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2013.08.25
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【男はつらいよ~寅次郎恋歌~】
20130825

「庭一面に咲いたりんどうの花、あかあかと明かりのついた茶の間、にぎやかに食事をする家族たち・・・私はその時、それが・・・それが本当の人間の生活ってもんじゃないかと、ふとそう思ったら、急に涙が出てきちゃってね。人間は絶対に一人じゃ生きていけない。逆らっちゃいかん。人間は人間の運命に逆らっちゃいかん。そこに早く気がつかないと、不幸な一生を送ることになる。分かるね、寅次郎君。分かるね?」
「へい、分かります・・・」


シリーズ8作目は、初代おいちゃん役の森川信が最後の出演を果たしている。
そういう意味で、『男はつらいよ』シリーズの初期作品の節目ともなっている。
森川信はコメディ俳優であり、大阪を拠点に森川信一座として活躍した際には、作家の坂口安吾に絶賛されたとのこと。(ウィキペディア参照)
それもそのはず、おいちゃん役は3回入れ替わったけれど、あの寅次郎の親族に相応しいキャラを持ち合わせていたのは、何と言っても森川信だけだ。だんご屋の主人とはいえ、あくせく働く様子はなく、昼寝をしたり、タバコを吸ったり、タコ社長とくだらないお喋りをしたりと、どこか寅次郎の気ままな性格とオーバーラップするのだから。これが血縁というものなのだろう。
渥美清と森川信のコミカルな演技合戦は、この作品で最後となるのが何とも惜しい。

8作目のストーリーは、これまでになくテーマがはっきりしていたように思える。
それは、ささやかな日常生活にこそ本当の幸せがあるのだという、家族団らんへの憧憬みたいなものだ。
高度成長期まっただ中の、ややもすれば働き過ぎのお父さんたち、あるいは金儲けに目のくらみがちな日本人全体に向かって、平凡な日常生活にこそ己の存在価値があることを伝えたかったのかもしれない。

話はこうだ。

さくらはすぐに博に知らせると、二人は急遽、岡山へ行くことにする。
二人が岡山の実家へ到着した時には、すでにお通夜が始まっていた。葬儀当日、親族側に座っていたさくらを驚かせたのは寅次郎だった。というのも、たまたま岡山で商売をやっていたところ、博の母が亡くなったことを知り、焼香をしに来たのだという。喪服を着ていない普段着の寅次郎に、さくらは恥ずかしさやら何やらで戸惑ってしまう。
葬儀が済んで、博やさくらが東京へ帰った後も、寅次郎は何となく一人残された博の父親のことが気にかかり、岡山へ居ついてしまう。
そんなある晩、博の父親がしみじみと語るのは、自分のこれまでの人生を振り返り、平凡な暮らしこそが幸せなのだということに気づいたとのこと。
寅次郎に人並みの生活をするように、遠回しに忠告するのだった。
その話に感じ入った寅次郎は、翌朝には岡山を発ち、柴又へ帰郷する。ところが例によって寅次郎は題経寺のすぐそばで喫茶店を営む美人店主・六波羅貴子に一目惚れしてしまうのだった。

本作でのマドンナは、池内淳子である。
この女優さんもまた薄幸な感じがして、その上、上品でしかも後家さんという設定が憎らしいほどマッチしている。
寅さんが夢中になってマドンナの経営する喫茶店に足を運ぶのもよく分かる。
今回は、こっぴどいふられ方をするわけでもなく、二枚目の恋人が現れるでもない。単に寅さんがこの辺が潮時だと見切りをつけるのだ。
それはおそらく、マドンナ・貴子が「あちこち旅に出かけられるなんて羨ましい」と言ったひとことで、心が離れたのではなかろうか。つまり、そんなに甘いものではないのだと、喉まで出掛かりながら、しょせん自分と貴子とは住む世界が違うのだとあきらめの境地になったのではなかろうか。


コメディ色は抑えられ、ヒューマン・ドラマの域にまで達した、山田洋次監督渾身の一作に思えた。

1971年公開
【監督】山田洋次
【出演】渥美清、倍賞千恵子、池内淳子

寅さんシリーズ『男はつらいよ』
20130707
コチラ


寅さんシリーズ『続・男はつらいよ』
20130714
コチラ


寅さんシリーズ『男はつらいよ フーテンの寅』
20130721
コチラ


寅さんシリーズ『新・男はつらいよ』
20130728
コチラ


寅さんシリーズ『男はつらいよ~望郷篇~』
20130804
コチラ


寅さんシリーズ『男はつらいよ~純情篇~』
20130811
コチラ


寅さんシリーズ『男はつらいよ~奮闘篇~』
20130819
コチラ


20130124aisatsu





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最終更新日  2013.08.25 05:53:13
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