命がけでお見方いたしやしょう
六郷乗政はニセ若殿弥太を義光と思い、
乗政 「義光、遠路はるばる大義であったの」
弥太 「 いや、ぃゃ・・それほどのことございません
」
(
弥太さんは、非常に緊張しています
)
よく返ってきてくれた。元気な義光の顔を見て、乗政は気持ちが晴れ晴れとした、と言います。
弥太 「はっ・・・」
弥太が権太夫の方を見ますと、権太夫がその後を言えというように目配せします
。
弥太 「父上には、ひどいご病気と聞き及びましたが、思いのほかお元気な様子に
て、義光も心からお喜び申し上げます」
乗政がもっと近くへ、今日はゆっくりと話がしたいと言います。
弥太 「はっ、はあ・・・」
弥太が困ったのを見て、権太夫が、若殿は旅でひどく疲れているようなので歓談は後日にしてほしい、とお願いをします。
若殿に用意された部屋に入り、やっと解放されたというような弥太がいます。
権太夫「どうやら、ぼろを出さずに済んだようだな」
弥太 「 あぁっ、肩が凝った
。いちんち一両なんてばかに日当が良すぎると思った
ら、楽じゃねえや、この仕事は」
権太夫「愚痴はもうすな。その方さえやる気があれば、当分このままでいてもいい
んだぞ。竹竿一本握ってしがない船頭ぐらしをするのも一生なら、一国
一城の主になって栄耀栄華の表を送るのも一生。 どうだ、その気になって
やってみんか
」
弥太 「冗談じゃありやせんよ。あっしは、十日間だけっていう約束だ。こんなお
家横領の片棒担ぎの仕事と知ったら、始めっから引き受けるんじゃなかっ
たが、今さらそうと気がついても仕方がねえ。前金もらって約束した以上
俺も男だ、 十日の間はなんとかするが、それからあとは勘弁してもらいま
すぜ
」
権太夫「 強情な奴め
」
その時、 部屋に誰かが来る気配を感じ、権太夫が弥太の膝を叩きます
。 (
この時の動きが速くて、可笑しいの。見ていて笑っちゃいます )
慌てて、若殿として何事もなかったように座ります
。
権大夫がお欄の方に呼ばれます。弥太に部屋から一歩も出てはいけない、琴姫に話しかけられ化けの皮を剥がされては一大事だと釘をさされます。
弥太 「あの、琴姫って何です ?
」
権太夫「そうか、まだ言ってなかったか。お前の許嫁だ」
弥太 「えぇ、あっしの許嫁」
態度、物腰、目の配り様とまるで別人のように、玄関先で見た時、他人のような目であったと言う琴姫に、腰元梢は早く会って話し合われた方がよい、と若殿 (
弥太 )
を連れてきました。琴姫は、義光との思い出がある桜の木の下にいました。躊躇している若殿弥太は梢に促され恐る恐る琴姫の近くへ、琴姫が振返った時、弥太はいたたまれず・・・
琴姫 「 義光様、何故お逃げになるのです
」
弥太 「 いや、そのぉ、そういう訳ではありませんが
」
琴姫は義光の帰国をどんなに待っていたか、二年前にお別れしてから一日とて忘れたことはなかった、と告げます。
弥太が振返って何かを言おうとした時、琴姫が何故変わってしまったのか、江戸というところは人間を変えてしまうところなのですかと言ってきます。
弥太「 いえ、そんなことは
」
権太夫が部屋へ戻ってきまして弥太がいないので岩村と松山に探すよう指示をしています。
弥太は桜の幹に刻まれたキズを見て、
弥太 「 誰がこんないたずらをしたのかなあ
。つまらんことをするものだ」
琴姫が弥太の顔をじっと見ますので、 弥太は気まずくなったようです
。
そこへ弥太を探していた松山が重役が待っているとちょうど来たので弥太は助かりました。
弥太 「うん、そうか。姫、ごめん下さい」
権太夫が、弥太の部屋へやって来ます。
権太夫「どうしたのだ」
弥太 「べつに、どうもしませんぜ」
明日は約束の十日目、望み通り自由にしてやるので、それまではちゃんとお役を務めるように言います。弥太 「へえ、そりゃ・・・ でも、その後はどうなるんで
」
権太夫「そのあと ?
貴様などの知ったことではない」
弥太 「でも、殿様はあんなだし、お姫様は・・・」
弥太はおとなしく城を出ればよい、いのちが惜しければ、と言って部屋を出て行きます。 弥太は何かを考えているようです。 どうしたらよいか・・・決めたようです
。
部屋を出ると、腰元梢に琴姫はお茶室にいると聞き、向いました。なかなか声をかけられずにいると、
琴姫 「どなたですか」
弥太 「はあ、身共です」
琴姫 「義光様、どうぞ」
弥太は何か言おうとするのですがなかなか言い出せません。琴姫が点てたお茶を弥太に進めます。
弥太 「頂きます」
一口飲んだところで、琴姫がすかさず
琴姫 「いかがでございますか」
弥太 「 ・・苦いです
」
琴姫 「その苦さは、 義光様はお好きでした
」
(
弥太の長いセリフになります
)
弥太 「すいません、勘弁しておくんなせい。あっしは、あっしはニセ者でした。
・・若殿とはまっかな偽り、あっしは弥太っていうただの船頭です。
いちんち一両で雇われたニセ若殿でした。人一人の命を救うため、どうし
ても入用な十両をもらったばかりに、とんでもねえことを無理にやらさ
れ、途中から悪事に加担させられていると気づいたが、十両貰っちまった
手前、仕方なく今日まで、どうにか他の連中の目は誤魔化してきました
が、お姫さん、お前さんの真心だけは騙しきれませんでした。明日が約束
のちょうど十日目なので、何もかもぶち開けようとやって来やした。
どうか、あっしを許してやっておくんなせい」
よく打ち明けてくれた、やはりニセ者だったのですねという琴姫。
弥太「じゃ、 あっしがニセ者だということをはなから
」
庭の桜の木の下ではっきりと分かった、桜の幹のキズは義光様と琴姫がたけくらべをした時に義光様がつけたものだと。琴姫は、今日まで黙っていたのは、お殿様の病気が少しでもよくなれば、義光様が帰国されるまではそっとしておこうと思ってのことだと言います。
弥太 「でも、若殿が、もし悪者に殺されでもいなさったら」
義光は生きている、きっと帰ってくると、琴姫は言うのです。琴姫から味方になってほしいと言われ、
弥太 「へえ、もったいねえ。なあに、あっしも江戸っ子だ、洗いざらいぶちまけ
たからにゃ、命がけでお見方いたしやしょう。十日が過ぎりゃ、こっちも
自由です。野郎どもに一泡ふかしてやりやすぜえ」
といい、 つい苦いお茶を飲んでしまった弥太です
。
弥太は大見得を琴姫にきってしまいましたが大丈夫なのでしょうか。弥太には、味方になってくれる人はいないのです。権太夫はお欄の方と、乗政を亡き者にしようとする計画を練っています。弥太だってこのまま帰してもらえるという保証はありません。
いよいよ大詰めに入っていきます。
続きます。
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