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「探偵狂想曲・秘密の署名」 #4 謎の作家 エドワード出版社――。 ポルカシティ最大の出版社とソーニャがいう社屋は、とても大きく。確かにそういうのも頷けるものだった。 だがその威風堂々とした社屋の佇まいに臆することなく。慣れた足取りで先を行くソーニャ。彼女に続いて、オレたちもその建物に入った・・・。「お早うございます」 とエントランスの受付嬢が、完璧に作り上げた満面の笑顔でオレたちを出迎えた。「どのようなご用件でしょうか?」「えーと、こちらで出版されている本の作者の方にお会いしたいんですが・・・?」 ダメもとでそう尋ねてみると。「どなたでしょうか?」 意外とあっさりな答えにかえって戸惑いながらオレは、例の作家の名前を告げることにした。「えーと、ソ――」「それよりも社長のエドワード氏にお目通りお願いいたします」 言いかけるオレを遮るように、ソーニャが早口で受付嬢にまくし立てた。「社長ですか? 申し訳ありません、社長はただい長期出張中につき不在でして」「長期出張?」「はい。3週間ほど様々な町をまわることになっています」「あら、いつからですか?」 ファラが尋ねると、受付嬢はスケジュール帳を開いて確認してから。「えーと、丁度3週間前です」 と答えた。「それじゃ、戻ってきているんじゃないの?」 首を傾げるヒューに、受付嬢は困った顔をする。「いえ、先ほど申し上げたように3週間ほど、としか窺がっていないので。1週間くらい予定が長引くことは充分にございますし。今までにもそういうことがございました」「なかなかルーズな社長さんなのね~」 アイリーンは苦笑しながらいった。「あの、事前に会うお約束はされていましたか?」「いいえ。約束はしていませんが・・・」 ソーニャは唇を噛むようにして難しい顔をする。「なあ・・・。やっぱり直接、その先生に当たった方がいいんじゃないのか?」 とオレがソーニャにいうと、彼女は困惑した表情で首を横に振りかけた。 そして、それを聞いた受付嬢が首を傾げる。「先生というのは、どなたですか?」「えと、ソフィールとかいう人なんだけど・・・」「まあ! サトルの冒険のソフィール・ニクスリャード先生ですか!?」 驚きの声を上げる受付嬢の反応に、こっちまで少し驚いてしまった。「え? なに? 知っているの?」「知っているも何も、当社の看板作家! コホン・・・の方でございますから」 興奮した口調を咳払いでごまかして受付嬢はいう。 ――そうか、看板作家なのか・・・。「じゃ、居場所教えてくれないかな?」 そういうと、受付嬢は再び困った顔をする。「え? ・・・いえ、それはちょっと難しいご相談ですね」「どうして?」「まず、第一に作家の方のご住所などは社外秘となっておりますので、明かせるものではございません」「あ、そりゃそうか。じゃあ、オレたちが会いたがっていると伝えてもらうってことは出来るのかな?」「申し訳ありませんがそれもできません」 受付嬢は残念そうに首を横に振った。「そうなの?」「ええ、他の先生の方でしたらそれも可能なのですが。ソフィール先生の情報に関しては、社内でもごく限られた者しか知らされていないのです。ですから私にはわかりません」「限られた者というと?」「社長だけと聞いています」「あれ? 編集をしている人も知らないの?」 不思議そうな顔をするヒューに、受付嬢は頷く。「何でもソフィール先生は、あまり表に出たがらない方だそうで。連絡のやり取りすべてを社長とのみ行っているようなのです。原稿も一度社長宅に送ったものを社長が直々に編集に渡すという感じなんです」「もしかして、社長さんがペンネームで書いているんじゃないの?」 と、鋭いことを言ったのはアイリーンだった。 オレ自身も、今までの話を聞いてそう思いかけていたのだが――受付嬢はあっさりとその推理を否定した。「いいえ、それは違うと思います。実は、私もそう思って、編集担当の知人に原稿を見せてもらったんですが。その筆跡がどうも女性のもののようで。とても社長が書いたものとは思えませんでした」「あら?」「そうすると、やっぱりその作家先生は別に存在するわけだよな」「そうだな・・・」 ヒューに頷くオレ。 八方塞がりのお手上げ状態に、オレは頭が痛くなった。 ――ここはやはりソーニャが最初にそうしようとしたように社長さんの帰社を待って、直談判するしか手がなさそうだ。 そんな風に考えていると、受付嬢が言いにくそうに尋ねてきた。「あの、皆さんはソフィール先生にどのようなご用件があったのでしょう?」「え? ああ、実はオレたち、ロンドシティの人間なんだけど。そこのブルック書店って分かる?」「ロンドシティの、ブルック書店ですか?」 受付嬢は何かを思い出したように、パラパラと来客名簿を確認し・・・程なくして目的のページを見つけていった。「あ・・・、2週間前に店主のブルック様が当社にお見えになりましたね」 ――2週間前?「2週間前なの?」「はい? そう、こちらに記録されています」 と受付嬢は、名簿のブルックさんの名前が記入されたところを見せてくれた。「なあ・・・、これって妙な話じゃないか?」 名簿の日付を眺めながらオレは、ソーニャやヒューたちに言った。 でも、最初はみんな不思議そうな顔をするばかりでオレが気づいたことには、誰も気づいた様子はなかった。「何が?」 首を傾げるヒュー。「だって、2週間前だぞ。その時は社長さんいないはずだろ?」「あ・・・なるほど! その通りですね」 オレに言われてソーニャも理解をしたようだ。「社長さんは3週間前から出張だったんだもんね・・・。でも、それがどうしたの?」 察しの良いソーニャとは違い、アイリーンはまだ理解できないという顔をする。 仕方ない、そういう人間に勿体ぶった説明をするのが探偵の役目だ。「いいか、おそらくブルックさんは2週間前に例の依頼をしていったはずだ。だが、肝心のソフィール先生とコンタクトが取れる社長が不在だったらどうなる?」「あ・・・。依頼できないですね!」 と、アイリーンとは別にファラがようやく納得したという声を上げた。「そう。でも、実際にはブルック書店ではサイン本が売り出された・・・と。これはおかしな話だ」「確かに、な・・・。じゃ、もしかしてブルック書店で売り出されたのは?」「ニセモノなの~!?」 素頓狂な声を上げるアイリーンに、オレは確信を持って頷いた・・・。
2007年08月25日
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「探偵狂想曲・秘密の署名」 #3 隣町へ「まったく相変わらず無茶なことをいってくれる奴だ・・・」 妹を連れて帰って行く、今回の依頼人――いや、命令者か――のプリシラを見送ってオレはため息をついた。「でも、良かったのではありません? 依頼されたんですから」 とソーニャが慰めの言葉をかけてきた。「けどよ。どこの世界に買い物のおつかいを依頼として引き受ける探偵がいるんだよ? 迷い猫の捜索ならまだしも・・・」「ちゃんと、ここにいるではないですか」 ポン! とソーニャはオレの背中を軽く叩いた。「オレかよ?」「言い難いのですが。シャトルさんはジェイドさんよりも探偵としての力は劣るのでしょう?」 ――ほんとに言い難いことを、ズバッと言ったなぁ。「だから今は、仕事に対して選り好みなんてできる立場じゃないです!」「・・・んなことはわかっているよ」 オレはため息をついた。「大丈夫、私も協力して差し上げます」「へ?」 オレは驚いた顔をしてソーニャの顔を凝視した。「な、何ですか。その信じられないものを見たというような、間の抜けた顔は・・・?」「いや、本当に信じられないんだけど・・・」「どうしてですか?」 ――どうしてといわれてもなぁ・・・。 普段のオレに対して冷淡な態度ばかり取る相手が、急に「協力する」なんて頼まれてもいないことを申し出るなんて、驚き以外の何ものでもない。 だがそれを正直に言ったら、何をされるかわかったものではない。「あー、いやなんでもないよ。むしろ助かるよ。よろしく頼む!」「・・・!?」 オレはソーニャの手をぎゅっと握った。 やってしまってからやり過ぎたかと思ったが。ソーニャは、目を丸くして慌ててオレの手を振り払い顔を背けた。「・・・どうした?」「な、何でもありません! シャトルさんの力が強くてビックリしただけです!」 顔を真っ赤にしてソーニャは怒鳴った。「はあ・・・?」 ――そんなに怒ることか?「それで・・・これからどうするのですか?」「そうだな・・・」 と考え込むオレ、ふとあることを思いついた。「なあ、ソーニャお前はサイン本は買っていないの?」「え?」 ソーニャは虚をつかれた表情を見せた。「私ですか?」「ああ、もしお前が持っているなら。それを譲ってもらえれば万事解決なんだけど?」 冗談めかしてそういうと、ソーニャは困ったような顔をした。「・・・いえ、私はサイン本は買っていないんです」 意外な答えだった。「あれ? そうなの?」「え、ええ・・・」 ソーニャは申し訳なさそうな顔をして頷いた。 その様子を見ると、どうやら取られるのが惜しくてうそをついている訳ではなさそうだった。 ――しかし、それにしては妙な話である。 本の売れ行きまで気になるお気に入りの作品なのに、サイン本を持っていないなんて――あくまで本の中身が好きなだけであって、サインとかには興味がないということなのだろうか?「・・・こうなりゃ仕方ないな」「何かいい案を思いつきました?」「いや、ぶっちゃけてしまえば。その作家の先生に直接サインを頼むしかないんじゃないのか?」「え――!?」 オレの提案に、ソーニャは絶句するほど驚いた顔をする。「どうした? 何かまずいか?」「い、いえ・・・そういうわけではないですが。ただ、ソフィールという方は滅多に人前には出ないことで有名な作家だと聞いていますから・・・。第一、お住まいを知っている人もごく限られた人だそうですよ」「そうなの?」「ええ。ですから、サイン本の人気が高かったのかもしれませんね」「そっか・・・。じゃ、隣町の出版社に当たるしかないな」「そうですね・・・」 オレの提案に、ソーニャは今度は頷いた。 * ロンドシティから南へ辻馬車を使って半日――。 そこが「サトルの冒険」など他多数の本を発行している「ロード出版社」がある隣町、ポルカシティである・・・。 「着いた~!」 半日も狭い馬車の中で窮屈な思いをしていたオレは、外へ出るなり大きく伸びをした。 オレに続いてソーニャと、ファラ、それから遊ぶことを目当てに勝手についてきたヒューとアイリーンが馬車から降りる。「あ~、肩がこるわ~。これだから辻馬車は苦手なのよ」「まったくだな。時々、石に乗り上げるかして跳ね上がるもんだから。腰も痛くなったよ」 ――勝手についてきておいてこの二人は・・・。 思わず拳を握り締めるが、何とかそれを振るうのは堪えた。「はぁ~、それにしても私たちの町とは違って随分と大きな建物が目立つ町ですね~」 背の高い建物を見上げたり、辺りをキョロキョロするファラの様子は田舎者丸出しだ・・・。 ――まったく恥ずかしい。 しかし、確かにロンドシティに比べて、このポルカシティは大きな建物が目立つ町だ。 元々、このポルカシティがあった場所は、町々を結ぶ街道の辻になっていた場所だと聞いている。そこにまず宿場町ができ、やがて行き交う人々の文化交流する中継点として急成長をなしたのだ。 だからこの町には、音楽学校やコンサートホール、劇場など文化施設が多数存在する。 ヒューやアイリーンが好むのも無理はないという感じだ。「で、問題の出版社というのはどこにあるんだ? せっかくだからオレも付き合うぜ?」 ヒューがいうと、アイリーンも乗り気顔で手を上げる。「あ。私も行きたいな~。サトルの冒険を出している出版社なんでしょ?」「お前らなぁ、遊びに来たわけじゃないんだぞ?」「そうですよ~。プリシラさんの妹さんのためにも、是非ソフィール先生のサイン本を手に入れなくてはいけません」「はーいはい。で、行くのはいいけど、その出版社はどこにあるの?」 首を傾げるアイリーンに、少し離れたところでソーニャがオレたちを呼んだ。「皆さんこちらです。着いてきてください!」 と、急ぐように先を行くソーニャに、オレたちは慌てて続いた――。
2007年08月18日
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「探偵狂想曲・秘密の署名」 #2 依頼人、現れる「びえ~~~ぇん!!」 と、ブルック書店の前で、吹き上げる噴水のごとく涙を流していたのは、一瞬、プリシラかと見間違えるほど派手だが、身なりの良いドレスを着た10歳くらいの少女だった。 その少女の前には、おろおろとした様子の店主のブルックさんが立っていた。「行ってみるぞ!」「え? ええ?」 訳のわからないという顔をするソーニャの手を引っ張って、オレは少女とブルックさんのところにすぐさま駆けつけた。「ダメじゃないか。ブルックさん、こんな可愛らしい女の子を泣かしたりしたら!」 半分は冗談のつもりでそんな風に声を掛けると、遠巻きにしか二人の様子を見ていなかった通行人の目がブルックさんに冷たく刺さった。「じょ、冗談はよしてくれないか、シャトル君!」 ブルックさんは周囲の視線に耐えかねて、悲鳴に近い声を上げた。「わりぃわりぃ」「人が悪いですよシャトルさん」 と腹を立てたソーニャが、オレの頬を爪を立ててつねった。「痛てぇ!」 ほんとの悲鳴を上げるオレを無視して、ソーニャは少女の前にしゃがみこんでハンカチで涙でくしゃくしゃになっていた顔を拭いてやった。「良かったら、私にあなたが泣いていた理由を教えてくれませんか?」 とても普段オレに対して見せる態度とは違う、優しい態度でソーニャは少女に尋ねる。 それが功を奏したか、少女は次第に落ち着き泣き止んだ。「ひっく、ひっく。あのね、あのね・・・。本を買うようにお願いしていたお父さんがお寝坊したから、『サトルの冒険』の最新刊が買えなかったの~。ひっく」 少女は言う。「サトルの冒険?」「今日発売された小説ですよ」「あー、例の奴か」 オレが頷くと、ブルックさんが言う。「そうなんだよ。丁度、この娘の前で売れ切れてしまってさ」「あらら・・・じゃ、次に入ってくるのを待つしかないな」「やだ!」 少女は即答した。「今日、読みたいんだもん!」 ――このわがままっぷり、どこかで見たことがあるような・・・。「やだって言ってもなぁ・・・」「まだ他のお店には残っているのではないでしょうか?」 と提案するソーニャだが、少女はぶんぶんと頭を横に振った。「他のお店のじゃダメなの!」「なんでだ?」 首を傾げるオレに、ブルックさんが困り顔で説明をする。「それが今日ここで売り出した本には、すべて作者であるソフィール先生の直筆署名が入っている限定サイン本だったんだよ」「え?」 と驚いた顔をするソーニャ。 ――こいつ、知らなかったのかな?「サイン本?」「そう実は今年でこのブルック書店は30周年を迎えてね。何かそれを記念したイベントを考えていたところに・・・。丁度、サトルの冒険シリーズの10作目が発売されると聞いたものだから。隣町の出版社に頼み込んでなんとかソファール先生のサインを入れたものを300冊用意してもらったんだよ」「サンビャク・・・。そりゃ、その先生も大変だなぁ・・・」「まぁな。でも、こっちもサイン料として多少のものを払ったわけだし。嫌な顔はしなかったんじゃないのかな」「なるほどね。で、君はサイン本を狙っていたというわけか」「うん・・・。お父さんにお願いしてたの。でも昨日遅くまで仕事が忙しくて・・・ひっく、ひっく」 再び泣き出そうとする少女を、慌ててオレとソーニャは宥めた。「しかし、参ったなぁ・・・。その先生に直接お願いするのが一番なんだが・・・」「そうですね・・・」 呟くオレに、ソーニャも難しい顔をして頷く。「・・・お兄ちゃん達なんとかしてくれるの?」「うーん、何とかしてやりたいけどなぁ」 あいまいに苦笑するオレ。 だが少女は、すがれるものであれば藁でもすがりたいという顔をして、オレの服をぎゅっと掴んだ。うるうると潤んだつぶらな瞳がオレを捉えて放そうとはしなかった。 ――ぐっ、これは断りづらい・・・。 と断ることも、といって安請け合いするわけにもいかず。途方にくれていると。「あっれ~? シャトルじゃないのぉ」 と聞き覚えのある生意気そうな声がした。「え?」 声のしたほうを見ると、やはりプリシラだった。「プリシラ、どうしたんだこんなところで?」「プリシラは妹を迎えに来たのよぉ」「妹?」 内心答えが予測できたものの、反芻するように尋ねると。 プリシラはつまらなそうな顔をして、オレの服を掴んでいた少女を指差した。「その子よ」『ええ!?』 オレとソーニャは同時に驚きの声を上げた。「お前、妹いたのか?」「知りませんでした・・・」「いたの。もっともパルフェは読書が好きで滅多に家から出てこないからねぇ。会ったことなくても不思議はないわねぇ」「そっか・・・」「うん。でも、今日お父さんがうっかり頼まれていた本を買いに行くのを忘れてねぇ。それで朝、慌てて飛び出してきちゃったのよぉ。まったく心配したんだからねぇ?」 そういってプリシラは、妹のパルフェちゃんを叱るような顔をする。 ――意外だ。ちゃんとお姉さんやってるじゃないか。 喋り方は妹の方がしっかりしている気がするけど・・・。「ごめんなさ~い。お姉ちゃん・・・」「もう、いいわぁ。で、本は買えたの?」「ううん~」「買えなかったの?」「うん・・・」 しょんぼりと頷くパルフェに、プリシラは困った顔をする。「じゃあ、プリシラと他のお店に回ってみよう?」「・・・うん」「いや、待て。他の本屋の奴ではダメなんだってさ」 オレは慌てて二人を止めた。「はぁ? そうなの?」「うん・・・。ソフィール先生のサイン・・・」「サイン? あー、そういえば昨日言っていたわねぇ・・・。でもその本は・・・」 プリシラは納得した顔をし、直ぐに困った顔をする。「そ。売り切れたんだって・・・」 オレがそう伝えると、プリシラはしばらく考えてからとんでもないことを言ってきた。「そうだわぁ。シャトル! あんたまだ依頼を探していたでしょ?」「は? ああ・・・そうだけど」 嫌な予感がした。「じゃあ、可愛い妹と可哀想なあんたのために、プリシラが依頼してあげるわぁ~!」「まさか・・・サイン本を手に入れて来い、とか?」「ふふ~ん。察しがいいじゃない?」 プリシラは小悪魔的な笑みを浮かべて断言した。「これは依頼――、いや命令よぉ! サイン本を手に入れてきなさい!」
2007年08月12日
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「探偵狂想曲・秘密の署名」 #1 人気ある小説 シルバームーン探偵事務所の所長代理になってから、既に二週間が過ぎようとしていた。 懸命の広報活動もむなしく、未だに一件の依頼も来ない・・・。 もっとも親父が所長だった頃も、そう頻繁に依頼が来ることはなかったのだが・・・。 何しろ、わが町ロンド・シティは、ついこの間の博物館盗難事件が起こる以前だって、それほど多くの事件が起きたことがない平和な町なのだから・・・。 そういった意味では、この町の自警団は優秀だといえるだろう・・・盗難事件の件で、未だに親父を疑ってなければ、今までの功労を労って表彰してやったって良いくらいだ。「・・・はぁ、暇だなぁ~」 所長代理に就任したと同時に新たに購入した自分の机に頬杖をついて、オレはため息をつく。「シャトルさん、だらしがないですよ。依頼人が来たらどうするんですか?」 と、ファラがやんわりした口調で窘めてきた。「そうはいってもファラ~、依頼人なんて来る兆しもないじゃないか?」「・・・それは、そうですけど。でも、皆さんにも困った人がいたらうちにまわしてもらえるようお願いをしているのですから、いつ依頼人が来てもいいように常に心構えをしておきませんと」「そうは言っても・・・もう、二週間だぜ? 宣伝や事務所の模様替えや、親父が残した資料の整理なんかで、ま、一週間は仕事をしたようなもんだけど。あとの一週間は何もしていないで一日中、椅子に座っていたようなものじゃないか」「ええ、まぁ・・・そうですね」 オレの言い分にファラも困った顔をする。 ――困らせるつもりはなかったんだけど、な。「あー、またビラ配りにでも行くかなぁ・・・」「それは・・・ダメです」 ファラは申し訳なさそうに言った。「何で?」「実は・・・先々週作った広告でお金が残っていなくて・・・」「・・・マジかよ?」 オレは呆れた顔をした。「ええ、直ぐに依頼が来てお金が入ると思っていたのですが・・・考えが少し甘かったみたいです・・・」 とファラは落ち込んだ顔をした。心なし、エルフ独特の先の長い耳も垂れ耳ウサギみたく垂れ下がっているように見える。「はぁ・・・じゃ、あとは口コミしかないか」「・・・そうですね」 と、重い腰を上げるオレに釣られてファラも立ち上がろうとする。「ファラはここに残ってな。誰か来ないとも限らないだろ?」「え? あ、そうですか・・・?」「ま、適当に困っていそうな奴を捕まえてくるからさ。いつでもお茶が出せるように準備でもしておいてくれよ」「はい、わかりました」 少し元気を見せたファラに見送られ、オレは外へと飛び出した。 * ――しかし、しばらく町の中を歩いていても困っていそうな奴にはなかなか遭遇はしなかった・・・。 まったくいないわけじゃなく。途中、ばあさんの重たい荷物を運んでやったり、迷子を家まで送り届けたやったりなんてことはあったのだが。その程度の人助けで金をせしめようなんてせこいことは思わない。(ばあさんは、お駄賃をよこそうとしたけど、それは断った) そんな感じで、オレは町の北側にある多くの店が立ち並ぶ、ノエラ通りに差し掛かった。 そこで結構な数の人間がぞろぞろと歩いているのをオレは目撃した。 よくよく観察すると、皆一様に同じ包みを小脇に抱えているのがわかった。 ――あれは「ブルック書店」の包みか。 ブルック書店は、ロンド・シティで一番といわれている人気書店である。とにかく蔵書の数で他を圧倒し、マニアックなジャンルの本も数多く扱っているので、オレもたまーに推理小説を買うために利用することもある店だ。 ――なんか人気の本でも売り出したのか・・・? そんなことを思いながらあたりを見回すと、ふと見覚えのある後姿が目に入った。 ――あれは・・・? 近づき確認すると、それはソーニャだった。 ブルック書店の外壁に張り付き、人目を忍ぶように店から出てくる例の包みを抱えた人々を、ただじぃっと観察しているみたいだが・・・。 その後ろ側に立っているオレに、丸見えだった。 一瞬、声を掛けようか迷ったものの、好奇心が働きそっと近づいてその肩に触れた。「――ひゃう!?」 奇妙な、しかし押し殺した声を上げて、ソーニャはその場で飛び上がった。思いのほか激しく驚いたその様子に、オレまで目を丸くしたほどだった。「・・・あ、シャトルさん!? どうしてここに!?」 オレを確認したソーニャは、やはり押し殺した声でそういった。「いやぁ、この二週間依頼がなくてさ。どこかに依頼人になってくれそうな人はいないものかと思って、町を巡回中だったんだが・・・。たまたま、お前を見つけてさ」 ソーニャに釣られてオレも押し殺した声で説明する。「もう! 心臓が止まるものかと思いましたよ!」「悪い悪い。でも、お前。こんなところで何やってるんだ?」「べ、別に何でもありません!」 眉を吊り上げ、顔を真っ赤にしてソーニャは小声で叫んだ。「妖しいな・・・」「あ、妖しくなんかありません!」 明らかに動揺をしているし――オレは疑う目でソーニャを見た。 さすがにシラを切り通すのは不可能と悟ったのか。ソーニャは程なくして、ようやく説明を始めた・・・。「じ、実は・・・今日売りに出された小説があるんですが・・・」「小説?」「はい。そ、その・・・。わ、私がとても大好きな作品で。私以外にどんな人が購入しているのかが少し気になって・・・。そ、そういうことってありませんか?」「あー、あるな」 オレが頷くと、ソーニャはわが意を得たりという顔つきになった。「そうでしょう? 図書館とかでも、私の前に借りられていた本とか。先にこれを読んだ人はどんな人だろう? 私の次に借りる人はどんな人だろう? って、気になるものです。それでその・・・」「なるほどな」 オレはすっかり納得した。「納得していただけたようで、安心しました」 ソーニャはすっかり落ち着いた様子で微笑んだ。 ――そんな時だった。 ブルック書店の方から、女の子の泣き声が聞こえてきた。
2007年08月11日
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