F&B 腐向け転生パラレル二次創作小説:Rewrite The Stars 6
薄桜鬼 昼ドラオメガバースパラレル二次創作小説:羅刹の檻 10
黒執事 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧の騎士 2
天上の愛 地上の恋 転生現代パラレル二次創作小説:祝福の華 10
黒執事 転生パラレル二次創作小説:あなたに出会わなければ 5
YOI火宵の月パロ二次創作小説:蒼き月は真紅の太陽の愛を乞う 2
薄桜鬼 現代ハーレクインパラレル二次創作小説:甘い恋の魔法 7
火宵の月 転生オメガバースパラレル 二次創作小説:その花の名は 10
薄桜鬼異民族ファンタジー風パラレル二次創作小説:贄の花嫁 12
薄桜鬼ハリポタパラレル二次創作小説:その愛は、魔法にも似て 5
天上の愛地上の恋 大河転生パラレル二次創作小説:愛別離苦 0
火宵の月 BLOOD+パラレル二次創作小説:炎の月の子守唄 1
PEACEMAKER鐵 韓流時代劇風パラレル二次創作小説:蒼い華 14
黒執事 異民族ファンタジーパラレル二次創作小説:海の花嫁 1
火宵の月 韓流時代劇ファンタジーパラレル 二次創作小説:華夜 18
火宵の月×呪術廻戦 クロスオーバーパラレル二次創作小説:踊 1
薔薇王韓流時代劇パラレル 二次創作小説:白い華、紅い月 10
薄桜鬼 ハーレクイン風昼ドラパラレル 二次小説:紫の瞳の人魚姫 20
天上の愛地上の恋 転生昼ドラパラレル二次創作小説:アイタイノエンド 6
鬼滅の刃×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:麗しき華 1
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:鳳凰の系譜 1
薄桜鬼腐向け西洋風ファンタジーパラレル二次創作小説:瓦礫の聖母 13
コナン×薄桜鬼クロスオーバー二次創作小説:土方さんと安室さん 6
薄桜鬼×火宵の月 平安パラレルクロスオーバー二次創作小説:火喰鳥 7
天上の愛地上の恋 転生オメガバースパラレル二次創作小説:囚われの愛 8
天上の愛地上の恋 昼ドラ風時代パラレル二次創作小説:綾なして咲く華 2
ツイステ×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:闇の鏡と陰陽師 4
天愛×腐滅の刃クロスオーバーパラレル二次創作小説:夢幻の果て~soranji~ 0
ハリポタ×天上の愛地上の恋 クロスオーバー二次創作小説:光と闇の邂逅 2
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:月の国、炎の国 1
天愛×火宵の月 異民族クロスオーバーパラレル二次創作小説:蒼と翠の邂逅 0
陰陽師×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:君は僕に似ている 3
黒執事×ツイステ 現代パラレルクロスオーバー二次創作小説:戀セヨ人魚 2
黒執事×薔薇王中世パラレルクロスオーバー二次創作小説:薔薇と駒鳥 27
薄桜鬼×刀剣乱舞 腐向けクロスオーバー二次創作小説:輪廻の砂時計 9
火宵の月×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想いを繋ぐ紅玉 54
天上の愛地上の恋 昼ドラ転生パラレル二次創作小説:最愛~僕を見つけて~ 1
バチ官腐向け時代物パラレル二次創作小説:運命の花嫁~Famme Fatale~ 6
FLESH&BLOOD×黒執事 転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:碧の器 1
腐滅の刃 平安風ファンタジーパラレル二次創作小説:鬼の花嫁~紅ノ絲~ 1
天愛×薄桜鬼×火宵の月 吸血鬼クロスオーバ―パラレル二次創作小説:金と黒 4
黒執事×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:悪魔と陰陽師 1
火宵の月 戦国風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:泥中に咲く 1
火宵の月 地獄先生ぬ~べ~パラレル二次創作小説:誰かの心臓になれたなら 2
PEACEMAKER鐵 ファンタジーパラレル二次創作小説:勿忘草が咲く丘で 9
FLESH&BLOOD ハーレクイン風パラレル二次創作小説:翠の瞳に恋して 20
火宵の月 異世界ファンタジーロマンスパラレル二次創作小説:月下の恋人達 1
天上の愛地上の恋 現代転生パラレル二次創作小説:愛唄〜君に伝えたいこと〜 1
天上の愛地上の恋 現代昼ドラ風パラレル二次創作小説:黒髪の天使~約束~ 3
火宵の月 異世界軍事風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:奈落の花 2
天上の愛 地上の恋 転生昼ドラ寄宿学校パラレル二次創作小説:天使の箱庭 5
天上の愛地上の恋 昼ドラ転生遊郭パラレル二次創作小説:蜜愛~ふたつの唇~ 0
天上の愛地上の恋 帝国昼ドラ転生パラレル二次創作小説:蒼穹の王 翠の天使 1
名探偵コナン腐向け火宵の月パラレル二次創作小説:蒼き焔~運命の恋~ 1
FLESH&BLOOD ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の花嫁と金髪の悪魔 6
火宵の月 和風ファンタジーパラレル二次創作小説:紅の花嫁~妖狐異譚~ 3
天上の愛地上の恋 昼ドラ風パラレル二次創作小説:愛の炎~愛し君へ・・~ 1
黒執事 昼ドラ風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:君の神様になりたい 4
天愛×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:翼がなくてもーvestigeー 2
魔道祖師×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想うは、あなたひとり 2
火宵の月 昼ドラハーレクイン風ファンタジーパラレル二次創作小説:夢の華 0
薄桜鬼腐向け転生刑事パラレル二次創作小説 :警視庁の姫!!~螺旋の輪廻~ 15
FLESH&BLOOD ハーレクイロマンスパラレル二次創作小説:愛の炎に抱かれて 10
PEACEMAKER鐵 オメガバースパラレル二次創作小説:愛しい人へ、ありがとう 8
天上の愛地上の恋 現代昼ドラ転生パラレル二次創作小説:何度生まれ変わっても… 0
薄桜鬼腐向け転生愛憎劇パラレル二次創作小説:鬼哭琴抄(きこくきんしょう) 10
薄桜鬼×天上の愛地上の恋 転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:玉響の夢 5
黒執事×天上の愛地上の恋 吸血鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:蒼に沈む 0
天上の愛地上の恋 現代転生ハーレクイン風パラレル二次創作小説:最高の片想い 4
バチ官×天上の愛地上の恋 クロスオーバーパラレル二次創作小説:二人の天使 3
FLESH&BLOOD 現代転生パラレル二次創作小説:◇マリーゴールドに恋して◇ 2
YOI×天上の愛地上の恋 クロスオーバーパラレル二次創作小説:皇帝の愛しき真珠 6
火宵の月×刀剣乱舞転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:たゆたえども沈まず 2
薔薇王の葬列×天上の愛地上の恋クロスオーバーパラレル二次創作小説:黒衣の聖母 3
火宵の月×薄桜鬼 和風ファンタジークロスオーバーパラレル二次創作小説:百合と鳳凰 2
薄桜鬼×天官賜福×火宵の月 旅館昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:炎の宿 2
薄桜鬼×火宵の月 遊郭転生昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:不死鳥の花嫁 1
薄桜鬼×天上の愛地上の恋腐向け昼ドラクロスオーバー二次創作小説:元皇子の仕立屋 2
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧き竜と炎の姫君~愛の果て~ 1
F&B×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:海賊と陰陽師~嵐の果て~ 1
F&B×天愛 昼ドラハーレクインクロスオーバ―パラレル二次創作小説:金糸雀と獅子 1
F&B×天愛吸血鬼ハーレクインクロスオーバーパラレル二次創作小説:白銀の夜明け 2
天愛 異世界ハーレクイン転生ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の巫女 氷の皇子 1
相棒×名探偵コナン×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:名探偵と陰陽師 1
天愛×火宵の月陰陽師クロスオーバパラレル二次創作小説:雪月花~また、あの場所で~ 0
名探偵コナン×天上の愛地上の恋 クロスオーバーパラレル二次創作小説:碧に融ける 0
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ミシェルはその夜サンタ・マリア院で一晩中考えた。両親と幸せな生活を奪った仇を殺すべきか、ユリウスとの愛を取るか・・心は千々に乱れた。ユリウスとの愛を取りたいが、両親を殺した相手がわかったし、その仇を両親と同じ目に遭わせてやりたいと思っている自分がいる。だがどんなに憎い仇でも、ユリウスに命を与えた父親でもある。ユリウスを殺したくない。翌朝、結論を出したミシェルは、ロレンツォ達が待っている食堂へと向かった。「結論は出ましたか?」「僕は・・ユリウスを・・」ミシェルが出した答えに、ロレンツォ達は静かに頷いた。「それをあなたが望むのでしたら、私達はそれに従いましょう。」
2012年02月29日
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「殺したくないだと?ふざけんなっ!」鳶色の髪の男がそう言ってミシェルを殴った。「お前この10年俺達がどんな思いで過ごしてきたと思ってんだ!俺達ははな、泥すすってでも生きてきたんだよ!」「やめろ、モンテリオ!」ミシェルに馬乗りになって殴る男を、ロレンツォが引き離した。「お前の気持ちは分かる。だがミシェル様のお気持ちもお察ししろ。」「いちいちこのガキのことを気にかけないといけねぇのかよ!?」「そうではない!ミシェル様に少しお時間をやれと言っただけだ!」男は舌打ちして森の方へと歩いていってしまった。「大丈夫ですか、ミシェル様?」ロレンツォはミシェルの切れた唇から流れている血を慌ててハンカチで拭った。「あの人は・・」「あの人はモンテリオ=サルディーニ。彼の曾祖父の代から、モントレー侯爵家に仕えているのです。彼はモントレーのために全てを捧げてきました。しかしルシリューの虐殺によって、彼の心に憎しみの炎が宿ったのです。それ以来、私達は彼を『炎のモンテリオ』と呼んでおります。」(炎の・・モンテリオ・・)烈火の如く怒りを爆発させ、それを自分にぶつけたモンテリオ。「ねぇ、あの人の炎は、いつになったら消えるの?」「それはわかりません・・あなたの心次第です。」それではこれで・・とロレンツォは森を去った。
2012年02月29日
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アンヌは日記を書く手を止め、引き出しから焼けこげた櫛を取り出した。これは最愛の妹・アレクサンドリーヌが死んだ際身につけていたものだ。高熱で焼かれた櫛は、原型をとどめていないくらい溶けている。妹の死がどんなに苦しい者だったかがこの櫛を見てアンヌは想像できた。アレクサンドリーヌ。いつも私の後をついてきて、“魔女”と恐れられていた私に優しくしてくれた子。だがその子は炎に焼かれて死んだ。必ず彼女を殺した仇を見つけて、この手で殺してやる。アンヌは亡き妹の櫛を握り締め、再び日記を書き始めた。「お母様、入ってもいい?」ドアの向こうから、遠慮がちのガブリエルの声がした。「お入りなさい。」涙で泣き腫らしたガブリエルの目を、アンヌはじっと見つめた。「どうしたの?」「ねぇお母様、私って魔女なの?」「誰にそんなことを言われたの?」アンヌのアイスブルーの瞳が、一瞬怒りで燃えた。「ジュリアーナに言われたの・・わたしが、ヴィクトリアアス様を誘惑したからって・・」アンヌは溜息をついて机に肘を置いた。「あの子には困った者ね・・」「私って、魔女なのかしら?ジュリアーナが言うように、本当に・・」アンヌは涙ぐむガブリエルを抱き締めた。「何を言うの。あなたは魔女ではないわ。天使そのものよ。」 いずれこの子の出生の秘密を明かすとき、この子にありのままの真実を伝えなければいけないことへの苦しさを、アンヌは感じていた。
2012年02月29日
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「ミシェル様、気がつかれましたか?」「ん・・」頬を濡らす雨の冷たさに、ミシェルが目を開けると、そこには心配そうに自分の顔を覗き込んでいる。「僕・・どうして・・」「ったく、こんなんであのリューイと戦えるのか?頼りないなぁ。」ミシェルに剣を渡した鳶色の髪の青年が、そう言って舌打ちした。「リューイと・・戦う?僕が?」「そうです。ミシェル様、あなたのご両親を殺した憎い仇、ルシリューを討つのです。もはや頼りの綱はあなた様だけなのです・・」ミシェルの脳裏に、ユリウスの笑顔と、2人で過ごした日々が浮かんだ。「じゃあ、ユリウスも殺すの?」「ルシリューの血族は全て根絶やしにする。それが俺達の望みだ。」ミシェルの脳裏に、ユリウスの笑顔と、初めて彼と結ばれた幸せな夜のことが浮かんだ。僕がユリウスを殺す?彼の笑顔も、逞しい二の腕も、熱い抱擁も僕が奪う?そんなこと、できない。「・・したくない・・」あの笑顔を奪うなんて。大切な命を、奪うなんて。「殺したくない、殺したくない!」ミシェルはそう叫んで泥の中で蹲った。
2012年02月29日
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燃え上がるようなアンリの憎しみに気づかずに、ミシェルはユリウスとともに昼食を取っていた。「ユリウス、ちょっと動かないで。」ミシェルはそう言ってユリウスの口元をハンカチで拭いた。「ありがとう。」ユリウスはミシェルに微笑んだ。そこへフィリフィスが険しい顔で食堂に入ってきて、ミシェルの肩を叩いた。「ミシェル、あなたにお客様ですよ。」「僕に?」ミシェルが庭園へと向かうと、そこには尊敬する養父がいた。「神父様!」「久しぶりですね、ミシェル。」そう言ってロレンツォはミシェルを抱き締めた。「どうして会いに来てくださったんですか?毎日お手紙を差し上げているのに。」ミシェルがそう言うと、ロレンツォは真顔になって彼を見た。「あなたに、伝えておかなければならないことがあるのです。今からでもサンタ・マリア院に戻れませんか?」ミシェルは校長から外泊の許可を得て、懐かしい故郷へと戻っていった。「ミシェル兄ちゃんv」子ども達はミシェルの帰りに喜び、1日中彼の傍を離れなかった。子ども達が寝静まった深夜、ロレンツォはミシェルをある場所へと連れて行った。半ば崩れかけた邸。「覚えていますか、あの夜のことを?」「ええ・・」脳裏に、炎に包まれた邸が浮かんだ。10年前のあの夜、彼は両親を失い、自分は何者かに殺されかけた。でもそんな昔のことを、神父様はどうして今更になって持ち出すのだろう?「あの日を境に、私達は茨の道を歩まざるおえなくなくなった・・だが今日この日を境に、私達は再び立ち上がるのです。」「神父様?」ロレンツォの様子がおかしいのに気づいて、ミシェルは怪訝そうな顔をして彼を見た。すると突然、ロレンツォはミシェルの手を力強く握った。「ミシェル様、あなた様だけなのです、私達の希望は。」「何・・何を言ってるの?」 ミシェルが狼狽えていると、林から黒いフードを被った20人もの男達が出てきた。「神父様、彼らは一体・・」「大丈夫、敵ではありません。」男の1人がロレンツォの元に来て、被っていたフードを外した。短く刈った鳶色の髪に、強い意志を湛えた榛色の瞳。「お久しぶりです、ロレンツォ様、ミシェル様。」男はそう言ってミシェルの前に跪いた。「神父様、これは一体・・」「10年前、ミシェル様はご両親を失い、それから私達は一族郎党皆殺しにされました・・あなた様が家督を継がれる17歳となられるまで、私はあなた様を実の息子同然のように育てて参りました。そして、今が決起の時!」ロレンツォの言葉を合図に、男達はフードを脱ぎ捨てた。そこには10年前死んだはずの者達の顔があった。「なんで・・あの火事で死んだはずじゃ・・」驚愕の表情を浮かべ、ミシェルはその場に崩れ落ちた。「これを。」さきほどの男がそう言って一振りの剣を差し出した。 鞘に十字架に絡まった薔薇の、凝った装飾が施されている、どこかで見覚えがあるような剣。「これはモントレー家の当主の証。あなたのお父上も17でこの剣とモントレーの家督を継ぎました。」剣を受け取ったミシェルは、鞘から剣を抜いた。刀身が月の光を受けて青白く光る。それを見た瞬間、脳裏にあの夜のことが走馬灯のように浮かび上がった。燃え上がる紅と、残酷なほどに白い雪。そして自分を貫こうとする青白い刃。「今が決起の時!憎き仇、リューイ=ルシリューの首を必ずや討ち取り、一族郎党を皆殺しにし、彼らの血をダニエル様の御魂に捧げるのだ!」ロレンツォの言葉に、男達は一斉に剣を天に向かって振り上げた。静かな夜の森に、男達の雄たけびがこだました。だがミシェルは剣を持ったままボーっとしていた。ルシリュー、ルシリュー・・確かそれはユリウスのファミリーネームだ。そしてユリウスの父の名は・・あまりにも残酷な現実を突きつけられ、その衝撃で地面に倒れた。なんということだろう。 昨夜愛を交わしていたユリウスが、あの時サンタ・マリア院の庭園で出会ったユリウスが、自分の両親を殺した仇の子だなんて。(そんなの嘘だ・・これは何かの悪い夢だ・・)ミシェルはそう信じたかった。だがそれは揺るぎのない事実。そして恋人達にとっては、残酷な現実そのものだった。
2012年02月29日
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「ん・・」まぶしい朝日を浴び、ミシェルは身を起こした。隣には全裸のユリウスがシーツにくるまっていた。それを見てミシェルは昨夜、彼と初めて愛を交わした夜のことを思い出し、顔を真っ赤にした。「どうした?」「ううん、なんでもない・・」ミシェルはそう言って服を着た。食堂にいる者達は、ミシェルが今にもにおい立つような色香を漂わせていることに気づき何人かは唾を飲み込んでいた。ミシェルを見ながら、アンリはユリウスと彼との間に何かがあったことに気づき、憎しみに満ちた目で彼を睨んだ。ミシェルはユリウスとセックスしたのだ。(僕のユリウスを・・よくも・・)ユリウスと初めて出会ったのは、3年前の晩餐会だった。初めてユリウスを見て、アンリは一目で恋に落ちた。そしていつしかあの腕に抱かれたいと思った。それはアンリの唯一の、夢となった。だがその夢をあのクソいまいましいミシェルが壊したのだ。あいつを許すものかーアンリはそう思いながら食堂を出た。
2012年02月29日
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「宮廷に行くわ、馬車の準備を。」「かしこまりました。」執事のダニエルがそう言ってダイニングを出た。今日はガブリエルもジュリアーナも自分の部屋にこもって出てこない。一体何があったのだろうか?だがそんなことにかまっている場合ではない。今日は宿敵と戦う日なのだから。「アンヌ、いつまであいつをおいておくつもりだ?」マカリオはそう言ってヴィクトリアスのほうを見た。「1ヶ月ほど滞在してもらいますわ。ジュリアーナの婚約者ですし、その間彼とジュリアーナが親交を深めるいい機会ですしね。」「呑気なことを。もしあいつがガブリエルに手を出したらどうするつもりだ?」マカリオの言葉に、アンヌは険しい表情を浮かべた。「どういう意味かしら?」「さぁな・・過去にお前がしたことを思い出せばいい。」不敵な笑みを浮かべて、マカリオはダイニングを出て行った。こんなことで動揺してはだめ。夫は私を陥れようとしているのよ、私が犯した罪を責めてるの。手の震えが止まるのを待って、アンヌは馬車に乗った。今日も宮殿には着飾った貴族達が王のご機嫌取りに来ている。 家来達を引き連れてビロードのマントを翻すアンヌの宿敵・リューイ=ルシリューの一団は、最も華やかで、宮廷内の誰もがその衣装の豪華さに息を呑む。「ごきげんよう、ルシリュー。」氷のようなアイスブルーの瞳で相手を睨みながら、アンヌはリューイを見た。「これはこれは。誰かと思ったらでしゃばりのアンヌ様ではないか。女の癖に宮廷内で権力を握るとは、たいしたものだ。」「あらいやだわ。ここでは陛下ではなく、王大后様のお力が働いていることをお忘れになったの?女を侮ると、痛い目を見ますわよ。まぁ実際、あなたは細君にひどい裏切られ方をされたわけですし・・」リューイの顔が怒りのせいでどす黒くなるのを見てから、アンヌは扇子で口元を覆ってほくそ笑んだ。「わたくしたち女を侮ってはいけませんわ。わたくしたち女は、あなたがたとのがたよりも強いのですからね。」 勝ち誇った笑みを浮かべながら立ち去っていくアンヌの背中を、リューイは憎々しげに睨み付けていた。
2012年02月29日
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「説明してくださいな、ユリウス様!この方とは一体どんな関係なんですの!」ヒステリックに叫びながらマリアンヌはミシェルを指した。「彼はミシェル。俺の親友だ。わかったらさっさと出て行け。」冷たいアイスブルーの瞳で睨まれ、マリアンヌは悔しそうに唇を噛みながら廊下を駆けていった。「大丈夫か?」「うん、大丈夫。」そう言ってミシェルはユリウスに微笑んだ。その儚げな笑顔を見て、ユリウスの中で激しい欲望が渦巻き、気がつけばミシェルをベッドに押し倒していた。「いやっ、やめてっ!」ミシェルの脳裏に、狂ったピエールの姿が浮かび、ユリウスを壁まで突き飛ばした。「ミシェル、ごめん・・でも俺、お前のこと好きなんだ。」そう言ってユリウスはミシェルの唇を塞いだ。「んんっ」息ができずにユリウスの髪を引っ張るが、ユリウスは舌を絡めてくる。ユリウスの舌はミシェルの口腔を蹂躙し、2人の間に銀の雫が滴り落ちる。「俺はお前のことが好きだ。ここで再会して以来、俺はお前のことが気になって仕方がなかった。だからあんな罪深いことを・・」そう言ってユリウスはうつむいた。「はじめ俺はお前を欲望の対象としてみていたことに気づいて己を恥じた。同性を恋愛の対象としてみるのは地獄に落ちるのに・・だが日を追うにつれてお前への愛を抑えるのが難しくなってきた。そんなときにあんなことが起こって、俺はお前を守れなかった己を責めた。」「ユリウス・・」「ミシェル、俺の想いを受け入れてくれるか?」アイスブルーの瞳が、美しく光る。その瞳を見て、ミシェルは彼と出会った頃のユリウスの瞳を思い出した。強く、まっすぐな瞳。その瞳に、魅せられた。「・・受け入れるよ、君の全てを。」「ミシェル・・」月明かりが仄かに、2人の姿を照らした。
2012年02月29日
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“近づかないで、この魔女!”妹に投げつけられた言葉の刃によって、ガブリエルは深く傷つき、床に座り込んだ。「大丈夫か?」ヴィクトリアスはそう言ってガブリエルに駆け寄った。「私は魔女なのね・・みんなに天使って言われているけれど・・私は本当は魔女なのだわ・・」ガブリエルは両手で顔を覆って涙を流した。「私は魔女だわ・・知らない間に妹を傷つけて・・私はあの子に嫌われるのも仕方ないわ・・」天使の顔を、涙が静かに濡らした。
2012年02月29日
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マリアンヌは嘘泣きし、1時間も彼女はユリウスを離さなかった。やがてユリウスはため息ともにマリアンヌから離れて、螺旋階段を駆け上っていった。「どこに行くんですの、ユリウス様!?逃げるなんて卑怯ですわよ!」マリアンヌは慌ててユリウスの後を追った。「どうしたの?」息を切らしながらユリウスは部屋に入ってきた。「ああ、ちょっと厄介な客が来ていて・・」そう言ってユリウスはドアに鍵をかけた。「ユリウス様、ドアをお開けになって!」マリアンヌはそう言って激しくドアを叩いた。「なんか怒鳴ってるけど・・」「放っておけ。」ユリウスはベッドに腰掛けながら言った。「わたくしを無視するなんて、許さなくてよ!」マリアンヌはそう叫んでドアを蹴り飛ばし、部屋の中に入った。そこにはブロンドの天使がいた。ユリウスと交わす視線に、マリアンヌは勘づいた。(わたくしがお手紙を書いても返事をくださらなかったのは、この方のせいなのね!)「ユリウス、この人は・・・」「ああ、婚約者のマリアンヌだ。ああ、訂正する。元婚約者だ。」ユリウスはそう言って意地の悪い笑みを浮かべた。それを見てマリアンヌはミシェルのほうを睨んだ。「あなたがわたくしからユリウス様を奪ったのね、この泥棒猫!」コバルトブルーの瞳に涙をためながら、マリアンヌはミシェルの頬を打った。
2012年02月29日
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「そこで何をしているの、姉様っ!」ジュリアーナはつかつかと姉の方に歩いていき、姉の頬を打った。「ヴィクトリアス様はわたしの婚約者よ!姉様、彼を誘惑してたのね!」「違うわ、ジュリアーナ、話を聞いて・・」ガブリエルは興奮する妹の腕を掴んだ。「触らないで、汚らわしいっ!二度と私に近寄らないでよ、この魔女!」ジュリアーナはそう怒鳴ってダイニングを出て行った。 後を追おうとしたガブリエルは、言葉の刃が胸に突き刺さり、金縛りにかかったようにその場から動けなかった。
2012年02月29日
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ジュリアーナは夕食もそこそこに、ベッドにダイブして不貞寝した。(どうして、いつも姉様ばかり・・)母に溺愛され、密かに想いを抱いているアンドレイは、ガブリエルのことばかり気にしてる。母はいつも新しいドレスを仕立て、新年の宴でスペインの親戚から貰う物は全て母は姉に渡し、自分には何もくれない。ジュリアーナはベッドから降りて鏡台に腰掛けた。パッチリとしたアイスブルーの瞳に、艶やかな黒い巻き髪。こんなに自分は美しいのに、母は何故自分を愛してくれないのだろう。母はいつもそうだ・・自分が母に愛を求めようとすると、母は姉ばかり可愛がっていた・・。ため息をつき、鏡台から離れてベッドに入ろうとすると、階下から話し声がした。そっと階段を下りて、声がする方へと向かうと、ダイニングでヴィクトリアスと姉が抱き合っているのを見た。「姉様・・」それを見た瞬間、ジュリアーナの胸に激しい嫉妬が渦巻いた。「そんなことで何してるの、姉様っ!」怒気を含んだ声がして振り向くと、そこには肩をいからせた妹の姿があった。
2012年02月29日
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「ガブリエル、どうしたの?」「ごめんなさい・・手が滑っちゃったみたい。」アンヌは換えのフォークを使用人に持ってくるよう命じた。ガブリエルが再びフォークを取ったのを見てから、改めてアンヌは、ヴィクトリアスに向き直った。「ジュリアーナ、こちらはヴィクトリアス=カルディナーレさん。スペイン海軍大佐ですよ。」「はじめまして、ジュリアーナ様。お目にかかれて光栄です。」ヴィクトリアスはそう言ってジュリアーナに微笑んだ。「は、はじめまして、ヴィクトリアス様・・」ジュリアーナはそう言った後、頬を赤く染めてうつむいてしまった。「そしてこちらが娘のガブリエル。もうすぐ14になりますわ。」ヴィクトリアスは天使のような輝きを持ったガブリエルを見つめた。「なんと美しい・・名前どおり、まるで天使のような方だ。」そう言ってヴィクトリアスはほうっと感嘆の声をあげた。「気分が悪いので、下がらせていただきます。」ジュリアーナは乱暴にフォークとナイフを置いて、ダイニングを出て行った。「困った子ね、いつもガブリエルのことをひがんで・・」そう言ってアンヌは口元をナプキンで拭いた。食事が終わり、アンヌは執務室へと向かい、マカリオは馬で酒場へと向かった。ダイニングには、ヴィクトリアスとガブリエルの2人だけとなった。「妹のところに・・ジュリアーナのところに行ってください・・」気まずい雰囲気から逃れたくて、ガブリエルはドレスの裾を持ってダイニングを出ようとした。 だが逞しいヴィクトリアスの腕がガブリエルの華奢な手首を掴み、自分の胸元へと抱き寄せた。「何をなさるの、お離しになって!」「いやだ、離さない。」やっと見つけた、私の運命の女(ファム・ファタール)。
2012年02月29日
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「あなたは、誰・・?」ガブリエルはそう言って、薔薇を持つ手に力を込めた。「血が出ているぞ。」黒服の青年は馬から降り、レースのハンカチをガブリエルに差し出した。「ありがとう。」真紅の瞳と、アッシュグレイの瞳が合わさったとき、2人の間に何かが生まれた。「ガブリエル、そこで何をしているの?」凛とした声がして振り向くと、群青色のドレスを着たアンヌが、庭園に入ってきた。「薔薇を、食卓に飾ろうかと思って摘んでいたの・・」そう言ってガブリエルは母に薔薇の花束を見せた。「綺麗な色ね。お前の瞳のようだわ。あのわがまま娘はこの色が血のようで嫌だというけれど。」アンヌは薔薇から、黒服の青年へと視線を移した。「お久しぶりです、マダム。」青年はそう言ってアンヌの手の甲に接吻した。「ヴィクトリアス、私の邸にようこそ。」アンヌは青年に微笑むと、邸の中へと入っていった。食卓には、父のマカリオと妹のジュリアーナが座っていた。「遅くなってごめんなさい、今お客様がいらしたところだから。」アンヌはそう言って青年を見た。「お母様、その素敵な方は誰?」「あなたの婚約者で、ヴィクトリアス=カルディナーレ様よ。」その言葉を聞いたガブリエルの手からフォークが滑り落ち、それは派手な音を立てて床に転がった。
2012年02月29日
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庭師の手によって管理が行き届いた広大な庭園で、ガブリエルは薔薇を摘んでいた。 金糸の刺繍が施された植物文様の真珠色のドレスをまとい、腰まである長いブロンドを風に揺らしたその姿は、さながら地上に降り立った天使のようだった。「お嬢様、昼食の時間ですわ。」「ええ、わかったわ。」そう言ってガブリエルは母の年老いた乳母・リリスに微笑んだ。「綺麗な薔薇ですわね。」リリスはガブリエルの腕に収まっている真紅の薔薇を見た。「食卓にでも飾ろうと思って。前は食卓に花を飾っていたのに、あの子が来てから一度も飾ってないんですもの。」そう言いながらガブリエルはスペインからやって来たわがままで意地悪な従妹のことを思い出した。 黒髪碧眼のドルヴィエ家の中で唯一、金髪紅眼で生まれたガブリエルを、マリアンヌは何かに付けていじめた。それは彼女の憧憬の対象である母・アンヌの愛情を一心に受けているからだ。生まれてから13年間、アンヌは時折過保護すぎるくらいに自分を溺愛した。 長年子宝に恵まれなかった母は、幾度も切迫流産・早産の危険にさらされながらも自分をこの世に産み出した。母のことは尊敬している。美しく聡明な母。だが良心は夫婦仲が悪く、いつも喧嘩ばかりしていた。すぐ下の妹・ジュリアーナは姉が溺愛されているのを見て、自分に憎しみを抱いている。近隣の村には数人の友達がいるが、彼らとはうわべだけの関係だ。唯一彼女を理解しているのは、従者のアンドレだけだ。この邸の外から一歩も出たことがない彼女は、いつも自由と恋物語に憧れていた。ある日わたしのところに王子様が来て、わたしをさらって世界の果てに連れて行ってくれるの・・。 そんなことを夢見ながら歩いていると、馬のいななきがしてガブリエルが振り返ると、そこには金糸で刺繍された黒服を着た馬上の騎士が自分を見つめていた。短く刈った黒髪に、長身で均等に筋肉がついた身体。 ガブリエルが天使のようならば、彼はまるで死を運ぶ死神のように暗く、禍々しい雰囲気を漂わせている。「あなたは、誰・・?」ガブリエルはそう言って、薔薇を握り締めた。彼女の白い指から、薔薇と同じ真紅の血が流れた。
2012年02月29日
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「ユリウス様、どうして神学校なんかにお入りになったの?いずれはわたくしを妻に迎えるのに・・ひどいわ、あなた様はいつもわたくしの心を引き裂くのね。」そう言ってマリアンヌはユリウスの胸に顔を埋め、嘘泣きをした。この修羅場を興味津々に見ている同期生達の視線が、針のようにユリウスを刺す。だれかこの場から抜け出してくれと思ったとき、背後から声が聞こえた。「ユリウス、どうしたの?」振り向くと、そこにはプラチナブロンドの髪をなびかせ、無垢な子鹿のようなハシバミ色の瞳をクリクリさせながら、アンリは彼に話しかけた。「アンリ、部屋に戻りたいんだけど・・」アンリは彼の胸に顔を埋めている令嬢に目を向け、状況を理解した。「そう。じゃあその林檎、僕が持っていくよ。」そう言ってアンリはユリウスの手から林檎を奪い、螺旋階段を駆けていった。ドアを開けると、ベッドからミシェルが身を起こし、自分を見てトルマリンの瞳を鋭く光らせた。「そんなに警戒することないでしょ?林檎を持ってきただけなのに。」そう言ってアンリはミシェルに林檎を渡したふりをして、それをおいしそうにかじった。「さっさと死ねばよかったのに。この死に損ないが。お前を見ているとイライラすんだよ。お前さえいなければ、ユリウスは僕のものなのに・・」邪悪な光を放ち、悪意と憎しみに満ちたハシバミ色の瞳で、アンリはミシェルを睨みつけ、彼の手の甲を鋭い爪で引っ掻いた。「また来るね。そのときは首を吊って死んでくれよ。」アンリはそう言って部屋を出た。
2012年02月29日
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パリ郊外にある広大な領地を持ち、宮廷を牛耳っているドルヴィエ侯爵邸の中にある執務室で、この家の女主人・アンヌ=カトリーヌ=テレーズ=オイゲーニュ=ドルヴィエは、晩餐会の招待状を一通一通チェックしながらため息をついた。ため息の原因はただひとつ。溺愛してやまない一人息子・ガブリエルのことである。ガブリエルは男児であるが、故あって女児として育てた。だがガブリエルはもうじき変声期を迎える年頃である。夫やスペインにいる姑に息子の存在が知れたら、彼らはガブリエルを暗殺するだろう。招待状に目を通すのをやめ、引き出しから日記帳を取り出したアンヌは、羽ペンを動かして心の整理をした。“ガブリエルはもうじき14となる。時期に変声期を迎えるだろう。いままで私はあの子を女として育ててきたが、夫や姑にあの子が男だとわかれば・・”書いているうちに陰鬱な気分となり、アンヌはペンを置いた。今頃姪は婚約者のいる神学校に押しかけてきているだろう。自由奔放な母親に育てられ、物と金を与えられたわがまま娘。最愛の弟・ニコルはどうしてあんな女にひっかかったのだろうと、時折アンヌは思う。2ヶ月前、マリアンヌは行儀見習いのためにスペインからドルヴィエ家にやってきた。彼女は伯母を尊敬し、何かとアンヌにまとわりついた。 年頃の娘と接する機会がなかったアンヌははじめは戸惑っていたが、今はもう適当にあしらうほどになった。馬鹿なわがまま娘よりも、じきに変声期を迎える愛しい息子の方がアンヌにとっては大切だ。だがそのことにマリアンヌは勘づき、何かとガブリエルに意地悪をしている。馬鹿なわがままな姪に、天使のように純粋な息子。この2人がいる限り、アンヌの悩みは尽きることはないだろう。
2012年02月29日
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あの夜から数週間が経った頃、ミシェルの意識は回復し、ユリウスの懸命な看護のおかげでようやくベッドから起きあがれるまでになった。フィリフィスはあの夜のことを隠そうとしているが、ユリウスはみんなに校長の寝室でミシェルが暴行を受けたのだと言うことを話した。案の定、みんなミシェルのことで動揺し、その日は授業どころではなくなってしまった。「なぁ、ミシェルは大丈夫なのか?」いつもミシェルをからかっているマルティンが、そう言って食堂で林檎をユリウスに渡した。「峠は越えたから、大丈夫だよ。ただ・・」「ただ?」「精神的な傷は、癒えないだろうね。あんなに、ひどいことされたから・・」「そうだな・・」マルティンはそう言ってうつむいた。「俺、いままであいつに意地悪してきたけど、本当はあいつのことが気になって、ちょっかい出してたんだ。まさかこんなことになるなんて・・」「林檎、ありがとう。」ユリウスはマルティンの肩を叩いて食堂を出た。「ユリウス、あなたにお客様ですよ。」校長がそう言ってユリウスを呼びとめた。「客、俺に?」「ええ、なんでも・・」「ユリウス様!」校長が次の言葉を次ごうとしたとき、彼を押しのけて深紅のドレスを着て、黒髪を結った少女がユリウスに抱きついてきた。「何度もお手紙を送りましたのに、どうして受け取ってくださらなかったの?それにわたくしに黙って神学校なんかに入学してしまって・・ひどいわ!」コバルトブルーの瞳を潤ませながら一方的にまくし立てる少女こそ、ユリウスの婚約者であるマリアンヌその人であった。マリアンヌに抱きつかれたユリウスは、苦虫を噛みつぶしたような顔をした。
2012年02月29日
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ユリウスはまた自分を慰めてしまったことに罪悪を覚え、涙を流していた。その時、獣のような悲鳴が聞こえた。その声には、聞き覚えがあった。「ミシェル・・?」背筋に寒気がした。ミシェルの身に何かあったのだろうか?ここを出たいが、部屋には鍵が掛けられている。窓には脱走できないように、鉄製の格子が嵌められている。(畜生、どうすればいいんだ!?ミシェルの身に何か起こったかもしれないのに、一人ここで指をくわえて待つなんてできない!) いらいらしながら部屋を歩き回っていたユリウスの耳に、錠前に鍵が差し込まれる音が聞こえ、夜着を羽織ったフィリフィスが部屋に入ってきた。「ユリウス、今すぐここから出なさい!あなたのお友達が・・」ユリウスはフィリフィスを押しのけて反省房を飛び出し、悲鳴が聞こえた方へと駆けていった。そこは校長の寝室であった。 ユリウスは乱暴に脱ぎ捨てられたカソックを、そして暖炉の前で倒れているミシェルを見た。「ミシェル、しっかりしろミシェル!」ユリウスはそう言ってミシェルの肩を揺さぶった。そこでミシェルの体が傷だらけなのに気づいた。「ひどいことをする・・」フィリフィスはそう言ってミシェルの体をシーツで覆った。「とりあえず医務室で手当てを。それから今夜のことは、誰にも言わないように、いいですね?」「何故ですか、ミシェルがこんな目に遭ったことをみんなに黙っていろというんですか!」いきり立つユリウスを冷ややかに見ながら、フィリフィスは彼の肩に手を置いた。「これは学校長の沽券と、この学校の体面の問題です。後のことは私達に任せて、あなたはもう部屋にお戻りなさい。」彼の言葉を聞き、ユリウスはフィリフィスの腕からミシェルを奪い取った。「このことをみんなに知らせます。ここで何が起こったのか明らかになるまで、ミシェルは僕が預かります。」瞳に憎悪の炎を燃やしながら、ユリウスはフィリフィスを睨みつけ、部屋を出ていった。父は大嫌いだが、フィリフィスもこの学校も大嫌いだ。何故ミシェルがこんな目に遭わなければならないのか、あの部屋で一体何が起こったのか、真実が明らかになるまで俺がミシェルを守る。この世の全ての害悪から。
2012年02月29日
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「何をなさるんです、先生、離してくださいっ!」ミシェルはそう言って必死に抵抗した。「もっと抗いなさい、快楽と戦い、受け入れるのです!」ピエールは壁に掛けてある剣を鞘から抜き、ミシェルの体を斬りつけた。ザアッと雨のようにミシェルの血が白い壁を濡らした。「助けて・・誰か・・」「苦痛があなたを強くするのですよ、ミシェル。さぁ、体を開きなさい。快楽を受け入れなさい!」ピエールはそう言ってミシェルの血を舐めた。アッシュグレイの瞳は狂気に孕み、濁っている。ピエールの残酷な責めは一晩中続き、全てが終わった後、ミシェルは血の海の中にいた。「ミシェル、快楽を受け入れなさい!」「いや・・です・・」「まだ言うか!」ピエールはミシェルの体を打ち据えた。「悪い子には、お仕置きをしなければなりませんね・・」そう言って燃えさかる暖炉に焼き鏝を入れ、熱したそれをミシェルの白い肩に押しつけた。断末魔の叫びが部屋中に響いた。激しい痛みの中で、ミシェルは意識を失った。「あなたが悪いのですよ、ミシェル。素直に狂気を受け入れないから・・」ピエールはそう言ってくつくつと笑った。
2012年02月29日
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「ユリウス、いるの?」ミシェルは、反省房の前に立ち、ユリウスに呼びかけた。だが中からは返事がなく、くぐもった声が聞こえるだけだ。「ユリウス・・?」ミシェルはそっと、少し開いた扉の隙間から部屋の中を見た。そこには一心不乱に自分の局部を擦るユリウスの姿があった。「う、ううっ・・」肩までの長さの黒髪を振り乱し、息を荒くさせながら自慰に耽っているユリウスの姿を見て、ミシェルは声が出なかった。(ユリウス・・何してるの・・?)やがてユリウスは呻きとともに崩れ落ちた。ミシェルは反省房から駆け出し、庭園の噴水の縁に座ってボーッとしていた。ユリウスのあんな姿を見てしまったことで受けた激しいショックから、ミシェルは体を震わせた。ユリウスは自分を欲望のまなざしで見ていたのだ。親友だと思っていたのに、どうして・・。ユリウスが部屋に戻ってきたら、彼と顔を合わせられない。(どうすればいいの、僕はどうすれば・・)ミシェルが頭を抱えていると、誰かが肩を叩いた。「どうしたのですか、ミシェル?」振り向くと、そこには校長先生が立っていた。「校長先生・・?」「何かあったのでしょう、わたくしにお話なさい。」「先生っ!」ミシェルは堪えていた涙をピエールの胸に顔を埋めて流した。「いっぱいお泣きなさい、わたくしの胸で。」ピエールはそう言ってほくそ笑んだ。フィリフィスは、その様子を苦々しげに見ていた。(どうして・・ピエール?わたしはあなたに全てを差し上げたのに・・)夜着を羽織って、虚しい気持ちでフィリフィスはピエールの寝室を出た。「さあ、おかけなさい。」ピエールはそう言って腰掛け椅子にミシェルを座らせた。「何があったのですか?」「ユリウスが・・ユリウスが・・」ミシェルは吐き気を堪えながら反省房で見たことを話した。だが、ピエールの反応は意外なものだった。「快楽は罪でありません。うまくコントロールすれば快楽は生きる力となります。」「先生・・?」ミシェルはその時、ピエールの瞳が狂気を孕んだ光を放っていることに気づき、部屋を出ようとした。だがピエールはミシェルの腕を掴み、ソファに押し倒し、衣服を剥ぎ取った。「先生、何をなさるんですか、やめてくださいっ!」「恐れることはありません、ミシェル。快楽の下僕となり、自分を解放するのです。」そう言ってピエールはミシェルに微笑んだ。だがその笑みは、欲望をむき出しにした獣の笑みだった。ミシェルは涙を浮かべながら、心の中でユリウスの名を叫んだ。
2012年02月29日
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ピエールは慈愛に満ちた目でフィリフィスを見た。フィリフィスは私の可愛い子羊。私が与える欲望に従い、快楽を貪る可愛い子羊だ。だがもう彼には飽きた。 今度の相手は誰にしようかーそう思いピエールが窓の外を見ると、月光に照らされたブロンドの髪が美しく光るのを見た。カソックの裾を翻し、トルマリンの瞳を曇らせて庭園へと向かうその姿は、まさに天使。名前は確か、ミシェルとかいった・・。(天使の名を持つ美しき子羊・・是非私のものに・・) ピエールが欲望に満ちた目で自分を見つめているとは知らずに、ミシェルはユリウスがいる反省房へと向かっていた。
2012年02月29日
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「よぉミシェル、お前昨夜は襲われたんだって?」 翌朝、ユリウスと共に朝食を取りに食堂へと向かうと、そこにはマルティンと彼の腰巾着がそう言って彼を見て笑った。「お前綺麗だからさ、いつ襲われてもおかしくねぇよな。まぁ、色気ふりまいてるお前が悪いけどな。」「貴様っ、それ以上言うと喉元掻っ切るぞ!」ユリウスはそう言って短剣を取り出し、マルティンに馬乗りになって彼を殴り始めた。「ユリウス、やめて!」ミシェルがどんなに止めても、ユリウスはマルティンが泣き、彼が謝るまで殴り続けた。その結果、ユリウスは一週間反省房行きとなり、断食と神への祈りを強制された。反省房の中で、ユリウスは空腹とミシェルに向ける獣のような荒々しい性的欲望と戦っていた。 何故だろうか、同性であるのにミシェルを抱きたいという思いが日に日に強くなってくるのを、ユリウスは感じていた。彼の体内に自分の楔を打ち、美しい顔を歓喜と快感にゆがませたい。そう思うと、自分の男の部分が熱を持っていることに気づき、ユリウスはそれを恥じた。だめだ、そんなことを考えては。僕はミシェルの親友なのに。神に仕えようとしているのに。ユリウスは熱を持った部分を自ら慰めた後で、涙を流した。
2012年02月29日
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カエサルは短剣を取り出し、それをユリウスとミシェルに向かって振り下ろした。そのとき、眠っていたはずのユリウスの目が開き、カエサルを睨みつけた。「カエサル、僕を殺すつもりか?ならお前は生かしておけないな。」ユリウスはそう言って、枕の下に隠していた短剣を鞘から乱暴に抜き、カエサルの喉下にその刃を突きつけた。「ユリウス様、旦那様はあなたを殺せとわたくしに命じました。」「お前は父の犬だな、カエサル。自分の意志も持たず、父に餌と金を与えられ、檻の中で飼われている犬だ。」あざけるような口調でユリウスはそう言って笑った。「なんとでもお言いなさい、ユリウス様。わたくしは旦那様のために人生を、この命を捧げてきたのです。たとえあなたを殺そうとも、わたしは良心の呵責にさいなまれることはないでしょう。」カエサルはそう言ってユリウスを睨んだ。「このままあなたを殺せば、旦那様はわたくしをほめてくださるでしょう。しかし・・」廊下で人の足音がしたことを察したカエサルは、窓をチラリと見た。「あなたを殺すのはお楽しみに取っておきましょう、ユリウス様。あなたを殺すときは、そのブロンドの天使があなたをエデンの園へと連れて行ってくださることでしょう。」カエサルはそう言って窓から飛び出し、身を翻して着地し、馬に乗って新学校を去った。「どうしました、何があったのです!?」 ひどく荒らされた室内を見て、ユリウスたちの担当教官であるシリフィス神父はそう言ってユリウスを見た。「いいえ、なんでもありません。後始末は僕がしておきます。お騒がせしてしまってすいません。」「そうですか・・ではお休みなさい、ユリウス。」「お休みなさい、神父様。」荒らされた室内を片付けながら、ユリウスはさきほどのカエサルの言葉を思い出した。“あなたを殺すのはお楽しみに取っておきましょう、ユリウス様。あなたを殺すときは、そのブロンドの天使があなたをエデンの園へと連れて行ってくださることでしょう。”彼は一体何を言っているのだろうか?僕は父に命を狙われているが、それはミシェルとは関係のないことじゃないか。何故彼があんなことを言ったのか、それが気になってユリウスはその夜一睡もできなかった。
2012年02月29日
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ユリウスとミシェルは聖堂の隣にある寮で同室となった。馴れない学校生活の中で知り合いがいるということは、何かと心強いものだ。「よかった、君と一緒で。」ミシェルはそう言って荷物をとき始めた。「俺もうれしいよ、お前と一緒で。」ユリウスはそう言って、ミシェルを抱きしめた。リューイは一枚の報告書を見て、ほくそ笑んだ。(この際ユリウスとミシェル、2人共始末しよう・・)その夜、ユリウスとミシェルはそれぞれのベッドで深い眠りについていた。友人と共に新生活を送れることを、2人共心からうれしく思った。だがその頃、リューイは恐ろしい策を練っていた。「カエサル、ユリウスを殺せ。」リューイの言葉に、カエサルは持っていたペンを落としてしまった。「それは・・本気でございますか・・」カエサルはそう言って主人の顔を見た。「ユリウス様は、旦那様の跡をいずれ継ぐ方ですよ。」「それはわかっている。だが、あれは私にとっても、この家にとっても厄介な存在となる。」リューイは指輪をいじりながら言った。「旦那様、お言葉ですが、ユリウス様は難しい年頃であらせられますので、旦那様には何かと反抗したいのでしょう。」さらに言い募ろうとしたカエサルをリューイは手を制した。「お前には優秀な息子がいるからそう言えるのであろう。だがお前の息子とユリウスは背負うものが違いすぎる。ユリウスは私の跡を継ぐもの。だがそれと同時に、私の敵となる。」リューイはそう言ってグラスを握りつぶした。「あれは私のことを憎んでいる。いままでのこと・・あれの母親のことを含めてな。」主人の言葉を聞き、カエサルの顔がこわばった。そしてあの7年前の悪夢を思い出した。「すぐに支度をせよ、カエサル。2人共始末せよ。」「ユリウス様だけでよろしいのでは?」「いや、ユリウスのほかにももう1人、厄介な者がいる。」「それは、どなたです?」カエサルはそう言って眉をひそめた。「お前には言えぬが、今夜だけは少し教えてやろう。その者は・・」ミシェルが目を開けると、隣にはユリウスが立っていた。「どうしたの?」「なかなか眠れなくて・・」「そうだよね・・」「なぁ、覚えてるか?はじめて会った日のこと・・」「忘れるわけないよ。」ミシェルはそう言って笑った。 カエサルが部屋に入ると、そこには1つのベッドで眠る彼の標的が目に入った。 金髪と黒髪―対照的な輝きを持つ髪を、彼はしばし魅入っていた。そして彼は、金髪の少年を見た。ミシェル=モントレー。彼の主人にとっては災厄の種である存在。カエサルは短剣を取り出し、ユリウスとミシェルに向かって一気に振り下ろした。
2012年02月29日
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「ミシェル、ミシェルなのか?」ユリウスはそう言って初恋の相手でもあり、親友でもあるミシェルを抱き締めた。「10年ぶりだな、元気にしてたか・・」「うん。ユリウスは・・」そう言って自分に微笑むミシェルを見て、ユリウスの胸が大きく高鳴った。「ユリウスはどうしてここに?」「父に反抗して、家を出てきたんだ。」「そう・・」ミシェルはそう言ってうつむいた。ユリウスには両親がいるが、父親との関係は芳しくないようだ。血が繋がらない親子であるロレンツォと自分は仲は良い。だがユリウスはその逆で、血を分けた実の父を彼が嫌っているように思えた。多分ユリウスにはユリウスの夢があって、それをかなえるために神学校へ来たのだろう。だが父親は自分が敷いたレールにユリウスを歩かせようとして、ユリウスは神学校に入ることで父親に反抗した。だがユリウスは聖職者に向いていないんじゃないんだろうかとミシェルは思いながらも、親友の手を取り聖堂を出た。 その頃、リューイはユリウスが神学校に入学したことを知り、花瓶を壁に投げつけた。「ユリウスめ、勝手なことを!」リューイは自分の意志にことごとく逆らう息子に対して激しい怒りを感じた。(まぁいい・・私の恐ろしさを思い知らせてやる・・)リューイはほくそ笑み、ワインを飲み干した。「カエサル、お前に頼みたいことがある・・。」
2012年02月29日
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「話とは何だね、ミシェル?」ロレンツォはそう言って、椅子に腰掛けた。「僕、神学校に行きたいんです。」 ミシェルの言葉を聞き、彼に微笑んだ。「そうですか・・あなたをここで育てて10年ですか。巣立ちのときが来るなんてあの時は思ってもみませんでした。」そう言ったロレンツォの目には、涙が溜まっていた。「休みになったら帰ってきます。手紙も毎日書きますから、心配なさらないでください。」ミシェルはそう言ってロレンツォを抱きしめた。その日の夜、ロレンツォによってミシェルの送別会が行われた。「ミシェル兄ちゃん、神学校に行っても私たちのこと忘れないでね。」孤児院の中でミシェルによくなついているルイーゼがそう言って泣いた。「絶対に忘れないよ。」ミシェルは部屋に戻り、荷造りをした。ここへ来てから、10年。両親を失い、孤児となった彼に手を差し伸べてくれたのは、ロレンツォだった。ここでの生活は、まるで天国のようだった。ルイーゼやジョゼフ、カトリーヌ-みんな、本当の家族のようだった。これから孤児院を出て、全寮制の神学校に進学する。 みんなと離れて、初めて1人で生活する-これから始まる新生活に、ミシェルは不安と期待で胸がいっぱいだった。翌朝、ミシェルはみんなに見送られて孤児院を発った。それからミシェルは3日もかけてようやく神学校に着いた。白亜の荘厳な建物が、これから自分の家となると思うと、ミシェルは緊張した。ゆっくりと門を開け、中へと入ると、そこには数人の少年達が談笑していた。「あの、聖堂はどこですか?」 少年の1人が指差した方向に向かうと、キリストの生誕と復活が描かれた薔薇窓が美しい聖堂が見えた。ミシェルが扉を押して中へ入ると、そこには肩まで伸ばした艶やかな黒髪をした青年が静かに祈りを捧げていた。ミシェルはその青年の横顔に見覚えがあった。あの日、孤児院の中庭で会った。「ユリウス・・」ミシェルの声に、ユリウスはゆっくりと振り向いた。「ミシェル・・ミシェルなのか?」
2012年02月29日
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「ユリウス様、いかがなされました?」 自分を呼ぶ声に気がついて机の上から顔を上げると、そこには心配そうな顔をして自分を覗き込んでいるラテン語の教師がいた。「な、なんでもありません。」そう言ってユリウスはペンを取り、ラテン語の作文にとりかかった。 だが教師が帰り、1人になると、またユリウスはペンを走らせる手を止めて頬杖をつき、ため息をついた。 あの孤児院でミシェルに会ってからというものの、ユリウスは勉強に身が入らなくなり、いつもミシェルのことばかり考えてしまう。(こんな気持ち、はじめてだ。)ユリウスはため息をつきながら、再び宿題に取り掛かった。その気持ちが、恋というものであることを知らずに。
2012年02月29日
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「君は、誰?」ユリウスは目の前にいる少年の美しさに見惚れ、言葉が出なかった。 美しい少し癖のあるブロンドの髪は、太陽の光を受けて輝いていて、トルマリンの瞳は美しく澄んでいて、それを縁取るブロンドのまつ毛は美しく輝いている。まるで宗教画に登場する天使のようだ。「君、どうしたの?」少年に肩を叩かれ、ユリウスは我に返った。「ごめん、僕あまりにも君が綺麗だから見惚れてて・・」ユリウスがそう言うと、少年は声を上げて笑った。その声は、鈴を転がすような、美しい声だった。「僕、変なこと言った?」「ううん、別に。」少年は笑いながらユリウスを見て言った。「いままでそんなこと、誰にも言われたことなかったから。君って面白いね。」少年の笑顔は、春の陽光のようだった。「僕はユリウス。君は?」「僕?僕はミシェル。よろしくね、ユリウス。」ミシェルー大天使ミカエルの名を持つ少年は、ユリウスにとって運命の天使となった。「こちらこそよろしく、ミシェル。」ユリウスはそう言ってミシェルに左手を差し出した。ミシェルはその手を握り返した。「ユリウス、どこにいる!」薔薇のアーチの向こうから、リュークの野太い声が聞こえた。「僕、もう行かなきゃ。」ユリウスはそう言ってミシェルに微笑んで中庭を出た。
2012年02月29日
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『サンタ・マリア孤児院』で生活を始めてから半年がたった。はじめは両親の死を信じられず、ふさぎ込んだりした。 だがロレンツォや、自分と同じように親を亡くしたり、親に虐待された末に捨てられた子ども達を見て、自分よりも深い悲しみ・苦しみを抱えている者がいることに気づき、両親の死から立ち直った。そして、いつかロレンツォのような人々の苦しみ・悲しみを自身のことのように受け止め、それらを癒す存在になりたいーそんな夢を抱くようになっていた。 そんなある日のこと、『サンタ・マリア孤児院』に多額の寄付をしてくれているルシリュー伯爵とその家族が慰問に来た。伯爵は両手に抱えきれないほどの菓子を子ども達に配った。菓子に群がる子ども達を、ミシェルはさめた目で見ていた。 伯爵の同情心は、うわべだけの薄っぺらなものだ。彼が与えているのは物だけで、そこに愛はない。モヤモヤとした気持ちでミシェルは中庭へと向かった。 白薔薇が咲き誇り、中央に設置されている噴水から流れ出る水は、自然とミシェルの心を癒していった。噴水の縁に腰掛けたミシェルは、養父が焼いてくれたパンを食べ始めた。そこへ、身なりのいい服を着た同年代の子どもがやってきた。漆黒の髪と、コバルトブルーの瞳。ミシェルと少年は、しばらく見つめあった。「君は、誰?」ユリウスは少年の美しさに見惚れて、しばらく言葉が出なかった。
2012年02月29日
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ミシェルが『サンタ・マリア孤児院』で新しい生活を始めた頃、パリ郊外にあるルシリュー伯爵邸では、当主のリューイが従者のカエサルからの報告を聞いていた。「・・・そうか、モントレーの生き残りがいたか。」「はい、始末しようと思いましたが、邪魔が入りまして。」「よい。時が来れば仕留めればよい。」リューイはそう言ってワインを飲んだ。そのとき、息子のユリウスが入ってきた。「父さん、話があるんだけれど、いいかな?」「忙しいから、用件が済んだらさっさと出て行け。」息子の顔を見ずにリューイはそう言うと、またひとくちワインを飲んだ。「士官学校のことだけど・・」「お前はただ私の言うことを聞いていればいい。」父の言葉を聞き、ユリウスは拳を固めた。「士官学校なんて行きたくない!」「わがままを言うな!お前は私に従っていればいいんだ!」リューイはそう言って椅子から立ち上がり、ユリウスの頬を打った。ユリウスは涙を流しながら部屋を出ていった。(父さんなんか大嫌いだ!)自分の部屋でユリウスは腫れた頬をなすりながら泣いた。父はいつも、自分の言いなりにさせようとしている。だがユリウスはいつも父にことごとく反発していた。翼が欲しい。翼があれば、こんな家から飛び出していけるのにーそう思いながら、ユリウスは眠りに就いた。
2012年02月29日
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「あなたは、だれ?」ミシェルはそう言って自分の前に立っている男を見て言い、ベッドから身を起こした。父と母を探さなくては。今頃母は自分のことを探しているに違いない。父も、自分のことをー。「お父様、お母様!」ミシェルは部屋を出て、自分と両親が住んでいた館へと走っていた。館へ帰れば、母がどこへ言っていたのといって自分に微笑んでくれる。父は自分の頭を撫でてくれるー。 そう思いながら館の門をくぐったミシェルが見たものは、すっかり焼け落ちて今や廃墟と化した我が家だった。「お父様、お母様・・」ミシェルは館の中へと入っていった。いつも美しく清潔だったリビングは、煙と死臭が漂い、廃墟と化していた。ミシェルはリビングの床に吐いた。そして、これが夢ではないことを思い知らされた。父も母も、炎の中で死んだ。生き残ったのは、自分1人だけだ。しばらくそこにたたずんでいると、ひび割れた壁の隙間から黒い僧衣が見えた。ロレンツォは廃墟と化した館の中で少年を見つけた。少年の肩を叩くと、天使のような愛くるしい顔は涙で濡れていた。「僕・・ひとりになっちゃった・・」ロレンツォは無垢な天使を抱きしめた。「名前は?」「ミシェル。」ロレンツォはこの子を生涯守っていこうと決めた。「これから私があなたのお父様ですよ、ミシェル。」
2012年02月29日
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「・・まだ生き残りがいたのか。」漆黒の衣に身を包んだ男はそう言って舌打ちし、短剣を構え、ゆっくりとミシェルのほうと近づいてきた。(誰か、助けて・・)「殺すのは惜しいが、我が主の命だ。悪く思うなよ。」男がそう言って短剣を振りかざそうとした時、遠くから人の叫び声がした。男は舌打ちし、闇の中へと消えた。ミシェルは、その場にへなへなとへたり込んだ。その顔は、病人のように青ざめていた。しばらく呆然とした様子でミシェルでが庭にいると、ランプの光が彼の顔を照らした。「坊主、どっから来たんだ?」男は邸の近くに住む農夫だった。就寝前に神に祈りを捧げていた彼は、邸のほうから黒々とした煙が上がっているのを見て、急いで駆けつけたのだ。今自分の前にいる少女は、身なりからして邸に住んでいた人間の子だろう。声をかけると、少年は振り向いた。雪のような白く透き通った肌は病人のように青ざめ、アクアマリンのような淡い水色の瞳は、焼け落ちた館を呆然とした目で見つめている。「大丈夫か?」少年の肩をポンと叩くと、華奢な体がグラリと大きく揺れ、自分の胸へと倒れこんできた。「坊主、しっかりしろ坊主!」どれくらい時が経っただろうか?ミシェルが目を開けると、そこには黒い僧衣をまとった50代半ばの男性が、優しく彼を見ていた。「気がつかれたのですね、よかった。」
2012年02月29日
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1570年1月1日。モントレー侯爵家の者達は、新年を迎えるための華やかな宴を開いていた。モントレー家の1人息子・ミシェルは、裏庭で雪遊びをしていた。(お母様に、このウサギを見せよう。)ミシェルは作ったばかりの雪ウサギを持って両親の元へと向かおうとした。だが、ミシェルは小石につまずいてしまった。「痛い・・」ミシェルが痛んだ膝をさすりながら立ち上がると、そこには炎が包まれた館が目の前にあった。それを見た瞬間、ミシェルは今すぐここから逃げなければと思い、裏口へと走っていった。だが裏口にミシェルがたどり着く前に、1人の男が彼の前に現れた。
2012年02月29日
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16世紀ヨーロッパ編ミシェル名門貴族・モントレー家の嫡子であったが、7歳のとき両親を何者かに惨殺され、孤児となり、ロレンツォの元で育てられる。神学校に入学し、そこで親友・ユリウスと再会するが・・ユリウスフランスでも名門屈指の名家・ルシリュー伯爵家の嫡子。幼くして母を失い、その死は父のせいだと思い込み、父を憎む。家を継がせようとする父に反発し、神学校に入学する。ミシェルのことが気になっている。リューイミシェルの両親を惨殺したルシリュー伯爵家当主。 自分の目的のためなら、卑劣な手段をもいとわない策略家。 ミシェルの命を執拗に狙う。ロレンツォミシェルの養父で、『サンタ・マリア孤児院』院長。ミシェルの人生の目標でもあり、尊敬する男性でもある。だがその過去は・・マリアンヌユリウスの婚約者で宮廷の実力者・アンヌを伯母に持つ。高慢な性格で、ユリウスに愛されていると思い込み、何かとユリウスにつきまとい、ミシェルに激しい敵意を抱く。アンヌマリアンヌの伯母であり、フランス宮廷の重鎮。宮廷内ではルシリューと権力を二分するほどのやり手。女でありながら政治的手腕に長け、聡明な頭脳と類まれなる美貌を持った才女。ガブリエルアンヌの一人息子。世間から『魔女』と呼ばれ恐れられている母の唯一の理解者。ある事情により女児として育てられてきた。マカリオアンヌの夫。イタリア宮廷では重鎮だったが、アンヌに嫌悪され、閑職に就いている。才能溢れる妻に対して激しい嫉妬と憎しみの炎を燃やす。マルティンユリウスとミシェルの同期生。ミシェルに対して何かと意地悪をするが、それはミシェルが気になっているから。アウグストマルティンの腰巾着。ユリウスに何かとつっかかるが・・ピエール神学校の校長。神に仕える身でありながら、少年達を性的欲望を満たす対象としてしか見ていない。カエサルルシリュー家の刺客で、リューイの忠実な下僕。ユリウスとミシェルの命を虎視眈々と狙う。アンリユリウスとミシェルの同期生。ユリウスを愛し、邪魔であるミシェルを何かといじめる。子鹿のような愛らしい容貌とは裏腹に、残忍な本性を持つ少年。アンドレイガブリエルの従者。ガブリエルのことを愛している。ジュリアーナガブリエルの妹。母に溺愛される姉を快く思っておらず、姉につらく当たる。ヴィクトリアス=カルディナーレカルディナーレ伯爵家嫡子で、スペイン海軍大佐。金や権力を全て手にしたが、虚しい日々を送っていた。ガブリエルと出会い・・フィリフィスピエールの愛人で、ユリウス達の担当教官。ピエールに尽くし、彼のことを深く愛しているが・・モンテリオ=サルディーニモントレー一族に仕えてきたサルディーニ家の嫡男。憎い仇・ルシリューを討つため、ミシェルに家督を相続するように迫る。ニコル=カスケーニャアンヌの弟で、スペインの下級貴族・カスケーニャ男爵家当主。生まれつき病弱で、冷酷な姉とは対照的に太陽のような穏やかな心の持ち主。ビアンカ=カスケーニャニコルの妻で、裕福な商人を父に持つ。義姉・アンヌからは「成り上がり者」と蔑まれ、何かと対立する。マリアマリアンヌの妹。わがままな姉とは対照的に、優しい性格。ダニエル=モントレー(故人)ミシェルの父で、モントレー公爵家10代目当主。アレクサンドリーヌ=モントレー(故人)ミシェルの母。アンヌがニコルの次に溺愛して止まなかった最愛の妹。ルイダニエルの末弟。ガリウスユグノーの集落のリーダー格。ガブリエルを自分の花嫁として集落へ拉致するが、彼の秘密を知ってしまう。ダニエルガリウスに恋心を抱く少年で、ガリウスの弟分。彼のことを愛するあまり、ガブリエルに嫉妬の牙を剥く。ルイーゼガリウスの幼馴染で、集落の纏め役。姐御肌で、ガブリエルの事を何かと気に掛ける。
2012年02月29日
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