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2023.07.15
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テーマ: 読書(8637)
カテゴリ: 本日読了








〈DATA〉 新潮文庫
著者 太宰治

昭和25年11月20日  発行
平成15年5月30日 百四刷改版
令和4年3月20日 百四十一刷


〈私的読書メーター〉
高名な作品だけど初めて読んだ。明治末年、津軽の金木という所、津島修治なる聡明な人間に生まれてくることの難儀さを想う。父は貴族議員も務めた大地主。三十人の使用人に囲まれ豪邸に住む子ども。属する世界の乖離の淵を覗けば、王族のごとき暮らしは貧しい農民の搾取の上に成立する事実が見える。優しい心根を育む何不自由無いオーチャードという母胎。その優しさが含羞を含んで、虐げられた人びとへの慚愧の念へと固まり身も財も潰す苦しさ哀しさの往復運動、下々からすれば諧謔やら無頼やら。太宰に殆ど重なる直治の遺書にそれが鮮やか也。〉


版を重ねている。沢山の読者を得ている。
よく読まれているということ?

こんな重苦しい世界を描いているのに。
もっともただ暗いだけではない。

かずこの健康な生きる力は、貴族的な母と狂乱蕩尽弟の直治という〈光と闇〉に不思議な日の差し方を投げて交差する。

一つの世界を創造したのだ、確かに。

蛇の卵を焼く、薪のボヤ、竹の子暮らし、西片町…




実際、 西片町 はには多くの作家、編集者、学者、音楽家が住んでいた。木下杢太郎のような人も。牧野富太郎も。

太宰の早い頃の作品を読んで作家になることを諦めた、三島由紀夫を育てた木村徳三という編集者も。

その地に、この一族のお屋敷はあった。

一族とは、太宰治が考えた文学や絵画、音楽などの芸術の血脈で繋がる一族だろう。

故に『斜陽』の聖家族である、母、姉、弟を含め、太宰を取り巻くその時代の、芸術デモーニッシュが大小投影されたものでもあるだろう。

投影される光の源へ。
エセ芸術家の妻へのプラトニックな恋慕は、彼女のプロフィールを冬の夕空を背景に、横たわる位置から仰望したとき頂点に達する。

全く自然な、彼女から差し出された毛布の親切にヒューマニティーの蘇生を見る直治は、戦争末期の焦土、焼け跡の人心荒廃の現実の福音となり得た。

本当に大切なその人を思い浮かべ、姉かずこに、道徳の過渡期の犠牲者と理解される直治の死

道徳の過渡期!

新しい道徳が生まれて来なければ人はどうやって生きていけるだろう。

「革命は、いったい、どこで行われていやのでしょう。少なくとも私たちの身の廻りに於いては、古い道徳はやっぱりそのまま」

あれだけの敗戦があっても古い道徳は残り人びとは変わらない。

この文章を読むと呆然とする。新しい道徳は未だ生じないのに、利権だけは蛇より聡く素早く雑草よりも強かに蔓延る。

3.11が起きても、古い利権は残り人びとは変わらない。のだ。これ以上の犠牲者は要らないのに。


「この世の中に、戦争だの平和だの貿易だの組合だの政治だのがあるのは、なんのためだか、このごろ私にもわかってきました」

かずこは 「女がよい子を生むためです」 と結論付けた「よい子」。

私はこの言葉にとても引っかかった。

しかし、かずこが太田静子その人であれば、その前に心中を運命付けられた赤ん坊の父親である太宰は、よい子が授かるようにという願いよりもはるかに強い言霊を静子に与えたのではなかったか。

そう、腑に落ちた。

「マリヤがたとい夫の子でない子を生んでも、マリヤに輝く誇りがあったら、それは聖母子になるのでございます。」

敗戦後に、かずこのこの言葉に救われた女性がどれだけあったろう。いや、今でも。

だからよい子を生んで、と祈らずにはいられない。


芥川賞がとれなかった。

そのことに衝撃を受け、入院治療する津島修治さんは実に繊細だ。

男とは哀しい存在であることを如実に体現した人だなあ。













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最終更新日  2023.07.15 08:43:30
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