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「探偵狂想曲・秘密の署名」 #9 図書館で… 謎の多い流行作家のサイン本を手に入れるという――最初の依頼を達成したオレは、四苦八苦しながらも完成した報告書を出しにローズマリー家を訪れ。そして、当分は食うに困らないだけの報酬を受け取ることができた。 ま、期待していた通りの結果だ。 それから、ブルック書店で売り出されたサイン本は、漏れなく回収され新品の本と交換された。サイン本がニセモノとわかって購入者達の間で一時は混乱したものの、エドワード出版社からのお詫びの品が効果を発揮して、数日後には収束。元の落ち着きを取り戻した。 もちろん、ブルック書店が強欲編集長に支払ったという多額のお金も全額返金され。 ほぼ一件落着。 ただ一つの謎だけを残して――。 * 数日後、オレは一冊の本を持って町の図書館を訪れた。 滅多に来ない場所で、よくは知らなかったが。とにかくその蔵書の数に圧倒された。 オレは、目的の人物が居るか司書の女性に尋ね、教えてもらった場所へ向かった。 ――しかし、名前を聞いただけで分るとは、どんだけここの有名人なんだあいつは・・・。 ホコリっぽい空気にくしゃみをしそうになるのを我慢しながら、オレはやっとの思いでそいつを見つけた。「ソーニャ」 名前を呼ばれて、棚の最上段にある本をとろうと爪先立ちをしていたソーニャは驚いたように肩をビクッと震わせ。慌ててオレのほうを見た。「シャ、シャトルさん? どうしてここに?」 オレは直ぐには答えず、まずソーニャが取ろうとしていた本を代わりにとってやった。「ほらよ」「あ、ありがとうございます・・・」「ちょっと話せるか?」「え、ええ・・・」 ソーニャは警戒するような目でオレを見ながら頷いた。 ソーニャに案内されて、オレはそのフロアの隅に置かれていた読書スペースにやってきた。「・・・それで話ってなんでしょうか?」「ああ、これをお前に渡そうと思ってな。ほら、受け取ってくれ」 オレは持っていた本をソーニャに手渡した。 それはサトルの冒険の最新刊だった。「・・・ど、どうして? これを私に?」 驚いた顔をするソーニャ。「お前、持ってないだろう?」「え? ええ・・・まあ」「だからだよ。オレ、二冊持ってるんだ。ポルカで社長さんから貰ったのとこの前送られてきた奴とで二冊」「あ、ああ。なるほどそれでですか」 ようやく納得した顔をするソーニャ。「うん、だから貰ってくれよ」「わかりました」 そういってソーニャは何気なく表紙をめくって見せた。 そして、「え――」 と絶句してオレの顔を見上げる。 オレは意地悪い笑みを浮かべ、彼女を見返した。 それに腹を立てたのか、直ぐにソーニャは普段の怒ったような顔をして表紙を開いたページをオレのほうに向けた。 そこにはメモが挟んであった。『こちらこそありがとう、先生。シャトル・ロックフォード』 「これ、どういう意味ですか?」 怒ったようにいうソーニャに、オレはメモを一瞥して、「見ての通りだよ」 と答えた。「・・・ほんとに良い性格していますねぇ」 と、呆れたようにため息をつくソーニャ。「世話になった感謝の気持ちを表しただけなんだけどな」「・・・悪趣味です」「そっか? ウケると思ったんだけどな」 オレはわざとらしくさも残念そうに肩をすくめた。「・・・ソフィール先生は、こういう悪ふざけは嫌いだと思います・・・」「そっか。それなら二度とこういうことはしないと誓うよ」 オレは真面目な顔をして頷いた。「お願いしますね。それから・・・」「ああ大丈夫、今後もソフィール・ニクスリャードは、何の気兼ねもなくサトルの冒険の執筆活動に勤しむことができると思うぜ」「・・・信じますよ?」 オレはもう一度頷いた。「大丈夫、オレもこの続きを楽しみにしているしな。中途半端に絶筆なんかされたら嫌だからな。野暮なことはしないさ」 そういわれて、ソーニャはようやく少し嬉しそうな、納得した顔をした。「それなら安心しました」「ああ、安心してくれ。オレもちょっとした疑問が解決してホッとしたよ」「それでこんなことを・・・」 ソーニャは心底呆れた口調でそういいながら、それでも口元では笑みを浮かべた。 今回の依頼で、普段憎まれ口しか利かない奴の意外な一面が見れて、少しだけ、得したような気がしたが・・・。 まあ、それもいうのも野暮という奴だろう。 「秘密の署名」the end
2007年10月28日
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「探偵狂想曲・秘密の署名」 #8 救いの書 シルバームーン探偵事務所 ロンドシティに帰った翌日。オレは、プリシラん家に出すための報告書を書くことにした。 普段、報告書を書くのはファラの仕事なのだが・・・。帰って早々疲れているところに、プリシラと顔を合わせ文句を言われることは相当酷なことだと思い。こうして時間稼ぎをすることにしたというわけだ。 ちなみに一日ほど留守にした間。別件が舞い込んでいる――なんて淡い期待もしていたのだが、そんな夢みたいな話はなかった。「シャトルさん」 ファラに名前を呼ばれ、机から顔を上げと――腰のところに手を当てて胸をそらした格好でプリシラが立っていた・・・。「・・・って、うぉ!? 何しに来たんだお前!?」「何しに来た、じゃないわよぉ! 一日も事務所を留守にしてポルカシティに行っていたんですってぇ!?」 いつものような強気な口調――というか、これはもはや喧嘩腰といったほうが良いかも知れないが――で、プリシラが早速文句を言ってきた。「あ、ああ・・・」「どーして! プリシラを誘わないのよぉ!」「いや、だってお前学校もあるじゃないか・・・」「学校なんて、ソフィール先生に会うためだったら何日だって休んでやるわよぉ! ソーニャだって休んだんでしょ?」「ああ、そういえば・・・」 プリシラに言われて思い出したが、ソーニャも学生だった。この町にはロンド学園という学校が一つしかなく。だいたい17歳以下の未成年と見なされる奴らは学校に通うことになっているのだ。確かソーニャは17歳だったはずだ。「でも、あいつに関しては自分で行くと言い出したことだからな・・・」「ソーニャが自分で?」「そうだよ・・・」「ふぅん。珍しいわね・・・」「まぁな、そもそもポルカシティ行きを提案したのはあいつだったし、成り行きって奴だろう」「なるほどね・・・」 口ではそう言いながらも、プリシラはまだどこか納得していないことがよくわかる顔をしていた。「ところで依頼の件は良い結果を出せたんでしょうねぇ?」 ギクッ! プリシラの後ろに立っていたファラが、こっそり音を立てないように事務所を出て行った・・・。 ――逃げたか・・・。ここでそういう行動に出るとは思わなかったぞ。 だが、オレも覚悟を決めるときが来たようだ。「その件だが。プリシラ、実はだな・・・」「うん!?」 気体に満ちた目でオレを見るプリシラ。 ぐっ! これは別の意味でも厳しい状況だが、事実は事実として伝えるのが探偵としての務めである。「残念ながら――」 全てを言い終える前に、プリシラの顔が氷のように冷たいものに変わった。 このオレですら背筋に寒いものを感じてしまうプレッシャー・・・。「まさか・・・。ダメだったとか言わないわよね・・・シャトル?」 マジでやられるかも知れない・・・。 絶体絶命のピンチ。 しかし、救いの手は差し伸べられた。 どどど・・・っ! と、事務所の外から聞こえてきた足音。一瞬、誰か分からなかったが。部屋に入ってきたのは逃げたはずのファラだった。手には小包を抱えている。「シャトルさん、これを!」 そう言ってファラに渡された小包の差出人のところを見ると、エドワード社長からだった。持った感じでわかったが、どうやら中身は本のようだった。 慌てながら、でも無闇に包装紙を破いたりすることがないように包みを解くと。中にはサトルの冒険の最新刊が二冊入っていた。それと無地の白い便箋が一通。 それを開封すると、中にはエドワード社長からの手紙があり、こう書いてあった。 『シャトル君。君が期待したものを送らせてもらう。思いもかけず早くなったが、正真正銘 のソフィール・ニクスリャードの署名入りの本だ。君らが帰った後、直ぐ氏に事情を説明し たところ。わが社とソフィールの名誉を守ってくれた礼として、今回は特別に用意をしても らうことが出来た。なお二冊送ったうち、一冊は君にも持っていて欲しいと氏からの希望が あってのことだ。以後、二度と署名入りの本は世に出すつもりはないということなので貴重 な一冊となるが。どうか無闇に売ったりはされないように私からお願いしたい。 エドワー ド・クリスフィールド』「シャトルさん、もう一枚あるようですよ?」 とファラに促されるように、オレは二枚目の手紙を見た。 二枚目は、一枚目とは違う女物の字で短くこう書かれていた。 『ありがとうございました。 ソフィール・ニクスリャード』 * 二枚目の手紙と同じ筆跡で、確かに署名が入っているサトルの冒険の本を受け取ったプリシラは嬉しそうに家に帰って行き。命の危険が去ったオレは、ホッと胸をなでおろした。「やれやれ・・・一件落着か」「本当ですね」 相槌を打って自分の席に何事もなかったように座ろうとするファラを、オレはジトッと見ていった。「ファラ、お前さっき逃げ出そうとしたろ?」「ええ? まさかそんなことありません! 私は郵便が来ていたのに気づいてですね!」「ふぅん・・・そうかい」「そうですよ!」 だが強く言い返せない様子からしてオレの指摘は図星だったみたいだ。オレは内心ほくそ笑みながら。「ま、報告書の方はオレが継続して書くから。請求書の方は頼むな?」「ええ、わかりました」 頷くファラ。 気を取り直してオレも報告書の続きを書くか、と何気なく机の上に乗っていたもう一冊のサイン本に目を落とした。 ――借りができちまったな・・・。
2007年10月21日
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「探偵狂想曲・秘密の署名」 #7 「サトルの冒険」 ニセモノのサイン本で私服を肥やそうとした編集部長のジロフと、その金をさらに持ち逃げしようとした秘書ギュスターは官憲に突き出され・・・事件は無事に解決――となれば良かったのだが・・・。 生憎そうはいかなかった。 なぜなら、そもそもオレがこうして隣町までやってきた目的は、人気作家のサイン本を手に入れてくるという目的を果たすためだったからなわけで・・・。 * 犯罪者の引渡しが済み、社長室に通されたオレたち。中には、エドワード社長とソーニャが待っていた。「お疲れさまでした。シャトルさん」 応接セットのソファに腰を下ろしていたソーニャが立ち上がる。「おう、お前も体大丈夫か?」「ええ、お陰さまで」「シャトルさん、どうやら姪だけでなく会社としても世話になったようで。私からもお礼を言わせて貰うよ」 エドワード社長も立派な椅子から立ち上がって深々と頭を下げた。「いえ、オレたちとしても悪い奴は見逃せなかっただけなので・・・」「ひゃ~、シャトルにしては意外な台詞!」 後ろでアイリーンが茶化すように言い、隣ではヒューの奴が真顔で頷くのが見えた。「立派です、シャトルさん!」 とファラはファラで、そっと目じりを押さえる始末。 ――あ~、もう勝手にやってくれ・・・。 オレはオレで本来の目的を果たすことにしよう。「社長さん、ところで今回のことでオレは恩を売ったと思うんだが・・・?」 社長は神妙な顔をしながら頷いた。「実はオレたちは目的があって、ポルカシティにやってきたんです」「ああ、ソーニャから話を聞いているよ。サトルの冒険のサイン本が欲しいということだったね?」「ええ、是非お願いをしたいです」「ふむ・・・」 社長はちらりとソーニャの方を見、社長と目が合ったソーニャは気まずそうに目を伏せた。「・・・残念ながら、ブルック書店への謝罪等の処置は直ぐにでも可能だが。今、君が言った要求に対しては、今すぐに返事をすることはできないな」「なぜです・・・?」「簡単に言ってしまえば、サトルの冒険の執筆者との契約でそういうことになっているということなんだ。ここで我々がごねて執筆者の機嫌を損ねてしまい、新しい本が発表できなくなれば社として損害も大きいし、ファンの方にも迷惑になるだろう?」 やはり一筋縄ではいかないか・・・。こういわれてしまっては退かざるを得ない。納得はできなかったが、最後に社長が言った。「ただ、何もしないとは言わない。私なりの努力はするつもりだ。機会を見て、話はしてみよう・・・それで構わないかな?」 という言葉に賭けることにした。 ――でも、望みは薄そうだな・・・。 * 出版社をあとにして。 当初から一泊をする予定だった宿でチャックインを済ませたオレたちは、残り少ない滞在時間、それぞれにポルカシティの夜を満喫することにした。 ヒューは、ナンパに繰り出し。 アイリーンは、買い物。 ファラは昔なじみに会いに出かけ。 ソーニャは本屋に行くと行ってしまい。 残されたオレは一人宿屋に残って、一階の食堂で食事をとりながらその片手間、出版社の帰り際に社長から渡されたサトルの冒険の最新刊を読んでみることにした。 考えてみれば、散々苦労をさせられたこの本についてオレは何も知らない。 まあ、良い機会だ。時間つぶしにも丁度良い。 初めはそんな軽い気持ちで、サンドウィッチにかぶりつきながら本を開いた。 ・・・1時間後。 オレはそれほど読書が好きな方ではないが。世間の評価に違わず、サトルの冒険は結構面白い本で、一気に読み終えることができた。 しかし、一通り読み終えて。本を閉じたオレは奇妙な感覚に囚われた。 ――なんだ、この物語は? 混乱のために上手く説明ができないが、この物語の主人公サトルにオレは親近感のようなものを覚えた。主人公を取り囲む環境や物語の内容の一部が、オレ自身がこれまで体験してきたによく似ているのだ。 とくにこの最新刊で、サトルの父親が突如理由を告げずに旅立っていくという下りは、つい先日、オレの親父が失踪したことと重なる。 冒険者見習いであるサトルの仲間について記述を読んでいると、何人かオレが知っている奴らの顔が浮かんでしまう。 美しい女を見れば恋歌を語る吟遊詩人。 キレイなもの目新しいものに目がない、派手好き遊び好きのシスター。 わがままな商人の娘。 何かと気苦労の耐えないエルフ・・・。 その一方で、覚えのない登場人物もいた。 子ども扱いしながらも困難にぶつかったサトルに的確なアドバイスをする宿屋の女主人。 普段はケンカばかりしているが、ここぞという時に助け合うサトルの親友の魔法使いの少年。 野獣に育てられた野生児。 そして、サトルに淡い恋心を抱いている控えめな性格の文学少女・・・。 社長がオレの指弾を見て言っていたコイン・ブレッドとかいう技に関する記述もあった。 ――これは偶然か・・・? ――いや、とてもそうは思えない・・・。 そんなことを思いながら表紙の作者の名前を眺めているうち、ようやくオレは今回の件の真相が、おぼろげに見えてきたような気がした・・・。 * 翌日。 オレたちは自分達の町、ロンドシティに帰るための辻馬車を待つため、馬車の停車場に立っていた――約一名を除いて。「良いんですかシャトルさん、このまま帰ってしまっても?」 不安そうな顔をするファラ。「しょうがないだろう? どのみちオレたちにできることは全部やった。あとはエドワード社長の働きに期待して待つさ」「それはそうですが・・・」 それっきり何も言わなくなったファラだが、その顔は渋々納得したという顔だった。「依頼のこともそうだけど、せっかくポルカまで来たんだからもっと観光とかしたかったなぁ・・・」 とアイリーンはアイリーンで、不満に満ちた顔をして口を尖らせていた。「おい、それよりソーニャはどうしたんだ?」 と、ヒュー。「ああ、帰る前に伯父様に挨拶をしていくって朝早くから出て行ったきりだ。馬車の時間は伝えてあるし。乗り遅れても、一本くらいなら待つけどな・・・」「そっか。それなら良いが・・・」「ところでヒュー・・・」 オレは笑いを堪えるような顔をしていった。「ん?」「お前、その真っ赤なほっぺたどうしたんだ?」「あー、昨日ナンパした女の子にひっぱだかれたらしいよ~」 ニヤニヤしながらヒューの代わりにアイリーンがいうと、ヒューは気まずそうな顔をして赤くなった頬を撫でながら。「・・・ポルカの女の子にはオレのよさは分らなかったらしい」 そう言ったが。オレには精一杯の強がりとしか思えなかった。「遅れてしまってすみません!」 間もなく待っていた馬車が到着しようという時、息を切らせてやってきたソーニャが合流し。オレたちは予定していた時間通りにロンドシティへと出発することが出来た。 帰りの辻馬車にゆられながら、オレはプリシラになんて報告をするかばかり考えていた・・・。どうしょうもないことだが、あいつを説得するのはかなり根気がいる。 そう思うと憂鬱だ。 しかし、そんなことを考えながらも、オレはいつのまにか居眠りをしてしまったらしい――。
2007年10月14日
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