宇宙は本の箱
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練馬南町一丁目。 僕は、 思い出すことが 出来る。 空でも、 木の葉でも、 家なみから、 道ばたの石ころまで。 僕はここで育った、 十五の年から十二年間。 僕はここで学校に通った。 僕はここで恋人に出会った。 僕はここで母親を亡くし、 僕はここで留置所を知った。 略 略 略 ----おう、 庭のプラタナス、ポプラ、 柘榴の木、八重桜よ。 夏の、燃えたつ空、 古びたオルガンよ。 そこで 昼、僕らは鉄筆の音をたて、 夜、せっせと刷った、 笑ったり、怒ったりして。 (いまもよみがえるインクの匂い。 機織りにも似た手製の謄写機の音) 略 略 略 (昨日のように光る空。 木の葉の揺れ。 人をはばかるひそやかなささやき。 静かなカッティングの音) 練馬南町一丁目。 ---聞いてごらん。 床屋があり、 その先に風呂屋があり、 その突き当たりの、右角。 プラタナス、ポプラのある家。 そこに兄妹の多い、よく笑う家族がいて、 そこの次男は、むかし、 党の、最後の新聞を刷っていた、と。 そして、そこから捕まえられて行った、と。 ---今でも、 未来に対する希望の基礎に 一きわ輝き、 強く、誇りやかに、 思い出すことが、出来る。 練馬南町一丁目。 僕の仕事、 僕の青春の日々。
2008.05.31