ここで少し話が変わるが、初対面の人同士を紹介するとき、主語としてはやはりthisを使う。 "Jane, this is my friend, Peter." のように。 時々こう言うのを聞いて、 「人に対して『これ』なんて言って失礼じゃないんですか!」 とか言う人がいるが、もちろん失礼じゃない。彼らには自分が『これ』などとモノ呼ばわりされたようには聞こえていない。日本語に訳すならこの場合は 「ジェーン、こちらは私の友人のピーターです」 てな感じであろう。
もうひとつ、たぶん誰でも知っているだろうが、電話で名乗るときは I'm Leila.とは言わず "Hello, this is Leila." と言う。これもやはり日本語にするとすれば「こちらはレイラです」というところだろう。
だから。 "What's this?" となにかを指し示しながら尋ね、たずねられたほうはもう指し示す必要がないので "It's a pen." と答えればよい。 (逆に言うと、What's it?というのはありえない。指し示さなければ尋ねることも出来ないから)
相手がまだ認識していないモノ(スポットライトが当たっていないモノ)をいきなり持ち出してきて、聞かれてもいないのに "This is a pen." と言ったら相手は 「はい?」 となってしまうというのがこれでお分かりになるだろう。
ただしもちろん、この文を使う状況が皆無なわけではない。 たとえば、いろいろなものが雑多にあって、それぞれが何であるのか説明していく必要があるようなとき… そう、まさに「英語の授業のはじめの頃、教室にあるモノの英語名を説明する」 ような場合にはこの形の文が成り立つ。 This is a pen, This is a book, That is a desk...などと次々指し示しながら紹介していくのである。 そういう状況があるが故に、英語の授業の始めの方でこの文が出てきてしまうハメになるのだろうが、困ったことにその後に実生活で自然に応用していくのが難しいのである。 (だから、コドモにまずものの英語名を覚えさせるときは、別に単発の単語だけでいいのではないか)
似たような文構造でも、 This is my pen. ならばとたんに「自然」になる。ほかにもいくつかあるペンと区別して 「これ」は「私の」ペンだ、と言っている状況だと自然に思えるから。
こういう諸々のことを、「実感」して「ピンと来る」ようになるためには、act out、つまり「実際にやってみる」が不可欠だ。 簡単である。 そこらにあるペンをとりあげて、とりあえず This is a pen. と口に出してみて下さい。 自分でも 「……で?」 という気分になるから(^_^;)。 ここであとに続く内容は、やはりそのものについて何らかの紹介を続けるというぐらいしか思いつかない。アメリカの小学校にあるShow & Tell (なにかを見せながら紹介する)クラスの課題みたいになる。あるいはやっぱりテレビショッピングである。
だが同様に、そこらにある本をとりあげて This is my book. と言ってみる。 すると(英語でなくてもいいが) 「あなたの本はそっちだよ」 とか 「これはこの間古本屋で買ったんだ」 とか 「読み終わったら貸してあげるよ」 とか、とりあえずそこにつなげて言いたくなることも思い浮かぶはずである。 (同様に、This is the book I bought yesterday. 「これが昨日買った(例の)本なんだ」のように限定したアイテムに言及するのなら自然である。This is a pen.の問題点は実は冠詞の「a」のほうにもあるのだが、これについては後ほど改めて)
ここで 「とりあげて」言う、 が大事である。 「手元にあるモノを指し示して紹介する」のがthis なので。thatを使ってみたければ、相手の手元にあるモノや、とにかく自分の手元にはないモノを指や目線で指し示しながら That is~と口にする。