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2023.06.12
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この世界の様々なことについて疑問に思うことはよいことである。子供はしばしば「これなあに?」と親に質問して、世界の物事について興味を持って理解していく。しかし大人になると仕事や金儲け以外のことは興味を持たなくて勉強しなくなる人がいる。何かを疑問に思っても調べず、調べてもわからないことを他人に質問せず、疑問のままにしておくのでは興味が知識に結びつかなくて物事を理解できないままになって、せっかくこの世界に生きているのにこの世界について知ろうとしないのはもったいないではないか。というわけで疑問と質問について考えることにした。

●疑問とは何か

疑問とは知らないことやわからないことに気づいて関心を持つことや、本当かどうか疑わしいことである。古代の人間はこの世界についてわからないことだらけだったので、なんでこの世界はできたのだろう、なんで自分は存在するのだろうと疑問を持って神が宇宙と人間を作ったということにして神話や宗教をでっちあげて、中世の人間は宗教は正しいのだろうかと経典に疑問を持って検証可能な科学の理論体系を作り出して、そうして学問が発展して現代の人間はこの世界のたいていの物事については科学的に正しい知識を得ることができるようになった。しかしまだ治療法が不明な難病とか考古学の謎とか宇宙の仕組みとかのわからないことはいろいろあるし、正しいと思われていたことが間違いだったと判明することもあるし、疑問を持って考えることでさらに学問は発展して社会は豊かになっていく。

・疑問を持ったらすぐ調べる

ニュースを見て知らない単語や概念を見かけてこれは何のことだろうと疑問に思ったら、すぐに調べて疑問を解消すると少し賢くなれる。時間が経つと他のことをやるうちに興味が薄れて疑問に思ったことすら忘れてしまうので、すぐに調べられない環境なら気になった言葉をメモしておくなりamazonの関連書籍を買い物リストに入れておくなりして後で調べられるようにしておくとよい。

・疑問を持って丸暗記から理解に変える

若いころは暗記力や計算力などの流動性知能が高くて25歳でピークになって徐々に衰えていくものの、歳をとるにつれて洞察力や理解力や批判力や創造力などの結晶性知能が徐々に高くなっていく。現代人は成人するまでずっと義務教育で勉強続きで、受験勉強で覚えることが多くて興味がないことを語呂合わせで無理やり暗記したりして、知識はあるけれど仕組みを理解していないことも多い。ただ知っている状態から理解している状態になるには、もう一度世界の物事について関心を持って疑問を問い直す必要がある。いったん社会人になって大学までの知識を離れて現実社会の様々な問題を目の当たりにした人がリカレント教育で大学院に行ったり自習したりしてもう一度物事に疑問を持って理解しなおして結晶性知能を高めていくことで問題の解決策の発見につながると思う。

・疑問で未来に備える

これから自分や社会がどうなるかは誰にもわからないけれど、起こりうる可能性があることはある程度予想することはできる。例えば震度5の地震が来たらたいしたことなかったねと日常生活に戻るのでなくて、もっと大きな地震の前震なんじゃないかと疑問を持って備えておけば生存確率は上がる。株を買ったら値上がりするはずだと自分に都合がいい未来ばかり想像しようとしないで、選挙の後はどうなるのかとか災害が起きたらどのくらい影響を受けるのかとかいろいろ疑問を持って想定しておくことで、想定外の事態に一喜一憂せずに冷静に利確や損切をしやすくなる。
組織改革のADKARモデルというのがあるけれどその最初がAwarenessで、未来に備えるにしても現状認識が変わらないと人は行動を変えようとする欲求が出てこないので、まずはなぜ今のままではだめなのかを理解して認識を変える必要がある。日本は30年間経済成長せず賃金も上がっていなくて少子化も深刻化しているけれど、「なぜデフレはだめなのか?」「なぜ消費税増税はだめなのか?」「なぜ労働力を非正規雇用に頼ってはいけないのか?」などを国民が疑問に思わずに理解しようとしなかったので現状を変えようとしなかったし、このままではだめだと思っている人も国債や税の仕組みを理解しないまま維新の会の改革をやったふりのパフォーマンスに満足して結局事態は好転していない。

・疑問が事故を防ぐ

危険な行為がなぜ危険なのかわからず疑問さえもたないのは科学の常識が欠如しているだけでなくて、それをやったら次に何が起きるのかという想像力や、事故を起こさないためにはどうすればいいのか、事故が起きたらどうすればいいのかという危機管理能力も欠如している。脚立の一番上の折りたたむ部分を足場にしてしまう人とか、電子レンジで卵を爆発させる人とか、身の回りの道具の仕組みや正しい使い方を理解していない人は大勢いる。学校で物理や化学の基礎知識は教えるだろうけれどすべての道具の使い方を教えているわけではないので、説明書を読まずに直感的に道具を使おうとせずに、道具の材料が何なのか、どういう仕組みで作用するのか、やってはいけないことは何なのか、なぜやってはいけないのか、やっていけないことをやったらどうなるのかという道具の特徴や使い方くらいは把握してから使うべきで、そうでなければどんな道具でも事故の原因になりうる。初めて何かをやるときは自分の行為が本当に正しいのか疑問を持って、情報を調べて物事の仕組みを理解して疑問を解消して、手順をシミュレーションしてから行動に移せば大失敗することはない。

・質問で疑問を解消する

質問とはわからないところや疑わしい点について問いただすことである。学者のコンセンサスで正しいとされる知識や一般的な技術の習得方法は教科書としてまとめられているので、たいていの学問は入門書やWikipediaを読んだりすれば概要が理解できるようになっている。しかしコンセンサスがない知識や技術や体験もあるので、調べてもわからないことは専門家や経験豊富な人に質問しないと理解できない場合もある。
自分で勉強や研究をするにしても使える時間は限られていて世界中のすべての本を読んで全分野で専門家並みに詳しく知ることはできないので、膨大なデータベースから効率よく情報を見つけるために検索エンジンのクエリやSNSのハッシュタグやChatGPTのプロンプトでどう質問するのかも重要になってくる。

●良い質問

・理解を深める

なぜ〇〇なの?〇〇の場合はどうなの?と質問を繰り返して論拠を明らかにしていけば、あらゆる物事の仕組みは論理的に説明可能になって論拠を検証可能になって、論拠が弱いところを補強していけば物事の理解が深まっていく。東京外語大学大学院の岡田昭人教授がオックスフォード大学の教育方法について書いていて、オックスフォード大学にはチュートリアルという授業があって、週に1回課題に関する本を数十冊読んでレポートを提出したら教授が学生に厳しい質問をして、曖昧な回答にはSo what?(だから何なの?)と突っ込んで理解不足なところや間違っているところを明確にして理解度を上げていくそうな。質問に対して自分の言葉で説明できるようになったら物事を理解したといえる。
会社の説明会やシンポジウムや学会とかでは質疑応答の時間があるけれど、「〇〇とおっしゃいましたが、具体例があれば教えてもらえますか?」とかの質問はまだ語られていない情報を引き出して論拠を補完して理解を深めることができて質問した本人だけでなくて他の人にも役に立つ。
他人への質問だけでなくて、自問自答も自分の知識の理解度を確かめるのに役に立つ。私がブログで「〇〇について考える」として疑問に思ったことを自分で調べて考えて自問自答するのはこの世界の物事についての理解を深めるためで、他の人の役に立つかは不明だけれど少なくとも私の役には立っている。

・議論を掘り下げる

哲学でいうところのエポケーして、命題の前提自体を問い直すことでより根源的な議論になる。例えば古い会社だと「男は結婚して家庭を持たないと一人前になれないから未婚の人は出世させない」という方針があったりするけれど、「家庭を持たないと一人前になれないという前提は正しいのか?」「独身で顕著な業績を上げた人は大勢いるのではないか?」「独身の方が身軽でリスクを取りやすくて大きな成果が出せるのではないか?」などと論拠を論理的に問いただしたり反証したりする質問は議論を掘り下げるのにつながる。学者の議論の目的は相手を論破して勝ち誇ることではなくて物事を正確に理解したり国を発展させたり人々を幸福にしたりすることなので、相手の論拠を尋ねたり疑って反証したりするのは別に失礼なことではないし、相手にとっても役に立つことである。

●悪い質問

・調べたらわかることを他人に聞く

BBQで事故が起きるたびに「​ なぜDQNはバーベキューが好きなのか考える ​」という記事にアクセスが増えるけれど、たぶんなんでDQNはバーベキューが好きなんだろうと疑問に思った人がネットで検索してたどり着いたのだろう。その一方で掲示板で「なんでDQNはバーベキューが好きなの?」と書き込むだけで自分で考えたり調べたりしない人は暇な誰かが返事をしない限り答えを知らないままでいる。パソコンやスマホを持っているんだから掲示板に書き込む暇があるなら調べればいいだろうに、自分で調べたらわかる情報を他人に聞くのは他人の時間を無駄にしている。

・言葉の定義が不明で何を聞きたいのかわからない

言葉の定義を共有できないと論点が定まらなくて有意義な質疑応答にはならない。言葉の定義が不明な質問をされても「それってどういう意味で言ってるの?」と質問に対して質問で返さざるを得ないし、質問している本人さえ何を聞きたいのか理解していなくて言葉の定義を言えない場合もあるので、回答する側も面倒くさいので答える気がなくなる。例えば「MMTをやったら日本は財政破綻するんじゃないか?」と質問されても、「MMTをやる」や「財政破綻」の定義が不明なので答えようがない。

・知識不足で質問が具体的でない

知識がない人ほど質問が的外れになる。例えば「パソコンが壊れたんですけどどうすれば治りますか?」とパソコンの初心者に質問されても、電源が入らないのと、電源が入るけどモニタが映らないのと、電源が入ってモニタも映るけど使用中にクラッシュするのとでは原因も治し方も違うので、どういう壊れ方をしたのかという具体的な状況がわからなければ答えられない。質問者と回答者に知識の隔たりが大きすぎるとしばしばこういう曖昧な質問をされて、回答する方も相手の理解度を確かめながら回答しないといけなくて疲れてしまう。
記者が誰かにインタビューするときもあらかじめ相手のプロフィールや著書を予習していないと相手の意見を掘り下げるような的確な質問ができなくて、相手にも失礼だし、突っ込み不足でインタビューを見る人にも物足りなくなる。

・丸投げする

自分はここまで調べたり考えたりしたけれどその先は調べてもわからないから専門家や経験者に聞くというのが質問する側の礼儀で、何の努力もせずに相手に丸投げして最善の答えを期待するのは横柄である。例えば「転職を考えてるんですけどどの業界がいいでしょうか?」みたいなふわっとした質問で丸投げされても相手のキャリアやスキルがわからないと答えようがないので、相談するレベルに達してないから出直しておいでと諭されて役に立つアドバイスはもらえないだろう。「〇〇業界への転職を考えて勉強しているんですけど、この資格はアピールになりますか?」くらいに具体的な質問なら転職エージェントが「〇級以上じゃないとアピールにならないよ、他の資格もとるといいよ」とか役に立つアドバイスができる。私はたまにおすすめの小説を聞かれることがあるけれど、私にとって面白い小説と相手にとって面白い小説は違うだろうし、せめて好きなジャンルくらい指定してもらえないと相手の好みがわからないのでおすすめしようがないし、私好みの変なのをおすすめしても文句を言われそうなのでやめとこうかなと気を使ってしまう。

・論理が飛躍している

芸人のラランドの「お母さんヒス構文」の「猫アレルギーだから帰省できないな」という子供に対して「じゃあ子猫を今すぐ捨てろっていうの?」と返答するヒステリックな母親のように、質問の論理が飛躍していて言ってもいないことを質問されてもそんなこと言ってないでしょと喧嘩になってしまう。猫アレルギーのせいで帰省できない→猫がいなくなれば帰省できる→猫を捨てろっていうの?と勝手に脳内変換しても、相手にはその論理は伝わらない。
相手を批判したいという意図がある人が感情的になると、言ってないことを批判的に問いただす藁人形論法の質問になりがちである。答えるほうも論理を理解しない感情的な馬鹿を相手にしても時間の無駄なので答える気がなくなる。ポスト・トゥルース(客観的な事実よりも虚偽であっても個人の感情に訴えるものの方が強い影響力を持つ状況)の現代社会だと感情的な物言いのほうがSNSの共感を集めるけれど、論理的でない言葉では建設的なコミュニケーションが成り立たないので、質問をするなら相手が言ったことを正確に引用して論点をずらさないように質問するべきである。

・自分に都合がいい答えを誘導する

女性の相談の「〇〇したほうがいいと思う?」みたいな質問は実際は相手の答えを求めているわけでなくて自分の決定に共感して後押ししてほしいだけだったりして、想定した答えと違うと不機嫌になったりする。すでに答えが出ているならいちいち質問しないで勝手にやりたいようにやればいいだけで、質問される側も迷惑である。
強引な営業マンは客が商品をいらないと言っても、「でも今使っている商品よりも安くなるほうがいいですよね?」みたいな質問で答えを誘導して言質を取ろうとして、相手を質問攻めにして疲れさせる。このように相手の思考を先取りして相手に考えさせる時間を与えずに答えを誘導するのでは相手の本音を聞けないので、相手の疑問を解決して信頼を得ることはできない。短期的には成果がでるかもしれないけれど、長期的に見たら相手に不信感を残して次の取引にはつながらないかもしれない。

・質問が長すぎる

前置きや自分語りが長かったりして、何を尋ねているのかはっきりしないのは質問としてはだめである。特に記者会見やシンポジウムとかでは相手への質問をする機会と自分の意見を言う機会を混同してはだめで、質問したい人が大勢いるときは10-30秒くらいで簡潔に要点を1-2個質問して、他の人の質問の機会を奪ってはいけない。

・テーマと関係がないことを聞く

しばしば芸能人が映画の発表の記者会見をしているときに芸能リポーターが役者の不倫とかの映画と関係がないプライベートについて質問して司会に咎められたりしているけれど、記者会見の趣旨と関係がない質問をするのはマナー違反である。

●小説と疑問

言葉自体が論理的だけれど、言葉で書かれたフィクションである小説は他の芸術以上に論理の積み重ねでできていて、小説の内容に関するあらゆる疑問は論理的に説明しうる。「いつの時代の話なのか?」「舞台はどこなのか?」「登場人物は誰なのか?」は描写や説明に書かれているし、「なぜこの登場人物はこんな言動をするのか?」という動機や目的が起承転結のプロットになっている。ドストエフスキーが作者は小説に書かれていることをすべて知っていないといけないみたいなことを言っていたような気がするけれど、良い小説は作者が小説内の事を完全に把握していて読者の疑問に答えるように十分に説明しているものである。本格推理小説は読者の疑問に答えている小説の手本で、探偵が推理の根拠にした情報はすべて読者にも開示されていて読者が証拠や証言を疑問に思って推理を検証しようとしたときに確認できるようになっていて、犯人は誰なのかという最大の疑問も最後にちゃんと答えがわかるようになっているので、満足感がある読書体験になる。
逆にいうとだめな小説は作者のメタ認知能力が低くて読者の目線で作品の推敲ができていない。小説家は自分の作品に対して「これでいいのか?」「もっといいやり方はないのか?」と批判的になるべきで、作品を読者に見せる前に読者が疑問を持ちそうな部分を予想して答えを示すべきである。疑問だらけで答えが見つからないと読者はストレスがたまるし、読者が疑問に思うタイミングにちょうどよく描写や説明を出さないと読者が状況を理解できなくて物語に引き込まれるような読書体験にはならない。最近滝口悠生の『死んでいない者』を読んだけれど、いつの時代のどこが舞台の誰の話なのかよくわからない状況を見せられて説明不足で疑問だらけでストレスがたまった。小説内の出来事を説明できるのは作者だけなのにその説明をさぼっていて、バスツアーのガイドが仕事をさぼってスマホをいじっていて目的地や見どころがわからないようなもので、運転手がドラテクにこだわったところで運転手の自己満足に過ぎなくて乗客は酔って気持ち悪くなるだけでバスツアーとしては面白くない。頭文字Dのドライバーくらい運転がうまいなら風景の説明がないまま峠でドリフトしてもジェットコースターみたいな面白さはあるだろうし10分で読み終わる短編小説ならそれでもいいけれど、中編小説や長編小説は名所めぐりの数時間のバスツアーなのでガイドが名所の説明をさぼって運転手が運転に夢中になって乗客を放置するのはだめである。
山田詠美は芥川賞の選評でだめな小説に対してはSo what?と言っていたように、「だから何なの?」「何を表現したいの?」「なんでこの方法にしたの?」というメタ的なコンテクストが読者に伝わらなくて疑問が残るままなのは芸術作品としてはだめで、読者が何かしらの答えとして解釈できるようにする必要がある。エンタメならただ起承転結があるだけでいいけれど、純文学ならSo what?という疑問に対する答えがないと見どころがなくて、カタルシスがなくてもやもやする読後感になる。じゃあどうすればSo what?という疑問に答えられる小説になるのかというと、オーソドックスなやり方だと主人公が教訓を得たり悩みを解決したりして感動しているところが見どころになる。作者が実体験で感動したことを基にすると、その感動は他の小説とは違うユニークなものになりうる。しかしぼんやりとルーチンワークをして生きていたら感動するような出来事はあまり起きないので、感動するような体験をするにはこの世界の人や物事に関心を持ってよく観察する必要がある。この世界をよく観察したら、動植物の名前も人の心理も社会の仕組みもわからないことだらけで疑問が出てくるはずである。疑問について取材すれば物知りになれるし、物知りだからこそ読者の疑問に答えられる物書きになれるわけである。





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最終更新日  2023.06.16 06:52:19
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