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2018.09.03
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カテゴリ: 小説

ミスター通産省と呼ばれた官僚の風越が人事をいじったり大臣やライバル官僚を相手に権力闘争をしたりする話。1975年の刊行で著者が48歳の時の作品。

●あらすじ

第一章 人事カード1960年代に通産省の人事権をもつ秘書課長の風越は人事で通産省を改革しようとして、結核なのにパリに行きたいという牧に見切りをつけて、有望な学生の御影と小糸に目をかけると、牧が小糸と同じ夜学に通ってフランス語を勉強していたのでパリに行かせることにする。

第二章 大臣秘書官風越は秀才だが気に入らない片山をカナダに行かせる。風越が官房長官を批判して広島に飛ばされると、課長になった辻がすぐに根をあげて辞任したがったので、風越は性格の評価の仕方を考える。二年後、実力者の政治家の池内が通産大臣になったので秘書官に庭野を任命する。風越が推す人材が順調に出世する中で、牧はパリで放って置かれて焦る。

第三章 対立通産省内では通商を重視して自由化を進めようとする池内大臣と玉木繊維局長、産業を重視して自由化尚早論を主張する風越らの局長が対立するものの、原綿原毛の自由化が強行されたので、風越はパリで理論武装した牧を呼び戻すことにする。

第四章 登退庁ランプ風越は次期次官を約束された企業局長になり、庭野と牧を課長に据える。片山を新大臣の須藤の秘書官にすると親子のようにうまく仕事をこなしたものの、須藤は風越をいまいち信用してなくて風越が提案した予算を取ろうとしなかった。

第五章 権限争議池内が総理になり、須藤に代わって反須藤派の古畑が通産大臣になる。風越は官民協調経済体制の指定産業振興法を立法しようとするものの、頭を下げない高飛車な姿勢のせいで金融界を敵に回して交渉が難儀して、風越が振興法の必要性を声高に主張すると国家総動員法として批判されて裏目になってしまう。古畑は玉木を次期次官にすると突然言い出して政界が荒れて、風越派閥は影響力をなくして振興法が廃案になる。

第六章 春そして秋風越は特許庁長官に左遷されるものの仕事ぶりが良いので庁内では人気になり、政治の風向きが変わって風越が次期次官になるという噂が出る。片山は風越に気に入られていないし同期の庭野のスペア扱いされるのも嫌なので退職しようとするものの、玉木に説得されて思いとどまる。風越は次官になって大蔵省や政府を批判して、自動車会社の合併や鉄鋼業界の減産調整を行うものの、腹心の鮎川が病死して退官を決意する。

第七章 冬また冬風越は天下りする気もなく政治家になる気もなくて無職になる。牧は企業局長になって風越のお気に入り官僚たちを冷遇して、風越が庭野を推しすぎたせいで庭野が潰されて入院して、風越は牧に文句があるもののもう通産省への影響力はなくなっていた。

●感想

三人称。1960年代が舞台で、である調とか木炭自動車とか、なうでヤングな若者にはあちこち古臭く感じるものの、文章自体は読みにくいわけではない。Wikipediaによるとほとんどの登場人物にモデルがいるらしい。出版と同時代に読んだ人にとってはモデルの政治家をじかに見ている分面白さがあったのかもしれないものの、60年代を知らない人が読んでもモデルとどれだけ似ているのかわからない。
『官僚たちの夏』というタイトルの通り三人称でいろいろな官僚たちの視点で書いているけれど、性格や考え方の書き分けができているのはよい。しかし主人公の風越がどういう風に通産省を変えていきたいのかという最終的なゴールが見えないので、物語の方向性がわからないのはよくない。風越が人材を値踏みしたり大臣をあしらったりするシチュエーションを楽しむ類の小説としてみれば面白みがないわけでもないけれど、プロット自体は誰がどの役職に就いただの揉めただのという話を延々とやるだけでつまらない。官僚の世界という一般人がわからない世界を書くこと自体はよいけれど、この小説は官僚側の狭い世界だけ書いていて、同時代の日本の政治経済で何が起きているかという背景となる状況を書かないので、60年代を知らない読者が読んだときには外部資料なしで60年代がどういう時代だったのかというのがわからない。熱血な日本男児の風越のやり方を書く一方で、いろいろ癖がある官僚たちを書いて片山や玉木に風越を批判させるという試み自体は成功しているものの、そのせいで風越から話題がそれて散漫になってしまって物語の芯がぼやける。官僚たちの夏にせずに風越の夏にして、風越の人物像を掘り下げて仕事の様子だけでなくプライベートでの様子や人生観まで描いたらナギーブ・マフフーズの『渡り鳥と秋』みたいな小説になったかもしれない。
城山三郎は文學界新人賞でデビューしたあとに直木賞を受賞して経済小説の先駆者として経済小説を確立したらしくて、作者の名前は知っていたけれど小説は読んだことがなかったので、どんなもんじゃろうと思って読むことにしたのだけれど、やっぱりジャンル小説として限定された範囲の面白さしかなくて、私が経済小説を読んだ時に感じるユーモアとエロスと文飾の物足りなさ、遊び心のなさをこの小説にも感じる。経済小説はむさくるしいおっさんがシリアスぶる展開ばかりでかわいくない。経済小説で一番物足りないのは作者ならではの思想がないことで、有名人をモデルにして特殊な業界を書いたことで作者が満足してしまって、作者の意見としての日本の政治経済がどうあるべきか、官僚はどうあるべきかというテーゼがない。テーゼがないとアンチテーゼもないし、ジンテーゼでのカタルシスもない。オリジナルキャラの小糸や御影に新人として政治経済の未来を語らせるなりしてテーゼを掘り下げさせればよいのに、小糸たちはプロット上の役割がないまま単なる場つなぎの脇役で終わってしまったし、初の女性官僚の<お人形さん>もちょろっと顔を見せに出てきた程度で削ってもいいような脱線気味のエピソードになっている。悪い小説というわけではないけれど、エピソードが地味なうえに話が長くて脱線もあるし、話の長さに見合うほどオチにカタルシスがあるわけでもないので、なんか惜しい感じ。

★★★☆☆

官僚たちの夏【電子書籍】[ 城山三郎 ]






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最終更新日  2018.09.03 18:58:03
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