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人間は何かしらの価値判断をしながら生きているけれど、その価値に無自覚なまま変な判断をして、人生や社会がしばしば間違った方向に向かう。個々人が価値を自覚すれば判断しやすくなると思うので、価値について考えることにした。
●ものの客観的価値
・経済的市場価値
人間は貨幣という概念を創造して客観的な価値を共有することで非効率な物々交換をしなくて済むようになった。たいていの物は何かの目的に使うために製造されて、需要と供給で市場価値が決まって、価値は金額ではっきりと示される。たいてい高品質で数が少ない物の価値が高くなって、低品質で数が多い物の価値が低くなる。鶏の糞とか観葉植物とか用途があるものは値段が付くけれど、猫の糞とか雑草とかの用途がないものは誰も欲しがらなくて値段がつかないので市場価値がない。
・時間的価値
天気予報を検索して先月の天気予報を表示されても役に立たないように、同じ情報でも最新のものだけに価値があって時間がたつと価値がなくなるものがある。食べ物も賞味期限や消費期限があるので時間がたつほど価値が落ちて割引される。その一方でウイスキーや美術品や古着のように時間がたつほど価値が上がっていくものもあって、価値の持続性に応じて時間と相関して価値が変わる。時間も数字で定量化して客観的に価値の大小を比較できる。
●ものの主観的価値
・個人的価値
例えば何かの賞を受賞して記念品として時計をもらって、それを他人の不注意で壊されてしまったとき、同じ値段の別の時計に交換するのでは納得できない。物自体よりも愛着や思い出や記念などの物にまつわるコンテクストのほうが重要なわけで、これが所有者にとってどれほど重要なのかは数値で定量化できないし、他人とはその価値を共有できない。
・芸術的価値
芸術作品には一応市場価値がついているけれど、どうしてもその作品がほしくてしょうがない人がその値段を出すというだけで、その作品を好きでない人には値段ほどの価値がない。美術史の中でのその作品の重要性とかである程度価値は共有できるけれど、価値判断は主観的なものになる。
・文化的価値
明治時代の農具とかは中古の実用品としては値段がつかなくて市場価値はないし、美術品でもないけれど、歴史的資料としての文化的な価値があるので博物館で展示されている。メモ帳は何も書いていない紙に道具としての市場価値があるのに対して、本は紙自体にはあまり価値がなくて紙に印刷された情報に文化的価値があるし、本と同じ情報を持つ電子書籍にも価値がある。
・学術的価値
たいていの人には何の変哲もない石ころにしか見えないものでも、歴史学者や地質学者にとっては学術的な価値がある貴重な化石や鉱石かもしれない。深海魚は魚市場で売れなくて食用としては市場価値がなくても水族館の研究員にとっては標本として価値がある。
・宗教的価値
キリストの遺体を包んだと言われるトリノの聖骸布は偽物だという説があるけれど、それでも本物だと信じている人には価値がある。仏像や地蔵は単なる木や石の塊に過ぎないけれど、それを信仰の対象にしている人には価値がある。
・新規性の価値
生物に突然変異が起きなければ進化も起きなかったように、今までと違う新しいものには新しいこと自体に価値がある。新しいものの中には淘汰されたもののほうが多いけれど、淘汰されたからといって価値がないわけではなくて、その失敗が次の進歩への手掛かりになったりする。
●人間の価値
・経済的市場価値
人間も物と同様に、持っている知識や技術に応じて転職市場で価値が決まる。現代人が必死に勉強して仕事のキャリアを積むのは自分の市場価値を上げて高い給料をもらって価値が高いものを買ったり価値が高い人と結婚したりするためである。
・個人的価値
人間は他の人間に対して友情とか愛情とかの好きとか嫌いとかの定量化できなくて他人と共有できない個人的な価値を感じている。家族の仲がいいとか、倫理観が高くて性格が良いとかも幸福に寄与する個人的な価値観である。
・生物的価値
イケメンとかセクシーとかの異性に好まれて生存に有利になる遺伝子に生物としての価値がある。病気になると活動が鈍って治療に金が必要になるので、健康であることにも価値がある。臓器移植に適合するとか希少な血液型だとかで人体に物としての価値もある。
・政治的利用価値
人や物や金を動かすことができる権力を持つ人間には利用価値があって、これは個人の能力だけでなくて家柄にもよる。小室眞子は個人として何か成し遂げたわけでもないし絶世の美女というわけでもないけれど、警備がついてマスコミが恋愛や結婚を報道するのは皇族という家系の権力に価値があるからである。企業が取引先の子供をコネ採用するのは個人の能力がほしいというより親の人脈から仕事がほしいという政治的価値判断である。
・価値の継承の期待
人間は権利としてはみな平等だけれど、事故が起きた時はたいてい子供と女性を優先して避難させたり保護したりしているし、そこには価値の判断がある。子供は現時点では何の技術も知識も持っていないけれど、これから技術と知識を身につける時間の伸びしろがあるし、伸びしろがない老人よりも将来への期待がある。女性はいずれ子供を産むことを期待されるし、子供が価値を受け継がないことには文明は崩壊するので、将来価値を継承する期待があることに価値がある。
●社会は複合的な価値から成り立っている
・価値観が似た人が社会を作る
人間は自分と類似点が多いほど共感しやすくなる。アニミズムとか王権神授説とかの同じ神を信じて宗教的価値観が同じ集団が発生したことが人類の社会形成の起源で、国家は貨幣を統一して国民があれはいくらという同じ経済的価値観を持つことで貨幣を通じた売買が成立する。
・価値観は個人によって違う
同じ国の国民は大まかに似たような宗教的・経済的価値観を持っていても、詳細な価値判断は個人によって違う。マズローの欲求階層のようにたいていの人間はまず生理的欲求と安全の欲求を満たしたがって、それから社会的欲求や承認欲求を求めて何かの仕事をして自分の価値を上げようとする。しかし人間は寿命が合って時間が有限なので全部の欲求を最大限に満たそうとしても無理で、どの価値を優先するかが個人によって違って、その価値観によって生き方が異なってくる。金がないと安心できないという人は必死に働いて金を貯めようとするし、すでに安全の欲求が満たされていてそれ以上物があっても幸福になれないと思う人は生きがいを追求するようになるし、自分を愛してほしいという渇愛がある人はマッチングサービスに大金を払ってでも恋人を見つけて承認欲求を満たそうとする。
・価値観が異なる人が新しい社会を作る
イノベーションは組織が起こすのではなくて個人が一つの事に情熱をもって長期間取り組んで起きるものなので、社会を変えようと思う人はユニークな人を理解する必要がある。諸葛孔明が蒼天は円蓋のごとく陸地は棋局に似たり、世人には黒白の分ありて往来して栄辱を争えり云々という詩を残しているように、目先の利益に右往左往する人たちとは違う価値観を持っていたからこそ手ごろな仕官先を探そうとせずに隠居して無職の晴耕雨読の生活をしながら伏竜と呼ばれるほどの力をつけて天下三分の計という壮大な計画を立案できた。その一方で科挙のように管理職として既存の価値観に順応することに邁進してもシステムの部品になるだけで、そこから偉業を成し遂げる人は出てこない。学問だと効率よく受験勉強だけして正解とされている知識だけ詰め込んで昆虫観察とか天体観測とかの無駄な知識を仕入れなかった人は受験では有利で学歴こそ高くなるけれど、自分の成長を重視する成長マインドセットよりも点数で正解が数値化される他人の評価を重視する固定マインドセットを持つようになって、発想が平凡なので新しい発見や発明をしにくくなる。ヘミングウェイが芸術家は孤独でなければならないとどこかで言っていたような気がするけれど、ユニークであろうとしたら他人に理解されずに孤独になる覚悟が必要である。日本人は先祖がほとんど農民で長い間政治を武士任せにしてたせいなのか同調圧力が強くて自律意識が低くて、価値観が似ていて従順なのは労働集約型の産業には有利だけれど、そのぶん変化が乏しくなってイノベーションは起きにくくなる。企業は社長と同じ価値観の従業員を集めたがって奇人変人稀人を排除して組織が硬直してVUCA時代に対応できなくなったりしている。
・異なる価値観を理解しないと社会は荒廃する
社会が複合的な価値から成り立っているにもかかわらず、異なる価値観を理解せず、価値を一元化しようとすると社会は荒廃したり衰退したりする。例えばキリスト教の教会の権力が強かった中世ヨーロッパは宗教的価値に一元化されたら学術的価値が無視されて、聖書と異なる地動説が異端扱いされて研究することさえ禁じられて天文学の発展が遅れたし、中国共産党は無宗教の共産主義に一元化しようとして宗教的価値をなくすためにウイグルやチベットや法輪功を弾圧して人権侵害して、教育を通して子供を洗脳して年長者を尊敬する儒教的な価値判断を変えて親よりも毛沢東を尊敬させて子供が親を密告して家庭が崩壊している。日本だと高度経済成長やバブルの拝金主義の後は新自由主義が蔓延して価値判断の基準が金の有無だけになって、金があれば勝ち組金がなければ負け組と人間を一元的な価値で判断するようになって人間観が薄っぺらい人だらけになって、金のために長時間労働して心身を病んで、社会的弱者に対して自己責任として突き放して共感も同情もしなくなって、社会が分断されて無差別殺人やテロが起きるようになってもはや平和な国とは言えなくなった。さらに経済的合理性だけを価値判断の基準にして、文学部廃止論みたいに直接生産活動に役に立たなくて儲からないものの価値を無視すると、日本らしさというアイデンティティが失われて移民と価値観を共有する同化教育ができなくなるだけでなくて、移民の価値観を理解することもできなくなって対立や分断が深刻になる。
・価値を一元化するとレジリエンスがなくなる
レジリエンスとはしなやかさを意味していて、困難や逆境から立ち直って回復する力のことである。現代人は資本主義社会で生まれたのでそれが唯一無二の社会だと思い込んで、資本主義社会から排除されないために儲かるか儲からないかという経済合理性だけを気にして右往左往して、失職したり金がなくなったりすると自分は生きる価値がない役立たずだと絶望して自殺してしまう。金の切れ目が縁の切れ目ということわざが典型的で、価値を一元化して同じ価値観の人同士で人間関係を作ると一元化した価値が失われたときに孤立する。あるいは行政が新自由主義的な考え方に一元化されて儲からないものを無駄と考えていのちの電話とかのホットラインをなくしたり有料化して採算をとろうとしたりすると自殺が増えかねない。価値観を一元化しなければ、宗教的価値観を共にする人と助け合ったり、芸術的価値観を共にする人と一緒に遊んだりして、失敗しても多様な交友関係から自身の価値を確認して立ち直ることができる。しかし各分野の仕事が高度専門化してそれについていくだけで精一杯になって、他の分野の価値を学ぶ時間がなくなるのが現代社会の問題である。企業だとチェーン店は対応をマニュアル化することでどの支店でも同じ商品とサービスを提供できる反面で従業員を個性のない量産型作業員に仕立て上げてマニュアルに定められた価値観が成長の上限値になってそれ以上伸びないので、ボトムアップの自発的変化が起きなくなって好景気や不景気で環境が変わったときに柔軟に対応できなくて一気に廃れたりする。
・フィクションの役割
人間が他の動物よりも複雑な言語を持ったことで虚構を理解して神の概念を創造して宗教的価値を共有できるようになったように、言葉は単に情報伝達の手段ではなくて価値を共有手段でもある。良いフィクションは社会にある様々な価値を発見して共有したり価値を再確認したりする役割がある。例えば『鬼滅の刃』を単なる子供向けバトル漫画とは言えなくて、家族を大事にして弱者を助ける日本の伝統的な価値観を強調している点では他のバトル漫画とは異なる。それゆえにクリエイターには人間や社会を見て誰がどんな価値観で行動しているかを判断する観察眼が必要となるし、編集者や評論家は作品の複合的な価値の良し悪しを判断する審美眼が必要になる。
神話とかの物語は国家を作るほどの影響力を持っていたけれど、ポストモダンの現代はイデオロギーとかの大きな物語がなくなった。だからこそ個人には自分がどう生きるかという価値を自覚して価値観を形成するための小さな物語が必要になる。フィクションには読者が独覚仏陀みたいに悟りを開くほどの影響力はないけれど、人生の大まかな方向性を決める道しるべ程度には役に立つ。しかし純文学や邦画が衰退して小さな物語を作ることさえままならなくなって芸術志向の良い物語が十分に提供できていない。最近はSTEM教育にARTが加わってSTEAM教育をするようになったように、芸術とリベラルアーツの創造力が科学技術や数学と同様に社会の発展に必要なものとして認知されつつあるけれど、芸術といえる水準にまでフィクションの質を高めないと、あまり重要でない娯楽として教育から除外されかねない。
オックスフォード大学の機械学習の専門家でテクノロジーと雇用の関係を研究しているマイケル・オズボーン教授が発表した2030年に必要とされるスキル( The Future of Skills : Employment in 2030
の62ページにランキングがある)で心理学、社会学、人類学、哲学とかの文系の学問がアメリカで将来必要になるものとして上位にランキングしていて、批判的思考や文章表現や文章読解も物理学やプログラミングや数学より上位に挙げられているように、今後は機械やAIができる作業よりも人間の心理や文化を理解したり正解がないことを考えたりする能力が重要になるだろうし、フィクションの創作は社会を考察して心理を分析して独創力や発想の豊かさや文章力が必要なのでそういう能力を鍛えるのにちょうどよいと思う。
というわけで混迷した時代を切り開くにはフィクションが重要なので、フィクションに詳しい私を雇ったり創作のスポンサーになったりするとよいよ。私はYouTubeで小説の書き方を解説しているので、私のYouTubeチャンネルを登録するとお金をかけずに私を支援できるよ。
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