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不具が暗誦するほど好きな「山月記」他三篇が収められた連作短編集。今順番に並べると「狐憑」「木乃伊」「山月記」「文字禍」となる。いずれも霊感、死霊、悪霊、精霊と霊にまつわるお話で、「山月記」を除く三篇は、古代オリエントが舞台である。そのせいだろうか、やや文章が上滑りしている感が否めない。ポーかアポリネールのゴシックロマンを、やや滑稽にしたような味付けなのである。
それに比べると、「山月記」は違う。中島敦にはやはり、中国を舞台にした小説がよく似合う。言葉が屹立しているのである。朗読もしやすく、対句を多用しているので暗誦も容易だ。
たとえば、こんな一節がある。
一体、獣でも人間でも、もとは何か他のものだったんだろう。 初めはそれを憶えているが
、 次第に忘れて了い
、初めから今の形のものだったと思い込んでいるのではないか?
「木乃伊」を受けた独白でもあるのだが、「そんな事はどうでもいい」。このような例は枚挙に暇がなく、それゆえに文体がきびきびとして内容にふさわしいものになっている。そしてこれこそ中島敦の真骨頂なのである。少なくとも不具はそう思う。
今読むならこちら↓
中島敦全集(1)
そのうち読みたいと思っている本。
『防雪林・不在地主』小林多喜二:岩波文庫 2018.05.28
『八千代集』岡田八千代:ゆまに書房 2018.05.26
『二百十日・野分』夏目漱石:岩波文庫 2017.01.20