inti-solのブログ

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2021.03.13
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テーマ: ニュース(100579)
ジェフ・ベゾス氏のスペースコロニー計画、ベースは70年代に発表の円筒コロニー

「私たちが太陽系に出て行けば、人類は太陽系に1兆の人口を抱えることが可能になる。それは1000人ものモーツァルトや1000人ものアインシュタインを擁することを意味する」「これは驚異的な文明になるだろう」と同氏は述べた。
では飛躍的に増加した人口はどこに住むことになるのだろうか。その問いに答えるべく、Bezos氏は1970年代のSFのプレイブックを手本にして、宇宙の暗い深淵に漂う高度な居住地を建設する計画を発表した。
米CNETのオンライン番組「WATCH THIS SPACE」のエピソードでは、Bezos氏の宇宙移住構想を取り上げている。そしてこれは必ずしも新たな領域というわけではないことが明らかになった。(以下略)

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2年近く前の記事ですが、ジェフ・ベゾス氏がスペースコロニー計画をぶち上げたそうです。
「機動戦士ガンダム」の舞台にもなったスペースコロニー、実現したらすごいことです。もちろん、仮に実現したとしても、それはあと最低100年以上はかかるでしょうが。ただ、検討してみた結果、現実には100年経とうが200年経とうが、スペースコロニーの実現は、ちょっと困難だなあ(というか、不可能)というのが結論です。

物理学的な意味での理論上は、スペースコロニーは実現不可能な技術ではありません。タイムマシンとか超光速宇宙飛行(ワープとかデスドライブとか亜空間航法とか作品ごとにいろいろな名前)のような、「あり得ない技術」「サイエンスの名をまとった非科学的空想」の類ではありません。
ただし、これまで当ブログで、様々な夢の技術に関して何度も指摘したように、「理論上可能」「技術的には可能」ということと、実際に実用化できるかどうかは、まったく別問題、ということになります。

まず、スペースコロニー、つまり宇宙に人を大規模に定住させる構造物とは、具体的にどのようなものでしょうか。
1960年代末から70年代に提唱されたスペースコロニー案は、主に3つあります。

「島1号」


「島2号」





形状は様々ですが、基本的な構造は、密閉した球形、環形または円筒形の構造物を回転させて、その内側を人口の地表とする、構造物を回転させることによって遠心力を発生させてそれを疑似的な重力とする、内壁の一部を採光窓として、外側に鏡を設置して、太陽光を取り入れる(鏡の角度を変えることによって、朝昼晩夜を作ることができる)というものです。このうち、「ガンダム」などに登場して一番有名なのは最後の島3号です。ちなみに、想定されているサイズは様々ですが、基本的に「島1号」が最も小型で、「島3号」がもっとも大型です。「島3号」の大きさは、直径6.4km、長さ32kmほどと想定されています。

では、このスペースコロニーをどこに設置するか。
間違ってコロニーが明後日の方向に飛んで行ってしまったり、ましてや地球上に落っこちてきたら大惨事ですから(戦争でコロニーを落下させる作戦が「ガンダム」の中に描かれていますが)、絶対ににそういうことが起こらない、しかし地球からはるか遠方ではない宙域である必要があります。候補は、「ラグランジュ点」です。これは、地球と月の引力が釣り合う位置で、ここにスペースコロニーを設置すれば、そういう危険性が少ないとされます。
具体的には地球と月の間にL1、L1と同じ軌道上の月の裏側にL2、月と同じ軌道上で地球から見て月の正反対の位置にL3、地球と月を頂点とする正三角形のもう一つの頂点にL4とL5(月の進行方向の前側と後ろ側に正三角形が作れる)の5か所です。当然、太陽と地球の間にもラグランジュ点はあるのですが、地球から遠すぎるので候補とは言われません。
ただし、実際には、L1からL3までは力学的に不安定、L4とL5は力学的に安定とされます。これは、例えれば山の頂上と谷底のようなものです。山の中腹はそもそも物を置いたら即座に転がって行ってしまいますが、山のてっぺんは斜面ではないので、そこに置いたものは転がっては行きません。しかし、もし何かの拍子に山頂から転がり出たら、そのまま斜面を真っ逆さまです。それに対して谷底は、もし何かの拍子に物体が底を飛び出しても、また谷底に戻ってきます。
L1からL3までは山頂と同じで、その位置から物体が外れてしまった場合、更に外れていく方向に力が働きますが、L4とL5は谷底と同様、その位置から外れても元に戻る方向に力が働きます。
だから、ラグランジュ点は5か所あるものの、建設した物体がその位置から外れた場合を考えると、実際にスペースコロニーを建設する位置としてはL1からL3はリスクが大きくて不適であり、L4とL5しかない、ということになります。地球連邦の敵、サイド3(L2)も、主人公アムロが住み、ガンダムが開発されたサイド7(L3)も、スペースコロニーを建設するには不適な位置です。

で、このような超巨大構造物を、地球から材料を打ち上げて建設することは困難です。建設資材そのものよりも、それを宇宙空間に打ち上げるエネルギーの方がはるかに膨大だからです。
スペースコロニーの質量を検索したところ、もっとも有名な(もっとも大型でもある)「島3号」の場合、 3000万トン という数値が引っかかってきます。
前述のとおり、「島3号」の大きさは直径6.4km、長さ32km、便宜上、円筒部が32km、その両側に半球型の「蓋」がついているとすると、内壁の表面積は円筒部が638平方キロ(半分が陸、半分が採光窓)、蓋が128平方キロ、合計766平方キロです。総質量3000万トン説だと、外壁1平米当た重量が40kg足らずです。外壁の材質を炭素繊維とすれば、厚さ2cmあまり、チタン製なら1cm足らず(でも、網の目のように、金属製の構造材を入れる必要があるだろうから、実際はもっと薄い)です。この巨大な構造物と与圧をそんな厚みで支えられるのか、どうも感覚的には「ウソだろ」と思ってしまいます。ただし、現代の旅客機(内部の与圧は0.8気圧程度で高度1万2千m、0.2気圧を飛行可能)でも胴体の厚みは2mm程度だというので、計算上は不可能ではないのかもしれません。自分では計算できないので検証できませんけど。


第一に、採光窓はもっと重くなります。アクリルだとすると比重は炭素繊維より軽いですが強度も劣るので、もっと重くなります。細かい計算は面倒なので省きますが。
第二に安全性を考えれば外壁は構造計算上の「最低限」のラインにするわけにはいかないということです。次回後述しますが、壁は単層構造というわけにはいきません。最低2重、できれば三重構造の必要があります。(採光窓は現用の旅客機の窓も3重構造なので、3重または4重構造)。
だから、実際は3000万トンの2倍か3倍、大雑把に1億トン近くになるのではないかと思います。

が、実はこんなのは大した問題ではありません。
第三に、そして最大の問題は、人が内部で生活するには「地面」と「大気」が必要ということです。詳細は後述しますが、大気圧は0.6気圧程度で済むでしょう(スペースコロニーでは高度が上がると重力も減るので、高度に寄る気圧の逓減率は地球ほどではないと思われます)。それでも、スペースコロニーの体積は約1150立方キロ、空気の重さは1立米あたり1気圧で1kg(0.6気圧なら0.6kg)なので、大気の重さは7億トン近くになります。


つまり、実はスペースコロニー本体の「殻」より、中の「空気」「土」「水」の方がはるかに重い(本当に本体重量3000万トンでスペースコロニーの強度が保てるなら、ですが)のです。
他に樹木や作物の苗、種子、動植物、人間自身やその住む家や日用品等の重さも相当のものですが、計算が面倒なので省きます。スペースコロニー本体の「殻」「空気」「土」「水」だけで、15億トン近くに達します。これを全部地球上から資材を打ち上げたらどうなるでしょうか。

現在日本のロケットHIIAは、静止軌道に最大6トンの衛星を投入するため、ロケット全体の重さは445トンです。ペイロードの75倍の重さのロケットが必要ということです。ラグランジュ点は衛星軌道より遠いのでペイロードはもっと少ないですが、もっと軽くて強力で何度も再利用可能なロケットが開発されれば、ロケットの重さも軽くなるでしょう。楽観的に、ペイロードの33倍の重さのロケットが必要と仮定すると、15億トンのスペースコロニー建設資材を運ぶためのロケットの総重量は500億トンとなります。その8割以上、つまり400億トン以上が燃料ということになります。しかし、地球上の石油の確認埋蔵量は、重さにすると百数十億トンですから、足りません(笑)

実際には、スペースコロニーを建設するなら資材はロケットではなくマスドライバーか軌道エレベーターを使うでしょう(動力は電力)。しかし、仮にそれによってロケットの10分の1のエネルギー消費で資材を運び上げられたとしても、それでも現在の人類のエネルギー消費量を上回る電力(エネルギー)が、たった1基のスペースコロニーを建設するために必要になるでしょう。

そのため、スペースコロニーを建設するとしたら、その材料のほとんどは月(重力は地球の1/6で、大気もないから、打ち上げに要するエネルギーはだいぶ少ない)か、適当な小惑星から調達する必要があります。スペースコロニーをいきなり建設することはできず、まずは月の資源開発から・・・・・って、実に迂遠なことです。しかも、当然ながらすべての材料を月や小惑星で調達することはできません。
コロニーの構造材が鉄やチタンなどの金属であれば、おそらくたいていのものは月で採掘できます。しかし、もし炭素繊維であれば、その材料は化石燃料ですから地球以外では取れません。逆に言えば、スペースコロニーの原料に炭素繊維の類は使えない、ということになります。採光窓もアクリルは合成樹脂なので地球でしか調達できません。ガラスの原料は正確には調べが付きませんでしたが、おそらく月にもあるので、ガラス窓の採光窓なら作れるでしょう。
したがって、月や小惑星から資材を調達して建設するなら、スペースコロニーの重さは前述の3000万トンでは済まない、ということです。

水と、したがって酸素も月にあるようですが、窒素はあまりないようです。地球の大気の8割近くは窒素ですが、スペースコロニーでは75%を窒素とする※と、それだけで5億トン近く。そして、「砂」「石」なら月で手に入るでしょうが、土は月では入手できないでしょう。それも地球からとなったら、これまた6億トン。
結局、しめて10億トンは地球から??
・・・・・やっぱり無理じゃん。

※スペースコロニーの大気組成は地球と完全に同じである必要はありません。必要強度などの問題から、内部の気圧は低いほど良のです。地球の標高2500m相当(0.75気圧)くらいあれば、たいていの人が困難もなく生活できるでしょう。さらに、大気中の酸素割合を25%くらいに上げてしまえば(実際の地球大気の酸素割合は20%)0.6気圧でも0.75気圧相当の酸素分圧を保てるので、スペースコロニーでもおそらくそうするでしょう。

もっとも、窒素に関しては、火星と木星の間にある準惑星「セレス」にアンモニア化合物がありそうで、そこから窒素を抽出することは可能でしょう。地球から運ぶのと遥か遠方火星の先のセレスから運ぶののどちらが効率的かは分かりませんが。
土は、月の砂や石(を砕いて砂にする)の上で植物を栽培して、気長に気長に土壌を形成させる手はあるかもしれません。相当の年月がかかりますが。

ここまで見てみると、まず月あるいは小惑星で資源採掘を行い、それをラグランジュ点まで運ぶ(地球から運ぶよりははるかに手間がかからないとはいえ、ある程度のエネルギーは必要)膨大な手間と経費をかけて、宇宙空間に数百万人を住まわせる意味っていったい何だろう、ということを考えてしまいます。
「コストパフォーマンス」という言葉がありますが、そもそも人を宇宙空間に定住させる「パフォーマンス」(利点、メリット、あるいは必要性)って何でしょうか?宇宙空間を(地球上にいる)人類の経済活動に利用すること自体は、大いに意味も必要性もあります。でも、それは無人の人工衛星を利用すれば、あるいはせいぜい一時的に宇宙空間に滞在する少人数の宇宙飛行士がいれば済むことであって、宇宙空間ら定住する必然性は見出しにくいように思います。
しかも、ここまで見たように、完成までにはおそらく100年を優に超える期間が必要です。

かつて、スペースコロニーが提唱された1970年代には、人口爆発への対策として人を宇宙に住まわせる、ということがある程度の真実味をもって語られました。「ガンダム」のなかで「人類が増え過ぎた人口を宇宙に移民するようになって~」というナレーションがあります。
しかし、それからわずか40年、当時より世界の人口ははるかに増えてしまったものの、現在では人口爆発は発展途上国のその中でも一部の国に限られるようになり、日本も含めた先進国の多くや、更に中進国でも人口爆発は止まりつつあります。全世界規模で見れば人口爆発の問題はまだ終わってはいませんが、そのスピードは40年前に比べればかなり落ちています。
しかも、現在でも人口増加が深刻なのは発展途上国に限られます。もしスペースコロニーを建設するとしたら、その技術と資金を投じるのはもっぱら先進諸国になるでしょう。しかし問題解消の対象は発展途上国、の中でも特に貧しい国々ということになります。その状況で先進国が積極的に資金を投じるでしょうか。それも、かかる費用が天文学的金額であることは明らかなのに。

更に言えば、人口問題を解決するには、数十億人を住まわせる必要があります。1基あたり人口たか数百万人のスペースコロニーで人口問題を解決するなら、数百基の建設が必要ということになりますが、1基の建設だって天文学的な費用がかかるのに、それはあまりに非現実的です。そのうえ、1基の建設に100年以上かかるのでは、問題の解決には間に合いません。

何故人が宇宙に定住する必要があるのか、の説明がつかないと、技術的に可能不可能以前に、経済的にスペースコロニーを建設する理由がない、という話で終わってしまいます。
では、経済性を度外視すれば技術的にはスペースコロニー建設は可能か、と言われればそれも極めて怪しいと言わざるを得ません。

第2回に続く





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最終更新日  2021.03.13 11:16:42
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