蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

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2006/12/14
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カテゴリ: 韓流ドラマ&映画
73話



心配そうな顔で葉子が尋ねる。
「あの人は?」
「帰りました」
泥で汚れた手を洗いながら、ソンジェは答えた。

「ごめんなさい、驚かせて」
「葉子さん、悪くない」
ソンジェは切ない瞳を葉子に向けながら言った。

部屋を横切る。

志保と和哉、そして葉子が無邪気な笑顔で、こちらを見ている。
微笑ましい母と子どもたちの姿だった。

ソンジェの頭の中に、さっきの昭彦のことばが甦る。
「お前は最初から俺の女房を奪うつもりだったんだろう」
昭彦の瞳の奥に、葉子への愛が見えた。
『彼もまた不器用にしか葉子さんを愛せないんだ』

愛するものを失う苦しみ。
その恐怖におののいている瞳だった。
ソンジェは5年前に自分が味わった、葉子との身を切られるような別れを思い出す。
今の昭彦も、5年前の自分と同じ気持ちに違いない。
ソンジェは誰よりもその辛さを知っている。

昭彦との別れは、同時に子どもたちから母親を奪ってしまうことを意味する。
苦しみ悶える昭彦や志保、和哉の気持ちを知りながら、自分は葉子と暮らせるのだろうか。

「ねぇソンジェ。私はあの人と別れる。そう決めたの」
葉子がソンジェの背中越しに言った。
ソンジェは写真から目を離し、葉子の方へ振り向く。


ソンジェは自問する。
自分は再び葉子と別れて生きていけるのだろうか。
葉子のぬくもりのない寝床で、身も心も癒された眠りを享受できるのだろうか。

「私は貴方と一緒に・・・いる」
ソンジェは葉子がたまらなくいとおしく思えた。
このまま抱きしめて、『いつまでも一緒にいよう。一緒に利川に行こう』
そう言いさえすればいいのだ。

5年間、これほどまでに愛し、求め続けた葉子との暮しが目の前にある。
この手を伸ばし、力一杯に葉子を抱きしめたい。
今まで葉子を求め続けた乾いた日々が、癒されるというのに。

昭彦のあの瞳が脳裏を離れない。
ソンジェは葉子を抱きしめることも出来ず、ただ立ちつくしていた。






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最終更新日  2006/12/15 01:40:23 AM
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