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2012.10.10
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カテゴリ: 読書案内
【白河夜船/吉本ばなな】
20121010

◆孤独な闇が人々を癒す

80年代に『キッチン』でデビューした吉本ばななだが、この作家はその筆名でいくらか損しているように思える。“ばなな”という名前は可愛い響きのある反面、軽薄さを隠せないし、何となく若い子向きな作品を匂わせてしまうからだ。
デビューした当時は20代の若さと新鮮さに溢れた吉本ばななも、今や50歳に手が届こうとしている。月日の流れは誰も止められるものではない。
吉本ばななの世界観をざっくりとでも知りたい、今さらだけど読んでみたいという方には、迷わず『キッチン』をおすすめするところだが、もう一歩踏み込んだところで、この秋の夜長を楽しみたいという方に『白河夜船』を推薦したい。
初期の頃の作品で、しかも短編と来ている。夜という孤独な闇を、人間にとってかけがえのない空間であるかのように、無限の魂に響き渡らせる文章で綴っている。

主人公の寺子は、ものすごく疲れている。精神的に。いくら寝ても寝足りないぐらいだ。

付き合っている彼氏は妻帯者で、寺子はいわば日陰者。でも彼の奥さんは病院で寝たきり状態。彼も寺子も、半ば、奥さんが死んでくれるのを待っているような状況に近い。
一方、寺子の親友・しおりは風俗嬢で、何らかの理由で自殺してしまい、寺子はずっと喪失感を抱えて生活している・・・というストーリーだ。

この作品を読んでいると、そこかしこからバブル期の淡い記憶がよみがえって来る。

『私には大した額ではないが貯金があったし(中略)彼が毎月、びっくりするほどの額を振り込んでくれるので、生活は楽だった』


漠然とした不安や、底なしの孤独感、絶え間ない倦怠感、こういう辛さは物質的なものに恵まれれば恵まれるほど浮き出て来る闇の部分かもしれない。
吉本ばななの描くヒロインは、いつだって疲れている。無理矢理の笑顔も、健気に生きる姿も、全て孤独の裏返しなのだ。
頑張る姿勢を否定しないためにも、世の中に溢れる心の疲労を少しでも緩和したい時に読みたい小説だ。

『白河夜船』吉本ばなな・著


~読書案内~   その他

■No. 1 取り替え子/大江健三郎 伊丹十三の自死の真相を突き止めよ
■No. 2 複雑な彼/三島由紀夫 正統派、青春恋愛小説!
■No. 3 雁の寺/水上勉 犯人の出自が殺人の動機?!
完璧な病室/小川洋子 本物の孤独は精神世界へ到達する
■No. 5 青春の蹉跌/石川達三 他人は皆敵だ、人生の勝利者になるのだ
■No. 6 しろばんば/井上靖 一途な愛情が文豪を育てる

新潮日本文学アルバム/太宰 治 パンドラの匣を開け走れメロスを見る!





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最終更新日  2012.10.18 14:48:03
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