなとこだろうな」お初 「あたいは上方よ。だって雪様浪花に戻ってくるもん」闇太郎「あれ、・・・ちぇ、あははっは」「兄貴、姐御」と見送りの声が・・・二人はお辞儀をして仲良く上方に旅だっていきました。 (完)追・・・「雪之丞変化」というと、雪之丞と浪路の濡れ場、雪之丞と闇太郎二人の場面、お初の雪之丞に対する感情、雪之丞と角倉平馬との場面等、はずせない場面が幾つもあるのですが、橋蔵さん主演の「雪之丞変化」は1時間半に脚本を仕上げているわけですから、脚本家の考えを最初にちょっと書きました通り、この作品では全くそういう場面が省かれています。土部邸に雪之丞が呼ばれるところでも、雪之丞は浪路に手を出しません。雪之丞に恋い焦がれて失踪し衰弱していたところを助けられ、闇太郎の隠れ家でわずか数日の命だった浪路は、ここで雪之丞に抱かれてなくなるというのが描かれるのが普通なのですが、そこを大胆に変えています。闇太郎が雪之丞を助ける表には出てきてはいません。小説や新聞掲載のもの、今までの映画の「雪之丞変化」を知っている人には、違和感があったかもしれません。ここで、この作品でも、ある場面を撮ったようです。ただ、時間の都合でカットされたのか、筋を途中で変えたためなのかは存じませんが・・・。 雪之丞に恋い焦がれて屋敷から抜け出した浪路は、闇太郎の小屋で病が重くなり、雪之丞に抱かれて死んでしまいます。闇太郎が浪路の亡骸を屋敷に運び、三斎が怒り叫ぶ前にピタリと座ったのは雪之丞でした。驚く三斎に父母の恨みを述べますが、その背後には白刃が迫っていたのです、という場面です。闇太郎とお初の場面で終わるなんて、橋蔵さんの良い面を詰め込んだマキノ監督ならではのサッパリと明るく大いに楽しめる娯楽作品です。
2021年12月28日
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思い出したか、土部三斎孤軒はムク犬からの情報を中村座の雪之丞に知らせに来ました。孤軒 「雪之丞、三斎が大勢連れて、ここへお前を斬りに来るぞ」雪之丞は「えぇっ?」と驚き、待っていたというか、とうとう動いたか、という嬉しさを見せ、孤軒が「どうする?」と聞くと、雪之丞は感情を抑えきれない様子で、師匠の菊之丞のもとに行き、「今日限りの雪之丞にしておくれやす」と。菊之丞と孤軒の「やれ」という強い後押しをする言葉に、「やります・・・すんまへん」といって、楽屋に入って行きます。菊之丞は孤軒に雪之丞のことを頼みます。 町奉行安藤は、土部の指示で中村座に向かっている一派を見張れという指示を出します。雪之丞のことを何も知らなかったお初は、浪路に詫びると、敵討には赦免状がなければ、いつか雪之丞はお仕置きになってしまう、とお芳に言っていると、浪路が「わらわが、行きます。雪之丞は死なせません」と言ってきます。土部一派がどかどかと中村座の舞台にまで土足で上がり込み「雪之丞出てまいれ」と怒鳴り楽屋まで入り込んでいきますが、いないことを客席の方で待っている三斎に報告します。三斎が「花村屋に急げ」と指示を出し動こうとしたとき、「土部三斎待てー」と緞帳の内側から、雪之丞らしき声が聞こえてきました。みんなが舞台の方へ注目していると、緞帳が落ち上衣で顔を隠した一人の若武者が立っています。 その若武者は、孤軒と共に花道に行き、三斎の前まで来ると、被っていた上着を取ります。 その顔を見て雪之丞と分かると、三斎 「雪之丞、浪路を誑かしおったな、浪路を出せ、浪路を返せ」と喚き散らす三斎に、雪之丞「馬鹿いえ! 雪之丞の顔をよーっく見よ」 まじまじと雪之丞を見て、三斎 「うぁ、そちは・・」雪之丞「思い出したか、土部三斎、この雪之丞は、松浦屋清左衛門の一子雪太郎」三斎は驚いて後ずさりしていきます。雪之丞「女形に姿を変えて十五年、ただこの日を待っていたのだ。長崎屋広海屋共 に倒れ、残るは三斎、その方唯一人・・」三斎の「斬れ」で大立廻りの始まりとなります。 花道にあがっていた三斎に雪之丞が挑んで行きますが阻まれ、三斎を追って芝居小屋の外に出て行きます。 その頃、中村座に急いでいたお初達が捕り方に囲まれたとき、闇太郎が助けに来ます。ここは引受けたから早く中村座へと闇太郎が援護します。 今度は闇太郎を捕まえるための捕物になります。 続きます。
2021年12月20日
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のるかそるかの大仕事町の群衆が、品川に米がついたと押しかけていきます。町奉行安藤左近将監が見守る中、広海屋がまだ米はある買いなさいと仕方なくさばいています。人様並のことをやったと闇太郎やお初達はその様子を見て一安心し、闇太郎「さ、これから闇太郎兄いの、のるかそるかの大仕事だぜ」お初は、こっちのことは心配いらないと。闇太郎の方はあら仕事になるというと、群衆を従え出かけて行きます。広海屋が奉行所の見守る中米を安く売っていること、何故に奉行所がわかったのかふしぎなこと、土部三斎の耳にも入っていました。そこへ長崎屋が慌ててやってきます。浪路の方にお願いをして公方様の御触れをいただいて欲しいと泣きついてきます。三斎は松ケ枝の止めるのを振り払い、雪之丞と屋形船で会ってから誰にも会わなくなっている浪路を諭しに行きます。城へかえりなさい、そして将軍様に長崎屋のことも申上げて欲しいという三斎に、浪路がもう子供ではないというと、三斎はここにこのままいられては土部三斎の身の破滅になるというが、浪路は「いやだ、浪路の幸せは考えないのですか。父上は自分のために城へかえそうとするのですか」といい納得してくれない。「河原ものごときに心惹かれ愚かなことを」と浪路にせまった三斎に「下がれ」と手を払いのけます。城へ戻らなくても上様お側の御方様であるという浪路に、三斎は誰のお蔭でなれたと思う、と声をあらわにするが、松ケ枝に止められ仕方なく部屋を出て行きます。浪路がこれだけ強い言葉を言えたのは、そのちょっと前に、庭に忍び込んだお初が雪之丞のかんざしに絡めた投げ文を読んだからなのです。闇太郎と孤軒と鉄心、長次と団扇太鼓を鳴らす集団と町人衆が長崎屋に向かっています。お初は、浪路を屋敷から連れ出すことができそうです。闇太郎一行が中村座の前を通って行きます。菊之丞が雪之丞に町中の人が長崎屋に押しかけていることを知らせ、いよいよそのときが来たことを二人は手を取って喜びます。 長崎屋の前は大勢の人だかりになっています。長崎屋が米はないといっているところへ「嘘いっちゃいけなえよ。おめえんちの蔵には米がいっべえへえっていたじゃねえか」と闇太郎、無いと言い張る長崎屋から蔵の鍵を取り上げ、金は払うとばらまき、蔵から米を運び出させ江戸の皆で分けるようにといいます。 広海屋に恨みを持った長崎屋は、広海屋を刺しお縄になります。浪路が城へ帰らなければ将軍様に目通りかなわない三斎は、屋敷に帰り浪路がいないことに腹をたて逃がした松ケ枝を斬り、河原ものを叩き斬って浪路を連れ戻すよう平馬に言います。屋敷の門の外は鉄心、長次と団扇太鼓を鳴らした集団と町人衆が埋め尽くしています。三斎の屋敷の様子を窺っていたムク犬の吉は塀の外で待っている孤軒に三斎が中村座に殴り込みをかけることを伝えます。孤軒は中村座へ走ります。ムク犬はお初のところに走りました。お初が浪路を連れ出したので、三斎はてっきり太夫だと思い込み、大勢の家来を連れ中村座へ太夫を斬りに行った、とお初にいいます。一緒にいた浪路と雪太郎の乳母お芳も驚いた様子で、お初がムク犬と行こうとしたとき、お芳が二人を止めます。お芳「これでいいんだよ、坊ちゃま・・」お初「坊ちゃん」お芳「うん・・・雪之丞様、土部三斎に斬られるようなお方ではない。十五年の間 今日の来る日を待っていた人じゃ」「何だって」お初は勿論驚き、浪路も驚いたのです。お初「お芳さん、訳をお言いよ」お芳「土部三斎は、坊ちゃまの仇」お芳が泣き崩れます。 続きます。
2021年12月11日
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(m/wの独り言・・今回の場面は、私としては、この作品の中で、一番好きな場面になります。雪之丞に惚れたお初が、雪之丞の浪路に接する真の目的を、率直に聞き出そうとしながら、お初自身の恋心を酌んでほしいという思い切った行動にみせる雪之丞のつれない仕草。男雪之丞を感じます。そして、雪之丞の鮮やかな応戦と引き際の粋なこと。橋蔵さんの雪之丞だから出せる粋きと淡島さんのお初の粋がすんなりとけこんでの場面には、くぎ付けになってしまいます。雪之丞としての一番の見せどころになっているとおもいます。そして、雪之丞の手の仕草・・・羽織の房をさわる仕草、着物の褄をさわる仕草・・・見ていてさすが、うっとりしてしまいます。)とにかく片棒担いでやんなよムク犬の吉が竿を取りお初と雪之丞を乗せた舟が川下の桟橋につきます。 舟から降りた雪之丞が「話があるというのはどんなことか」とすぐさまお初に聞くと、お初は雪之丞にお初 「そうひらきなおらないでよ・・・仲良くしない」といわれ、雪之丞は少し警戒するような目でムク犬の方を見てから、気を許さずにお初に、雪之丞「結構だす」と返事をした雪之丞に、お初は笑みで返し、暗闇の中周りの様子をじっくりと窺い、丸太に腰かけると、雪之丞に話しかけます。 お初 「実はあたい、初日にお前さんが将軍様のお妾さんの方を、ちらりちらりと 見る、その目に惚れたんだが、お前さんの狙いが、御方様じゃないかっと 睨んだら、ぴたりと当ったというわけなのさ」それを聞いていた雪之丞の表情が険しくなりました。すると、お初が指をさしお初 「あら、その目よ」お初を睨んだ険しい目を流したのを見て、お初は指していた指を引っ込め「変だねえ」と不思議に思います。 すると、雪之丞は、薄笑いを浮かべるとお初のいうことを無視するようなそぶりで歩き出します。お初が「ねえ、雪さん」と言い寄ります。 きやすく言い過ぎるかといい、歩きながら話しかけていきます。お初 「惚れたといっても、あたいのような女は、ご贔屓以上に望めそうにもない のだからいいじゃない」雪之丞が含み笑いをします。お初は、雪之丞にあの女だけはあきらめた方がいいというのです。そうでないと、まかり間違えば獄門台だといいますが、雪之丞「ご親切なご贔屓様のお言葉だすけど・・・河原もんの悲しさ、さっしてお くれやす」お初が態度を変えてきます。 お初 「おい、雪之丞。お前さん金に惚れたのかい、金で買えるお前ならあたいに 売りな。何百俵だって・・・」雪之丞は笑って雪之丞「売りまへん」お初 「うぅーん、そうかい。・・じゃ、贔屓の引き倒しってことになるかもしれ ないけど、(といい、帯に隠している小刀を出し)この延べ金じゃ・・・ (優しい声で)どう? 」雪之丞が、今度は「売りまひょ」というと、気に入った、江戸っ子は気が短いといって、お初は雪之丞に小刀を向けていきます。 お初が向かっていきますが、そこはひらりひらりと交わして、お初を叩きよろめいたところに入って来たムク犬を盾にして、お初の動きを止め舟に素早く飛び乗ると、お初に向かってかんざしを投げます。 お初はそのかんざしを手で受止め、雪之丞が舟で遠ざかるのを見ているだけでした。雪之丞「末永く、ご贔屓に」と愛想よく言い、舟を漕いで去って行くのと同時に、橋の上から闇太郎の唄声がします。 「いくら口説いても、・・戸板に雨よ、・・いっそあんなやっつぁ・・死ねばよい」と唄いながら、闇太郎がお初のところへ下りてきました。すると、お初はその唄のようにはいかないというのです。そして闇太郎に打ち明けます。お初 「悔しいけれど、ほんとに惚れちゃったよ」闇太郎「へっ、よしなよ、あんな贅六・・・」お初 「ちょいと、ありゃやっぱり、ただの女形じゃないよ」闇太郎「ふうーん、さすがはお初姉さんだ」「実はな・・・」といい、闇太郎はお初に思っていることを話していきます。大夫にはどえらい大望があり、闇太郎が今やっている大仕事とピッタリ合うというのです。そして闇太郎はお初に「とにかく片棒担いでやんなよ」と、お初とムク犬が「いいよ」と返事をしたので、闇太郎「よし、今夜から忙しくなるんだ、おう急ごう」という訳で、お初とムク犬の吉は闇太郎について行きます。 その頃、鉄心と長次が長屋の住民に明日品川で米が買えると金を分け与えていました。 続きます。
2021年12月04日
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雪之丞とて人の子・・・広海屋に招かれた雪之丞が、座敷で話をしています。江戸へ呼んでくれて贔屓にしてくれる広海屋のいうことにいやとは言えない、という雪之丞に広海屋は呼んだ訳を話すのです。今夜品川に着く荷物は、表向きは昆布ということになっているが中身は米だという広海屋に、雪之丞は「へえ」と驚きを見せずに答えます。 広海屋が長崎屋は油断できない男で、広海屋の米を狙っているということを話しだしたとき、雪之丞が問います。雪之丞「それで一体、わてに何をせいとおっしゃるのでございますか」と聞かれた広海屋はニタリとした顔をし、今夜浪路の方に会ってほしいと言います。それを聞いて雪之丞は、驚きとあきれたような様子を見せますが、雪之丞は心の中ではしめたと思ったかもしれません。 広海屋は、浪路の方は太夫(雪之丞)が好きで好きでたまらない、だから頼んでもらえれば、浪路の方から公方様に直接伝わる。御上の目を盗んで米を持ってきても売る権利がある、と雪之丞に言い含めていき、「そこで」と広海屋は雪之丞に話を持っていきます。 屋形船が用意されています。話をしたようで広海屋が雪之丞に「頼みます、頼みます」とお願いをしますが、雪之丞は二つ返事で引き受けません。雪之丞「わてがそのようなことを申上げても、御方様は・・・」というのを、お礼はたんまりしますというと、席を立ち廊下で待っていた松ケ枝から浪路の方が待っていると聞き、雪之丞も見えていることを伝えている間、雪之丞はどんな気持ちでいたのでしょう。 浪路が待っている屋形船に雪之丞も乗り込みました。 雪之丞に対する気持ちを詠んだ浪路の句に、雪之丞は浪路がそこまで自分を慕っていたことに心揺らぎます。 浪路に私が嫌いかと聞かれ、雪之丞「身に余る果報ながら、・・・所詮は添われぬ身。・・・もしも御方様が 真のお心のあってのことなら、なおさらに・・・悲しい思いだけが残り ましょ」それでも浪路は女心の嬉しさを一度でいいから知りたいと、雪之丞にせまるのです。 雪之丞「雪之丞とて人の子、・・・でも雪之丞は、大勢のご贔屓様あっての稼業も の・・・今やこのお江戸のご贔屓の皆様が、御方様によって苦しんでおら れることを・・・それを知っていやはりますか」 浪路はどういうことか、と言ってきます。雪之丞は「好きじゃ惚れたは、ただ二人のそのときの出来心」と言うと、「申上げましょう」と核心に触れます。浪路の方が父上三斎様のおっしゃる通りに上様に仰せられましたために、長崎屋が米を売り惜しみ、今夜はまた広海屋が私を通して浪路の方に自分の手持ち米を高く売りさばこうとしている、と言い終わったとき、屋形船を揺らす勢いに雪之丞の表情が厳しくなり、お初が乗った舟が横付けしてきました。 そして、お初が「太夫、頃合と思ってお迎えに来たんですよ」と声をかけまが、応答がないため、お初は続けます。お初「とっても偉い御方さん、あんまり太夫をいじめないでくださいね」お初とムク犬の吉が様子を窺っていると、屋形船の障子が開き雪之丞が現れます。お初は雪之丞を見るや恥ずかしそうな仕草をします。雪之丞は浪路を気にしながら、雪之丞「あなたは、どなたはんだす 」お初とムク犬の吉は、ちょっとちょっとと手招きし、雪之丞にムク犬が「闇の兄貴」といいちょっとというと、雪之丞は屋形船の部屋から出てきます。耳打ちで話を聞いた雪之丞は、浪路を気にしながらもお初と一緒に行ってしまいます。浪路の方を見送りに出た広海屋は、品川に着いた荷が米と分かり町方に連れて行かれます。 続きます。
2021年11月27日
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俺の名を雪さんに耳打ちして、ひっぱりだすんだよ中村座の舞台では、艶やかに雪之丞の舞踊”関の扉”が繰り広げられています。お初がムク犬の吉と嬉しそうに見ていました。 そこへやって来た鉄心に、夕べ闇太郎が追われていたようだが、捕まったのではないだろうとお初が聞くと、あそこにと指をさす方を見ると、闇太郎が手招きをしています。お初は怒っていると初めは行く気はなかったのですが、鉄心にぐちなら自分でいえばいいといわれしぶしぶ闇太郎のところに行きます。 お初は、土部三斎の屋敷に雪之丞はいなかったと、闇太郎が嘘をついたことに腹を立てていました。 闇太郎「あっはっ、そうか、広海屋で」お初「聞いたよ」闇太郎「すまねえ、・・・それじゃ、今夜の雪さんの行先を教えよう」何処かと聞くお初に、闇太郎「暮れ六つに、広海屋に呼ばれて、川長だ」すると、お初が広海屋の目的が分かったようで、お初「そうか、あいつ、雪さんを使って浪路に・・・」闇太郎は、慌ててお初を止めます。 お初「中身出すんだよ」闇太郎「あっそうか、・・で、船は」今夜遅く着くと聞き、「慌てさせるねい」という闇太郎に確かだというお初に、闇太郎「ようし、じゃ今夜の雪さんおめえにまかすぜ」「うれしいねえ」とお初が嬉しそうに。 しかし、闇太郎はお初にこう付け加えるのです。闇太郎「俺の名を雪さんに耳打ちして、ひっぱりだすんだよ」大丈夫かいと不安がるお初に、「大丈夫だよ」と言い、闇太郎「それからのおめえの守備は川長の川下大橋で聞こうじゃねえか」お初「うん」闇太郎「うまくやんなよ」こうして二人はお互いの守備がうまくいき、落ち合うことを約束して別れて行きます。 米を求める民衆は、鉄心を先頭に団扇太鼓を鳴らす集団と共に動き出し、町奉行安藤左近将監も孤軒が届けた書状を見て動き出します。 続きます。いやあ、橋蔵さんの闇太郎はかっこう良すぎます。お初役の淡島さんとは初共演とは思えないほど息がピッタリ。それは、この後の、雪之丞とお初が相対するところでも見られます。素晴らしい共演者とは相手をより以上にみせながら、橋蔵さん自身が持っている魅力を出してくるのですから、相手役は大切ですね。
2021年11月19日
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一思いに父母の恨みをと闇太郎に家の中で、雪之丞が逢いたいと思う人が待っている。そういわれ雪之丞が家の中に一歩踏み込んだとき、雪之丞の目の前を槍が襲ってきます。 その勢いを防御するため雪之丞の体は後ずさりしながらも槍の先を交わし、振袖で押さえつけます。 そして、相手を見て驚きます。雪之丞「あっ、せんせ」雪之丞が剣の手ほどきを受けた孤軒先生でした。孤軒先生は、江戸へ出てきて、お初と同じ長屋にいて、闇太郎と知り合いでした。 孤軒先生は、雪之丞への手を緩めず、槍で攻めていきます。そして、雪之丞が「お久しゅう」といい、孤軒先生も「うれしいぞ」と。その様子をじっと見ていた闇太郎は「ていしたものだ」と感心し、鉄心と長次はあまりの凄さにぞっとしていました。 家の中には、乳母のお芳もいました。お芳と雪之丞の再会の喜びのあいだに、闇太郎と孤軒先生はこんな話をしています。広海屋が西国の米を江戸に送りだしている、長崎屋は御用米を払い下げしてもらって相場の上がるのを待っている、こうなったら、広海屋が海産物と誤魔化して運んだ米を、奉行の安藤様に頼んで捕まえてもらいましょう、ということになりました。その頃、土部の屋敷から帰った広海屋は、長崎屋に先をうたれたので土部三斎を頼ってはいられない、雪之丞を使って浪路の方様直々にご上意をいただかないと、というのです。問題の船は明日の夜に着くようです。闇太郎の家の方では、闇太郎達が、中村菊之丞を駕篭で連れてきていました。菊之丞、孤軒先生、雪之丞、お芳がうれしい再会です。そこで、雪之丞は孤軒先生より、江戸の民衆があの三人のために困っていることを聞かされ、雪之丞「申し訳ございません。わが身のことばっかり思い続けて、今度の芝居を打 ち上げるのを待って、一思いに父母の恨みをと考えていましたけど・・」 孤軒先生は、それまでは待てない。広海屋、長崎屋は利欲に目がくらみ、友を売り商も売るときが必ず来る。その二人をどこまでも浪路の方を通じて争わせ、魂をも肉をも両人に食いちらさせるのだ、と雪之丞に言い聞かせます。 お初は、広海屋に忍び込んで、土部の屋敷に雪之丞が行っていたことを知り、やけ酒を飲んでいて家にはいなかったため、お初を訪ねて行った闇太郎は大勢の町方に取り巻かれ、大捕物になりますが、闇太郎はスイスイと難を逃れて行きました。 続きます。
2021年11月09日
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逢ってもらいたい人がいる雪之丞を乗せた駕籠は、闇太郎の家の前で止まります。闇太郎は駕籠の中の雪之丞に声をかけてきます。闇太郎「お寒いところでお気の毒だが、ちょっと寄ってもらいてえんで」そういうと、闇太郎は用心深く後ろに身を引いて、雪之丞の出方を見るような仕草をします。 雪之丞からは何の反応もない、そこで鉄心にたれをあげるようにいいます。たれをあげた鉄心の様子を見て闇太郎は笑いを浮かべ、今度は長次に履物を揃えるようにいいます。長次が履物を揃え「どうぞ」と差し伸べた手をすごい力でつかまえてきたから大変。ニコッとしていた闇太郎の顔が一瞬険しくなります。 長次の手を持ったまま雪之丞は駕籠から出てくると、闇太郎の方に視線を走らせ長次に、雪之丞「堪忍だっせ」といい、もう一度闇太郎を見たとき「はっ」と気が付き雪之丞「あんたはんは、さっきの・・」闇太郎「へえ、泥棒でござんす」その返事に雪之丞は一歩下がると、鉄心と長次の方を見ます。鉄心が「あっし達は相棒」といいます。 駕篭やには慣れない二人だから疲れさせたでしょうと、雪之丞に詫びをいれたところで、雪之丞は「どうぞ、待っておくれやす。・・・お泥棒様が、そないにご丁寧やった ら、よけい気にかかります。ご用がおますなら、あっさりゆうておくれ やす」闇太郎「泥棒に恩も様もあるもんじゃねえが、・・・てっとり早くあっしの素性を いうなら、あっしは理屈のきれえな男で、泥棒はしていても、泥棒より悪 いやつがでえきれいだ」 それを聞いた雪之丞が笑うのを見て、「笑っちゃいけませんやな」と闇太郎。 闇太郎「強い奴が弱い奴を喰うのが我慢できない、それでちょっくらありすぎると ころから頂いて、無さすぎるところへ蒔いて歩くのが、悪くいえば泥棒、 よくいやあ・・」ここで、鉄心が「親分、やっぱり泥棒だよ」闇太郎「そうか、えっへっ、ちげえねえ」 このような話で少し打解けたところで、闇太郎は「逢ってもらいたい人がいる」といいだします。闇太郎「逢えば懐かしくって、びっくりなさるでござんしょう」といい、「お入りなすって」と家の中へ導きます。 戸を開けた闇太郎の表情が気になります。・・・闇太郎は何もいわず去り・・・「逢えば懐かしく、びっくりする」とは、どういうことなのかと雪之丞は促され半信半疑で家の中を・・・。 続きます。
2021年10月26日
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中身は、米だよ土部三斎は長崎屋と広海屋と米の相場をあげていたが、そろそろ売る体制をとらないと世間が騒々しくなり、浪路の宿下がりを願っても江戸の庶民が米騒動を起こしては・・・という話をしています。そういう話から、広海屋が海産物と見せかけ米を江戸へ送る船が浪花を出たという話が出ました。そんな話をしているとき「曲者」という声で、屋敷内が騒がしくなります。屋敷の裏には闇太郎の子分が駕籠かきになり駕篭を用意しています。騒ぎに気をとられて土部等がちょっと部屋を離れた隙に、宝石と大枚の金子を闇太郎に持っていかれてしまいます。闇太郎がお初の家の屋根から盗んだものと一緒に下りてきました。その闇太郎の持ってきた木箱を見て、お初 「雪之丞、三斎の屋敷にいただろう」闇太郎「・・いなかったよ」お初がそんなはずはないというと、闇太郎「馬鹿にやきもきするじゃねえかよ」お初 「気になるんだよ」闇太郎「みっともねえよ、姐御」お初 「そうじゃないんだよ、あの浪路の方との逢引きがばれたら、雪之丞は首の座にあがるだろう」闇太郎「分かっているだろうよ、雪之丞だって。・・おう、それよりもどうでい、この品物は」闇太郎はお初に、金に変えてほしいといいますが、すぐに足がつくからダメと断られます。 闇太郎がお初に、特に頼みたいことが、広海屋をはって、西国からの品物が何時品川に着くかがわかればいいと。お初が海産物じゃ、というと、闇太郎「中身は、米だよ」お初が納得したので、闇太郎は用があるとお初の家を出て行きます。 土部三斎の屋敷周りでは、押し入った闇太郎を召し捕るため、大勢の町方が走り回っています。その脇をびくともせず一丁の駕篭が通り過ぎてきたさきに待っていたのは闇太郎です。いい調子で都々逸を謡いながら駕籠と共に・・・駕籠に乗っているのは雪之丞で、都々逸が聞こえてから、誰に何処へ連れていかれるのか、不安になっていますと、唄が止むと同時に駕篭が止まります。 続きます。◆この場面で、闇太郎が謡っている都々逸は、小説「雪之丞」の”新しき敵”の十七章のところで、闇太郎が平馬について行くという場面で謡っていたと思います。吉原冠り、下ろし立ての麻裏の音もなく、平罵の後からついて行く闇太郎、河岸は暗し、頃は真夜中、気持よさそうに、弥蔵をきめて、いくらか鐵枯れた錆びた調子で、 たまさかに 一座はすれど 忍ぶ仲 晴れて 顔さえ 見交わさず まぎらかそうと やけで飲む いっそしんきな 茶碗酒 雪になりそな 夜の冷えなどと、呑気そうな、隆達くずしが、しんくと、更け渡るあたりの静けさを、寂しく破るのだった。・・・・・という具合です。◆(いやあ橋蔵さんの都々逸を聴くことができ、うれしいです)
2021年10月18日
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ただの女形じゃないよ同じ一階で見ていたお初も雪之丞が気に入ったようです。お初 「惚れちゃったよ、本当に」と言ったのを聞いて闇太郎「えっ、おかしいや、・・江戸っ子姉さんが、上方役者に惚れるなん て・・」お初 「いいじゃないかあ」 闇太郎「ああ、痘痕も靨に見えたってやつか」お初 「違う、あたしの惚れたのは目だよ」闇太郎「目?」 お初 「あの浪路の方ってえのを、ちっらちっらと見る目、ぞくぞくっとしたんだ よ。・・・ねえ闇の兄い、ありゃただの女形じゃないよ」闇太郎もお初が思ったことを感じとっているようです。 闇太郎「そうかな・・、まっ、目に惚れて、肘鉄食って、酷え目にあいなさんな よ」お初 「大丈夫、あたしゃ雪之丞に、もう目がないんだから」二人はそんなやりとりをして芝居小屋をあとにします。 その夜、お初とムク犬の吉は、雪之丞が泊まっている宿に裏口から入っていきます。二階では、雪之丞と菊之丞が・・・長文の手紙を読み、時節が到来したと話しています。その手紙は、娘の浪路を慰めてほしい、と土部三斎からのものでした。菊之丞はこの手紙の招きを手掛かりにして土部に近づけばいい、焦ってはいけないと言い雪之丞が肌身離さず持っている懐剣を預かるのです。 二人の様子を外で窺っていたのはお初です。「浪路の方の心をしっかりと掴むこと」だと言われ、「そんなあ・・・そんなこと・・」とためらっている雪之丞に、菊之丞は厳し調子で菊之丞「あほやなあ、浪路の方さえ口説き落としたら、土部も、長崎屋も、広海屋 も、必ずお前の思うままになるがやな。・・・わかったなあ・・わかった か」 その頃、外の通りでは町方が走り回っていました。その脇を手に持った太鼓を鳴らしながらの大勢が長屋に入って行き、孤軒先生とお芳がいる家の前で止まります。その中に闇太郎の仲間の鉄心和尚と長次がいて、鉄心和尚に、闇太郎からの伝言を伝えます。土部三斎の屋敷へ行ってもうひと稼ぎして、土産を連れて帰るから、闇太郎の家で待っててほしい、ということでした。 続きます。
2021年10月04日
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ご贔屓願い 奉るさあ、中村雪之丞ののぼりがたなびき、いよいよ江戸の中村座で上方歌舞伎の幕が開きます。満員の客席の中に、闇太郎とお初の顔も見えます。二階席には、中村座の頭領がいっていた土部三斎と浪路の姿があります。拍子木がなり幕が開きます。観客が舞台を見つめる中、舞台は「宮島のだんまり」傾城浮舟太夫姿の雪之丞がせり上がって男二人を手玉に取って綺麗な動きを見せていきます。 雪之丞が見得を切ったとき、立ち上がったお初が「花村屋」と掛け声をかけました。慌てたのは闇太郎や仲間たち…闇太郎がお初を止めます。 二階席で見ている浪路も身を乗り出しています。雪之丞の口上が始まります。(ここでは、劇中の「宮島のだんまり」の中で、江戸の観客にご挨拶をするという場面になります。そして、それは、二階席で見ている土部三斎、長崎屋、広海屋に向けての挑戦状にも受け取れます。そのためには、浪路の方様を虜にして思うように動かせるようにすることです。雪之丞は、口上の間に、浪路の方に目線を走らせ気を引く仕草を見せていきます)君が情けのたまずさに つい誘われて 上方から 初お目見えの 不束者 ご贔屓願い 奉る ここから舞踊に入っていくのですが、雪之丞は踊りながら二階にいる土井三斎や長崎屋、広海屋を見ていて、父清左衛門のことを思い出します。 町方が来て、抜け荷の証拠は掴んでいる、証人は人足と手代の三郎兵衛だ、と引き立てられ、土部三斎の罠にはまってしまったのです。 はり付けになった清左衛門は、妻お菊と息子雪太郎の名を叫び、「無実じゃ、わしを謀り負ったは広海屋じゃ、三郎兵衛じゃ、・・・・奉行の土部三斎じゃ、・・・無実じゃ。雪太郎、お菊」と言い、清左衛門は死んだのです。お菊も清左衛門を追うようにその夜自害をしたのです。 舞台は終盤に入っています。実は、傾城浮舟太夫は盗賊袈裟太郎であった、という具合で舞台は閉まります。 土部三斎は、浪路に如何であったか聞くと、浪路が「あの雪之丞とやらが殿御とは」と気に入ったようすなので土部も長崎屋も広海屋もにこにこでした。 続きます。
2021年09月27日
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十五年の苦労をむにせんようになあ江戸城内では、下町奉行安藤左近将監が、土部三斎に長崎の米の買占めを止め、一日も早く江戸町民に売り渡してほしいことをお願いするが、長崎屋の御用米買い上げを浪路の方様を通じてお願い申し裁可を得たまでといい、気に入らなければ浪路の方様にお願いすればと安藤左近にいい、土部は将軍家斉と浪路が上方の芝居の話をしているところにやって来て、家斉に浪路の宿下がりをお願いするのです。場所は変わってこちらは女の子たちが押しかけている旅籠になります。二階の一室に中村座の頭取が、中村菊之丞と雪之丞のところにえらい初日を迎えることになったと、かけ込んできます。というのは、いま公方様のご寵愛をいっしんにうけている浪路の方様が来るとの知らせがあったというのです。菊之丞が浪路の方様とは、と聞きますと、今お城では御大老や御老中もかなわない程の方で、土部三斎様のご息女と話します。このとき、土部三斎という名を聞いた菊之丞と雪之丞の表情が変わります。菊之丞は、うろたえた様子の雪之丞を見て、キセルをたたき制止ます。 お供には上方芝居を江戸に招いてくれた豪商人の長崎屋と広海屋がついて来ると頭取がいうと、菊之丞が雪之丞に念を押すように繰り返します。 頭取が帰ると、菊之丞は「雪」と声をかけ、雪之丞のところに行き、菊之丞「夢みたいやなあ」雪之丞「はい」といい頭を下げます。そんな雪之丞に、菊之丞は、「雪之丞」というと、「軽はずみは・・・くれぐれもなりませんで、・・・えぇ・・・じっくりとことを構えて、十五年のこなたの苦労を・・むにせんようになあ・・・なあ、頼んますえ、えっ」雪之丞は気持ちの高ぶりをおさえるように泣きながら「はい」と返事をします。 続きます。
2021年09月23日
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ご世事にお呼びなすった三上於菟吉がジョンストン・マッカレーの『双生児の復讐』を下敷きに、歌舞伎『白浪五人男』の弁天小僧や『三人吉三』のお嬢吉三などからヒントを得て創作したものです。昭和初期朝日新聞に連載になった小説「雪之丞変化」が初めて映画化されたのは長谷川一夫さんが林長二郎時代の昭和10年のこと。衣笠貞之助監督が2年がかりで3作品に分けて映画化しました。この映画の主題歌が、東海林太郎が歌う「むらさき小唄」です。撮影中には二・二六事件が勃発、不況や事件が相次いだ暗い世相の中で、父の復讐に生きる雪之丞と、江戸の義賊闇太郎を一人二役で演じたその演技は、大衆の喝采を浴び「雪之丞変化」は出世作になり人気を不動のものにしました。ところで、長谷川一夫さんの「雪之丞変化」はもう1本存在していました。それは終戦後まもなく、衣笠監督で企画が持ち上がりましたが、終戦直後はGHQの占領統治下、十三ヵ条の映画制作禁止条例が出ていて、仇討ちや切腹などの話は禁止、そのため仇討ちがテーマの「雪之丞変化」は禁止映画に指定されてしまいます。そのため、衣笠監督は、新作を装いタイトルを「小判鮫 前篇・後篇」として雪之丞を撮っていました。千代之介さんのデビュー作品で初主演ものが「雪之丞変化」だったのですから、大変だったでしょう。撮影中、千代之介さんは主演を下りても良いと思ったほど初めてのことばかりで苦労したようです。美空ひばりさんのために作られた雪之丞変化は楽しめる仇討ちモノになっています。女だということを隠して女形を演じているという、雪之丞は女性です。雪之丞と闇太郎と母親のお園の三役を演じています。美空ひばりさん当時二十歳ぐらいでした。今回の「雪之丞変化」の脚本には苦労した、とおっしゃっていたのは脚本を書いた鈴木兵吾さん。三上於菟吉原作は実に膨大なもので、長谷川一夫さんが演じた戦前の「雪之丞」は三部作に、戦後東千代之介さんや美空ひばりさんが演じたときは二部作になっていますが、今回は、雪之丞の幼年の出来事から父母の仇を討つまでの約十五年間の波瀾万丈の物語を、制作日数や種々の理由から、一本もののストーリーでということになったようです。つまりダイジェスト版のようになってしまうのですが、それでも映画の場合は、ヤマ場がなくてはつまらないものになってしまいます。鈴木兵吾さんは、雪之丞と浪路の濡れ場を重点に持っていこうか、闇太郎を中心にしてお初と江戸の飢饉を絡ませるようにしようか、と・・・橋蔵さんは、闇太郎よりも雪之丞で勝負をしてみたいとの意見もあり、直して直していくうちに結局はダイジェスト版になってしまい、この後はマキノ監督におまかせしたということのようです。橋蔵さんの三役は、最初から三役だったわけではなかったようです。雪之丞と十五年後に再会した三斎が何処かで見た顔だと思うのですが、はっきりと思い出せない。このシーンで、雪之丞の姿ではなく、死んだはずの清左衛門に変装した雪之丞が、三斎の前に現われたら面白いのではないか、と脚本家と監督で話し合ったのがヒントで三役が決定したそうです。ストーリーではずせないシーンの一つ・・・雪之丞に恋い焦がれて屋敷から抜け出した浪路が、闇太郎の小屋で病が重くなり、雪之丞に抱かれて死にます。浪路の亡骸を闇太郎が屋敷に運び、怒り叫ぶ三斎の前に雪之丞が・・・驚く三斎に父母の恨みを述べる雪之丞の背後には白刃がせまっている・・・というシーンの撮影はあったようですが、作品では使われなかったようです。浪路はラストで父三斎に斬られて死ぬことに変っています。 三上於菟吉原作の『雪之丞変化』は映画では長谷川一夫さん、東千代之介さん、美空ひばりさんが演じられていて、四人目として大川橋蔵さんが登場しました。もし、東映で二人目、三人目が前に出現していなかったなら、橋蔵さんに東映入社直後「雪之丞変化」をやらせたかったに違いないでしょう。中村雪之丞は上方の女形で舞踊の名手と原作にあります。橋蔵さんの芸風を最大に生かすことが出来るのです。劇中劇の舞踊の魅力も大きいものになります。中村座舞台での「宮島のだんまり」での雪之丞の口上は、歌舞伎時代の女形大川橋蔵さんのを知る上で貴重なところになりまし、劇中劇の 「宮島のだんまり」「「関の扉」「鷺娘」の橋蔵さんから、そして、女形雪之丞が振舞う手の位置、所作は、当時の女形の作法通やっていますから、歌舞伎時代に修練を積んだ橋蔵さんがズバリあらわれているといえるでしょう。義賊の闇太郎では、初共演の淡島千景さんのお初との絡みがとても粋でした。相手役がすばらしいと、橋蔵さんは思いきり役柄に入り込めすばらしい。ですから、闇太郎には男の色気が溢れ、橋蔵さん自身がもっている魅力が十分に発揮されています。また、雪之丞の父親清左衛門では、橋蔵さんは初めての老け役でした。お化粧は控えめですから、見ていて気が付かなかった人もいたのでは。前日の立ち回りで足に怪我をした橋蔵さん、清左衛門が捕り方にひき立てられるところでは足を引きずって撮影に入っていたのです。 若手スターが沢山いる中でも「雪之丞変化」の二役を見事にこなせる俳優は大川橋蔵をおいてほかにはないといわれたのです。なのに、期待されたわりには、評判にならなかったのはどういう訳でしょう。上方の女形役者と江戸の侠盗のふたつをやりこなすのには、橋蔵さんの経歴と現在の魅力と人気はまさにうってつけだったといいます。橋蔵さんにとってもこの役は第二の長谷川一夫たらしめるかどうかという大事な作品だったのではと思います。それだけに、この映画は二部作、三部作で力をいれ、橋蔵さんの人気を爆発させる大作として作ってほしかったですね。土部の屋敷に盗みに入って庭の茂みに隠れている闇太郎に雪之丞が気が付くところがあります。しかし、雪之丞は何も・・・普通だったらおかしいと思いませんか?それに見ている私達も何ら不思議さを感じなかったと思います。それは、大川橋蔵の闇太郎がニヤリと笑ったからです。橋蔵さんの人並み以上に明るい少しばかりチャッカリしたあの笑い顔に魅せられてしまったからなのです。そこに橋蔵さんの独特な魅力があるといわれます。橋蔵さんは、本当は悲劇場面が一番苦手なのではと思えてきます。歌舞伎で培ったものが身についている橋蔵さんですから、仕草や身のこなしは流石といえます。が、舞台で演じる女形と、映画で女形役者を演じる違いで、劇中の踊りの橋蔵さんは、もっとたっぷりと見せてほしいと思うくらいなのに比べ、女形役者雪之丞になると首をかしげるところが・・・ともいわれました。この映画では、雪之丞を女形役者らしく演ずることに重点がおかれたのでしょう。しかし、女形役者に隠された雪太郎の気持ちも少し表すようにしてゆけば、橋蔵さんの持っている魅力が雪之丞という女形役者をより出てきたのではと思えるのです。そういう意味で、闇太郎の橋蔵さんが評価を受けたのでしょう。1時間半にまとめられたこの映画は、原作とはかなり違った内容になっています。ですから、雪之丞と闇太郎の絡みが少ないのです。1カ所しかありませんでした。全く関係のない二人が、ラストの雪之丞の仇討ちにむかってどのように絡み合っていったのか。一人二役の見どころ、ダブル・ロールのシーンはもっとあったほうがよかったのではと思います。淡島千景さんが病気になり撮影日数がなくなったり、前にも書いたようにシナリオの改訂などアクシデントがあり、ダブル・ロールシーンは時間がかかり、なくなったとも思われます。大川橋蔵の「雪之丞変化」を撮るからには、たっぷりと楽しめる大作としてほしかったですね。うってつけの作品に向かった橋蔵さんとしても、思い通りの映画がとれなかったとすると辛いものがあったでしょう。幼い頃、悪奉行や奸商のために父母を失った松浦屋の雪太郎が、女形に身を変えて苦節十余年、遂にその仇を討つというお馴染みの物語を、優艶颯爽橋蔵の二役で描く絢爛の復讐絵巻です。▲第57作品目 1959年12月25日封切 「雪之丞変化」 中村雪之丞 大川橋蔵闇太郎 大川橋蔵松浦清左衛門 大川橋蔵黒門町のお初 淡島千景お菊 千原しのぶ浪路 大川恵子浜川平之進 加賀邦男将軍家斉 阿部九州男広海屋与平 沢村宗之助鉄心和尚 徳大寺伸門倉平馬 戸上城太郎長崎屋三郎兵衛 吉田義夫稲葉山城守 高松錦之助松ヶ枝 松浦築枝中村座の頭領 水野浩ムク犬の吉 星十郎お芳 赤木春恵長次 時田一男安藤左近将監 若山富三郎土部三斎 進藤英太郎孤軒先生 黒川弥太郎中村菊之丞 十三代目片岡仁左衛門長崎の豪商であった松浦屋清左衛門は、密貿易の罪を着せられ処刑され、妻お菊も自害しました。ただ一人残された息子の雪太郎は、浪花の役者中村菊之丞に育てられ、上方歌舞伎の若手女形、中村雪之丞として人気者になりました。親の仇の土部三斎を討つ日を夢見ていた雪之丞は、土部三斎のいる江戸へ行くことになったのです。上方歌舞伎役者として名声を得た中村雪之丞の名は江戸まで届いていました。その江戸の中村座で興行することになり、その行列が江戸に入ってきています。その行列を横目で見ながら、黒門町のお初が群衆から外れたところにいる闇太郎にニコニコしながら話しかけています。お初 「中村雪之丞か、ねえ、役者なんてみんな年寄がこってりお化粧を塗たくっ て娘かなんかやるのかと思っていたら、あの雪之丞って女形、とっても若 くっていい顔してるよ。・・・ねえ、闇の兄い」闇太郎「お初姉さん、また浮気の虫が出るんじゃねえか」お初 「かもしんないねえ」闇太郎「あはは、名の通り、初好みのお初さんだからな」 お初 「だってえ、この間、米がないとワイワイ騒いでいた今日このごろ、上方か ら来る頓馬な一座だもの、あたいのような荒稼ぎをするもんが、贔屓にし てやらなきゃ」闇太郎「心配いらねえよ」お初 「どうして」 すると、闇太郎は真面目な顔になり闇太郎「米が食えねえのは、貧乏人だけよ。・・あの一座はなあ、米を食い飽きた 珍しもの食いの豪健のお偉方やお局、お女中お大名、それに旗本衆の慰み に、江戸の御用商人がご世事にお呼びなすったもんだ」お初「ちえっ、なんだあ」それを聞いてお初はあきれた顔をして行ってしまいます。 ここでの闇太郎とお初の二人の話から、上方の歌舞伎役者の雪之丞が江戸に招かれた理由が分かりました。 続きます。
2021年09月12日
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これで、無二斎が浮かばれんだよ道場では、無二斎が一蝶の持って来た小源太の着ていた衣装に着替えていました。うずくまっている一蝶に「これでいいか」と無二斎が聞きます。その姿を見て一蝶が頷き、「なろうことなら、生きていてもらいたい」と言うと、無二斎は一蝶の肩をかるく叩き、「それには及ばねえよ」といいます。 無二斎にいい残したいことは? と言うと、「そうだなあ」と少し考えて、照れくさそうに、無二斎「笑うなよ。・・・俺は、あのおむらに惚れてたんだい」 驚き見つめてる一蝶に「笑うねい」、といって立ち上がったとき、一蝶 「待て、無二斎」無二斎「何でい」一蝶 「・・・小源太殿、右の足に・・・怪我をしているんだ」無二斎「そうか」というと、大刀を一蝶に渡し、小刀で右足に傷をつけます。 目明しの文七が町方と長屋あらためにやってきました。おむらの部屋をあらため、奥の路地に向かおうとしたとき、小源太に化けた無二斎が現れます。無二斎は右足を引きずりながら、捕り方達と斬り合い、おむらの家の前に来たとき、おむらと三吉の「先生」と呼びかける声がします。 その声に、無二斎はゆっくりと振り向くと、おむらの「先生」とまた呼びかけに、無言の別れをするようにして先へ進んでいきます。 「先生だ」と外へ飛び出したおむらと三吉を、一蝶は必死に抱き止め、「違う、あれは伊那の小源太だ」といいます。多数の捕り方を相手に、無二斎は長屋から出来るだけ離れ、橋の上までやってきます。そして、追い詰められたところで振り上げてた刀をおろし、無二斎「汝ら、後日の語りぐさに、伊那の禅師小源太が、最後を見ろや」と叫ぶと自ら腹を斬り、川に飛び込みます。それを見ていた一蝶が目を覆うのを見て、「もしや・・」というおむらと三吉に「違う、違う」と言い聞かせるのです。 紀の国屋にやってきた一蝶は、小源太が死んだと思っているお品に、伊那の小源太は生きていると告げます。一方、小源太は文左衛門からいい聞かされます。文左衛門「失礼ながら、あなたは強く生きられればいいのです。それが島崎さんの 願いでもございましょ」お品と再会します。平氏は全滅、柳沢のさしがねで、父上も里人も一人残らず悲惨な最後を遂げたと聞き、小源太 「おのれ、柳沢め」と立ち上がろうとしたとき、一蝶 「待たれい、小源太殿・・・伊那の小源太は、・・死んでいます・・・・ 今あなたが血気に逸った行動をしたら、・・・無二斎が犬死になる」文左衛門も、そうだといい、小源太に教えるのです。柳沢がこの⒖日、伊那の小源太をうちとった喜びの祝宴を開くことを聞き小源太と一蝶は身を乗り出す。文左衛門も招かれたというのです。 15日当日、文左衛門が柳沢のために用意した阿波踊りの一行が踊りながら柳沢の屋敷に入って行きます。その中に、小源太、お品、おむらの顔があります。 赤い髪に赤い覆面をした能舞が始まりました。(音楽が何かが起りそうな気配を感じさせていきます)謡の声が響き渡っている中、屋敷外には一蝶と三吉が馬を用意して待機しています。舞っていた竜王の体がピタリと止まり、柳沢の方に向かって、「一つ・・・帝へ国土返上のこと」 酒宴の席が騒然となり、舞は続けられ、舞台の正面に位置した竜王が「一つ・・・綱吉謹慎蟄居のこと」何事か・・・市橋妥女が動き、柳沢も驚きの顔を見せています。竜王の舞はより激しさを増し続きます。「一つ・・・」というと、竜王がきざはしを一段下り、覆面をとると、・・・伊那の小源太とわかり、周りがざわつきだしました。小源太は続けます。 「柳沢美濃守吉保・・・」きざはしを下り、柳沢の方へ走り寄る小源太を家臣達が取り囲み、柳沢の「召し取れ」と叫ぶ声がすると、「馬鹿め」・・・小源太の隠し持った短刀が柳沢の胸に飛びます。 邸内は混乱状態に、家臣達は小源太めがけ大立廻りになります。おむらがお品をつれ、一蝶が待つところにやってきて、「先生、やった」、一蝶が「さあ、逃げろ」、小源太はまだ邸内で大立廻り、向かってきた市橋を斬り捨てると、家臣達を振り払いながら外へ向かっていきます。 おっ、一蝶殿、・・・」というと、「急がれい」という一蝶、「かたじけない」と小源太はいうと、お品と共に走り去って行きます。文左衛門も見送り、おむらと三吉が「先生」と一蝶に駆け寄ると、一蝶「よかったんだよ・・・・・これで・・・これで、無二斎が浮かばれんだよ」おむら「先生・・・」おむらは一蝶の胸に顔をうずめて泣き出してしまいます。 それから数日後、夜明けの伊那の山に向かって二人で進んでいく、小源太とお品の清々しい笑顔がありました。 (完)
2021年05月10日
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死なしてみるか・・夜更けに、小源太の足は柳沢吉保の屋敷向いていました。門前に来た小源太は、邸内から響いてきた三味の音に足が止まります。中の様子をうかがおうと、辺りを見廻した小源太が大胆にも塀を上ろうとしたとき、待っていたかのように呼子が鳴り響きます。 小源太が「しまった」というような顔をし塀から離れたところで、町方の捕り手が「御用だ」「御用だ」と小源太にかかっていき、「確かに伊那の小源太だ、逃がすな」柳沢家の家臣達も出てきて小源太を囲みます。 大人数相手に斬り合いになります。不意を突かれ右足を斬られ負傷した小源太には、今は追って来る捕り手達から逃げることしかできないのです。 この騒ぎは一蝶の長屋にまで聞こえてきていました。その様子から、一蝶は小源太のことが気になり「もしや」と思いながら中に入り襖を開けますと、右足の怪我の手当てをしている小源太の姿があり、ほっとして急いで小源太が来ていた着物を隠します。 長屋の辺りも町方が大勢、おむらと三吉は何事かと自分たちも危ないのではと家の中に入ります。無二斎は周りを気にしながら、家の外にいた一蝶を引っぱり自分の道場に連れて行きます。何も言わずどうしたらよいか困ったようにしている一蝶に、無二斎が声を押えて話しかけます。外からは呼子が聞こえています。無二斎「こらあ、一蝶、こうなったらお前ひとりで、あの男を隠しきれんぞ」一蝶 「何を言うんだ」と無二斎を突き放します。 無二斎は一蝶の胸倉をつかまえると無二斎「おぉい、まだとぼける気か」一蝶が無二斎から視線をはずします。 無二斎「確かに、あの伊那の小源太に・・・おう・・・(一蝶から離れ)・・・俺は 似ているぞ、ほーら」というと一蝶は無二斎を見て呟きます、「似てる」と。二人の間にしばらく沈黙が流れますが、二人はそれぞれに小源太のことが頭にあったのです。 無二斎「お前は、あの男を生かしておきたいんだろう」一蝶 「そうだ・・・生かしておきたいんだ」無二斎「そして、柳沢を斬らしたいんだろう」無二斎の言いたいことが分かり、一蝶は慌てて制止しますが、無二斎は一蝶の手を振り切り、無二斎「言うな」一蝶 「じゃ、お前は・・・」 無二斎「そうだ、死ぬんだ。・・・おめえと知り合って世を末てゆくぜ。・・ おい、・・・華奢に流れたこの浮世に、こともあろうに道場を開いている 馬鹿もいる」無二斎は一蝶の肩に手を廻し、続けます。無二斎「生きて帰れる命なら惜しみもするが、・・・今こそ死んで帰る俺と知った ら・・・」一蝶が「無二斎」と言い顔を見つめると、無二斎は体をかわし、そして一蝶の肩に手をかけ顔を覗きこむようにして、無二斎「おい一蝶、死なしてみるか・・・・・・ええ」と笑みを浮かべていいますが、一蝶は下を向いたまま何もいえません。 それを見た無二斎が顔色を変え、「何故止める」、と一蝶を責めると、一蝶が「やだ」と言ったので、「馬鹿め」と突き放し、呼子が鳴り響いている外の様子をうかがいます。 小源太を探して、役人達は無二斎達の長屋に近づいてきていました。息せき切って家に戻ってきた一蝶が、小源太が来ていた着物をまとめていると、「一蝶殿」と小源太が声をかけてきましたので、急いで襖を開けます。小源太「もしや、御身に迷惑がかかるのでは」一蝶 「いや、(荒い息をしながら)・・・ご存知であろう、あの島崎・・・いや何 でもない、何でもない。この家を出てはなりませんぞ、どんなことがあっ ても」といい、襖をしめてしまいます。 町が小源太の行方探しの騒動の中、お品は紀ノ国屋の店の前でお千代に会うことが出来ました。 続きます。
2021年04月30日
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無二斎とおむらが一蝶のことを話していた頃、一蝶の家では、小源太が用意をしてくれた着物に着替えていました。襖を開けて小源太が着替えた様子を見て、「それならば大丈夫」と言い、襖を閉めます。 一蝶が襖を閉めたところに、相当に酔った無二斎が突然やってきます。「何しに来たんだ」とにこやかな顔で向かえる一蝶に対し、無二斎「おい、おむらに聞いたぞ、何処の女を飼ってるんだ」一蝶 「女だ」無二斎は一蝶の止めるのをきかず上がり込んでしまいます。無二斎「おいおい・・・どうだ、いい娘か・・・俺にもおがませろ」無二斎は一蝶の止めるのをきかず上がり込んでいきます。 違うと無二斎をなだめ帰そうとしますが、無二斎「ひと目でもいいから、俺にもおがませろ」としつこいので一蝶は「ならん」と強い口調で言い、掴んでいた無二斎の腕を放すと、薄ら笑いをし「見てやる」といいながら一蝶を突き飛ばし、襖を開けた無二斎の表情が固まってしまいました。 一蝶が「無二斎」と発しますと、急いで襖を閉める無二斎・・・そして、ゆっくりと振り向き目の前にいる瓜二つの小源太を息をのんで見つめます。 小源太も驚き座り込んでしまい素性を告げようと、小源太「・・・儂は、平家の一族・・・」そこまで言ったところで、無二斎が「おっと・・・」その先は言わなくてもよいというように遮り、「えっ」というように無二斎の顔を見る小源太に、無二斎「言いなさんな」と、・・・・・小源太は深々と頭を下げます。 まだ体が固まった状態で部屋から出た無二斎は、灯りを消し座り込んでいる一蝶に「邪魔したな」と声をかけると、一蝶の肩を抱き無二斎「流石は一蝶・・・見直したぞ・・・(無二斎の顔を見る一蝶に)・・・二百 両・・・」と笑いを浮かべ、「分かったか」と言い残し出て行きます。 外には、酔ったおむらが無二斎を待っていました。無二斎は倒れ込むようにおむらの傍に座ります。無二斎「いたよ」おむら「いたでしょ」べろべろに酔いふらついている二人は地面に座り込み、話をしています。おむら「どんな子・・・いい子」無二斎「いい奴だった」おむらが、あたしとどっちがいい、と聞いてきたので、無二斎は「そりゃあ、あっちの方が・・・」と何気なく答えてしまい、焦れるおむらに、無二斎「馬鹿だなあ、ありゃ、一蝶の好きな奴だよ、おおい、だからな、そーっと しといてやろう」おむら「うん」無二斎「誰にも喋るな」おむら「うん」無二斎「しばらく一蝶のうちにも、へいるな」おむら「うん」無二斎は「よーし」とおむらを立たせると「お前はいい子だ」と言い、肩を貸し二人はふらつきながら帰って行きます。 続きます。
2021年04月20日
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あたいに惚れてんのね一蝶は紀の国屋文左衛門に絵を売った百両と着物を小源太の前に置きます。悪くとっては困る、小源太の相場が倍になった、ということは危険もますということ・・。ここにいる分には大丈夫だが、隠れるばかりが小源太の意思ではないと思う・・という一蝶に、小源太「重ね重ねの御厚志、小源太終生忘却仕りませぬ」小源太はぴたりと手をついて頭を下げます。 小源太のいる部屋を出て一蝶は今の自分の気持ちを話します。一蝶 「これも縁というやつだが、考えてみると妙なもんですな・・世を拗ねた英 一蝶が、あの晩あなたを助けて以来、生きていることが面白くなりました よ・・・あなたのために命を落とすようなことがあっても、不平は言いま せん」このとき一蝶の家の前に来たおむらは、家の中から聞こえてきた一蝶の言葉に聞き耳をたてていました。そして、入口の戸が開きおむらが入ってきたので一蝶が驚きます。おむらが一人かと聞いてきますと、一蝶は「一人だよ」と答えます。すると「今誰かと喋ってたじゃない」と聞いてきたので、一蝶は無二斎はおむらに惚れている・・・と話題を変えます。おむらはうれしそうに無二斎の道場に行くと、無二斎が一人盃の酒を飲みほしていて、そうとう酔いがまわっているようです。「先生」とおむらが・・・「ううん、なんだ」無二斎がいいます。 今日は上ってもいいんでしょ、というおむらに、「ならん」と無二斎が怒鳴りつけるが、おむら「もう、上がっちゃったんですよ」無二斎は笑うと、無二斎「男女七歳にして・・・ふん」というと酒を飲みます。 「先生があたいに用事があるって、絵描きの先生にいったんでしょ」というおむらに「また、騙されたな」と無二斎は苦笑します。 おむらは、うそうそと言い無二斎の方に寄って行き、おむら「先生は、どうしてあたしのこと好きだって、ご自分の口から言えないのよ お」と拗ねてみせるおむらに、無二斎「何を言うか・・・デコスケ」 おむらは笑って「分かるわ」と言うと、おむら「すげなくすればするほど、女が好きになっていくってこと、よーく知って るんでしょう」無二斎「俺は、それほど色男とは思っておらん」おむら「いい男よ」無二斎「おだてるない」おむらは無二斎の傍により、おむら「先生、あたいが、嫌いなの」無二斎の顔を覗きこみます。無二斎「うーん・・・・好きだ」おむら「じゃあ、やっぱり、あたいに惚れてんのね」無二斎「あわてるない、デコスケ。・・・・好きと惚れたは、ちっとばかり訳が 違う」と言いながら立ち上がると、おむらに向かって「帰れ」と言いますが、おむらは「帰らない」と言い、盃に徳利から酒を注いでいます。無二斎が「こら、・・こらこら、飲んだら・・・・」止めましたが、おむらは「飲んじゃったあ」と満足げに言います。 夜になりました。道場ではまだ無二斎とおむらが酔いしれていました。おむらは、決して損はさせないから、惚れたって言ってと、無二斎に頼んでいます。おむらが言うことに怒るぞと、殴るぞと言うと、おむらはやさしく叩いてというので、無二斎が「よーし」と近寄ると、「ちょっと待って」と、そして、おむら「ねえ、抱いて。一蝶先生だって、身投げ女かなんか拾ってきて、奥の部屋 にかくまってんのよ」無二斎「なに、うそいえ」おむら「ほんとうよ、あんな馬みたいな顔をして、惚れた、ああ長生きがしてみた い、お前のためなら死んでもみたい、なんて言ってんのよ」それを聞いて、「馬鹿な」と言ったものの、無二斎は真顔になり刀を引き寄せ、おむらに無二斎「おい、俺に嘘は言わねえな」おむら「言わない」無二斎「うーん、一蝶に女がいるか」と考え込みます。無二斎は、何かを考えたような顔をしていました。 続きます。
2021年04月13日
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俺で百両になるんだぞおむらから小遣いをもらった無二斎が笑いながらやって来たのは、同じ長屋に住む英一蝶の家でした。「おい、一蝶居るか」というと、返事がないが入ります。すると、絵を描いているのを見て、無二斎「なーんだ、・・・ほおう、こりゃ珍しいことがあるもんだ」声をかけられた一蝶はニコリともせず「なんだ」無二斎「きさまが絵を描いているからよ」一蝶 「英一蝶は絵を描くのが商売」無二斎「へっ、・・それと分かっているなら、貧乏せずに済むものを・・・はっはっは」一蝶がこんな時世に町道場をやっているひねくれ者の無二斎よりはというと、無二斎は、お互いに馬鹿な気性と知りながらの貧乏といいます。 そして思い出した・・・懐にしまっておいた人相書きを取り出し、無二斎「ところで、おい、これは俺に似てるかい」人相書きを一蝶の方に投げますと、一蝶は手に取り、ちらっと無二斎の方に目をやると、一蝶 「誰だ、これ」という言葉が返ってきたので、無二斎はびっくりした様子で無二斎「知らんのか」一蝶 「知らん」一蝶の返事には少し間がありました。 一蝶が知らないと聞いて、「馬鹿だなあこいつ・・・」と言い、立ち上がり話を続けます。無二斎「そやつだよ、単身江戸城に斬り込んだ伊那の小源太という面白い男だ。 柳沢め早速立札をたてて賞をかけているんだが、金だしゃ何でも出来る と思ってやがる」一蝶 「似ているようでもあり、違うようでもある」まじまじと人相書きを見ながらいう一蝶に、無二斎「おいおい、本当に似てるなら・・・俺で百両になるんだぞ」 無二斎は一蝶の顔をじっと見ていましたが・・・無二斎「ふーん、似ておらんか」がっかりした無二斎でしたが、懐に手を入れると金子を手に持ち、無二斎「おむらに貢がれて、金を持っているんだ。後で飲みに来い」といって出て行きました。 無二斎が出て行った後、一蝶は奥の部屋の襖を開け、無二斎が置いていった人相書きを投げ入れると襖を閉めました。奥の部屋には伊那の小源太がかくまわれていたのです。襖を隔て一蝶が小源太に「聞かれたかな」と話しかけます。一蝶 「今出て行ったのは、手前の友人島崎無二斎、いい男です」絵を描く手を動かしながら続けます。このあたりまでこのような貼り紙をされるようでは、探索も相当厳しいらしい、ご家来衆の最後を思えばじっとしていられないでしょうが、辛抱なさることです、と一蝶がいうことを聞いている小源太です。 小源太に対しての報奨金が倍額になります。一蝶の絵を百両なら安いものと、紀の国屋文左衛門は出してくれます。頭を下げる一蝶に、「何か事情がありそうだ」という文左衛門。一蝶は「後日また、とんでもないお願いを持ち込むかもしれない」と。その頃、焼き払われた平家村から逃れたお品の姿が江戸にありました。 続きます。
2021年04月05日
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高札を見てニャッと笑う江戸城お堀から逃げた小源太を執拗に追いかける高札が江戸市中に立てられました。伊那の小源太を捕えた者には百両、居場所を教えてくれた者には五十両を出す、という内容のものでした。高札を見ながら「たまにはこういう人がでないと・・・」と小源太をほめている三吉や辰のところに、町道場を営んでいる島崎無二斎がやってきます。高札を見てニャッと笑うと、三吉達に「そういうことはあまり、人前でしゃべらんことだ、ばかみるぞ」という無二斎。三吉や辰が無二斎が高札の小源太にそっくりだと騒ぐと、「馬鹿・・・笑わすんな」といい高札に貼ってある紙を読み剥ぎ取り丸めて懐に入れ、三吉を連れて場を立ち去ります。 三吉が小源太は捕まらないですよねと言うと、「そうしてもらいたいな」と言いながら長屋に戻って来た無二斎に、三吉の姉おむらが声をかけますと、無二斎「おむら、・・どうだな商売は・・・」という無二斎に、「まあまあってとこなの」と答えると、「ちょっと待ってね」と言い、場を離れ金子を包んでいるおむらを無二斎が見ています。 おむらが無二斎に駆け寄りおむら「はい先生、お小遣い」と差し出すと、無二斎はしかめっ面をして無二斎「この、でこすけ」と言ってきたので、おむらが「なにさ」というと無二斎「なにさもこらさもあるか、・・・うう・・ん、痩せても枯れても島崎無二 斎、巾着切りの姉さんからお仕着せを頂戴したとあっちゃ、世間体がよく ない。なあ三吉」と三吉に振ります。すると、三吉が「そうよ、こんな金は俺みたいのにくれるもんだよ」とおむらの手から取り「あばよ」と走って行こうとしたから大変です。 無二斎は「こらぁ」と一喝し、三吉から金子を取り返します。それを見ていたおむらが、今日はやけに気取るじゃないのと、おむら「いつか先生は、こんなご時世だから、ムダ金使うやつの懐ならこっそり盗 んで俺に貸せ、用心棒は俺が引きうけたって言ったでしょう」無二斎「あぁ、言った」「だからあたしが・・・」と言うおむらに、無二斎は無二斎「わかった・・・では、もらっておくぞ。・・・また・・頼む」ころっと態度を変えるのです。 続きます。
2021年03月28日
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愚かなりしや・・伊那の小源太その夜のこと、これから小源太達に思いもよらぬ出来事が起こります。柳沢が差し向けた刺客達が離れにいる小源太達を襲撃したのです。七兵衛が小源太に「謀られた」と告げると、小源太は長刀を持ち、奥の部屋からゆっくりと出てきて、小源太「愚かなりしや・・伊那の小源太。・・・七兵衛、・・・」七兵衛「何ほどのことやあらん・・・御曹司、いざ参らん」小源太「うぉーっ」そう声を出すや、多勢を相手に長刀での応戦となります。(ここでの長い立廻りは長袴での惚れ惚れする、そして最初に息を飲む立廻りとなります) 小源太は庭の方に出て行き、長袴でうまく刺客達と応戦していきますが、お供でついて来た者達は倒れていき、残るは七兵衛一人だけになってしまいます。斬っていきますが相手は多勢、小源太の髪も乱れ、だんだん追い詰められていきます。 小源太を守ろうとかけよって来た七兵衛が槍で突かれ負傷してしまいました。傷を負った七兵衛をかかえ小源太は、小源太「伊那平氏の名を汚さず、共に死のうぞ」という小源太に、七兵衛は再起を計るように言い小源太から離れ、「ここは七兵衛が守る」と。しかし、七兵衛も力尽き倒れてしまい、小源太は「七兵衛・・許せ」と詫び、角櫓の中へ入って行きます。 小源太は防戦しますが、槍で突かれてしまいます。それでも力を振り絞って抗戦し角櫓の階段を上りつめたところで、長刀を投げ捨てると角櫓の狭間をくぐり屋根に出て「馬鹿め」と言い残し堀の中に身を投じました。 その頃、伊那の平家村は柳沢のいったように襲撃され、山彦は奪われてしまうのです。 続きます。
2021年03月18日
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以上四ヵ条、返答やいかに家臣達が揃う江戸城大広間。将軍綱吉が、柳沢に「どのような男であろうな」と問いかけると、面白い一幕が見られるかも知れないと、「御勅文を所持していると聞いておりまするので」・・・そのとき「伊那の小源太様、おいり~」の声が響き、襖が開けられました。黄金の束帯に烏帽子姿の小源太とお付きの七兵衛が現れます。小源太はゆっくりと堂々と将軍綱吉の方に近づいていきます。 すると、家臣が「それへ」と座を指しますが、小源太が前へ進もうとしますので、「待たれ」と袖を掴み止めようとします。しかし、小源太は両袖を掴まれているのを振り切り、七兵衛が家臣達に向け「無礼者」と、小源太は綱吉の方に柳沢の前を通り近づこうとします。 その様に驚いた柳沢は「下がれ、さがれ、下がりおろう!と小源太を諌めますが、小源太は柳沢のいうことは聞かず、綱吉に近づこうとしたとき、綱吉が「下郎、下がれ」と発します。 すると小源太は、長袴の裾を押えている柳沢の手を振り切り、綱吉を睨むと、小源太「下がれとは誰に」綱吉 「そちじゃ」綱吉に笑みを浮かべたと思ったら、その形相を変え、小源太「だまりおろう」 と一喝し、綱吉の前に二、三歩進むと小源太「儂は伊那の禅師平の小源太、胸に誇示し奉るは、先祖のとありし勅文なる ぞ」ざわつく家臣たちに「静まれ」と柳沢がいうと、小源太は家臣達の方へ行きながら、小源太「たとえ将軍たりとも、百万の神に座を占むるは非礼なり。・・(向きを変 え進みながら)・・将軍綱吉、汝こそ速やかに座をさがれ」その言葉に綱吉は「なに」と刀をかまえますが、柳沢の「上様、何卒お下がりくださいませ」の言葉に退席します。 綱吉が退席した後、小源太が上座に上がりますと、柳沢吉保は「先ほどよりの無礼、平にお許しください」と小源太に頭を下げ、用向きは何かと聞きます。すでに伝えてあるはず、という七兵衛に、柳沢は知って入るがどのように処置すればよいか承りたい、といってきます。小源太は「さらば聞け」といい、家臣達の方に向かって言い始めます。小源太「一つ、帝へ国土返上の事、一つ、綱吉、謹慎蟄居のこと」家臣達が騒然となり、柳沢が制します。 小源太「一つ、虚空蔵山一体は伊那平氏の領地たる事、更に一つ、柳沢美濃守 吉保、罷免隠居の事」 小源太「そのあかつきには、十寸見源四郎の婿、かく申す小源太が用があるわ」柳沢「ははあ」と頭を下げます。 ひれ伏した柳沢吉保を見た小源太は家臣達の方に向かって、小源太「以上四ヵ条、返答やいかに」と問い、家臣一同が頭を下げたのを確認すると、柳沢に・・・柳沢は「委細承知つかまつった」といい、念のため御勅文を見せてほしいといってきます。小源太は承知します。 続きます。
2021年03月09日
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江戸に入る翌日、市橋、藍田、飯田藩の家臣達が人身御供の輿が残されていた神社に来ました。 境内に落ちていた小源太の衣装の一部を発見し持ち帰り衣装飾りを検分します。山奥に平家の落人の里があり成敗しに行った事があるが、失敗に終わったと書かれてあることを聞いた堀鶴之丞は、父堀美作守に、農民の娘を犠牲にしたなどと世間に知れわたったら堀家6万石の浮沈に関わると進言、自ら参ると言います。平家村に、堀鶴之丞らの軍勢がやってきましたが、待ち構えていた平家村の兵士に襲撃され、堀鶴之丞ら数名は捕虜として館に連れて行かれます。虚空蔵山の地に兵をあげる不届き者、打ち首に致す、と宗経がいうと、ここは堀美作守の領地でござる!と捕虜になった村上が言ってきます。ならば帝の御勅文があろう、との問いに、そのようなものはないが、将軍家のお墨付きならりっぱに・・・と言ったところで、「黙れ、下郎」と小源太の声が飛びます。そして、宗経に、こうなったら将軍綱吉に直々に話をつけようと思う、と言います。その言葉にお品が立ち上がると、宗経 「うーん、じゃが、将軍が聞かざるときは」小源太は一瞬ためらい、お品の方を見ると、小源太「なるならぬは天にござる」そう言うと、捕虜になった堀家の家臣に、「直ちに将軍への橋渡しをいたせ」と命じます。 堀鶴之丞の命にかかわることと市橋と藍田もいたし方ない江戸の柳沢吉保に急ぎ使者を立てます。柳沢吉保の屋敷に堀家からの使者が着きました。元暦依頼世の中を知らぬ山男を見るのもまた一聴、将軍も喜ぶであろう、はいれつの儀を取り計らうが、若者が出立したあとに山彦を手に入れ、その一族の根を必ず絶つことを言い渡します。江戸へ出立する小源太達が宗経に別れの挨拶をしています。宗経 「心して行け、小源太」小源太「父君も、ご壮健にて・・」宗経 「さあ、行け」小源太「はっ、・・・さらば」小源太が「参ろうぞ」と声をかけ同行の者達が立ち上がったとき、「小源太様」と声がして、かけよってきたのはお品です。 「行ってはなりません」・・小源太が江戸へ行かれたら、無事に片付く道理はない・・恋山彦を差し出し・・柳沢が欲しいのは虚空蔵山の地ではなくこの山彦だといいますと、 小源太「山彦は御身の命であろう」お品 「・・・いいえ、今の品には、あなた様が・・」その言葉を聞いて、小源太の心が少し乱れますが、小源太「ゆうな、・・・・・儂は、伊那平氏の子孫のために参るのじゃ。・・・ 留め立ては許さん」 悲しむお品に言い聞かすのです。小源太「この後に及んでは、御身の幸せを望むのみじゃ。・・・ここを去るもよ し、居るもよし・・・さらばじゃ」 と言い立ち上がった小源太に、お品は「待っています、いつまでもご無事のお帰りを祈っております」と。 江戸に入り、飯田藩江戸屋敷に落ち着いた小源太達。「お品殿から話は聞いていたがこれほどとは思われなかった」と江戸という町に驚いています。 続きます。
2021年02月28日
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江戸とやらへ行きたい御曹司の目に憂いを感じたなどと男女が噂しながらも、「今夜は目出たい、今宵は深い契りを結ばれませ」と七兵衛等は大声で叫び帰って行きます。その初夜を迎え2人きりになった小源太とお品の様子は・・・お品は寝所にきちんと座り、小源太は寝所の外の廊下から部屋に入り、御簾を静かに降ろし、お品の方を向き「姫」と声をかけ、寝所に入りながら、 「あの三味線は、天下の名器と申されたが・・」という小源太に、お品は「偽りは申しません」と返答します。小源太「さもあろう…、あの妙なる音色が、不思議やこの小源太の血をたぎらした ぞ」と言うと、お品は江戸の汚れた話などして申し訳ないと詫びます。 そう言い泣くお品を見て、小源太はやさしく打掛をかけます。小源太はその名器になりたいというのです。 小源太「が、その名器とて山の果てにあっては、数少なき里人たちのたまさかの慰 み物でしかならぬものになる。・・・よって、この小源太も時いたらば、 必ず汚れある世を打ち払い、平氏一族の後の世の誇りある者になりたいの じゃ」お品はびっくりします。 小源太は自分の気持ちを続けます。小源太「儂は、江戸とやらへ行きたい」それを聞いたお品は、「いけない」と止めますが、小源太「わが心自ら許さねば、それはいつまでもわが心苦悩となるのみじゃ」と言い、そばに座った小源太に、「はしたない女とお笑いくださいませ」とお品がしなだれかかります。 何もかも忘れ、山で清水を口移しにくださった、あの優しい笑顔の、馬の背にしっかりと抱いてくださった・・・あのときの・・そして、そして・・というお品を・・・小源太は抱くのです・・・。 続きます。
2021年02月18日
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我が朝敵は江戸にあり伊那の平家村の人々は、小源太が嫁御寮を連れて帰って来たと喜びに歓声をあげ出迎えます。鐘巻七兵衛は、お品の顔を見て「庄屋の娘ではない」と・・・深瀬大全と矢走右近太郎もびっくり、 七兵衛にどうしたことかと聞かれた小源太は、笑うと「その姫を館へ連れてまいれ」と言い、馬を走らせ行ってしまいます。 館には村人たちが集まり、伊那禅司宗経が小源太と共にやってきます。「姫、表を上げい」といわれお品が顔を上げると、宗経は小源太に、違う女と知って何故連れて戻った、との問いかけは小源太は、小源太「儂の嫁に所望でござる」と答えるのをみて、村人たちが小源太を興味深そうにしていますが、宗経は小源太に宗経 「そちは、伊那平氏の嫡男であるぞ。かってなふるまいは許さんぞ」といったので、小源太は何も言えず、村人たちもがっかりします。その様子を見ていた宗経は人々に「今宵はせめてかりそめの祝いをしようぞ」と言います。お品に湯浴みをさせるよう女たちに命じます。お品は三味線を大切そうに抱き小源太の顔を見ると、小源太は神妙な顔を見せるのです。お品は湯につかり小源太との出会いをうれしそうに思い出していると、館の方から祝いの音曲が聞こえてきます。祝宴の場には皆が揃い盛り上がっています。女人たちの舞が終わったところで、宗経が「御身は今日よりこの村の住人なるぞ。よって申し聞かすことがある。我らは伊那平氏の末裔なるぞ」とお品に話します。 そして、続けます。ご先祖伊那宗則が壇ノ浦の戦いに破れこの地に戻って以来幾百年、下界との交わりを絶ち、世俗を離れにこやかに暮らして来たが、同族相契り合うようになったため、いつの頃よりか麓の村の女性を奪い若者たちの嫁とする習わしが生まれたのだ、と 。「それが人身御供」とお品がいうと、宗経は「そうじゃ」といい、謎が解ければ、もはや恐れることもないだろう、早く村になじむことだ、とお品に優しく接します。それに対し、お品は、行きどころもない私、お許しくださいますなら…と言います。お品のその言葉を聞いて、小源太も側近も村のみんなの表情が安堵で和らいだようです。 七兵衛がニヤッとして「御曹司」と声をかけると、皆がやんやとはやし立てるので、小源太はいたたまれず立ち上がり、お品の方に進み声をかけます。 小源太「姫よ、御身も何かたしなみあらば、披露せられ」お品 「はい、あたくしは三味線を弾くよりほかに・・」小源太「三味線?」お品が「はい」と言うと、小源太は首を小さく縦に振り、小源太「所望じゃ」 お品は三味線を弾いているうち、さめざめと泣いていることに小源太や近くにいた者たちは気付くのです。 そして、とうとう耐え切れずお品が三味線を弾くのを止め泣き出すと、すぐさま小源太は立ち上がり、小源太「姫、なにゆえに泣く」 小源太はお品の近くに行きこう問いかけるのです。小源太「姫はこの小源太を、嫌うて泣くのか?」お品は「いいえ」と首を振り泣いているので、小源太が「ならばなぜ泣く」と詰め寄っていったとき、宗経が身代わりになったのであるからよほどのことが、お品に語って心が癒えるなら委細を話しなさい、と言います。 お品が語った内容は次のようなことです。伊那から盗難65里の江戸では五代将軍徳川綱吉がまだ幼いため、柳沢吉保がとりしきっている。柳沢は芸事が好きなことから、各地から芸人を下屋敷に呼んでいて、お品と父も招かれそのとき弾いた三味線がこの「山彦」とよばれている名器で家法でした。吉保の愛妾おさめの方が名器「山彦」を欲しがり、百両、二百両と積まれても断わったために、部下の市橋妥女と藍田橋助にお品の父源四郎を殺害し山彦を奪え、と命じたのです。 身の危険を感じ江戸を出ようとしましたとき市橋と藍田に見つかり、源四郎は斬られ、お品は中仙道を逃げてきたが執拗に追ってきていました。そんなとき、伊那の庄屋の娘に白羽の矢が刺さり、人身御供の話を聞いて、どうせ人手にかかる命ならと身代わりになったのだというのです。 話を終り泣き崩れるお品を見て、小源太が「許せん、下郎め」と憤慨していると、七兵衛や右近太郎達が、今宵直ちに飯田城に乗り込み柳沢の刺客を斬ろうと奮立ちますが、小源太は「待て」と止めます。小源太「たかが二人の刺客など討ち取ったとて、この姫の心慰めまいらすことなら」 「父君」と言うと、小源太は宗経の前に行き、「我が先祖が元暦元年以来、御勅文を拝してこの虚空蔵山に領してより、代々眠れる獅子のごとく、・・・いまや我等の身の安泰だけを願っているのではなく、今こそ朝敵を滅ぼせよと、祖先の御状により、我らが戦うべきは徳川でござる。斬り捨てるは、その政権を欲しいままにいたす柳沢でござる。・・・よって、我が朝敵は江戸にあり」小源太の発言に「江戸へ、いざ参らん」と七兵衛らが同意をし、小源太は皆に「うれしいぞ」と言い、父宗経に「父君・・・父君」と声をかけます。 宗経から発せられた言葉、「早やまるでない」に、小源太ほか一同頭を下げます。 宗経は、小源太の言ったことには返事をせず、一門の里人に、お品を嫡男小源太の嫁後と決めたのです。うれしいはずの小源太の表情は沈んでいました。 続きます。
2021年02月13日
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「お母さま・・」悪路王率いる反乱軍が胆沢城めがけ進んで来ています。その胆沢城では、武麿の言う油水を掘り出す作業がすすめられています。 反乱軍が攻めてきました。照日の王子、武麿がまだ出ないかとヤキモキしていると「出たー」という声と共に、油水が吹き出します。その油水を城外の反乱軍の方に向け矢を放つと火の海になります。しかし、守っていた城門が破られ赤鷲らが城内に入り込んできました。が、火を点けた荷車の勢いに、城外へ逃げます。照日の王子たちと武麿は馬で追いかけて斬り合い、また城内に戻ってきます。 城壁に上って武麿が放った矢が悪路王の胸を打ちます。武麿「小田の武麿、只今反軍の将、悪路王を討ち取ったー」と雄叫びをあげると、照日の王子も「よくやった」と、皆も喜ぶのでした。 その隙を狙って、赤鷲が刀を振りかざし照日の王子に向かってきます。上から見ていた武麿は下におりると赤鷲に「一騎打ちだ」と剣を抜き、赤鷲は武麿に「命はもらった」と、ここから二人の壮絶な戦いが始まります。剣をはじかれた赤鷲が斧で武麿の剣は折られ、素手で戦います。 赤鷲が下に落ちたところで民衆の助けもあり、武麿も剣を持つことが出来ます。赤鷲は見張りようの櫓を登っていきます。 赤鷲のふり回す斧が武麿を追い詰めていきます。 二人とも武器はなくなり、取っ組み合いになり、武麿は首を絞められ苦しく不利な状態になりますが、武麿の左手は、赤鷲の差している小刀に伸びていました。「ウワッ―」と言う声がしたかと思うと、赤鷲は真っ逆さまに地面に落ちたのです。 狭霧と結婚した武麿は都に帰り、今日は晴れの日です。「今日の晴れ姿を一目お母様に・・」という狭霧に武麿「お母さまは、二人の胸できっと見ていてくれますよ」 「よくやってくれた。そなたの抜群の働きで、田村麿将軍も無事胆沢の砦に入場、残敵を討ち滅ぼして陸奥の国を全く平定することが出来たぞ」と右大臣神王から言葉があり、武麿と狭霧に公より昇殿をさし許され、それぞれ御衣一重ねを許されます。 武麿「お母さま・・」 天を仰ぎ、武麿は晴れ晴れとした表情で母に報告するのです。 (橋蔵さまの冠位束帯、とてもいい感じ、似合いますね。朝廷ものの作品沢山見たかったですね) (完)
2020年06月12日
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秘策がございます武麿は、縛られ拷問にかけられています。出陣の時刻になり悪路王は赤鷲に武麿の処刑を急ぐよう言います。火で焼いた灼熱の剣を持った赤鷲が、武麿に近づきます。その時「あたしがやる」と夜叉姫が叫び、赤鷲から灼熱の剣を奪い取ると夜叉姫は「めくらにして、生きながらの廃人にしてやる」と叫び・・・覚悟を決めた武麿の目に夜叉姫の持った剣があてられます。雄叫びをあげ悪路王一味は出陣していきます。気を失った武麿は高台から下に投げ捨てられます。そこへ運よく通りかかった柿丸と柿丸に助けられ手当てを受けます。 武麿「胆沢城へ、一刻も早く胆沢城へ」 と、傷ついた目で、急ぐのです。 赤鷲は、武麿から奪った手形を持ち、朝廷の密使になりすまし胆沢城に乗り込み、 照日の王子に会見し、使者として疑われずうまくいきます。その夜は、ろう城をしていた憂さをはらすようにと、夜叉姫の妖艶な踊りとお酒がふるまわれます。その頃、武麿達は馬を飛ばし、胆沢城へ急ぎ向かっていました。 皆が酔いつぶれたのを見計らって密かに城門を開け、悪路王の軍勢が入れるようにしたとのろしが上がります。そのとき、武麿は胆沢城の城門まで来ていて、すきを見て場内に入り、「門を閉めろ、敵中でございますぞ」と叫び、 武麿「こやつは悪路王の配下出羽の赤鷲、・・朝廷の密使、小田の武麿は私でござ います」 と名のります。 赤鷲「めくらの分際で何をでたらめ」 武麿「あっはっはっは、出羽の赤鷲、目は見える」 巻いていた包帯をとります。 驚いた顔の赤鷲に、 武麿「夜叉姫は、灼熱の剣をまともに押し付けなかった、しかも、貴様の手にかけ 殺された母の最期は、私のこの目に、この両眼に泪をほとばしらした。・・ この二つが、からくも失明を防いでくれたんだぞ」 その間、夜叉姫をじっと睨み、武麿の言うことを聞いていた赤鷲は、逃げようとした裏切者夜叉姫に止めを刺します。斬り合いになりますが、赤鷲は一旦胆沢城から退散するのです。 夜叉姫のところへ駆け寄る武麿と狭霧、武麿は夜叉姫を抱きあげると夜叉姫は目をあき、武麿にこういうのです。 夜叉姫「一人で死ぬのは恐い、手を・・」 武麿「こうか・・」 と言い夜叉姫の手を握ると、「どうしても、あたし達仲間になれなかったね」と言ってきたのに対し、 武麿「何を言う、仲間にならなければいけないのだ。同じ人間同士だ、血を流し合 うということはないのだぞ」 その時、「体が冷たくなってくる、・・しっかり抱いて」という夜叉姫の言葉に、武麿は狭霧の方を見ます。狭霧が首を縦に振るのを見て、武麿は夜叉姫を抱きます。抱かれた夜叉路姫は「ありがとう」と言いこと切れました。 赤鷲は悪路王のもとへ急いでいました。 武麿は髪の中に隠し持っていた朝廷帝からの書状を照日の王子に渡し、坂上田村麿将軍の援軍は必ず来るので安心するようにいうのです。 しかし、側にいた家臣から、それまであの大軍を相手にどうのようにして砦を守るのだといわれた武麿は、武麿「それにつきまして、私、亡き父より授けられた秘策がございます」と照日の王子に答えるのです。武麿「当城内には、燃える油水を吹き出す古井戸があります。これさえ探しあて れば、百万の味方を得たも同然」 控えて聞いていた老人が、その井戸のことを知っているようなことを言ったので、照日の王子が「道玄、そちは知っているのか」と言ったとき、道玄というのを聞いた狭霧は、「もしや、吉備の道玄」とその老人に訪ねます。 老人がじっと見つめていると、狭霧が「お父様」と。探していた父と会えたのです。 続きます。
2020年06月05日
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お母様、使命のためです 場所は、常陸の国府中の町に移ります。 赤鷲と夜叉姫の一味が、狭霧をおとりにして武麿をおびき寄せようと考えています。それに対し、夜叉姫は卑怯な真似をするとは、と言いますが、命を助けてもらった恩義は恩義だと言って赤鷲はとりあいません。 能登の荒弓が密使の件ですでに一つの手を打っているといいます。それは、この府中の避難民の中にいる武麿の母柴木に人知れず監視をつけていたのです。ある日のこと、物を売って町にいる武麿の母柴木は人ごみの中に、武麿の姿を見つけます。武麿は無事で、母のいる府中の町にやって来ていたのです。武麿は身なりを変え、人目を避けるように歩いていました。 母柴木は思わず「武麿」と叫びます。その声の方を見て武麿は慌てて人ごみの中を逃げていきます。 母柴木は武麿を必死に追いかけます。その声に柴木を監視していた者達が動きます。武麿に追いついた母柴木に武麿 「いや、人違いでしょう・・」柴木 「何を言うの、私だよ・・お母さんだよ・・」白を切りとうそうとしましたが、武麿は「お母さん」と言ってしまい、はっとして、「人違いだ・・」母を振りきって大通りに出たところで、監視の者達に見つかってしまいます。 母は監視の者達に捉えられ「武麿」と叫んでしまい、「確かに、今のは武麿だ」と確信します。母の悲痛な叫びにも武麿は大切な使命のため、涙をのんでその場を逃げていきます。「柴木は、その様子から「お許しください、私が見違えたのでございます、人違いでございます」というが今となってはどうにもならない・・。赤鷲もやって来て、武麿を何処にやったと柴木を攻め立てます。その母の攻め立てられる声を聞きながら、空井戸に身を隠していた武麿は、 武麿 「お母様、使命のためです・・許してください」 じっと我慢をするのです。柴木が連れて来られたところに狭霧もいました。 子供が馬で飼料を運んで、反乱軍の幕舎に入ってきます。呼び止められ飼料の枯れ草に剣を指し調べられたが、通ることを許されます。その荷車は、反乱軍の幕舎を通り過ぎたところで止まると、「おじさん、もう大丈夫だよ」と声をかけられ出てきたのは、武麿です。子供は一人ぼっちで、何でもするから、武麿と一緒に連れて行ってくれというのです。 無事逃げおおせたかと思った二人が乗った荷馬車を、反乱軍一味が待ち伏せています。そこを突破しようとしましたが、一本の矢が武麿の背中に突き刺さり、武麿は荷馬車から落ち、武麿は捕まり、通行手形は悪路王の手元に届けられました。 悪路王が胆沢城を如何に攻めるかを話しているところへ、赤鷲達がやって来ます。悪路王が坂の上田村麿の軍略はどういうものか、東軍は直ちに平安京を攻めるべきか、胆沢城を攻めるべきか聞きますと、赤鷲は「勿論、胆沢城が先」と答えます。その時、夜叉姫が通行手形を見て、赤鷲に武麿のものだと告げます。牢に入れられている武麿のところへ夜叉姫が赤鷲に内緒でやって来ます。武麿が夜叉姫の方に顔を向けます。夜叉姫「ねえ、おまえさ、何を照日の皇子へ伝えるのか知らないけど、思い切って あたし達にぶちまけておしまいよ。そしたらあたし、悪路王様にとりなし て、必ずお前さんを一本の旗頭にしてみせるよ」武麿 「断る」夜叉姫「強情だね、明日はもうお前さんの命はないんだよ」武麿 「用はそれだけか・・早く帰ってくれ、ううっー」傷の痛さに苦しむ武麿を見て、牢の外にいた夜叉姫が鑰をあけて、「助かりたくないのかい」と言い、夜叉姫「鈴鹿山のお返しだよ。あたしは借りは必ず返すんだよ」武麿は夜叉姫を疑いながらも、ここから出ようと立ち上がりますが、痛みに耐えられず動くことが出来ないでいると、夜叉姫の幕舎で手当てをしよう・・・強い男が好きだ、誰も見てやしないよ、と武麿に絡んできます。その時、赤鷲が「どうした」とやって来ます。「こいつのほえ面を見にきた、そしたらにげようとしているから・・」」と夜叉姫、赤鷲は「じたばたしたって袋のねずみだ」と。赤鷲に悟られないよう「そうだよ、お前の命は、煮て食おうと焼いて食おうと、私達の思いのままなんだ」と言い放ち去る夜叉姫。武麿は赤鷲の顔を、じっと睨むのでした。 武麿が赤鷲のところへ連れて来られます。すると、縛られた柴木と狭霧を見て、びっくりする武麿に、赤鷲が言います。赤鷲 「小田の武麿、そこにお袋がいるぞ、狭霧もいるぞ、遠慮は無用、抱きあっ て喜べ」武麿 「見当違いはよせ」赤鷲 「じゃ、あの二人はどうなっても平気だというんだな」二人が拷問を受けるのを見て我慢が出来ず、「人非人」というと剣を奪い綱を切り助けようとしたとき、「やめろ」という赤鷲の声と共に槍が武麿を狙って来たのをかばった柴木にささります。それを見た武麿は「お母様」と叫び取り押さえられ、母は「お前のために死ぬのは本望だ」というのでした。 母の姿を目の前にして「お母様、お母様」と泣き叫び崩れる武麿の姿が哀れです。 続きます。
2020年05月26日
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朝廷の密使と睨んでいる一夜が明けました。洞窟から出て来た二人の様子は、打解けてとても仲良くなっています。 その時、前方の谷底から「助けて~え」という声が聞こえます。武麿は急いで谷底をのぞき込みます。 「しっかりしろ」と声をかけると、つるを握りしめている夜叉姫が声をかけた武麿を見て「ハッ」と、武麿も夜叉姫の顔を見て「ハッ」とします。そして夜叉姫がつるから片手が離れたのを見て、狭霧の見つけて来たつるを垂らし、ひっぱりあげます。 すると、武麿は立ち上がり、武麿「とにかく無事でよかった・・それじゃ、私達はこれで」 助けられたがどうにかされるのではと思っていた夜叉姫は、そのまま行く武麿に心を動かされます。その夜の最終の船が出ようとしていたのに間に合いました。高い船賃を払い乗れたことにホッとして船中に入ったところで、「おい、若いの」と声をかけてきたのは赤鷲です。 「ここが空いてるぜ」と赤鷲が言ってきます。満員の船中ですから、武麿は狭霧と赤鷲の隣に行きます。 船は出港しました。赤鷲は、隣りに来た武麿に、鈴鹿山で仲間を助けてくれた礼を言って、武麿にお酒を勧めますが、武麿はそれを拒否します。武麿「それより、あの人はどうされた・・・一緒ではないのか」赤鷲「女は情にもろいからな」陸路を行かせ、船がつく港で落ち合うのだと言います。武麿「ほおう」 赤鷲が聞いてきます。赤鷲「あんたがたは、東北に何の用だい」武麿「いや、この人のお父様を探しに行くんだ」赤鷲「なるほど、・・(狭霧の顔を覗き込み)・・お父様か、へっへっ」狭霧はむきになり、赤鷲に本当だといい、悪い人の懺悔にあい陸奥の国に流されているのだといいます。そのことは武麿も初めて聞くことでした。武麿「なに?流された」「おやじの名前は?」と聞いて来る赤鷲に、武麿「いや、その前に、あなたの名前をここにいる一同に告げたらどうだ」赤鷲「望みとあらば、言ってやってもよいが、ただじゃすまんぞ」赤鷲が視線を向けた方にいるのは、手下達だったのです。 赤鷲「俺達は、お前を朝廷の密使と睨んでいるのだ。・・必ず命はもらうぞ」と言い立って手下達がいるところへ行きます。 夜が明けた船上に、武麿と狭霧の姿があります。 武麿は狭霧に話し始めます。武麿「東国の常陸の国、府中という町に私の母がいます」 武麿は胸元からお守りにしているものを大切そうに見ながら、武麿「一人、私の出世を待っていてくれます。・・・しかし、その府中の町も反乱 軍の手に落ちている」 武麿が狭霧のお父様の話を聞きたいと言い話を聞いているところに、赤鷲が近づいてきました。赤鷲が短刀に手をかけます。狭霧は一生懸命に身の上話を・・赤鷲が振返ると武麿が身構え・・赤鷲はにたりと笑い、二人の間に殺気がみなぎりいざ・・というときに、船乗りがやって来てその場は・・・。しかしその後二人がまたかまえたとき、また邪魔が入り、二人の決着はつかずそのままになります。 その夜は赤鷲と武麿は相手の動きを察しながらの時間が過ぎていきます。周りの人は寝ついていても、武麿はいつ赤鷲が何をしてくるか分かりませんから気は許せません。武麿はつい寝込んでしまい、はっとして起きたとき赤鷲の姿が見えないことに、「おかしい」といい用心して船上に上がっていきます。上には誰もいませんでした。一そうの小舟が繋がれていたので武麿は、武麿「無用の争いをさけるには、絶好の機会かもしれない。この間に小舟でもって あの岸へ」そう言って小舟を手繰り寄せていたとき、物陰に隠れていた赤鷲がかかってきます。二人の決死の格闘になります。武麿が優勢になったとき、狭霧の叫び声が聞こえます。手下達が狭霧を人質にとったのです。赤鷲は「朝廷の密書を隠しているはずだ」と武麿を痛めつけます。その瞬間、武麿は足を滑らし海中へ落ちてしまいました。「しまった」と赤鷲、「一彦さま」と叫ぶ狭霧。 海に落ちた武麿は、無事どこかにたどり着くのでしょうか。 続きます。
2020年05月15日
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運命かもしれませんね (ここでは、武麿と狭霧が、お互いに相手を愛しいという気持になった場面になります。)狭霧を乗せ雨、風、雷の中、馬を飛ばし走って行く武麿の姿があります。赤鷲達がその後を追います。雷と雨が激しくゆく手をはばまれていると、洞窟があり武麿達はそこに避難、雷が落ち木が洞窟の入口をふさいだため、赤鷲達から身を隠すことができました。武麿は無事に過ぎたことで安堵します。 そして、狭霧の手をとり、いたわります。 武麿「私と一緒のため、とんだ目にあわしてしまった」狭霧「いいえ、わたくしこそあなたの足手まといになり、すいませんです」武麿「運命かもしれませんね・・いや・・私はどちらかというと、そう言うものを 信じないたちなのだが・・・不思議だ・・」二人は見つめ合い、そして目をそらします・・・ 武麿は立ち上がり、武麿「私たちは、互いに名も知らず、素性も知らず、ここにこうして二人っきりで いる・・不思議だ・・」その時「私、狭霧と申します」名前を聞いて、武麿は嬉しそうに自分の名前も言おうとして口ごもります。武麿「私は、武・・いや・・一彦です。将来の栄達を夢みているものです」 あなたのおっしゃることなら信じるという狭霧に、武麿は「何故? 」と問いかけます。その問いに狭霧はやさしい笑顔で見つめ武麿に答えるのです。狭霧をみる武麿の戸惑った表情が、武麿の狭霧に対する気持ちを表します。 そんな甘い二人の時間が流れていますが、外はまだ豪雨、二人が隠れている洞窟の前を、夜叉姫を乗せた駕籠が通り過ぎて行ったとき、雷が木に落ち谷底へ落ちてしまいます。 (ここでは、橋蔵さまの武麿の表情がアップになり流れて行きます。一つ一つを見ていきますと、狭霧に対する思いがどんなものかよくわかります。橋蔵さまの表情には、純情な中に色気が漂っていて、相手役によってそれが打ち消されていますが、これは大人の恋愛ものです。) 続きます。
2020年05月08日
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確かに朝廷の密使だと・・雨が降り出したなか、狭霧を伴いある村で泊まるところを探すが、何処も彼処も戦から逃げてきた人でいっぱい、軒の下で休んでいると、そこの主人が二人を見て、祝言間もない夫婦と勘違いし、大事な新妻のからだを雨に冷やすとは・・・と、二人を家の中に導きます。 そこに悪路王の配下の赤鷲、夜叉姫の一行が村に侵入してきて、長者の家で酒盛りをし好き勝手なことをしだし、女の人に手を出して来ました。狭霧に寄って来た者どもを次から次にやっつけていく武麿。その最中通行手形を落してしまいます。武麿は急いで拾いましたが、それを見逃さなかったのは夜叉姫でした。 狭霧を追いかける手下に武麿が斧を投げたことにより、一瞬みんなが黙り静かになり、赤鷲が立ち上がり、「旅の憂さ晴らしに、蒔き割の投げくらべをやらないか」と持ち掛けてきます。武麿「お望みとあればやってもよいが、条件がある」赤鷲「ほおう」武麿「投げくらべに私が勝ったら、・・もうこれ以上乱暴せず、おとなしく寝ても らいたい」赤鷲は条件をのみ、自分から先にやると言います。 夜叉姫が扇を広げます、赤鷲の投げた斧が扇にささります。武麿が投げた斧も扇にささります。 赤鷲の合図で夜叉姫が今度は、灯りがついた蝋たてを赤鷲は落としましたが、武麿が投げた斧は壁に刺さり・・・失敗・・いや武麿の表情には確信があります、武麿は”あれを見ろ”と言うように赤鷲に促し、赤鷲が見ているとゆっくりと蝋たてが倒れました。 今度は夜叉姫が的に立ち、斧は顔の右側にささり成功にホッとし手下たちは大喜び、すると「私が的に立ちます」と狭霧が行くのを武麿が止めますが、狭霧は「武麿を信じている」と言い的に立ちます。武麿は「よし」と言うと斧を両手に持ち、後ろ向きになり気持ちを落ち着かせると、狭霧の顔両側に見事に斧を二本投げました。 その夜、皆が寝静まった頃、赤鷲と夜叉姫は、まき割わり相手がただ者ではない・・・夜叉姫は、さっき落した鉄の通行手形を見た、確かに朝廷の密使だというのです。 皆が寝ついた頃、夜叉姫が赤鷲に今のうちにやってしまえと・・・武麿が寝ていた方へ行って見ると、二人の姿が見えません。武麿と狭霧は何処へ行ったのでしょう。 続きます。
2020年04月27日
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ジューヌ・ベルヌ原作を時代劇に翻案した千葉省三の少年小説「陸奥の嵐」を、加藤泰監督自身が脚本化した冒険活劇。坂上田村麻呂の蝦夷平定を時代背景にしたスペクタクル・ロマン時代劇です。大和朝廷への反乱勢に囲まれ唯一抗戦を続ける陸奥国・胆沢の砦へ、征夷将軍の意を受けて単身で向かうヒーローの話。冒険・ラブロマンス・瞼の母との再会が織り込まれ、自由に創作した舞台なので、エキゾチックな彩りもあります。黄金期の東映時代劇としては主演スタア大川橋蔵さん以外スター扱いの役者は出ていないという珍しい作品です。 広野で展開する壮大な戦闘シーンは、外国の戦争スペクタクルを思わせるほどのダイナミックさで見ごたえ十分。加藤泰が自衛隊の演習地を借り切って撮影に予算オーバーになるほど何日もかかり切ったといわれています。時は平安の昔、奥州の原野に広がる大反乱軍のまっただ中に、単身救援の使者としておもむく小田武麿。平安京の興亡を一身に背負って、遠く陸奥の砦にわたり、試練に立ち向かう美貌の剣士「紅顔の密使」の物語は剣と恋と冒険にいろどられたスケール雄大なスペクタクル活劇で話題をよびました。そのスリルとサスペンスの連続は、西部劇を思わせるものがあります。天皇の密使として東北に使わされる、若くて、強くて、かっこよくて、誠実な、影のない、美剣士小田武麿を演じるのは橋蔵さん。 鎧に身をかためた橋蔵さんの若々しい魅力は恋と冒険を貫き通す若者の意志の強さをうたい上げて異色時代劇の名に恥じぬ堂々たるものでした。実は、私はこの作品を初めて見たとき、1959年に撮った作品とは思えなかったのです。橋蔵さんのこの作品の前後から見て、どうしてもピンときませんでした。というのは、橋蔵さんらしさが満載の役ではないこと、物語が冒険もので少年少女向き風な感じの大人の物語という感じ、そして前にも書きましたように、この時期東映の名が知れている俳優さんが出ていないということもあったからだったかもしれません。以前に撮って封切をしなかった作品ではと思わせるところが見受けられたのです。そして残念なことに、共演の女優さんが橋蔵さまとは全く溶け合っていなかったということです。▲第50作品目 1959年6月9日封切 「紅顔の密使」 小田の武麿 大川橋蔵照日の王子 伏見扇太郎狭霧 一条珠実夜叉姫 故里やよい赤鷲 田崎潤那須の真太刀 片岡栄二郎柴木 毛利菊枝佐伯高文 南郷京之助右大臣神王 尾上鯉之助吉備の道玄 加藤嘉悪路王 吉田義夫能登の荒弓 沢村宗之助 時は平安、陸奥一角に蜂起した悪路王率いる反乱軍が都に迫ろうとしていました。 平和国家建設を始めた大和朝廷はこれを鎮圧するため、小田の武磨を密使として派遣するのです。 指名を受けた武麿は旅の浪人に変装して敵陣に潜行し、秘策をめぐらして反乱軍を殲滅します。 始まってスタッフ、キャストの裏で流れる音楽が、異国の感じと何かが起こるぞといったような雰囲気を醸し出しています。富士山が大音響で爆発、天に沖する噴煙をあげたのを合図のごとく陸奥の一角に蜂起した反乱軍の将悪路王は、その片腕出羽の赤鷲とともに、アジアの浪人数十万を統合、たちまち陸奥を席捲、出羽を攻略して関東諸国にせまって、ついには日本を分断し都に迫っていました。そのとき大和朝廷は名を平安京と改め新たな平和国家の建設に向かおうとしているときでした。氾濫を静める対策はどのようにしたらよいか。坂上田村麻呂が、陸奥の敵中にただ一つ取り残されながら、いまだに落ちない砦胆沢城がここ二ヵ月の間反乱軍の足をとどめることが出来れば、鎮圧に向かうことも出来ると提案します。この時、左近衛中将公共が一人の若者を連れて来ます。その若者はこのように願い出ます。 武麿「何卒私を、朝廷の密使として、胆沢城へお遣わし願いとうございます」 その申し出に、右大臣神王が反乱軍鎮圧の目算もついていないというのに密使が何を告げに行くのだといいますと、左近衛中将公共は、武麿には官軍到着まで胆沢城を守り通す目算があることを告げます。 燃える油水を武器として敵を攻める計略、武麿は陸奥の生まれ、父は今の胆沢の城の中に油水を発見・・その秘密の場所を武麿だけに知らせこの世を去ったというのです。武麿「武麿、命に代えて」 反乱軍相手に戦える謀略を知る小田の武麿に唯一の望みをかけ、朝廷の密使として陸奥に向かわせます。 馬を飛ばし逢坂山関所を破って通ろうとしていた反乱軍の赤鷲と夜叉姫一味は、通行手形を持って待っている人々の間を通り抜けていきます。人々がざわつく中で一人の娘がよろけ危ないところに、武麿が気づき助けます。 関所破りを捕まえるまで関所の通行は禁止するということで、関所の門は閉じられてしまいます。武麿が朝廷からの通行手形をみせると門番が「しばらくお待ちを」と言って知らせに行きます。その間、武麿が周囲に目をやると、先ほど危ないところを助けた娘が具合が悪そうに木にもたれかかっています。 武麿は見かねて側に行き声をかけます。武麿「どうなされた」声をかけられ、娘は先ほどの礼を言うが、具合が悪そうにしています。武麿「気分でも悪いのか」その娘(狭霧)は「いえ」と言うと、武麿にこう聞いてくるのです。狭霧「あの、通行手形とやらがなければ、たとえもう一度御門が開いても通してい ただくすべはないのでしょうね」 武麿「何処から来られたのだ」狭霧「播摩の国から」武麿「何処へ」狭霧「・・遠い、陸奥の国まで」武麿「陸奥へ・・・」 武麿は、女一人でいこうとする狭霧にびっくりして「何故」と聞きます。 そうしていると、門番が帰って来たので、武麿が門の方へ行こうとしたとき、狭霧が「お父さまを探しに参ります」というのです。関所の門があき、「お待たせいたしました、どうぞ」と促され入ったものの、狭霧のことが気にかかり、武麿「妹、何をしてる、早く来い」と狭霧を呼び、関所を通ります。 続きます。
2020年04月18日
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一代かけての勝負をする勘八は用心棒の南郷と大勢の子分を連れ弥陀ヶ原に集結しおもんを待っています。弥陀ヶ原の果し合いに行くおもんは、政吉達と半次郎が通るのを待っています。半次郎は、一人足の向くままに旅に出ようと街道を行く途中おもんの姿を見て一旦立止まり躊躇しましたが、通り過ぎようとしたとき、おもんが「半次郎さん」と声をかけてきました。 呼び止められては、草間の半次郎、おもんに未練があるのですから立止まります。おもん「一言、一言だけお別れを言おうと待っていました」半次郎はおもんのほうを振り向きません。おもん「さよなら、達者でお暮し」 半次郎はそのまま行こうと思いましたが、振り返り政吉に言うのです。半次郎「政吉さん、悪くとっておくんなさるな。おれは、おもんさんと口をきかね えと約束した。したからには俺の性分で、約束通りにするほかねえが、 ・・旅のどっかで風の便りに、金平さんの跡目がたったと聞きゃシンから 俺は喜ぶぜ。・・・短気を起こさず無理をせず、巡る時節を待ちなせい」おもんの気持ちを知りながら行こうとする半次郎に宗太が「後で後悔するような強情は・・」という言葉に、例の通り「うるせい」と行ってしまいます。 藤五郎と宗太は、上諏訪宿で落ち合うように半次郎に言い、おもんと政吉についてゆきます。途中、おもんと政吉は、昨日甲州屋勘八に果たし状を付きつけ、今日これから弥陀ヶ原で勝負をする、ということを藤五郎と宗太に言うと分かれて行きます。そのことを聞かされて、藤五郎は、乗り掛かった舟だ、とおもんについて行くことに、宗太は半次郎に知らせるとひき返し走って追いつきます。宗太 「半次郎さん、待ってくれ・・・早く、早く行ってやっておくんなさい。 おもんさんが弥陀ヶ原というところで甲州屋一家と果し合いだ」半次郎「なに、果し合いだと」 宗太から事情を聞いて、半次郎「そうかい・・そうだったのかい」そう言うと、三度笠と合羽を捨てて、走って行きます。 おもん達か危うくなってきたとき、「待て待てーっ」と半次郎がかけつけました。勘八の「誰だ、てめえは」に「やかましい」という半次郎。来てくれて嬉しいと近寄るおもんに、半次郎「おっと、喜ぶのはまだ早えや。おれは、おめえのためにやるんじゃねえ、 非業に死んだお藤さんを行くところへ生かしてやりてえから、こうやっ て命を張りにやって来たんだ。・・・やい、浮世あぶれたこの草間の半 次郎が、お天道様の真下で、一代かけての勝負をするから、覚悟しろい」 用心棒の南郷がかかって行き、(立廻りとなります)斬って斬って斬りまくる・・胸のすく大立廻りです。(ロケの川原とスタジオセットが交互に斬り替わっての大立廻りとなります) 南郷を倒し勘八に止めを刺し、政吉、藤太郎、宗太が半次郎に駆け寄りますが、おもんは遠くから半次郎の様子を伺いながらお礼の頭を下げます。半次郎の表情には笑みはありませんでしたが、二人の間には何かが通い合ったのでしょう。おもんが明るい笑みの顔になりました。それを見て半次郎達に晴れ晴れとした笑顔がみえました。 和田山の家も政吉、藤五郎、宗太という子分が、おもんを守っていくので、半次郎も安心して旅にまた出かけるようです。(ここから三波春夫さんの「おしどり道中」3番が流れます)♪馴れた草鞋も日暮れにゃ緩む ましておしどり二人旅 ♪聞いてくれるな草鞋のことは 何処で解こうと結ぼうと (最初は歌のように、弥陀ヶ原から峠道を半次郎とおもんのおしどり姿があった、という脚本だったようですね・・・見る方からすると二人が一緒にというハッピーエンドがよかった?、それとも旅に出るが、また和田山一家に草鞋をぬぐときに一緒になるかも・・と含みを持たせてのこのラスト・・と考えて、半次郎とおもんが幸せになることを願いたいものです) (完)
2020年03月01日
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なんてぇ根性だい 和田山へ旅立つはずが、おもんは半次郎のことが気がかりで外へ出たところでお藤を探しに来ていた政吉にばったり会います。そのお藤は、金平の借金の方に勘八と鬼権に篠ノ井宿の女郎屋に売られていました。その夜、初めての客としてつけられたのはその鬼権・・鬼権の手にかかりお藤は抵抗しながらも・・・正気をなくし店の勝手口から逃げようとしていました。そこへ、千曲川の川べりに急ぐ半次郎が通りかかりお藤に気が付きます。半次郎「おう、お藤さんじゃござんせんか」見ると、髪を振り乱し裸足のままふらふらと、気がふれたような状態で、半次郎に声をかけられてもぼーと見ていたお藤ですが、気が付いてお藤 「半次郎さん・・」半次郎が、こんなところにどうしてと聞きますが、お藤はおもんに会ったら「お父つぁんは殺された」と伝えてくれと言います。半次郎は驚きます。 お藤 「お藤は・・・」そう言うと、後ろを向いて・・何も言えません。その身なりの様子を見て、半次郎は、言葉が出てきません・・分かったのです。 (・・・暫く二人の間に言葉はありません・・・)お藤は、振り返るとこう言い始めます。お藤 「お藤は・・妹のお藤は・・・」その後は言葉にならず、泣きながら半次郎の前から千曲川の方に走って行きます。「おう、お藤さん、待ってくれ」「お藤さん、待ちなせい」お藤を必死で追う半次郎の前に、次郎太郎一家が立ち塞がります。半次郎「やい、どけ。女一人、生きるか死ぬかの瀬戸際だ」 「野郎、どかねえか」という半次郎に次郎太郎一家がかかってきます。(ここから立廻りです)「お藤さーん」と叫びながら川の方へ走って行きます。 (その途中の殺陣の橋蔵さんすごい! カッコいいのです! 得意の右足を上げてるのですが、さらにその足を上にあげてから、ドスで斬るのです。画面が夜で暗く、カメラを引いての場面で遠いため、ちょっとわかりずらいのですが・・) 次郎太郎一家と斬り合いながら、必死に制止する半次郎の言葉も残念ながらお藤には届かず、お藤は川に身を投じてしまいます。 お藤が流されていく方へ、相手を蹴散らしながら、半次郎は進んで行きます。 最後に次郎太郎を斬ると、半次郎はお藤を助けるために川へ飛び込みます。 その頃、おもんは政吉からお藤が篠ノ井宿の水商売の店にいるようだと聞きますが、おもんは半次郎のことが気になってそんなところではないのです。半次郎は川からお藤を引きあげましたがすでに事切れていました。 そこへおもんたちがやって来ます。半次郎が無事なのを見たおもんは、おもん「半次さん、良かったね、ほんとによかったね」と近寄りますが、半次郎は厳しい顔をして、半次郎「それより、あれを見ろい」おもんが半次郎が言った方へ行こうとしたとき、半次郎が「お藤さんだ」と言います。 政吉が変わり果てたお藤に駆け寄ります。おもんはお藤にやさしい言葉をかけず、おもん「いくら辛いからと言ったって、いくら苦しいからって、何も死ぬことはな いじゃないか。あたしに会うまで、政吉に会うまで、どうしていきていら れなかったんだよ。汚れ崩れてどん底に落ちたって、生きていさえすれば 何とかなったものを、お父つぁんは殺され、身売りまでさせられながら、 そのまま死んでしまうなんて、意気地なし、かいしょなし」と泣きながら、お藤を叩くおもんを見て、半次郎は黙ってはいられません。半次郎「やめろい。・・・てめえというやつは何という女だ、なんてぇ根性だい。 ・・自分の親不孝を棚に上げやがって、わけえ身空で、苦労の果てに仏に なんなすったお藤さんに手をかけるとは何事だ。・・つくづく、俺は愛想 が尽きた、てめえなんかにゃ、今から口も聞かねえ。会いもしねえから、 そう思え」 藤五郎と宗太が、「待ちなせい、短気を起こしなさんな」とひき止めますが、いったん口に出したらひかない半次郎です、「うるせい」と言い行ってしまいます。 店から逃げたお藤を探しにやって来た鬼権は政吉の手にかかります。お藤の亡骸をじっと見ていて、おもんは何かを決心したようです。飛脚が走ります。おもんからの果たし状が甲州屋の勘八に届きます。明日、おもんが弥陀ヶ原で勝負したいと言ってきた、と軽く考えていた勘八ですが、用心棒の南郷茂平次の助言で子分を全部引き連れて行くことにします。(多勢に無勢ということになりますね、おもんはどうするつもりでしょう。半次郎は・・・) 続きます。
2020年02月18日
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喧嘩をしながらでも、道中つかず離れず藤五郎、宗太と約束をした場所に戻ってきた半次郎は、おもんに似た女がさっき通って行ったと聞くと、おもんには次郎太郎の追っ手がかかっているからと、半次郎はおもんを追って一人で行ってしまいます。・・が、藤五郎と宗太の二人は半次郎についていく覚悟を決め後を追います。街道を歩いて行った途中、おもんの姿が目に入り半次郎は声をかけます。半次郎「おたきさん」すると、おもんが「おや、半次郎さん」と言ったので、半次郎はびっくりしておもんの顔を見て、半次郎「半次郎だって・・」おもん「と、お呼びしちゃいけないんですか」 半次郎「なあに、悪いとは言わねえが、どうして俺の名を」おもんが半次郎の相棒に聞いたのだといいます。藤五郎と宗太が来ていたのです。二人にあれほどいったのに分からないのかという半次郎。藤五郎は別に半次郎を追ってきたのではない、怒る半次郎に、藤五郎「久しぶりに、善光寺さんへ・・」半次郎「そんなら何もこんなところで道草くってることはねえだろう、とっとと行 きな」 気が立っている半次郎。そうなると、おもんにも半次郎「そっちも急がねえと、追っ手がかかってきますぜ」おもんも素直ではありません。おもん「だからどうだって言うのさ・・お前さん、次郎太郎一家がそんなに怖いの かい」どうせあばずれの茶屋女、びくともしない、「ご心配なく」と言ったのを聞いた半次郎は、「勝手にしろい」と行ってしまいます。 おもんは半次郎について行きます。歩きながら、半次郎の問いに、おもんは里心、急におっかさんにの顔が見たくなったと。半次郎「するとどうでも、越後生まれのおたきさんで、とおすきだな」 おもん「ええ、通しますとも、だってそれが本当なら・・」半次郎「わかったよお」急ぎ足の半次郎に必死について行くおもん、半次郎は「来るな」と素直でないおもんにつれない素振りをします。 藤五郎と宗太が先に行っている旅籠に着きました。半次郎とおもんの部屋は襖一つで隣り合わせです。おもんが声をかけ襖を開けると半次郎「へえるねい」そっぽを向く半次郎におもんがいいます。おもん「よっぽど惚れているらしいね」半次郎がおもんを睨みつけます。 おもん「おもんとかいう女のことさ。意地で別れたその女と、飲んだくれであばず れの私とがあんまり似ているものだから・・・胸が痛むんだろう?」半次郎は我慢が出来ず、おもんを押し返し半次郎「こんど声をかけたら、ただおかねえからそう思え」ぴしゃりと襖を閉めてしまいます。 おもんは半次郎が連れなくしてもついて行きます。意地を張りながらの二人連れの道中が続きます。おもんは半次郎からはなれません。半次郎が草鞋をなおすのに道端に行くと、一緒に同じことをするというおもん。半次郎「ほどほどにしねえと、俺は怒るぜ」おもん「何をほどほどにするんです」半次郎「お前の胸に聞いてみな」おもん「あたしの胸に何をきくのさ」半次郎「口の減らねえ、あまっちょだ。・・よくもこんなにあばずれたものよ」おもん「お気の毒さま、これでも昔はおもんさんのように・・・折り目崩さず見識 ぶった時だって」半次郎「やめろ、二度とそれを口にしやがると・・・」その様子を見ていた宗太が、二人とも追ってがかかった身の上だ、こんなとこでイチャイチャしないで・・と言った言葉が気にさわった半次郎「なんだと」、宗太と藤五郎は篠ノ井宿で待っていると言い先に行きます。 半次郎と喧嘩をしながらでも、道中つかず離れず半次郎について行くおもんなのです。半次郎は、篠ノ井宿でおもんとはお別れだと告げます。和田山の子分政吉、次郎太郎一家、そしてもう一人金貸しの鬼権も篠ノ井宿へ入っていました。その篠ノ井宿には借金のために売られたお藤もいました。・・・何かが起こりそうな篠ノ井宿です。 続きます。
2020年01月31日
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お言葉に、嘘はござんすまいねお藤からおもんを甲州で見かけたという人がいると聞いたことで、やはり半次郎は甲州路に来ていました。その街道で、半次郎に命を助けられた藤五郎と宗太と会います。二人は心を入れ替え全うになったと言います。宗太がどうして甲州に来たのかと、おもんさんを見かけなかったか、と聞きます。半次郎「・・・そのおもんさんが妙なことから家出をして、この甲州にいなさるら しいんだが・・」宗太は甲州のめぼしいところは歩いてきたが、当人はおろか噂も聞かない、と言います。それを聞き、「すると、やっぱり信州路か」と半次郎が呟きます。藤五郎が急な用事でもあるのか、と聞きます。それに対し半次郎「いや、なあに、妹のお藤さんが案じていらっしゃるんでねえ、出来りゃめ ぐりあって、家へけえるように言ってやりてえんだよ」 金貸しの鬼権が用立てた金額を回収に和田山へやってきていました。家屋敷家財道具を売り払っても足らない、都合がつかない時は鬼権の言う通り身を売るとお藤は約束をしてしまいます。・・・政吉が甲州から急いで帰ってきたときは、金平一家は散り散りになって、お藤の行方も分からないのでした。二つに街道が別れるところで、半次郎は信州路の方に行こうとしています。信州路は次郎太郎の縄張りになるので、宗太達が心配すると、「分かっている」と、そして、半次郎「訪ねる人がもし追分にいなかったら、ひっけえして松城から善光寺の方へ 行く。よかったら明日またここで会おう」と二人とは別れ、追分宿に入っていきます。 その追分宿に入ったとき、二階から「ちょいとお兄さん」と声をかける茶屋女の方を立止まりちらっと見ますが、半次郎はそのまま行こうとします。・・が、しつこく声をかけてくるのでもう一度、二階に目を向けちょっと行き過ぎた時「はっ」と思い足を止めます。 「よかったら、上がって一杯お飲みよ」と声をかけてきた茶屋おんなをよく見ますと・・・半次郎は「おもんさん」と心の中で叫び、急いでおもんがいる亀屋の二階の部屋に行くのです。 おもんは、自分が呼び止めた旅人が半次郎とは思わなかったのです。半次郎が、障子を開けると、おもん「察しがいいねえ、いい気風だよ。・・・こっちへお入りよ」半次郎「・・おもんさん」その声に、おもんは「はっ」と驚きます。おもむろに半次郎の方を見ますが、半次郎の熱い視線から顔をそらすと冷たく白を切りはじめます。 おもん「変なこと言うじゃないか。・・あたしゃ、おたきっていうんだよ」半次郎「そいつは茶屋奉公の借りの名、親からもらった本名は?」おもん「それがないんだよ、生まれついてのおたきだもの」半次郎「じゃ、その生まれ在所は」越後の柿崎、親は漁師で名は甚次郎、お袋はお駒で・・、と本当のことを言わないおもん。半次郎「お言葉に、嘘はござんすまいね」 おもん「あると思うなら思うがいいさ、それはお前さんの勝手だろう」その言葉に、半次郎がきれます。半次郎「邪魔したな」そう言い、部屋を出て行く半次郎に、「お待ちっ」と言い前に立ち塞がります。 おもん「あたしゃ、茶屋暮らしの女だよ。何の色も付けないで、それで男が立つの かい?」半次郎は、笑って半次郎「なるほどそうだ。・・それじゃ、すくねえがこれを」とお金を財布からお金を出そうとしたとき、「馬鹿っ」おもんの手が半次郎の手を叩きます。 おもんお金じゃない、一杯付き合えと言うのですが半次郎「やめておこう、越後柿崎のおたきさんなら、差しで飲むいわれもねえし、 積もる話の種もねえ。ご免なすって」と言い、茶屋を出たのですが、おもんのことが気にかかる半次郎は向かいの宿に泊まることに、さっさと出て行った半次郎が気になったおもんは、半次郎が宿に入るのを二階から見ていました。 (ここからは、しばらく、二人の心理描写が映し出されます。)茶屋女にまで身を落して、いつまでも払いきれない半次郎への思いを振りきろうとしていたおもんの胸のうちは苦しくなっていました。半次郎もまた、おもんへの強い愛情がありながら、今のところはそっけなくすること以外どうするすべもなかったのです。お互いに相手が気になり苦悩するのでした。 そなん夜が明けた日、次郎太郎のところへ、おもんがいる亀屋の番頭が慌てた様子でかけ込んできます。看板女のおたきが足抜きをしたので手配をお願いしたいと言うのです。次郎太郎は女の足だ、2,3日すればすぐ捕まると言いますが、蔭で妙な男が糸を引いているのだと。半次郎が宿からおたきに会いに亀屋へ行くと、おたきは、今朝方早く足抜きをしたと・・・半次郎がそれを聞き、足早に出て行ったところを、次郎太郎の子分が見てしまったのです。 早速その知らせは次郎太郎のところへ、亀屋の番頭もその男がそそのかしたに違いないと・・こうなると、次郎太郎の気持ちもおさまりません。「今度こそは息の音止めてみせる」と用心棒を一緒に連れて半次郎を追い旅にでます。 続きます。
2020年01月23日
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惚れた気持ちにゃ 嘘はないある田舎のお祭りで賑わっている中、半次郎が和田山の金平のところへ草鞋をぬいていたときに、同じく草鞋をぬいていた三島の春太郎が半次郎の姿を見つけ声をかけます。春太郎「もし、あっもし・・半次郎さんじゃござんせんか」半次郎「おう、春太郎さん」 二人が金平のところであってから半年経っていました。その間のことを話していて、その後信州の方へは行ったのかと春太郎に聞きます。半次郎「そんなら和田山にも・・」 春太郎は、和田山にも行ったが様子はすっかり変わってしまったと伝えます。春太郎「ご存知でしょうが、姉娘のおもんさん、あの人が家出をなさいまして ね・・」半次郎の表情が変わります。半次郎「なに、家出を・・」 噂では、甲州屋の親分に縁ずくのを嫌がり行方がわからなくなったというのです。春太郎の話を聞いている半次郎の様子が、途中からうわの空のように、何か慌てているように見えます。 半次郎「お言葉ちゅうですが、先を急ぎます。失礼はひらに」と言い、行ってしまいます。 春太郎からその旨を聞いた半次郎が、そのままで済ますわけがありません。足は甲州へ向いていました。 半次郎が和田山の金平を訪ねます。おもんの妹お藤が、半次郎を迎えます。早速春太郎から聞いたことを・・・半次郎「・・・おもんさんは、何処かへおいでなさった様で」「半次郎が旅立ってほどなく」とお藤が言います。半次郎「お行き先は」お藤 「分からないんです、甲州の勝沼でそれらしい女を見たというお方はありま したけれど」半次郎「ですが、どうしてまた家出など・・」そのとき、奥から金平の声がします。金平 「その話は止めてもらおう」半次郎「おっ、これは親分さん」 金平は、「挨拶はいい」と、つっけんどんな態度で続けます。金平 「久しぶりのおめえさんだから、早速奥へ通ってもれえてえところだが、気 を悪くしてもらっちぁ困るがなあ草間の、・・・実はおもんの一件から、 少々ことが縺れてるんでねえ。・すまねえが、今度のところは・・・」金平はお藤が止めるのも聞かず半次郎にぶつけます。半次郎はお藤の様子が少し気になり、金平に聞くのです。 半次郎「承知いたしました。すぐにおいとまを頂きますでござんすが・・・よろし ければお聞かせくださいやし・・ことのももつれとは・・」金平 「世間の口はうるせえもんでな・・おもんは半次郎という旅人に魅かれて家 でしたと・・」半次郎「えっ?」金平 「まっ、そんな噂がたったもんだから、甲州屋と俺との間がしっくりいかね えようになったんだ。今はどうってことねえんだが、おめえさんがここに いると、またどんな間違えが起きるかしれたもんじゃねえ。すまねえが、 わしに免じて・・」半次郎「よろしゅうございます、それでは、これで」半次郎は金平のところを出て、あの時おもんと別れたところへ来ていました。 何故かおもんのことが愛しく思い出されるのです。 (ここで「おしどり道中」2番の歌が流れてきます)泣けというなら 泣いてもみせる 死ねというなら 死にもする 野暮な野郎でござんすけれど 惚れた気持ちにゃ 嘘はない 半次郎が去った後、金平は勘八の罠にはまり誘きだされ用心棒の南郷に斬られてしまいます。勘八は留守にしていて知らなかったが、と何食わぬ顔で和田山を訪れ焼香に来ますが、お藤が「そのようなことをしていただいても、お父つぁんが浮かばれませんから」と断りますと、「後で思い知っても手遅れだぜ」と言い帰っていきます。お藤は政吉に、姉のおもんが甲州にいるかどうか確かめてくるように言います。(多分半次郎も甲州に行こうとしているはずです。おもんは無事見つかるのでしょうか) 続きます。
2020年01月14日
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情け知らずと笑わば笑え藤五郎と宗太が和田山一家にやって来ます。おもんが応対し半次郎はここにはもういないと告げます。半次郎は二階から屋根づたいに降りようとしています。おもんの受け答えに、藤五郎「・・・半次郎という男はそんなケチな男じゃねえんだ、約束通り確かにこ こに・・」半次郎「よく言った、その通りだぜ。・・・ここでは何かとご迷惑になる、そこの 広っぱまで来なさるかい」おもんは、心配になり様子を見に飛び出していきます。 場所を変えたところで、半次郎が次郎太郎一家は何故来なかったかと聞きますと、二手に分かれたからだと藤五郎が言いますと、半次郎「それで、おめえ達が貧乏くじを引く仕儀になったんだな」藤五郎「貧乏くじだと」半次郎「もっともやってみなくちゃ分からねえが・・足場に異存があったら、そう いいな。・・・いいようにするぜ・・・黙っているところ見ると場所に不 足はねえんだな」藤五郎が「ねえ」と合羽と笠を投げ捨て言いますと半次郎「そんなら、抜きな」と言い、藤五郎がドスを抜いたのを見ていて、半次郎が「へっ」と笑います。すると、藤五郎が斬り込んできます。 半次郎に刃が立つわけはありません。半次郎はドスを抜かず棒切れ出で藤五郎をこてんぱんにします。宗太は「ご勘弁なすって」と言い、地面に頭をつけ、半次郎の言葉通りにするといいます。 半次郎「そんなら今日限り、イカサマで気質の人を泣かせるのは止めにしろい。 次郎太郎のところへはどんなことがあっても近寄るない」宗太 「よろしゅうございます、必ず」半次郎「約束するんだな」宗太は「はい」と返事をします。半次郎「そうかい」 と言って棒切れを捨て、宗太にこういうのです。 半次郎「この野郎が、息を吹きけえしたらいってやんな、花は散ってもまた咲く が、人の命はたった一つだ、生まれ変わった気になって、まっとうな道 を歩けとな」と言い残してそこをさり、合羽を取りに戻ると、物陰からこの様子を見ていたおもんが合羽を持っていて、そう簡単には渡してはくれません。(最初に会った時から気になっていた人ですもの、今の様子を見ていて惚れないわけがありません) 勝気なおもんは素直に心の内を見せません。おもん「なえ半次郎さん、事が穏やかに済んだら、何も夜旅をかけてまで急がなく たって、2,3日ゆっくりしてったら」 半次郎も同じこと・・勝気なおもんに悪い気はしないのですが、やさしい態度はみせません。半次郎「いやだい」おもんの言うようにすると思っていたでしょうから、おもん「えっ?」とびっくりします。 おもんの傍まで行き、半次郎「へっへっ、親分さんはいいお人ですが、それだけにこの上の面倒はかけら れなえ。・・また側に口数の多い女がいちゃあ、何かと気づまりでござん すから、・・勝手ながらこれで・・(ここでやっと、おもんの手から合羽 を取り返し)・・御免をいただきやす」と言い、後ろも振り返らず足早に立ち去ります。 おもんは、後ろを振り向きもせず立ち去った半次郎に、おもん「ばか、お前さんには女の心は分からない、おまえさん大ばかだよ」旅がらすの半次郎の足はどちらへ向いて行くのでしょう。(ここから三波春夫さんの歌「おしどり道中」一番に乗り、半次郎の道中姿が映しだされます)惚れてなるかと 浅間のからす きざなセリフの 2つ3つ 情け知らずと 笑わば笑え これがやくざの 泣きどころ (橋蔵さんの歩く姿は、本当にカッコいいですね。股旅ものはこういうところで道中姿が見られますから何ともいえません)半次郎が忘れられないおもんに、改まって金平から話があるといわれます。縄張りも隣り同志、借金も肩代わりするから、親子の縁を結べば・・・ということで、断りきれなく、勘八の女房になる話の口約束をして来たことを打ち明けられます。が、おもんは、勘八のところへいくなら泥の中に身を沈めた方がと言い、金平は、この話を断ったらどうなるかぐらいのことは分かっているはずだ、もういっぺんとっくりと考えてみることだと言われますが、おもんの気持ちは半次郎に向いていました。 続きます。
2020年01月07日
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わざわざ来るにおよばなかった次郎太郎一家とひと悶着あった草間の半次郎が先を急ぎ、三股の街道にさしかかったとき、一方から歩いて来た娘を呼び止めて、半次郎「あっ、もし、ご存知ならおっしゃってくださいやし。和田山の金平さんのお住まいは・・」 と聞きますと、教えてはくれたのですが、その後に「もし、草鞋を脱ぐなら、そこから一里ほど足を伸ばして、甲州屋勘八のところにしなさいよ」と言ってきたのです。半次郎は腑に落ちない顔つきをします。 娘はこう続けます・・和田山の金平は、人がいいだけがとりえの貸元で、それに代わって甲州屋は今売り出しの・・・そこまで黙って聞いていた半次郎が、口をはさみます。半次郎「だから、どうだとおっしゃるんだね」と言われ、娘は「えっ」と面食らった様子。半次郎「ものを聞いた後で、こんなことを言いたかねえが、・・女の出しゃばりは みっとものうござんすぜ」その娘は半次郎の言ったことが気に入らない様子でしたが、半次郎は鼻で笑って和田山の金平のところへ足を向けます。 甲州屋勘八一家に、半次郎に仕返しをするために中仙道に入ったイカサマ師の藤五郎と宗太が草鞋を脱ぎます。半次郎の行方は探してやるという勘八。その勘八は、和田山の金平の縄張りと娘のおもんの両方を手に入れようと、鬼権と手を組んで何事か企んでいます。鬼権から借金をして来たおもんが帰ってくると、旅人が一人来ていると妹のお藤から聞き、あの旅人ではないか・・と二階に上がって行きます。くつろいでいるところにいきなり障子が開き、おもんの顔を見て半次郎は驚きます。 (ここで軽妙なバックミュージックが)おもんはニコリともせ、部屋の中に入って来ると、おもん「金平の娘おもんと申します」半次郎は、慌てて姿勢を正し挨拶に・・・半次郎「おくれまして申し訳ござんせん、手前上州草間の生まれで・・」おもん「名を半次郎さん」 半次郎は、気に入らなそうな表情でおもんの顔を見て、半次郎「さようでございやす。・・はからずこのたびご縁を持ちまして・・」おもんが笑い出しおもん「およしなさいよ、型にはまったご挨拶は、もうその辺でいいでしょう」 おもんが指図どおり甲州屋に草鞋を脱がなかったのか、と聞いてきます。おもんがへそ曲がりなら、半次郎もへそ曲がりなところがありますから、半次郎「おっしゃるお言葉の裏は、手前に出て行けということで」おもんは、兎に角金平のところに草鞋を脱ぐ気になったいわくを知りたいというのです。 半次郎「そんなら申し上げます。こちらの親分さんの噂を、武州松戸の音造さんか ら受け賜わったのが去年の暮れ、折があったら是非一度・・」と言ったところで、半次郎が「えっへっへっへ」笑い出し、そして続けます。 半次郎「そのときに言われもし、思いもしたんですがね、お前さんのような出しゃ ばり娘がいると分かっていたら・・・」おもんが「なんですって」と突っかかってきます。半次郎「わざわざ来るにおよばなかった、と悔やんでみたところであとの祭りだ。 不本意ながら今夜はお世話になりやすが、明日は早々に・・」おもんは「勝手におし」と捨てセリフを言い部屋を出ていきます。この二人、何となく気はあるようなのですが、口から出でくる言葉は意に反して・・・。半次郎はからかったのが楽しそうに笑うのです。 藤五郎と宗太は、半次郎が和田山の金平のところにいるが、訳あって助っ人はできないということを勘八からいわれます。金平甲州路での次郎太郎一家との仔細を話す半次郎、すると勘八のところに草鞋を脱いでいるのは・・・半次郎をたぶん追ってだろうといいます。何も知らず勘八と四つの刻限まで半次郎をひき止めておくという約束をしてしまった、何とか始末をつけようという金平に、半次郎「一度交わした約束を反故になすっては、のちのち甲州屋さんとの間にしこ りが残りやしょう。もしそうなっては生涯の不本意でございやすから、 刻限の四つまで・・」半次郎は、そこまで金平のところで待っているというのです。そして、もし手助けを受けるようなことがあると一生の不本意、今夜は親分はじめ一家の衆はいない方がいいというのです。金平は半次郎のいうことを呑んで、甲州屋の助っ人は自分が行ってなしにしてくるといい、半次郎に言います。金平 「言わしてもらうがな草間の、おらあ、おめえのような、変わった気風の旅 人に会ったのは初めてだぜ」おもんが二人の話を聞いていました。 続きます。続きは、年明けに書いていきます。良いお年をお迎えください。
2019年12月28日
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腹を立てさせるきかい 1957年「喧嘩道中」、1958年「旅笠道中」について橋蔵さま本格股旅もの、草間の半次郎シリーズ第3作ものになります。撮影は異常乾燥日の続き、砂埃の立つ亀岡ロケで、半次郎の一人歩きのシーンから始まりました。今回は東映初出演の青山京子さんがおもん役で橋蔵さま扮する半次郎と絡みます。青山さんいわく「半次郎と喧嘩をしながら、惚れた感じを出すのが大変難しかった」といっています。やくざものに自信をつけ、やくざの意気と哀歓を見事にみせ、愛するおもんにふりかかる危機救うため長ドスを抜いて斬りまくる橋蔵さまの殺陣はみごとです。また、三波春夫さんの歌をバックに、街道を歩く旅姿はかっこよくて何ともいえません!!マキノ正博(雅弘)監督は比佐芳武脚本で日活制作 片岡千恵蔵さんで鴛鴦(’おしどり)道中が昭和13年に映画化されていて大当たりをした映画です。今回の「おしどり道中」は当時の現代的に脚本も大部分手を加えて作られています。例えば、半次郎とおもんが喧嘩をしながらも楽しいおしどり旅を続けるといったシーンは、おもんをウンと汚してしまう思いきったものになっています。キャストの場面でバックに流れる音楽の所々に「紅鶴屋敷」で使った同じような音楽が入っています、ちょっと頭を過りました。◆第48作品目 1959年4月封切 「おしどり道中」 草間の半次郎 大川橋蔵政吉 里見浩太朗おもん 青山京子お藤 桜町弘子金平 大河内傳次郎三島の春太郎 田中春男宗太 河野秋武南郷茂平次 原健策甲州屋勘八 進藤英太郎藤五郎 徳大寺伸次郎太郎 瀬川路三郎鬼権 沢村宗之助徳兵衛 時田一男三右衛門 明石潮平十郎 阿部九州男小山田軍兵衛 楠本健二太田平馬 尾形伸之介和田山の貸元・金平のもとに草鞋を脱いだ旅鴉・草間の半次郎。金平の娘・おもんを女房にしょうと企む勘八を嫌って、おもんは半次郎を追って家出をします。怒った勘八は金平を殺し縄張りを奪ってしまいます。なぜか自分はおもんでないと云い張るおもんと別れ、次郎太郎一家の挑戦をうけた半次郎の前に変わり果てたおもんの妹お藤が現れる。借金の形に遊女に売られお藤と追分の宿で再会したが、おもんは茶屋女に身を落としていた。ことの真相を聞いて驚いた半次郎。お藤を追って行くが・・。信州追分に近い街道。江戸から善光寺へ参詣の商人達の一行を、この界隈を取り仕切っているという追分の次郎太郎一家の子分が脅しをかけて、立場茶屋の横で開帳しているデンスケ賭博へ連れてきます。手持ちの金の半分で思いきりよく勝負をしろといってきます。江戸の商人達が脅されて金をかけようとしていたとき、「ごめんよ、ごめんよ、少々ご免なすって」と言い、前方に出て来た旅がらすがいます・・・草間の半次郎です。半次郎「父つぁん、ここかい。取られたのは確か有り金はたいて十両でしたね」父つぁんは上田の城下に年期奉公をさせたお金をとられたというのです。半次郎「いや、分かった」と言うと、商人達に半次郎「勝手を言って恐れ入りやすが、一先ずこちらにおまかせなすって」 (草間の半次郎のカッコ良いところから始まりますよ)イカサマ師の藤五郎が「おやんなさんのかい」と声をかけます。半次郎「問うまでもござんすまい、小判は松井田の宿に、ちゃーんと草鞋を脱いで おりやすぜ」 半次郎の言葉に、藤五郎「さすがは旅人、味な文句を吐きなさるが・・そんなら勝負だ」と言って、藤五郎が盤を回し宗太が針を打とうとしたとき、回っている盤を半次郎が手で止めます。半次郎「おっと待った」宗太 「なにしやがんだ」半次郎「種仕掛けのねえ針なら、誰が打ったって同じこった。この役目は、あっし が引き受けやしょう」宗太 「ばか言いやがれ、こいつは俺の・・」半次郎「まあ、いいってことよ、貸せといったら貸しなせい」 半次郎「そっちが回して、こっちが打つ。ご異存はござんすまいね」 藤五郎が「ねえとも、やってみな」と言って盤をまわすと、半次郎が針を打ち、盤を止めるように促します。藤五郎が盤を止めると・・・。半次郎「そっちの負けだ、置きなせい」藤五郎が十両置きます。 半次郎はその十両を父つぁんに渡し早く行くように言い、江戸の商人たちにも遠慮しないでここは天下の往来だ、早く行くように言います。 半次郎が行こうとすると、次郎太郎一家が取り囲み、子分が半次郎がかぶっている笠を剥ぎ取ったので、「どうしなすった」と言い、藤五郎の方を向きます。 藤五郎が東海道掛川の宿で半次郎に痛めつけられたことを覚えていました。次郎太郎が、縄張りを荒し赤恥をかかせたからにはただではすまないと言ってきます。半次郎「なるほどねえ、追分の次郎太郎親分は、あこぎな人だとかねがねうわさに は聞いちゃいたが、札付きのイカサマ師を抱え込んで、堅気のお人をいじ めるばかりか、白を黒と言いくるめて・・」子分が斬り込んで来ます。半次郎「親分が親分なら、子分も子分だい。生来短気のこの俺に、どうでも腹を立 てさせるきかい」 (縞の合羽での立廻りになります)(ここでは立廻りに小気味よいバックミュージックが流れます。音楽からして半次郎に勝てる相手ではなく、半次郎もまた、真剣にとりあっていないことがわかります) 次郎太郎親分の落した刀で、親分の額に傷をつけます。 半次郎「もし、次郎太郎さん、後日悪事の虫が頭をもたげたときにゃ、その傷を鏡 に映してとっくりとご思案なさいまし、そりゃあきっと旅の人や界隈の皆 さんに、したわれたてられるようになりやすよ。・・笠はくれてやる、 魔除けにでもしな」そう言い、半次郎はその場を立ち去ります。後でこの次郎太郎とかかわり大変な事が起きるとは思ってもいなかったでしょう。 続きます。
2019年12月20日
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「よかったねえ、若」「へい」甲府の町は神輿が出てお祭りで賑わっています。ども安一行は黒駒の勝蔵のところに来ていました。次郎長が相手なら助っ人の方は引き受けたと黒駒はいいます。次郎長は甚八の縄張りを預かるだけ、甚八の仇とども安を斬れば御用となる、だからここまでは追ってこない安心しろと話しているところへ、見張りに立っていた子分から、次郎長一行が甲府に入って来たとの知らせを受けます。次郎長一行が落ち着いた旅籠のまわりを早速黒駒の見張りが取り巻きます。法印大五郎が外の様子を知らせると、鬼吉や石松が喧嘩の用意だけでもしておこうと言いますが、次郎長は「まあ待て、栄次郎さんが来るよ」といいます。石松が、あれだけ親分に言われたのだから、・・鬼吉と大五郎は、あの気性だから来るかもしれない、といいますと、「あの人は、おいらを凶状持ちにしたくねえために、きっとお喜代さんを連れて親の仇ってことにするつもりだと思うんだ」と次郎長は栄次郎の考えを見抜いていました。次郎長一行がいる旅籠が取り巻かれているのを見て、栄次郎は、一人で殴りこむほかないとお喜代に言います。黒駒とども安は料亭に入りました。半次とも会え、その半次が料亭に乗り込む方法があるというのです。栄次郎「そりゃ、なんでい」女歌舞伎の朝駒一座が、今夜余興をやるというのです。 それを聞き栄次郎は、芝居小屋の方を見て栄次郎「ああ、これはしめた」 半次 「知ってるんですか」栄次郎「しってるんでい・・よーし、俺はあの一座と一緒に乗り込むぜい」 栄次郎はお喜代に半次と一緒に何とかして次郎長親分に知らせるように言うと、朝駒一座の小屋に向い、半次とお喜代は次郎長のいる旅籠に何とか入り込むことができ、次郎長に助けを求めます。黒駒の勝蔵とども安は、朝駒一座を呼んで料亭で賑やかに酒宴の最中です。ひょっとこのお面をつけて踊っているのは・・もしやして?栄次郎ではないですか。踊りながら、二人の様子をうかがっています。そろそろ・・・屏風の裏に行った栄次郎・・・その屏風を上げると・・・”喧嘩笠”と書かれた三度笠の支度で出てきます。 「おう」と言い前に笠を飛ばし、黒駒とども安の席へ近づいていこうとすると、子分達が取り巻きます。「慌てるねい」と栄次郎。 栄次郎「見る通りたった一人の風来坊だ、がやがや騒ぐのは見っともねえよお」 と言うと、黒駒の勝蔵に仁義を切ります。 栄次郎「黒駒の親分さんへ、手前は上州大前田栄五郎のせがれ栄次郎ってんでござ んす」 黒駒 「なに、大前田のせがれだ。どうしようってんだ」栄次郎「へい、お前さんご一家にはけっして恨みを持つもんじゃござんせん。 あっしは、このども安を斬りてえんで」 子分達やども安が騒ぐのを黒駒はおさえ「ども安は、この俺が斬らせねえ」と言います。栄次郎「と言われたって、・・俺はども安を斬るんだい」「なに、野郎斬っちまえ」の声でドスが抜かれます。 栄次郎「よーし、それじゃこの栄次郎の息の音がとまるまでは、誰彼なしに斬りま すよ」 その頃、次郎長達もお喜代を連れて旅籠を取り巻く黒駒一家の子分達を蹴散らしながら、栄次郎のいる料亭へと向かっていました。栄次郎一人に多勢ですが、ども安を追いながらのドスさばきはすさまじいばかりです。(カッコいいですよ。) 場面は、料亭の外に移ります。次郎長達がやって来ています。逃げようとするども安は次郎長に遮られひき返しますが、待ち受けたのは栄次郎。次郎長と栄次郎に挟まれ動きが取れず、栄次郎に斬りかかって行きます。 栄次郎の一刀がども安にあびせられます。そして、お喜代は次郎長が支えたドスで仇を討ちます。 「ども安を斬ったのはお父つぁんの仇を討った海老屋甚八の娘とその亭主の大前田栄次郎さんだ。どうおしなさる」と次郎長が黒駒に聞くと、黒駒は「分かった」とすんなり言い引き揚げていきます。 仇を討ててほっとし素直になった栄次郎は次郎長に、栄次郎「清水の」次郎長「うん」栄次郎「ありがとござんした」次郎長「よかったねえ、若」栄次郎「へい」 甲府のみなさんにお騒がせしたことをわびたところへ町方が囲みます。「お役人様、どうぞご存分に、お調べ願いやす」と栄次郎が言い、皆ひざまづき神妙な態度です。 そして、次郎長一家と栄次郎、お喜代、半次、朝駒一座の一行は上州大前田に向かって旅立っていく晴れ晴れした顔がありました。 (完)
2019年08月22日
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俺がけりをつけてえんだその夜の旅籠。隣り合わせの部屋に、栄次郎とお喜代の姿があります。栄次郎「泣くなって、・・・お喜代さんらしくねえよ」そう言われて余計に泣き崩れるお喜代を見て、栄次郎は声を荒げて「お喜代さん!!」と言います。 お喜代が「一緒に大前田へ帰ってほしい」とお願いをしますが、栄次郎は思う通りにさせて欲しいと、「俺って男はどんな好きな女でも、いやにしつこく俺の嫌がることをいわれると、その女が憎くなるたちなんだ」とお喜代に言うと、泣いているお喜代の様子を心配そうに見ながら、栄次郎「頼む、・・これ以上、何も言ってくれんない・・・俺、おめえが・・・」その後の言葉を濁す栄次郎です。 私の立場もあるとお喜代・・何も言うなといっても、嫌いだといっても・・・と言うお喜代に「ゆうのか!」と強い調子で栄次郎の言葉が返ってきます。 栄次郎「じゃ、言いねい。・・おらあ、百万陀羅おめえさんに言われたって、聞か ねえまでだよ」何故聞き入れてくれないのと言うお喜代に、栄次郎「おらあ、おめえさんを嫌いな女だと・・・思いたくねえからだ」お喜代は「ひどい」というと襖を閉めてしまいます。(栄次郎はお喜代の気持ちが分かってはいますが、栄次郎にも男の意地があるのです。) 栄次郎は、お喜代に悟られないように静かに部屋を出ます。半次から貫禄のある親分が子分を連れて富田屋という宿に入ったと聞き、ども安ではないかと出かけて行きますと次郎長一行でした。次郎長一行がども安の居所が分かり支度をして出かけるところに、栄次郎が入ってきます。 栄次郎が仁義を切り始めると、次郎長「大前田の若親分、仁義はいらねえ」栄次郎「じゃ、用件から申します。海老屋甚八の仇は、この大前田の栄次郎が、 きっとうちます。次郎長ご一家にはお手を引いてもらい申してんで」 次郎長「お言葉じゃござんすが、あんさんは大前田の大親分がお待ちかねだ、お帰 りを願います」 栄次郎「おっとう、・・清水の・・親分さん、あっしはおめえさんの指図を受ける 義理はねえと思いますがねえ」 その言葉にムカッとした子分達を押え、次郎長「ごもっともでござんす。だが、おめえさんも次郎長の行く道を、お止めな さる義理はねえはず」栄次郎が1歩2歩後ろに下がります。「お通しなす って」と言う次郎長に、栄次郎は少し考えるが「いやだ」と答えます。次郎長「だだこねちゃあいけねえ、もう一人めえの立派な男になんなすった 若親分が」栄次郎「気に入らねえな、俺はそんな言い方をされたくねえために、今度の事件は どうしても俺がけりをつけてえんだよ」 子分達は石松より強かったら大分助かるし一緒にと言うが、次郎長からは「ならねえ」と。「清水の・・」栄次郎は、抑えていた気持ちをぶつけていきます。 栄次郎「・・・大前田の小倅は馬鹿な奴よとお笑いくだすってもお聞き入れ願 い・・つまらねえ男気から、実はあっしは親父をあんな目にあわせて、事 情も知らずに海老屋さんのうちに草鞋をぬいたんです。甚八親分がご親切 で下すった小銭を、行っちゃあならねえと言われながら、知りもしねえ博 打に出かけて、目がつくままにねえ・・・面白がって遊んでいたために。 ども安に殴りこまれてしまったんです。ほんのひとっびきのちげえでござ んした。・・このままじゃ大前田に帰れねえと心に決めて旅だったんだ ・・せめて、せめてども安の腕の一本も斬らなきゃ」(橋蔵さま得意の長ゼリフです。本当にうまい!!) 次郎長「若、無理だよ」栄次郎「無理と知っても・・清水の・・おねげえだ」 次郎長は「やくざが無理をすりゃ、死ぬだけだ」といいますが、栄次郎は納得しません。次郎長「さっ、どいてくれ」栄次郎「やでい」 栄次郎「ここまで言って分かってくれねえなら、俺を切ってから行け」次郎長は子分達に「勝負は俺がつける」というとドスを抜きます。栄次郎「来い」 次郎長「どうなすった、若、斬る気がねえじゃねえか」栄次郎「斬る!」 次郎長「そんな、斬られようっとゆう構えじゃ、こっちも斬る気がないから勝負に ならねえや」 栄次郎「清水の・・」 次郎長「若、分かってほしい。お喜代さんが可哀想だよ」次郎長「もしも、あっしらがども安を斬れなかったときは、何もかも大前田一家で けりをおつけなすっておくんなせい。お願い申しやす」 外には、栄次郎を追って来たお喜代が待っていました。次郎長はお喜代に「若から離れちゃいけませんぜ」と言って行きます。栄次郎はお喜代に言います。清水がども安を斬ったとしても、甚八親分のしかしにはならない、凶状持ちで御上から追われるだけ・・お喜代がハッとして栄次郎を見ます。栄次郎「なっ、だからよ、もしもおめえさんが傍にいさえすりゃ親の仇ってことになってお咎めがねえはずだ。さあ、一緒に行こう」お喜代「うん、そうでした、いきましょう」栄次郎「うん、うれしいなあ」 半次は一足先に甲府へ、栄次郎とお喜代も仲良く手をとり急ぎます。 (こうと思ったら、次郎長のいうことも聞かない栄次郎です。この後、ども安の居場所を突き止めた栄次郎は、どのような行動に出るのでしょう。冷や冷やしますね。) 続きます。
2019年08月09日
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安っぽい名じゃねえんだい栄次郎がある宿場町に入ると、道中師の半次が侍達の財布を掏り損ねて捕まえられようとしています。茶店で休んでいた栄次郎が半次を助けます。 栄次郎「へっへっへ、勘弁してやっておくんなせい、・・こいつには」 と侍達に言いながら、どさくさに紛れ半次の財布を盗った手を掴み取り返し 栄次郎「へっへっへ、もう、とんだ目にあわされたんですが、(半次のおでこをポ ンと叩き)もう、憎めねえ野郎でしてねえ、へっへっへ、どうぞお許し下 さいやしてお引渡し願いたいんですがてえんですが」と頭を下げますが、侍達の気が済みません。 「ならぬ」「下郎の分際で黙れ」ときたから、喧嘩っ早い栄次郎、栄次郎「うん、なにい、そりゃもう、あっしはやくざの野郎かもしれませんが、お 歴々のお侍が何人もたかって、スリのチンピラ一人斬るのはみっともねえ と思いまして・・・そうでござんしょう。・・・ねえ(ドスの下げ緒を引 き抜き脅し)えへっへ」 侍達は刀を抜いています。栄次郎は、半次の傍に行き、今日は助っ人にまわってやるから、いまのうちにとっととうせろ、と言います。半次が「恩にきます」と栄次郎に言いますと、栄次郎が「どっちに行くんだい」半次が「あっち」と・・半次を逃がすと侍達が斬りかかってきます。 栄次郎「簡単にはいかねえぞ、来い」と言ってドスを抜きます。いい気持ちでドスを振りあげたとき、「ちょっと待った」と声をかける者がいました。 「お待ちなすって」と割って入ったのは清水一家の森の石松です。 石松にも斬りかかったので、喧嘩はこうしてするものだと石松は言うと暴れまくり、侍達は退散します。「よござんしたね、お怪我かなくて」と寄って来た石松に、ニコッとした表情を少し見せた栄次郎でしたが、栄次郎「なんでい、おめえは。横合いから勝手なおせっかいやきやがって、気に入 らねえ」 石松 「こいつは驚いた」栄次郎「てめえは、何処のどいつだい」石松 「いいじゃねえか、おわけえの。同じ無職仲間の仁義だと思って、見かねて 中にへえったまでだ。ねえ、気兼ねすることはねえよ」栄次郎「なにおぅ、へっへぇ、なめんな馬鹿」 石松 「そう、馬鹿は生れつきだい。おめえさんこそ、何処のどなた様か・・名 乗ってもらいたいねえ、ええ」栄次郎「へっ、笑わせるねえ。・・・へっ、てめえなんかに名乗るほど、安っぽ い名じゃねえんだい。・・・斬るぞお、片目の馬鹿」 石松 「ねねねねっ、おらねえ・・片目と馬鹿が売り物の、男の中の男だってこ と、おめえさん知らねえのか?」栄次郎「そんなこと、知るけい」石松 「それじゃ無理だい」栄次郎の「勝負と行こうか」に石松も「うれしいねえ」と言い、二人は身構えます。石松は「育ちは違うが、腕はおめえさんよりは」というと斬り込んでいきます。 石松のドスを払いのけたのを見て石松 「おめえさん、相当やりますねえ」栄次郎「どうだい、腕のほどが分かったら、おとなしくあっさり詫びろい」すると、「詫びるってえことを知らねえ馬鹿なんだよ」と栄次郎にかかって行きます。どっちもどっち勝負はつきません。 石松が「やめた、どうだい五分にしねえか」と言ってきますが、栄次郎「やだ、やだいちきしょう、俺が六分なら手を引かい」石松 「ちきしょうめ、悔しいなあ」 栄次郎「じゃあ、名のれい。片目の暴れん坊で、清水一家の」石松 「おっと待った、」 そのとき、「石」と桶屋の鬼吉が声をかけてきます。「馬鹿やろ」という石松に「馬鹿はお前だよ」と言い、鬼吉は栄次郎に「お前さんに会いたいというお美しい方をお連れしました」と。鬼吉が指さす方を見て、栄次郎「あっ、お喜代さん」石松と鬼吉は、「また会おう」と言って、お喜代と栄次郎の二人にして行ってしまいます。 続きます。
2019年07月25日
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