死なしてみるか・・
夜更けに、小源太の足は柳沢吉保の屋敷向いていました。門前に来た小源太は、邸内から響いてきた 三味の音に足が止まります
。中の様子をうかがおうと、辺りを見廻した小源太が大胆にも 塀を上ろうとしたとき
、待っていたかのように 呼子が鳴り響きます
。
小源太が「しまった」というような顔をし 塀から離れたところで
、町方の捕り手が「御用だ」「御用だ」と小源太にかかっていき、「確かに伊那の小源太だ、逃がすな」柳沢家の家臣達も出てきて小源太を囲みます。
大人数相手に斬り合いに
なります。不意を突かれ 右足を斬られ負傷した小源太
には、今は追って来る捕り手達から逃げることしかできないのです。この騒ぎは一蝶の長屋にまで聞こえてきていました。その様子から、一蝶は小源太のことが気になり「もしや」と思いながら中に入り襖を開けますと、右足の怪我の手当てをしている 小源太の姿があり
、ほっとして急いで 小源太が来ていた着物を隠します
。
長屋の辺りも町方が大勢、おむらと三吉は何事かと自分たちも危ないのではと家の中に入ります。無二斎は周りを気にしながら、家の外にいた一蝶を引っぱり自分の道場に連れて行きます。
何も言わずどうしたらよいか困ったようにしている一蝶に、無二斎が声を押えて話しかけます。外からは呼子が聞こえています。
無二斎「こらあ、 一蝶
、こうなったらお前ひとりで、 あの男を隠しきれんぞ
」
一蝶 「何を言うんだ」
と無二斎を突き放します。
無二斎は一蝶の胸倉をつかまえると
無二斎「おぉい、 まだとぼける気か
」
一蝶が無二斎から視線をはずします。
無二斎「確かに、あの伊那の小源太に・・・おう・・・ (
一蝶から離れ )
・・・ 俺は
似ているぞ
、ほーら」
というと一蝶は無二斎を見て呟きます、「似てる」と。二人の間にしばらく沈黙が流れますが、二人はそれぞれに小源太のことが頭にあったのです。
無二斎「お前は、あの男を生かしておきたいんだろう」
一蝶 「そうだ・・・生かしておきたいんだ」
無二斎「そして、 柳沢を斬らしたいんだろう
」
無二斎の言いたいことが分かり、 一蝶は慌てて制止します
が、無二斎は一蝶の手を振り切り、
無二斎「 言うな
」
一蝶 「じゃ、お前は・・・」
無二斎「 そうだ、死ぬんだ
。・・・おめえと知り合って世を末てゆくぜ。・・
おい、・・・華奢に流れたこの浮世に、こともあろうに道場を開いている
馬鹿もいる」
無二斎は一蝶の肩に手を廻し、続けます。
無二斎「生きて帰れる命なら惜しみもするが、・・・今こそ死んで帰る俺と知った
ら・・・」
一蝶が「無二斎」と言い顔を見つめると、無二斎は体をかわし、そして一蝶の肩に手をかけ顔を覗きこむようにして、
無二斎「 おい一蝶
、 死なしてみるか
・・・・・・ ええ
」
と笑みを浮かべていいますが、一蝶は下を向いたまま何もいえません。
それを見た無二斎が顔色を変え、「何故止める」、と一蝶を責めると、一蝶が「 やだ
」と言ったので、「馬鹿め」と突き放し、呼子が鳴り響いている 外の様子をうかがいます
。
小源太を探して、役人達は無二斎達の長屋に近づいてきていました。
息せき切って家に戻ってきた一蝶が、小源太が来ていた着物をまとめていると、「一蝶殿」と小源太が声をかけてきましたので、急いで襖を開けます。
小源太「もしや、 御身に迷惑がかかるのでは
」
一蝶 「いや、 (
荒い息をしながら )
・・・ ご存知であろう
、 あの島崎
・・・いや何
でもない、何でもない。この家を出てはなりませんぞ、どんなことがあっ
ても」
といい、襖をしめてしまいます。
町が小源太の行方探しの騒動の中、お品は紀ノ国屋の店の前でお千代に会うことが出来ました。
続きます。
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