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2016.04.11
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カテゴリ: 小説
第146回芥川賞受賞の表題作と「松ノ枝の記」の短編集。

「道化師の蝶」は架空の新種の蝶をつかまえて「○○で読むに限る」シリーズの本をヒットさせた道化師エイブラムス氏のエピソードを無活用ラテン語で書いた友幸友幸の小説「猫の下で読むに限る」を訳したりレポートを書いたりして、友幸友幸を追うエイブラムス私設記念館のエージェントとして報酬を得ていたら、字を書いているうちにいつのまにか喪われた言葉の国にいて老人と蝶について会話して、わたしは人の頭の中に着想を植えつける蝶だったという話。
語り手のわたしの一人称。わたしはエイブラムス氏の小説を書く→わたしは友幸友幸に興味がある→わたしは実はエージェント→わたしは実は友幸友幸→わたしは実は蝶→と語り手のわたしが転々としていく仕掛けになっているものの、語り手が誰に対して何を語りたいのか、物語をどういう方向に進めたいのかがはっきりしないので、読者としては興味を維持できない。いちおう最後にわたしは蝶だと明らかにすることでオチをつけているものの、たとえばミステリで探偵がいなくて誰も捕まえてくれないから犯人が「実はわたしが犯人だったのだ、デデーン!犯行動機はあれだよ、ほらほらすごい犯行だよね」と自己主張するようなもので、このやり方は興ざめする。
三本腕の人にしか読めない本とかの小道具はボリス・ヴィアン風のシュールなナンセンスで特に面白い発想というわけでもなく、冗長なギャグをぐだぐだ展開しているようなつまらなさ。円城塔のファンにしか読めないナンセンス小説を書くという体を張ったギャグだったんだろうか。

「松ノ枝の記」はわたしが彼の小説を翻訳したら違う内容になったので彼も私の翻訳を翻訳する間柄になり、彼の自伝的小説「Branches of the Pine」を翻訳した「松ノ枝の記」を書くと、彼の傑作だという5作目が届かず、自称松ノ枝の姉という人物と会ってなんやかやして5作目を手に入れる話。
わたしの一人称。「わたしは彼の翻訳者であり、彼は私の翻訳者である。」という文章から始まるものの、彼が何者なのか、わたしが何者なのかがまったく言及されないまま話が進み、いつの、どこの、誰の話なのかがはっきりせず、外面描写も内面描写もなく、物語に具体性がない。この不親切で情報不足で独りよがりな語り手に付き合っても面白いどころかストレスしか感じないので途中で本を捨てたくなる。エレモテリウムが何なのかはどうでもいいからまず登場人物についてちゃんと説明しろっつーの、読者はエスパーじゃねーっつーの、という愚痴が読み進めるにつれて増えていき、結局松ノ枝家がなんだろうが興味を持てないまま流し読みした。

二作とも書くことについて書くという小説で、作者は最初から人間を書くつもりがないのだろう。しかし人間を書かないことで、人間がなぜ文章を書くのかという重要な動機に肉薄しないので読み応えがなくなっている。いくら衒学で装飾したところで知識を得られるわけでもないし、感動して記憶に残るような文章もない。難解だのつまらないだのという前評判は知っていたものの、実際に読んでみたら想像以上につまらなかった。
それにこういうへんてこな小説は大作家がやるもので、普通の小説をろくに書いていない新人作家が取り組むべきテーマではない。たとえばピカソはへんてこなキュビズムに至る前は普通の写実的な絵を書いていたし、イタロ・カルヴィーノはへんてこなアンチネオリアリスモの小説を書く前は写実的なネオリアリスモの小説を書いている。巨匠たちは普通の表現技法を極めた先にあるものを目指して独自のすばらしいへんてこさを手に入れたのであって、新人が普通の作品を丁寧に作るという過程を飛ばしていきなり巨匠のすばらしいへんてこさを手に入れようとしても無理むりかたつむりである。いきなり変な作品を書いて目立とうとする横着な新人や、そういう新人を担ごうとするくだらない編集者や選考委員がのさばっているから文学は衰退の一途をたどっているんじゃなかろうか。
さてこのつまらない小説を睡眠薬代わりになるといって芥川賞に推したのは島田雅彦だけれど、私はこの小説を読んだ数日後にワインをラッパ飲みして空ビンで島田雅彦を殴るという愉快な夢を見た。夢の中で酒を飲めばお金がかからないし、二日酔いもないし、島田雅彦も殴れるし、いいことづくめだ。島田雅彦は夢の中で殴るに限る。



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最終更新日  2016.04.15 18:37:39
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