蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

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2005/11/16
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カテゴリ: 韓流ドラマ&映画
ソンジェは全速力で葉子との思い出の公園に向かった。

ソンジェは葉子の胸のうちを考え、いてもたってもいられなくなっていた。
『葉子さん!』

息を切らせて公園に着く。暗闇に目をこらすと、あのベンチに人影が見えた。
うなだれて座っている葉子だった。ソンジェは葉子の元へ急ぐ。
足音に気づいたのか、葉子が顔を上げた。
『葉子さん、なんて寂しい目をしているの?』
ソンジェは葉子の瞳の色で、彼女が受けた心の傷の深さを知った。


「ソンジェ・・・」
どうしようもない想いがこみ上げてくる。
『このまま貴女を抱きしめられたら・・・。貴女の心の傷を少しは癒すことができるかもしれないのに・・・』
ソンジェは自分の無力さが歯がゆかった。
葉子はソンジェの視線をはずし、去っていこうとした。
「葉子さん・・・」
ソンジェはとっさに葉子の腕をつかむ。その細い腕がソンジェの胸を騒がせた。
『葉子さん・・・』
「離して」
葉子はソンジェの心の揺れを拒否するように、腕をふりほどく。
「探したんです、葉子さんのこと。由紀さんが心配してました」

「どうしたの?」
心配になったソンジェは背をかがめて葉子の瞳を覗き込む。
「何でもないの、帰って」
葉子はソンジェを拒否したままだ。
『なんでもないわけないじゃないか、葉子さん。こんなにも貴女の瞳は悲しい色をしているのに』

『葉子さんをこのまま放っておけるはずないよ。どうしたら貴女を慰めることができるんだろう?』
本当ならば、傷心の葉子を抱きしめ口づけたい。冷え切った心と体を自分の肌で温めたい。そうできればどんなに幸せだろう。
しかし今のソンジェには、到底出来ないことなのだ。
『どうしたら貴女を慰めることができるの?葉子さん』
ソンジェは上着を脱ぎ捨て、公園の階段に立った。
「敬礼!」
軍隊にいた時の訓練を再現する。
「僕、軍隊にいた時、何度も逃げたいと思いました。でもいつも葉子さんのことを思ってがんばりました」
『貴女と井手先生との間で何かあったんだよね?葉子さんは自分のこと、必要ない人間だって思ってない?貴女が僕にとってどんなに大切な人なのか、教えてあげるよ。だから、もう悲しい顔はしないで』
ソンジェは一晩中、兵役中に受けた訓練を葉子に再現して見せた。そしてこの厳しい訓練を乗り越えられたのは、葉子への想いがあったからこそだと、伝え続けた。
葉子は微笑みながらソンジェを見つめている。顔色が少し良くなったようだ。
『葉子さん、元気を出して。でないと僕は貴女のことが心配で、忘れる・・・なんてことはできない。消しても消しても、貴女への想いはどこからか滲み出してくる泉のようなんだよ』

空が明るくなってきた。
ようやく葉子の顔に赤みが差してくる。彼女はベンチから立ち上がった。
「ごめんね、佳織さん心配しているわよね」
「ダイジョウブ」
葉子は微笑んだ。
「ソンジェ、ありがとう」
ソンジェはほっとした。
「葉子さん、元気出して」
葉子の顔をのぞきこみながら言う。
「それじゃ」
葉子は歩き出した。
「さよなら」
ソンジェは小さくなっていく葉子の背中を見送っていた。
『葉子さん、貴女が井手先生と幸せに暮らしてくれないと、僕はまた貴女を求めてしまいそうだよ。僕には護るべき者がいるというのに・・・』

家に帰り、台所で水を飲んでいると、佳織が後ろに立っていた。
「ただいま」
「どうしたの?帰ってこないから心配したんだよ」
佳織の言葉に、ソンジェはぎくりとした。
「お客さんに誘われて」
とっさに口走ってしまった。
「嘘、店に電話したんだから。貴方途中で帰ったって。どこへ行ってたの?宗太、ゆうべは熱出して大変だったの」
ソンジェの顔色が変わる。宗太の枕元に行った。
宗太はもう熱が下がったのか、すやすやと寝息をたてていた。
「ごめん、宗太」
ソンジェの横に座り、再び佳織が詰問する。
「ねえ、こんな時間までどこにいたの?電話もくれないで」
「葉子さんと会っていた」
「え?」
佳織の表情が曇る。
「葉子さん家を出ていなくなって、探していたんだ」
「・・・」
「佳織本当だよ」
佳織は固い表情でソンジェに言う。
「ソンジェ」
「何?」
「私たち、ほんとにこのまま結婚してもいいのかな?なんか自信なくなっちゃった」
ソンジェは心の中を氷が落ちてゆく感覚にとらわれていた。
上着の内ポケットにしまいこんでいた婚姻届を出して、佳織の目の前に広げる。
「佳織、僕と葉子さんは友だち。僕は佳織と結婚するんだよ」
『佳織、ごめん。ソンウ、ごめん。僕はどうしてこうも皆を苦しめてしまうのだろう。葉子さんへの気持ちを今度こそ封印しなくては・・・』
佳織がソンジェを潤んだ瞳で見上げる。
「だからもう心配しないで。そうだ、今度結婚写真を撮りに行こう。佳織のチマ・チョゴリ姿、似合うだろうな・・・」
佳織はうれしそうに頷く。
ソンジェは「これでいい」と心の中で何度も呟いていた。


写真館に宗太と佳織と3人でやってきた。佳織は更衣室でチマ・チョゴリに着替えている。ソンジェもバジ・チョゴリに着替えた。
佳織が更衣室から出てくる。鮮やかな色彩のチマ・チョゴリが目にしみた。
ソンジェは再び葉子を思い出す。
2人でコリアンタウンを歩いた時、葉子がチマ・チョゴリを試着したんだったっけ・・・。
彼女が試着室から出てきた時、心臓が止まるかと思うほど胸がときめいた。思わず口走ってしまった「チョンマ イプダ」(とても綺麗です)という言葉。
何もかもが遠い昔のように思われた。
ソンジェはチマ・チョゴリ姿の佳織に葉子を重ねてしまった。
「チョンマ イプダ」
「ソンジェもかっこいい」
佳織は素直な笑みを浮かべている。
ソンジェは自己嫌悪に陥った。
『ごめん、佳織・・・』
「宗太、ママ綺麗だろ?」
自己嫌悪を打ち消すように、ソンジェは宗太に言った。
「うん、ママ綺麗」
宗太はにこにこしながら佳織を見ている。
「宗太・・・ありがとう、ソンジェ」
佳織の目に涙が浮かんだ。

「よろしいでしょうか?」
写真館の主人が声をかけてきた。
「はい」
「それじゃ、こちらに並んでください」
ソンジェは佳織と並び、前に立つ宗太と一緒に微笑む。
「はい、写しますよ、スマイル!」
写真館の主人の声がスタジオの中に響いた。

『これでいいんだ・・・』
微笑んだ表情のまま、ソンジェは心の中で呟いた。
『こうやってだんだん葉子さんを忘れることができるんだ・・・きっと』





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最終更新日  2005/11/16 01:12:37 AM
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