つれづれなるままに―日本一学歴の高い掃除夫だった不具のブログ―

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2020.10.14
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カテゴリ: ミステリー
正直、この作品をどこに分類するかは迷った。
海外文学に入れてもいいのだけれど、読み始めると確かに面白いものの、英国の階級社会に縁のない現代の日本人、華族様のいない日本人には、ピンとこない話でもある。いったんそれを受け入れれば、そして​ 『法と淑女』 ​と同じく、否もっと類型的な人物描写とその展開を受け入れたなら、なかなかの娯楽作品であることは認めてもいい。

だがやはり通俗だ。名家の次男が商人の娘に一目ぼれする。恋に盲目になった彼は、秘密結婚を受け入れ、一年後に晴れてその結婚を公にすることを承諾する。ところがその女は顔がきれいなだけですこぶる低俗な女だった。しかも不義密通を犯していた。勘のいい読者は、主人公が気がつく前にそのことに気がつくだろう。娘の父親はまるで​ テナルディエ ​のようだ。母親がか弱くも善良なのが救いだが、娘の方にはエポニーヌほどの同情も覚えない。そして悪党どもは滅び、身の危険を感じていた主人公は、妹と兄に救われる。

『法と淑女』もそうだったが、「主人」が弱弱しく、上流階級の御坊っちゃんが苦悩していることはわかり、同情は覚えるものの、共感はできないのである。読者はむしろ主人公の妹の方に共感するかもしれない。そして通俗であるにもかかわらず、短いエピローグで明らかになるように、事件の後もけなげな妹は兄とともに生活しているのである。結婚もせずに!

だからよく考えた末、スリルとサスペンスの妙味を重んじ、​ 『レベッカ』 ​と同じくこのカテゴリーに入れることにした。言い訳である。

最後まで主要人物の名前を書かなかった。「バジル」は主人公の名前だが、偽名であるという設定だ。そのほかの登場人物もみな、偽名で書かれてある。出版上必要だったから、というわけだ。要するに上流階級の読み物なのである。



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Last updated  2021.09.19 23:20:04
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