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2016.03.02
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カテゴリ: 小説
将軍の甥のふりをして戦争に参加したトマ少年が恋愛したり死んだりする話。

●あらすじ
第一次世界大戦中に、フォントネーで生まれたギヨム・トマ少年は戦争ごっこのつもりで軍服を着て周囲をだまして調子付いて、ド・フォントネー将軍の甥のギヨム・トマ・ド・フォントネーを名乗って戦場に紛れ込んでヴェルヌ博士のヴェルヌ病院にやってきて、その病院に入院していたド・ボルム公爵の未亡人クレマンス、娘のアンリエット、ヴァリッシュ夫人や医師たちはギヨムを頼って一緒に移動すると、ランスで砲撃を受ける。アンリエットはギヨムを愛していたものの、クレマンスに恋している新聞社社長のペッケル=デュポールはギヨムを疑っていた。病院の人たちはギヨムをド・フォントネー将軍の甥と信じて頼っていたものの、ダンクール将軍が死んだことでギヨムは嘘をでっち上げて病院を離れて、彼がいなくなるのを喜んだペッケル=デュポールの伝手で酒保隊に入って混戦地帯へ行ってアンリエットへの恋を忘れてもうアンリエットのところには戻らないつもりでいたが、クレマンスやアンリエットたちは悲劇役者と一緒にギヨムがいる北部戦線を慰問しに行き、クレマンスはアンリエットとギヨムの結婚を認める。ギヨムは危険な防御区で敵の斥候を見つけて、死んだ真似をしないと殺されると思ったら死んでしまった。ペッケル=デュポールはギヨムの死を知ってクレマンスを訪ねると、クレマンスの人気に嫉妬していたヴァリッシュ夫人がギヨムの死をくっちゃべっていて、アンリエットはショックで毒を飲んで死んでしまう。ギヨムの十字架には「G・T・ド・フォンネー。我らのために死せり」と書いてある。

●感想
三人称。細部を描写しないまま大雑把に場面を展開していて、視点もころころ変わり、読者にとってはどういう情景なのか場面が想起できない。読書に慣れている私がこの130ページもない薄い本のあらすじを作るのさえ苦労したということは、私は読書中に物語展開のメンタルモデルが形成できていないわけで、誰が何してどうなったというプロットが読者がわかる形で整理されていないということである。そのうえ人間関係がよくわからない脇役がどっちゃり登場するので、もはや読むのが苦痛。
現代のエンタメ小説では説明から物語を始めるのは悪手で、冒頭からいきなり場面を描いて読者を物語世界に引き込むのが物語展開のセオリーとして定着している。この小説は脇役の説明から始まる冒頭からしてつまらないうえに、どういう顔や体型かといった外面描写がほとんどない文章で、主人公ギヨムやヒロインのアンリエットの人物像も固まらないうちに混乱した戦場の様子を無駄に詩的な言い回し書いていて、読者は作者がひけらかす詩的な言い回しを楽しむ以前にいつどこで誰が何をしたのかという基本的な状況の把握だけで手一杯になってしまう。作者側で情報を整理してわかりやすく面白いプロットが提示される現代のエンタメ小説の水準に慣れた読者からしたら、この小説は普通に読める水準になっていない。そのうえ戦場の描写が雑で、プロットがつまらないときているのだから見所がない。
訳者の河盛好蔵のあとがきによるとこの小説は『パルムの僧院』を真似て書いたものらしい。コクトーは第一次世界大戦で北部戦線の航空勤務の経験があるらしいものの、現実の戦争を直視しないで『パルムの僧院』を真似て大幅に劣化した小説を書いて、いったい何がしたかったのだろう。コクトーの自作解説によると「映画はテクストなしで心理を展開すべきものだろう。僕は『トマ』で心理抜きのテクストを展開させようとした。あるいは非常に初歩的な心理を使って、典型的な映画にある簡単な字幕に匹敵するものにしようと思った。にせの写実小説の分析と、にせの叙述小説の風景とは、似たようなものである」「かなり鋭敏に、素早く、一跨ぎで、滑稽と悲痛を横切ること、これが僕のやりたいと思うことだ」ということらしい。作者はやりたいことが出来て満足だろうけれど、そうやって雑に書かれた小説が読者にとって面白いかどうかは別の話。読者にとっては構成が下手すぎて一跨ぎどころかあちこちで躓いてページがなかなか進まないうえにくそつまんないときている。そもそも『パルムの僧院』にしてもフランス小説は写実主義的な外面描写を積み重ねることによってフィクションの魅力ある人物像をリアルに作り上げて物語世界で活躍させることに面白さの特徴があるのに、その面白さの元になる外面描写を作者自身が積極的に剥ぎ取って人物像のリアリティをなくしたのだから面白くなりようがない。今まで戦争ネタの小説や漫画はいろいろ読んだし映画もいろいろ見たけれど、戦禍を書くリアリズム路線にしろドンパチを書くエンタメ路線にしろ、戦争ネタは兵士の苦悩や緊迫した戦闘シーンがあって、どう書いても波乱万丈でそれなりに面白くなるものである。しかしトマは将軍の甥を騙って戦場をうろちょろするだけで、敵を騙したりして主人公らしい戦功をあげるわけでもなく、『パルムの僧院』のファブリスのように牢獄から大脱出するわけでもなく、斥候にみつかってあっさり死んでしまう。コクトーは第一次世界大戦の当事者なのによくこれほどくそつまらない酷い小説が書けたもんだと逆に感心してしまう。

★☆☆☆☆






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最終更新日  2016.03.03 00:26:05
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