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2016.01.31
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カテゴリ: 小説
1997-2000年に文芸春秋に掲載された短編で、1993年の断筆以来初めての短編集。

「エンガッツィオ司令塔」は社長令嬢の恋人に高い指輪を買うために治験を掛け持ちしたら食欲と性欲が異常になって東京タワーから幻聴も聞こえるようになり、エンガッツィオ司令塔に命じられるままに恋人一家に強制脱糞させて食糞する話。
主人公の大学生の一人称で、まともになってから書いたという体裁でナラトロジーとしての整合性はつけている。しかしこの短編では入院もなくて問診で異常な症状を黙ってて医者にばれずに治験を掛け持ちできたということになっているものの、実際の治験では入院して食事が制限されて、血液検査で異常が出ればすぐばれるので、状況設定にリアリティはない。

「乖離」はタレントのスカウトマンが美人のをスカウトしたら、大阪出身のやくざの妻で、やたらと口が悪いおかげで大人気になる話。スカウトマンの一人称だけれど、物語の主人公はやくざの妻で、なぜ語るのかという語りの動機まではつきつめられていない。

「猫が来るものか」はおれが作家の篠崎と麻薬について対談したら、ヤク中の篠崎が月に化けたり猫に化けたりして執拗に追いかけてくる話。おれの一人称だけれど、篠崎を川に突き落としたという自分の犯罪をわざわざ語る動機がなく、ナラトロジーとしてのリアリティはない。見所としては織田作と安吾はヒロポンだの村上龍はLSDだの麻薬をやっている作家を挙げているところだけれど、小説にするよりもまじめな麻薬文学論にしたほうがよかったかもしれない。

「魔境山水」は魔境に背中に蛆を産み付けられた男がいたり、一本足の中学生たちが学校に行ったりする話。三人称。プロットのオチもなく、とりあえず変な状況を書いたという以外に見所がない。

「夢」は親や社長や息子から責められる夢を見た老人の話。おれの一人称で、一応オチはある小ぶりな短編。

「越楽天」は七福神の様子を書く話。小説というよりは掌編パロディ集。

「東天紅」は「越楽天」の続き。



「俄・納涼御攝勧進帳」は義経や幡随長兵衛や紙屋治兵衛は芝居の相手役がいないので、時代が違う人たちがごっちゃになってでたらめな勧進帳の芝居をやる話。戯曲形式。パロティなのだろうけど、私は「心中天網島」とかの演劇の元ネタを知らないので、どこが面白いのかさっぱりわからない。

「首長ティンブクの尊厳」はズンベラ人民共和国の首長ティンブクは拉致した日本人女性を自分の女にしていて、アホな元レポーターの女を処刑したり弟の幽霊を見たりする話。三人称。たぶん北朝鮮のパロディなのだろうけど、拉致や性欲がプロットとしてオチにつながるわけでもないし、北朝鮮自体がめちゃくちゃな国なので独裁者の性欲を書いてもたいしてパロディとして機能していなくて、小説としては面白くない。

「附・断筆解禁宣言」は小説ではなく、断筆から執筆にいたる経緯をインタビュー形式で書いたもの。てんかん協会から角川書店に『無人警察』に差別的な表現があるから削除しろという抗議があって、新聞は筒井に取材したくせにてんかん協会への反論を載せないという自主規制を行ったので、そのマスコミの自主規制に抗議するために断筆宣言をしたのだと断筆の意図を説明している。文壇で筒井を支持した人たちや批判した人たちを実名で挙げているけれど、曾野綾子、瀬戸内寂聴、小林よしのりとかの右翼は筒井を支持して、浅田彰、大江健三郎、島田雅彦、朝日新聞とかの左翼は筒井を批判しているという感じ。
私は楽天の言葉狩りに怒っているので、筒井の怒りもわかる。マスコミがマスゴミだというのは今ではネットのおかげで皆が知っているけれど、まだネットが浸透していなくてマスコミが力を持っていた90年代に差別作家のレッテル張りにもめげずにマスゴミや同業者と戦った筒井はえらい。

●全体の感想
全体的に手を抜いて惰性でいつもの下品なギャグを書いているような感じ。七福神シリーズが3つも入っているので、短編集としてはやや多様性が乏しいし、魔境だの七福神だの勧進帳だのと神話や古典のパロディに逃げて現実への批判が足りない。この本の見所は小説よりも「附・断筆解禁宣言」だろう。言葉を保護するには文学以外にないという筒井の姿勢はよい。しかし筒井の割にはおとなしいというか、食糞とかドラッグとかのわかりやすいイロモノテーマでなく、どうせならてんかんや差別をテーマにした小説を書いてもっとマスコミや文壇を挑発してほしかった。

★★★☆☆

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最終更新日  2016.01.31 20:22:52
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