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「探偵狂想曲」 #9 名探偵、嘲笑する 父親の行方を捜す目的で街を歩いていたオレだったが・・・。 博物館を離れ、北の門へと向かう途中。頭の中で考えていることは、博物館盗難事件のことだけだった。 これほどまで気になってしまう理由は、やはりダイアナの話があったためだ。 ――盗難の前夜、食中毒に悩まされた館長・・・。 ダイアナではないが、偶然として済ませるのは納得がいかない。 昨夜、盗みを働いた賊がなんらかの毒物を館長に与え、館内の警備を手薄にしたと考えるのは、それほど想像力を働かさなくても容易に思い至る推理である。 そんなことを考えながら、建物の角を曲がろうとしたオレは、向こうからやってきた奴にぶつかってしまった。 全力でぶつかったわけではないから、お互い尻餅をついたりはしなかったものの。 自分の不注意は素直に謝らなくてはいかない、と顔を上げる。「わ、悪ぃ――ん?」「いや、こちらこそ失礼――あれ?」 相手と同時に目が合い、それが見覚えのある相手だと知ると、オレたちは同時にため息をついた。「はぁー、なんだ。ウィルかよ」「ふぅ・・・、そういう君は、シャトル君か」「なんでため息をつくんだよ。オレじゃ悪いか?」「君だって、ついたじゃないか」「ふん・・・」 相変わらず生意気な奴だ。 そいつの名前は、ウィルフレッド・ライアン。長ったらしい名前なので、「ウィル」とオレは呼んでいる。 西地区に住む良家の出身であり。頭脳明晰、スポーツ万能。それ以外のあらゆる面も、他者より一歩も二歩も抜きん出た才能を見せる天才で。容姿も良く、放っておかない女性も数多いという、いけ好かない奴だ。 まだ自分から女の尻を追いかける努力を見せるヒューの方が、可愛げがある・・・。 だが、何よりも気に入らない点は、こいつが街の人々から「名探偵」と親父と並び称されている点だ。 不可思議な事件や謎を探求、解決することが趣味で。それが高じて事件に首を突っ込み、その上、ほとんど無償で解決してしまうのだから。本業者であるオレたちにとっては迷惑極まりない奴だ。「ところで、君はこんなところで何をしているんだ?」 というウィルの声が、オレを我に返らせる。「いや、別に・・・」「別に?」「ああ、何でもないよ」「ふぅん・・・。そうか、てっきり博物館の盗難事件のことについて考えているものかと思ったんだけどな」「あ?」「ふふん、その様子だったら既に知っているみたいだね」「なんでそう思うんだよ?」「何、大したことではないよ。まず、君は今博物館の方からやってきただろ? 今、あそこは自警団の人たちで大賑わいなはずだ。そんな状況に好奇心旺盛な探偵の息子である君が首を突っ込まないわけがない」「なんか、軽く馬鹿にしてないか・・・?」「まさかとんでもない」 と言いつつ、ウィルの口元がわずかにほころぶのをオレは見逃さなかった。「それに今朝、自警団の人からお声がかかってね」「レイからか?」「ううん、違うよ。盗難だから、第二部隊の部隊長さんからだね。そっか、君はレイチェルさんからお声が掛かったんだね」「ああ、南の門のところで会ってね。まー、ついでみたいなもんだろう」「・・・南の門で?」 ウィルはわずかに眉を寄せる。「ん? あぁ、そうだよ」「・・・もしかして、ジェイドさんを探しているのかい?」 そう出し抜けに言われたオレは目を丸くするしかなかった。「な――!?」 だが驚くオレに構わず、ウィルは真剣な面持ちを崩さなかった。「おい! お前なんか親父の行方知ってるのか!?」 思わずウィルの上着の衿を掴むオレ。 興奮気味なオレに対し、ウィルは冷静にオレの手を下ろさせる。「まぁ、落ち着いて。行方、だって? ジェイドさんがどうしたのか、まず教えてくれないかい?」「あ、あぁ・・・」 オレは多少もどかしい気持ちを抑えながら、かいつまんで親父が行方をくらませた話をウィルにした。「書置きが・・・?」「あぁ、今朝ファラが見つけたんだ」「・・・そうか。するとやはり」「もったいぶるなよ」「あ、すまない。いや、実は昨夜、この辺りでジェイドさんを見かけてね」「マジかよ!?」「マジだ。ただ、普段とは違う怖い顔をしていて。とても声を掛けれるような様子じゃなくてね。気にはなったんだけど・・・」「で、どっちに行ったんだ?」 ウィルは答える代わりに、まずオレの後ろの方を指差した。 つられて振り返るオレ。 だが、後ろにあるものでとくに気になるものはないように思った。 しかし――、 ――この先にあるものといえば・・・。「博物館か?」 と、ウィルの方を向くと。ウィルは頷いた。「うん。そうだよ」「マジかよ・・・。でも、なんで」「それはわからないよ。実際は博物館ではないところへ向かったのかもしれないし」「そ、そうか・・・。でも、サンキュな。今までで一番有力な証言だったよ」「そう? まー、お役に立てたなら良いけど」「しかし、お前・・・。よくオレが親父を探していることに気づいたな」「ん? あー、それはね。こんな時間に君が南の門に向かったと聞いたからね」「は? そんなことで?」「そうだよ。君がこの時間に南の門に向かったこと。それから博物館の方から来てどこに向かおうとしているのか。さらに昨夜のジェイドさんの普通ではなかった様子などを総合して、多少想像力を豊かに推理をして見た結果だよ」「あ?」「詳しく解説しよう。この時間、シャトル君が南の門に向かった理由として直ぐに考えられるものは、そこから外に出るか。あるいは誰が出たかを確認するためじゃないかとまず思ったんだよ。ここまでは良い?」「あ、あぁ・・・」「でも、今君がここに居るってことは、出るためではなかったはずだから。それじゃあ出入りを確認したんだろうと思ったの。その証拠に、君は次に西の門に向かったでしょ?」「それは言ってないぞ」「言わなくても、博物館のほうから来たってことは西の門に立ち寄ったと想像できなくもないでしょ? そもそも今は北の門に向かう途中のはずだし」 「それも言ってないぞ」「まぁね。でも、そうだと思った。君の自宅やシルバームーン探偵事務所は、街の南東側にあるから。南、西、北、東の順に門を回るつもりだろうってね」「なるほどな・・・」 実際そう考えて行動していたのだから、そこまで言われたら認めるしかない。「ま、後はね。シャトル君が誰の出入りを確認しようとしているのか? ってことに考えをめぐらせたんだけど。これはたまたま昨夜、ジェイドさんを見ていたことが役に立ったね。ふふっ、まぁこんな感じかな・・・」 そういってウィルは、すました顔をしながら、意味もなく前髪をかき上げた。 得意げになっているときのこいつのクセだ。 ――ったく、あいかわらず嫌味な奴だ。 ――でも、親父の奴。昨夜、博物館に向かったのか・・・。 その時、オレは妙な胸騒ぎを覚えた。
2007年04月29日
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「探偵狂想曲」 #8 科学者の恐怖 博物館の前。 二人の若者を見送るオレに、背後から声を掛けてきたものがあった。「およ? シャトルさんじゃない?」「ん?」 振り返ると見覚えのある、白衣姿に、まんまるレンズの大きなメガネを掛けた女の子が立っていた。 彼女の名前は、ダイアナ・ドクトル。 街で一番と評判のドクトル医院の一人娘で、自称・科学者。科学はもちろん数学や薬学といった理系全般には強いが。幼少期を一人で研究に明け暮れたためか、常識が多少欠落しているようで、時折怪しい研究品の実験に付き合わされることがしばしばある。体力に自信がなければ、多少付き合い難い人物である。「なんだダイアナかぁ」「ダイアナかぁって、何か軽い感じだなぁ。ボクに会えて嬉しくないの?」 と、ダイアナは一人称を男の子みたく「ボク」と言う。「あ、いや、悪い悪い。そーいうわけじゃないんだけどな。今日はよく知り合いに会うなぁと思ってさ」「そうなの? ふむ、それはなかなか興味深いね」「あん?」「・・・この街の人口を約2万として、シャトルさんの知り合いの数が十数人、一日でその人たちと出会う数の年間を通しての平均は・・・」「お、おい。いきなり訳のわからない計算を始めるなよ」 オレはダイアナのおでこに軽くデコピンをした。「およ~。痛~い、ひどいじゃないか!」「うるさい、デコピンしなければ延々計算していたくせに。大体、何のための計算だよ?」「シャトルさんが『今日はよく知り合いに会う』っていったからさ。その度合いについてボクなりの分析を・・・」「いや、しなくて良いから」「そんな~、つまらないよ」「じゃあ、オレが行っても良いのか?」「え? うーん、それはもっとつまらないかも・・・」「だろ? だったら良いじゃないか」「うーん・・・。うん、そうかも」 随分と悩んだ顔をしながらダイアナはそう結論を出した。 と、頭が良いはずなんだか、結構簡単に言いくるめられる点は結構可愛い奴だ。「ま、それよりもダイアナ。今、どこから出てきた?」「ん? 博物館だよ」「やっぱりか、目的は事件か?」「事件? 盗難事件のこと?」「ああ」「いやぁ、ボクが用があったのは館長さんにだよ」「はぁ? 博物館の?」「そういっているじゃない。実はお父さんに頼まれてね薬を届けてきたんだ」「薬? 館長、どっか悪いのか?」「うん、実は昨日から食中毒にあったらしくてさ」「食中毒・・・?」「そう、夕食後から調子が悪くなったみたいなんだけど。時間がたてば治るとか思っていたみたいで一晩放っておいたんだって。でも、よくならずに今朝の事件でしょ。本来ならうちに来てもらうか、そうじゃなければお父さんが往診に来た方がよかったんだけど。この時間帯はうちも忙しいからねぇ~。それでボクがとりあえず薬を届けにおつかいにきたって訳」「なるほどな」「でもさ~」 とダイアナは、急に口を尖らせた。「うん?」「館長さんたら、ボクが作った薬はいらないって言うんだよ。お父さんの作った薬よりも、5倍も効果が出るように調合したのにさぁ~。ちょっとムカ・・・」「あはは・・・」 ――当たり前だろう。 と内心は思っても口には出さない大人なオレ。 結局、ダイアナはオレに散々不満をこぼして満足すると医院の方へと帰っていった。 それを見送ってから、オレはふと思った。 ――盗難事件の前日に館長が食中毒だって? ――なんか、できすぎているなぁ・・・。
2007年04月28日
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「探偵狂想曲」 #7 魔女っこ、暴走する ジオとペットのパピーを家まで送る途中。 オレたちは、噂の博物館の前を通りかかった。 その敷地を囲む鉄柵の周りには、大勢の自警団団員や、事件を聞きつけてやってきた人間が溢れていて、普段の落ち着いた雰囲気に比べると随分と騒々しい雰囲気だった。 これでは話を聞くわけにも行かないな、などと思っていると。「シャトルさん、知ってる?」 パピーの上からジオが声を掛けてきた。「ん? 盗難事件のことか?」「そうそう。ボクも今朝知ったんだけどね。何かすごいものが盗まれたみたいだよ」「ああ、レイからは、魔法アイテムだとは聞いたけどな」「レイチェルさんから?」「うん、でも何かまでは本人も知らないらしいぞ」「そうなんだ。う~ん、なんか気になるね」「まぁな」「だれか知っている人いないかなぁ?」「んー、知っていそうなのはいないが・・・。こういう時、何が何でも知ろうとする奴はいるかもな」 オレは、ふと知人の一人のことを思い浮かべた。「え? だれの事?」 そう、ジオが言いかけたときだった。「イヤーッ! はなしてぇ! はなしてったら! 服が伸びちゃうじゃないのよぉ~!!」 耳をつんざくような女の子の悲鳴。 あれだけ大勢いる自警団の人間のほとんどが足を止め、オレたち同様に声がしたほうを一斉に向いた。 見れば、博物館の入り口から、がっしりした体格の自警団団員に、後ろエリをつかまれてネコのように運ばれながら、手足をばたばたと動かしている少女の姿が見えた。「・・・噂をすれば、だね」 ジオが言い、オレは頷く。 まったく、噂をすればとはこのことである。 淡いピンク色の長い髪を、大きなリボンでポニーテイルに結わえているヘアスタイルに、動きにくそうなフリルがたっぷりとついた可愛らしい高級そうな服を着た、その姿には非常に見覚えがある。 ジオと同じウェルト地区に住む、大金持ちのお嬢様で名前は、プリシラ・ローズマリー。「プリシラちゃんだ・・・」「大方、盗まれたのが魔法アイテムと聞いて、いても他ってもいられずに忍び込んだところを掴まったんだろう」 オレが冷静な推理を披露してやると、ジオは苦笑した。「あー、やっぱりそうなのかな? 魔法のこととなると、プリシラちゃん無茶するからなぁ~」「あぁ・・・」 うなずくオレ。 プリシラは、早い話が魔法マニアである。 彼女の部屋に一度遊びに行ったことがあるが、そのコレクションである魔導書や魔法アイテムの数には驚かされた。何より家が大金持ちであるから、その資金力に物を言わせて目新しいものがあれば直ぐに買っているようだ。 ジオと言い、プリシラと言い。金持ちの金の使い方は貧乏人のオレにはよくわからない。まぁ、それでもジオの方がずっとマシではあるが・・・。「もー! あったま、来ちゃうわ~!」 声に振り向くと、プリシラがこっちに向かってやってきた。怒りのあまり、まだオレたちのことに気づく様子はない。 正直、プリシラの相手をするのは面倒なので、やり過ごそうかと悩んだが。 もたもたしているうちに、直にむこうがこちらに気づいた。「あー! シャトルじゃない!」 オレの姿を確認するなり、トタタタッ! と駆け寄ってくる。「おはようプリシラちゃん」「おはよぉ、ジオ! それに犬!」「・・・プリシラちゃん、犬じゃなくてパピーだよ」 ジオがムッとした顔でいう。 こいつがこういう顔をするのは実は結構珍しい。大切なパピーをバカにされたような気がしたからかもしれないが、どうもプリシラとジオはあんまり相性がよくないみたいだ。 二人はプリシラが一つ年上なだけで、ほぼ同い年といえるのだが。同い年だからといって仲がいいとは限らないというのは、少し面白い。「犬は、犬でしょ? ちょっと大きいけど」「だからパピーだって・・・」「ガウガウ!」 飼い主の思いを受けてか、パピーも吠え出した。「な、なによぉ!? プリシラとやる気、犬!?」 一瞬、怯えた表情を見せるも、プリシラは毅然とした態度でパピーと向き合う。 博物館に忍び込む行動力といい、結構、度胸はあるなぁと傍で見ていて少し感心するオレ。「ガルル・・・!」「ダ、ダメだよ。パピー!」 うなるパピーを宥めるジオ。「プリシラ、今、すごく機嫌悪いんだから! そっちから来ないなら、こっちから行くわよぉー!」 と、本当に気が立っているらしくプリシラはいきなり呪文を唱え始めた。 ――て、おいおい。街中で攻撃呪文使う気かよ!「プリシラ、さすがにそれは――!」 止めに入ろうとするオレだったが、それよりも早く。「パピー、家までダッシュ!」「ワォン!」 機転を利かせたジオの掛け声とともに、パピーが駆け出した。「な!? ちょっとぉ、待ちなさいよぉ~!」 と、慌ててそれを追うプリシラ。 無論、いかにも運動が苦手そうで、動き難い衣装のプリシラが走って追いつくことなどできるわけがない。 直に彼女は、疲れ果てた様子でその場に座り込んでしまった。 が、直に再び立ち上がると走り出した。 ――元気だなぁ・・・。 取り残されたオレは、なんとなく微笑ましい心境で若い二人と一匹を見送った。
2007年04月22日
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「探偵狂想曲」 #6 坊ちゃん、散歩中 多少、後ろ髪を引かれる思いがあったものの、ソーニャと分かれたオレは真っ直ぐに西の門へと辿り着いた。 西や東の門は、南北の門とは違い。森に面していることもあって、あまり人の出入りはなく、大きさもずっと小さい。それがあまりにみすぼらしいということで、見栄を張った高級住宅地の住人がその門を銀製のものに作り変えたことから別名「銀の門」と呼ばれている。それに対して、東の門は「鉄の門」と呼ばれるようになったのだが。 「銀の門」が作られてから十数年――、眩いほどの白銀色に輝いていた門は、今ではすっかり錆びて、くすんでしまっている・・・。 オレは早速、門番と話をして、親父が西の門をくぐっていないことを確認した。 門番いわく「絶対にそれはない!」とのことだった。 だが、こうもあっさりと断言されると反って、突っ込んだ質問をしてみたくなるのが人のさがというものだ。「本当だろうね?」「嘘をついてどうする。あんたんとこの親父さんは見てないよ」「『あんたんとこの親父さんは』ってことは、他の奴は出たのか?」「ん? あー、あぁ、それはな・・・」 門番は返答につまる。「どんな奴が出たんだよ? そいつ、もしかして盗賊かもしれないぞ?」「い、いや、そうじゃない。ほら、あんたも付き合いがあるだろう。グリュン家の坊ちゃん」「ジオのことか?」 門番は「あぁ、そうだ」と頷いた。 ジオ・グリュンは、街の数あるお金持ちの家の中でも随一を誇る名家のお坊ちゃんである。 年は、今年で14歳になったのだろうか・・・。 年齢よりも幼く見える顔に、愛くるしい笑顔で、無意識に美少年マニアの心をくすぐる素養を備えている。 また、自他共に認める動物好きで、大きいのから小さいのまで実に様々な動物をペットとして飼っている。 オレたちが知り合った切っ掛けも、逃げ出したペット探しだった。「・・・その坊ちゃんが、森のほうへ散歩に出かけたよ」 と門番が言った。「子供が、一人で? 大丈夫なのか?」「いいや、一人じゃないさ。熊みたいに大きな犬にまたがっていったよ」「熊みたいに大きな犬? あぁ、パピーのことか」「パピーっていうのか? 似合わない名前だな・・・」「ま、まぁな・・・」 とオレは乾いた笑みを浮かべた。 熊みたいに大きな犬ことパピーは、黄金色に輝く毛並みの綺麗なオオカミのような姿をしているが、動物というよりは実は、ヘルウルフと呼ばれる魔獣の一種なのである・・・。しかし、その事実は世間一般には極力伏せられている。 魔獣ということがばれてしまうと、パピーがどんな目に合わされることか。 子犬のころからジオに育てられたお陰で、人間に慣れているパピーは人を襲うようなことはない。 だからこういう場合は、下手に騒いだりしない方が賢明だといえる。「あ、シャトルさん! おはようございま~す!」 顔を上げると、森の中からパピーにまたがったジオがやってきた。 今日も頭をすっぽり隠すような大きな帽子をかぶっている。これも美少年マニア魂をくすぐる重要なアイテムの一つらしい。「おぅ。ジオ、お帰り」「うん、ただいま!」 と例の愛くるしい笑顔を見せるジオ。 うっかりすると、オレまでやられそうになる――恐ろしい奴だ。「パピーもお早う」「ガゥ、ガゥ!」 パピーは大きなふさふさの尻尾を振りながら、オレに応えるように吠えた。 ――まぁ、こんな様子なら「大きな犬」だよなぁ・・・。 それからオレは、ジオを家まで送ることにした。
2007年04月16日
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「探偵狂想曲」 #5 高飛車、文学少女 南の門の番人に話を聞いてみたものの、良い話は聞けなかった。 中年だが体格のガッチリしたそいつが言うには、閉門してから開門をした朝までに、親父はもちろん誰一人として門を通ったものはいないということだった。「――それに博物館で盗難事件があったとしたら、今後ますます門の警備は厳重になるだろうな」 と、門番はもっともなことをいう。「だろうな。ま、もし親父が街を出るようなことを見かけたら、絶対に止めてくれよ?」「おう! わしに任せておけ!」 門番は自分の厚い胸板をドンと叩いた。 若い頃はその強さのあまり「鬼神」とまで、あだ名されたケンカの達人である親父を止めるのは、なかなか至難の業だとは思うが。まぁ、ともかく頼もしい限りだ・・・。 * それからオレは、他の門をチェックするため街を西周りに回ることにした。 ウェルト地区と呼ばれる街の西側は、いわゆる高級住宅地という感じのエリアで、そこの住人にはあまりいい印象がないのだが・・・。 ま、それはともかくとしてウェルト地区には、学園、図書館、劇場、病院といったいくつかの施設があり。そして、件の博物館もこの地区にある。 だから父を探すついでに盗難事件についての情報集めもしようと思ったのだ。 レイの言うとおりになるのは少し嫌だが。興味を持った事件を放置するのはもっと嫌なのだ。 西の門に向かいつつ、誰か知り合いに会わないかと思っていると、前方を歩いている女の子が目に留まる。後姿なのではっきりとは分からないが、数冊の大きな本を両手で抱えているようだ。おそらくこの先にある図書館へと向かう途中なのだろう。 顔は見えないが、その短く切り揃えた水色の髪には見覚えがある。 ソーニャ・クリスフィールドという、多少性格に難点のある読書好きの女の子だ。 オレはソーニャとの距離を詰めてから、声を掛けた。「おい、ソーニャ」「え? だ、誰!?」 振り返ったソーニャは、危うく本を落としそうになった。「お、とっと・・・!」 崩れかかる本の山に手を掛けて支えてやったが、ソーニャの第一声は感謝の言葉ではなく、苦情だった。「ちょっと、シャトルさん! 急に声を掛けてこないで下さい! 危うく大切な本を落とすところでしたよ!」 その言葉に、オレは多少カチンときた。「だから助けてやったじゃないか!」「・・・それは感謝しますけどね。でも、あなたが私を脅かさなければ、そんな面倒も掛からなかったはずですよ?」「ただ名前を呼んだだけだろ!」「でも、私はビックリしたんです!」「あっそ、それは悪かったですね。どーもすみませんでした!」「謝るなら、ちゃんと心をこめて謝ってください!」「な・・・!」 オレは思わず絶句する。 と、こんな具合にソーニャとはいつもこんな感じについ感情的に言い争いを始めてしまう。原因は、粗雑なオレの言動にもあるのだろうが。ソーニャの性格や態度にも問題があると思う。 なぜか知らないが、ソーニャのオレに対する言動には棘があるのだ。それにいちいち反応して、言い争いに発展してしまうのが、いつものパターンだ。 ――女の子でなければ、殴り飛ばしてお終いだが・・・。 グッと握った拳を握り締めてオレは、荒ぶる気持ちを抑えた。 ――それに親父や盗難事件のことを聞かないと、な。 そう思い直し、オレはぎこちない動作でソーニャに頭を下げた。「・・・いきなり声を掛けて悪かった」「え・・・?」 オレが素直に謝ったことが意外だったのか、ソーニャは一瞬目を丸くする。「・・・えぇ、分かっていただけたのなら結構です。それで私にないか御用ですか?」「ああ、実は今朝から親父が置手紙を残して行方をくらませてさ。ソーニャが、どこかで見かけなかったかなぁと思ってね。見なかった?」「シャトルさんのお父様というと、ジェイドさん? そうですね。一週間前くらいに図書館でお会いしましたけど。今朝のこととなると、私にはわかりませんね」「そっか、じゃあもう一個、博物館で盗難事件があったのは知っている?」「いえ、初耳です」「そっか、足止めして悪かった。お詫びに本運ぶの手伝ってやろうか?」「え! あ、いえ・・・それは結構ですよ。お父さんを探すのに忙しいでしょうし・・・」「でも、図書館なら直ぐそこだし・・・」「そ、それでも大丈夫ですから!」 ソーニャは必死に首を振ってオレの申し出を拒んだ。 もしかして嫌われているのだろうか? でも、嫌いなら嫌いとソーニャならハッキリ言ってきそうだけど・・・。 ま、そこまで拒まれた以上、無理やり本を運ぼうとしてもまた怒られるだろうから。オレはここで彼女と別れることにした。「・・・そっか? まぁ、気をつけていけよ」「わ、わかっています!」「それじゃーな!」 立ち去ろうとするオレ――と、ソーニャはそんなオレを呼び止めた。「シャトルさん」「ん?」「あ、その・・・。お父さんが早く見つかるといいですね?」「おぅ!」 ソーニャに手を振って、オレはその場を後にした。 それにしても、ソーニャは、理不尽なことに怒ったり、嫌われているのかと思えば応援してきたりと、複雑な性格の奴である。 ――ま、根は良い奴なんだろうけど、なんだかなぁ・・・。
2007年04月15日
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「探偵狂想曲」 #4 女団員、捜査中 ヒューと分かれた(向こうが一方的にどっかに行っただけな気もしないでもないが・・・)オレは、南の門へと辿り着いた。 南の門は、日中、大きな街道へと開かれている北の門と合わせて主要な門とされている。 一般に、北の門が「裏門」と呼ばれているのに対して、こちらは「表門」なんて呼ばれるが。南の門が「太陽の門」、北の門は「風の門」というのが正式な名称である。 ま、面倒なのでオレは、南の門、北の門で通しているけど。 さて、南の門もそうだがそれぞれの門のそばには、門番たちの詰め所がある。 隊商などの街に出入りする人間をチェックするための事務所や、門番が寝泊りする部屋がそこにある。 門番には、街の治安を維持する民間機関「自警団」の団員が交代制でその任に就くらしいが。どういうローテーションなのかは、団員ではないオレには分からない。 自警団に所属するものの多くは、力自慢の荒くれ者が多く。ある種、傭兵部隊という印象を受ける。そんなわけであまり品が良い集団ともいえないため、街の上流階級の人間(自分が上品だと思っている連中)には少々毛嫌いをする者もいるようだが。 オレのような下流階級の人間にとっては、時折、街を襲撃してくる魔物や災害時に頼りになる集団だ。 まぁ、中には好かない奴もいるにはいるんだけど・・・。「――ん? 坊やか、どうした?」「げ・・・」 丁度、詰め所の入り口から出てきた鎧を着た女と目が合い、オレは少々気まずくなった。 結い上げた燃えるような赤い髪と、赤い皮製の鎧がトレードマークの、その女の名前はレイチェル・カーマイン。愛称は、レイ。 女でありながら(そういうとすごく怒るんだけど・・・)史上初の女性自警団団員になった凄腕の女剣士だ。腕だけでなく、頭も結構良く入団から数年掛けて着々と実績を重ね、今では自分の小隊を預かるほどの地位を持っている。 いわゆるキャリアウーマンって奴だが、オレがもっとも苦手とするタイプの女である。 女は黙って男に従うべき――なんていう時代遅れなことまでは言わないが、これほどの「強い女」を前にすると男として立つ瀬がない・・・。まぁ、そういうことだ。「レイ、いい加減『坊や』は止めてくれよ・・・」 オレはムッとしながらレイを睨んだ。「坊やだから仕方ないだろ?」「むぅ・・・」 いくら年上だからといって、あからさまに子ども扱いするところも気にいらない理由の一つだ。 ともかく話題を変えることにした。「そ、それよりもさ。小隊の隊長さんともあろう方が詰め所にこんな時間からなんの用だよ?」「・・・うーん、捜査中のことだからおおっぴらにはいえないんだけどね。ま、坊やには特別に教えよう」「・・・うん」「実は昨夜のことだけど、博物館に盗賊が押し入ったんだよ」「盗賊?」「そう、今、自警団で手の空いているものは全員その捜査に借り出されているんだ」「何が盗まれたのさ?」「だいぶ情報が交錯しているので、私も詳しい話は聞かされていないけど。とにかく博物館で厳重に保管されていた代物で、絵画や宝飾品ではなく、魔法アイテムらしいけど・・・」「魔法アイテム・・・」「うん、この街や周囲の遺跡には魔法王国時代からの歴史の古いアイテムが残っているらしく、その一つではないかと思うんだけど・・・」「なるほど、悪いね。まる秘情報を教えてもらって」「なーに、坊やに言っておけば好奇心を起こして、自主的に捜査に協力してくれると思ってね」「・・・う」「じゃあ、何か分かったら自警団まで。ご協力よろしく!」 それだけをいうと、レイは別の場所へといってしまった。 まったく、オレの知り合いにはつくづく自分勝手な奴が多い・・・。
2007年04月08日
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「探偵狂想曲」 #3 伊達男、愛を語る ハミングバードを重い足取りで後にしたオレは、いよいよ父親の失踪を深刻なものとして受け止め始めた。 ――さて、これからどうしたものか・・・。 しばし考え込んで、そうだ街外れの門のところへいってみようと思いついた。 この街は、周囲を高い塀で囲まれているために街へ出入りするには、東西南北の四箇所に設けられた門のいずれかをくぐらなければならない。 各門には、四六時中、門番が張り付いていて人の出入りを常にチェックしている。特に日中であればそいれほどでもないが、夜遅い時間から明け方までは各門は閉鎖されるためそのチェックはいっそう厳しいものとなる。 というわけで、親父が街を出たとなれば、門をくぐらないわけにはいかず。通ったとすればその姿を門番が確認しているはずだ。 「・・・よし、門へ向かおう」 オレはひとまず今いる場所から一番近い南の門を目指すことにした――。 * ポロロ~ン♪ 南の門へと向かおうとするオレの耳に、聴き覚えのある音色が届いた。 風に乗る美しいリュートの音色。 そして・・・、 あぁ、何と美しい瞳~♪ 空のように、澄んだブル~♪ 愛らしい唇~♪ バラの蕾のような淡いピンク~♪ 眩い笑顔~♪ 太陽のように輝く~♪ ・・・なんとも鳥肌が立ちそうな寒気がする歌声も一緒に聞こえてきた。 見たくはなかった。 見たくはなかったが、自然と首がそちらの方を向いた。 歌声は気色が悪いが、そのリュートの音色は確かに人を惹き付けるものがあるためだ。 見ると、お天道様がようやく空の真上に昇ろうかという時分だというのに。 リュートの音色を中心に人だかりが出来ていた。 その多くは、若い女の子でリュートの音色に目を閉じて、うっとりと聞きほれているようだった。 オレは、その人だかりに近づいて、ひょいっとその中を覗き込んだ。 ――あぁ、やっぱりこいつか・・・。 まぁ、歌声を聴いた時点で分かっていたことだったが。 リュートを奏で、愛の詩を唄うその男の名は、ヒュー。 女癖が極めて悪い、オレの悪友の一人だ。 天才的な音楽的センスの持ち主で、リュートを弾かせればおそらく街で一、二を争うほどの実力者なのだが。そんな才能もほとんど女の子を口説くために使われているといえば、なんだか・・・、非常にもったいないような気がする。 おまけに歯が浮くような歌詞を臆面もなく唄うため、こいつの街の評価は、大体「素晴らしい演奏家」と「いけすかないナンパ師」の真っ二つに分かれる。 オレ自身の評価は・・・、ま、その時の状況しだいだ。「ん? よぉ、シャトルじゃないか!」 と、野次馬に混じっていたオレの姿にヒューが気づいた。「あ、やべ・・・」 思わず本音が口から出る。 周囲の女の子が一斉に、オレの方を見た。 その目は、オレには演奏会の邪魔ものを非難しているように見えたが。ヒューはそんなことはまったく気にしない。「なんだよ。『やべ・・・』って、オレに見られたことがかよ?」「あ、いや・・・。お前の聞き間違いじゃないか?」「そっか? まぁ、いいや・・・」 苦し紛れの言い訳だったが、首をわずかにかしげるヒューは特に気を悪くした様子は無く、周囲の女の子達に言う。「ごめん、みんな。友達が来たんで演奏はここまで、な?」「えー!」「そんなー!」「もっと聴きたい~!」 一斉に不満の声を漏らす女の子達。 そんな女の子たちを、ヒューの奴は「まぁまぁ」とやんわり宥める。「今度、劇場で演奏会がやるからさ。続きはそこで・・・」 他ならぬヒューに言われて、女の子達は渋々納得した顔をして、方々に散っていった。「もう、あなたのせいよ!」 と、何人かがオレに向けて文句を言っていったのが、ひじょーに心苦しい。 こうしてオレの街の女の子に対する評価が下がっていくのだ・・・。 ・・・シクシク。「で、今日は、ファラさんはどうしたんだ?」 心の中で泣くオレに構わず、マイペースに自分が気になることを聞いてくるヒュー。「ファラは、まだ家の中だよ」「なんだ、それは残念だな・・・彼女のために作った歌を聴いて欲しかったんだけど・・・」「ファラのために?」「・・・あぁ? 変か?」「少しな。なんだヒュー、お前、ファラのことが好きなのか?」 冷かすつもりでそういったのだが、ヒューはまったく動じる様子もなく、むしろ堂々とした態度で頷く。「もちろん大好きさ! 彼女だけじゃなく、この街のいや世界中の女の子のことをオレは愛している! しかしやはりその中でも、お前の父親に尽くす献身的な彼女の姿は、とくに美しいとオレは思っている!」「だぁー! やめろ! 恥ずかしい!」 恥ずかしさのあまり思わずそう叫んでオレはヒューの頬を殴り、飛ばした。 もちろん本気ではなく、加減して。 それでも背は高くても、体力ではオレに劣るヒューは派手にひっくり返った。「ぐはっ! な、何をするんだ! いくらお前でも、オレの顔を殴ることは許さんぞ!」 抗議するヒューをオレは一喝する。「やかましい! それよりヒュー、親父を見なかったか?」 「親父・・・、ジェイドさんか?」「あぁ、他にオレの親父がいるのか?」「・・・お前、それは人にものを尋ねる態度じゃないぞ」「うるさい!」「ったく、ジェイドさんなら・・・夜中、博物館の前を歩いているのを見たような・・・」「!? それは本当か!? いつ!?」 思わずヒューの服に掴みかかるオレ。「い、いつって、三日か四日前だけど・・・」「・・・はぁ? なんだ。ぬか喜びさせやがって」「どうしたんだ?」 そう尋ねられて、面倒ではあったがオレは親父が置手紙を残し失踪したことを説明してやった。「そりゃ、心配だな・・・」 話を聞き終えて、ヒューは深刻そうな顔をした。「あぁ、そうなんだよ」「ファラさん、落ち込んでいるだろうなぁ・・・」「って、ファラがかよ!?」「他に誰がいる! あー、居ても立っても居られない! 今からファラさんを慰めるために一曲歌ってくるぜ!」「あ、あぁ・・・」 物凄い勢いで走っていくヒューを見送って、数分、オレは門へ向かう途中だったと思い出し先を急いだ。
2007年04月01日
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