2007.01.09
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正月気分は紅白は見たし箱根駅伝も見たし、朝から晩まで酒を飲んでいた日もあった。正月を満喫したようでもあるが何かが物足りない。そういえばすごろくも福笑いも、凧揚げも羽子板もしていない。ただしこれは今年に限ったことでも、我が家に限ったことでもなく、どの家庭の光景からも、どの人の心の中からも忘れられている。


筆と墨と紙を買ってきた。ついでにすずりと文鎮もだ。
筆だけはちょっと高かったが、あとは何百円かで買えた。
習字は中学のころ以来やっておらず、下手だったし大嫌いだった。字をうまくかかなきゃいけない意味もわからなかったし、型にはまった書き方を強いられることも窮屈だった。普段書く字もめちゃくちゃだし、上手く書きたいという意識もない。
なぜ急に習字あるいは書道に興味が沸いたのか、どこをどう切り取ってみても、自分のルーツからは見出すことができない。
しかしどういうわけか筆と墨で、文字を書きたくなったのだった。

フェルトだかウール地だかの下敷きに半紙をのせて文鎮でおさえる。その右横には墨汁をたらしたすずりが置かれている。昨今のすずりは石製ではなくプラスチックで出来ていて、長方形ではなく丸いタッパのような形をしている。
筆を墨液に浸して穂先をならす。ならさなくても新しい筆だからちゃんと尖がっているのだけれどもなんとなくならす。この時点でまだ書くことが決まっていないから、ならしながら何を書くか考えている。何気ない所作のようで筆ならしは、なるほど考えをまとめるときの手持ち無沙汰を紛らわせている。それに気持ちを筆先に集中させる効果があるかもしれない。とそんなことを考えているから一向に書きたい字が思い浮かばないのであった。

しかしはたして練習と称し、なかなか目的を遂げられないでいることへの苛立ちと折り合わせるために、安易な気持ちで筆を走らせてしまっていいのだろうかと迷った。そしてそのように心に迷いを抱えたままなにか字を書いてしまうということは、この「書道」というスタイルの基本方針に反するのではないかと葛藤した。
ところが一旦すずりから離れた筆には紙以外の行き場がなく、無計画な筆は白い紙の上に着地した。黒い液体が暴力的に白い紙を汚していく様には破壊とか侵略とかいった言葉がふさわしく少し恍惚とした。
熱中しながら筆を走らせている中で、手ごたえを感じてもいた。割とうまく書けるような気がした。まんざらでもないかもしれない。
そうして「天」の文字が描かれた。
紙を縦横4区画に区切った右上にかろうじて収まってはいたものの、文字単体としても紙への収まり具合として見ても、あまりにもいびつな「天」の字だったので愕然とした。書いている最中のイメージとも乖離していたし、一般的な評価にひいき目を加味してみても、あまりにも下手くそな「天」だった。

ショックで10分ぐらい、半紙に描かれた「天」を見つめ続けた。しかしいくら見たところでいいところは一つも見つからなかった。紙をくしゃくしゃにしてもう一度やり直したくなった。しかしそれもためらわれた。そんなことをしたら一生「天」を書き続ける羽目になりそうな気がした。かといって「の川」とも続けたくなかった。
「天城越え」
ほとんど混乱していたから、なぜそう書こうと思ったのかもうわからなくなってしまっていた。しかも「越」は正確な漢字を覚えておらず、この世に存在しない文字になった。
ここまでくるともう混乱はおさまり逆に開き直って、左端の開いたところに「石川さゆり」と名前を入れたりしたが笑えなかった。
下手な現実を受け入れる冷静さと、下手なことを認めたくない情熱の、どちらかというと情熱が勝る。思い描く「天城越え」をどうしても書きたくなってきた。といっても美しい「天城越え」のイメージがないから上手く書けないのだろうし、そもそも正確な漢字を知らない。パソコンで楷書フォントを拡大した紙を印刷しそれを「おてほん」とした。なるほど手本の文字と、そらで書いた「天城越え」を比べてみると書き出しの位置やバランスがまるで違うことがわかった。しかも「城」の字も間違っていた。

手本を見ながら2枚、3枚と書いていっても、手本通りにはならなかった。

ふと疲れを感じた。書き始めてから3時間以上経っていた。肩が凝っていたし身体がこわばっていた。でもこの感じは悪くない。
結構、はまる。





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最終更新日  2007.01.09 23:34:58
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