蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

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カテゴリ: 韓流ドラマ&映画
宗太が幼稚園に行くと、ソンジェは家を出た。

外科病棟にやってきた。懐かしいというのも変な話だが、5年前バイクにはねられて入院したときのことをソンジェは思い出していた。
葉子が頻繁に見舞いに訪れてくれた。まだ先のことは考えられなかったあの頃。ただ葉子のことが好きだという想いだけがソンジェの心を膨らませていた。
そして今・・・。

昭彦のいる医局の前まで来て、ノックしようと手を上げる。
中から声が聞こえてきた。
「まったくお前は、モノに当たりゃいいもんじゃないだろう。いいたいことがあるなら、はっきり言いなさい」
「もっとかあさんのこと、ちゃんと見てやれよ」

「昨日だってかあさん、姉さんや皆のことを考えて、一睡もしてないんだよ」
和哉くんだ・・・ソンジェは昨日、姉の志保を助けようと必死にホストたちに飛びかかっていた少年を思い出した。
彼は葉子さんの味方だ。少し安堵する。

昭彦に相手にされずに出てきた和哉に、ソンジェは微笑みかけた。
「こんにちは」
2人で廊下を歩く。
「ごめん、僕のせいで・・・」
「別にあんたのせいじゃないから。うちの家族がバラバラになったの。昔からだめだったんだよ、おやじとかあさん」
和哉の言葉が逆にソンジェを辛くさせた。
『僕が状況をもっと悪くしたんだよね。それでなくても葉子さんは辛い立場にいたのに・・・』
「かあさん、自分の打ち込める陶芸見つけてさ。それ自分の力で続けるために朝早くから働いて。俺はかあさんすごいと思うんだ。人からなに言われても自分の信念まげないっていうか、そうまでしても好きな陶芸に打ち込めるって言うの。そういうの俺ないし」

『葉子さん、貴女はそんなにも陶芸を愛してくれているんだね。僕と貴女をつなぐ赤い糸の陶芸を、とても大切にしてくれて・・・。そこには僕への愛も含まれていると思ってもいいの?』
葉子への想いを封印しようと決心したのに、また心が揺れる。

「あ~あ、俺って家族のこと気にしすぎかな?姉さんにもよく言われるんだ。あんたは人のことをとやかく言いすぎて、ウザイって。そんなことわかっているんだよね、俺も。でもどうしてもさ、家族なんだし。あ、そうだ。昨日は助けてくれてサンキュー。」
「怪我、ダイジョウブ?」
「ああ、これで2度目だね」

和哉が葉子の傍にいてくれたら大丈夫だ。ソンジェはそう思った。葉子を見守るつもりで日本にやってきたが、佳織や宗太と暮らし始めて、ソンジェにも背負うものが出来てしまった。葉子もこの5年間、何事もなく家族と平和に暮らしていたのだ。これ以上自分が出る幕はない。

これで身を引く決心ができた。
「じゃ」
立ち上がった和哉に、ソンジェは声をかけた。
「いつかきっと見つかる。やりたいこと。そしてそれ見つかったら、それ大事にして」
『そして僕の代わりにお母さんを守ってあげて。頼んだよ』

ソンジェは和哉を見送ると、再び医局へと足を運んだ。ドアをノックする。「どうぞ」の声に部屋に入った。昭彦が振り返り、驚いた顔になる。
「おまえ・・・」
ソンジェの方に歩いてくる。
「何しに来た」
「これ返しに来ました」
ソンジェは背広の内ポケットから、昨夜昭彦が無理やりねじ込んできた1万円札を取り出した。
「いらん」
昭彦は苛立たしそうな声で言う。
「このお金、僕は受け取れません」
ソンジェは昭彦の手に、1万円札をつき返した。
そのとき、ドアをノックする音がした。
「井手先生、ちょっとよろし・・・」
若い医者だ。昭彦の足元にちらばっている1万円札を見て、不審な目を向けてきた。
昭彦はあわててソンジェを部屋の外に連れ出した。
「迷惑だ、帰ってくれ」
「あの・・・もっと家族の話、聞いてあげてください。いろいろ、悩んでます」
「お前がうろつくと皆が不幸になる。2度とうちの家族に近づくな」
昭彦の言葉が、胸に響く。自分が葉子の前に現れたために、皆が傷ついた。そして1番傷ついたのは、最愛の人葉子なのだ。

ただ葉子の顔が見たかった。彼女の顔を見て、自分の気持ちに踏ん切りをつけたかった。
ソンジェは安土に向かった。





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最終更新日  2005/10/22 12:01:03 AM
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