全186件 (186件中 151-186件目)
江戸っ子は気が短けえんだその夜、料亭花菱には山崎屋に呼ばれた長次が芸者に囲まれ接待を受けています。その頃山崎屋は用心棒の篠原に会い、長次はうまく丸め込むから、必ずお花を連れてくるよう言います。そのお花は、長次を訪ねて”に組”にやってきましたが、長次は留守と聞きすぐに帰って行きます。お花が留守で籐兵衛一人の武蔵屋を同心河津、用心棒篠原、左官徳がお花の帰りを見張っています。料亭花菱に長次を接待した山崎屋と番頭蓑助がやって来ました。長次は盃を受けながら、びっくりするような接待はどういうつもりかと聞きます。長崎屋は何の意味もないと答えます。そして、長次の前に金子を出します。長次「なんですねえ、こりゃ」山崎屋は、夕べのお礼だと言うのです。長次「冗談じゃねえ、火消しにお礼が言いたきゃ、組へ持ってっておくんなさい。 あっしは、こんなもの頂く筋合いはねえ」 山崎屋はこれでは不足と言うのか、と言います。(その時の長次の表情です) 長次「山崎屋さん、見損なっちゃいけねえ。鳶の長次はケチな男だが、ゆすり語り はまだやったことがねえ。あっしはねえ、山崎屋さん、今日ここへ呼ばれた のは、お前さんの眼力の通り、あの倉ん中に油は二百樽も入っちゃいなかっ た、とそう言われるんだと思ってやって来たんだ、違うのかい」 様子がおかしくなったので、蓑助が、旦那は長次の度胸が気に入って、火消になんかしておくのはもったいない、力にもなってやろうと言うのだ、と援護をして来ます。そして、蓑助「それに、好きな娘がいるんなら、それもこれも・・」とまで言うと、長次「はっはっは、こいつはとんだお笑い草だ・・あっしはたとえ千両箱をず らっーと並べたって、受け取らねえものは受け取らねえ。だが、女の子とく ると目がねえんで」 (長次にとっては、待っていましたと言う話が斬り出されました) 山崎屋と蓑助は、これはしめたというような顔をします。そこで山崎屋が「お目当ては・・」と聞きます。長次「えっへっへ、武蔵屋さんの娘、お花さんを頂きてえんで」 蓑助が食膳を叩き「長次」と。すると、長次がすぐさま、 長次「おっと、力んじゃいけねえ。あっしは火消だ。こんな所で酒を飲み過ぎて、 ジャンときた時、走れねえようじゃ申し訳がねえ、じゃこの辺で御免こう むりますぜ」 と言って立ちあがると、「おう」と手を打ち、長次「けえるぜ、勘定してくんな。・・じゃあ、お花さんよろしく頼みますぜ」と言って帰って行きます。 山崎屋が蓑助に「やれ」と言います。 花菱を出た長次が掘割を鼻歌を歌いながら歩いてきたとき、山崎屋のまわした刺客が不意に斬りこんで来たます。 長次「へっへっへ、月は朧に白魚の・・と、セリフの一つも言いてえところだ、 江戸っ子は気が短けえんだ、怪我しねえうちにさっさとけえんな」 長次、棒での立回りになります。一人を捕まえ左官徳らの顔が見えないので締め上げ聞き出します。「武蔵屋だ」と言います。長次「なんだ、武蔵屋だ?」 長次は刺客を蹴散らし、武蔵屋に急ぎます。 武蔵屋には、お花が帰って来たら連れ去ろうと河津、篠原、左官徳が待ちかまえています。長次は間に合いますでしょうか。長次さん、急いで!! 続きます。
2018年03月05日
コメント(0)
ただ焼跡を見たかったもんでひきとめるお花を振りきって 長次は”に組”へ急ぎます。火事は山崎屋の油倉庫です。火事場へ向かう”に組”の仲間に長次が途中で落ち合えました。纒持ちの清三が火口をとるため屋根に上ろうとしていますが火が強くなかなか登れません。長次が目をつけたところは、倉庫の中でした。いきなり用水桶の水を頭からかぶり、燃えさかる倉庫の中へ入っていきます。 “に組”の若い衆がそれを見て、「あぶねえ、兄貴」と近寄り見守るだけの状態の中、長次は何回も体当たりで扉を開け、中にある油樽を割ってみると中は空でした。長次「畜生、空き樽だ」 長次が倉庫から出てきます。政五郎や若い衆が心配していました。長次「頭、心配かけてすまねえ。別に抜け駆けしようと思ったんじゃねえ」 その時、清三があがっているところの屋根が崩れ落ち、清三が負傷してしまいます。他の組が火口をとろうとしているのを見て、政五郎の「火口をとられるな」の声に、長次が動きます。長次 「おいらが預かるぜ」清三 「やってくれるか」長次 「へっ、梯子だ」長次が纒を持ちます。 長次 「頭、さっきの埋め合わせをしますぜ」 梯子を上っていき、纒を振る長次がいました。長次 「一番火口は、に組がもらったぁ」 (この火事場撮影は大変なものでした。別口であとがきでご説明しようかな)翌朝、山崎屋の油倉庫の焼け跡の始末がなされています。同心の河津源之介が現場の取調べに来ています。「浮浪者たちの焚火の不始末のようだ。焼けた油は二百樽と間違いないな」との河津に、「間違いない」と山崎屋が返事をした時、「ほおぅ、」と声が飛んできた方に目をやりますと長次です。長次 「そんなに沢山あったのかね」山崎屋「こりゃどうも、組のかたで、夕べはすっかりお骨折を」長次 「なあに、こっちっとら、ジャンとくるたんびに命を張る火消家業、お礼に は及びませんや」 山崎屋が同心河津の方に目をやります。河津 「その方、今妙なことを申したな」 (この時の長次の表情は厳しいですね)長次 「いゃ、これは御用の旦那で、へっ、何のことで・・」 焼跡を取調べ、山崎屋より油二百樽焼けたことを確かめているのに、多いとはどういう訳だ、と河津が言います。(長次の声の調子が変わります)長次は長崎屋にこう投げかけます。長次 「へえ~・・じゃ、旦那もやっぱり、二百樽とお思いで」長崎屋「ええ、そりゃもう、持ち主の私が申し上げているだから、間違えっこあり ませんよ。どうも飛んださいなんでした」長次 「そうですかねえ・・」 河津になんの用事でここへ入ってきたのかと聞かれた長次は、「別に用ってほどの事じゃねえんで・・ただ焼跡を見たかったもんですからね」と言います。 河津 「それも火消の仕事か」長次 「こいつはどうも。あっしは自分が火の粉を浴びた火事場は、何としてで も、もういっぺん見とかねえと気がすまねえ、悪い癖がありましてね・ ・・いや、どうも、とんだお邪魔を」 と長次が帰ろうとすると、長崎屋が引きとめ、「御上に届けた油樽の数が二百樽では多いというのは、どういう訳だ」と聞いてきました。(その時の長次の表情です) 長次 「こう見回したところ、焼けたまんまで灰まではかたずけちゃいねえ、二百 本からの樽が焼けた灰にしちゃ、ちい~っとばかり少なすぎると思っただ けでね・・(空を見上げて)・・それとも、夜中に風でも吹いて飛びやがっ たかな。へっ、はっはっは、じゃ、ご免なすって」と言うと、颯爽と行ってしまう長次です。 河津が山崎屋に「大事の前の小事だ、あいつに手を打ちましょう」と言ってきます。 続きます。
2018年03月01日
コメント(0)
半鐘だ・・・じゃ、また来ますぜ油商人の倉庫が次から次へと燃え、灯油の値上がりは天井知らずとなり、それにつれ、江戸の町では諸物価が値上がりする騒動が起こっています。油奉行塩沢は「改革をするという水野越前守は、そのうち十組問屋禁止令を強行するかもしれない」と山崎屋に言いますと、八方手をまわし金を撒いて江戸の油問屋を押しつぶしてきたのだから、水の泡にならぬようことを急がねば・・と山崎屋は言います。山崎屋は、手持ちの油は全部運んだ、この計画が思った通りに進めば、ひと月たたないうちに値上がりをするというのです。塩沢は、成功の暁には武蔵屋の娘を・・約束の一つだと念を押すのです。武蔵屋にはお花を差し出せと、山崎屋の差し金で浪人の篠原源内とチンピラの左官徳が来ていました。そこへ「ごめんよ」と長次がやって来ます。 浪人の篠原が「貴様は何だ」と言います。 長次 「ご覧の通りの鳶人足で」 左官徳「どこの馬の骨だか知らねえが、落ち目になった油屋に何の用があるんだ。 それとも娘がめあてか。若僧、この左官徳に楯突くきかい」 長次 「ほっほっおう、おめえが有名な左官徳かい」 左官徳「あったりめえよ。千代田の城を横目で睨みってんだ」 長次 「おや、やぶにらみかい」 (可笑しくて、笑っちゃいますね)左官徳がかっーときた時、篠原が待てと左官徳を制します。 篠原 「火消人足にしてはなかなかの度胸だ」 長次 「御冗談で、やっと手加減覚えたところでさあ」 篠原 「に組の長次ともうしたな、覚えておくぜ」 左官徳「おう、覚えとくぜ」 帰って行った二人を見て、長次は「好かねえ野郎だ」と言います。お花が長次に駆け寄ります。「どうなることか」と思っていたというお花に「無事でよかった」、藤兵衛に「寝てたほうがいいぜ」と言い、座敷に上がります。長次 「体は気をつけなくちゃいけねえな。・・しかし、今みてえなごろつきが 来るんじゃ、おもしろくねえな。・・お花さんだって心配だろう」 お花 「この家に、長次さんのように立派な男の方が、いてくださればいいんです けれど・・」 (お花は恥ずかしそうに下を向いて言います) (長次さん・・お花さんは、あなたを頼りにしている、あなたを好きですと言うことを伝えているのだと思いますよ・・どうします) 藤兵衛からも「良かったら家に来てくださらんか」と言われます。 長次 「いやあ、あっしはに組の部屋住みだし・・」 と言うと、お花が長次の方に近づき、 お花 「長次さん、お父つぁんのためにも、どうぞ家に来てください」 長次 「・・でも、そいつは・・」 お花 「お願いです、長次さん」 (お花は必死になってお願いをしてきます) 長次が「うーん・・」と返事に困っていると、半鐘の鐘が鳴り響きました。 長次「半鐘だ・・・じゃ、また来ますぜ」「長次さん」と言って半纏を掴んでいるお花を振りきって走って行きます。 続きます。
2018年02月25日
コメント(0)
将軍様の目の前で纒を振るまで飲み屋水月のおしまが、長次が顔を出さないのでイライラして八つ当たりをしています。飲みに来ていた喜助が、長次は「夜遊び」に出かけたというのです。 豆絞りの手拭いで頬かむりをした長次が割り堀で釣り糸を垂らしています。夜釣りを楽しんでいる様子ではありません。そこへ、「この油を運んでしまえばこれで終りだ」と油を積んだ荷車が通って行きます。長次は草むらに身を隠すようにして見ていましたが、「油?」と言うと、よーしと言う顔をして、荷車が来た方向へ荷車の跡をたどっていきますと、ある倉庫の前に着きました。「この夜更けに油をか・・」と、倉庫を見ながら呟くのでした。 急ぎ足で帰る途中、武蔵屋の家の中から、言い争う声が聞こえます。長次は、釣り竿と魚籠をおいて、どうしたことかと様子を伺っていると、戸が開き藤兵衛が短刀を持って飛び出してきました。長次は、引き留め家の中に入れます。藤兵衛とお花がびっくりしたように、長次も一体何があったのだと言う顔つきです。 長次をじっと見ていたお花が「まあ、あなたは・・」藤兵衛も「あっ、旅先での若い衆」・・思いがけない再会です。長次「うぅーん、こいつはどうも、おみそれを。そう言えば、旅でお会いしまし たっけね・・・あっしは、今じゃ、に組の長次という駆け出しの鳶人足だ が、袖すり合うも多生の縁だ、いっていどうしたことか、話しておくんな せい」 二人が話すのを迷っているのを見て、旅から帰りついた晩に武蔵屋の蔵が焼けたようだが、と長次がいいます。すると、藤兵衛が、そのことで悔しい気持ちを聞いてもらうのだと言いますが、お花は人様にそんなことを言ってはいけないと、そこで長次が言います。長次「お花さん、おいらも江戸っ子の端くれだ、お役に立つか立たねえか、そい つは分からねえが、片棒担ごうじゃありませんか」 藤兵衛は長次に話します。 山崎屋が、留守中に火をつけたに違いない。その証拠に、江戸中の油屋が瞬く間につぶれてしまった。江戸じゅうの油は山崎屋が全部買い占めている。上方まで行って駆けずり回ったが手に入らない。上方の油は、ほとんど山崎屋が買い占めていた。それらの話を聞き、長次「だがな武蔵屋さん、火事を出したら一応取調べがあるはずだが」 という問いに、浮浪人の焚火の不始末ということだけでそれっきりだったと言うのです。長次「だからと言ってそれじゃ、証拠もねえのに山崎屋を指したりしちゃ」 というと、藤兵衛がそれだけではない、娘のお花を・・娘を油奉行に差しだせば、少しは油をまわすと言ってきたと言うのです。長次「なるほど、お花さんを油奉行にねえ」 (ここから、ラブ・シーン?のようなものになるのかしら・・、清純なと言いますか、とっても愛しくなってしまうシーンになります。中原さんの可愛らしさ、そして橋蔵さまの優しい口調、やさしい眼差し、仕草が、可愛い妹を守るような雰囲気ですから、とても微笑ましいのです) 長次が帰るのを送りに出たお花に、 長次「お花さん、辛いだろうが、しっかりするんだぜ」 お花「はい、遅くまで嫌なことばかりお聞かせして」 長次「なあに・・・それより見たところ、お父つぁんの体は余り丈夫じゃねえよう だ。イライラしちゃ一番毒だ・・・もし困ったことがあったら、遠慮せず に、あっしのところへ相談にくるんだぜ、・・うん?」 お花「はい」「いいね、わかったね」というように、この「うん」の言い方、本当に優しい声でいいのです。是非作品を見て、ニュアンスを感じとってほしいな。橋蔵さま独特のあのいい方で好きですね。あんな調子で言われたら、あなただったらどうしますか。・・この時、長次はお花を愛おしいと思うようになっているのではないかと、私はおもうのですが・・) (ここで長次は「よーしわかったね、いいかい」というように、お花の手を優しく三回小さく触れるのですよ) そして、帰ろうとして 長次「おっと、忘れ物をするところだ」 水桶のところに置いた釣り竿と魚籠をとり長次「この魚をおいていこう。まだピンピンしてるぜ。さあ、お父つぁんに食べさ せてやんな・・いいからよ、食べさせてやれよ(優しい口調ですよ)、ええ」 お花「すいません」 長次「なあに、すまねえことあるものか、それ、えっ、・・じゃお休み」 (「じゃお休み」このニュアンスも橋蔵さまですねえ、いいなあ) 長次を見送るお花、後ろを振り返りながら行く長次、お互いの心が通い合った夜でした。 そっと戻ってきた長次を政五郎が待っていました。話があると言うので居間に入ります。政五郎が、本気で火消しになろう、と組へ入ったのかと聞いてきます。長次は「ゆうまでもない」と答えます。それを聞いて安心したと・・政五郎の女房が一人娘の話を持ちだし跡取りの話になったとき、長次「おっとと、いけねえ。何だか急に眠くなってきたあ。・・おいら、どうも この酒によええものだから・・」 「逃げちゃいけねえ。娘可愛さに頭をさげたら、どうする」と政五郎が言ってきます。はっきりしない長次に、いやならいやと、訳を言ってほしいと言います。「不足はねえが、返事ができねえと言うなら、別な目的があってに組にもぐりこんだのか」と政五郎に言われては、長次も黙ったままではいかなくなりました。長次「それほどまで言われちゃしかたがねえ、何を隠そう、この長次は実は将軍様 の・・・」政五郎夫婦が「え?「将軍様の?」と驚いたので、長次も慌てます。長次「へえ、将軍様の・・いえ、なに・・将軍様の目の前で纒を振るまで、女のこ とはこんりんざい口にしねえ願をたてちまったんで・・」 将軍様の前で纒を振ることは無理なことと言われるが、長次「でも、そう決めちまったんだから、仕方がねえんで」何とかはぐらかして 長次「ああ、いい酒だ・・この位がちょうど寝酒にはいいようだ。じゃ、お休み なせ」 と言い、居間を出て行こうとして振り返り、長次「おお、親方、近いうちに油屋の火事があるかもしれませんぜ」 と意味深なことを言って部屋へ戻るのでした。それを聞いた政五郎「何で、あの謎は・・」と呟きます。 続きます。
2018年02月21日
コメント(0)
筋に合わねえことなら一歩も引かねえに組に入った見習い火消の仕事は、まずは、雑巾がけ、洗濯、薪割り・・と毎日長次は目覚ましい働きぶりでした。 (長次の見習い仕事の雑用で、私の好きなところ2ヵ所です。とても可愛いいの) お夏に頼まれお医者を呼びに行こうとした時、半鐘がなり響きます。に組の若い衆たちが揃います。長次も行こうとすると、お夏が止めますが、政五郎が、火消は親が死んでも火事場へ行くんだ・・長次に「ついてきな」と。長次は嬉しそうです。に組の勢揃いです。火事場に出陣です。 大名屋敷の連中がここから先は、この先は町火消しの出るところではないと、火消し連中を追い返そうとしています。この先も町方火消の縄張りだ、とに組の清三がいきり立ちますが、この先をやがて御家老様が通られる、「貴様たちの出る幕ではない」。喜助が「そっちの都合だけでに組が黙って引っ込むか」と言うと「下種の分際で」と言われ、双方入り乱れますが押し返されてしまっているところへ、仲間をかき分け、忠言達も振りきり長次が出てきます。長次「ええい、まかしとくんな」といい、前に出ておとなしく言います。長次「利を尽くして頼んでるんだ、通してくんな」 しかし、黙れと言って追い返そうとしたので、長次もムカッとし黙ってはいられません。止める藩の者達をちょっと痛め、一人の忠言を蹴飛ばしその上に腰を下ろし、もろ肌抜きます。(ここから、長次の粋のよい台詞をお楽しみください。さすが、江戸っ子橋蔵さまならではのセリフ回しのうまさです)長次「おおう、見損なってもらうめえ。こっちとらあな、てめえ達みてえな、ケチ な料簡でやっちゃいねえんだ。おう、耳の穴かっぼじって、よーく聞きやが れ。千代田のお城を横目で睨み、神田水道の水で産湯を使い、おがみづきの 米を食って、日本橋のど真ん中で育った江戸っ子だ。筋に合わねえことなら 一歩も引かねえ。殿さんでも家老でも、束になって呼んで来いっ」 火消したちも勢いづいてさけびだしたので、それを見て、「どうしてもいかんと言うのではない。通ってもよい、通ってもよいが、あまり大声で騒ぐな」と折れてきます。長次「へっ、そう来なくちゃいけねえ。話が分かれば何でもねえことだ。・・ さあ、清兄い、纒をふった・・に組のお通りだ」 火消したちは気勢を上げて走り出します。火消しとなって入りたての長次は、この件ですっかり男をあげたのです。に組の若い衆は長次を担いで隣の飲み屋水月に繰込み賑やかにしています。月が綺麗に出ている物干し台に出て酔いを覚ましている長次がいます。そこへそっとやってきたお夏が長次に声をかけます。(いい雰囲気のバックミュージックが流れ、長次は少しお酒が入っているし、長次を好いているお夏が来たのですから、普通はここで二人の間に恋が芽生える会話になるはずなのですが・・・まるっきり、長次はお夏にはつれない素振りで、はぐらかす状態を取っていきます。長次はに組に入って目的にだけまっしぐらなのです) お夏「あら、こんな所にいらしたの」長次「酔いを醒まそうと思いましてね」お夏が夜空を見て「いい三日月様だこと」と、長次の気を誘いますが、長次「いい月悪い月って、別に区別はねえけれどね」 お夏「うん、意地悪」そして、お夏は、その内長次さんは何処かへ行ってしまうのではないか、とお父つぁんが言っていたが本当、と聞きます。長次「さあ、当分は御厄介になるつもりでさあ」お夏は「その方がいいわ」と、安心したようにうれしそうに言います。お夏は積極的です。だんだん長次の傍に近づいて行きます。お夏「こうしていると、お江戸の夜が夢みたい・・ねえ、長次さん」長次「とんでもねえ、こう見えたってこの下には、悪いことをする奴やそのお蔭で 泣いている人が大勢いるんだ」 お夏が拗ねたような顔をしていましたが、気を取り直して、明日浅草にお参りに一緒に行ってほしいといいますが、はぐらかす長次です。長次「それよりむ、お夏さん、早えとこお休みなせい。夜風は毒ですぜ」お夏は「知らない」と行ってしまいます。その様子を見て大笑いします。 (ちょっとお夏の身になれば可哀想ですね) 続きます。
2018年02月18日
コメント(0)
作品に、橋蔵さまの鳶姿が初めてお目見えしたのがひばりさん、大友さんとの1957年1月封切の火消し役「大江戸喧嘩纒」でした。そして、同じ年の12月に今回のカラー作品「花吹雪鉄火纒」が作られました。粋で鯔背な伝法肌にきびきびした江戸弁は、江戸っ子の橋蔵さまにピッタリです。江戸っ子とくれば時代劇では火消しの役柄は最高にカッコいいものです。「花吹雪鉄火纒」では、初顔合わせの中原ひとみさんとの共演。清純な町娘をお兄さん的な気持ちで守っていく優しい長次さんという感じです。ちょっと物足りないところがありますね。相手役に決まっていた中村雅子さん(女優望月優子さんの年の離れた妹)が出演できなくなり、中原さんになったということです。中村さんが相手役だったら、作品がもう少し長次との絡みに重みがあったかもしれません。この作品のラスト「に組の長次」としての纒振りは、圧巻です。歩きながらの腰の入った綺麗に振られる纒、このように纒を振った作品は、他にはなかったのでは?・・橋蔵さまだから出来たのではないか、と思います。 「緋ぼたん肌」あたり?から、橋蔵さまは自分の持ち味を出すのが上手くなって来たような気がします。立回りはまだ完成されてはいませんが、「喧嘩道中」のやくざもので立姿や今までと違った立回りをやって上手くなってきています。だから、この「花吹雪鉄火纒」は安心して見られ、橋蔵さまの色気も表情も綺麗ですし、立回りも安心して見られましたよ。 12代将軍家慶の頃、幕府の財政は極度に乱れ、庶民は生活の苦しみに喘いでいた。江戸の物価はうなぎ上り、中でも油の値上がりは天井知らず。そこに目をつけ営利を貪ろうと油問屋の山崎屋は買占めを企て、油奉行塩沢と結託して、邪魔な油問屋を取り潰していきます。武蔵屋のお花と父は上方から帰ってきた日に、自分のところの倉庫が炎上するのを目のあたりにします。武蔵屋父娘と道中で一緒だった「に組」の長次は火事を不審に思い、事件の解明に乗り出します。ご法度の刺青をして水野越前守の密命を受けた直参五千石皆川遠江守が、長次となって町火消し「に組」に入り込み、纏持ちとなって相次ぐ油問屋の火事の究明、悪人一味を懲らしめるという、勇み肌と小気味よい啖呵の江戸っ子橋蔵十八番の華麗で痛快な娯楽作品です。◆第31作品目 1957年 12月28日封切 「花吹雪鉄火纒」 に組の長次 大川橋蔵お花 中原ひとみお夏 松風利枝子武蔵屋藤兵衛 薄田研二岡部能登守 加賀邦男板前の紋三 岸井明水野越前守 岡譲司山形屋持介 山形勲河津源之介 吉田義夫清三 徳大寺伸篠原源内 阿部九州男に組政五郎 加藤喜喜助 星十郎 番頭蓑助 富田仲次郎左官徳 中村時之介へえ、長次と申しやす 江戸も近い晴れわたった街道筋を、粋な旅姿の長次が周りを見渡しながら、鼻歌まじりであるいてきます。芝居一座とも手をふり呑気に楽しそうに歩いています。(橋蔵さまが歌っています・・・上手い下手は別として・・いい声ですよ)♫空は日本晴れおいらの旅は 西と東へ泣き別れ ♪ぶらりぶらりと街道すじを 喉が自慢の木遣り節 木遣り節♪聞いておくれよ三日月さんへ 恋がないとて泣くものか ♪お月様さへ一人でござる 思い出すまい薄情け 薄情け 橋を渡ったところの道端で一休みしている父娘連れがいます。 (油商武蔵屋の藤兵衛とお花です)長次は、「お先に」とにこやかに声をかけ、一足先に江戸へ向かいます。(この「お先に」のニュアンスがとても良いのです・・橋蔵さまの色のある声、明るさ、優しさが長次のこのセリフから伝わってきます) この父娘と長次は上方からずっと一緒のようでした。♫纒持つ手はだてには振らぬ 負けちゃならない心意気♪さっとふれふれ纒よ踊れ ・・・ (Youtubeにここまでの歌のところがありますので、下記に動画を掲載しておきます。橋蔵さまの長次の明るい素敵な笑顔をお楽しみください。動画が削除された時はゴメンナサイ) 武蔵屋父娘が江戸の町に入り、もうすぐ家に着くという時、ジャンジャンと半鐘がなり響きます。「火事は何処だ」と民衆がどっと夜空を赤く染めて炎が上がっている方へ。その中に、顔色を変え夢中で走って行く藤兵衛の姿があります。お花が藤兵衛を追いかけます。民衆の中に長次の姿もあります。先へ行こうとしていた藤兵衛が整理をしている役人に止められます。追いついたお花に「燃えてしまったよ、だいじな油がみんな。折角帰って来たわしの目の前で」と藤兵衛は泣き崩れてしまいます。 人混みをやっと掻き分けて来た長次は夜空の炎に目をやった後、泣き崩れている武蔵屋藤兵衛とお花の姿に目をとめます。( 焼け落ちる油屋の火事を見つめている長次の胸中には、何かしら事件の重大さを感じとっていたのです) その火の手を眺めながら芸者たちが川開きのようだとはしゃいでいる料亭花菱の屋敷では、油問屋山崎屋茂助、山崎屋の番頭蓑助、同心河津源之介、そして油奉行の塩沢播摩守が揃っています。油奉行塩沢は同心河津に「これから忙しくなるな」と、番頭蓑助は「どうやらこれで江戸の方は全部片付いたようで」と言ったり、大きな企みがあるようです。ところで、上方から江戸へ入った長次とは何者なのでしょう。油屋が燃えて泣き崩れる武蔵屋を見たときの長次の表情は、ただ者でないような気がします。 武蔵屋の油倉庫の火事騒ぎから数日経った日、火消しの”に組”の土間に座っている長次の姿がありました。頭の政五郎と纒持ちの清三がやって来ます。政五郎「おめえ、どうしても火消しになりてえのかい」長次「へえ、子供んときから火事が好きで、出来ることなら・・に組の纒の下で働 きてえと思いまして」 火の粉を浴びて命をはった稼業、そうは簡単にはいかない、と政五郎は言うが、長次「承知してやすんで、是非ひとつ、へい」と頭をさげた長次に、喜助が息がって声をかけてきます。(ここから星十郎さんの喜助と橋蔵さまの長次のやりとりになります。若さま侍依頼の共演者ですし、江戸っ子弁も堪能なお二人の会話場面は、歯切れがよく気持ちが良いのです)喜助「やいやいやいやい、おっ、若えの」長次「へい、何です、おあにいさん」喜助「おあにいさんだなんて、いひっひっひっ。・・・やいやいやい、若えの、 おめえそんな、なまっちょろい面しやがって・・火消しってえのはな、何し ろ体張った仕事なんだぞ」長次「へっ、・・・それで」 簡単にあしらわれた喜助は、「覚悟はつけて来たのか」と長次にくってかかるように言います。長次「へえ、そいつはもう」長次の表情は、喜助の言うことを楽しんでいるようです。(喜助さん、からかわれていますよ) 喜助「おつ、口だけじゃいけねえ」と言って片腕脱ぎ、二の腕の彫り物を見せこうした我慢を堪え忍んでやる、男の仲の男がやる仕事だと言うのです。長次「あっしもそのつもりで・・いえ、嘘だと思いなさるんなら」と言うと、長次は両手を懐に入れ長次「この身体にきいておくんなせい」といってもろ肌を脱ぐと、背には見事な竜の入墨が彫ってありました。に組の若い衆たちはびっくり。 政五郎はちょっと渋っていたが、それを見ていた娘のお夏が長次を気に入っての口添えに負け、「辛抱してやってみるか」「へい、長次と申しやす」、長次の”に組”入りが決まります。youtubeより動画「花吹雪鉄火纒」 続きます。
2018年02月14日
コメント(0)
源次郎確かにお預かりしてまいりす 三日月が出ている夜です。仲良くお参りする二人の姿があります。源次郎は、明日一日何も起こらないようにお願いをします。源次郎「どんなに立派になって帰ってくるか、子供のように待ち遠しいなあ」(本当に弟思いのお兄様です)急に降ってきた雨の中を源次郎とお梅は帰ってきていました。雨に濡れた源次郎の髷をお梅が結いなおしています。源次郎「明日は止んでくれねえかな。天気じゃねえと・・」お梅 「大丈夫、お天気ですよ。あんなに毎日お参りしていたんですもの、日本晴 れに決まってますわ」源次郎「そうだ、明日は日本晴れに決まってらぁ。なあ」そんな、他愛のない会話をしていたお梅ですが、お梅 「でも・・」源次郎「でも?」お梅は心配なのだと呟きます。源次郎「何が?」 お梅は、明日徹之助の晴れの姿を見たなら、またお屋敷へ帰りたくなるのではないかと、心配しているのです。源次郎「馬鹿な、弟は弟、俺は俺だ」お梅はその言葉を聞いて嬉しそうにしますが、やくざの暮らしが嫌になる時が来ると言います。源次郎「そんなことはねえ、おいら・・・おいら、何処へも行かねえ。生涯やくざ で暮らすことに決めたんだ」お梅 「ほんと、本当でございますか」 源次郎「本当だとも。その証拠見せてやろうか」お梅 「見せて、見せてください」と源次郎にせがむように近づきます。源次郎「その証拠は・・これだよ」と言い、片腕を脱ぎ、もろ肌一面に彫った刺青を見せるのです。源次郎「この刺青は、二度と侍に帰らないためのだ」 お梅 「ずっとうちにいてくださいますのね、私嬉しい、嬉しい」と言い、源次郎に抱きつきます。その様子をおきんが向いの廊下から見ていました。おきんは眠っている伊太郎に、源次郎さんは、坊の父ちゃんにならない方が幸せだと思う、お梅ちゃんのためにも・・と泣き崩れるのを聞いてしまったお梅は、おきんも源次郎を好きなんだということを知ったのです。 (ここの場面はこの作品の大切な一つだと思うのです源次郎がきっぱりと武士を捨てる覚悟の刺青を見せるところですから。しかし、お梅の嬉しさが伝わってこないのです。大川恵子さんの嬉しさを表すタイミングが少し早すぎるし、純心さは分かるのですが、感情・表情が少し気になってしまいます。橋蔵さまの刺青を彫ってまでもの源次郎の決心の場面が、橋蔵さまがその気でも・・ちょっとだいなしのような気分で悲しくなります。、純情型を表現はわかるのですよ) (よくあるのですよね、一人の人を姉妹で好きになってしまうということが・・・でもね、源次郎はお梅に初恋ですし、外に生まれた子であっても、旗本の子で、子供のように弟と仲の良い人間性です。まだ大人の酸いも甘いもかみ分ける人生は経験していないでしょう・・今、初恋に夢中ですものね) 徹之助が江戸へ帰ってくる日です。身支度を整えた源次郎が出かけようとしています。お梅 「気をつけてね」 (元気なく言います)源次郎「なーんだ、一緒に来てくれねえのか」お梅 「ええ、伊太郎があんなに楽しみにしているんですもの、どうか、姉さんと 一緒に連れてってあげてください」 (夕べのことがありますから、お梅も喜んで源次郎について行くわけにはいきません)おきん「お梅ちゃん、坊を一緒に連れてって。頼むわ」(おきんの方もお梅と源次郎が思いあっていることを分かっていますので、自分は手を引くということですね)おきんを追ってお梅が行きます。源次郎は、どうしたのか、さっぱり分からない様子です。(源次郎は、この様子を見ていても全然気がついていない・・・気がついていたら、吉六の家はとっくに出ていますでしょう・・) その頃、戸田のところでは、浪人たちを集め徹之助の行列を東照宮の参道で襲いえ、平之進には源次郎が行列を出迎えるのは必定、来ては面倒になる、まず源次郎を斬れと言います。行列を見に楽しそうに、源次郎は伊太郎とお梅と一緒に行かけていきます。やくざを数人連れた平之進は、橋のところで待っていた長五郎達に、吉六のところへ殴り込みをかけ、源次郎をやっつけると言い急ぎます。それを橋の下の舟で釣りをしていた花川戸の仁三郎が聞いていて、源次郎に伝えようと急いで向った途中で源次郎に会います。 仁三郎「おう、源次郎さん、あぁよかったよかった。会わなかったかい」源次郎「合わなかったとは」仁三郎「いや、おめんちへ、殴り込みをかけると言って、長五郎達が知らねえ侍 と」源次郎「侍と?」 花川戸「うん」お梅 「では、姉さんとお父つぁんが」源次郎、一瞬考えて、仁三郎に礼をいうと、一目散にかけていきます。(橋蔵さまは作品の中で走ることが多いです) 吉六の家では、平之進達が源次郎を探し暴れまくっています。源次郎が駆けつけた時には、吉六とおきんが斬られた後でした。平之進「源次郎だな。平吾の弟平之進だ、いざ」源次郎「来い」 徹之助の行列を迎えるために大草主膳とさよ、三谷小十郎と千種が待っていますと、浪人達が、徹之助の駕籠を囲みます。 源次郎の方では、平之進を斬り、花川戸の仁三郎が子分を連れて駆けつけます。仁三郎「おう、源次郎どの」源次郎「親分、」お梅 「さあ、早く、弟様の行列お出迎えに」源次郎「それじゃ、あとのこと、頼みましたぜ」今度は徹之助の行列を追って源次郎が走ります。徹之助の方でも大変なことになっています。東照宮の前での光景を見て、源次郎は徹之助を探します。徹之助を見つけました。 源次郎「徹之助」徹之助「兄上」主膳 「あれは、源次郎でないか」源次郎は途中、片方の身ごろを脱ぎました。それを見て、徹之助も主膳たちもびっくりします。 (大立回りです) 徹之助「兄上」源次郎「早く行け。お前の役目はまだ済んでおらぬはずだ」徹之助「しかし、このように多くの者を痛めましては、もはや」源次郎「馬鹿を言え、喧嘩の相手は、この緋ぼたん源次だ。お前の知ったこっちぁ ねえ」 (やくざ仲間では”緋ぼたんの源次”と呼ばれるようになっていたのですね)徹之助「兄上」源次郎「行けといったら行かねえか」 そう言うと、源次郎は主膳とさえの方に目をやりってから、徹之助に言うのです。源次郎「行って、年老いたご両親に、不幸ものに代わってお仕え申すんだぜ」徹之助「兄上、・・・」 源次郎は、その場から走り去ります。主膳とさえの「源次郎、源次郎」の呼びかけをも振りきって・・。 股旅姿の源次郎が江戸を離れようとしています。花川戸の仁三郎が途中待っていました。源次郎「おう、親分」仁三郎が、源次郎に預かってほしいものがあるといい、土手下の方に手招きをします。 源次郎「おう、坊や」お梅もいました。源次郎「お梅さん」 伊太郎は、おいらのお父ちゃんになってほしいと縋りついてきます。源次郎「よし、そーれ、泣くなよ、坊や、男だろう、男は泣くもんじゃねえ。 さあ、元気を出して一緒に行こう、なあ」 伊太郎「うん、お姉ちゃんも」お梅は黙って源次郎の顔を見つめる「一緒に・・」と言うように、源次郎もお梅の気持ちを読み取るように見つめます。源次郎「親分、源次郎、確かにお預かりしてまいりやす」 仲良く旅に出る三人の姿がありました。 (完) 兄弟愛、家族愛を盛り込んだ「緋ぼたん肌」どうでしたか。 弟役の片岡栄二郎さんと兄役の橋蔵さま・・とても仲の良い兄弟の雰囲気が出ていました。掲示板の方に、「緋ぼたん肌」の撮影時のエピソードを書いていますので、こちらには書きません。 お読みになっていない方は、是非ご覧になってください。 下記の3箇所をクリックしていただくとお話(1)(2)(3)がそれぞれに読むことができます。 1381 1389 1401 次回は、橋蔵さま初めての「水戸黄門」で格さん役で出演になります。
2017年10月22日
コメント(1)
徹之助、おめでとうお梅を迎えに向島に行った帰り道、お梅から、徹之助が日光修理奉行になったことを知らされます。源次郎「よかった、よかった。父上や母上が、さぞお喜びであろう」 お梅は、日光に行けばしばらく会えなくなるので一目でも会いたいと言っていたことを告げます。源次郎「そうか、わしも会いたい。弟の晴れの門出を一目よそながらでも送ってや りたい」お梅は源次郎のことを徹之助に言おうと思ったが・・でも、そうしたら、お屋敷から迎えが来て、二度と会えなくなると思って・・と、慕っているという遠回しの告白を源次郎にするのです。源次郎「馬鹿な、おいらが、侍の世界に帰るとでも思っているのか」 お梅 「では、いつまでも、わたくしの所に」源次郎「うん」と言葉には出さず、首を立てにするのです。(源次郎もお梅が好きになっていたのです。お梅を好きだからどこにも行かないというのです。二人は相思相愛になっていました)二人は、徹之助の役目が無事勤まるよう神社にお参りをします。 大草家では小谷小十郎と千種達が集まり、明日、日光に発つ徹之助の祝宴が開かれています。徹之助は「今宵の晴れの姿を兄上にひと目見てもらいたい」と兄を思いながら舞っています。その舞の様子が外に聞こえています。源次郎が門の近くまで来て屋敷から聞こえる謡いを聞いています。(源次郎には迷いがあるように見受けられます。会って徹之助にお祝いを言ってやりたい・・でも・・弟が本当にかわいいのですね)源次郎「徹之助、おめでとう、おめでとう」 源次郎「徹之助、成功祈ってるぜ」 源次郎が、大草家から帰ろうとした時、喜平次が源次郎に気づきます。「若さま」と声をかけられ、源次郎は足早に立ち去ります。 喜平次は急いで知らせに行きます。「源次郎様にそこで」・・・徹之助は兄上と呼びながら探しに出ていきます。その声が、源次郎に聞こえ足を止めますが、塀に隠れて出て行こうとはしませんでした。徹之助はずっと兄上と呼んでいますが、源次郎は、徹之助の姿を陰ながら見て、そしてその声を振りきるように我慢するのです。 源次郎が神社にお参りをしていると、おみくじを振る音がします。おきんと伊太郎です。源次郎「馬鹿だなあ、そんなもの信じているのか」引いたおみくじが大吉だったので、おきんは嬉しくなり源次郎に見せようとします。が源次郎は連れない素振り。源次郎「何だ子供みたいに。おみくじなんてものは、大抵吉に決まっている もんだ」願い事かなう、縁談整う、とあるので、おきんにとっては嬉しくてたまらないのです。(源次郎が好きなおきんには、縁談かなうは信じたいことなのです)長五郎のところに戸田平吾から源次郎を探すように言われていた押上の平助が来ています。源次郎の様子を探っていた金五郎は吉六のところにいるのは大草源次郎に間違いないと言います。そこへ、戸田平之進がやってきました。源次郎はやくざにまで落ちぶれたかと言い、押上の平助と長五郎達で始末をつけてくれるよう言います。平之進は、急いでることがある・・日光から帰ってくる徹之助を斬らなければならなくなったのだ、と言います。 (ここからは、お梅の姉おきんと源次郎の会話になります。おきんの気持ちを知ってか知らないでか・・・おきんの気持ちが汲み取れない源次郎です。可哀想です、女心が傷つきます)源次郎がいる部屋では、源次郎が仕立て上がった着物に袖を通しています。おきん「まあ、よく似合うこと」源次郎「ありがとう。とうとう出来たな」 おきんが帯を直しに近くへ行った時、源次郎「おや、めずらしいな。白粉をつけてるじゃねえか」 おきんは今気がついたのかと、恥じらって源次郎から離れます。源次郎「うーん、はじめて見たが、化粧をするとなかなか美しいな」白粉は嫌いだがお梅のをもらってつけたのだ、と言います。源次郎「おう、髪もゆったんだなあ。見違えるばかりに美しいぜ」おきん「お世辞を言われると本気にしますよ」源次郎「世辞じゃねえ、本当だ。・・見ろ、伝六があんなに見惚れているではねえ か、ええ」伝六に褒められようと思ってしたのではない、とおきんは言います。源次郎「そうかい、そんないい人があったのかい」いくら思っても、先では何とも思ってくれないと、悲し気におきんが言います。源次郎「馬鹿な男だなぁ。もっとも、今日のおきんさんを見たら、どんな男でも考 えなおすだろう。あっはっはっは。おうおう、見ろ、子分達がびっくりし て、あんなに惚れ惚れと見ているぜ。あっはっはっは」おきん「子分達に見られたって、嬉しくも何ともありません。誰に褒めてもらうよ り、たった一人の人に、喜んでもらいたい」 源次郎「その、果報者は誰だ」おきん「言わなきゃいけませんか」(女心をくみ取れない源次郎さん?・・本当におきんさんの気持ちを少しでもくみ取れないのです。気がついていたら傷つくようなこのような言葉は出てこないわね。源次郎さん、自分も好きなお梅さんのことだけしかないのかしら。お梅さんが自分を好きだということは分かったのに・・) そこへ、お梅がやって来ます。徹之助が日光から帰ってくるという良い知らせでした。無事役目を済ませて、明日江戸に帰ってくると言うのです。源次郎は「よくやった、よくやった」と嬉しさいっぱいでした。その夜、伊太郎がおじちゃんに父ちゃんになってほしいと、おきんに言います。おきんは、父ちゃんになってとおじちゃんに頼むと、伊太郎に約束をします。伝六から若親分ならお梅ちゃんと一緒に、弟のお礼参りに出かけたと聞かされ、この後、神社で大吉と出た望みは完全に絶たれてしまうのです。 続きます。
2017年10月18日
コメント(0)
忘れたよ、昔のことなんぞは ある日、あやめ茶屋のお梅のところに、戸田平馬の弟平之進たちがやって来て、お梅に平馬を斬った源次郎の顔を覚えているであろう、源次郎はあれから来ていないかどうか聞きただします。お梅は「来ていないと」首を振ります。源次郎が来たら必ず知らせるよう、平之進はきつく言って帰ります。家に帰ってきたお梅は、横になって寝ている源次郎に、そのことを言おうか暫く迷っています。寝ている源次郎に半纏をかけようとして覗くと、源次郎は寝てはいませんでした。お梅 「また、お屋敷のことを、思い出していらしたのですね」源次郎「ふん、忘れたよ、昔のことなんぞは」 お梅 「いえ、忘れてなぞ。若さまは、こんな所になんぞいらっしゃるお方では ございませんもの。そりゃ、ご両親のことや弟さまのことが」源次郎「よしてくれ。・・・おう、祭りの景気はどうだ。ちょっと、稲荷のようす を見てこようじゃねえか」 (源次郎の横になっている姿、脚の先まで綺麗だと思いませんか。この体制で足のつま先まで美しく、橋蔵さまの色気が出ていますね。見惚れちゃいます、素敵だなあ)吉六の賭場は源次郎のおかげで盛大です。おきんと息子の伊太郎も顔を出しています。源次郎とお梅は仲良く吉六の賭場の近くまできた時、戸田平之進達の姿を見つけたお梅が、源次郎を路地の方に連れていきます。今日、店の方に来たことを言います。お梅 「源次郎様、いつまでもいつまでも、あたし達と一緒にいて」源次郎「そうはいかぬ。今夜の稲荷の盆さえ無事に済めば、縄張りはもう山谷に 帰ったのも同然。これ以上厄介になっているわけにはいかぬ」 お梅は家にいてくれ、まさかやくざの家に直参の若様がいるとは誰だって思わないと。伊太郎とおきんが賭場から二人を見かけてやって来た時、賭場の方で騒ぎが起こりました。源次郎が向かった時、伝六が「若親分、大変だ」と走ってきます。橋場の長五郎が殴り込みをかけてきたのです。源次郎が急ぎます。源次郎「長五郎、ひとつ穴のむじなどもを語らってやって来たか」長五郎「何だと」源次郎「へっへっへ、お前たちの目指すのは、わし一人であろう。わしを斬れば、 稲荷の盆はお前たちのものになる。他の者に手をだすな」 一人で立ち向かう気かと言ってきたので、源次郎「何十人でも、かかってまいれ。境内を血で汚すは恐れ多い。好まぬ殺生」と言うと、近くにあった祭り提灯を刀できり、提灯を立てていた棒を抜いて立ち向かいます。(啖呵をきると侍言葉がまだでる源次郎です)(立回りになります) 長五郎を追い詰めて行った時、「待った、待った」という声がして、花川戸の仁三郎が「この喧嘩は預かる」と割って入ります。源次郎に、不足だろうがこの喧嘩を任せてくれないか、と言うのです。源次郎「長五郎さえ良けれりゃ、もとよりことはこのまぬ」 仁三郎「へっ、有難う存じやす。じゃ、身内の衆をおまとめなすっておくんなさ い」源次郎「身内、・・そのようなものはおらぬ」仁三郎「じゃ、おめえさん一人で、これだけの・・。おう、橋場のおめえもまか してくれるだろうな」長五郎は気に入らなかったが、花川戸の親分に入られたのでは、としぶしぶ手を引きます。(源次郎は、姿は刺青も彫ってやくざですが、やはり武士なのですよね。それが言葉のはし橋に・・でも、それが源次郎らしくていいですね)将軍家が吹上御苑での徹之助の試合を覚えていて、日光修理奉行に就任しました。気に入らないのは、戸田越前守、前々から願い出ていたにも関わらず若輩者の徹之助に取られたと、根に持ちます。やくざを使って源次郎を探しているようです。源次郎はもとより徹之助もこのままにはしておかないと。徹之助が日光修理奉行を無事果たした後には、千種の父も二人婚礼を許してくれることになったようです。徹之助は日光へ行けば半年は帰れなくなるので、源次郎の消息が分からないことを心配しています。徹之助はあやめ茶屋に立ち寄ります。お梅に、あの斬り合いの時に世話になってお礼にもなかなか来れなかったと詫びます。お梅は徹之助に「お兄様のご消息は?」と聞くのです。徹之助は、日光へ行くことになったので、心配しているのだが・・といい残して帰って行きます。(お梅は、源次郎の行方は分かっていないのだろうと確認するために、徹之助に聞いたのでしょうが、徹之助は本当に兄の事を心配しているのだから、お梅のところで匿っていることを教えてあげたらと思ってしまいますね。・・・でも、お梅にしてみれば、源次郎に”好きだ”いつまでもいそばにいてほしいという思い慕う気持ちがあるので・・・源次郎にも言うか言うまいか思案のしどころになります) 続きます。
2017年10月13日
コメント(2)
騒がしてすまなかったな。ごめんよ川端で源次郎の懐から掏った財布を返したとき、おきんがお金が必要なのでつい掏ってしまったと言った言葉が気にかかり追ってきて、吉六の家の前でもめ事を聞いてしまった源次郎としては放っておくわけにはいきません。 金五郎「誰でい、てめえは」源次郎は笠をとり、土間に上がります。源次郎「誰でもいい、おまえは金さえ受け取れば文句はあるまい」金五郎が財布を取ろうとしたとき、源次郎が足で金五郎を蹴飛ばします。源次郎「こちらの借りを返す前に、そちらの借りも返していけ」吉六から奪った縄張りとやらを返してからお金を持っていけと言います。金五郎は途方もないことをいうと、ドスを抜いて源次郎にかかって行きますが、侍の源次郎に勝てるわけがありません。 「動くな、動くと斬るぞ」の言葉に「斬れ、斬りやがれ」と言う金五郎。源次郎「ほっほう、斬られたいか、・・これは面白い。望みなら斬って使わす。 (侍言葉?ですよ)だが、命は取らんぞ。鼻をそぐか、耳を落とすか、望み を言え」 金五郎「まっ、待ってくれ」源次郎「命が惜しければ、帰って縄張りを返してやれと、お前の親分に言え」金五郎はそんなこと言うもんかと言ったので源次郎「そうか、それでは好まぬ殺生だが、ちょいとお前の鼻を・・」顔の前に刀を持って来られた金五郎は、言うから助けてほしいと・・・耳を掴み、「忘れるなよ」と源次郎・・・金五郎は慌てて退散していきます。 吉六がお礼をいい、おきんにもお礼をいうように言います。「先ほどは」と言いその後を言おうとするおきんに、源次郎はあとは言うなというように首を小さく振り合図をし、話を変えるように・・・なかなか広い家だが、ここに親子二人で住んでいるのか、と吉六に聞きます。吉六は、おきんの下に妹が一人いるが、まだ帰ってこないので、子分を迎いにやっていると言います。子分の伝六が迎えに行ったはずのお梅が一緒ではありません。店で侍同士の喧嘩があったというので番所へ行っているというのです。それを聞いていた源次郎がびくっとします。そうしているところへ、お梅が帰ってきます。振返った源次郎はお梅を見て・・・この表情です。お梅は源次郎を見て「あなた様は」・・・と。(この二人、あやめ茶屋で顔を合わせていました。源次郎はお梅を見て「あっ、あなたでしたか」というような、お梅は複雑な気持ちでいるのでしょう) おきんとおうめの姉妹は、助けてもらったが、ここにいては長五郎達が仕返しにやってくる、すぐにここを発った方がいいと言うのです。源次郎「わしが発ったら、そなた達はどうする」姉妹は顔を見合わせうなだれます。源次郎「そなた達は、無慈悲にこの家を追われているのではないか。・・あの病人 をかかえて、何処へ行こうというのだ」(源次郎は、この姉妹に同情心を持ったようです・・何を考えているのでしょう。その考えは??) 橋場の長五郎のところでは、子分達が喧嘩支度をしています。長五郎は、源次郎の足腰がたたないように、だが死なないように撫でて来い、そして吉六を叩き出せ、と言います。子分も、吉六の代わりに源次郎の腕を叩き斬ってくると息巻いて出かけようとしたところへ、「待て」という声が。(この時の音楽が、源次郎只今参上、といった感じです。後ろ姿からやくざのように見えますけれど、声は確かに源次郎さんです)源次郎「わざわざ来るにはおよばねえ。俺の方から出張って来たぜ」(あっ、やっぱり、源次郎さんだ。しかし、やくざ姿?どうしちゃったのでしょう) (ここからしばらくやくざになった源次郎さんの粋なセリフと殺陣に酔いしれてください。ちょいとやくざ言葉が上手すぎますが・・そこは映画です)源次郎「さあ、耳でも鼻で落とされる気でやって来た。好きなところ、遠慮なく やってくれ」 金五郎が親分にあいつが(源次郎)吉六の二代目だと言います。源次郎「長五郎はおめえか・・・おう、三谷の吉六の縄張りを受け取りに来たぜ」長五郎「なんだと」源次郎「どうせ素直に渡しもすまい。一騎打ちの勝負をして、縄張りの形をつけよ うじゃねえか」 「何を、それ野郎ども」の声で子分達がドスを抜きます。源次郎「目指すは長五郎一人だが、手出しをすりゃ、だれかれの差別はせんぞ。 来るか」(“差別はせんぞ”侍言葉が出てきちゃっています)源次郎の構えに怖気ずいている子分どもを見て、長五郎がドスを抜きます。源次郎「抜いたか。ふん、やっと、抜いて参ったな」("抜いて参ったな”ここでも侍言葉が・・源次郎さんて面白い人) 長五郎「さあ、てめえも抜け」源次郎「抜いてもいいか。抜けばお前の命がないぞ」長五郎我慢しきれず向っていきますが、源次郎に刃が立つ訳はありません。 源次郎「動くとお前たちの親分の命はないぞ。どーうだ長五郎、三谷の縄張りを、 元通り返すか。返せば命は助けてやる。いやと言えば、うぬ(貴様)が 刃(やいば)をうぬの脇腹に突っ込むが、どうだ。お前の持ち分までとろう とは言わねえ。吉六からとったものをきれいに返せ。いやか」 「うん」と言わないので、長五郎に刃を向けたので、長五郎は「待ってくれ、待ってくれ」と言います。源次郎「待てとは、承知か」長五郎「承知した」 源次郎「よーし、それでは十七日の玉姫稲荷の勧進賭場は、三谷の吉六が盆をひく ぞ。それも承知だな」帰したうえはそっちの勝手だという長五郎に、源次郎「さすが、おめえも親分と言われる男だ。よーし、そこらの三下聞いたか、 玉姫稲荷の盆は吉六がひく。文句があるなら今のうちに言っとけ。いい な、いいんだな」長五郎「へい」 「じゃ、けえるぜ」と言い、長五郎を離し、出口の方へ向かったとき、子分達が斬りかかろうとしたが、源次郎が振り向くと、みんな引いてしまいます。 源次郎「お見送りには、及ばねえ。 騒がしてすまなかったな。ごめんよ」 源次郎は帰って行きます。(橋蔵さまの江戸っ子のやくざ格好いいです。セリフを聞いていてスカッとします。この場面は見逃せないところです。橋蔵さまも水を得た魚のように・・・撮影も楽しかったことでしょう) 戸田平吾を斬り出奔した源次郎の件で大草主膳は、戸田家に呼ばれていました。源次郎の消息はまだ分からないのかと責められています。帰ってきた時は、首を討って差し出してほしいといわれます。主膳は、源次郎は帰ってこないだろうというと、平吾の弟平之進から手をまわして探しているから、見つけ次第討ち果たすといわれます。主膳が席を立ったとき、戸田越前守は、三谷の娘千種は平吾に代わり弟の平之進がもらう、と言ってきます。 大草の屋敷に戻った主膳は、さえに「源次郎が人目につかぬよう、身を隠してくれればよいが」と祈るだけだというのです。そして、徹之助には、お役目を返上し隠居願いをするつもり、大草家は徹之助が世継ぎ、これからは大草家の主人は徹之助だ、と言います。源次郎は日陰者、武士としては世に出られないだろう。源次郎はもういないと思って諦める、と。(源次郎の心情も複雑ですね。吉六の家で頼りにされ大事にされているが、自分のために大草家がどうなっているか、徹之助は大丈夫だろうか、頭からは離れず心配で仕方がないでしょう) 続きます。
2017年10月07日
コメント(0)
大草家の跡目は徹之助に息抜きをしょうと出て行った二人、途中夕立にあってしまい、源次郎が走って雨宿りをしようとして、取りこみをしているあやめ茶屋の娘(お梅)にぶつかります。源次郎「いや、失礼」 (この時源次郎はお梅と目を合わせますが・・お梅には普通です)徹之助もやって来て、茶店の軒先で濡れた衣服を拭いていると、お梅が中に入って休むように声をかけてきます。源次郎「どうだ徹之助、入って一杯やろうか」徹之助「やるって・・酒をですか」源次郎「あたりまえだぁ。まさか水を飲んで帰るわけにもいくまい」徹之助「しかし、兄さん」源次郎「心配するな、たまには公然の饗を養うんだ」徹之助はおかしそうに笑い、「入れ、入れ」と誘う源次郎と店の中に入ります。昼間から飲んではという徹之助に「まかしとけ」と源次郎。源次郎「お前はもう子供でないから、酒の味ぐらい覚えてといて悪くはなかろう」と言って注文をします。盃を飲みほした源次郎は、徹之助のお酒をまずそうに飲む顔を見て 源次郎「何だその顔は・・それが吹上御苑の晴れの勝負で、若手第一の名誉を受け た豪傑の顔か」二人が笑っているところへ、座敷奥から「大草氏」と声をかけてきた者がいます。台覧試合で徹之助に負けた戸田平吾でした。平吾 「御前試合で不覚をとった戸田平吾でござる」(その言葉を聞いた時の源次郎の表情です) 徹之助は、源次郎の表情をちらっと見てから、平吾の前に近づきます。 試合の時の審判の言った、真剣であったなら徹之助に唐竹割にされていたというが、ここで改めて真剣勝負をしたい、と言ってきたのです。 徹之助は、話は素面の席でと言いますが、平吾はここで試したいと言い張ります。勝負がしたいと言うなら後日相手をする、「今日はこれにて御免」といい 源次郎と帰ろうとした時、 平吾 「卑怯者、逃げるか」 その言葉に、おとなしい徹之助も腹が立ち、平吾に向かおうとしたのを源次郎が引き止めます。 平吾が刀を抜いて後ろから徹之助に斬りかかろうとしたのを源次郎が察し、刀を抜いた瞬間に平吾を斬ってしまいます。 (とっさのことで峰内には出来なかったのね) (ここから、これまでの源次郎は違って、すごく大人びて見えます。重みのある声になります) 源次郎「相手は七千石の大身・・それに三谷の娘のこともあっては・・・」 徹之助「兄上」 源次郎が徹之助を見つめているところへ、平吾の同僚達が通りかかります。 「大草だな、戸田氏を斬ったのは、貴公らだな」 といわれ源次郎「戸田平吾を斬ったのは、この源次郎だ」 平吾の同僚たちが「なに」と刀を抜きました。 源次郎「戸田の仇を討ちたくば、かかって来い」 お梅が徹之助を引きとめます。徹之助も刀を抜いて立ち向かおうとするのを、源次郎がつき飛ばします。お梅 「行ってはなりません。お兄様、あなたを巻き添えにしたくないのです」 振り切って行こうとするのをお梅が一生懸命止めます。店の外では源次郎達の斬り合いになりました。 その夜、大草の屋敷では、主膳、さえ、徹之助が源次郎の帰りが遅いので心配しております。もしや相手の手にかかって果てたのではないかというさえに、その心配はないと徹之助が言います。そこへ喜平次が徹之助に、使いの者が持ってきたという書状を渡します。それは、源次郎からのものでした。 主膳 「源次郎か」 さえ 「あの子からの使いですか」 主膳 「どうしたのじゃ・・・源次郎は、何故自分で来んのじゃ」 徹之助「兄上は、もうお帰りになりません」 大草家に累を及ぼさぬよう、一身に罪を背負って出奔したのです。自分に代わって二人分の孝行をしてほしい、大草家の跡目は徹之助に注がせてください、と書いてありました。 それを聞いていたさえは、源次郎は何処へ行くと言うのか、今頃はたった一人で何処でどうしているのか、と泣き崩れます。主膳も徹之助も、源次郎を心配しているのです。(本当に優しい良い家族ですね。温かい家族を捨てなければならなくなり、孤独な浪人暮らしをするのは可哀想で・・だって、あの子供みたいに可愛い源次郎ではいられなくなってしまいますものね) 着流し姿の浪人になった源次郎は、寂しそうに行く当てもなく川を見つめ小石を蹴り水の波紋を見ていて、気持ちを吹っ切って川端を歩きだした時、女(おきん)がぶつかってきて、追われているといって去っていきました。 源次郎「なに、追われてる?」 誰も追って来る気配はなく、懐に手を入れると・・(財布がない)・・源次郎は女を追います。 源次郎が女に追いつくと、掏った財布を出してきて おきん「すいません、お返しします。どうしてもお金のいることがあったので」と言い、足早にかけていくのを見ていて、何を思ったか放って置けなく源次郎は女の後を追い探して歩きます。 吉六という家の前に来た時、家の中から争う声が聞こえてきました。盆の上の約束はやくざの掟、十両返せなければ長五郎親分との約束通り吉六の腕をもらっていくと言っています。 おきんと長五郎の子分の金五郎とがもめあっているところに、小判が金五郎の額に飛んできました。「あいた、何するんだ」という金五郎に、 源次郎「ご所望の小判だ。・・それ、十両持って行け」 と言い土間に財布を投じます。 おきん「あなたは・・」 (源次郎の財布を掏り返してきた、気になった女の家でした。この家に関わったことから、源次郎の身辺が変わっていきます) 続きます。
2017年10月01日
コメント(0)
東映スコープ作品 川口松太郎原作「花吹雪」を脚色した作品です。この作品で、橋蔵さまの相手役は二人の新人女優、大川恵子さん、霧島八千代が姉妹役で抜擢されました。お梅役の大川恵子さんは綺麗な女優さんで清純派という役が合い、この作品ではまだ、表情と相手の台詞との間が取れていないので、大人になってこの作品を見ていてちょっと違和感を感じました。霧島さんのおきんは、泣きがちょっと強すぎかな。この時期、東映も新人女優陣を育てることで大変だったのでしょう。“東映ニューフェイス”出身の人達が多くなりました。新人を相手の絡みは期待はしていないので、橋蔵さまがどうかな・・と思っていましたが、兄弟愛と家族愛がテーマですから、よい作品にはなっていたと思います。弟役の片岡栄二郎さんとの兄弟がなかなかいい雰囲気でした。 橋蔵さまと大川恵子さんは美男美女”大川コンビ””フレッシュコンビ”として売り出すことになって共演が続いていきますが、作品として見ていった場合、大川さんの場合は同じような雰囲気の役柄が多いです。私としては、共演が多いわりには橋蔵さまとの絡みで橋蔵さまの良さが宙に浮いてしまうところがあるのが残念でした。 橋蔵さまは、この作品のとき、こんなことを言っていらしたようです。「武家崩れのやくざの役で、刺青をして啖呵をきりながら元旗本の風格も残っていなければならないのですから、なかなか難しい役といえましょう。しかし、大丈夫ツボを心得てきました。「内面的に悩みを持つ大草源次郎は僕の好きな主人公のひとりとなるでしょう」と。そして「まごついたのは、初めて同性の大川恵子さんと組んだので、なんだか夫婦みたいだと照れたことです」と。(橋蔵さま、どんな表情で言っていたのでしょう・・可愛い)この作品は、立回りが多くあるので、橋蔵さまは大変うれしかったようです。斬って斬って斬りまくり、爽快だったようですよ。それから、この映画の中で、文武に励む場面があります。その他に弓の稽古をするという場面があったようです。実際滋賀県の***神社でのロケをやっていました。撮影を前に弓の先生から指導をうけますが、なかなかうまくいかなかったようです。そのためか?・・か、いや、時間の都合でカットされたのか、その場面は使われていません。(汗をかいて頑張ったのに・・残念です)(やくざになった源次郎のセリフに侍言葉が入っているのも気をつけて見てください。面白いですよ)◆ 第26作品 1957年7月封切 「緋ぼたん肌」 大草源次郎 大川橋蔵吉六の妹娘お梅 大川恵子 〃 姉娘おきん 霧島八千代三谷の娘千種 桜町弘子大草主膳 大河内傳次郎大草徹之助 片岡栄二郎吉六の子分伝六 星十郎山谷の吉六 堀正夫花川戸の仁三郎 荒木忍大草さえ 松浦築枝三谷小十郎 水野浩戸田越前守 有馬宏治戸田平之進 中野雅晴橋場の子分金五郎 楠本健二若党喜平次 時田一男戸田平吾 月形哲之介伊太郎 山本順太旗本の子でありながら侘ずまいをしていた大草源次郎は、義弟徹之助と仲良く一緒に暮らし始める。義弟も義母もやさしく接してくれたが、源次郎には肩ぐるしい旗本暮らしは合わなかった。ある日、徹之助を逆恨みする戸田平吾を斬ったことから源次郎は出奔し、やくざ渡世の父を守る姉妹と会い助け、やくざ渡世を歩むことになります。一方、日光修理奉行の大役を巡って、旗本間の争いに巻き込まれた弟を助けていく兄弟愛を中心に、正義に燃える男源次郎を描いています。侍には戻らないために彫ったもろ肌一面の緋ぼたんの刺青も鮮やかに、侍とやくざという橋蔵さまならではの作品です。 「仲良くしような」「うん」 大草徹之助と戸田平吾の吹上御苑での台覧試合で、大草徹之助が勝利し、この試合で勝った徹之助は三谷小十郎の娘千種との将来も約束されました。父大草主膳から我が家の名誉と喜ばれ、徹之助は両親から約束の褒美なんなりと言ってもよいといわれます。徹之助は「私に兄上をお授けください」とお願いをするのです。母違いの兄源次郎はただ一人の兄上、母上に死なれ一人侘び住まいをしていると聞き、大草家に迎えてほしいと頼むのです。主膳は、源次郎の母は身分卑しき者のため、妻のさえと徹之助に話すのを遠慮していました。徹之助が兄上と一緒に暮らせたなら嬉しいことはない、と聞いて「有難う」と言います。 若党の「若殿のお付きでございます」の声がして、駕籠が入ってきます。みんなが向いに出て籠の方に頭をさげます。駕籠の方に向って「ようこその御戻りを・・」と言った時、源次郎「おい、こっちだ、こっちだ」声のする門の方をみると、笠をかぶった着流し姿の侍が入ってきて、笠を取り源次郎「源次郎はおいらだよ」 駕籠にも乗らず歩いて・・といわれ、源次郎「よせやい、おいら、偉大じゃねえよ。親からもらった二本の足がこの通り 揃っているんでぃ。おう、世話になるぜ」 徹之助が迎えに出てきました。徹之助「兄さん」 源次郎「徹之助か」徹之助「ようこそ」源次郎「仲良くしような」徹之助「うん」 (二人とも少年のように可愛いです)かしこまって父に挨拶をします。主膳 「源次郎」 源次郎頭をあげます。源次郎「・・父上」 これからは、大草家の総領として、学問武芸に励むように言われ、「はい」と神妙に答える源次郎です。 仲良く武芸に通う二人の姿があります。源次郎「おい、さぁ、今度はわしが持とう」 徹之助が「いいですよ、兄さん」と断わったので大変。源次郎拗ねてしまいます。 それを察して徹之助は「お願いいたします」と源次郎に道具を渡しますと、源次郎は嬉しそうに持って、二人は仲良く歩いて行きます。 馬での遠乗りも学問をするのも二人は本当に仲の良い兄弟です・・が、ある日、塾から源次郎の姿が見えなくなります。 三谷小十郎の家には、戸田家からしつこく千種をほしいといってきているようです。千種は徹之助以外は考えていないと、しかし父小十郎も大草家は芸者に産ませた源次郎が家督を継ぐことになったなら、徹之助は部屋住みの冷や飯食いになる、嫁がせるわけにはいかないと、様子が変わってきていました。 学問塾からいなくなった源次郎は、屋敷に戻っていました。部屋に、煙草の煙がプカプカと・・、床柱に足をかけ・・このような格好で退屈そうに煙草をふかしていますと、「源次郎」とさえの声がしたので大変、源次郎慌てて起きて煙草を消し煙をはらっています。 さえ「入ってもかまいませんか」源次郎「はっ、どうぞ。・・・どうぞ」 (ふたり大名でも、弥太がこんな調子で、慌てたところがありましたが、橋蔵さまはお上手です。喜劇も出来ると、後に言われ始めるのですが、この頃から素質は十分でした)義母のさえが菓子とお茶を持ってきました。源次郎「いただきます」「源次郎は、甘い物はきらいですか」とさえが言いながら菓子を源次郎の前に持ってきたから、大変。源次郎「いやっ、・・そうでもありません」(源次郎は甘いものは嫌いなのですが、いやとは言えません)さえの顔を上目遣いで見て、仕方なく饅頭を頬張るのです。(無理に食べているのでおいしそうには食べられないのです) さえ 「お勉強は進んでいますか。今日はたいそうお帰りが早うございましたね」源次郎「はっ、今日は・・孫子の講義だけでした」さえ 「そうでしたか、お邪魔いたしました。楽になさいね。よそのおうちにいる んじゃありませんからね」 主膳が源次郎はどんな様子かさえに聞いています。可哀想に窮屈そうだったと聞いて主膳 「なかなか馴れんじゃろう。長い間、野にいた虎じゃからな」さえ 「虎でも、心の優しい虎でございますわ」主膳 「おおかた、檻にでも入れられたような気がしてるのじゃろう」 さえが出て行ったあと、源次郎は退屈な様子で例の如く、足を床柱にかけ寝転んで煙草をぷかぷかさせています。また誰かが来る気配がしたので、慌てて煙草を消します。源次郎「何だ、おまえか」 (徹之助でした)徹之助「兄さん、ずるいぞ、先に帰って」源次郎「俺は、学問と甘いもんは、嫌いだ」徹之助「退屈そうですね」源次郎「退屈で、死にそうだぜ、おいら」徹之助は正座をしていると、楽だから胡坐をかいてみるようにいわれ、やったことがないため、どのように足をやったらよいか出来ずに、ひっくり返ってしまいます。源次郎「ちぇっ、世話がねえな。胡坐もかけねえのか」徹之助は正座の方が楽だといいます。 源次郎「あぁぁ、天下の直参なんてものは、窮屈だなあ」徹之助「でも・・馴れていただかなくては」源次郎「やなこったぁ」大草家を継ぐのは兄さんですからと徹之助がいいますと、ここを継ぐのは徹之助だと源次郎が言います。源次郎は、いっぺん息を抜いてこよう、付きあえと言います。徹之助「何処へいきます」源次郎「どこだっていい、この屋敷の外へ出さえすればよいのだ。来るか」徹之助「お供します」源次郎「あはっはっは、よーし」 二人は楽しそうに出て行きます。(とても優しい家族ですね。義母さえも義弟の徹之助も。これから起こることがなければ、源次郎も徹之助も、いつまでも仲良く一緒に暮らしていられたのでしょうに。) 続きます。
2017年09月26日
コメント(0)
これから、うんと仲良くするの権太夫とお欄の方達は、5月5日端午の節句の宵に何やら企んでいる様子です。弥太は部屋で落ち着かなくしていますと、外に気配を感じ障子を開け見渡します。すると、弥太の方に近づいて来る人影があります。よーく見て弥太はびっくり・・。 7 弥太のいる部屋に権太夫が向かえに来ました。「御奉公納めに今夜はうんと飲ませてやる。一緒に広間へ来い」と言います。義光 「奉公納めか、良かろう」 (うむ、言葉遣いがおかしいですね、弥太は権太夫にこんな言い方をできないはず・・)乗政公と義光が席につき、宴が開かれます。権太夫が家臣どもも喜ぶので一緒に踊ってやっては・・と、義光は面をつけ踊りの輪に入りました。踊りの最中にニセ若殿を殺そうとの策略でしたが手ごわい、とうとう刀を抜いてきました。義光 「うっふふふっふ、うっふふふふっ、六郷義光、只今帰参」 みんながどうなっているのか不思議がっているところに、弥太 「やいやいやいやい、悪家老にその家来ども、ざまあみやがれ。騙したと 思ってるてめえ達が騙されてんのが気がつかねえのか。てめえ達が仕立 てたニセ若殿はこの俺だ。そこにいらっしゃるのは、ホン者の若殿様だ。 悪党は悪党らしく斬られちまいやがれ」権太夫が乗政公に斬りかかろうとした時、義光 「控え、逆賊。金沢権太夫とその一味の者、よく受け賜われ。汝らお欄の 方兄弟と結託なし、余を亡きものにしてお家横領を画策いたせし悪事の 数々、今やことごとく明白なり。覚悟を決めて、忠罰うけい」 権太夫の「斬れ斬れ、斬ってしまえ」の声で立回りとなります。お小姓が持ってきた刀を素早く取ります。入り乱れての立回りとなります。権太夫を斬りました。(小姓が駆け寄り義光に刀を差しだし、故障の持っている鞘から刀を抜き立回りに入るのですが・・この場面とても上手く合っていていいところです) (下の左の画像は弥太が刀をかまえての立回りです。いわなくても見たら分かるでしょうが、念のため) 義光「父上」 乗政「義光」琴姫「義光様」 義光「琴姫」 梅香「弥太さん、ご無事で」 弥太「お梅さん」 義光と琴姫に送られて、江戸へ向かう弥太と梅香、勘十の晴れ晴れとした顔がありました。 弥太 「ああ、いい気持ちだ。何だかサバサバしたぜ。殿様なんて肩の凝る商売 は、俺の性に合わねえな。はっはっは」梅香 「そうよ、弥太さんは、やっぱり、舟宿の船頭が性にあってんのよ」それを聞いている勘十が、江戸へ帰ったら、また喧嘩をし始めるのにと言うと梅香 「大丈夫、これから、うんと仲良くするの。だって今まで、私が悪かったん だもの」弥太 「そんなことねえよ、俺が悪かったんだ」梅香 「ううん、私がいけなかったの」弥太 「おれだったら」梅香 「あたしよ」弥太 「俺だよ」 そこへ江戸から戻ってきた三左衛門が弥太を若殿と寄ってきたから大変。弥太は梅香と逃げるように駆けていきます。(弥太さん、お梅さんと仲良く暮らしてね。義光様、可愛い琴姫様とお家を守り幸せに) (完) (ロケ撮影でのお話)ラストは義光と琴姫が山の上から手を振って見送ってくれているのに答えながら弥太と梅香と勘十が山をくだって江戸へ帰るというようになります。弥太は下の道にいるわけです。義光は山の上にいるわけです。橋蔵さま二役ですから、後ろ姿は吹替えでもいいのですが、正面からの映像はご本人でなければいけません。この場面の撮影は新緑と菜の花に囲まれた京都のある片田舎の一本道でのロケになりました。とても景色のよいところでの撮影・・五月晴れで絶好のロケ日和、ロケバスでピクニック気分でスタッフは大はしゃぎ・・それもつかの間、道が悪いことで評判の所でバスが揺れること。元気者の橋蔵さまもグロッキー、ロケ隊も今までの元気はどこへやら振り落されないように座っているのが精いっぱいだったようです。そして、現地に着くと、ロケのスタートになりました。先ずは、山道を下っていく弥太と梅香の仲睦まじいところから・・江戸から戻ってきた三左衛門に若殿と間違われ、走って逃げていく撮影がなされました。そのあと、義光達が山の上で手を振っているシーンを取らなければならないので、橋蔵さまは即山の上に移動ということになした。橋蔵さまが田園の中の一本道を一目散に駆け上っていくと、待ち構えていた衣装部の手で、粋な弥太の姿を剥がされ、休む間もなくきっちりとした若殿姿に締め付けられ、橋蔵さまも大変だったようです。ロケはその部分を取りましたら直ぐに移動ですから、画面でちょっとした時間のところだけでの二役を取らなければならないのですから楽ではありませんね。
2017年09月22日
コメント(0)
命がけでお見方いたしやしょう六郷乗政はニセ若殿弥太を義光と思い、乗政 「義光、遠路はるばる大義であったの」弥太 「いや、ぃゃ・・それほどのことございません」(弥太さんは、非常に緊張しています)よく返ってきてくれた。元気な義光の顔を見て、乗政は気持ちが晴れ晴れとした、と言います。弥太 「はっ・・・」弥太が権太夫の方を見ますと、権太夫がその後を言えというように目配せします。 弥太 「父上には、ひどいご病気と聞き及びましたが、思いのほかお元気な様子に て、義光も心からお喜び申し上げます」乗政がもっと近くへ、今日はゆっくりと話がしたいと言います。弥太 「はっ、はあ・・・」弥太が困ったのを見て、権太夫が、若殿は旅でひどく疲れているようなので歓談は後日にしてほしい、とお願いをします。 若殿に用意された部屋に入り、やっと解放されたというような弥太がいます。権太夫「どうやら、ぼろを出さずに済んだようだな」弥太 「あぁっ、肩が凝った。いちんち一両なんてばかに日当が良すぎると思った ら、楽じゃねえや、この仕事は」 権太夫「愚痴はもうすな。その方さえやる気があれば、当分このままでいてもいい んだぞ。竹竿一本握ってしがない船頭ぐらしをするのも一生なら、一国 一城の主になって栄耀栄華の表を送るのも一生。どうだ、その気になって やってみんか」 弥太 「冗談じゃありやせんよ。あっしは、十日間だけっていう約束だ。こんなお 家横領の片棒担ぎの仕事と知ったら、始めっから引き受けるんじゃなかっ たが、今さらそうと気がついても仕方がねえ。前金もらって約束した以上 俺も男だ、十日の間はなんとかするが、それからあとは勘弁してもらいま すぜ」権太夫「強情な奴め」 その時、部屋に誰かが来る気配を感じ、権太夫が弥太の膝を叩きます。(この時の動きが速くて、可笑しいの。見ていて笑っちゃいます)慌てて、若殿として何事もなかったように座ります。 権大夫がお欄の方に呼ばれます。弥太に部屋から一歩も出てはいけない、琴姫に話しかけられ化けの皮を剥がされては一大事だと釘をさされます。弥太 「あの、琴姫って何です?」権太夫「そうか、まだ言ってなかったか。お前の許嫁だ」弥太 「えぇ、あっしの許嫁」態度、物腰、目の配り様とまるで別人のように、玄関先で見た時、他人のような目であったと言う琴姫に、腰元梢は早く会って話し合われた方がよい、と若殿(弥太)を連れてきました。琴姫は、義光との思い出がある桜の木の下にいました。躊躇している若殿弥太は梢に促され恐る恐る琴姫の近くへ、琴姫が振返った時、弥太はいたたまれず・・・琴姫 「義光様、何故お逃げになるのです」 弥太 「いや、そのぉ、そういう訳ではありませんが」 琴姫は義光の帰国をどんなに待っていたか、二年前にお別れしてから一日とて忘れたことはなかった、と告げます。弥太が振返って何かを言おうとした時、琴姫が何故変わってしまったのか、江戸というところは人間を変えてしまうところなのですかと言ってきます。弥太「いえ、そんなことは」 権太夫が部屋へ戻ってきまして弥太がいないので岩村と松山に探すよう指示をしています。弥太は桜の幹に刻まれたキズを見て、弥太 「誰がこんないたずらをしたのかなあ。つまらんことをするものだ」琴姫が弥太の顔をじっと見ますので、弥太は気まずくなったようです。 そこへ弥太を探していた松山が重役が待っているとちょうど来たので弥太は助かりました。弥太 「うん、そうか。姫、ごめん下さい」権太夫が、弥太の部屋へやって来ます。権太夫「どうしたのだ」弥太 「べつに、どうもしませんぜ」明日は約束の十日目、望み通り自由にしてやるので、それまではちゃんとお役を務めるように言います。弥太 「へえ、そりゃ・・・でも、その後はどうなるんで」権太夫「そのあと?貴様などの知ったことではない」弥太 「でも、殿様はあんなだし、お姫様は・・・」弥太はおとなしく城を出ればよい、いのちが惜しければ、と言って部屋を出て行きます。 弥太は何かを考えているようです。どうしたらよいか・・・決めたようです。 部屋を出ると、腰元梢に琴姫はお茶室にいると聞き、向いました。なかなか声をかけられずにいると、琴姫 「どなたですか」弥太 「はあ、身共です」琴姫 「義光様、どうぞ」弥太は何か言おうとするのですがなかなか言い出せません。琴姫が点てたお茶を弥太に進めます。弥太 「頂きます」一口飲んだところで、琴姫がすかさず琴姫 「いかがでございますか」弥太 「・・苦いです」琴姫 「その苦さは、義光様はお好きでした」 (弥太の長いセリフになります)弥太 「すいません、勘弁しておくんなせい。あっしは、あっしはニセ者でした。 ・・若殿とはまっかな偽り、あっしは弥太っていうただの船頭です。 いちんち一両で雇われたニセ若殿でした。人一人の命を救うため、どうし ても入用な十両をもらったばかりに、とんでもねえことを無理にやらさ れ、途中から悪事に加担させられていると気づいたが、十両貰っちまった 手前、仕方なく今日まで、どうにか他の連中の目は誤魔化してきました が、お姫さん、お前さんの真心だけは騙しきれませんでした。明日が約束 のちょうど十日目なので、何もかもぶち開けようとやって来やした。 どうか、あっしを許してやっておくんなせい」よく打ち明けてくれた、やはりニセ者だったのですねという琴姫。弥太「じゃ、あっしがニセ者だということをはなから」 庭の桜の木の下ではっきりと分かった、桜の幹のキズは義光様と琴姫がたけくらべをした時に義光様がつけたものだと。琴姫は、今日まで黙っていたのは、お殿様の病気が少しでもよくなれば、義光様が帰国されるまではそっとしておこうと思ってのことだと言います。弥太 「でも、若殿が、もし悪者に殺されでもいなさったら」義光は生きている、きっと帰ってくると、琴姫は言うのです。琴姫から味方になってほしいと言われ、弥太 「へえ、もったいねえ。なあに、あっしも江戸っ子だ、洗いざらいぶちまけ たからにゃ、命がけでお見方いたしやしょう。十日が過ぎりゃ、こっちも 自由です。野郎どもに一泡ふかしてやりやすぜえ」といい、つい苦いお茶を飲んでしまった弥太です。弥太は大見得を琴姫にきってしまいましたが大丈夫なのでしょうか。弥太には、味方になってくれる人はいないのです。権太夫はお欄の方と、乗政を亡き者にしようとする計画を練っています。弥太だってこのまま帰してもらえるという保証はありません。いよいよ大詰めに入っていきます。 続きます。
2017年09月18日
コメント(0)
おのれ、奸賊梅香と勘十は本陣を発つ行列を確認した後、茶店で一休みをしています。勘十がこの後どうするのか梅香に聞いています。梅香は、弥太さんかどうか何とかしてあってみなくては、もし弥太さんだったらどうして殿様のまねごとをしているのか聞いてみたいと言うのです。二人が話しているそばを、茶店奥で休憩していた義光と陣内が通りすぎます。それを見た梅香が「弥太さんじゃないの」と声をかけ、義光は後ろを振り返ります。 梅香と勘十は弥太だと思い、心配してわざわざ追っかけて来たこと、弥太のお蔭で母親の病気もよくなったなど話しかけるが、義光は陣内と顔を見合わせては、困ったような様子。 勘十「おいおい、弥太さん、黙ってねえで何とかいってやれよ。梅香姉さん、こん なに折れて出てんじゃねえか」 義光「その方達は、何か勘違いをしておるな」 人違いをしていると言うが、そんなことはないと言う二人から、やっとの思いで逃げることが出来ました。 ニセ若殿を乗せた行列が通りかかります。その中に権太夫の家臣岩村が、勘十を見て声をかけてきます。岩村は、何しにこんな所にいるのか聞いてきました。弥太を探しに来て、今しがたこの先の茶店で見ていたのだが逃げられてしまったと、勘十は岩村に言います。岩村はそれを聞いて、急いで行列にもどり、権大夫に「若殿は生きているようだ」と告げます。権太夫は城下へ入る前に、始末するよう岩村に言うのです。 義光と陣内は行列を遠くからつけて行きます。権太夫はつけてくるのを分かって、今夜中に浪人どもを集め、明日始末をつけるよう指示します。 翌日、行列の後を山道遠くから追って探っている義光と陣内の姿が見えます。 (見にくくてすみません、白い枠の中です) 権太夫の方は行列が橋を渡ったあたりで始末をするようにいっていましたので、木の上には鉄砲をかまえた浪人が、二人に銃口を合わせています。権太夫が橋のところで・・と言っていたところは、山の中の道からどうしても降りて来なければならないところでした。行列が橋を渡り終えた時、義光達も橋のところまで山から下りてきました。 義光が何かおかしいと・・・木の上から銃口が狙っているのに気がつきました。 が、その時、陣内が腕を撃たれました。義光はすかさず小柄を鉄砲を撃った浪人めがけ投げます。(あんなに高い木、離れているところに、小柄を投げても届かないとは思うのだけれど、ここは映画・・まして、義光が投げるのですから、良しとしましょうね。橋蔵さまの小柄を投げるポーズいいですね) 周りを浪人たちが囲みます。岩村「若殿の行列の後をつける怪しい奴、成敗いたすから覚悟しろ」 義光「おのれ、奸賊・・陣内ぬかるな」 (立回りになります。この作品ではラストの立回りより、こちらの方が立回りとしてはよいと思います) 負傷した陣内を先に行かせながらの義光です。渓谷のところまで降りてきたところに舟があったので、舟で逃げることになります。一安心と行きたいですね・・・。 ところが、岩村達も舟を見つけ追いかけてきます。急な流れの中舟を操りながら逃げます。(黒い枠の中が義光と陣内が乗った舟になります)梅香と勘十が通りかかった橋から、渓谷を舟で行く義光を見つけ、渓谷沿いの道から追って行きます。(弥太だと思っているから大変だと思って追って行くのは当然ですね) 追っ手を気にしながら、急な渓谷を必死に渡っていましたが、大きな岩にぶつかって舟が転覆してしまい、義光と源内は川に放り出されてしまいました。 追ってきた岩村と松山は、それを見て、義光は助かるまいと思い、安心したようです。梅香と勘十はそれを見て、「あっ、弥太さん・・」と。義光と源内は無事なのでしょうか、安否が気になります。その頃、弥太をニセ若殿に仕立てた行列は国表に入り、本庄藩六郷乗政のところに若殿様江戸よりご帰国の知らせが入ります。家臣たちがずらっと並び迎えています。ニセ若殿弥太は、駕籠の中からきょろきょろと外を見ていましたがさすがに緊張してきた様子が見受けられます。琴姫も若殿様を迎えに出ています。玄関につけられた駕籠から降りたニセ若殿弥太は、若殿様も板について、知らない者が見れば本物の若殿さまに見えますね。しかし、若殿様を優しく見つめる琴姫と目があった時、弥太はタジタジしてしまい、目を反らしますが、権太夫に「ちゃんとしろ」というように睨みつけられ、「分かった」というように首を小さく縦に振り、玄関の階段を上がって行きます。 琴姫の前まできたとき、琴姫から「ご無事のお帰りお喜び申し上げます」と声をかけられますが、ニセ若殿は何も言葉をかけることなく行き過ぎるのです。 (桜の木の下で、あれだけ仲の良かった二人が、しばらくぶりに会ったのに、義光が琴姫に振り向かずに行ってしまうとは・・・弥太若殿様まずいことですよ) 続きます。
2017年09月13日
コメント(0)
くさやの干物が食べてえなぁ(ここからは、義光と弥太の宿での様子をお楽しみください)義光と陣内は女中に案内された部屋に入ります。陣内が若殿様が泊まるには余りにもひどい部屋なので、上等な部屋はないのかと女中に言いますが義光「まあ、よいではないか・・・お女中、この部屋でも苦しゅうないぞ」女中「はぁ?、そうでやんすか」(女中は義光の言葉遣いにどうも・・)陣内は、女中が出て行くとすかさず、義光が座る座布団を用意します。いくらお家のためとは言え、汚い旅籠に寝泊まりはいたわしいと陣内が言いますと義光「陣内、かようなことは気にかけずともよい」 女中が丹前を持ってやってきました。義光「おっ、お女中、湯殿の支度は整うておるか」女中「はぁ?湯殿?・・」陣内「風呂へ入れるかって聞いているんだ」 女中「はい、どんぞ」義光「やあ、見て参るかのう。あないいたせ」女中「はい・・」(この様子から、女中に若殿がどう思われているかお分かりになりますでしょう) さて、本陣のニセ若殿弥太の方にはどんなことになっているでしょう。ちょうど夕食時です。大きな鯛の塩焼きが出されました。箸でつまんでお酒を飲む弥太ですが、美味しそうなうれしいようなそぶりはありません。盃のお酒を飲みほして、もう一度鯛をつまもうとしましたが下げられてしまいました。 次に出された物に箸をつけようとしましたが、普段馴れない正座をしていますので、足がしびれているようです。おでこに唾をつけおまじないをし始めます。我慢できなく足をさすっていると、権太夫が扇子を鳴らしちゃんとしろという顔で睨まれ、慌てて姿勢を整えるのです。(正座でしびれている右足を少しずつ崩してしびれを直そうとするとき、足だけしか映さないのですが、足を出していく様子が、とっても色っぽく感じます) 一口取って食べると直ぐに下げられ嫌になっている弥太が箸を置いたので、腰元が「もうよろしいのでございますか」というと、弥太「こんなゴテゴテした料理ばかりじゃ、腹にもたれちゃって。もっとあっさり したものはねえのかい」若殿様はどんなものが好きかと聞かれ弥太「うぅーん、そうだなぁ、・・・くさやの干物が食べてえなぁ」腰元「えっ、くさや・・・」 そのくさやの干物が夕食に出たのは、義光のほうでした。干物の匂いを嗅いで義光「臭いのう。これはなんじゃ」の問に、女中がくさやの干物だと言います。義光「くさやの干物?」女中「お客さん、召しあがったことねえんすか」義光「初めてじゃ」 初挑戦、義光はくさやを食べたとたん、我慢が出来ないような顔をします。 女中は、お膳を引きあげながら、大分いかれている、男前なのに可哀想にと同情しています。 布団に入っていた義光が起き出しました、眠れないようです。陣内「若殿、いかがなされました」義光「背中が痛くて眠れんのじゃ」陣内「恐れ入ります、すぐにお馴れになると思いますが」義光「うぅーん」一方、弥太の方も眠れないようで起きました。気随いた岩村が襖を開けたのでビクッとする弥太。岩村「どうかしたのか」弥太「こんなフカフカな布団じゃ、寝られやしねえや」岩村「すぐに馴れる」と言って襖を締めていきます。 義光の部屋では、陣内が若殿のために、寝床を作っています。陣内「今宵はこれでご辛抱ください」義光布団の具合を見て、義光「うん、これなら良いぞ。・・だが、そちはどうするのだ」陣内「はっ、柏餅で休みます」義光「柏餅?」陣内は義光の前で、布団一枚で体を包んで見せます。それを見ていた義光の顔がほころびます。義光は「すまんのう」陣内「はっ、もったいない」と。布団に入る義光です。 寝つけないでいる弥太はどうしているのでしょう。寝床に姿がありません。 部屋の隅の方で、薄い布団をかぶり、畳の上に寝ている弥太がいました。 こうして一晩が過ぎ、翌日、本陣を発つニセ若殿の様子をみている義光と陣内の姿があります。義光「世の中には、よく似た男もいるものじゃ」梅香と勘十も、本陣から出て来た若殿様を見ていました。やつぱり弥太さんだ、という勘十に梅香「そう言えば・・そうらしいわねえ」 「お発ち」ニセ若殿を載せた駕籠は本庄藩に向って出発します。 続きます。
2017年09月08日
コメント(0)
癖までは変えられんからな 本庄藩江戸屋敷から弥太をニセ若殿に仕立てた行列が出発しました。梅香は勘十に弥太がいるという屋敷を教えてもらおうと道を歩いていると「下に、下に」と大名行列がやって来ます。梅香と勘十も端によって頭をさげています。その大名行列の駕籠には弥太のニセ若殿様が楽しそうな雰囲気で乗っていました。(初めて乗る駕籠ですから、珍しいし楽しいでしょう、弥太さん) 籠の中から外を見ていて、頭をさげている梅香と勘十を見つけ「おっ」・・慌てて、駕籠の扉を開け、弥太「おう、お梅さん」と声をかけます。 梅香は名を呼ばれて駕籠の方を見て「弥太さんだ」・・・ですが、そばにいた家来が慌てて閉めてしまいます。一方、義光も動き出します。隠れ家から源之丞が周りを見まわしてから、義光を呼びます。陣内「若殿、若殿」義光「これこれ陣内、若殿などと呼んではいかんとゆうたではないか」陣内はつい口癖になっているのですみませんと頭をさげます。義光「癖というやつが一番こわい。如何に姿形をうまく変えたとて、癖までは変え られんからな。十分に心するように」 陣内「はっ、恐れ入りました」義光「では、参ろうぞ、陣内」 陣内「あっ、若殿、陣内はいけません」 義光「そうか、陣こう・・どうじゃ」 陣内「誠にけっこうで。・・では、若殿」義光「これこれ、・・それがいかん。余は義公じゃ、呼んでみい」 陣内「はっ、・・・では、・・義公・・あいすみません」(若殿をそんなふうに呼ぶなど恐縮してなかなか言えませんよね) 義光「うん、それでよい。参ろうぞ、陣内」(若殿、その言い方は・・ダメでしたね) 陣内「あっ」 二人はおかしくなって笑ってしまいます。 (町人姿の義光は、町中を歩いていく姿も颯爽として綺麗です) 義光と陣内が先を急いで町中まできた時、秀五郎が義光を見て、「いつかの晩川に落としたのはあの若僧だ」といい「若けえの待ちやがれ」と呼び止めます。(秀五郎に呼び止められてもあったこともないのですから、義光はそのまま行こうとします)秀五郎は見忘れたわけではないだろうと、義光に向って言いますが、義光は相手にせず行こうとします。 秀五郎は「何とか挨拶をして通ったらどうだい」 義光は「挨拶?」 秀五郎「この間は、たらふく水を飲ませてもらってすまなかったな。改めて礼をゆ うぜ、礼を」 義光「余は、その方に水など与えた覚えはない」 秀五郎「何だと」 義光「礼など申さずともよい」 秀五郎「とぼけるねい、下でにでりゃ、大きな面しやがって。殿様みてえな口を聞 くねえ、殿様みてえな。おう、ここで会ったが百年目だ、俺はどうして も、おめえに礼が言いてんだ、礼が」 義光「分からん男よなあ。だから、その例には及ばぬと申すのだ」 こんな野郎と話していると頭がおかしくなる、と言って子分に焼を入れろといったところに、 陣内「無礼者、下がりおれ」 それを聞いて二人ともいかれている、かまわないからたたんでしまえと子分に言います。(お二人とも、先ほどの練習は無駄でしたか・・姿は町人ですが、言葉は完全に武士ですよ) (立回りになります)相手はドスでかかってきますが、義光は町人の旅姿ですから、持っている笠での立回りになります。(この立回りが、笠と手と足を使っての品のある立回りなのですね。綺麗で見とれてしまいます) 義光は秀五郎に一発二発とビンタを張り、江戸の町を出て行きました。 その頃、梅香と勘十も弥太に会うために江戸を発ちました。 宿場町の本庄藩六郷義光公の宿の前、義光と陣内が様子をうかがっています。 宿の前で立ち止まらないように言われ、行き過ぎたところの旅籠の前で客引きで捕まってしまったから大変です。 通された部屋は宿の奥の方の何とも言いようのない部屋でした。上等とは言えない旅籠の部屋に初めて泊まることになった若殿様義光と本陣でのニセ若殿様の弥太の今夜はどのように過ぎていくのでしょう。 続きます。
2017年09月04日
コメント(0)
余と瓜二つの者弥太と勘十は訳が分からないまま付いて行ったところは、本庄藩江戸屋敷です。心配することはないと言われ、二人は別天地のような気分でいます。弥太は、気持ちよさそうにのんびりとお風呂に入っています。そこへ腰元達が背中を流すと入ってきたから大変、慌てて肌を湯の中に隠します。勘十の方は、狐につままれているのではと、ご馳走にご満悦です。 お風呂からあがった弥太は、殿さまの着物を着せられ、髪を結いあげられようとしています。町人髷にはさみを入れられたからびっくり。 座敷では権大夫が待っているようです。岩村が「やっと出来上がった」と、弥太を連れてきたようです。岩村 「弥太、こちらへ入れ」姿を見せた弥太の変わりよう・・(馬子にも衣装です)、髷も侍髷になり外見はとてもいい感じです・・が岩村に中へ入るように促され、入る時の格好は船頭の弥太さんです。そして、権太夫と目があった弥太の表情が何といったらよいのでしょう。子供が恥ずかしがってする仕草に色気があるから、権太夫の弥太を見る表情も何とも言いようもないのです。(何が何だか分からずに若殿様の格好になった弥太・・鯔背な弥太がこんな風に恥ずかしがっているこの顔、ちょっと色っぽい?可愛いですね・・この場面の橋蔵さま大好きです。橋蔵さまだから、このような演技も出来るし、いやらしくなく、笑っちゃうくらいの可愛い仕草ができるのです) 権太夫「これならどっから見ても本物と変わりがない」弥太 「お武家さん、あっしにこんな格好をさして、一体どうしようって言うん だい」 権太夫達の仕事に手を貸してほしいというのです。仮の若殿になりすましていてくれればよいと言われます。日当は一日一両だすと聞いて、弥太 「いちんち(一日)一両」 弥太 「う~ん、いちんち一両なら、十日で十両・・何だか夢みてえ話だなあ・・ うまくやれるかどうか分からねえかが・・よし、引き受けやしょう」(梅香が必要とする十両を何とか都合すると言った弥太に、十日で十両という話が舞い込んできたのですから、引き受けてしまうのは仕方ありません)権太夫に、途中で嫌だと言っても許さないと言われます。弥太 「その代わり、十日分の十両、前金でお願いしますぜ」(こんなに簡単に十両が出来てよかったというようにうれしい弥太です) 権太夫が出した十両を受け取り、弥太 「こりゃぁ、すいませんねどうも。これであっしは助かりやす、へっ。そい じぁ、ちょいと」十両を懐に入れ「すまねえな」と言って立つと、、金を払ったのだからもう十日間は自由にはならないと釘をさされます。 勘十は岩村から、弥太からの十両と手紙を預かっていき梅香に渡します。梅香は大きい屋敷に連れて行かれたと聞き心配になります。 (ここからは、ニセ若殿様としての特訓の場面になります。橋蔵さまのぎこちない振舞い、見ていて可笑しくなってしまいます。)本庄藩江戸屋敷では、弥太をニセ若殿様に仕立て上げるための特訓の最中です。岩村も松井も手こずっています。座り方・・手は太ももの上にきちんとのせ、もっと胸を張れ・・と。やったこともない座り方に・・岩村、松山から厳しくなおされます。 次は歩き方・・手はもっとやわらかくおろして、歩いてみるように言われます。手と足のうごきがぎこちなく・・威厳をもって歩くように言われますが・・。(船頭をやっていた弥太には大変なことです。でも、十両もらってしまいましたから、我慢我慢) 今度は、岩村 「人にものを聞かれたらいちいち答える必要はない。こう言えばよいのだ。 良きに計らえ。ちょいとやって見ろ」弥太 「へっっ、(恥ずかしそうな風に) 良きに計らえ、・・てかぇっ」(岩村の顔を恥ずかしそうに?こんな調子かいと言う顔で言うのです・・この言い方がおかしい・・見ていて笑っちゃいます) 権太夫「殿様らしく、もっと威厳をもって言えぬか」言われた弥太は今度は、弥太 「良きに計らえ」 (声に重みをつけて言います。そう、少しはよくなりました、弥太さん)権太夫「だいたいよかろう」では次にと言われ、弥太 「まだあんのかい・・何のためにこんな事やる」岩村 「いまに分かる」弥太 「めんどくさいこと、引き受けちまったなあ」三左衛門が権太夫の部屋の様子を少し離れたところから弥太の姿を見て驚きます。権太夫は、世継ぎの他界は本庄藩にとって浮沈にかかわること、そのため若殿の替え玉を使えば、お家も安泰する。悪いようにはしないので任せてくれというのです。三左衛門はもう一度よく、ニセ若殿弥太の顔を見ますと、その三左衛門に弥太は「どうも・・」というように、きまり悪そうに、頭をさげて挨拶するのです。 三左衛門は死んだとされている若殿様義光のいる隠家にやってきました。義光の推察通り、権太夫が何事か画策しているようだ、と伝えます。義光 「権太夫め、何を企んでおる」権太夫が妙な男を屋敷に連れてきて、若殿のニセ者に仕立てていることを話します。義光 「なに、ニセ者?」顔形といい、姿といい、声まで若殿に瓜二つだと言います。義光 「余と瓜二つの者」 檜笠陣内が、早々国表へ発った方がよいのではと言います。義光 「うん、明日にも江戸を発とう」(義光は、国表に何が起こっているのか、起ころうとしているのか、心配です) 義光が江戸を発つのと同じくして、弥太をニセ若殿様に仕立て上げた行列も江戸を発ちます。さあ、これから本庄藩に向ってのそれぞれの道中が始まります。 続きます。
2017年08月28日
コメント(0)
何がそっくりなんで本庄藩の檜笠陣内が急を知らせる早馬で、本庄藩江戸屋敷に入っていきます。義光「挨拶はよい、使者のおもむきは何だ」陣内が言うには、大殿様が突然発病し、原因不明の熱病に侵されている。若殿に至急帰国するように、との知らせでした。義光「そうかぁ、では三左、明朝早々に江戸を発とうぞ」その夜、眠りにつけず、考え事をしている義光です。義光 「夢は正夢であった。国表に何かあるなにかある」 義光の部屋に静かに近づいて来る者がありました。(江戸家老金沢権太夫のようです) 義光 「誰じゃ」権太夫「若殿、まだお休みになりませんので」 義光 「国表のことが気にかかり、今宵は、妙に目が冴えてのう」 権太夫「それはいけません。明日は早いお発ちゆえ、今夜は出来るだけ睡眠をおと りなさらねば、旅はお身体にこたえまする」 義光 「うん」 (声に出すのではなく、うなずくような感じで本当に小さく) 権太夫「よほどお休みになれませぬようであれば、御酒でも少々召しあがられまし てはいかがと、すぐお休みになれると存じまする」 義光 「うん」(ここもうなずくように小さく) 義光は気が進まない様子ですが、 義光 「そうしてくれ」 いま義光に国表へ帰られては困る金沢権太夫、これは「しめた」というように思ったのでしょう。早速、腰元に御酒をもっていかせます。 前におかれた御酒に手を付けず、義光は何かを考えています。 権太夫の部屋では家臣の岩村と松山もいて、何かをじっと待っている様子です。腰元がやって来て、義光のところへ御酒を置いてきたことを告げます。義光は、お酒を飲む気になれません、どうも気になっているのです。 そして、お酒を金魚鉢に注ぎます。 金魚が・・・。 義光は三左衛門を呼び、耳打ちをして、”金魚を見てみよ”というように手で示します。御酒の効き目を待っている権太夫の部屋に、三左衛門が慌てた様子で「一大事じゃ」とやってきます。若殿が何者かに毒殺されてたったいま亡くなられたというのです。そして、権太夫に、大殿ご重体の今、たった一人の世継ぎ義光がなくなったことが公儀にしれれば、本庄藩お家断絶は必定。幸い今宵のことを知っているのは我々だけ。若殿には気の毒であるが、今宵のうちに密葬をして、誰にも知られないようにしなければならない、と三左衛門は義光との打合せ通りことを運ぶのでした。檜笠源内が辺りを見まわし衣装箱のようなものが一緒に出て行きます。 翌日、弥太の舟に、赤沢の秀五郎と梅香が乗っていました。秀五郎は女将から梅香がお袋さんの薬代に十両いることを聞いて、十両を持っていけと言うのです。秀五郎は梅香に岡惚れしているのでこれ幸いというところ。梅香はお金が必要なので覚悟を決めお酒を飲んで・・・というところに、弥太が入ってきます。 弥太は梅香の頬を殴り、女の弱みにつけこみおかしな口説きはよしてもらいたい、と秀五郎に言い、秀五郎が刀を抜いてきたところを、川の中に放り込んでしまいます。 弥太は梅香からお袋さんの病気を治すためお金が必要だったので体を張ったことを聞きます。 弥太 「すまなかったぁ。・・芸者は売りもの買いもの・・ましてご本人がその気 になっているものを邪魔しちまって、とんでもねえおせっかいだったな あ。だが俺は、おめえがあんな奴に好きなようにされるのを、黙って見て はいられなかったんだ」 梅香は弥太のその気持ちは嬉しいがおっかさんを見殺しには出来ないと泣いています。 弥太 「よし、俺が何とかするぜ」梅香 「弥太さんが・・でも十両なんて」 弥太 「分かってるよ、十両だろう。俺も男だ、まかしときな」 翌日、弥太の住んでいる家から家財道具が運ばれているのを、同僚の勘十が見て 勘十「おい、弥太さん」 弥太 「おう」 勘十 「おめえ、引っ越すのか」 弥太 「あっ、そうじゃねえよ、売ったんだよ」 勘十 「売った?」 そこへ売ったもののお金を持ってきたのですが、たったの一両でした。弥太 「一両か・・あと九(きゅう)枚か」勘十も話を聞いて俺もと家財を売ったものの二朱にしかならず、弥太 「あっはっ、一両二朱かい、がっかりさせるぜ」 勘十が一両二朱を元手に十両稼げると言います。弥太 「ほんとか、勘十」勘十 「まかしとけ」弥太 「危ねえもんだ」 勘十「大丈夫」と言って、弥太と共に賭場に行き、最後に”半”とはり、すっからかんになってしまいます。悪く思わないでくれ、と言う勘十の言葉に、弥太 「元も子も取られちまって、あんまり良くも思えねえよ」 金沢権大夫に捜して来いと言われ、舟よしに行ったが弥太に会えなかった岩村鬼斎と松山竹十郎とすれ違い呼び止められます。 岩村 「なるほど、これはよく似ている」 松山 「そっくりだ」 弥太 「何がそっくりなんで」 岩村 「いや、実はそのほうに、折入って頼みたい儀があってさがしていたんだが」 弥太 「えっ、あっしを」 (弥太と勘十は連れて行かれてどうなるのでしょう。弥太を、亡き者にした若殿義光に仕立てることで、どんな悪事を企てるのでしょうか。権太夫が何かをしようと察しがつき、毒殺によって死んだと見せ江戸屋敷から出た若殿義光はどうしたのでしょう。義光と弥太の身が心配ですね。) 続きます。
2017年08月23日
コメント(0)
原作小島健三さんの同盟小説の映画化です。企画は新芸プロ福島社長。瓜ふたつの若殿六郷義光と船頭弥太が、義光を亡きものにして本庄藩を乗っ取ろうとする側室と家老一味を相手に立ち向かうという、橋蔵さま二役の東映スコープ痛快娯楽作品です。「大江戸喧嘩纒」でデビューした松原千浪さんがこの作品から改名し桜町弘子さんになっています。桜町さん、橋蔵さまと本格的な共演で相手役になります。もう一人の共演者千原しのぶさんは、橋蔵さまの相手役としてはこの作品が最後になったのでは。1958年からは脇役にまわっています)おっとりしてはいるが剣はたつ美男の義光と紺の半纏で粋なべらんめえ船頭弥太と、橋蔵さま初の二役を演じ、気品と鉄火の二面の魅力を十分に画面いっぱいに発揮しています。橋蔵さまは根がべらんめえ的ですから、おっとり型への早変わりが難しくて、橋蔵さまとしては珍しく何回もNGを出した作品だったようです。橋蔵さまにとって、画期的な役でした。橋蔵さまは、どちらが演りやすかったかの問いに「さあ? それは・・・それぞれに苦労はしました。ファンの方々の批判もまちまちでしたから、皆様のご想像におまかせいたします。」と言っています。 あなたは、どうお思いになりますでしょうか。◆第25作品 1957年5月封切 「ふたり大名」 六郷義光 大川橋蔵弥太 大川橋蔵梅香 千原しのぶ琴姫 桜町弘子赤沢の秀五郎 加賀邦男金沢権太夫 永田靖秋田三左衛門 清川荘司六郷乗政 三島雅夫岩村鬼斉 吉田義夫檜笠陣内 立松晃岩木兵庫頭 堀正夫勘十 杉狂児松山竹十郎 津村礼司お欄の方 鳳衣子梢 美山れい子栗原源之丞 藤木錦之助 船宿”舟よし”の船頭弥太は、恋仲の芸者梅香の母の病気に必要な高麗人参を買う10両がどうしても必要でした。出羽本庄藩江戸家老金沢権太夫は、若殿六郷義光がいる限り、自分の思いどおりにならない・・思案しているところへ、若殿に瓜ふたつの船頭の弥太を見て、若殿の身代わりに立てることを考えます。弥太は10両もらえるというので、訳も分からず身代わりを引き受けます。若殿義光は権太夫に毒殺されたと見せかけて安心させ、権太夫一味のお家乗っ取りを暴いていきます。偽の若殿、町人姿の義光、権太夫一味、そして弥太を追う梅香達が、江戸から出羽へとの道中の模様が描かれていきます。 逆夢であってくれればよいが出羽国本庄藩六郷乗政のところで、岩木兵庫頭と義光の許嫁の琴姫を迎えての祝宴が開かれています。若殿義光は江戸出府中で不在です。庭の方へきた琴姫は一本の桜の木に目が止まり、懐かしそうに惹きつけられていきます。桜の木の幹に思い出があったのです。琴姫の想い出が・・・桜の幹にたけくらべでお互いにつけあったキズの時の事を思い出していました。桜の木のところに琴姫が立って義光が幹に記しをつけています。今度は義光が幹のところに立ちます。義光「さっ、今度は、そちが」(うわぁ、橋蔵さま、表情も可愛らしく、とっても優しく可愛い言い方です)琴姫「はい」 琴姫が義光の背丈の傷を幹に一生懸命つけようとしていますが、なかなかつけられず、義光の顔に近づいてしまい、その後は・・・このように。(お二人とも初々しい・・こちらが恥ずかしくなってしまいますわ) そのころ、側室お欄の方は弟の猪三郎を家老職後任にして欲しいと、六郷乗政に頼み見込んでいますが、義光とも相談しなければ、と言われ、江戸にいる江戸家老金沢権太夫に若殿に良しなに計らいを頼むとの書状を届けます。金沢権太夫は猪三郎が国家老職についても利口者の若殿がいてはどうにもならない、目的はもっと違うところにあると言うのです。岩村鬼斎と松山竹十郎と何かを企んでいます。そんな時、寝入っていた義光が飛び起きました。(琴姫との三年前の表情でなく、凛々しい義光になっています) 三左衛門「若殿」義光「三左か・・」三左衛門がうなされていたようだが、どうしたのかと聞きます。義光「やな夢を見た」どんな夢を見たのかと三左衛門が聞きます。義光「何か城の屋根の上へ黒い雲が覆いかぶさり、払おうとしても払いきれず、 だんだんその中へ巻きこまれていくような」 三左衛門は逆夢といい、国表に何かあれば直ちに知らせが来るはず、と。義光「そちの申す通り、逆夢であってくれればよいが・・」 ここ4,5日将軍家御法要の役で勤めが大変だったのでお疲れになったのでしょう。明日は気晴らしに舟遊びをしては如何でしょうと、義光に提案をします。義光「舟遊びか」 翌日、舟遊びに出ていると、金沢権太夫はすれ違った舟を漕いでいる船頭に目がいきます。 義光「権太夫、如何いたした」権太夫「いや、別に」義光「さあ、久しぶりの遊山じゃ、遠慮なく飲むが良い」権太夫「かたじけのう存じます」と言いながらも、舟の船頭が気になっています。 権大夫が気になった船頭とは・・・(私達も、その舟に目を向けて、ちょっと様子を見てみましょう) 屋形舟を芸者の梅香が貸し切りで乗っています。(ここから少し、好きあっている弥太と梅香の会話を聞いてください。橋蔵さまと千原さんお二人の粋なセリフのやり取りは最高です。「若さま侍捕物帖魔の死美人屋敷」「喧嘩道中」そして「ふたり大名」とおふたりのポンポンと出てくるセリフを聞いていると、こちらまで引きこまれてしまいます。そして、橋蔵さまの、目の動きが良いのです。二人の会話中の橋蔵さまの目をずっと追って見てください)梅香が弥太に川の水が温んで春なんだね、と話しかけてきます。弥太「おう、お梅さん、水のことはどうでもいいから、もうすこしそっちに入って いてくんねえかな。そばでがちゃがちゃ言われたんじゃ、漕ぎにくくてしょ うがねえんだ」 梅香「悪かったわね。弥太さん、あたしゃお客なんですよ。何も怒られるすじは ないわよ」弥太「別に怒ってはしねえよ」梅香「じゃ、何も、そんな言い方しなくたっていいじゃないか」弥太「へぇっ、俺の言い方が何か気に障ったってえのかい。俺はただ、邪魔だか らもう少しそっちへ入っててくれと言っただけじゃねえか」 梅香「邪魔でわるかったわねえ・・あぁぁ、こんな舟に乗るんじゃなかった」弥太「へぇっ・・」梅香「いいわよ、ここから飛び込んでやるから」と、梅香が飛び込もうとするのを、「あぶねえ」と慌てて梅香をしっかりと抱き止める弥太・・二人は慌てて離れます。(橋蔵さまは、こういう濡れ場??は苦手なんですよね)弥太「あぶねえな、まったく・・なんて無茶なことする姉さんだ」 弥太の船が船着き場に戻ってきました。弥太「おう、お梅さん、いつまで乗ってるつもりだい。着いたぜ」梅香「うるさいわね、今降りるわよ」舟から船着き場に上がるのに手こずっている梅香を見かねて、「世話のやける姉さんだ」と手をかしてくれた弥太に、 梅香が「弥太さんにも、わりに親切なところがあるのね」と言うと、弥太「これぐれいの親切から、船頭は誰にだってしてやるぜ」弥太は照れ隠しのように、捨て台詞を言うのです。(相愛なのに会えば喧嘩をするという二人なのです。千原しのぶさんと橋蔵さまのやりとり聞いていて、とても気持ちがいいのですね) 梅香の母親の具合がよくなく、医者から高麗人参を飲ませることだと言われます。それには十両は必要だというのです。 続きます。
2017年08月19日
コメント(0)
他には何にも心残りはござんせんお雪の位牌の前に、肩を落としている半次郎と金介の姿があります。半次郎はお雪の形見になった黒髪を手にとり涙声で言うのです。半次郎「やっと会えたと思ったのもつかの間、一夜明けりゃ可愛い妹は一握りの黒 髪だ・・・はかねえなあ」 お雪の黒髪を手拭いで包み懐に入れます。半次郎「可哀想なやつ」(涙声です) 金介は、斬ってくれと半次郎に言いますが、半次郎は、斬ったって妹は帰っては来ない。供養がわりにいいことをしろと言うのです。おたえは、半次郎にことづけをして上方へ発ちたいので、おかつに金介を呼んできてくれと頼みます。 おかつが外へ出た時、赤戸達と一緒にいた彦作に見つかってしまいます。おかつがおたかに知らせに戻った時、彦作が入ってきました。おかつとおしんまでが加担していたとは・・という彦作に、会わなければならない人がこの宿場にいる、とおたかが言います。おたか「深川のお雪様。お雪様は昨夜、兄の半次郎さんに看取られて、お果てなさ いました」 彦作 「ええっ」 「会ってお詫びをしなければ、あんたは人で無し・・」とおたかが彦作に・・、。おたかと彦作は急いで扇やへ向かいます。 駕籠で遅れて鞠子の宿に入ってきた彦右衛門は彦作とおたかの姿を見つけます。おたかが彦作を連れて扇やについた時、半次郎は扇やを発とうとしていました。 おたか「兄さん、この方がお雪さんの」 半次郎「うぬっ。彦作だな」 半次郎は彦作ににじり寄っていき、長ドスを抜きます。しかし、半次郎は、彦作を見て妹お雪の彦作に対しての気持ちを思い出し、長ドスを振りかざししますが、はっと思いとどまります。 長ドスをおさめ彦作にしみじみ言うのです。半次郎「こいつは、俺がわるかった。おめえさんとお雪の仲は、二人だけが知って ること。いくら俺が兄だからと言って、妹が臨終の夢にまで見たおめえさ んを、腹立ちまぎれに斬る道理はねえ。・・・悪く取っておくんなさる な」 半次郎「だが、彦作さん。たった一人の可愛い妹を、うらぶれの旅に死なせた草間 の半次郎が、その後生を祈って申し上げます。・・どんな時でも、妹さん だけは大切にしなせい。自分の欲で妹さんの一生を台無しにしてはいけま せんぜ」 そして金介にも、淋しそうに 「達者でくらしな」と言い、「待ってください」という彦右衛門の声に足を一瞬止めますが、半次郎はそのまま立ち去ります。 彦作は松平藩江戸家老高坂との今回のご縁はきっぱりと断る、と赤戸に言います。その申し出には応じられない、おたかを高坂の言いつけ通り国表までつれていく、と言う赤戸に、彦作は、そのような事は許さないときっぱりいうのです。 赤戸達は町人の分際で松平藩を虚仮扱いにするつもりかと腹を立て、おたかを力づくで用意していた駕籠にのせ連れ去ってしまいます。その様子を見ていた金介は、半次郎に知らせるために走ります。 「おーい、兄貴」の声に半次郎が振り向きます。 金介 「た、た、大変だ、おたかさんが松平の家中の者に攫われた」 半次郎「なにぃ⤴」(橋蔵さまのあの独特な言い方です・・好きだなこのイントネーション) 金介 「早く、早く行ってやっておくんなせい」行こうとした半次郎でしたが、ふと頭をよぎることがありました。 半次郎「そうしてえが金介、江戸には俺のけえりを待っているお袋がいるんだ」と迷っているところへ、金介 「けれども兄貴、その家中のなかには、昔の俺の棒組の小平や弥吉の顔も混 じっているんだ」 半次郎「なるほど、そうか。・・で、戸倉屋彦作は」 金介 「兄貴の言葉に改心して、おたかさんの引き渡しを拒んだ。・・そこで奴ら 無理やりに」 彦作が、おたかの縁談をきっぱり断ったと聞いて、半次郎はおたかを助けるために走ります。(全速力で走っていきます。走る、走る。橋蔵さまは走ることも得意ですから、半端ではありません、いくらカットがあっても凄いスピードで走ります。景色が変わるところで8場面走ります。1場面数秒でも全速力で走っているところからの数秒を使っているわけですから体力がないと出来ませんね。東映の時代劇、特に橋蔵さまは走る場面も多かった) (橋蔵さまは全速力で走っている姿も綺麗です) まず、彦作と彦右衛門に追いついきます。半次郎「及ばずながら、お手助けをいたしやす。もし、あっしに万一の事がございましたら、深川木場材木町に住む、あっしのお袋よろしくお願げえ申しやす」 と言って、赤戸一味を追って駆けだして行きます。 半次郎「待て―っ・・待てーっ」 追いついた半次郎は、小平と弥吉に「前へ出ろ」と言います。半次郎「てめえ達、峠で聞いた俺の言葉を忘れちゃいめえな」 「忘れるもんか」「胸に刻んで覚えている」と言う二人です。 半次郎「そうかい、それじゃ早いとこ抜きやがれ」 そこへ赤戸がよまいをいたすとただおかないと言って出てきました。 半次郎「そーらおいでなすった。そう来なくっちゃ、話にならねえ」 赤戸 「なんだと」半次郎「もしご一党さん。おめえさんがた、女衒まがいの街道がらすのくさぼうに ひるひなか、生きてる女を盗んで逃げるとはなんてえこったぁ。上を見な せい・・お天道様が顔をしかめていなさるぜい」 「無礼者」赤戸が半次郎めがけ笠を投げつけると、侍達の笠も飛びちり刀を抜きます。半次郎「ふん、他に挨拶の持ち合わせがねえとは、飽きれけえったどさんぴんだ。 ちぇっ、ふざけるねい」 と言うと、半次郎は飛び降りて・・立回りとなります。(ここから初めてのやくざ剣法になります。約2分15秒の立回りでスピード感があります) 弥吉、小平、赤戸も斬り、残りの者が逃げていくのを追いかけて、おたかが乗せられていた駕籠の前まできた時、「半次さん」と声をかけたおたかの手を「おぉ」と言って一瞬握ろうとした半次郎ですが、一歩引いて「無事でよかった」と言うのです。(一瞬の動作ですから、見逃さないで・・本当は、「おたかさん」と言って二人が手を握りあうとか抱き合うのでしょうが、ここに半次郎の分別が。大店の娘さん・・という、思っても自分とは程遠い)彦作と彦右衛門の方に行き、この一件は草間の半次郎がかぶるというのです。 彦右衛門が「深川木場のお袋様、けしって粗末にはいたしません」と約束します。半次郎「へい、そううけたまわりますれば、・・他には何にも心残りはござんせん。御免なすって」 半次郎が歩きだした時、「兄貴~」と金介の声が・・金介が半次郎の笠と合羽を渡すと、「おぅ、すまねえな」と半次郎。 金介の「また、どっかで会えるでしょうね」に「さあなあ~」とこたえて旅に出る半次郎です。 彦右衛門は半次郎を見ているおたかの様子を見て、おたかを戸倉屋に置いておくのは松平様に申し訳がない、今日限り勘当する、「半次郎さんという道連れがあるだろう行きなさい」と粋な計らいをするのです。 おたかが来たのでびっくりする半次郎、みんなが見送る中、幸せな二人旅の始まりです。 (ここから”喧嘩道中”の歌が流れます。今までとは違って、二人のとても明るく幸せな顔があるので、歌も明るく感じます) 何処へ行くのか 旅人さんは 笠に隠した横顔を 娘つばめが 覗いて通る しんとんとろりと良い男 とーことろりことんとんとん 何もしらない 乙女の胸に いつか思案の波がたつ これも恋ゆえ あの人ゆえに しんとんとろりと何としょう とーことろりことんとんとん ハッピーエンド!! 草間の半次郎さんとおたかさんの幸せそうな明るい笑顔が見られてよかった。半次郎さん可愛い!! (完)「旗本退屈男・謎の決闘状」で橋蔵さまを見た脚本家の比佐芳武さんは、大川橋蔵はやくざものもいけると思ったということは、前に触れたと思います。ベテラン比佐芳武さんの原作で、橋蔵さま、初めての本格的やくざ映画になりました。歯切れの良い啖呵と橋蔵さまの若々しさで際だった草間の半次郎は、批評家にも絶賛されました。また、橋蔵さまにとってこれも初めての東映スコープで上映されるものとなりました。この時期の東映のスコープには問題がありました。先にスコープで撮った錦之助さんの作品が失敗していたので、橋蔵さまはじめプロダクションの人達も大変心配していたそうです。制作部で責任をもつと言われたので撮ることに踏み切ったそうです。スタッフの協力で成功して本当によかったですね。橋蔵さまはこの時の事を「いささか、やくざとしての修行が不足だったかもしれません。はじめてのスコープ作品で心配しましたが、幸い好評でした。」と言っていらっしゃいます。 こうして、草間の半次郎が認められシリーズものになっていくのです。橋蔵さまの新しい面が見いだされました。殺陣はまだ完璧とは言えません。侍とやくざの剣法は違いますが、橋蔵さま熱心な方ですからやくざ剣法も大丈夫。これからの作品での成長が楽しみになります。時代劇が板について、見ていて不安感はなくなってきました。セリフ回しも安心して聞いていられます。この作品を境に、橋蔵さまの役柄が広くなっていきます。(私は橋蔵さまの股旅やくざものは大好きです。哀愁があり、義理人情に厚いやくざものはいいなぁ。橋蔵さまはやくざ姿でも颯爽としているし、歩いている姿、立姿を見ていると映像の中に吸い込まれてしまいます。このような役のセリフ回しもすごいものです。)
2017年08月16日
コメント(1)
「お雪、俺だ、兄だ、半次郎だよ」 おたかを追っている高坂は彦右衛門が相も変わらず駕籠でゆっくり来るのに郷を煮やし、彦作にかまわず先を急ぐことにしようと言います。その様子を見て彦右衛門は、成り行きが変わったので駕籠屋に急ぐように言いました。道端にたたずんだおたかに、おかつとおしんがどうしたのかと心配します。おたかは二人に、このまま江戸へ帰ってほしい、と言いますが、二人は今さらそんなことは出来ない、とにかく上方まで行こうと言います。おたかは、上方へは行かずお雪さんを探すというのです。兄に代わってそうしなければ、半次郎にすまない・・・三人一緒に力を合わせて探そう、ということになりました。三人に追いついた金介は、おかつから話があるので、今夜の鞠子で泊まる宿を半次郎に伝えてほしいと言われ、半次郎を待っています。金介 「おっ、兄貴」半次郎「やめろ、俺はおめえの兄貴じゃねえ」 金介 「そんなら、半次郎さん。こいつは、三人組からの言付けなんだが、今夜の 泊は鞠子の宿、宿は岩田屋・・」 半次郎が振り向き 半次郎「おめえも、そこに泊まるのか」 金介 「へい」 半次郎「そんなら、俺もそこへ落ち着こう。今夜は、おれは、折入ってとっくり とおめえに聞きてえことがある」 金介 「ええ?」 半次郎「待ってるぜ」 場所は、鞠子の宿。金介が”扇や”という店に入っていきます。(金介は半次郎の妹お雪の事が気になっていたのですね)聞きたいことがあると店の番頭に言います。去年の春に酌女でここへ売られてきた、江戸深川生まれのお雪という女はいるか聞いています。 「おきぬのことですね」と言う番頭に、どうしているかと聞きますと、ふた月前から患っていて、今日明日知れない命だ、というのです。それを聞いた金介は店を飛び出して、急いで半次郎のところへ。 金介 「半次郎さん、何処にいなさる。半次郎さん。半次郎さん何処だ」 部屋から出て来た半次郎に、 金介 「あっ、兄貴、すまなかった、勘弁しておくんなさい。あっしが悪かった、 あっしが悪い」 半次郎「ただそれだけじゃ分からねえ。仔細を言え」 去年、小平と弥吉と棒組で、お雪さんをそそのかして江戸から連れ出し、悪事の手先に使ったあげく、自棄になっているのをいいことにして、この鞠子の宿の扇やへ酌女として売り飛ばした。いま、そこへ行って見ると、ふた月まえからの患いで今日明日知れない命、と半次郎に全てを話します。(金介から思いもかけない話を聞いている半次郎の様子です) 半次郎「何だと・・」 金介「お詫びは後で、あとでどんなお仕置きでも受けますから、さっ、兄貴、早く 来なせい」 急いで飛び出して行く二人を見て、おたか達も扇やへ向かいます。 扇屋にやってきた半次郎と金介は、番頭にお雪のところへ案内してもらいます。 半次郎「お雪、俺だ、兄だ、半次郎だよ」 (おたか達もやって来て庭さきにいます) 半次郎「お雪、お雪」 金介 「お雪さん」 お雪が目を開けました。 半次郎「俺だ、俺だよ、半次郎だ・・」 半次郎「分かるか、えっ、分かるか」 お雪 「あっっ、お兄さん」 半次郎「お雪」 お雪 「おっかさん、おっかさんは」 半次郎「達者で毎日、おめえのけいりを待っているぜ・・・だから、早く良く なって俺と一緒に・・・」お雪 「だめ、帰れません・・・どんなに会いたくても・・もう帰れません・・ だから、不幸のお詫びを兄さんから・・・」半次郎「そんな・・」お雪 「だめ、だめなんです。・・・それよりも、先ほどの夢、夢で彦作さんが 会いに来てくれました」半次郎「なに、彦作が」(小さい声で)お雪 「恨みに恨んだお人だったけれど、・・会えばやっぱり嬉しさが先に立ち ました」(お雪は彦作を恨んでいるのだ思っていたが、ずっと彦作を思っていたのだ・・半次郎は複雑な気持ちになったのでしょう・・・そんな表情でしょうか) お雪 「江戸へお帰りになったら・・・彦作・・彦作さんに・・」 半次郎「しっかりしろ・・しっかりしろお雪」お雪の手を握り呼びかけますが、お雪は事切れてしまいました。庭先にいたおたかが部屋に入ってきます。お雪の手を握り悲しみに暮れる半次におたか「半次さん、戸倉屋のおたか、兄、兄に代わってお詫びいたします」 半次郎は、悲しみを押え、お雪の両の手を重ね、顔に手拭いをかぶせてから、おたかに言うのです。半次郎「おたかさん・・・あっしは、おめえさんの身元は菊屋でそれと分かってい た。兄は兄、妹は妹、さして憎いとは思わなかった。だが、事がこうなっ ちゃ俺も人の子、彦作の縁に繋がる奴はどいつも憎い、腹が立つ。けえれ ・・けえってくれえ。二度と俺のめえに面だすな」 おたかは「はい」と言って部屋を出ると、廊下で泣き崩れるのです。 続きます。
2017年08月11日
コメント(0)
気持ちはこれで解れたわけじゃねえ呑みこみの金介も菊屋に宿をとりました。宿の外には、小平と弥吉が待っています。金介は気が進まぬ様子です。おたかは先ほど半次郎から言われたことで眠れないでいます。夜更けになり、金介の手引きで小平と弥吉の二人が半次郎の部屋に近づいていきます・・半次郎は、気配を感じました。おたかも何かの気配を感じました。 おたかがそっと障子を開けた時、二人が刀を抜いて半次郎の部屋に入ろうとしていたので、おたか「半次さん、危ない」 その声で、半次郎は飛び起きます。 宿の部屋の中と廊下での斬り合いになります。 二人は、太刀打ちできず金介の部屋から外へ逃げていきました。危ないとこでした、という金介に、不用心にあきれる、何故雨戸を締めておかなかったと、半次郎は言い放します。部屋へ戻る途中、おたか達の部屋の前に来た時、半次郎「さっき声をかけてくださったのは、おめえさんかね」おたか「はい」半次郎「お蔭であっしが先手をとり、かすり傷ひとつつけなかった。あつく礼を 言いますぜ」おたか「そんな」 (おたかは半太郎の言葉にうれしそうに答えます)半次郎「だが、気持ちはこれで解れたわけじゃねえ、それはそれ、これはこれだ。 どうか忘れねえでおくんなさい」 と言って立ち去るのを見て、おたかは、気持ちは変わっていない、やっぱりだめかとしょんぼりするのです。翌日、由井宿を発ち、次の宿場に向います。山街道を半次郎、金介、おたか達が別々で歩いていきます。ここで「三味線道中」の歌が流れます。♪何処へ行くのか 旅人さんは 笠に隠した横顔を 娘つばめが 覗いて通る (ここはおたか達三人の鳥追い姿で歩いている場面です。この後は半次郎が歩いていく姿の時に流れます)♪しんとんとろりと良い男 とーことろりことんとんとん (橋蔵さまの歩く姿綺麗でしょう) ここで、半次郎がお雪とのことを思い出しながら歩いているのでしょう。「いろは笠」の歌をお雪(丘さとみさん)が歌います。 ♫いろのいの字は 命のいの字 恋にゃ女は 命がけお雪「あら、お兄さん」 ♫それも承知で 振りきるつらさ (ここは半次郎が草笛を吹きます) ♬忘れておくれよ 好きで別れる いろは笠 画面は、現在に戻ります。(ここから「いろは笠」が山形英夫さんの歌で流れます。) (暫く歌と共に、半次郎の綺麗な歩く姿をご覧ください)♪いろはにほえど 他国の恋は いつか泪で ちりぬるお ♪惚れちゃなるまい 好かれもすまい 忘れておくれよ 野暮な男の いろは笠 半次郎の足が止まります。後ろからくるおたか達の方を見てから、休んでいる二人連れのところにより 半次郎「失礼さんでござんす」と言うと、顔を検める様に笠をあげます。 (いままでの半次郎のセリフもそうでしたが、ここからの半次郎のぽんぽんとしたやくざ言葉、書くとなると非常に難しい。映画を見ながらですと、意外と画面に集中して台詞はこんなものかと聞いているのですよね。またこのセリフ回しを橋蔵さまがうまいので、真剣に聞くと、ちょこっとずつ、言葉を詰めたり流すのです。さすが上手いものです。やはり、橋蔵さまのやくざものが良いのが分かります) 二人の名を聞き、半次郎「申し遅れやしたが、手前は草間の半次郎。事改めて申し上げるまでも ねえ、お二人さんとも先刻ご承知のはず」小平が顔も名も初めてだと言います。半次郎「その言葉に嘘はねえか」小平「ねえとも」 弥吉「ねえよ」半次郎「なるほどな。へぇっ、こいつはおいらが間違ってた。お二人さんのその 面つきじゃ、このぐれいのことじゃ泥は吐くめい」半次郎は二人から離れると、見張るように石に腰掛け、半次郎「動くとためにならねえぜ、じっとしてろい」 小平「どうするおつもりだねえ」半次郎「今に分かる待ってろ」(その間にも、半次郎はお雪のことを考えているような表情を見せます) (橋蔵さまのちょっと視線を下に向けた憂いのある表情は、見ている私たちを引きこむ魅力があります)半次郎「おう、三人さん、こんな所でうろうろしていると、狼の餌食になるぜ。 早くいきなせい」おたか達が通り過ぎ、小平と弥吉も行こうとした時、半次郎が前に立ちはだかり 半次郎「動くんじゃねえ」 半次郎「へっ、手の内は知ってるだろ、斬られたくなかったら、おとなしくそこ にいろ」 そこへやってきた金介がおたか達と先に行こうとしたが、半次郎に呼び止められます。小平と弥吉の二人とはいつからの付き合いかと聞かれ、三人はお互いにないと慌てています。金介が面識はないのだから二人の疑いを解いてくれるようにお願いします。半次郎「それ、おめえ、自分の首にかけて言うんだな」 金介は、半次郎に嘘をつける男ではない、と言います。はなからの悪党でない金介がそう言うなら、この幕は引く、と言って金介を行かせます。(ここで、抜いていた長脇差を鞘におさめるのですが、くるりとまわして・・格好良いのです)半次郎「後日のためにいっとくが、ことの次第がはっきりして、もしおめえさん がたに用の出来た時には、俺は何処の果てえだって出かけて行く。 草の根分けたって逢わずにはおかねえから、その覚悟でいな」と言って半次郎は旅を急ぐのでした。 半次郎がついているのでは、おたかには近づくのは命がけ・・500両は無理だという弥吉に、小平はおたかには追ってがかかっている・・その追っ手にきっかけをつけ500両を頂き、半次郎の始末をつけさせればよいというのです。 続きます。
2017年08月06日
コメント(0)
今限りきっぱり心の仕切りをつけますぜ松平江戸家老高坂格之進の手先の赤戸武兵衛は戸倉屋の彦作と隠居の彦右衛門を連れ、おたかを追っています。追いつきたいので急いでいるのですが、彦右衛門は駕籠に乗り出来るだけゆっくり行こうとしています。(伊東亮英さんの彦右衛門さんが、この作品の中でホッとする瞬間を作っています。彦右衛門さん物分かりがよくしっかりしている)上方方面に歩いていた二人連れの鬼の小平と役者の弥吉は、高坂が手をまわしている先ぶれの三吉から戸倉屋の娘を見つけ知らせたなら500両が出ると聞き、後戻りするのでした。一癖ありそうな二人です。半次郎は今日も行く先々でお雪のことを探し聞きながら歩いています。おたか達とまた会った半次郎は足を速めます。それを見ておたかは二人に先に行くと言って半次郎の後を追います。(ここから、少しの間、橋蔵さまと千原さんの江戸っ子のポンポンという何とも言えない会話にご注目してください) 追いついたおたかは半次郎をこのように見て、・・半次郎はこのような表情をします。 さっさと行く半次郎におたかはついて行きます。半次郎「何だ」おたか「何です」半次郎「何か用かと聞いているんだ」おたか「いえ、別に」半次郎「そんなら、とっとと先へ行け。行くのが嫌ならうしろへ下がれ」 おたか「おや、とんだ言いがかりをおつけなんですね」半次郎「言いがかりだと」おたか「この街道はお前さんだけのもの?他の者が気ままに歩いちゃいけないとで もおっしゃるんですか」半次郎「へっ、屁理屈を叩きやがる」半次郎はおたかにかまってはいられないと歩き出します。 着いて来るおたかに半次郎が話かけていきます。半次郎「おめえ、生まれは何処だ」おたか「江戸の神田ってとこ」半次郎「名は何とゆう」おたか「おけい」 半次郎「そのおけいさんが、この俺に付きまとう魂胆のほどは何だ」おたか「分からない」半次郎「分からねえと」おたか「どうしてだか、自分で自分が」半次郎「ちぇっ」 (半次郎、おたかにちょっと心を許したかしら・・・) 半次郎「女だてらに酒ばかり飲んでいやがると、どうせ末はよくねえぜ」おたか「そうかしら」 (力なく言います)おたかに気を許してきたのか、妹お雪の話をするのです。半次郎「論より証拠。俺の妹のお雪とゆうのは、心の痛手を酒で消そうと日ごと飲 んだくれているうちに、ついしたはずみで悪い野郎の口車に乗り行方知れ ずになってしまった。その頃俺は旅かけていて、どう手の打ちようもなか ったが、過ぎて一年、今頃は何処にどうして」 おたか「わかった。お前さんの訪ねているって人は、その妹さんだったのね」半次郎「そうよ。だから、どんな訳があろうと酒だけは飲むな」おたか「はい、これからはけっして」 おたかも半次郎に好きな人がいると思っていたのが妹だと分かり、さっきまでとは違って素直になり、仲良く歩く二人の後ろ姿です。(大店のお嬢様でこういう性格の役は千原しのぶさんはピッタリ。橋蔵さまとも気が合い、次回作「ふたり大名」でも、橋蔵さまとの共演者が続くのです) あとから来ていた金介が、今晩の宿は由井の菊屋だと言います。 由井宿に金介とおたか達の姿がありました。おたかが半次郎も必ず同じ宿に泊まるのか聞いていた金介を鬼の小平と役者の弥吉が見つけます。この三人は昔の相棒のようです。金介が連れていた中に戸倉屋のおたかがいることを知り、分け前は三人でといわれ、金介は仕方なく呑みこむのでした。しかし、そこで草間の半次郎と言う男がついていることを金介は話すのです。強い弱いの話ではなく、半次郎に対して”八分の引け目”弱みがあると言うのです。それは、去年江戸から連れ出して、自棄になっているのをいいことにして、さんざん悪事の手先に使い女郎に売った、今は鞠子の宿にいるお雪の兄貴だと言います。鬼の小平は半次郎が明日鞠子の宿に入ってお雪にあえば面倒になる、今夜半次郎をかたずける話になりました。足を洗ったのだから片棒は担げないという金介ですが、手引きをするようになってしまいます。 菊屋に半次郎も草鞋をぬいていました。半次郎の部屋に、おたかが訪ねてきます。半次郎は、「近くに寄るな」とおたかに言います。心の底が分からない、勘ぐれば勘ぐる程その正体がぼやけてくる・・だから気味が悪いと言います。用がなければ部屋へ来てはいけないのかと言うおたかに、用もないのに差し向かいになるほど、親しい仲ではない、と言うのです。おたかは、妹がどうして身を崩したか聞いてきます。半次郎はおたかが戸倉屋の娘とは知らずとうとう言ってしまいます。半次郎「持ち崩したそのもとは、戸倉屋彦作だ」おたかは、はっとします。半次郎が言います・・彦作は遊びのつもりだったろうが、お雪には心底からの恋だった。その夢が破れては自棄にもなるだろう。・・それを聞いていたおたかがうなだれているのを見て・・・半次郎は何かを感じたようです。 (ここから半次郎の言葉がきつくなります) 半次郎「どうしなすった、おい、おけいさん」 おたかが顔をあげ、半次郎を見つめます。半次郎「泣いていなさるようだが、どうしなすったね」おたか「はい、あんまり世間が狭いもので」半次郎「どう世間が狭いんだ」 おたかは自分も戸倉屋には恨みがあると言います。半次郎は腹が立っているように、おたかに詰め寄ります。おたかが矢場で・・・と言った時、半次郎「待ちなせい、見たところ俺の目には、矢場女の人品とは思えねえが」おたかは、本当に矢場にいて、戸倉屋彦作の口車にのせられ・・・と言った時、半次郎は「いや、分かった。そのうえ何も言いなさんな」(おたかは、はっとします)(半次郎は何かを抑えているのです。言葉がきつい。おたかに腹が立っているのかもしれない、もしかしたら、今までの行状から見ていて、気がついているのかもしれない) 半次郎、少しの間気持ちを抑えると、おたかに言うのです。半次郎「二度とねえ折だから、男らしく打ち明けますがね、わっしは、口じゃぽん ぽん言ちゃいるが、実のところおめえさんという旅の道連れに、けっして 悪い気持ちは持っちゃいなかった。だが、今限りきっぱり心の仕切りをつ けますぜ」 引き取ってくれと言って、後ろを向いた半次郎の背中は震えていました。(おたかに心が揺れている半次郎ですが、妹の敵とかかわりのあると見たおたか、これ以上深入りをしたくないためのきつい言葉を発したのでのでしょう) 続きます。
2017年08月01日
コメント(0)
戸倉屋には深けえ恨みがあるんだ(旅籠での半次郎とおたかの心理状態から、二人の間の感情の変化が読み取れます。半次郎の探している人が誰かということは、おたかにはまだわかりませんが、戸倉屋に恨みがあるということは半次郎から聞くことになります。ここでは、沼津の旅籠富士屋に宿をとった半次郎、おたか、金介達の心の動きが描かれます) 沼津の旅籠富士屋の襖を隔てての部屋に、おたか達と金介が夕食を取っています。この宿に半次郎の姿もありました。風呂あがりで部屋へ戻ると夕食に頼んでいないお酒が付いています。お酒は頼んでないがというと、女中は梅の間のお客様からの言いつけでと言うのです。梅の間は金介が泊まっている部屋でした。半次郎はお銚子を持って金介の部屋へ行きます。 半次郎「おめえ、いやに俺にきっかけをつけたがっているようだが、どうした 訳だ」訳はない、半次郎のことが好きだから、と言うのです。半次郎「それだけか」金介 「それだけです」半次郎「ならいいが、俺は生まれつき曲がったことがでえきれいで、その上気が みじけい。へたに周りをうろうろしてやがると、とんだ目にあうぜ」 金介は、それでは自分が悪い奴のように聞こえるがと、半次郎「その通りよ」大した悪事はやってはいなだろうが、人間真面な道を歩くことだ。思い当たることがあったら、今日限りきっぱりと足を洗え、と金介に言うのです。 それは隣の部屋にも聞こえていました。金介が一緒に飲もうと言うのを「いやだ」と言って自分の部屋に戻って行こうとした時、女中が部屋にまたお銚子を持ってきたのを見て、部屋を間違えてはいないかと、半次郎「おれは、酒を頼んだ覚えはねえが」女中 「いえ、これは桜の間のお言いつけで」(半次郎さん、落ち着いて休めませんね。金介に説教して、戻ってきたと思ったら今度はおたか・・ですか。おいおい、いい加減にしてくれよ、と言いたい。)半次郎「なに、桜の間・・」 お酒を届けた桜の間では、半次郎が此処へ来るだろうか・・隣にだってすごい剣幕だったのだから、そのうちにかんかんになってやってくる、と話していると障子が開き、半次郎が現れます。意に反して、半次郎は黙ってお銚子を置いて帰ろうとします。それが気にくわないのか、おたかが引き留めます。 おたか「何とか、ご挨拶なさいよ」半次郎「してほしいのか」 おたか「聞くまでもないでしょ。そのために届けたお酒だもの」半次郎「ふん、とんだ気位のあまっちょだ。噂に聞きゃ、江戸の大金持ち戸倉屋の お嬢さんが家をおんでて、この東海道を旅かけているそうだが、一文稼ぎ の鳥追いが、その馬鹿娘のようなつもりになって、俺を相手に気前を見せ て何になるんだ・・埒もねえ真似はほどにしろ」 それを聞いていたおかつが、一文稼ぎの鳥追いが、もし戸倉屋のお嬢さんだったらどうする、と半次郎に言うと、半次郎「へっ、おめえが、か」おかつ「あたしとは限らない・・限らないけど、どうすんのさ」半次郎「どうもこうもあるものか。そいつのしょっ面へ唾を吐きかけてやるまでの ことよ」おたか「唾ですって」半次郎「そうともよ・・・戸倉屋には深けえ恨みがあるんだ」おたか「その恨みとは」半次郎「あかの他人が知ったこっちゃねえよ」と言って部屋を出て行きます。 おたかは湯呑でお酒を飲むと、おかつとおしんの心配をよそに半次郎の部屋へと行くのです。おたかの半次郎に対する慕情は秘かに燃えていました。やっと落ち着いて夕食を食べようとしているところへおたかが入ってきて、お給仕をするといいますが、半次郎は「給仕をしてもらう言われはねえ」と突っぱねます。が、おたかは「けど、わたしは」と引きません。 半次郎「よせと言ったらよさねえか・・何の魂胆があってのことか知らねえが、 きざな茶番は棚上げにとっととけえれ」おたかは、さっきの話の続き、戸倉屋にどんな恨みがあるのか聞かせてほしいと言います。半次郎「うるせえな。鳥追い風情の知ったこっちぁねえ」おたか「いや、聞きたいんです、聞かせて」半次郎「程にしろ。一旦こうと思い決めたら、梃でも引かねえ男だぜ」おたか「そう、それじゃお前さん、お前さんが訪ねてる女の人ってのは、何処の 何方」半次郎「それを知ってどうすんのだ」 おたか「別にどうってことはないけど、聞かせておくれよ」半次郎「嫌だ」 (半次郎さん得意の「いやだ」駄々っ子のようで可愛いですね)おたか「わかった、いいひと、いいひとなんですね・・そう、そうなんですね。 そうなんでしょ」 半次郎「えぇっ、うるせえな」おたかは、探しているのは半次郎が好きな人だと勘違いをし、半次郎に絡んでいて行きますが、酔いがまわってきて廊下の手すりに倒れ込んでしまいます。それを見て、半次郎が「どうした、しっかりしろ」と抱き起こすとお酒の匂いがぷ~んと、半次郎「こん畜生、飲んでやがったな。ちぇ、ふざけるねえ」と言い突き放すのですが、おたかは半次郎の、部屋でしなだれかかり酔いつぶれてしまうのです。 (仕方なくおたかを抱っこしておたかの部屋まで連れていって寝せます。それを見ていた金介の見ていられねえ、というような顔がなんとも・・) (ここで「男いろは笠」の歌が3コーラス・・庭でおかつとおしんが歌っています。うたの内容から、ここの場面の二人の様子を思い浮かべてみてくださいね)その夜、半次郎もおたかも、何故か眠りになかなかつけず・・・半次郎が廊下に出て庭で歌っている二人の様子を見ていると、おたかが半次郎の側にやってきました。おたかが見つめる視線をはずしている半次郎。二人は何かを思っているのに口も聞かずに・・でも、さっきまでとは違い、つれない素振りの中にどこかおたかに魅かれたような・・半次郎は部屋へ入ってしまいます。おたかは、あれだけ強気にせめていたのに半次郎がまだ振り向いてくれないのでふられたと思い込んで・・・。 (切ないですね・・・半次郎さん、おたかさん) *いろはにほえど 他国の恋は いつか泪で ちりぬるお 惚れちゃなるまい 好かれもすまい 忘れておくれよ 野暮な男の いろは笠*いろは四十八 あの娘は十九 あさき夢みる 目が可愛い どうせ添うなら 堅気と添いな 忘れておくれよ 浮世はぐれた いろは笠*いろのいの字は 命のいの字 恋にゃ女は 命がけ それも承知で 振りきるつらさ 忘れておくれよ 好きで別れる いろは笠 続きます。
2017年07月28日
コメント(0)
片岡千恵蔵御大が大映で1948年に主演して好評だった「おしどり笠」、戦後初の時代劇だったようですが、この脚本は比佐芳武さんが書いたものです。大川橋蔵でやくざものを書いてみたいと思っていた比佐さんがこれを橋蔵さまのために書きなおしたリメイク版「喧嘩道中」になります。そして橋蔵さま初の”股旅やくざもの”そして初の”東映スコープ”での映画になります。股旅やくざものには、街道を歩くシーンがあるので、必ずと言ってよいほど、挿入歌がありました。この「喧嘩道中」では、”三味線道中”と”いろは笠”が何回も流れます。映画を見た人は、しばらくの間これらの歌が耳に残り、橋蔵さまの映像を思い出しながら口ずさんだのではないか・・と思います。今、私がブログを書くのに見ていて、何気ない時に口ずさんでいますもの・・・そして必ず橋蔵さまのその時の映像が入ってくるのです。 ◆第24作品目 1957年5月12日封切 「喧嘩道中」 草間の半次郎 大川橋蔵おたか 千原しのぶおしん 花村菊江おかつ 吉野登洋子お雪 丘さとみ鬼の小平 原剣策役者の弥吉 阿部九州男戸倉屋彦作 立松晃戸倉屋彦右衛門 高堂国典呑みこみ野金介 徳大寺伸赤戸武兵衛 山口勇青田兵馬 百々木直戸倉屋彦兵衛 伊東亮英三吉 復久井一朗高坂格之進 堀正夫「草間の半次郎」シリーズもの四作品のうちの第一作品になります。悪に強くて情けに弱い一本刀の旅がらす、草間の半次郎が、男に捨てられ身を持ち崩した妹の行方を探して旅から旅へ流れていきます。旅の途中であった鳥追い姿で半次郎にひと目惚れし慕うおたか、喧嘩をしながら意地と鉄火に明け暮れる中での二人の恋模様。 めりはりのはっきりした橋蔵さまの殺陣はたまらない魅力の一つ。その粋な刀のさばきが、やくざ姿にマッチして独特な雰囲気を作りあげています。 始まりから流れてくる花村菊江さんの歌う軽やかで明るい「三味線道中」が、見ている私達の気分を軽くしてくれます。どんな股旅やくざ映画なのだろうと・・・。鳥追いの三人が三味線を弾きながら旅をしますので、作品の中でも何回か歌われています。 橋蔵さまの映像と共に・・・脳にインプットされてしまうくらい。 まず、スタッフ・配役のところで流れます。 ♫何処へ行くのか 旅人さんは 笠に隠した横顔を 娘つばめが 覗いて通る とんとんとろりと良い男 とーことろりことんとんとん ♫何もしらない 乙女の胸に いつか思案の波がたつ これも恋ゆえ あの人 ゆえに しんとんとろりと何としょう とーことろりことんとんとん 無駄な銭はびた一文使いたくねえんだ。ごめんよ 札差屋の戸倉屋彦兵衛と彦作 、高坂格之進、の間で画策しての婚礼の祝いがおこなわれようとしていました。戸倉屋の一人娘おたかは花嫁姿でいましたが、高坂が来たとの知らせを受けると、そばにいたものが逃げる支度をするようにと・・・花嫁衣裳を脱ぎ、鳥追い姿に着替えます。祖父の彦右衛門は高坂との婚礼を反対、おたかが逃げて浪花に落ち着くことになっているのを知っています。おかつとおしんと一緒に浪花まで逃げるのです。三人は鳥追い姿で街道で見るものが珍しいようで楽しそうに歩いていきます。(ここで、歌がかかります) ♫娘心と あの菜の花は 風の吹きよじゃ 散りもする なびくようには どなたがさせた しんとんとろりと好きな人 とーことろりことんとんとん ♫何もしらない 乙女の胸に いつか思案の波がたつ これも恋ゆえ あの人 ゆえにしんとんとろりと何としょう とーこんととろりことんとんとん この三人を追い越して行った先ぶれの三吉という者が茶店にやってきました。戸倉屋のおたかという娘に五百両の金がかけられたので、道中見つけたら知らせてほしいと茶店で休んでいた男(呑みこみの金介といい、半次郎とともに旅をすることになるいわくのある男です・・)に言い終えて立ち去ろうとした時、半次郎「おぅ、待ちなせい」 店の奥で背を向けていた男が呼び止めてきます。 (映画館で草間の半次郎を見た皆さんは、びっくりしたのではないでしょうか。今までの股旅やくざを演じた俳優さんとは違う、綺麗で若々しさがにじみ出て、カッコよい橋蔵さま・・新しい魅力の花がまた一つ咲きました・・・セリフ回しも凄い・・こんなにまで出来てしまうとは素晴らしい。江戸弁のやくざ言葉で言い回しが凄いのです。作品を是非見てください。初めてのやくざものでここまで出来てしまうと、橋蔵さまの”やくざもの”が良いと言われたのがお分かりいただけると思います。それだけではなく、姿が格好いいからますます惚れちゃいます) ◇ここから、草間の半次郎の道中の目的が語られますので、セリフをじっくりと読んでくださいね◇ 半次郎「今のおめえさんの言葉の中に、江戸蔵前の戸倉屋とあったが、その戸倉屋 のご当主は彦兵衛さんかね」 三吉 「さようでございます」半次郎「すると、その彦兵衛さんには彦作という息子が」三吉 「ええ、ございます。おたかさんの兄さんですが、それが、どうかなさいま したか」半次郎「なあに、別にどおってことはねえ。世間並みの物差しで測りゃ、ほんの些 細なことだろうが・・数えてちょうど三年めえに、江戸は深川、木場界隈 の小町娘でお雪・・・お雪という女の名をそのまま、何処に一点陰りのね え心と体に、いやぁなしみをつけやがったのがその彦作だ」 三吉 「えぇぇ、そいつはまた初耳でこざんすなぁ」 半次郎「それから、女は身を持ち崩し、挙句の果てにゃ、どこの馬の骨とも知らね え旅がらすの口車に乗って、行方をくらましちまったが、種を蒔いたのが 彦作とあっちゃ、まんざらおめえさんにも縁のねえ話じゃねえ」 三吉 「へえ」 半次郎「道中の先々、もし、江戸深川生まれのお雪という女にお会いなすったら、 寄る年なみのおふくろは一日千週おめえの帰りを待っている。兄の半次郎 はおめえを探して、この街道を後から来ると伝えてやっておくんなせい」三吉 「よろしゅうございます。そう伝えてあげやしょう」半次郎「お願いもうしやす」 (この時、半次郎の話を何気なく聞いていた呑みこみの金介の顔色が「お雪」の話になった時から変わってきます。お雪を知っているのでしょうか。関わりがあるのでしょうか) 半次郎は茶店の席に戻りながら、いま三吉に話したことから、半次郎「追っ手の中に彦作がいなけりゃいいが・・・おいらは、きっと斬りたくな る」 そんなことを思っている半次郎に、呑みこみの金介が近寄ってきて、仁義を切り始めますと、半次郎「よしてくれ」と。仔細あって人を探す身の上、やくざ仁義は断りたい。半次郎「それにおめえさん、すっとぼけた面してるが、目の配りにどっか油断ので きねえところがある」金介 「御冗談を」半次郎「なぁに、冗談じゃねえ。まるまる六年旅かけたこの俺の目に、めったにく るいはねえはずだ」 (草間の半次郎は真っ正直で曲がったことは大嫌いなので、怒りがすぐに出てしまいます。・・そこが若い半次郎の良いところで可愛くなってしまいます) 先ほど三吉が追い越してきた、鳥追い姿のおたか達が歌を流しながら茶店の前までやってきました。半次郎も店の外に出て、女たちの顔を確かめるように見るのです。(妹のお雪では・・と確かめているのでしょう) 何処へ行くのか 旅人さんは 笠に隠した横顔を 娘つばめが 覗いて通る しんとんとろりと良い男 とーことろりことんとんとん(半次郎が茶店を出て行こうとしますと、女たちに囲まれます)嫌な男にゃ 袖ひかれるし 好きな男は 知らんぷり 一度聞きたい 心のうちを しんとんとろりとままならぬ とーことろりことんとんとん なかなか通してくれない鳥追い達に、半次郎がいらだちます。半次郎「えぇっ、何をしやがるんでい」 (半次郎は、妹のお雪を探すことで、他の女には感心がないようです。今のところは・・ですね。ところが、大店の娘おたかは半次郎にここで一目惚れしてしまうのです・・ですから、気を引くためにこれからいろいろ半次郎にしてきます。半次郎さんも大変!・・でも、わかりますよ。このような旅人さんに会ったら・・ねえ、皆さんだって一目で惚れてしまうでしょう・・近づきになりたいと思いますよね。) 少し先に行ったところで、半次郎は後ろを振返り、ニコッとした顔で言います。半次郎「悪く取っておくんなさるな。あっしは、澄める女に巡り合うまでは、無駄 な銭はびた一文使いたくねえんだ。ごめんよ・・」 おたかは半次郎の後を追って行き、半次郎の背中めがけて小銭を投げつけます。半次郎は、何が当たったのかと後ろを振り返ってから、ぶつけたものを見ます。(おたかはふり向いてくれたのでうれしそう?です。) 半次郎がにこりとした顔でこういいます。半次郎「俺を、乞食扱いにしなさったのは、お三人さんの内どなたかねぇ」 (おたかは、まさか半次郎が起こるとは思っていなかったでしょう。)おたか「あたくしでございます」半次郎「確かに、おめえさんかね」おたか「はい」半次郎「べらぼうめ、よくも・・・」 ・・おかつが親切でした事なのだからと間に入り、おたかは、人を訪ねての旅でお金もかかると思い何かの足しにと思ってやったことが、そんなにいけなかったのかと。半次郎「・・はばかりながら、草間の半次郎は、物ごころついてから今日が日ま で、あかの他人さんから合力を受けた覚えは一度もねえ男だ。ふざけた 真似はよしあがれ」 立ち去ろうとして、投げつけられて道に落ちている小銭を足で蹴り返して去っていきます。追ってきた呑みこみの金介はおたか達に沼津の宿は富士屋、きっと半次郎さんもその宿に泊まるはずと言うと、前を行く半次郎を追って行き沼津の宿は富士屋、自分も泊まると言って先を急ぐのでした。半次郎「ちぇっ、おせっかいな野郎だ」後ろから来るおたか達の姿を見て、急ぎ足で行く半次郎です。これから、金介、おたか達が、半次郎の旅先に関わってきます。お雪を探すのが目的の半次郎。旅先で身辺に様々な事が起きます。半次郎はお雪に会うことは出来るのでしょうか。 続きます。
2017年07月23日
コメント(2)
一緒に江戸へ帰るのじゃ群衆が見守る中、馬に載せられ刑場に荘太郎が連れて来られます。 犬山 「荘太郎、若君のお情けじゃ、衣江にこの世の別れを告げるがよいぞ」 荘太郎「衣江、わしだ、荘太郎だ」 衣江は荘太郎の方を見ますが、荘太郎の言葉には全く反応がありません。 荘太郎「これ、わしが分からんか」 その時、衣江が「櫛、櫛・・・あははははっ・・あははははっ」荘太郎「それほどまでに櫛のことを。許せ、そなたをその姿にしたのは、わし じゃ。すまん、すまん」 戸狩は櫛を持って志戸坂へ行った。銀家の財宝はわしに任せて、心置きなくあの世へ行け、と犬山が言います。罪状文が読み上げられ、刀が振りあげられた時、「待てー、その成敗待てー」の声が聞こえてきます。 やってきたのは、渋川十蔵「大公儀直参渋川十蔵、ご老中の名により巡検使として、田丸藩本多家の領内視察に参った。銀荘太郎は、旗本小松ご之輔の養子として、未だに高位ご直臣にある者、如何なる罪科があろうともご老中までお届けなくして遮断ならぬこと存ぜぬか。十蔵自ら取り調べる。縄目をとかれい」(渋川十蔵の声を聞いた時の荘太郎の表情を差し込みました) 荘太郎「危ないところを、お助け下さいまして」 その時、犬山が渋川の刀を振りかざしてきましたが、渋川がかわしたところを荘太郎が斬ります。 戸狩は阿波次郎を荘太郎にしたて銀家へ乗り込んでいました。何処からか笑い声が聞こえてきます。戸狩 「何奴だ、名を名乗れ。姿を見せい」荘太郎「姿はない。悪家老、犬山勘解由のため、刑場で首を斬られてしまった者 に、姿のあろうはずが無いわ、うわっはっはっは」戸狩が急いで櫛を取ろうとした時、手裏剣を投げて荘太郎が現れます。用人猿部甚内に迷うな、真の荘太郎は・・・。荘太郎「戸狩、実父荘左衛門の仇、養父小松権之輔の仇、今日こそは打たずには おかんぞ、覚悟せい」戸狩 「面倒だ、荘太郎から先にやってしまえ」荘太郎「見よ、天に口なし。汝自ら拙者を荘太郎と呼んだことこそ、ニセモノの 証拠だ」居直り、牛堀一平の「出会え出会え」の声に手下たちが出てきました、立回りとなります。(約3分30秒の荘太郎の立回りになります)庭に降りたり、廊下を上がったり下りたりして、大変!大変!!斬られた牛堀が小刀を投げます。素早く身をかわす荘太郎。 そこを狙ってただ一人残った戸狩が斬りこんで来ましたが・・・激しい戦いも終りました。休憩茶屋では渋川十内とお梶、そしてまだ気のふれている衣江が荘太郎の来るのを待っています。渋川 「どうであった」荘太郎「お蔭で、父の敵を討ち果たすことができました」渋川 「よかった、よかった」荘太郎「櫛もこの通り」 渋川 「この櫛のために、衣江殿は気の毒なことになった。よく見せてやれ」荘太郎「はっ」荘太郎「衣江、櫛じゃ」 衣江がその言葉に、櫛をじーっと見つめています。そして、荘太郎の顔を見つめました。荘太郎は、衣江の様子を見ています。衣江は、首をかしげながら荘太郎の顔を見つめています。荘太郎「櫛だよ、分かるか・・・分かるな。・・・取れ、櫛だ」 荘太郎、衣江に櫛を持たせます。櫛を手に取った衣江は櫛を見つめ、荘太郎を見つめていて、思い出したように櫛に頬ずりします。荘太郎「・・衣江、荘太郎じゃ、荘太郎じゃ」 その声に、衣江が「荘太郎様」荘太郎「衣江、苦労をかけたなぁ。さあ、これからはもう、心配はかけぬぞ。一緒に江戸へ帰るのじゃ」 渋川も安心したように・・二人も一緒に江戸へ向かいます。お梶には、荘太郎が幸せなら・・と分かってはいることです・・・三人とは離れて一人江戸へ向かうのでした。 (完) 月形龍之介さんとがっぷり四つでのものは、これが初めてだと思います。月形さんは、橋蔵さまにいろいろ教えてくださっていました。立回り以外は、本身を差しなさい。そうでないと動きに重みが出ないと言うことも。橋蔵さまが月形さんを訪ねると、いつもお着物をきちんと斬られているという方でした。この作品も月形龍之介さんで所々をしっかりと締められているのが分かります。悪人を演じても、善人を演じても流石魅力のある俳優さんです。 この作品でデビューしたお梶役の松風利枝子さん(後に松風はる美さん)、何となく雰囲気から宝塚の男役をやってた方だな、と分かります。テレビに移ってからは時代劇、現代劇に出演していました。橋蔵さまの作品では「花吹雪鉄火纒」のに組の娘役で、長次が好きなのですが長次はその気がないという役でした。「大江戸の侠児」では二代目のお中老でちょっとだけでした。でもこの作品でのお梶はとても合っていたと思います。 この作品、初めに書きましたように、伝奇小説ですから、あるようなないような世界が描かれています。ですから、好き嫌いが分かれると思います。しかし、これぞ、正にチャンバラ映画だというのは十分に味わえます。橋蔵さまの立回りは力強さがないと言われていましたが、反対に、橋蔵さまのような舞踊を見ているような流麗な動きをする殺陣を、他の人がマネできるでしょうか。当時でさえ、橋蔵さまのように綺麗に動ける俳優はいなかったのです。まして現代のバッタバッタと斬り倒せばよいという時代には、綺麗な流れの殺陣は新鮮に思えます。真似しようとしてもできるものではありません。流麗な動きで斬っていく殺陣は見ていて気持ちのよいものです。「修羅時鳥」では橋蔵さまの化粧法がちょっと変わってきましたね。眉の描き方、目の描き方、つけまつげと・・この映画もモノクロなので、くっきりとしたお侍で来るのかと思いましたら、違っています。また、この作品の中でも、恋焦がれている恋人を探し求めるという、切ない感情をだすのだからでしょうか、ちゃんとした髷の時は、ちょっと憂いがあるような目で、髷をおろした時の目は少しきりっとしている。どちらかと言うと、私は髷をおろした方の荘太郎さんの方がいいかな。掲示板の方に、刑場での撮影本番前の橋蔵さまのスナップ載せましたので、よかったら下記をクリックしてご覧になってみてください。 1234
2017年05月19日
コメント(0)
こと志に入った時は・・犬山勘解由は城主本田亀之助と一緒に衣江を連れて志戸坂に向いました。戸狩は犬山に櫛を届けるため、門兵衛と阿波を連れて行列を追っています。お梶が渋川十蔵の屋敷を訪れています。渋川「お前もついて行く限り、命を捨てる覚悟はあろうな」お梶「はい、荘太郎さまの、おためなら」渋川「報いられることもない恋のために、死ぬか」お梶「それで、私は満足でございます」(お梶は、本当に嬉しそうに言うのです。こういう、恋もあるのですね。荘太郎さんが、お梶のこの恋心を分かると良いのですが・・・衣江ばかりが頭にあるから、無理ですかねぇ。悲しいです。私はお梶好きですが)渋川「うん、行け」お梶「では、お許しを」渋川「万一の時は、お前の骨も、荘太郎の骨も、わしが拾ってやろう」 荘太郎も志戸坂に向っていました。 街道を行くそれぞれの姿が映しだされ、岩常の宿場に入ります。荘太郎も岩常の宿場に入ってきて本多亀之助の本陣宿を通り過ぎ足を止めます。 荘太郎は 斜め前の旅籠に宿をとります。その本陣宿を戸狩が犬山に櫛を届けにやってきています。戸狩も斜め前の宿に泊まっているようです。門兵衛と阿部が表に出て飲み直そうと外へ出て行きました。旅籠の二階の部屋の荘太郎は外が気になりました。 二人連れの騒いでいる男の顔を見て、荘太郎は、富岡八幡宮で戸狩と一緒にいた男達と気がつきます。荘太郎「戸狩も、この宿へ」 そして、床の間の刀を取り戸狩を見つけに行こうとした時、三味の音が聞こえてきました。荘太郎聞き覚えのあるような・・・。 その流しの女は旅籠の女中に呼び止められ、呼ばれた部屋に行きます・・・いたのは戸狩。三味で流していた女はお梶でした。お梶は戸狩の顔を見て直ぐに気づきます。戸狩もどこかであったと言いますが、お梶は知らを斬り、三味を鳴らし半太夫節を語り始めます。荘太郎の部屋にもその半太夫節が聞こえてきます・・・荘太郎はさっきから、どうも気になっているようです。荘太郎「この辺で、半太夫節とはめずらしいな」 聞かれた女中は、下のお客さんが呼んだ流しの姉さんだと答えます。 荘太郎は、どうも気になるようです。 戸狩はお梶の膝で眠ったようにしていましたが、戸狩の懐に手を入れた時、櫛を奪い取った時の女だという事を思い出し、お梶が危なくなった時、障子が開いて荘太郎がやってきました。刀を抜こうとした戸狩に、荘太郎「慌てるな、戸狩。ここでは他の客に迷惑だ。裏へ出ろ」 裏に出ると、卑怯にも戸狩は後ろからかかってきました。荘太郎「養父小松権之輔の敵、尋常に勝負いたせ」戸狩は、小松権之輔に恨みはない、荘太郎と銀家の櫛を狙って出入りをしていたのだ、と言います。 (二人の対決、立回りです)刀を落した戸狩は逃げて、本多の本陣に助けを求め中に入り、扉は締められてしまいました。中へ入りこもうとする荘太郎に、お梶 「荘太郎様、深追いなされて、もしも敵の罠にかかられては・・」荘太郎「いや、明日になれば、行列は城内にはいる。城内に入られては衣江は、 衣江は」 その時、閉まった門が開きました。侍達が荘太郎にかかってきます。荘太郎「お梶、逃げてくれ」お梶 「どうか私におかまいなく。衣江様を早く、早く。もしあたくしに出来る ことがあれば」荘太郎「かたじけない。こと志に入った時は、この由、渋川殿にお伝え申して くれ」お梶「はい」(外から屋敷の中での立回りに変わります。見せ場のたちまわりですから、凄いです。橋蔵さま久しぶりの大いに暴れ回ることができる立回りです。ただ、まだ体が延び切るところが見られます。動きが速く激しい動きですし、もう少ししなければ・・流石橋蔵さまというところまで、もう少しですよ) 衣江、衣江と言いながら、次から次と襖を開けて部屋を探します。そして、斬った一人が倒れ障子が倒れた部屋に駕籠が・・。 荘太郎が駕籠を開けたとき、手を掴んで「櫛、櫛、櫛をお返し」と荘太郎に向って言う衣江がいました。 (ここのところの画像に少しかげが入っていますので、少し見ずらいですが)衣江は気が触れていました。衣江を人質に観念するように言われ、荘太郎は刀を捨てます。 衣江をおとりにしておけばいつかは来ると思っていたと犬山。戸狩は荘太郎に言います。戸狩 「養子先の親小松権之輔を手にかけたのも、実の父荘左衛門を田沢峠で眠ら せ たのも俺だ」と。荘太郎「なに、実の父も」 城主亀之助は、荘太郎と衣江を見て、国もとまで連れていって極刑にしろと言いわたします。ここに書いた場面には、橋蔵さまの目の動きがふんだんに出てくるのですが、少し多すぎてしまっているような気がしました。筋書としてあまりおもしろ味のないものですから、荘太郎の心理状態で描こうというのは理解できますが、ちょっとやりすぎ。橋蔵さまの目の使い方の良さが、半減してしまいます。 続きます。
2017年05月14日
コメント(0)
櫛一つのことでのう荘太郎は、衣江には「櫛のことはもうよい」と言いましたが、やはり母の形見、そして実の父と会える時の証拠となる櫛です。そう簡単には諦められないのは当然です。祭りで賑わっている富岡八幡宮の境内に、衣江が落した櫛を髪にさしている娘を戸狩らが追っています。荘太郎も探しに来ていて、戸狩をみつけました。 戸狩弾十郎が娘の髪から櫛を取り大津絵の門兵衛と阿波十郎に投げて渡そうとした時、スリに横取りされてしまい追って行きます。荘太郎も彼らを追います。荘太郎「戸狩、戸狩弾十郎、待て」戸狩が振り向きます。荘太郎「養父、小松權之輔の仇・・逃がさんぞ」斬り合いになります。 駆けつけてきた町方に上手いことを言い、戸狩は逃げ去っていきます。抑えられた荘太郎は、「敵討ちだ、邪魔だてするな」と振り払い、戸狩を追います。スリの伊佐吉が逃げ入った家は、義太夫節稽古場お梶のところでした。渋川十蔵が家に戻ると、荘太郎の姿も、衣江の姿もありません。荘太郎は止めるのも聞かず出かけて行ったと、そして衣江も荘太郎宛の文を置いて出て行ってしまったのです。櫛も見つからず、敵も見失って肩を落として帰ってきた荘太郎を待っていた渋川が言います。渋川「貴様、何処をうろついておった。衣江殿をどうしたんだ。これを見ろ」と言って、衣江の文を見せます。銀家にはなくてはならない櫛、母上様の形見と聞きながらなくしてしまった、これから探しに参ります・・・と書いてありました。(私としては、やはり、橋蔵さまの悲しみの仕草は、顔で表現しようというところが見られるところがちょっと・・・ゴメンナサイ🙇) 衣江は櫛を探しまわっていて小松の屋敷に来ていました。短刀を出し死のうとした時、お梶とお梶の父親に止められ、外へ飛び出したところに、本多家の侍に見つかり連れ戻されてしまいます。お梶は渋川十蔵に知らせなくては・・と急ぐ途中、渋川と荘太郎に会います。衣江が本多家の侍に連れて行かれたことを告げます。荘太郎が行動を起こそうとした時、渋川は荘太郎に「昨日のようにはいかんぞ」と言い自分が話に行ってくるから「待っていろ」と言います。荘太郎は、お梶家で待つことにします。 本多家の家老犬山勘解由は衣江を責めて、櫛の在処を聞きだそうと必死です。訪ねて来た渋川に衣江の行方は知らないと言い通します。お梶の義太夫節を聞きながら荘太郎は思いを巡らしています。荘太郎「すまぬことをした」お梶 「何が?」 荘太郎「いや、衣江にじゃ・・・わしが黙って出て行ったのがいけなかったの じゃ」お梶 「しばらくぶりで、お会いなされましたのに。どうして、またそのよう な」」荘太郎「櫛じゃ。櫛一つのことでのう」 お梶 「櫛?」荘太郎「母の形見、月に時鳥の蒔絵がついた大切な櫛だが、衣江には帰られぬ」お梶 「衣江様がお聞きあそばしたら、どのようにかお喜びでございましょう」お梶はそう言いながら、肩を落とし悲しそうにします。その様子を見て荘太郎「どうしたのだ」 お梶 「いいえ、つい、子供の頃、若様と衣江様に遊んでいただいた時のことを思 いまして」荘太郎「うん、よう三人であそんだなあ」その時、戸が開く音が・・渋川が戻ってきました。亀之助が近いうち国もとへ衣江も連れて行くようだ、と伝えます。荘太郎「衣江を」 スリの伊佐吉が月に時鳥の櫛をお梶に持ってきました。お梶が荘太郎が言っていた櫛だと持っていこうと出かけたところに、戸狩らとかち合い、伊佐吉は殺され、櫛は戸狩に取られてしまいます。櫛を持って志戸坂に乗り込もうと言うのを聞いて、お梶は荘太郎に知らせに行きますが、本多家の家老の使いが来て、荘太郎を呼び出したと聞き護持院が原に走ります。荘太郎が護持院が原についた時、駕籠が一台置いてありました。辺りを見て、駕籠に近づき「衣江」と籠のたれを開けますと空っぽでした。 「よく来たな、荘太郎」どこからとなく声がして、囲まれてしまいます。荘太郎「貴様らのやることは、どうせ、こんなことであろうと思っていた」衣江は今朝亀之助と一緒に国もとへ発ったと、銀家の櫛も戸狩の手に入るだろうと牛堀一平から聞かされます。(ここから1分20秒の立回りになります。荘太郎一人で蹴散らします。そこへ、お梶がやってきて、戸狩が櫛を持って志戸坂に向ったことを告げます) (橋蔵さまの殺陣はまだ完璧に上手くはありません。刀がぶつかりあった時の重みが感じられません。動きにとらわれてしまっているように見えるところがあります。でも、舞踊的流麗な殺陣は見ていて綺麗で気持ちの良いものです)
2017年05月10日
コメント(0)
吉川英治原作“修羅時鳥”・・ 月をかすめて飛ぶ一羽の時鳥(ほととぎす〉の一枚の桃山櫛の装飾が全篇の象徴です。この櫛の持ち主こそ銀家〈しろがねけ〉五十万両の相続人。名前を荘太郎といい、事情あって行方知れず。銀家四十八土蔵の乗っとりを企んだのが門兵衛、阿波次郎の小悪党。さらに二人の上をゆく悪党、戸狩弾十郎。一方、幻の荘太郎と櫛を求めてさまよう奥女中の衣江。かなわぬ恋に悶々のお梶の活躍など、世話もの風の味わい深い面白みのある長編伝奇(空想的で不思議な内容)の小説からの映画化になります。橋蔵さま、ひばりさんと付人の怪我の具合が心配のなか撮影に入った作品です。この作品、外での撮影が多い作品なのです。1月中頃から撮影に入りましたから、比叡おろしで肌も凍りつくような中での撮影が続きました。 ◆第21作品目 1957年2月封切 「修羅時鳥」 銀荘太郎 大川橋蔵小松衣江 田代百合子お梶 松風利栄子渋川十蔵 月形龍之介戸狩弾十郎 加賀邦男阿波次郎 徳大寺伸門兵衛 渡辺篤犬山勘解由 清川荘司牛堀一平 楠本健二猿部陣内 明石潮母の形見、時鳥の蒔絵の桃山櫛 谷あいの山街道を、大津絵の門兵衛と浪人阿波次郎の二人が、前を行く老人の懐を狙ってつけていますと、不意に出て来た浪人が老人を斬り狙っていた懐のものを抜き取っていかれてしまいました。瀕死の老人は「不慮の死を伝えてほしい、この包みのものを届けてほしい」因州志戸坂の銀(しろがね)荘左衛門と名を伝えてこと切れます。遺品を届けた門兵衛は、銀家の用人猿部陣内から、その品は銀家の世継ぎを定めるのに大切な品だと聞かされます。二十年来探していた世継ぎの若様が江戸にいるらしいというので、主人が三日前に発ったばかりであったというのです。今年で二十四才巳年生まれ、名前は荘太郎様。若様らしき人にあったら知らせてほしい、お礼はいくらでもする、と聞いた門兵衛は・・。証拠の品は、”月に時鳥の蒔絵で一対になる桃山櫛をもっている方が荘太郎である”というのです。荘太郎は荘左衛門が女中に産ませ子。本妻が怒って女中を毒殺しため子供を屋敷から逃した。そのとき後日の証拠にと時鳥の蒔絵の桃山櫛を持たせた、というのです。百万両の財産が入ってくると聞いて、門兵衛と阿波次郎は櫛を探すことにします。 場面は変わり江戸因州田丸藩本多家の江戸屋敷では当主亀之助が腰元衣江に執心。しかし、衣江には荘太郎という許嫁がいるのです。衣江の父が殺され、敵を探しに行った許嫁の荘太郎からはここ数年音沙汰がなく行方も分からないのでした。荘太郎が死んだとは思えない必ず戻ってくる、と言う衣江に腹を立てた亀之介は意地でもそばから話さないと・・衣江はとっさに井戸へ身を投げますが、助けられて牢に入れられてしまいます。衣江が身を投げた井戸の水替えをするため人足の出入りが・・その中に一人不審に思われた者がいましたが、無事に屋敷内に入れてもらうことができました。(実は、壮太郎なのですよ。江戸に戻ってきたのです)その夜、座敷牢を破り衣江を連れてにげる男が・・家臣たちに追い詰められてしまいます。亀之助「無礼者、衣江を返せ」荘太郎「あなたの許嫁ではあるまい」(斜め後ろからのアングルで顔は移りません。声だけです。それにしても、いい声だなぁ)亀之助「だまれ、余は本多亀之助じゃ」荘太郎「本多家の若殿なら、他人の許嫁を奪ってよいのか」(まだ後ろからのアングルで声だけで顔は映しません)亀之助「何者だ、貴様は」荘太郎「銀壮太郎」(頬かむりの手拭いを取ります。カッコいいです) 家臣たちが斬りかかります。荘太郎は衣江を連れて追っ手から逃げます。川端へ逃げて来たところで行き止まりになり、二人は川に飛び込みます。この時、衣江は川べりに大切な櫛を落してしまいます。荘左衛門を斬った戸狩を見つけた門兵衛と阿波はお互いに手を組みます。銀荘左衛門を手にかけたのは、本多家の家老犬山勘解由が戸狩弾十郎を使ってやったことだったのです。銀家の財宝を狙っているようです。戸狩から櫛は月に時鳥の蒔絵櫛と聞いて衣江が持っていたことに気がつき、荘太郎と衣江を探しだすよう戸狩に言います。 次の日の旗本渋川十蔵の屋敷です。部屋に荘太郎と床に寝ている衣江の姿がありました。亡くなった衣江の父小松と親友であった渋川十蔵の屋敷に身を寄せたのでした。真夜中に濡れねずみになった女をかかえていきなり飛び込んで来たのには驚いたと。迷惑をかけたと謝る荘太郎です。渋川 「しかし、お主、いつ江戸へ戻った」荘太郎「昨日でございます。敵、戸狩弾十郎の後を追って、西国筋を訪ね回りまし たが、巡り合えず、もしや江戸へ舞い戻ってはと存じて立ち返りましたと ころ、本多家に衣江が・・」 渋川は、荘太郎に、この世の中へ苦労しに生まれて来たようなものだなといいます。衣江が目を開けました。荘太郎「おう、気がついたか」 (橋蔵さまの目の動きがこの作品でも生きてきます) 衣江は、渋川十蔵のところと知って安心します。渋川は若い二人の邪魔をしてはと出かけていくのでした。衣江は、帰りを待っていたことを荘太郎に告げ、「わしも会いたかった」と荘太郎は言い、衣江を抱きしめます。が、その時、衣江の髪に櫛がないことに気がつきます。 荘太郎「衣江」衣江 「はい」荘太郎「そなた、櫛はどうした。わしが預けた母の形見の櫛、持っておろうな」衣江 「はい、ここに」と言って胸元に手を入れましたが、ありません。荘太郎「どうした」 衣江 「・・・ありませぬ」荘太郎「ない」 衣江 「確かにここへ・・ここへ入れておいたのです」荘太郎「確かにそこへ入れておいた櫛ならば、昨夜着換えをしてもらった時に、 出て来たはずではないか」 慌てておろおろしている衣江を見て、荘太郎「衣江、案じるでない。・・もう、よい。櫛のことなど、もうよい」 衣江 「でも、あの櫛は、あなたの母上様の・・」荘太郎「うん、わしもいつかは、あの櫛を持って、志戸坂を訪れ、実の父と名のり あう日もあろうかと思っていた」 衣江が、荘太郎が敵を追って出かける時、櫛を渡して行った時の事を思い出しています。荘太郎と衣江が帰ってきた時、家から戸狩弾十郎が慌てて出て行きました。(その時戸狩の方に視線を映している様子です) 二人はおかしいなとは思いましたが、別に気にはとめず、部屋の障子を開けると衣江の父が殺されていました。荘太郎は戸狩を追って旅に出る、敵を討って帰るのを待っていてくれ。その日まで母の形見の櫛を荘太郎と思って待っていてくれと渡したのです。荘太郎「契りを交わさずとも、二人は夫婦じゃ。たとえ離れても互いに変わるま い。その心の誓いのしるしに、そなたに預けていく。わしと思うてこの 櫛を肌身離さず」 衣江は、我に帰り、まわりを見回して、荘太郎の姿がないことに気づきます。 続きます。
2017年05月06日
コメント(0)
ちょっと今の回は長くなってしまいますが、一挙に最後まで書きますね。やがては、わしのことも・・幸せでな(大広間での万太郎と吉宗の会話のやりとりから入っていきま。ここは、これからの作品の流れに大切な一コマになっていると思いますので、長い会話になりますが、その様子を感じとってみてください。))万太郎、思うところがあって、吉宗に会いに江戸城へ参ります。大広間に万太郎が、「お成り~」の声が。吉宗 「万太郎、久しいのう」万太郎「将軍の座の座り具合はいかがでござりましょう」吉宗、窮屈で、万太郎の自由の身が羨ましいと。吉宗はお庭番から手に取るように報告を受けていたので、万太郎が高麗郷へ行っていたことは耳に入っていました。万太郎「将軍家にそれほどご配慮をかたじけのうするとは、万太郎家宝ものです」いつまでも部屋住まいではいられまい、養子の話がきていることを、吉宗が持ちかけますと、万太郎「養子の口などはまっぴらですなぁ。不肖ですが万太郎、いささか志も ござりますれば」吉宗 「志ともうすと・・」万太郎「羅馬へ渡ろうと思っております」吉宗 「羅馬へ」万太郎「さよう」万太郎のような自由人には、吉宗が引く政治の日本は窮屈でいたたまれないだろう、と吉宗が言います。万太郎「そこで本日は、折入ってお願いに上がったのでござりまする」吉宗は、羅馬に行く手配のお願いと思って、手配をしてやると言うと、万太郎「その前に、当江戸城のお庭を拝見させていただきたいのです」吉宗 「なに、庭? それはいと安いが、庭ともうしても山あり谷あり、とても 一日や二日では見きれまいぞ」万太郎「暫く、お数寄屋でも拝借して、滞在の予定です」吉宗 「面白かろう。あっはっは、吹き上げの庭の方へまいると、茶座敷など ぼつぼつとある」万太郎「居候なれしている万太郎です。その辺は如才なく手ごろな貸家を探して まいります」吉宗 「あっはっはっ、江戸城の中で貸家探しか、あっははは、いや神君家康公も さぞ地下で驚いていられることであろう」万太郎「家主は新将軍吉宗公、たまり家賃のご催促もありますまい」吉宗、万太郎、大いに笑います。(相手をはばからない自由奔放な万太郎、"尾張の三男坊"で知れ渡っているのですから相当なもので、かないません。)万太郎、滞在する屋敷を何処にするか見て回っています。万太郎「なるほど広い、全く深山幽谷の趣きがある。これが江戸の真ん中とは どうしても思えんなぁ。うん、気に入った。当分ここに滞在すること にする」 (京都二条城を使っての広々とした中での撮影箇所がふんだんに出てきます。行ったことある人、城内を知っている人は、何処の場所を使っているか万太郎と一緒に歩いてみてください。)万太郎は金吾と共に絵図面の半分を頼りに、夜になると江戸城内の庭からの抜け穴、けいけつ草の場所を探し始めます。金吾がお堂を見つけました「あんな所にお堂が・・」、万太郎「石上堂」と呟きます。中に入ってみると仏像が何体もあるだけ?のようでしたが、万太郎その中の一つの像に目がとまりました。しかしそのまま他を探しに出て行きます。その頃、日本左エ門もそっ八と絵図面の一片を頼りに城内に忍び込んでいました。お堂の裏にたどり着き中に入ります。目をつけたのは、そうです、さっき万太郎も目がいった像です。左エ門も今日はここまでで帰っていきす・・と、家にはお蝶が待っていました。心を決めて日本左エ門の所に来たというお蝶、俺も孤独だからお蝶のような薄命の女を探していたという左エ門。左エ門が気を許したすきに、お蝶は絵図面と黒装束を持って・・・?何処へ行くのでしょう。場所は江戸城全体を見渡せるお堀の石垣の上・・二つの影が小さく見えます。万太郎と金吾が今夜も捜索に走り回っています。その時、堀の向こうから黒い影が走ってくるのを見つけます。我らの他に夜半歩いている人間がいるはずはない、人だとすれば怪しい奴。(入り込んでいたのはお蝶なのですが)石段を降りてきた時、黒装束の者を見つけます。 相手も気がつき逃げたので追いかけます。(お蝶は先を走って逃げていますので・・映っていなくてすみません。) 黒装束の曲者を見失ってしまい、うしろを振り返った時、日本左エ門の姿があり、邪魔をしてきました。投げて来た手裏剣をかわし、今度は日本左エ門を追います。 その様子を何故か高台から吉宗が見ていました・・何を思ったのでしょう。(お堀周り全体を見渡せるところ、京都二条城の天守閣跡のところからお堀づたいの高い石垣づたいを、西櫓のところをと走り回ったりと、二条城をふんだんに使っての場面が展開していきます。橋蔵さま、千原さん、伏見さんが走ります、若さですね。)完結迅雷篇になると面白くなってきました。橋蔵さまの二条城の天守台から石垣の上を走ったり、西櫓のところを走ったり、いくらカットが入ってもカメラテスト等で何回かは走りますから大変です。千原しのぶさんは足が速くかけることは得意だったようです。伏見扇太郎さんは、こんなにマラソン?した作品は初めてだと言ってフウフウ言っていたそうです。橋蔵さまはこのくらいなんでもありません。(ここからは、万太郎と金吾の会話になります。若殿と家臣の考え、思い、の違いが吹き出していきます。)江戸城内にどうして異相の曲者が出入りする隙があるのか、謎だと不思議がる万太郎です。金吾が20日余りくまなく探したが、ピオの軌跡は何一つ見つからない、といいます。万太郎「うーん、今のところでは、ほとんど何も得るところがない」恐らく徒労に終わるのではないか、と金吾はいいます。万太郎「何故じゃ」千蛾老人の言うことが偽りだと言うのではなく、ピオがこの城内で刑罰を受けても、死骸を埋めたあとに記しを残しておくことはないというのです。万太郎「だから、どうせいともうすのだ」金吾 「将軍家のご不審を求め、またまたご本家へ迷惑を及ぼさぬうちに 断念なされた方が、賢明ではないかと心得ます」万太郎「金吾、そちは精が切れたと見える。いやなら去れ、わしは突き止めるまで ここを去らぬ」精が切れたとは憎い言葉・・そのような金吾ではないと万太郎に反発します。万太郎「ならば、何故さような事を言いだした。わしの捜索に励みをつけぬか」将軍家のご不審があると尾張家にためによくない、それが案じられると金吾は言います。それに対して、万太郎は、何かにつけて将軍家将軍家と言うが、吉宗とは部屋住み時代からの竹馬の友だと。金児 「いや、その心持は違います」万太郎「大事はない、前もって彼の了解を得てあることだ」金児 「是非もないこと、若輩者の小利口な勇だとお聞き流し願います。・・・ もう、ご諫言はいたしませぬ」万太郎「するな、万太郎は思い立ったことを貫かずには済ませぬたちじゃ」と言って背をひるがえすのです。(万太郎と金吾の関係はどうなってしまうのでしょう。自分の思いどおりを貫く万太郎、若殿の気性を知りながらも尾張家のことも考える家臣金吾。いつの世にもある光景です。この大事な時に、仲違いをしてはいけません。そこまで日本左エ門が来ているのです。先に夜光の短剣を探さないと。)道中師伊兵ヱはお蝶が黒装束で江戸城内に忍び込んでいること、日本左エ門より早く夜光の短刀を手に入れたいことを知っている、見方であり、日本左エ門の鼻を明かしたいだけだ、とお蝶を待ち伏せして言います。その時、「雑魚一匹と目こぼしてやりてえが今日は許さん。動くな」日本左エ門は抜いた刀で伊兵ヱを斬り、裏切ったお蝶を睨みつけるのでした。江戸城大広間、新井白石が復元した切支丹調書が吉宗の手元にきました。目を通して吉宗にんまりとして、「これで、万太郎の目当てが分かった」と。金吾とはあのような事があり、万太郎は一人で捜索をしている時、またしても怪しい影が走って行くのを見つけます。万太郎「曲者」捕まえて見ると、「あっ、お蝶さん」 お蝶「若様」 万太郎「やはり、夜光の短刀が欲しかったんだな」お蝶は、違う、日本左エ門に取られたくなかったのだ・・一日も早くと捜索絵図の半分を万太郎に渡すのです。万太郎「かたじけない」絵図面は復元でき、二人が行きついた所の扉を開けた庭の奥に見つけました。万太郎「あっ、けいけつ草」 お蝶「あの鼻の下に夜光の短刀が」 (ここの場面は、えっ、とても早い展開、どういうルートで探したかは分からないうちに、けいけつ草の咲く場所にきてしまいましたね。)けいけつ草に二人が近づこうとした時、「裏切り者待て」とまたもや日本左エ門が登場、邪魔をします。万太郎「またしても日本左エ門め」「折角ここまで運んだ夜光の短刀を、貴様らに渡しては日本左エ門、末代までの名折れだ」と勝負を挑んできました。最後の勝負です・・いよいよ本当に最後の対決です・・万太郎かまえます。 万太郎の危ないところをお蝶の投げた手裏剣で助けを得たところで、日本左エ門を倒しました。万太郎に駆け寄るお蝶「若様」 万太郎「お蝶さん」そこへ、あの金吾も駆けつけてきました。 (第一部と疾風篇での立回りは音楽からも冒険物という感じでしたが、この最後の対決は違います。ただ、橋蔵さまの、のちの殺陣を知っている目で見てしまうと、少し物足りないのは仕方ありません。危なくなった時にお蝶の手裏剣が飛んで・・はいいのだけれどですね、折角二人の対決でと見いっていた期待をちょっと裏切られた気持ちが私には残ったの。でも、これも今の目線で見るからですよね。こども達をも考慮しての作品ですからこれでいいのです。メデタシ・・当時私は小学低学年でしたわ。)江戸城大広間、万太郎とお蝶が控えています。吉宗の前に夜光の短刀があります。吉宗 「万太郎、そなたの望み通りこの短刀を持って羅馬へ渡がよい」万太郎「はっ、では」 と受け取り、お蝶の前に行きます。万太郎「この短刀はもともとお前の先祖の物。羅馬へ渡り幸せに暮らすがよい」吉宗 「万太郎、羅馬行きの望みは捨てられたのか」万太郎「はい、私は今まで通りの三男坊で」お蝶 「若様、私は一生あなた様のおそばに使えさせていただきとうございます」万太郎、首を横に振り、万太郎「父の国へ帰れば、やがては、わしのことも日本のことも忘れる時が来る」お蝶 「若様」万太郎「幸せでな」 (お蝶は万太郎が好きだから、おそばにいたいといっているのですね。その心内を分かっていながら羅馬へ帰れと言う万太郎の本当の気持ちはどうだったのかしら。連れなく言う万太郎ですが。)そう言えば、これで橋蔵さま8作品目なのですが、作品の中に恋人のようなお互いが好きだという場面があるものは、ひばりさんとの共演の作品だけです。羅馬へ向かうお蝶を載せた船を見送る、清々しい万太郎の姿がありました。 (浜辺で風が強く吹いているところでの撮影のため、万太郎の髪がちょっと風にあおられてしまっていますが、笑顔が素敵なので何のそのです。)この作品はモノクロなので、東映ウィークリー表紙からの写真を載せておきます。(こんな感じの色合いなのかな。雑誌に載っているものを見ると地が水色ぽっく帯が黄色いものがあるのですが、こちらを載せてみました。)場面によって橋蔵さまの目のお化粧の違いが分かるところがあります。映画の撮影は順番に撮っているわけではないので、この場面とあの場面は同じ時とかね。モノクロ時代の映画ですから、カラ―になってのお化粧法とは違うときでした。クランクインして最初の方で撮っているところでは歌舞伎の雰囲気がちょっとありました。あとの方で撮っている場面の橋蔵さまには、「おっ!」と思う良さが出てきました。橋蔵さまとしても、まだご自分の魅力を出す化粧法に試行錯誤をしている時期ではなかったかと思います。万太郎の髪型ははじめてですし。江戸三国志第一部・疾風篇・完結迅雷篇 長かったですが、皆様の有難うございました。 (完)
2016年11月27日
コメント(0)
尾張中納言の三男徳川万太郎が盗まれた夜光の短刀の秘密を記したばてれんの口書と家宝の鬼女の面は、数奇の運命を経て、同じ夜光の短刀を探す武蔵野の奥、狛家のご隠居千蛾老人の手にありました。この屋敷に忍び込んだ道中師伊兵ヱを追っていた次郎は、眠っている間にお蝶に面を奪われてしまいました。それを探しに外へ飛び出した次郎は、偶然にも万太郎と会い一緒に面探しの旅に出ます。千蛾老人の娘月江は、結婚を迫る久米之丞ともみ合っていて崖から落ちてしまいました。その月江を助けたのは相良金吾でした。金吾を執拗に追う丹頂のお粂でしたが、金吾の最後の言葉に何を思ったのか・・日本左エ門のもとに帰って行きました。鬼女の面を奪い取り夜光の短刀を探すのに邪魔だてするものは、すべて斬れと手下に銘ずる日本左エ門。それは相良金吾、道中師伊兵ヱ、キリシタンのお蝶、そして徳川万太郎です。その万太郎は、日本左エ門をつけて近くにいましたが、感ずかれ斬り合いが始まったところまでが前回でした。1956年6月封切 江戸三国志「完結迅雷篇」いよいよ最終編、万太郎の活躍になります。それにしても場面が次々と変わります。ただ流れを追っているだけ、橋蔵さまを見ているだけではつまらない。これから、万太郎と一緒に江戸城内に入り、けいけつ草と夜光の短刀を探しましょう。「羅馬・・羅馬」お粂が金吾のもとへ走ります。万太郎が日本左エ門一味に囲まれていることを聞かされた金吾は万太郎のもとへ、お粂は番所に走り・・・捕り方が来たのを見て一味は退散。金吾 「若君、お許しください」万太郎「よいよい、そちの忠節、善右衛門から聞いたぞ。吉例のお能の日も近い。 共々力をあわし、必ず洞伯の面を取り返そう」お粂が、洞伯の面は日本左エ門が持っていて、川越の泰野屋にあることを言い・・そしてお粂は息を引き取ります。(お粂をつけて来た手下ともみ合った時に斬られて負傷にしていたのですね。)捕り方に追われながらも川越まで戻り、面を持ちだし外へ出た日本左エ門の前に、追ってきた万太郎が立ちはだかります。万太郎の剣に傷を負った日本左エ門は不覚にも面を落としてしまい、捨て台詞を残して立ち去っていきます。「おのれ、万太郎、俺は風のように天下を往来する男だ。この仕返しは必ずするぞ」追おうとする金吾に、面を拾い上げて「面さえ帰ればよい。いまより江戸へ帰り、兄上にこの面を」と言う万太郎です。 ある日、万太郎と金吾は高麗郷の狛家を訪れていました。その夜、千蛾老人が折入って万太郎に話があると言います。夜光の短刀について話があると言うのです。万太郎「おぉ、その儀は自分からも訊ねたいと思っていたところじゃ」狛家と短刀の持ち主ビオは深い縁があった様、夜光の短刀の探索には人力を尽くしてきたようです。万太郎「実は、自分もそれを手に入れようとしているのだが」老人 「まず、お聞きくださりませ」万太郎「うーん、短刀の詮議はやめよ、と言うのか」老人 「何でそのような事が、この老人に言えましょうか」万太郎「如何なる危害が身にかかるとも、わしは夜光の短刀の探索は思い 留まらぬ覚悟だ」老人「千蛾も共に、ご成功をお祈り申しておりまする」千蛾老人に野心がないのか、手掛かりを多く持っているのに、夜光の短刀を諦めたとは考えられない、と万太郎。狛家の宝としても稀代な名品、ローマの王家に持っていけば、莫大な報酬を得られるもの。狛家代々の遺志ををついで手に入れたいのはやまやまだが、仔細あってそれは万太郎に譲りたいと言うのでいす。万太郎「わしに譲る、と申してぬか喜びであろう。今もってかいもく手掛かり がないものを」千蛾老人はできる限りの助力をするというのです。万太郎「ほほぅ、そちはわしを助けて、夜光の短刀を身のものにしてみせる というのか」別室で見せたいものがあるという老人と共に行く様子を、庭先に忍び込んだ日本左エ門がずっと見ています。(また何かが起こりそうな気配がありますね。)老人が、一つお願いがあると言います。金吾を月江の婿に欲しいと・・万太郎、金吾を説き伏せ月江と添わせてやると約束をします。それで安心したと、箪笥の引出しを開け、大切にしている物を出してきました。万太郎「これは・・」老人 「これこそ、当家代々の者が筆に筆を加えた夜光の短刀の創作図 でございます」万太郎「これは御本丸を中心とした江戸城の絵図らしく思われるが」ピオの足跡が細かく分かっているのに諦めなければならない。ピオの最後の地と分かっている場所を生涯に一度暴いて見たいと思っていたが、無理なことだと分かったと。しかし、万太郎なら実行することは夢ではない、立派にその場所に近づくことができる・・・と千蛾老人は言います。万太郎「だが老人、今日まで自分が探ったところによると、ピオの最後の地は 武蔵野の中にあって、この絵図面に記しある江戸城とは大分違っておる ように思うが」老人 「それが誰しもが考え違いをしやすいところ、武蔵野とは申しますが、 今の江戸の町とても慶長の昔は、武蔵野の一部であったにそうい ございません」万太郎腕組みをして「なるほど」老人 「そこは、所詮我らが望んでも、手の届かぬ場所でございました」万太郎「手の届かぬ」万太郎なら、そこに近づくことが出来るとというのです。老人「江戸城に入りうるお方は、若殿の他にはござりません」万太郎が考えた様子でいた時、「曲者」との声が・・賊が入った方に行っている間に、日本左エ門が老人を斬り絵図面を奪ってしまいます。万太郎「おのれ、日本左エ門」左エ門「万太郎、約束通り仕返しにきた」(万太郎の気を手下たちの方へ向けておいて、簡単に奪ってしまいましたね。でも、簡単に持っていかれては面白くありません。万太郎どうにかできないか。)万太郎と日本左エ門の間に金吾が入ってきた時、左エ門が絵図面を落とし二つに割れてしまい、一片を拾って左エ門は去ります。 江戸、ある夜川端で、そっ八が客をとるお蝶を見つけ、親分のところへ連れていこうとしている所へ万太郎が来あわせ、お蝶を助けます。あの時助けていただいたお殿様、とお蝶が言います。万太郎「どうしてこんな所で・・・、その姿は・・」お蝶 ゜聞かないでください・・お慈悲でございます」万太郎「聞くなと言うなら聞きはせぬが」万太郎は困ることがあったらいつでも来るように、力を貸す、とお蝶に言う。お蝶は「それは本当ですか」今まで優しい言葉をかけられたことがない、と万太郎に感謝します。万太郎「お蝶さん、私と一緒に屋敷へ来るがよい」万太郎の身分にさわると断るお蝶に万太郎「お蝶さん」私は世の人が冷たくても、自分の力で生きて行く、この日本の国で。父の国に行くことは諦めたと、お蝶は言います。万太郎「父の国、何処だ?」 お蝶 「羅馬(ローマ)の国です」 万太郎「羅馬、・・羅馬」 そっ八が日本左エ門にお蝶を見つけたことを報告します。今夜は邪魔が入り逃したが必ず連れてくると。「邪魔をしたのは誰だ」・・・「万太郎です」。また万太郎に邪魔だてされた日本左エ門・・この後どのように展開していくのでしょう。(この作品での男女の愛の行方に関しては、先輩の伏見扇太郎さん扮する金吾におまかせになります。橋蔵さま扮する万太郎には御蝶が心を寄せてきますが、万太郎は・・・・どうなのでしょう。) 続きます。
2016年11月22日
コメント(0)
洞伯の面は尾州家の秘宝の品だ日本左エ門は江戸にも東海道筋にもいられなくなり、武蔵野に行っていました。万太郎はそっ八から聞き出した高麗郷へ行って、お堂に落ちた者の行方を探していました。お堂に落ちた者は狛の家に連れて行かれた事を聞きだします。狛家のご隠居に言われ、石上堂で籠を用意してお嬢様を迎えに出ていた侍達が話をしている所へ、万太郎が来合わせます。万太郎「突然、失礼であるが、そのご隠居様とか申す狛家のご主人にお目にかかりたいのだが、 ご案内くださるまいか」どんな御用向きなのか聞かれ、万太郎「先日さる者が、この石上堂へ取り落とした品、それをご隠居のお使いが持ち去ったと聞いた故、取り戻さんと存じて」その品物は、と聞かれ万太郎「身にとって大切な洞伯の面」万太郎の言葉に侍達がざわつき、「そのご案内御免こうむる、一人でいらっしゃい」万太郎「さようか」と言いその場を去り、歩いて少し行った時、先ほどの侍達が「お待ちください」と追いかけてきたので、、万太郎何事かと振り返ります。折角お迎えに来たお嬢様が帰ってこないので一緒に帰ってご隠居様に取り次ぐ、と言ってきたのです。そして、万太郎は駕籠に乗るように促されます。万太郎「これは有難い」万太郎を乗せた駕籠は途中から凄い勢いで走り出しました。駕籠に乗っている人のことなど考えていない揺れ方です。(この時のバックミュージック、聞いていてリズミカルで万太郎さんには可哀想ですが、山道を走って行く様子が楽しくなってしまいます。)万太郎「おっあっ、これは乱暴な・・駕籠の者静かに・・静かに・・あっ、もう、ほれ静かに、駕籠の者、あっ・・これ駕籠の者、、図ったな、降ろせ、降ろせ、降ろせ・・」万太郎が何を言おうと聞き耳持たぬです。大揺れの駕籠は、峠の頂上に来た時、万太郎を乗せたまま投げ落とされました。何回転もして落ちて行きます。(万太郎はどうなるのでしょう。)万太郎のことは大変心配ですが、ひとまず・・・画面はのんびりとした景色の中にある狛家へと変わります。馬春堂を助けた時に手に入れた洞伯の面とばてれん口書は、狛家の用人久米之丞によって当主の手元にありました。ばてれん口書は狛家にとっても何か関わる大切なもののようです。月江が熱海の当時から戻ってきました。馬春堂は毎日ご馳走で浮かれています。今夜もご馳走が運ばれ喜んでいると、今夜は祝いのしるしとしてと、久米之丞が言い酒を注ぎます・・・お嬢様の不治の病を治すために馬春堂の生き肝が欲しいのだと言ってきます。座敷では月江が戻ってきた歓迎の宴が開かれています。踊りの連中の中に伊兵ヱの姿が・・。ご隠居が久米之丞に合図を送ると、久米之丞は馬春堂の部屋に刀を抜いて入っていきましたが、馬春堂の姿が見えません。伊兵ヱは途中から部屋の中を探していて石上堂に続く洞窟への入り口を見つけますが、ご隠居から面を持ってくるようにいわれ取りに行っていた次郎に洞窟で出くわし逃げ出します。すると、命を狙われている馬春堂と鉢合わせをし、一緒に逃げ出します。次郎は伊兵ヱを追っているうち面をつけたまま自分の家へ帰ってしまいます。その家には、助けられたのであろうお蝶が眠っています。目がさめたお蝶は次郎がつけていた面をつけ、足早に逃げて行きます。次郎は目がさめ面のないことに気づき、「面泥棒」と叫び道を走って行くと、「あっ」万太郎がちょうど来合わせました。(傷を負わず大丈夫だったのですね。崖からでなくてよかったぁ。)次郎 「おじちゃん、面を持った人を見なかったかい」万太郎「なに、面?どんな面だ」次郎 「狛家にあった洞伯の面だ」と言う。万太郎「えっ、洞伯の面。小僧、わしもその面を探しているんだ」次郎 「おじちゃんは、一体誰だい」万太郎「わしは、徳川万太郎だ」万太郎と次郎は、一緒に面を探しに行きます。次郎を探しに出た月江は、待ち伏せしていた狛家の用人久米之丞に結婚を迫られ、振り切ろうとして崖から落ちたところを金吾に救われます。お粂はあきらめられず金吾をつけて来ていました。伊兵ヱと馬春堂はさまよっていたお蝶から洞伯の面を奪い取りましたが、また、日本左エ門一味に取られてしまいます。江戸城・・・吉宗が将軍につくことになりました。吉例の能を催したいと・・「尾州家にある洞伯の鬼女の面を一見におよびたい」と言われた徳川義道は、吉宗に力なく頭をさげます。(義道様の不安さが手に取るように分かります。その日にちまでに万太郎は面を見つけることができるのでしょうか。万太郎頑張って!!)次郎が鬼の面を被った女の通り魔が最近出るという事を耳にしてきます。それは洞伯の面をつけた者の仕業かもしれない、と万太郎。万太郎「次郎、先刻も話したように、あの面はもともと尾州家秘蔵の品、たとえ、 わしの手に帰っても、狛家へ戻して遣わすわけにはいかんぞ」次郎 「それは分かっています」万太郎「ならば、わしの申したことを、ご隠居に伝えて詫びを入れた方が よかろう」次郎、今となっては帰れない、万太郎の家来にしてほしいというのです。 崖から落ちて怪我をした月江は、助けてくれた金吾と共に医者に行っていた所へ、つけてきたお粂に呼び止められます。傷を負ったところを救ったのは誰、その後の介護をさせておいて・・と金吾に迫りますが、麻薬を飲ませておいてすべてはお見通しだと言われ、寂しくその場を去って行くのでした。途中、そっ八がお粂に一緒に親分のところへ帰ってほしいと促します。日本左エ門は万太郎を探していました。万太郎と次郎の影が・・・日本左エ門一味の近くまできていました。肝心の徳川万太郎の行先が分からないというそらっ八に「この地獄耳が聞いている」と日本左エ門。「てめえ達の居所から、ものの4.5軒と離れていねえ草むらだ」万太郎達が近くに隠れていることが分かってしまいました。万太郎、姿を現します。日本左エ門一味みんなの目が万太郎の方に向きます。 「それ、叩き斬れ」ここから、大勢の立回りです。 ⤵ ⤵ (お粂が様子を見ていて、万太郎を助けるためにかけ出して行きます。手下がお粂の裏切りを見つけます。)待ってました!と言いたい立回りシーンです。スピードあるわくわくしてしまう立回りの面白さ分かってもらえるといいのだけれど。(足場の悪い砂利での立回りですが、橋蔵さまの殺陣も様になって来て、スピードある走りながらの殺陣、やっぱりよいですね。こういう立回りを見てしまうとやみつきになります。まだ、映画デビューして約6ヵ月ですからね。当時、時代劇ファンも橋蔵さまに期待大でしたね。それに橋蔵さまは確実に答えていってくださったのです。)万太郎一人で立ち向かって居ましたが、次郎が捕まってしまい・・さあ、困った。日本左エ門とのにらみ合いになってしまいました。どうする万太郎。 疾風篇では、洞伯の面の行方に、みんなが振り回されました。ばてれん口書とけいけつ草の話は出てきませんでしたね。次の回にもってくるようですね。万太郎と日本左エ門との勝負はいかに。次回は、いよいよ完結迅雷篇に続きます。
2016年11月18日
コメント(0)
1956年6月封切 江戸三国志「疾風篇」 尾張中納言の三男徳川万太郎は、家宝の鬼女の面とキリシタン宣教師の口書を怪盗日本左ェ門に盗まれ、強く決心し探索に乗り出しました。家臣の相良金吾は万太郎の命により面の在処を突き止めるが日本左エ門の銃火に倒れ、助けたのは日本左エ門の情婦丹頂のお粂でした。キリシタン屋敷のころび伴天連のお蝶は、先祖ローマ王族が日本に隠した夜光の短剣を探し持って帰れば、ローマの王族になれると聞かされました。けいけつ草が咲いているところに夜光の短剣はあるというのです。けいけつ草の種を奪い逃げた道中師伊兵ヱを取り巻く日本左エ門一味。夜光の短剣と秘宝の面をめぐる乱闘の中に完全に飛び込んだ徳川万太郎。万太郎と日本左エ門が面箱をはさんでのところで第一部が終わったのでしたね。大名暮らしは・・日本左エ門と面箱を中にして戦っていた万太郎、面箱は万太郎が掴み日本左エ門一味から逃げると、「逃がすな」「面を取り返せ」という声に、キリシタン屋敷の中を捜査していた捕り方達が外へ出てきました。逃げる万太郎を追っていた日本左エ門一味が御用の提灯を見て万太郎を追うのを止めて逃げていきます。万太郎も立止まり見て逃げます。今度は大勢の御用の提灯に追われ飛んできた六尺棒をよけた時、万太郎は面箱を不覚にも落してしまい、道中師伊兵ヱに持っていかれてしまいます。相模の国の熱海、のどかな海沿いの場面に変わります。狛家の娘月江が襲われている所へ、金吾を探しに来た善右衛門が通りがかり助けます。物を訊ねると言い、若い侍と年増の女の二人連れを見かけなかったか聞きますと、月江は知らない様子でしたが、一緒にいた次郎という子が知っているような雰囲気です。月江が止まっている宿で善右衛門は金吾の姿を見つけました。しかし、お粂と一緒のため声をかけられません、何か思案したようです。金吾はお粂に不審を持ったようです。そこに、お侍さん・・お助けください・・投扇興をやっていると廊下を通りかかった悪いお侍が、その扇があたったとお嬢様に難癖をつけていると、金吾に救いを求めに来たのは次郎でした。次郎が案内して行った部屋は荒され、そこに背を向けた侍が座っています。金吾「湯治客を痛める奴は貴様か」と言い、肩に手をかけた相手は善右衛門でした。「若君のお使いで迎えに来た」お粂に感ずかれてはいけないのでついて来いと言って行こうとする時、お粂に呼び止められますが、金吾は「今の私はもうお前とは逢わないつもりだ。この先まで一緒に逃げるなどということは考えていない。日本左エ門のところへ帰れ」とすがりいてくるお粂に言うのです。そして、「日本左エ門は終生忘れられない敵だ。若君にとっても、わしにとっても。お粂、貴様はわしに取れば敵の片割れだぞ」善右衛門と浜辺に出た金吾は、色香に迷っていたのではない、一時も早く洞伯の面のことをお詫びにあがらなくてはと思っていたがこの身体が・・。善右衛門からお粂に南蛮の眠薬を飲まされていたことを聞きます。すると、金吾は若君に申し訳ないと腹を切ろうとしますが善右衛門に止められます。道中師伊兵ヱと易者の馬春堂が、面箱を隠しておくには御誂え向きとやって来たのは高麗郷にある神社、そこの賽銭箱の下にある穴でした。隠すのに入れたはいいが空井戸で深かったようです。どのくらい深いのかと伊兵ヱの持つ帯紐を頼りに馬春堂が降りようとした時、その様子を見ていた日本左エ門の手下のそらっ八が「賽銭泥棒だ」と大声で叫んだため、伊兵ヱは逃げ出し馬春堂は井戸の中に落ちてしまいます。江戸城を見つめている万太郎の後ろ姿がありました。万太郎「大名暮らしは退屈だろうなぁ」万太郎が歩いていますと、慌ただしく早馬、大名行列が江戸城内に入っていきます。ある行列が来るところを何とも思わず通ろうとする万太郎が止められます。 万太郎「待て」狼藉もの、控えろ、と囲まれます。万太郎「お前たちの主人は誰だ」無礼な、吉宗公のお通りである、頭が高い控えろ。万太郎「おお、吉宗か」供のものをはらいながら駕籠に近づいていきます。 吉宗 「これはこれは、誰かと思えば、尾張のいたずら殿か」万太郎「あぁ、しばらく」将軍家が危篤なのにそのように呑気にしていてよいのか、という吉宗に、万太郎「はーて馬鹿らしい、危篤の病人の所へこうみんなで押しかけてはかえって様態を悪くしてしまおうに」吉宗 「あいかわらずだなぁ、兄上はそうは呑気におられまい」万太郎「兄は兄、わしはわしだ」吉宗 「今日は火急の登城ゆえ、いずれ」万太郎「自分も今日は急ぎの出先だ、御免」日本左エ門の子分達が居酒屋で八代将軍は誰がなるのか酒の肴にして話しています。万太郎の姿があります。紀州の吉宗か尾張の万太郎か・・・そっ八゜いけねえ、あいつは俺たちには鬼門だ」(その話を聞いている時の万太郎の表情です)居酒屋から日本左エ門の子分の後をつけた万太郎、そらっ八を捕まえて聞きだします。日本左エ門の行先は分からないと、洞伯の面は武蔵野の奥、高麗郷の石上堂の下にあると白状します。万太郎「高麗郷、石上堂・・」高麗郷に行く決心をする万太郎です。 (疾風篇になって、万太郎の表情、仕草に、橋蔵さまらしい魅力がだんだん出てきて、見ていて引き込まれて来ました。この後が楽しみになってきました。) 続きます。
2016年11月13日
コメント(0)
おのれ、日本左エ門万太郎に鬼女面を探すように言われた相良金吾はどうしたのでしょう。万太郎は兄の徳川義道に、簡単に見つけられるような顔を見せていましたが、金吾は見つけることができたのでしょうか。鬼女面を探しに市中を探していた金吾が来たのは盗人市が開かれている町でした。お粂という女スリが、金吾に目をつけぶつかってきました・・何か思惑がありそうです。金吾の姿を見た日本左エ門は、由緒ある面だと言って鬼女の面を競りにかけさせます。面を見つけた金吾は、皆が競っているいるところへ入り競り落とそうとして、財布がないことに気がつきます。(そう、さっきお粂がぶつかった時に掏られたのです。)そんな金吾の傍へ、お粂が何食わぬ顔で私が落してやるが頼むことがあるかもしれないと言います。(金吾はお粂に掏られたとは全く思っていない様子。)お粂が競り落とそうとしたその時、日本左エ門が「お前には売らねえ」と声をかけました。金吾 「その方は何者だ」左エ門「夕べ尾張家へ忍び込んだ日本左エ門だ。昨日邪魔された返礼だ。屋敷に 帰って万太郎にそう言え。あの面は尾張六十万石張ってもわたさねえ」(お蝶が日本左エ門から逃げ、万太郎の行列に助けを求めたことを言っているのでしょうね。)日本左エ門と金吾の騒ぎの中、鬼女の面が入った箱は、道中師伊兵ヱに持って行かれてしまいます。金吾は傷を負って・・・お粂は・・・。根津の別邸で謹慎の身の万太郎は、身なりを変えてそーっと出て行こうとしています。が、爺の善右衛門に見つかってしまいます。金吾がいつまでも帰らないし、面を探しに行くのだと善右衛門を振り切り出かけるのです。お蝶はキリシタン屋敷の官庫から秘宝を盗み出しては町へ出て売り、普通の娘たちのように気飾りたいとの思いで、自分の身につける物を買って歩いていました。遅く帰ってきたお蝶は父から言われます・・バテレンの娘は日本の男との結婚は許されないと。お蝶にも幸せはくると言い、父は今まで黙っていた話をし始めます。お蝶の父はピオの家を再興するために、夜光の短剣を求めて日本へ来たこと、お蝶はローマの王族ピオの血を引いている。夜光の短剣を探し出しローマへ帰れば、ローマの王族になれると身分をあかすのです。牢に押し込まれているヨハンというものが騒ぎだしたので、お蝶がそちらに行った間に、忍び込んでいて話を盗み聞きしていた道中師伊兵ヱに父は殺されてしまいます。金吾は傷を負い長屋のお粂の家で寝込んでいました。「万太郎君がどんなにご案じなされているか、それを思えばこうしては・・」と思うが、お粂が金吾に分からないように飲ませている麻薬で起きようにも起きられない状態なのです。同じ長屋にいる易者の馬春堂がお粂のところにやってきます。鬼女の面と一緒に入っていた「ばてれん口書」の謎を解くため金吾の力が借りたかったのですが、お粂に断られてしまいます。金吾をかくまっていることを親分に言っても・・・というところへ、親分が来たとの声がします。親分の日本左エ門はお粂の家の窓越しから寝ている金吾を暫き見ていたと思うといなくなりました。伊兵ヱと馬春堂が夜光の短剣を探しローマへ行けば王様になれると話をしているところへ、日本左エが現れ鬼女の面とばてれん口書を奪い取っていきます。道中師伊兵ヱが易者馬春堂に、今夜もう一度キリシタン屋敷に忍び込み夜光の短剣の手掛かりをつかむ、と話していると、何やら商売になる客が来たので邪魔になるからと・・伊兵ヱを追い払います。頭巾の侍が「許せ」と言い川端に出している易者馬春堂の所へ。万太郎「実は家宝の品を紛失したのだが、それよりも気にかかるのは、それを 探しに行ったものの帰らぬ家来がおる」馬春堂「ご家宝、ご家来、うーん・・」と言い葵の紋が目に・・、伊兵ヱも影から葵の紋を見て、伊兵え「失礼ではございますが、もしや尾張の若殿万太郎様ではございませんか」万太郎「その方は」伊兵ヱはご家宝とは洞白の鬼女の面、ご家来とは相良金吾という若い侍でしょうと、万太郎に言います。万太郎「よく存じているなぁ」伊兵ヱは盗人市で見ていたのだが、金吾が面を取り返しに来られると、日本左エ門がいきなり短筒を発して・・と、万太郎「なに、日本左エ門」 万太郎は掛け軸に書いてあったのを思い出します。 万太郎「で、洞白の面は」日本左エ門が持っていて、盗人市の噂では今夜にもキリシタン屋敷に忍び込むとか言っていた、と万太郎に言います。万太郎「そして、金吾はどうしておるのだ」長屋のお粂のところで養生していると。万太郎「すまぬが、案内してくれ」万太郎達がお粂のところに行った時には部屋には誰もいなく、隣のおかみさんの話から熱海へ養生に行ったことを。万太郎は寝床にあった薬を見つけます・・金吾はこの薬で体の自由を奪われていたようです。万太郎「南蛮渡来の麻薬・・・」万太郎、いらつき瓶を叩きつけます。(モノクロ映画で、灯りがない部屋の場面なので、見ずらいかとは思いますが、この時の万太郎の気持ちを感じとってくださいね。)お蝶は、ヨハンから夜光の短剣のある所に必ずけいけつ草が咲いていると教えてもらいます。日本左エ門の一味が夜光の短剣を探しにキリシタン屋敷の官庫に押し入っていますが見つかりません。ヨハンがお蝶に渡したけいけつ草の種が入った本を、庭に忍び込んでいた伊兵ヱが奪い取り屋敷の外へ出た時、日本左エ門の一味が待ち受けていました。万太郎と馬春堂は伊兵ヱのもとへ走ります。(ここから、走るところと立回りのところのバックに音楽がずっと流れますが、とても軽快なものです。少年少女達が画面にのめり込んでいくのにはとてもいいタッチの音楽です。) (画像がある程度はっきりしたところを乗せました。なにしろ、すごい勢いで走っていますので・・。東映の時代劇は本当に、信じられないほどスターであれ走らせましたね。橋蔵さまは、特に作品の中で走っています。この作品から随分そういう作品がありますから、お楽しみに。)そこへ、日本左エ門が立ちはだかります。 万太郎「何者だ」左エ門「徳川万太郎、お前が探し求めているこの洞伯の面、尾張六十万石を 相手にしても渡さん」万太郎「おのれ、日本左エ門だな」 万太郎が先に刀を抜きました。 伊兵ヱを囲んでいた手下が、今度は万太郎を囲みます。➾➾日本左エ門と万太郎が組み合ったいる時、左エ門が面が入っている箱を落としてしまいます。 万太郎がそれを拾おうとすると、面の入った箱が人から人へと宙を舞います。➾➾万太郎も面箱を負います・・右へ走っていったり左に走ったりと大変です。(そういえば、大切なものが次から次へとまわされるというのはよく使いますね。橋蔵さまの「若さま侍捕物手帖べらんめい活人剣」でも、ラストの立回りの時お皿が舞っていまいた。思いつくところでは、このあとの12作品目の「ふり袖太平記」でも鍵になっている鏡の取り合いの時に飛んでいます。)(それにしても、東映の映画はよく走らせました。スターの人もどんどん走らせました。これからの橋蔵さまの作品にもすごいスピードで走る場面が沢山出てきます。カットが入ったとしてもリハーサル、本番と、体力がないと持ちません。昔のスターは大変でした。この「江戸三国志」の中でも走るところが、この後に出てきます。)そして、面箱を持っていた者が転んで、万太郎と日本左エ門との間に面箱が舞い降りました。 にらみ合う二人、さあ、どちらの手元に面は行くのでしょうか。 次は「疾風篇」に続きます。(場面が目まぐるしく変わっていましたが、皆様大丈夫でしたか。)私は、個人的にはこういう冒険物的映画は好きでない方なので、はじめて第一部を見た時は正直言って、橋蔵さまもあまり出て来ないし気乗りがしなかったというのが本当のところでした。でも、ここを把握しておかないと先へ進んでも・・と思い数回も見ました。いよいよ、疾風篇から作品の筋が読めて来るのです。第一部と次の疾風篇は、最後の場面で日本左エ門と万太郎を戦わせることで、次回へと惹きつけるわけです。大人は勿論少年少女たち見ている人達を、次に何が起こるのか、何が待ち構えているのか、と惹きつけている訳です。橋蔵さまの立回りが見られるのは次回へとの最後の場面のみになっていますね。その後の作品を知っていらっしゃる方々には物足りなさを感じるでしょうが、この「江戸三国志」は「若さま侍」で人気になった橋蔵さまが、ここで人気を確実なものにした作品です。橋蔵さまの立回り身体が流れるところが所々ありますが、この作品の立回りは走りながら相手を斬っていくというものなので仕方ありません。ここというキメの部分のポーズはだんだん良くなってきています。
2016年11月10日
コメント(0)
吉川英治原作「江戸三国志」三部の壮大な時代劇活劇になります。吉川英治は幼少期から「三国志」に親しみを持ち、「江戸三国志」とタイトルを付け、江戸時代を舞台にした伝奇ロマン小説は報知新聞に連載になりました。内容は三国志とは全く関係はないようですが、三国志に愛着があったことが分かります。尾張徳川家の三男坊万太郎の屋敷から、将軍家拝領の鬼女面を大盗賊日本左エ門が盗み出したことから物語は進んでいきます。面箱の底には「御刑罪ばてれん口書」が隠されていたのです。その口書によると、日本で客死し羅馬(ローマ)の貴族ピオの遺品"夜光珠の短剣"には、莫大な富と名誉が秘められているようです。その行方をめぐり徳川万太郎と側近の相良金吾、ころび伴天連の娘お蝶、丹頂のお粂、他にも入り乱れての伝奇ロマンの作品です。映画は第一部・疾風篇・完迅雷篇の三部作になっています。 では・・1956年5月封切 「江戸三国志 第一部」この頃の時代劇映画は、あとに橋蔵さまも出演の「新諸国物語」もそうですが、少年達がスクリーンを通してわくわくするようなものが多く制作されていた時です。ロマン時代劇とかスペクタクル時代劇とか。橋蔵さまが映画界に入る前の1954年~1956年頃は東映の売出し中の俳優、錦之助さんと千代之介さんは「笛吹童子」「里見八犬伝」「紅孔雀」を、伏見扇太郎さんは「百面童子」「天平童子」と、大人は勿論ですが少年少女達も楽しんでもらえる作品も多く作っていました。橋蔵さまはこの「江戸三国志」で少年少女達にもお目見えです。大川橋蔵の名が子供達の間でも広まっていきました。第一部は、これから起きて行く中の人物紹介を兼ねながら進んでいきます。日本左ェ門という大盗賊がいたる所に出没して揺さぶっていきます。ばてれん口書と夜光の短刀がどう関わってくるのかは、まだはっきりとはつかめません。第二部になる疾風篇で分かってくるのでしょうか。武州(武蔵の国)、相州(相模の国)、甲州(甲斐の国)の三国を舞台にし、江戸城という所と羅馬の秘宝を絡ませて展開させ、入り組んだ人物設定が事件を複雑にしていくのです。見ている側は引きこまれて筋の展開を推理し始めてしまうのです。小説を呼んだ人は呑み込みやすいでしょうが、映画で初めてという人は・・深く考えず楽しみましょう。まず、事の発端は日本左エ門、相良金吾、お蝶が作っていきます。徳川万太郎はまだ本格的には動いてはいません。わしは将軍にはならん人が大勢出ている江戸の町、盗人市(ぬすっといち)の競りにひと目を気にしながら、古渡の珊瑚を競りにかけて欲しいと御高祖頭巾の女お蝶が現れます。正真正銘の伊太利珊瑚だと競りにかけていると、親分と呼ばれる日本左エ門が百両と声をかけました。百両を持って急ぎ帰るお蝶を、日本左エ門は先回りして待ち伏せます。何処から珊瑚を持って来たと言い寄り、もっと金目の物があるはず、家へ案内するよう強要します。お蝶は見逃してほしいと頼みますが、「まあ、歩こう」と言ってお蝶を帰さない。少し歩いたところで日本左エ門が足を止めました。正面に葵の御紋をつけた行列が目に入ったのです。隙を見てお蝶は助けをもとめ、行列の方へ近づいていきます。「無礼者、盗賊です、盗賊です」とお供が騒ぐ声に、万太郎「なに、盗賊。それは面白い」・・籠の中から声がして顔を出したのは、徳川万太郎。万太郎、籠から降りお蝶の方に行こうとするが、お供に引き止められているところへ、側近の家来相良金吾が駆けつけて来ます。万太郎「金吾か、よいところへ来た。賊に襲われた娘だ、送ってやれ」(橋蔵さまは、横顔も素敵でまいっちゃう。) 金吾にお蝶を送らせるが、途中でお蝶は金吾をまいて足早に逃げていく・・金吾が後をつけた先にあった屋敷は切支丹屋敷ででした。場面は変わって先ほどの盗人市に・・・おやおや、場違いな身なり、みんなが振返る中、葵の紋が付いた着流しの侍が歩いていきます。編み笠をかぶった日本左エ門がすれ違いました。万太郎の後ろ姿をずっと追っていきます。とても優雅に美しく歩く姿は、「若さま」を思い浮かべてしまいます。橋蔵さまご自身も言っていらしたことですが、歩く時に気をつけてはいるとのことですが、どうしても歌舞伎時代の女形の癖が時々出てしまうということでした。一つは、そうは目立ちませんが少し腰を振ってしまうことです。舞台では女形は女を強調するため大げさに腰を振らないといけませんので、その癖がなかなか抜けなかったようです・・・ここでの歩く後ろ姿をよーく見ると少し感じられますね・・でも、でも嫌らしくはありませんよ。この感じがあるから、着流しの歩き方が綺麗で色気も感じるのだと思います。万太郎、出店で足を止め何かしら地図に目を通したり、興味が湧いているようです。爺と呼ばれる善右衛門が向かえに来ても、万太郎「爺、ここはとても面白い所じゃ」と言いながら動こうとしません。善右衛門「何と仰せられますか、幕府御三家の一、尾張家の若君徳川万太郎様 ともあろうお方がおこしになる所ではございません。ささぁ早う早う」万太郎 「じい、わしは窮屈な御殿暮らしがいやなんだ」善右衛門「さようなことを大殿がお聞きになったら何となさいます。大殿は、常々 将軍家明日にでもご他界とならば、八代将軍となるのは若様か紀州の 吉宗様と仰っていますぞ」万太郎 「わしは将軍にはならん、いやだ。わしは常々将軍にはならぬと 言っているのだ」 善右衛門は、私が叱られると万太郎の手を取って強引に連れて行くのでした。(自由奔放なわがままな三男坊ですね。でも、可愛いな。)近くにいて話を聞いていた日本左エ門が「あれが尾張の三男坊か」と呟きます。(ほら、万太郎様善右衛門さん、こんなところでそんな話をしているから、聞かれてしまったではないですか。何も起こらなければよいですが、相手は日本左エ門ですから・・・ね。)屋敷に戻った万太郎は、金吾からお蝶が切支丹に関係するものだと聞き、大事な手掛かりになったのに惜しいことをしたと。金吾に見せるものがあると奥の部屋に行き、鬼女面の下に隠されていた御刑罰「ばてれん口書」を見せます。万太郎「これを知るものはわしとお前の他にはないだろう。他言はならぬ」金吾 「はっ」万太郎「金吾、かねてそちだけに話している、わしのローマの国をあたるための 手掛かりじゃ」金吾 「若君、そのような事を。八代将軍を継ぐ者は若君か紀州の吉宗公と 騒がれている大切な時ではありませぬか」万太郎「わしは将軍などなりたくたい」その時、ろうそくの灯りが消えた。万太郎「何者だ」 金吾「曲者」金吾が灯りを持ってくる。警戒厳しい屋敷に誰も入れるはずはない。万太郎、奥の部屋が気になった。先ほど開けて見ていた鬼女の面箱が・・万太郎「やっ、面箱がない」万太郎が目をやった掛け軸に、日本左エ門頂戴と書置きがありました。 (いよいよ日本左エ門が大盗賊の実力を現しました。何のために万太郎の屋敷に押し入ったのでしょう。)翌朝、兄の徳川義道が万太郎の部屋にやってきました。当家の重大な宝の鬼女の面を取られたと言うのにまだ寝ているとは何事だ、毎年能の催しには必ず持参しなければならない物、知っているであろうと言われ、万太郎「お能の日までに取り戻せばよいのでしょう」この返答が、義通の苛立ちを余計にしてしまいます。義道 「面がかえるまで根岸の別邸において謹慎じゃ」万太郎「謹慎の身では探せません」義道 「黙れ」万太郎「きょとんとして義道の顔を見ます。 (ちょっとの違い分かるでしょうか。) (この時のアップになった橋蔵さま綺麗です。)呑気な万太郎様ですが、大丈夫ですか。日にちは余りないですよ。金吾一人で鬼女の面を探しに行かせましたが大丈夫? ・・・心配になりましたね。 続きます。
2016年11月07日
コメント(0)
全186件 (186件中 151-186件目)