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2013.12.29
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カテゴリ: 小説
日露戦争の反戦派のドクトル槇が医者として脚気の治療のために従軍したり、永野夫人と姦通したりする話。
三人称。日露戦争前後の時期が舞台になっていて戦場も描写されるものの、日露戦争は主題ではなく、熊野の森宮のまちの恋愛が物語の焦点になる。ドクトル槇を中心とする革新派と警察などの保守派が対立し、戦争に動員されていく緊張感の中で命がけの恋が展開して、永野夫人を巡る槇、永野、鳥子の中年の恋と、千春をめぐる勉、馬渕、上林の青年の恋、その他脇役たちの恋が入り乱れて、最後まで波乱があって面白い。ねじ巻き屋や女ヤクザの菊子などの脇役たちもキャラ立ちしていて、主人公が登場しない場面でも策謀が渦巻き、スパイが活躍して、物語が停滞しないので退屈しない。
ジャック・ロンドン、森鴎外、田山花袋といった実在の人物が登場してフィクションの人物と交流するのはこの作者の得意とする手法だし、笑える下ネタもあり、馬や犬の心理描写までする遊び心もよい。作者が自分の故郷を舞台にして書きたいものを書きたいように書いたという文章の伸びやかさがある。
いしいしんじが文庫版の解説で辻原作品に共鳴する多くの要素が登場すると書いている通りで、御燈祭りでドクトル槇と永野夫人の指先が触れ合う場面は「ボヴァリー夫人」の農事共進会でのエマとロドルフとの逢引を思い出し、日露戦争の戦場の場面ではトルストイの「戦争と平和」を思い出す。この辺は作者の好みがよく出ている。純文学で培った手法をエンタメとして存分に発揮していて、エンタメ作家の文章は下手すぎて読む気がしないので純文学作家が書いたエンタメを読みたいというニッチな読者のニーズに答えてくれる数少ない小説である。
若干不満があるとすれば「差別なき医療団」が無償で治療しに行く差別されている人々が具体的に書かれていない点。たぶん被差別部落のことなのだろうが、関西と縁がなくて被差別部落が存在しない地方出身の読者としては何のことやらよくわからない。あとは「許されざる者」というタイトルも不満で、本書の中で許されざる者として書かれているのは仲間の戦死を望遠鏡で眺めている上官と、ドクトル槇と永野夫人の姦通だけれども、ドクトル槇と永野夫人の恋のほうはハッピーエンドだったので、タイトルから姦通の恋の悲劇的な結末を予想していると肩透かしをくらう。この小説とは関係ない映画のタイトルとかぶっちゃったのも残念で、もうちょっと他のタイトルがなかったのかなと思う。

★★★★★

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最終更新日  2013.12.30 01:15:58
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