つれづれなるままに―日本一学歴の高い掃除夫だった不具のブログ―

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2018.03.31
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カテゴリ: SF
原題『thorns』には二つの意味がある。thornなら「とげ」だし、その複数形だから棘がいっぱいあるイメージ。thornsを一つの名詞としてとらえれば「茨」だ。「茨」は「荊」に通じる。さらにthorn(とげ)はthron(王位)のアナグラムでもある。キリストのイメージ。『いばらの旅路』とはよく題したものだ。

受難を受けたのは誰か。地球から舞い降りた星で現地人に改造された宇宙飛行士と、科学者に卵子を提供して100人の子持ちになった娘である。宇宙飛行士が地上に降り立って十字架にかけられたキリストなら、女の方は処女マリアだ。ふたりは互いの境遇に同情し、惹かれあい、結ばれた…というのならメデタシメデタシのおとぎ話なのだが、そうは問屋が卸さない。

ここに大金持ちがいる。名前は書かない。名前などに意味はないから。宇宙飛行士にも女にも名前があるが、やはり書かない。書かないことで、寓話として紹介したい。大金持ちは二人をくっつけようと画策した。慈善のためではない。同情が愛情に変わり、やがて蜜月の期間が過ぎて愛情が嫉妬や疑惑に変わり、嫉妬や疑惑が憎悪や倦怠に変わるのを見届けたかった。それこそがこの大金持ちの道楽であり、文字通り生きる糧でもあった。

こういう人は世の中にごまんといる。他人の不幸は蜜の味、とはよく言ったものだ。二人はそれを乗り越えて幸せをつかむのだが、そのことはさておこう。こういう本を読むと、SFはエンターテイメントであると同時に、文学だという主張に首肯したくなる。疎外感を感じている感受性豊かなすべての人々に、本書は福音をもたらすだろう。

残念なことに、昭和47年に刊行された本書は、今もって絶版である。翻訳独占権は早川書房にあり、他社がおいそれと手を出せる状況にないが、文庫化されるという話も聞いたことがない、忘れられた名作の一つだ。興味をもった御仁は、図書館の相互貸借で入手せられんことを。


【中古】いばらの旅路 ロバート・シルヴァーバーグ ハヤカワポケットミステリーSF3295





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Last updated  2018.04.30 05:01:40
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