全37件 (37件中 1-37件目)
1

アメリカをはじめとする西側諸国の政府や有力メディアはシリア政府軍が自国民を虐殺、化学兵器を使っていると言い続けてきた。その嘘は暴かれ続けているが、ここにきて新たな情報が出てきた。 西側ではSCD(シリア市民防衛/通称白いヘルメット)やアル・カイダ系武装集団の話に基づき、2018年4月7日にドゥーマでシリア政府軍が化学兵器を使用したと主張してきた。本ブログでは繰り返し書いてきたが、SCDは武装集団の医療部隊的な存在。リビアのときのように、アメリカ/NATO軍が介入する口実として化学兵器の話を流してきた。 この出来事では、OPCW(化学兵器禁止機関)の調査チームが武装勢力の妨害の中、現地へ入って調査している。同機関は今年、曖昧な報告書を公表しているが、OPCWで専門家の中心的な存在であるイラン・ヘンダーソン名義の文書のニュアンスは違った。化学物質が入っていた筒状の物体は航空機から投下されたのではなく、人の手で地面に置かれていたことを証拠は示していると指摘している。 ここにきてウィキリークスが明らかにした文書には、予定された結論が導かれるように専門的な分析や目撃証言が隠されたとされている。 この「攻撃」に関する情報源はSCD(シリア市民防衛/通称白いヘルメット)やアル・カイダ系武装集団のジャイシュ・アル・イスラム。シリア政府はロシア政府のアドバイスに従い、早い段階で化学兵器を廃棄していたので、その話に説得力はない。余りに事実と矛盾する話だったこともあり、西側のメディアの中からも疑問の声が挙がった。 例えば、イギリスのインディペンデント紙が派遣していたロバート・フィスク特派員は攻撃があったとされる地域へ入り、治療に当たった医師らを取材、その際に患者は毒ガスではなく粉塵による呼吸困難が原因で担ぎ込まれたという説明を受けている。毒ガス攻撃があったことを示す痕跡はないという。 また、アメリカのケーブル・テレビ局OANの記者も現地を調査し、同じ内容の報告をしている。ロシア系のRTは西側の有力メディアが化学兵器の被害者だとして報道した子どもとその父親を取材、やはり化学兵器が使用されたという話を否定している。 ところで、シリア政府軍が化学兵器を使っているという宣伝をバラク・オバマ政権が始めたのは2012年8月。アメリカ軍が本格的に介入する「レッド・ライン」は化学兵器の使用だと語ったのだ。その月には、同政権が進めていたシリアの「穏健派」を支援するという政策が危険だとアメリカ軍の情報機関DIAがホワイトハウスへ報告している。 DIAは報告の中で、シリアで政府軍と戦っている武装勢力はサラフィ主義者やムスリム同胞団が中心だと指摘、アル・ヌスラ(AQIと実態は同じだと指摘されていた)が戦闘の主体だとも書いていた。ちなみにアル・ヌスラの主力はサラフ主義者やムスリム同胞団だ。 2012年12月には国防長官だったヒラリー・クリントンがシリア政府軍による化学兵器使用の可能性を口にする。自暴自棄になったバシャール・アル・アサド大統領が化学兵器を使うかもしれないと言ったのだ。年明け早々、イギリスのデイリー・メイル紙に、化学兵器に使用を口実にしてアサド政権に対する軍事行動を始める作戦をオバマ大統領は許可したという記事が掲載された。(すぐに削除) その後、化学兵器が使われたという話は繰り返し出てくるものの、いずれも否定されている。
2019.10.31
アルゼンチンで10月27日に行われた選挙の結果、新自由主義に反対する、つまりアメリカの巨大資本からの独立を目指すアルベルト・フェルナンデスが勝利した。副大統領にはアメリカ支配層から攻撃され続けているクリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネルが就任される予定だ。 現在、ラテン・アメリカでは再植民地化を目指すアメリカ巨大資本が攻勢をかけている。かつてアメリカから独立しようという勢力を引っ張っていたブラジルでは新自由主義に反対していた労働者党のルイス・シルバとジルマ・ルセフが潰された。ルセフはブラジル上院の議員たちによって大統領の職務を停止させられ、シルバは刑務所の中だ。 ルセフを失脚させて大統領に就任したミシェル・テメルはアメリカ巨大資本の手先として知られ、彼を含むクーデター派の中心グループは犯罪捜査の対象になっていた人物。そのテメルは今年3月に逮捕されたが、新自由主義の体制は維持されている。 インターネット・マガジンのインターセプトが公表した映像によると、新自由主義に基づく政策、つまり私有化や規制緩和によって富をアメリカやブラジルの富裕層や巨大資本へ集中させようという計画を進めなかったルセフをアメリカ支配層は懲罰するとテメルは語っている。 職務停止の決定が出る直前、ルセフ大統領はテメルだけでなくエドアルド・クニャ下院議長もクーデターの首謀者だと批判していた。クーニャ議長はスイスの秘密口座に数百万ドルを隠していることが発覚している。 また、今年1月から大統領を務めているジャイ・ボウソナル下院議員は軍事政権時代に拷問を行っていたカルロス・アルベルト・ブリリャンテ・ウストラを公然と褒め称えていた人物。軍事政権はアメリカ支配層が望む政策を推進するために樹立されたわけで、ボウソナルもアメリカ支配層の手先だ。 収監中のシルバにインタビューしたジャーナリストのぺぺ・エスコバルによると、シルバはブラジルをドル依存から離脱させるつもりだった。その考えを彼はアメリカ大統領だったバラク・オバマに伝えたところ、アメリカ側は激しく反応し、ブラジルの政府や主要企業に対するNSAの監視が厳しくなったという。 イラクのサダム・フセインにしろ、リビアのムアンマル・アル・カダフィにしろ、ドル体制からの自立を打ち出した政権は潰されている。 アメリカからの独立を掲げていたウーゴ・チャベスが大統領に就任した1999年から産油国のベネズエラも激しく攻撃されてきた。ネオコンなどはエネルギー資源を支配力の源泉と考え、そうした資源を産出する国を支配しようとしてきた。彼らが中東を軍事侵略している理由のひとつはそこにある。 チャベス政権を倒すため、アメリカのジョージ・W・ブッシュ政権は2002年にクーデターを試みたが、失敗している。そのクーデターで中心的な役割を果たした人物はイラン・コントラ事件に登場するエリオット・エイブラムズ、キューバ系アメリカ人で1986年から89年にかけてベネズエラ駐在大使を務めたオットー・ライヒ、そして国連大使だったジョン・ネグロポンテの3人。このクーデター計画を事前に知らされていたチャベス政権は潰されずにすんだ。情報を伝えたのはOPECの事務局長を務めていたアリ・ロドリゲスだ。 また、ウィキリークスが公表したアメリカの外交文書によると、2006年にもベネズエラではクーデターが計画されている。アメリカの支配システムに操られている機関を強化し、チャベスの政治的な拠点に潜入、チャベス派を分裂させ、それによってアメリカの重要なビジネスを保護してチャベスを国際的に孤立させるとされている。 チャベスは2013年3月に癌のため、58歳の若さで死亡。その際にアメリカは体制転覆を目論むが、それも失敗した。チャベスを引き継いだニコラス・マドゥロもアメリカの支配層から嫌われている。現在、反マドゥロ派の象徴として使われている人物はアメリカ政府から「暫定大統領」という称号を与えられたフアン・グアイドだ。 ブラジルがアメリカの巨大資本に奪われた後、2017年にはエクアドルでも新自由主義を推進するレニン・モレノ政権が登場し、リチウム資源で注目されているボリビアにもアメリカは揺さぶりをかけている。 それに対し、新自由主義が最初に導入されたチリ、金や石油を産出する資源国でクリントン家の利権にもなっているハイチなどでは新自由主義に反対する抗議活動が展開され、アルゼンチンではアメリカの巨大資本と戦ってきた勢力が大統領選挙で勝利した。腐敗しきっているブラジルやエクアドルの傀儡政権が安定しているとも言えない。 香港では新自由主義を求める反中国活動が続き、西側の有力メディアの支援を受け、「左翼」や「リベラル」といったタグをつけた少なからぬ人びともメディアに同調しているが、ラテン・アメリカの人びとは新自由主義に反対している。
2019.10.30
マックス・ブルメンソールというジャーナリストがアメリカで逮捕され、2日間留置された。ベネズエラの反政府派、つまりアメリカ支配層の手先の訴えによるもので、拘束されていた間、外部との接触が禁止されたという。 このジャーナリストはベネズエラにおけるアメリカの工作やパレスチナ問題などを調査、結果として有力メディアが偽情報を流していることを明らかにしてきた。アメリカやイスラエルの支配層に嫌われていることは間違いない。有力メディアが言うところの「ファクトチェック」とは、「大本営発表」に反する事実を排除することだが、そのターゲットになる情報を彼は伝えてきた。 4月11日にイギリス警察はエクアドル大使館へ乗り込み、内部告発を支援してきたウィキリークスのジュリアン・アッサンジを逮捕した。アッサンジはイギリス版のグアンタナモ刑務所と言われているベルマーシュ刑務所で拘束されている。 アッサンジを尋問しているアメリカ人は国防総省、FBI、CIAに所属している人びとで、BZ(3-キヌクリジニルベンジラート)という薬物が使用され、1日に22時間、あるいは23時間は外部との接触が禁止され、友人や親戚との面会はできない。弁護チームも監視下で会うことが要求されているほか、食べ物の差し入れや基本的な医療行為も拒否されているようだ。 彼の逮捕はアメリカ政府の意向だ。支配層にとって都合の悪い情報を入手し、公表したことが「1917年のスパイ活動法」に違反すると主張されている。アメリカ政府の主張が全て認められた場合、最大懲役175年になるという。 イラクでアメリカ軍のヘリコプターから非武装の人びとを銃撃して死傷させる様子を撮影した映像をウィキリークスは2010年4月に公表しているが、犠牲者の中にはロイターの取材チームが含まれていた。 この映像を含むイラク戦争の実態を明らかにする情報をウィキリークスへ提供したブラドレー・マニング(現在はチェルシー・マニングと名乗っている)特技兵は2010年5月に逮捕され、刑務所で過酷な扱いを受けたと言われている。 また、2016年の大統領選挙における不正を明らかにする民主党本部とヒラリー・クリントンの電子メールなどを公表し、バーニー・サンダースを負けさせる工作があったことを明らかにした。 権力者にとって都合の悪い情報を伝えるジャーナリストが犯罪者として扱われる時代に入ったと言える。権力者に容認される「スクープ」は情報操作のためのリークだと言えるだろう。欧米の有力メディアに対する信仰を捨てられない人は権力者に操られる。
2019.10.30
21世紀に入って再独立に成功したロシアをアメリカの支配層は再び属国化するため、2014年にはウクライナでネオ・ナチを使ってクーデターを実行する。政権の転覆には成功するが、戦略的に重要なクリミアの制圧に失敗、クーデターに反対する住民が多かった東部では戦闘が始まり、南部では反クーデター派の虐殺があった。 ウクライナを支配してロシアとEUを分断し、EUのアメリカ依存を高めると同時にロシアから市場を奪って経済を破綻させようとネオコンは計算していたのだろうが、失敗に終わる。ロシアは東を向いたのだ。 2014年に香港で反中国運動が盛り上がったのだが、その背後にアメリカやイギリスがいることを知った中国はアメリカから離れ始める。そのタイミングでウクライナのクーデターがあり、西側信仰が残っていたロシアでのEU離れにつながった。そしてロシアと中国は戦略的な同盟関係に入る。 この年、オバマ政権はシリアでダーイッシュ(イスラム国、IS、ISIS、ISILとも表記)を売り出し、残虐さを演出、リビアと同じようにアメリカ軍/NATO軍にシリアを大々的に攻撃させようとしている。 2011年10月にリビアのムアンマル・アル・カダフィを倒した後、オバマ政権は戦闘員と武器/兵器をシリアへ集中させ、反政府軍を支援する。そうしたオバマの政策を危険だと警告したのがアメリカ軍の情報機関DIAだった。 DIAは2012年の8月、シリアで政府軍と戦っている武装勢力はサラフィ主義者やムスリム同胞団が中心だと指摘し、反政府軍としてアル・カイダ系のアル・ヌスラ(AQIと実態は同じだと指摘されていた)の名前を挙げている。ちなみにアル・ヌスラの主力はサラフィ主義者やムスリム同胞団だ。 この報告書でDIAはオバマ政権の政策がシリアの東部(ハサカやデリゾール)にサラフィ主義者の支配地域を作ることになるとも警告、それはダーイッシュの出現という形で現実になった。2014年のことだが、その年にDIA局長だったマイケル・フリン中将は解任され、15年にオバマ大統領は国防長官や統合参謀本部議長を好戦派へ交代させる。そして2015年9月末にロシア軍がシリア政府の要請で介入、ダーイッシュは支配地域を急速に縮小させていく。 その前、2013年からオバマ政権は軍事介入を正当化させるために化学兵器話を宣伝するが、すぐに嘘だということが判明してしまう。(そうした話は本ブログでも繰り返し書いてきたので、ここでは割愛する。) それでも攻撃する姿勢をアメリカ軍は見せ、シリア近くの基地にB52爆撃機の2航空団を配備、さらに5隻の駆逐艦、1隻の揚陸艦、そして紅海にいる空母ニミッツと3隻の軍艦などの艦船を地中海へ派遣した。 対抗してロシア政府は「空母キラー」と呼ばれている巡洋艦のモスクワを中心に、フリゲート艦2隻、電子情報収集艦、揚陸艦5隻、コルベット艦2隻がシリアを守る形に配置したと報道された。 攻撃が予想されていた9月3日、地中海の中央から東へ向かって2発の弾道ミサイルが発射される。このミサイルをロシアの早期警戒システムがすぐに探知したが、2発とも海中に落ち、その直後にイスラエル国防省はアメリカと合同で行ったミサイル発射実験だと発表している。 事前に周辺国(少なくともロシア)へ発射実験が通告されなかったこともあり、実際にシリアへのミサイル攻撃を始めたのだが、何らかの理由で墜落した可能性がある。ジャミングなどECM(電子対抗手段)が使われたと推測されていた。 それを反省したのか、ドナルド・トランプ大統領は2017年4月6日にアメリカ海軍の駆逐艦、ポーターとロスから59機の巡航ミサイル(トマホーク)を発射させるが、約6割が撃墜されてしまった。2018年4月にはイギリスとフランスを巻き込んで100機以上の巡航ミサイルをシリアへ向けて発射したが、そのうち約7割が撃墜される。 それだけでなく、シリアでの戦争はロシア軍の強さと兵器の優秀さを人びとに知らしめることになった。ネオコンの好戦的な政策はドル体制を支える柱のひとつだったアメリカの軍事力に対する神話を崩すことになったと言える。その先にはドル神話の崩壊、アメリカ帝国の終焉が見える。(了)
2019.10.29
アメリカとソ連は1983年から84年にかけての時期に核戦争の寸前までいった。ロナルド・レーガンとユーリ・アンドロポフの時代だ。 アンドロポフは1984年2月に死亡、コンスタンティン・チェルネンコを経て1985年3月から西側を信奉するミハイル・ゴルバチョフが最高指導者になり、ソ連解体への道筋を作った。止めを刺したのはボリス・エリツィンだ。 その間、アメリカでは1982年にレーガン大統領がNSDD55を出し、憲法の機能を停止させる目的でCOGプロジェクトを始める。 ドワイト・アイゼンハワー大統領の時代にアメリカでは核戦争の際に国を動かす「秘密政府」を設置することが決められ、1979年にはFEMAが作られた。それを発展させたものがCOGプロジェクトである。 このプロジェクトは1988年に質的な変化を遂げる。大統領令12656によって、憲法は「国家安全保障上の緊急事態」の際に機能を停止できることになったのだ。自然災害でも何でも政府が「国家安全保障上の緊急事態」だと判断すればよくなったのである。 1980年代からネオコンはイラクのサダム・フセイン政権を破壊して親イスラエル体制を樹立、シリアとイランを分断し、その両国を破壊するという戦略をたてていた。 1991年12月にソ連が消滅した直後の92年2月、その戦略を発展させる形で国防次官だったポール・ウォルフォウィッツを中心に国防総省のDPG草案を作成する。これは一種の世界制覇プランで、ウォルフォウィッツ・ドクトリンとも呼ばれている。 このドクトリンに基づき、PNACというシオニスト系シンクタンクは2000年に「アメリカ国防の再構築」という報告書を出す。この年に実施された大統領選挙で勝利したジョージ・W・ブッシュはこの報告書に基づいて国際問題に関する政策は決めていく。 アメリカの国防政策を「革命的に変化させる」としているのだが、そのためには「新たな真珠湾」のような何かが必要だと主張している。ネオコンに好都合なことに、2001年9月11日にそうした衝撃的な出来事が引き起こされた。 いわゆる9/11だが、この出来事を切っ掛けにしてアメリカ国内の収容所化と国外での侵略が急速に進められる。2003年3月にブッシュ・ジュニア政権はイラクを先制攻撃してフセイン政権を破壊するが、親イスラエル体制の樹立には失敗、2011年春にバラク・オバマ政権はジハード傭兵を使ってリビアとシリアへの侵略戦争を開始する。(つづく)
2019.10.29
アメリカの支配力が急速に弱まっている。基軸通貨を発行する特権を利用して世界に大きな影響力を持ってきたアメリカだが、その特権を失いかけているからだ。こうしたことは少なからぬ人が指摘してきた。 かつてドルは金との交換が認められていたが、1971年8月にリチャード・ニクソン大統領がドルと金との交換停止を発表、73年から変動相場制へ移行している。 このシステム変更によってアメリカはドルを金に束縛されることなく発行できるようになるが、金という裏付けをなくしたことから何も対策を講じずに発行を続ければ基軸通貨としての地位から陥落してしまう。 そこで、アメリカの支配層は流通するドルを吸い上げる仕組みを作る。その仕組みのひとつが石油取引のドル決済強要。サウジアラビアをはじめとする主要産油国に対し、石油取引の決済をドルに限定させたのだ。 どの国もエネルギー資源は必要であり、各国は石油を買うためにドルを買い集め、ドルは産油国に集まる。産油国はアメリカの財務省証券や高額兵器を買うという形でドルをアメリカへ還流させ、アメリカ支配層は還流したドルを地下へ沈め、固定化させる。いわゆるペトロダラーの仕組みだ。 だぶついたドルを吸い上げ、流通する通貨の量をコントロールする別の仕組みも整備された。投機である。投機市場にドルを吸い上げさせ、そこでドルを沈め、人びとへは替わりに数字が与えられる。いわば金融マジックであり、ドルは狸や狐が人間をたぶらかすために使う木の葉のようなもの。 人びとが価値あるものだと信じている間、ドルは通貨として機能するが、信頼度が低下するとマジックは機能しなくなる。製造業を放棄したアメリカは金融マジックで人びとをたぶらかし続けるしかない。 この金融マジックを正当化するための「理屈」を考えたのがミルトン・フリードマンたち。フリードマンは1976年にノーベル経済学賞を受賞している。つまり、金融マジックは西側支配層が望んでいたことだ。そのマジックに中国も参加する。(つづく)
2019.10.29
アメリカの特殊部隊がダーイッシュ(IS、ISIS、ISIL、イスラム国とも表記)を率いてきたとされているアブ・バクル・アル・バグダディを殺害したと宣伝している。 このアル・バグダディが何者かは明かでない。イスラエルのスパイだという噂もあるが、ムスリム同胞団の出身だという説もある。ムスリム同胞団はバラク・オバマ大統領が2010年8月に出したPSD-11で手駒として使うことにした歴史的にイギリスと関係の深い団体だ。 ダーイッシュは2004年にAQI(イラクのアル・カイダ)として組織され、06年にISI(イラクのイスラム首長国)が編成された際の中核になったと言われている。 2010年にISIのリーダーになったのがアブ・バクル・アル・バグダディ。2013年に活動範囲がシリアへ拡大、ダーイッシュと呼ばれるようになった。2014年に売り出された当時のダーイッシュは残虐性を演出、アメリカ軍のシリア空爆の口実に使われる。 実のところ、戦闘集団の名称は曖昧だ。2005年7月にロビン・クック元英外相が指摘したように、アル・カイダとはCIAの訓練を受けたムジャヒディンの登録リスト。つまり傭兵の名簿だ。何かプロジェクトが決まると、そのリストに載っている傭兵が集められる。そしてタグがつく。 2011年春にオバマ政権はそうした傭兵を使い、リビアやシリアへの侵略戦争を始めた。これを内戦と呼ぶことはできない。 この侵略戦争にはアメリカのほか、サウジアラビア、イスラエル、イギリス、フランス、カタール、トルコなどが参加、特殊部隊を潜入させたり、傭兵を雇っている。つまり、傭兵グループにはいくつかの系統がある。 リビアのムアンマル・アル・カダフィ体制は2011年10月に倒された。侵略軍は空軍としてのNATO軍と地上軍としてのアル・カイダ系のLIFGが中心で、その後、戦闘員は武器と一緒にシリアへ移動する。 この段階でアメリカ/NATOがアル・カイダ系武装集団を手先として使っていることが隠せなくなるが、その前にオバマ政権はアル・カイダのトップだとされていたオサマ・ビン・ラディン殺害を演出している。 リビアやシリアで戦争が始まって間もない2011年5月、パキスタンでアメリカ海軍の特殊部隊NSWDG(通称DEVGRUまたはSEALチーム6)がオサマ・ビン・ラディンを殺害、死体は空母カールビンソンから海に葬られたということになっているのだが、科学的な人物の特定作業も行われていない。 ビン・ラディンが隠れていたという住居の近くに住む人びとは、銃撃戦を見ていない。埋葬を目撃したというカールビンソンの乗組員も見当たらない。しかもビン・ラディンを襲撃したとされる特殊部隊メンバーはその3カ月後、ヘリコプターが墜落して死亡したという。 重度の腎臓病を患っていたビン・ラディンはその前に死んでいるという情報もある。例えば、エジプトで出されているアル・ワフド紙は2011年12月26日付け紙面でオサマ・ビン・ラディンの死亡を伝えている。 アメリカの特殊部隊がオサマ・ビン・ラディンを殺害したという話は怪しいのだが、それでも「テロリストの象徴」をアメリカが殺したということで、それまでのテロリスト話は一区切りついた。リビアでアル・カイダ系武装集団の話が出てきても西側の有力メディアは大きく取り上げず、オバマは「穏健派」を支援していると宣伝していた。それが間違いだと警告したのがアメリカ軍の情報機関DIAだ。 2014年に売り出されたダーイッシュもほかのアル・カイダ系武装集団と同じようにイスラエルを攻撃しない。エルサレム・ポスト紙によると、2013年3月から16年5月までイスラエルの国防大臣を務めたモシェ・ヤーロンは在任期間中、そうした武装集団と会っている。 本ブログでは何度も書いたように、ダーイッシュとアメリカとの関係は深い。例えば、アメリカ空軍のトーマス・マッキナニー中将は2014年9月、アメリカがダーイッシュを作る手助けしたとテレビで語っている。 またマーティン・デンプシー統合参謀本部議長(当時)はアラブの主要同盟国がダーイッシュに資金を提供していると議会で発言、10月にはジョー・バイデン米副大統領がハーバーバード大学で中東におけるアメリカの主要な同盟国がダーイッシュの背後にいると語っている。2015年にはウェズリー・クラーク元欧州連合軍最高司令官もアメリカの友好国と同盟国がダーイッシュを作り上げたと述べた。 そして2015年8月、アル・ジャジーラの番組でダーイッシュの勢力を拡大させた責任を問われたマイケル・フリン元DIA局長は自分たちの任務について、情報の正確さをできるだけ高めることにあると反論。その情報に基づいて政策を決定するのはバラク・オバマ大統領の役目だと指摘している。 アル・カイダなる武装集団は存在せず、オサマ・ビン・ラディンは戦闘集団を指揮していなかったが、アル・バグダディも戦闘を指揮していないとする話がある。 例えば、ドイツのシュピーゲル誌によると、ダーイッシュを操っていたのは2014年1月に死亡した元イラク空軍大佐のサミル・アブド・ムハンマド・アル・フリファウィ、通称ハジ・バクルで、この人物が残した文書にはシリア北部で「カリフ制国家」を樹立する詳細な計画が書かれ、情報活動、殺人、拉致などの手法も記され、虐殺は「狂信者」の行為ではなく、元情報将校による冷徹な計算の元で行われていたのだという。 また、イランの義勇兵組織バスィージのモハマド・レザ・ナクディ准将に言わせると、ダーイッシュの司令部はイラクのアメリカ大使館。イラクのアリ・アクバル大隊の司令官はダーイッシュとアメリカ軍が定期的に連絡を取り合っていることを通信傍受で確認したとも伝えられていた。 現在、アメリカ軍はイラクの西部で軍事力を増強、ジハード傭兵を集め、シリア東部の油田地帯を占領し続ける意思を示している。クルドを手先として使えなくなりつつある現在、再びダーイッシュやアル・カイダ系武装集団で戦った人びとを使う必要が生じ、その準備としてアル・バグダディの殺害を演出した可能性もある。
2019.10.28
世界はロシアと中国を中心に回転している。そうした現実を日本のマスコミも否定できなくなったようだが、そうした流れが明確になったのは2015年頃だ。 2012年にDIAが警告したように、サラフィ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)やムスリム同胞団を中心とする武装勢力がシリアの東部からイラクにかけての地域を占領した。2014年のことだ。ダーイッシュ(イスラム国、IS、ISIS、ISILとも表記)が売り出されたのである。 その年にダーイッシュはトヨタ製の小型トラック「ハイラックス」を連ねてパレード、さらに拘束した人びとを殺しているように見える映像を流し、残虐さをアピール。そのダーイッシュを口実にしてアメリカ軍は勝手に軍事介入、シリア政府軍を攻撃し、インフラを破壊、その一方でダーイッシュなどの武装勢力へ物資を「誤投下」していた。 その結果、DIAが警告したようにダーイッシュは支配地域を拡大し、オバマ政権は戦争体制を整える。そこまではオバマ政権の計画通りだったのだろうが、そこでロシアがシリア政府の要請を受けて軍事介入、状況は一変する。ダーイッシュや同じようにサラフィ主義者やムスリム同胞団を主力とするアル・カイダ系武装勢力は敗走、占領地域は急速に縮小していった。 その翌年、戦争が原因で経済が苦しくなったトルコは侵略勢力から離脱、ロシアに接近していく。そこでアメリカはトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領を排除しようと考えてクーデターを試みたものの、失敗。 トルコとアメリカとの対立は決定的になるのだが、トルコはNATO加盟国であり、戦略的に重要な場所にある。そのトルコがNATOから離脱する事態は避けなければならない。そうした事情がドナルド・トランプ政権にクルドを見捨てさせることにつながり、クルドはシリア政府へ接近していく。 その間、ドナルド・トランプ政権は2度にわたり、シリアをミサイルで攻撃させている。最初はトランプが大統領に就任して間もない2017年4月6日。アメリカ海軍の駆逐艦、ポーターとロスは59機の巡航ミサイル(トマホーク)を発射するが、約6割が撃墜された。2018年4月にはイギリスとフランスを巻き込んで100機以上の巡航ミサイルをシリアへ向けて発射、そのうち約7割が撃墜された。 言うまでもなく、巡航ミサイルを無力化したのはロシア製の防空システム。撃墜率が1割以下と言われるアメリカの防空システムに比べ、性能が高いことは間違いない。つまり、この2度にわたる攻撃でロシアの強さとアメリカの弱さが明らかになったのである。 アメリカはダーイッシュを売り出した2014年、ウクライナでネオ・ナチを使ってクーデターを成功させ、香港では反中国の抗議行動を演出した。ロシアも中国もネオコンが自分たちの体制を壊そうとしていることを理解、戦略的な同盟関係に入った。 2016年2月10日にヘンリー・キッシンジャーがロシアを訪問してウラジミル・プーチン大統領と会談、22日にシリアで停戦の合意が成立した。この階段を見て風向きが変わったと考えた人は少なくない。 2015年には次期大統領にヒラリー・クリントンが内定したと言われていたが、その流れは変わり、バーニー・サンダースやドナルド・トランプが注目されるようになった。この流れの変化をクリントンや民主党の幹部はロシア政府のせいだと主張し、ロシアゲートを有力メディアは宣伝するようになる。朝鮮半島の問題もこうした風の変化が影響しているだろう。 本ブログでは繰り返し紹介してきたが、メルキト・ギリシャ典礼カトリック教会の聖職者は2012年6月の段階で「もし、全ての人が真実を語るならば、シリアの平和は守られる。1年にわたる戦闘の後、西側メディアの押しつける偽情報が描く情景は地上の真実からほど遠い。」と指摘している。シリア政府軍が戦っている相手が外国からやってきた戦闘員だということも報告、ローマ教皇庁の通信社がそれを伝えていた。 シリア人を虐殺してきたのはバシャール・アル・アサド政権ではなく、西側の有力メディアだということだ。そうした有力メディアを信じている、あるいは信じている振りをしている人の責任も軽くはない。
2019.10.28
ネオコンは1991年12月にソ連が消滅した後、新たなライバルの出現を防ぐための戦略を立てた。潜在的ライバルを叩き、力の源泉であるエネルギー資源の独占を目論んだのである。 旧ソ連圏の国々を制圧する手始めにユーゴスラビアが侵略されたが、潜在的ライバルの一番手と見られたのは中国だった。そこで東アジア重視が打ち出される。 エネルギー資源を支配するためには中東を支配する必要がある。ソ連が消滅する直前、国防次官だったポール・ウォルフォウィッツがイラク、シリア、イランの殲滅を口にしたのはそのためだ。イラクに親イスラエル体制を樹立、シリアとイランを分断した上で両国を殲滅するという計画だったが、その通りに実行している。 その中東は地政学的にも重要な位置にある。20世紀の初頭、おそらく19世紀からイギリスの支配層は制海権を握っていることを利用し、ユーラシア大陸の周辺地域を支配して内陸部を締め上げていくという長期戦略を立てている。 西端のイギリスからイタリアを経てアラビア半島、インド、東南アジア、朝鮮半島、そして東端は日本列島。イギリスの東アジア侵略が本格化するのは1840年に勃発したアヘン戦争で、42年にイギリスの勝利で終わる。この時にイギリスが奪った場所のひとつが香港だ。1856年から60年にかけて第2次アヘン戦争があった。 2度目の戦争もイギリスが勝利するのだが、イギリスに中国の内陸部を制圧する戦力はない。そこで目をつけられたのが日本。大陸と友好的な関係を維持してきた徳川体制は長州と薩摩を中心とする勢力に倒されて明治体制が始まる。イギリスが明治政府を支援したのは中国侵略の手先にするためだろう。 イギリスの囲い込み戦略には穴があった。中東だ。そこでイギリスはサウジアラビアとイスラエルを作り上げ、スエズ運河を手に入れている。そのイギリスの戦略をアメリカは引き継いだ。 そのアメリカの巨大資本はラテン・アメリカを「裏庭」と位置づけ、支配してきた。ライバルが南アメリカ大陸へ入り込んでくることを阻止すると同時に、その大陸に独立国が出現することも防ぎたかったからだ。 第2次世界大戦後、アメリカの支配層はヨーロッパからナチスの元高官らをラテン・アメリカへ逃がし、保護、そして雇っている。そのひとりで「リヨンの屠殺人」と呼ばれていたクラウス・バルビーはラテン・アメリカでアメリカの巨大資本の手先として活動、1980年7月にはボリビアで軍事クーデターを実行している。資金を出したのは大物麻薬業者6人だが、その背後にはCIAが存在していた。 現在、ボリビアはチリと同じようにリチウム資源が注目されている。その埋蔵量は900万トンから1億4000万トン。そのボリビアは中国と経済的に深く結びつき、リチウムの大半は中国へ輸出されているようだ。資源としてのリチウムだけでなく、リチウム電池を製造するため、ボリビア政府はロシアやドイツをパートナーにしたがっているとも言われている。 アメリカの支配層がボリビアに傀儡体制を樹立しようとしている理由のひとつは、中国やロシアがボリビアとの関係を深めつつあるからだ。
2019.10.27
ラテン・アメリカではウォール街からの自立を目指す政権が倒される一方、ウォール街が望む政策を進める政権に対する抗議活動が展開されている。 スペインやポルトガルに支配された後、20世紀に入って略奪者はウォール街へ交代したが、第2次世界大戦の後に独立、民主化する国が出てくる。その民主化された政権を潰す役割を果たしてきたのがCIAであり、その手先を育成するための施設も作られた。 その施設は1946年にパナマでSOAとして創設された。その卒業生は帰国後、アメリカの巨大資本の利権にとって邪魔な人びとを排除するために「死の部隊」を編成、民主的な政権が誕生したときは軍事クーデターで潰すことになる。 そうした実態が知られるようになり、SOAは1984年にパナマ政府から追い出され、アメリカのジョージア州フォート・ベニングへ移動する。2001年にはWHISC(またはWHINSEC)へ名称を変更したが、行っていることに大差はない。 その間、民主的な政権が犠牲になっている。例えば、1948年4月に暗殺されたコロンビアのホルヘ・エリエセル・ガイタン、1954年6月に軍事クーデターで潰されたグアテマラのヤコボ・アルベンス・グスマン政権、1973年9月に軍事クーデターで倒されたチリのサルバドール・アジェンデ政権は特に有名だ。 アメリカの巨大資本、CIA、その手先になっている各国の支配層に対する批判はカトリックの世界にも広がり、ローマ教皇庁の意向に反する「解放の神学」が現れた。支配者ではなく国民の大多数を占める民に寄り添おうという考えだ。そうした聖職者も犠牲になるが、その中にはアメリカ人も含まれていたことから批判を強めることになった。 ベトナム戦争でも「侵略者」のイメージがアメリカについたことを反省したのか、ロナルド・レーガン政権は「プロジェクト・デモクラシー」や「プロジェクト・トゥルース」と名づけられた作戦を始める。 これを「思想戦」だと表現した人もいたが、自分たちの侵略行為に「民主」、「自由」、「人権」、「人道」といったタグをつけ、有力メディアを使って宣伝するイメージ戦略だ。1990年代に入って広告会社の役割が飛躍的に増大するが、それもこの戦略の一環である。 しかし、1991年12月にソ連が消滅したことを受け、ネオコンをはじめとするアメリカの好戦派は自国が「唯一の超大国」になったと考え、他国へ配慮をしなくなる。国連中心主義を掲げていた細川護熙政権が潰されたのもそのため。露骨な侵略と「民主」のようなイメージを併存させるためには、それなりの仕掛けが必要だ。 2001年からスタートしたジョージ・W・ブッシュ政権はアメリカ主導軍を使って侵略戦争を始めるが、行き詰まる。そこで2009年に大統領となったバラク・オバマはムスリム同胞団をはじめとするジハード傭兵やネオ・ナチような勢力を使うようになる。 アメリカを崇拝する人びとはそうした幻術を受け入れるが、そうした信仰に毒されていない人は騙されない。長い間アメリカの巨大企業から富を奪われてきたラテン・アメリカでは、21世紀に入る頃から真の意味で民主化しようとする動きが活発化している。その代表格がベネズエラ、ブラジル、アルゼンチンなどだ。 ベネズエラに対してはクーデターが何度も試みられ、ブラジルやアルゼンチンなどではCIAやNSAのようなアメリカの情報機関の支援を受けていると見られる各国の捜査機関や裁判所が使われてきた。 日本では業務上過失致死傷罪で起訴された東京電力の旧経営陣、つまり勝俣恒久元会長、武藤栄元副社長、武黒一郎元副社長に無罪の判決を言い渡した東京地裁(永渕健一裁判長)が批判されているが、原子力発電の問題では慎重な立場の知事が東京地検特捜部に潰されている。 この知事を潰した捜査を特捜部の副部長として指揮した佐久間達哉はその後、特捜部長として小沢一郎も葬り去っている。小沢は新自由主義に消極的な立場で、国連中心主義を掲げていた。その小沢とタッグを組み、東アジアの平和を打ち出していた鳩山由紀夫は有力メディアから攻撃を受け、排除された。 公判が公開を原則にしているのは、裁判官が信用できないことを先人は知っていたからだろう。警察や検察は支配者の道具にすぎない。 第2次世界大戦で日本が降伏する前、天皇を中心とするファシズム体制を支えていたのは内務官僚、思想検察、特別高等警察といった治安機関だ。 こうした機関の幹部は戦後も支配階級のメンバーとして君臨した。裁判官も責任を問われたとは言いがたい。こうした人びとが今、戦前戦中と同じようなことをしている。 明治維新以降、日本はイギリスやアメリカの金融資本の影響下にある。日本の治安機関もそうした支配システムの一部として機能している。ブラジルやアルゼンチン、そしてアメリカと基本的に同じだ。
2019.10.26
ボリビアで10月20日に大統領を決める選挙が実施され、アメリカ支配層に嫌われているエボ・モラレスが47.08%を獲得したのに対し、アメリカから支援を受ける第2位のカルロス・メサは36.51%にとどまった。 ボリビアでは得票率が50%を上回るか、40%以上で第2位の候補者を10ポイント以上引き離せば大統領に決まる。つまりモラレスの当選が決まったのだが、メサ支持者が激しい抗議活動を開始、暴徒化していると伝えられている。 ラテン・アメリカの富を盗んできたアメリカの支配層にとって邪魔な存在であるモラレスは2006年1月から大統領を務めてきた。今回の当選で4期目に入るのだが、憲法の規定では2期までとされていた。それが可能になったのは最高選挙裁判所の判決による。 アメリカの支配層が再選回数を制限するようになった大きな理由は、フランクリン・ルーズベルト人気にあると言われている。彼が率いるニューディール派は巨大企業の活動を制限、労働者の権利を認め、ファシズムに反対、植民地も否定していた。議会や裁判所がブレーキ役になっていたが、それでもルーズベルトのような大統領は邪魔だった。 本ブログでは繰り返し書いてきたが、1933年にルーズベルトが大統領に就任すると、JPモルガンを中心とするウォール街のメンバーがニューディール派を排除するためにクーデターを計画する。将校や下士官を中心に約50万人の退役軍人を動員し、「スーパー長官」が大統領を操る仕組みを築こうとしていた。 この計画はクーデター派が抱き込もうとしたスメドリー・バトラー少将の議会証言で明らかになっている。計画を聞き出した後、バトラーはクーデター派にカウンタークーデターを宣言し、議会で記録に残したのだ。 また、彼が親しくしていた編集者の部下だった記者はクーデター派を取材、ウォール街の住人たちがファシズム体制の樹立を目指していることをつかんだ。この記者も議会で証言している。 そうまでして排除したかったルーズベルトは1944年の選挙でも勝利するが、45年4月に急死、ニューディール派はホワイトハウスで実権を失う。副大統領から大統領に昇格したハリー・トルーマンはルーズベルトとの関係が希薄な人物で、彼のスポンサーだったアブラハム・フェインバーグはシオニスト団体へ法律に違反して武器を提供、後にイスラエルの核兵器開発を資金面から支えることになる人物だ。このフェインバーグはリンドン・ジョンソンのスポンサーとしても知られている。 再選回数の制限はフランクリン・ルーズベルトのような人物が政府の中心に長居できなくする。支配層には操り人形が何体でもあるので、そうした制限は問題ない。ボリビアでも制限していたが、それが外されてしまったわけだ。
2019.10.25
バラク・オバマ政権が始めたシリア侵略は失敗に終わったと言えそうだ。10月22日にロシアのソチで行われたウラジミル・プーチン露大統領とトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領の会談が行われ、トルコとの国境から30キロメートルの幅でシリア領に緩衝地帯を設け、クルド軍は150時間以内にそこから撤退することが決まったのだ。 その撤退をロシア軍とシリア政府軍が監視、その後はロシア軍とトルコ軍が合同で国境から10キロメートルの幅の地域をパトロールするのだという。ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相によると、非武装のクルド系住民は撤退する必要はなく、安全は保証される。 アメリカがリビアに続いてシリアへの侵略戦争を始めたのは2011年3月のこと。イスラエル、サウジアラビア、イギリス、フランス、カタール、そしてトルコが侵略に参加、その手先として使われたのがサラフィ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)やムスリム同胞団を中心とするジハード傭兵。オバマ政権はムスリム同胞団を侵略の核に据えていた。 リビアが狙われた理由は、同国の最高権力者だったムアンマル・アル・カダフィがアフリカを経済的に独立させるためにアフリカ独自の通貨として金貨ディナールを導入しようとしたため。アフリカの富を盗めなくなれば、イギリスやフランスをはじめとする欧米の国は大きなダメージを受ける。 シリアは1980年代から親イスラエル派のネオコンに狙われていた。中東全域を支配するため、従属度の足りないイラン、イラク、シリアが狙われたのだ。 ネオコンの計画は、まずイラクのサダム・フセイン体制を倒し、親イスラエル派を据えてシリアとイランを分断、その上でシリア、そしてイランを破壊、中東全域を支配しようというものだった。これはエネルギー資源をイスラエルが支配することを意味する。 この計画はフセイン体制をペルシャ湾岸産油国の防波堤と位置づけるジョージ・H・W・ブッシュやジェームズ・ベイカーたちの反発を招き、ロナルド・レーガン政権で内紛を誘発することになった。イラン・コントラ事件やイラクゲートが浮上した一因はここにある。この権力バランスが大きく変化、ネオコンが圧倒的な力を持つ切っ掛けが2001年9月11日の出来事だった。 ジョージ・H・W・ブッシュの息子、ジョージ・W・ブッシュはネオコンに操られていた人物で、イラクを先制攻撃してフセイン体制を破壊するのだが、親イスラエル派政権の樹立には失敗し、イラクとイランの接近を招く。 オバマ政権は侵略に自国軍ではなくジハード傭兵を使う。その中心はムスリム同胞団だった。そして「アラブの春」が引き起こされ、リビアとシリアで戦争が始まる。両国に対する侵略戦争を「内戦」と呼ぶのは正しくない。 傭兵には雇い主がいる。最大の雇い主はアメリカ。サウジアラビアは傭兵の最大の供給元であり資金源でもあるが、そのほかイギリス、フランス、カタール、そしてトルコも傭兵を雇っている。イスラエルも将兵を戦闘に参加させ、医療部隊としての役割も果たした。 その構図を揺るがしたのがロシア軍。2015年9月30日にシリア政府の要請で軍事介入、ジハード傭兵を敗走させた。そこでアメリカが新たな手先にしたのがクルド。イラクでは1960年代後半からイスラエルがクルドを手先に利用していた。 ロシア軍の介入はトルコの離反を招き、アメリカ軍は離反したエルドアン政権をクーデターで倒そう目論むのだが、失敗に終わる。ロシアから事前に情報が伝えられていたと言われているのだが、その結果としてトルコとロシアは接近していく。 クルドはネオコンの侵略に協力することで自分たちの国を持てると妄想したのだろうが、トルコとアメリカとの対立でその妄想は悪夢となった。その悪夢からクルドを救い出したのがロシアだ。 21世紀に入ってからネオコンが行ってきた戦略はアメリカの利益に反するのだが、ネオコンの背後には西側の巨大資本が存在している。その巨大資本とは別の権力集団に担がれたドナルド・トランプは昨年12月にアメリカ軍をシリアから撤退させる方針を示した。 しかし、トランプ政権のマイク・ペンス副大統領やマイク・ポンペオ国務長官はキリスト教系カルトで、国家安全保障補佐官になったジョン・ボルトンはシオニスト。国防長官を務めたジェームズ・マティスも好戦派だ。 マティスは撤退への抗議で辞任、ボルトンは解任された。ペンスやポンペオは抵抗してきたが、NATO加盟国であるトルコの軍事侵攻でトランプ大統領の方針は実現することになった。現在、誰がトランプの後ろ盾になっているかは司法長官にウィリアム・バーが座ったことから推測できるだろう。 シリアでの敗北を受け、アメリカの好戦派は今年に入ってイラクに軍事拠点を増設、ジハード傭兵を集めている。シリア東部、ユーフラテス川沿いにある油断地帯の支配を続ける一方、再びシリアとイランを攻撃するチャンスを待つつもりなのかもしれない。が、そうした行為がイラクとの関係を悪化させている。
2019.10.24
ラテン・アメリカが揺れている。ベネズエラのニコラス・マドゥロ政権を倒すためにアメリカの支配層は混乱を演出しものの失敗、エクアドル、チリ、ブラジル、ハイチなどでは逆にアメリカの傀儡体制に対する抗議活動が展開されている。 エクアドルのケースは本ブログでも最近取り上げたが、レニン・モレノ政権による燃料補助の打ち切りが引き金。10月3日から中旬までに8名の死者が出ているという。 この政策をモレノは取り消したようだが、それで問題が解決されるわけではない。補助の打ち切りはIMFの命令に基づく新自由主義的な政策の一環だからだ。 モレノが大統領に就任したのは2017年のことだが、今年3月11日にIMFはエクアドルに対して42億ドルの融資を実施すると発表、いつものように、その条件として緊縮財政を強要してきたのである。欧米の巨大資本やその手先を富ませるため、庶民に緊縮財政を押しつけて貧困化させるわけだ。 モレノの前任者であるラファエル・コレアはIMFを動かしている欧米支配層にとって都合の悪い情報を公表してきたウィキリークスのジュリアン・アッサンジの亡命を認めていたが、その決定をモレノは取り消し、アッサンジは4月11日にロンドンにあるエクアドル大使館でイギリス警察に逮捕された。 モレノは汚職で受け取ったカネのロンダリングを行うためにINA投資という名前のペーパーカンパニーを2012年にベリーズで作ったという話が伝えられているが、その情報が漏れた責任はウィキリークスにあるという理由でアッサンジの亡命を取り消したのだという。 チリでも激しい反政府活動が行われ、すでに15名が死亡したと言われている。この国では1973年9月11日にオーグスト・ピノチェトの軍事クーデターがあった。アメリカの巨大資本の利権を守るため、アメリカの国家安全保障補佐官だったヘンリー・キッシンジャーがCIAの破壊工作部門を使い、実行させたのだ。 民主的に選ばれたサルバドール・アジェンデ政権は倒され、巨大資本のカネ儲けに邪魔な人びとは拉致、拘束され、少なからぬ人が殺された。サンチアゴの国立競技場は「拷問キャンプ」と化したと言われている。 邪魔者が消えた後、アメリカ政府はシカゴ大学のミルトン・フリードマン教授のマネタリズムに基づいて大企業/富裕層を優遇する政策を実施、つまり世界で初めて新自由主義が導入されたのだ。この政策で貧富の差が拡大、いまも貧困問題は深刻。今回の抗議活動の原因もそこにある。 ブラジルではアマゾンの森林火災が問題になったが、その背景も新自由主義にある。2003年1月から16年5月までは新自由主義に反対する労働者党のルイス・シルバとジルマ・ルセフが大統領だったが、このふたりは疑惑攻勢で潰された。 ルセフを失脚させて大統領に就任したミシェル・テメルはアメリカ巨大資本の手先として知られ、彼を含むクーデター派の中心グループは犯罪捜査の対象になっていた人物。そのテメルは今年3月に逮捕されたが、新自由主義の体制は維持されている。 ハイチでも2018年から反政府運動が激しくなっているが、その原因も新自由主義にある。この国は資源が豊かで、昔から金の産出で有名。石油資源も注目されている。 資源国のハイチだが、貧困国としても知られ、失業率は70%を超すという。ヒラリー・クリントンの弟、トニー・ローダムは金の利権に食い込んでいるようだが、大多数の庶民はその恩恵に浴していない。 2010年にハイチでは大きな地震があったのだが、その原因は油田開発ではないかという疑惑もある。この地震の対策を指揮したのは国務長官だったヒラリー・クリントン。国連特使には夫のビル・クリントンが就任する。ビルはクリントン-ブッシュ基金やクリントン財団の理事長で、ハイチ再建暫定委員会の共同委員長でもあった。 クリントン財団は「慈善事業」を名目にして多額の寄付を集め、ハイチでは60億ドルから140億ドルを集めたと見られているが、その内容は明らかにされていない。しかも、国際規模でチャリティーを行うために必要な正規の手続きを踏んでいないという。法律的に問題を抱えているわけだ。 クリントン夫妻のハイチ利権には犯罪の臭いがするのだが、もし2016年の大統領選挙でヒラリー・クリントンが勝てば、バラク・オバマが大統領の間に恩赦を与える手はずになっていたと言われている。ところがドナルド・トランプが勝ってしまい、シナリオが狂ったようだ。 こうしたラテン・アメリカの国々と違い、ベネズエラや香港の反政府運動は新自由主義の信奉者が行っている。その違いは有力メディアの報道に反映されているようだ。
2019.10.23
アメリカ軍がダーイッシュ(イスラム国、IS、ISIS、ISILとも表記)のメンバー数百名をヘリコプターでイラクにあるアメリカ軍の基地へ輸送しているとシリアでは報じられている。これまでもアメリカの軍や情報機関はダーイッシュやアル・カイダ系武装集団のメンバーを救出してきたが、少し前から輸送先がアフガニスタンからイラクへ変更になったようだ。 シリア北部地域から約1000名のアメリカ軍部隊が撤退、入れ替わるようにシリア政府軍がその地域へ入っていると伝えられているが、取り残されるとまずいダーイッシュのメンバーを助け出しているのかもしれない。 アメリカ軍の撤退はクルドへの裏切りだと叫ぶ人もいるが、アメリカ軍は勝手に他国へ入り込んだ侵略軍にほかならない。侵略軍の引き上げに異を唱える「帝国主義者」がアメリカには少なくないようだ。 昨年12月にドナルド・トランプ米大統領は2000名のアメリカ軍をシリアから撤退させる方針を示していた。ジェームズ・マティス国防長官は抗議のために辞任、マイク・ペンス副大統領、ジョン・ボルトン国家安全保障補佐官、マイク・ポンペオ国務長官の好戦ラインのほか、シリア特使だったジェームズ・ジェフリーも撤退の問題で大統領と対立し、撤退は立ち消えになったかのように見えた。 ところが、トルコ軍がクルド勢力を排除するためにシリアへ軍事侵攻、NATO加盟国との軍事衝突を避けたいアメリカ軍は撤退した。トルコ軍の軍事作戦の結果、トランプの方針が実現することになったとも言える。 大統領の撤退命令を無視するかのような動きをしていたアメリカ軍だが、今年に入ってからイラクで軍事力を増強し始め他事実もある。増強の中心的な地域はイラク西部、シリア、ヨルダン、サウジアラビアに接するアル・アンバール。 今年1月の段階でここにはふたつのアメリカ軍の軍事基地が建設されていたが、その後、さらに基地の数は増えているはずだ。アメリカ軍の基地からシリア国境までダーイッシュの部隊が安全に移動できるようなルートを整備しているのだろうとも言われていた。 イラクでの報道によると、アメリカ軍がシリアとの国境周辺を偵察して入手した情報、あるいはハシド・アル・シャービから入手した情報をシリア東部にいるダーイッシュへ渡しているとハシド・アル・シャービ(人民動員軍)の現地司令官は語っていた。 アメリカ軍がダーイッシュのために整備しているルートは国境を越えるとシリアの油田地帯に至る。この利権をアメリカは最後まで守ろうとするだろう。2017年9月にロシア軍のバレリー・アサポフ中将がダーイッシュに砲撃で殺されたのはこの地域。中将がいる正確な場所をダーイッシュは知っていたと見られているが、その情報はアメリカ側から戦闘集団側へ伝えられていた可能性が高い。 ダーイッシュやアル・カイダ系武装集団とは、本ブログで繰り返し書いてきたように、サラフィ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)やムスリム同胞団を中心とする傭兵。 ロビン・クック元英外相が2005年7月に指摘していたようにアル・カイダとはCIAの訓練を受けたムジャヒディンの登録リスト。そのリストに載っている戦闘員を中心に編成されるのがアル・カイダ系武装集団である。ダーイッシュも基本的に同じだ。 この仕組みは1970年代の終盤、アフガニスタンにおける秘密工作のためにズビグネフ・ブレジンスキーが作り上げたのだが、ブレジンスキーの弟子と言われるバラク・オバマが2011年春からリビアやシリアの体制を転覆させるために復活させた。 ただ、そうした動きはその前から指摘されている。調査ジャーナリストのシーモア・ハーシュが2007年にニューヨーカー誌に書いた記事によると、それまでにジョージ・W・ブッシュ政権はシリア、イラン、そしてレバノンのヒズボラを最大の敵だと定め、スンニ派の過激派と手を組むことにしたという。 ブッシュ・ジュニアにしろ、オバマにしろ、ネオコンの戦略に基づいて動いている。その戦略とはイラクに親イスラエル態勢を築いてシリアとイランを分断、それぞれの国を壊滅させるというもの。中東からイスラエルに反抗する体制を駆逐し、エネルギー資源を支配するというわけだ。 こうしたプランは1980年代からネオコンが主張していたものだが、1991年12月にソ連が消滅した直後、92年2月に国防総省のDPG草案という形で作成された。当時、国防次官だったポール・ウォルフォウィッツが中心になって作成されたことから、このプランはウォルフォウィッツ・ドクトリンと一般的に呼ばれている。日本の軍事戦略もこのドクトリンに基づいて決められてきた。
2019.10.22
UAV(無人機。ドローンとも呼ばれる)の存在感が強まっている。9月14日に18機のUAVと7機の巡航ミサイルがサウジアラビアのアブカイクとハリスにあるアラムコの石油処理施設を破壊、中東情勢だけでなく世界の権力バランスを大きく変化させたことが大きいだろう。 このケースではサウジアラビア軍に侵略されているイエメンの武装勢力、フーシ派によるものだが、サウジアラビアの後ろ盾になっているアメリカも手先の武装グループにロシアの軍事基地をUAVに攻撃させている。 アメリカがUAVを供給している相手のひとつはシリアで政府軍と戦っている戦闘集団で、すでに200機がシリア国内へ運び込まれていると言われている。2016年から17年にかけてイラクでダーイッシュ(イスラム国、IS、ISIS、ISILとも表記)がUAVを使ったという。今では自前のUAV製造工場をシリア国内に保有し、性能はかなり向上しているようだ。トルコ人とチェチェン人の専門家もシリアへ入っていると言われている。 市販のUAVは航続距離が1キロメートル程度だが、改造すれば桁違いに行動範囲は延び、飛行精度や爆撃能力も向上している。 そうしたUAVでシリアで政府軍と戦っているダーイッシュなどのジハード傭兵はタラキア近くにあるフメイミム空軍基地を攻撃、ロシア軍によると、118機を撃墜、あるいは無力化させた。アメリカの防空システムはUAVの攻撃に対して無力だったが、ロシアは巡航ミサイルやUAVへの対策として、ECM(電子対抗手段)のほか、短距離用の防空システム、つまりパーンツィリ-S1やトールM2を配備している。 言うまでもなく、こうしたUAVは世界のどこでも使える。日本も人ごとではない。
2019.10.21
ウィリアム・バー司法長官は2016年のアメリカ大統領選挙に絡んだ疑惑の捜査が反ドナルド・トランプという主観に基づいて実行されたのかどうかをコネチカット州の連邦検事ジョン・ドゥラムに調べさせている。そのドゥラムに率いられた連邦検事が元、あるいは現役のFBI幹部二十数名から事情聴取、ドナルド・トランプ大統領を「ロシアゲート」で攻撃してきたFBIの幹部が弁護士を雇う事態になっているという。 民主党や有力メディアはトランプを勝たせるためにロシア政府が民主党のサーバーをハッキング、電子メールをダウンロードし、ウィキリークスに公表させたと主張してきた。 2016年3月16日にウィキリークスはヒラリー・クリントンに関連した電子メールを公表、その中にバーニー・サンダースが同党の大統領候補になることを妨害するよう民主党の幹部に求めるものがあり、また民主党幹部たちが2015年5月26日の時点でヒラリー・クリントンを候補者にすると決めていたことを示唆する電子メールもあった。 民主党の幹部がクリントンを候補者に選ぶ方向で動いていたことはDNC(民主党全国委員会)の委員長だったドンナ・ブラジルも認めている。彼女はウィキリークスが公表した電子メールの内容を確認するために文書類を調査、DNC、ヒラリー勝利基金、アメリカのためのヒラリーという3者の間で結ばれた資金募集に関する合意を示す書類を発見したという。その書類にはヒラリーが民主党のファイナンス、戦略、そして全ての調達資金を管理することが定められていた。その合意は彼女が指名を受ける1年程前の2015年8月になされた。 FBIやCIAの幹部が2016年の大統領選挙に介入、さらにその結果をひっくり返そうとしてきたことは本ブログでも書いてきた。この件ではイギリスの対外情報機関MI6の役割も注目されている。 DNCのサーバーに保管されていた電子メールがハッキングで流出したのでないことは技術分析で明らかになっている。これも本ブログで繰り返し書いてきたが、コンピュータの専門家でIBMのプログラム・マネージャーだったスキップ・フォルデンは転送速度など技術的な分析からインターネットを通じたハッキングではないという結論に達している。 また、アメリカの電子情報機関NSAの技術部長を務めた内部告発者で情報機関で通信傍受システムの開発を主導したウィリアム・ビニーが指摘しているように、NSAはすべての通信を傍受、保管している。もしロシアゲートが事実なら、FBIは必要な証拠をすべてNSAから入手できるのだ。 ロシアゲートでトランプを攻撃することは難しくなったとも言えるのだが、それに替わる2020年用の新たな疑惑が「ウクライナゲート」。 民主党やアメリカの有力メディアはドナルド・トランプ大統領がウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領に対し、ジョー・バイデン前副大統領の息子、ハンターについて捜査するように圧力をかけたと宣伝しはじめた。 すでに本ブログでも書いたように、トランプ大統領が7月25日にゼレンスキー大統領へ電話した際、ジョー・バイデンが2018年1月23日にCFR(外交問題評議会)で行った発言をトランプが話題にしたことを民主党やメディアは問題にしている。 バラク・オバマ政権で副大統領を務めていた当時、バイデンはキエフのクーデター政権に対し、10億ドル欲しければ検事総長だったビクトル・ショーキンを6時間以内に解任しろと恫喝し、実際に解任されたことを自慢しているのだ。 バイデンは「ウクライナを支援する欧米諸国や国際機関が同国の腐敗問題に取り組む中、同国の検事総長が汚職捜査に消極的だとして解任させようとした」と主張しているが、検事総長を解任されたビクトル・ショーキンは宣誓供述書の中で、解任の理由は天然ガス会社ブリスマ・ホールディングス(本社はキプロス)を捜査していたことにあるとしている。ジョー・バイデンの息子、ハンター・バイデンは2014年4月から同社の重役だが、エネルギー産業に詳しいわけではない。しかも検事総長を解任しろという圧力は2015年終わりから16年初めにかけての数カ月に及んだという。 それだけでなく、トランプがゼレンスキーへ電話する前の今年2月の初めにはハンターに対する捜査を再開する動きがあったとも伝えられている。ちなみに、ゼレンスキーが大統領に就任したのは5月のことである。 FBI、CIA、ネオコンに立ち向かっているように見えるウィリアム・バーとは何者なのか? 1950年に生まれたバーはコロンビア大学で学んだ後、1973年から77年にかけてCIAで働き、連邦巡回裁判所判事の書記になる。書記になったのはブッシュの推薦による。そして1991年11月から93年1月まで、つまりジョージ・H・W・ブッシュが大統領だった時に司法長官を務めた。 このようにバーはブッシュと緊密な関係にあり、イラン・コントラ事件にも深く関係していた。ブッシュはエール大学でCIAにリクルートされた可能性が高く、非公然オフィサーだったと見られていることは本ブログでも繰り返し書いてきた。 1970年代の終盤からCIAはアフガニスタンで秘密工作を始めている。ズビグネフ・ブレジンスキーのプランに基づくものだが、例によって、麻薬取引を始めている。資金を処理するために使われていたのがBCCIだが、この銀行は上院議員だったジョン・ケリーらによって調査され、起訴されることになる。 BCCIの内幕を含むCIAの工作に熟知していたひとりがパナマに君臨していたマニュエル・ノリエガ。1989年1月にアメリカ大統領に就任したブッシュはその年の12月、アメリカ軍にパナマへ軍事侵攻させてノリエガを拉致した。 ジョージ・H・W・ブッシュに近いバーがネオコンの不正に切り込もうとしているようにも見える。1980年代、副大統領だったブッシュは財務長官や国務長官を務めたジョームズ・ベイカーと同様、ネオコンと対立していた。 ブッシュたちやネオコンは好戦派という共通項があり、ジェラルド・フォード政権でともに台頭したのだが、例えばイラクのサダム・フセインに対する評価は全く違った。ブッシュたちはフセインをイランからペルシャ湾岸の産油国を守る防波堤とみなしていたのだが、ネオコンはフセイン体制を倒して親イスラエル派の政権を樹立、シリアとイランを分断して両国を潰そうとしていた。この対立が1980年代のスキャンダル発覚につながっている。ブッシュが所属していた支配層の勢力がネオコンをたたきにきているのかもしれない。
2019.10.20
アメリカはベネズエラにも経済戦争を仕掛けている。その最大のターゲットは国営石油会社のPDVSA。同社がアメリカに保有していた資産70億ドルは凍結され、石油の販売も妨害されている。 イランでイスラム革命があったときにも資産が凍結された。アメリカにある資産は絵に描いた餅、幻影にすぎないと思った方が良いだろう。日本がアメリカに対して持っている債権も同じことだ。 苦境にあるPDVSAをロシアのエネルギー会社ロスネフトが支援してきたが、ベネズエラのロシアに対する負債を軽減するため、私有化せずにPDVSAの経営権をロスネフトへ渡す合法的な手段を検討しているようだ。 アメリカがベネズエラの体制転覆を計画するようになった理由は1999年にウーゴ・チャベスが大統領に就任したことにある。チャベスは自国をアメリカから独立させた。 そこで、2002年にジョージ・W・ブッシュ政権はクーデターを試みたが、その中心人物はイラン・コントラ事件に登場するエリオット・エイブラムズ、キューバ系アメリカ人で1986年から89年にかけてベネズエラ駐在大使を務めたオットー・ライヒ、そして国連大使だったジョン・ネグロポンテの3人。ネグロポンテは1981年から85年にかけてホンジュラス駐在大使を務めていたが、そのときにニカラグアの革命政権に対するCIAの秘密工作に協力、死の部隊にも関係している。 このクーデター計画を事前に知らされていたチャベス政権は潰されずにすんだ。情報を伝えたのはOPECの事務局長を務めていたアリ・ロドリゲスだ。 また、ウィキリークスが公表したアメリカの外交文書によると、2006年にもベネズエラではクーデターが計画されている。「民主的機関」、つまりアメリカの支配システムに操られている機関を強化し、チャベスの政治的な拠点に潜入、チャベス派を分裂させ、それによってアメリカの重要なビジネスを保護してチャベスを国際的に孤立させるとされている。 チャベスは2013年3月に癌のため、58歳の若さで死亡。その際にアメリカは体制転覆を目論むが、それも失敗した。チャベスを引き継いだニコラス・マドゥロもアメリカの支配層から嫌われている。 アメリカがマドゥロを倒す手先に選んだ人物がフアン・グアイドで、アメリカ政府は「暫定大統領」というタグをつけた。この人物を支援しているひとりがマルコ・ルビオ上院議員。この議員は自身のツイッターにムアンマル・アル・カダフィの元気な時の姿と惨殺される寸前の様子を撮影した写真を並べて載せていた。 ルビオはキューバ系だが、ほかの議員と同様、イスラエルのためにも活動している。ルビオはイスラエルに対するBDS(ボイコット、資本の引き揚げ、制裁)を法的に禁止しようとしているグループのひとりであり、2017年5月には反中国運動の中心メンバーである黄之鋒(ジョシュア・ウォン)と会談している。 グアイドは「何か」が2月23日に起こると「予言」していたが、その日にはバージン・グループを率いるイギリスの富豪、リチャード・ブランソンが主催するコンサートが予定されていた。 コンサートに20万人以上が集まったとワシントン・ポスト紙は伝えていたが、その様子を撮影した写真から実際は1万5000人くらいと推測されている。 コンサートの開催日に「人道的援助物資」を積んだUSAID、つまりCIAのトラックがコロンビア領内に出現し、現在は使われていない橋を渡ってベネズエラ領へ侵入しようと試み、混乱を引き起こそうとしたが、失敗している。 3月7日にベネズエラでは大規模な停電があったが、その数分後にルビオ議員はその状況を詳しく述べ、空港ではバックアップの発電機も起動しなかったことが指摘している。これは事実だが、その時点ではベネズエラ政府もその事実を把握できていなかった。 4月30日にグアイドは軍事蜂起を呼びかけたのだが、「笛吹けど踊らず」で無様なことになる。グアイドと同様、反政府派の象徴になっているレオポルド・ロペス(2014年のクーデター未遂で自宅軟禁中だったが、クーデター派によって解放されていた)はスペイン大使館へ逃れ、クーデターに参加した兵士25名はブラジル大使館へ逃げ込んでいる。 マドゥロ政権の転覆に失敗したアメリカ政府は経済戦争、一種の兵糧攻めを続けてきたが、ロシアや中国が立ちはだかっている。登場人物を見てもわかるように、中東、ウクライナ、香港、ベネズエラなどにおける混乱はアメリカの世界制覇プランが原因だ。
2019.10.19
アメリカのマイク・ペンス副大統領とマイク・ポンペオ国務長官は10月16日にトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領と会談、トルコ軍はクルド軍との戦闘を120時間休止することで合意したという。当初、エルドアン大統領はペンスやポンペオと会うつもりはないと語っていたが、何らかの事情で方針を変えたようだ。 アメリカ政府が派遣したふたりとエルドアン大統領が会った16日、トルコ政府は大統領が10月22日にロシアを訪問すると発表した。その前日にエルドアン大統領はロシアのウラジミル・プーチン大統領と電話でシリア情勢などについて話し合ったという。アメリカ政府が派遣したふたりとの接し方を相談したかもしれない。 ペンスとポンペオがトルコへ乗り込む直前、10月14日にプーチン大統領はサウジアラビアを訪問、経済的な関係の強化を印象づけた。サウジアラビアでもアメリカへの不信感が強まっているようで、ロシアとの関係が経済にとどまる保証はない。 ドナルド・トランプ米大統領は以前からシリアから撤兵ようとしてきたが、シリア占領の継続を望むアメリカの議会や有力メディアから激しく攻撃されてきた。そうした声があるにもかかわらずトランプは10月6日にシリアからアメリカ軍を撤退するように命令、議員やメディアは「裏切りだ」と叫んでいる。 アメリカなど侵略勢力が送り込んだサラフィ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)やムスリム同胞団を中心とするジハード傭兵はロシア軍に敗北、クルドが新たな手先になった。クルドにシリア政府を裏切らせたのはアメリカだ。クルドはマクベスを演じてしまった。 アメリカの強さを信じ、「クルドの国」を夢見てシリア政府を裏切ったのだろうが、シリアでの戦闘はアメリカ軍の弱さとロシア軍の強さを明らかにした。裏切りの失敗を気づいたのか、少なくとも一部のクルドはすでにシリア政府と話し合いを始めていた。 アメリカのシリア占領が失敗したことは軍の好戦派も認識しているようで、アメリカ軍だけでなくジハード傭兵もイラクへ集中させつつある。そこでアメリカ政府とイラク政府との関係が悪化しているわけだ。 そのイラクと接しているシリア東部、ユーフラテス川沿いにある油田地帯のデリゾールからアメリカ軍が撤退する様子は見られない。まだアメリカはシリアの石油利権に執着している。クルドが引き上げた後、イラクに集めているジハード傭兵を利用してアメリカは油田占領を続けるつもりなのかもしれない。 メルキト・ギリシャ典礼カトリック教会の聖職者は2012年6月の段階で「もし、全ての人が真実を語るならば、シリアの平和は守られる。1年にわたる戦闘の後、西側メディアの押しつける偽情報が描く情景は地上の真実からほど遠い。」と指摘、シリア政府軍が戦っている相手が外国からやってきた戦闘員だということも報告していた。この報告は正しいのだが、ウクライナや香港でも基本構造は同じだ。
2019.10.18
トルコ軍のシリア侵攻によってクルド勢力がシリア政府と手を組む展開になっている。クルドはアメリカやイスラエルの中東支配プランで中心的な役割を果たしてきた。そのクルドがアメリカの意向に反する動きをするということは、アメリカの中東支配の野望が崩れるということだ。 トルコの軍事作戦を止めさせるため、マイク・ペンス副大統領とマイク・ポンペオ国務長官はトルコへ向かったようだが、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領はふたりと話し合うつもりはないと語っている。話し合いはロシアを中心に展開している。 トルコが軍事作戦を始めたのは10月9日だが、その4日前にエルドアン大統領は「安全地帯」を作る作戦を始める可能性があると発言している。現在、トルコには300万人近くのシリア難民がいて、その多くはムスリム同胞団だと見られている。 トルコとの国境に近い地域にいるクルドを追い出し、そこへ親トルコのシリア人を移住させようというのだろう。ドナルド・トランプ米大統領がシリアからアメリカ軍を撤退するように命じたのは10月6日、つまりエルドアン発言の翌日だ。 そうした動きを受けてクルドはアメリカ側に保護を求めるのだが、反応は鈍かった。すでに軍隊の撤退が決まっていたということだろう。10月14日にアメリカ軍とロシア軍はマンビジュの北にある村で会談、そしてアメリカ軍は撤退する。 アメリカ軍をシリアから撤退させるというトランプ大統領の決定にペンスやポンペオだけでなく議会も反発した。シリア侵略作戦を続行しろということだが、これはイスラエルの希望でもある。 アメリカの親イスラエル派やイスラエルは中東を支配するために「クルドの国」を作り出そうとしてきた。イラクのクルドは1960年代の後半からイスラエルの傀儡が支配、その勢力とシリア、トルコ、イランのクルド勢力を合体させようとしたのだ。いわば中東版の「満州国」である。 しかし、2017年の段階でイラクのクルド勢力はイスラエルから離れる。イスラエルの傀儡、つまりマスード・バルザニの力はなくなったのだ。 それでも「クルドの国」を作るという計画をアメリカやイスラエルは捨てなかったようで、シリアのクルドを抱き込むことになる。その下準備をすることになるのがダーイッシュ(IS、ISIS、ISIL、イスラム国とも表記)だ。 ダーイッシュの中核はサラフィ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)やムスリム同胞団。2012年の段階でバラク・オバマ政権の政策がそうした勢力を強大化させることになると警告していたのがアメリカ軍の情報機関DIAであり、当時のDIA長官がマイケル・フリン中将。その警告は2014年にダーイッシュという形で現実になった。ダーイッシュの台頭はオバマ政権の政策だということだ。 このフリンをトランプが国家安全保障補佐官に任命すると民主党、有力メディア、CIAなどが総攻撃し、就任から約1カ月で解任に追い込んだ。 ダーイッシュは2015年9月末にシリア政府の要請で軍事介入したロシア軍によって壊滅的な打撃を受け、その主要メンバーはアメリカの軍や情報機関によって救出されたと言われている。当初、アフガニスタンへ運ばれていると伝えられたが、今はイラクに集められているようだ。 アメリカ軍が撤退した後、トルコ軍とシリア政府軍との衝突を避けるためにロシア軍がマンビジュの周辺へ入り、パトロールすることになった。トルコとシリアは対立しているように見えるが、ロシアは両国と緊密な関係にある。
2019.10.17
トルコ軍がシリア北東部に攻め込む中、ロシア軍を後ろ盾とするシリア政府軍が北西部にあるマンビジュを制圧した。それまでアメリカ軍を後ろ盾とするクルドの武装集団が支配していたが、トルコ軍の攻撃を受けて政府軍に明け渡したのだ。 昨年春の段階でユーフラテス川の北側にアメリカ軍、イギリス軍、フランス軍は軍事基地を20カ所ほど建設していた。その多くはアメリカの基地だ。そのアメリカ軍がトルコ軍の攻撃を前に撤退した。 アメリカ、イギリス、フランス、サウジアラビア、イスラエル、カタール、そしてトルコがアル・カイダ系武装集団やダーイッシュ(イスラム国、IS、ISIS、ISILとも表記)を使ってリビアやシリアへの侵略戦争を始めたのは2011年春のこと。 リビアではその年の10月にムアンマル・アル・カダフィ体制が崩壊、その後は武装集団が跋扈する無法国家になったが、シリアのバシャール・アル・アサド政権は持ちこたえた。 侵略勢力は2014年にダーイッシュを売り出し、その残虐さを宣伝、その上でアメリカ軍主導で空爆をはじめた。リビアに近い展開になり、ダーイッシュは支配地を拡大、シリア政府はロシアに支援を求めた。 2010年8月にムスリム同胞団を使った体制転覆プロジェクトを決めたバラク・オバマ大統領だが、政府内には戦争に慎重な人もいた。国防長官だったチャック・ヘイゲルや統合参謀本部議長だったマーティン・デンプシーだ。軍情報部DIAの局長だったマイケル・フリンは2012年の段階でアル・カイダ系武装集団に対する支援が危険であり、ダーイッシュ的な集団の登場をホワイトハウスに警告していた。 それに対し、オバマ大統領は2015年2月にヘイゲルと好戦派のアシュトン・カーターへ交代、デンプシーは15年9月に再任が拒否されて好戦派に従順なジョセフ・ダンフォードへ換えられた。フリンはダーイッシュが売り出された2014年に解任されている。 つまり、オバマ政権はシリアに対するアメリカ軍による本格的な軍事攻撃の準備を2015年に始めた。シリアがサラフィ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)やムスリム同胞団というカルトに支配されるのは時間の問題と見られたとき、ロシア軍が介入したのである。 そこでアメリカはトルコを使い、ロシアを脅しにかかる。その年の11月24日にトルコ軍機がロシア軍機を待ち伏せ攻撃、撃墜したのである。この撃墜でウラジミル・プーチン露大統領は目を覚ましたのか、姿勢が厳しくなる。 この脅しにロシアは屈せず、トルコは経済的に苦しくなる。そこで2016年6月にトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は撃墜を謝罪、7月13日には同国の首相がシリアとの関係正常化を望んでいることを示唆。その2日後に軍事蜂起(クーデター未遂)があったが、すぐに鎮圧された。事前にトルコ政府へロシアから警告があったと言われ、トルコとロシアとの関係は接近していく。 ダーイッシュやアル・カイダ系武装集団が敗走したことからアメリカは新たな手先としてクルドを使い始めたのだが、このクルドをトルコ政府は敵視している。トルコとアメリカとの関係はさらに悪化させる要因になった。 そのトルコがシリア北部を支配していたクルドを攻撃、アメリカ軍は事前に撤退した。トルコは戦略的に重要な場所にあるNATO加盟国であり、軍事衝突は避けたかったのだろう。アメリカの好戦派もアメリカ軍とトルコ軍が軍事衝突することはまずいと考えているはずだ。 ドナルド・トランプ大統領によると、マイク・ペンス副大統領とマイク・ポンペオ国務長官はトルコ政府に軍事侵攻を辞めさせるため、トルコへ向かったという。好戦的な道から外れようとするトランプを制御することがペンスとポンペオの役割を担っている。 大統領に就任した直後にトランプが国家安全保障担当補佐官に任命したのはマイケル・フリンだが、彼は1カ月足らずで解任され、トランプ自身の辞任とマイク・ペンス副大統領の昇格が噂になる。 ペンスはキリスト教系カルトの信者で、親イスラエル派。マイク・ポンペオ国務長官や国家安全保障補佐官だったジョン・ボルトンに近い。 ペンスが大統領になった場合、その政策はジョージ・W・ブッシュ政権に近くなる、つまりネオコン的なものに可能性が高いのだが、それは戦争ビジネスや金融資本と関係が深く、ネオコンに支援されていたヒラリー・クリントンに近いとも言える。
2019.10.16
エクアドルでは10月3日からレニン・モレノ政権に対する大規模な抗議活動が続いている。すでに7名が死亡、1300名以上が負傷、1100名を上回る人が逮捕されたと伝えられている。 抗議活動の切っ掛けは10月1日に政府が宣言した燃料補助の打ち切り。40年の歴史があるこの政策が打ち切られたことでディーゼル燃料の価格は倍増、ガソリンは約30%値上がりし、庶民の生活は苦しくなる。今後、新自由主義的な政策が打ち出されてくるため、庶民の貧困化が進むことは間違いない。こうした政策を命令しているのはIMFだ。 モレノが大統領に就任したのは2017年のことだった。今年3月11日にIMFはエクアドルに対して42億ドルの融資を実施すると発表、その条件として緊縮財政を強要してきたわけだ。言うまでもなく、この緊縮財政は庶民に負担を強いるもので、富を欧米の金融機関やその手先になっている一部の地元有力者へ集中させることが目的。必然的に庶民は貧困化する。 エクアドルに対する融資の場合、ほかに重要な交換条件がつけられていたと見られている。2007年1月から17年5月まで大統領を務めたラファエル・コレアが亡命を認めたウィキリークスのジュリアン・アッサンジをアメリカへ引き渡すということだ。 融資を受けてエクアドル政府は亡命を取り消し、4月11日にイギリス警察はエクアドル大使館へ乗り込んでアッサンジを逮捕した。アッサンジはイギリス版のグアンタナモ刑務所と言われているベルマーシュ刑務所で拘束されている。 アッサンジは友人や親戚の面会が禁止され、弁護チームも監視下で会うことが要求されているほか、食べ物の差し入れや基本的な医療行為も拒否されている。彼の弁護士によると、アッサンジの健康状態は悪化しているという。 アッサンジを尋問しているアメリカ人は国防総省、FBI、CIAに所属している人びとで、BZ(3-キヌクリジニルベンジラート)という薬物が使用されていると言われている。これを使うと幻覚を生じさせ、現実と幻覚を混乱させるほか、昏睡、物忘れなどを含む意識障害、あるいは運動失調症を引き起こすと言われている。 モレノは汚職で受け取ったカネのロンダリングを行うためにINA投資という名前のペーパーカンパニーを2012年にベリーズで作ったという話がリークされた。その責任はウィキリークスにあるという理由でアッサンジの亡命を取り消したとモレノは主張している。 IMFは米英を中心とする西側の巨大メディアとタッグを組んでラテン・アメリカ、アジア、アフリカといった国々で略奪してきた。その仕組みの中心には金融がある。 ギリシャもIMFと巨大金融資本の餌食になっている。まず財政破綻させるところから略奪は始めるのだが、その始まりは通貨の切り替え。2001年に自国通貨のドラクマを捨て、ユーロにしたのである。この切り替えでギリシャは経済的な主権を失った。 実は、EUのルールに従うとこの通貨切り替えはできないはずだったが、財政状況の悪さを隠して実行している。その作業で中心的な役割を果たしたのが巨大金融機関のゴールドマン・サックス。財政状況の悪さを隠す手法をギリシャ政府に教え、債務を膨らませたのである。 その手法とは、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)などを使って国民に事態を隠しながら借金を急増させ、投機集団からカネを受け取る代償として公共部門の収入を差し出すということが行われていたという。 その結果、ギリシャは借金漬けになり、「格付け会社」がタイミングを見計らってギリシャ国債の格付けを引き下げて混乱させる。 財政危機が表面化した際、ECB(欧州中央銀行)、IMF(国際通貨基金)、そして欧州委員会で編成される「トロイカ」は欧米の巨大金融機関を救済するため、緊縮財政を強要、尻拭いを庶民に押しつけようとする。 ちなみに、ギリシャを破綻させる作業が続いていたであろう2002年から05年にかけてゴールドマン・サックスの副会長を務めていたマリオ・ドラギは06年にイタリア銀行総裁、そして11年にはECB総裁に就任している。 ギリシャの財政危機を招いたのは年金制度や公務員の問題だと西側のメディアは宣伝していたが、それでは危機が急に深刻化した理由が説明できない。そもそもギリシャの財政を悪化させた最大の要因は第2次世界世界大戦や軍事クーデターによる国の破壊だ。 新自由主義が初めて政策として導入されたのは軍事クーデター後のチリ。このクーデターでアメリカの巨大資本に盾突く勢力を消滅させ、シカゴ大学のミルトン・フリードマン教授のマネタリズムに基づく大企業/富裕層を優遇する政策を実施したのだ。 その政策とは労働組合を弱体化し、健康管理から年金、教育まで全てを私有化しようというもの。一連の規制緩和でチリの民間部門は外国の金融機関から多額の資金を調達、1980年から82年の間に債務額は倍増、対外債務は200億ドルに達する。その3分の2は民間部門だった。(James S. Henry, “The Blood Bankers”, Four Walls Eights Windows, 2003) 債務危機が起こると、外国の金融機関は銀行の国有化を要求し、国有化された彼らの債権は私有化された国有企業の株券と交換することが許されていた。その結果、年金基金、電話会社、石油企業などチリの重要な企業を外国の投資家は格安のコストで支配することになる。 庶民の貧困化が進み、貧困層の子供は教育を受けるチャンスを奪われ、さまざまな不平等を再生産することになる。そして麻薬ビジネスが経済を支えることになった。これが「チリの奇跡」だ。 モレノのような人物が大統領になり、西側の巨大資本やその手先を儲けさせる情況を生み出した原因は、この略奪の仕組みを破壊しなかったことにある。
2019.10.15
支配体制が揺らいでいるサウジアラビアをウラジミル・プーチン露大統領が10月14日に訪れる。サウジアラビアは言うまでもなくアメリカの影響下にある国で、イスラエルと同じようにアメリカの支配システムにおける重要な柱のひとつになっている。揺らいでいるサウジアラビアの体制を支えるためなのか、アメリカは約3000名の部隊を同国へ派遣するようだ。 現在、サウジアラビアはモハメド・ビン・サルマン皇太子を中心に動いていると見られているが、その皇太子が孤立化していることは本ブログでも指摘した。 父親である国王のサルマン・ビン・アブドラジズ・アル・サウドからの信頼も失い、国王から最も信頼していた警護責任者のアブドル・アジズ・アル・ファガム少将を9月28日に射殺した黒幕は皇太子だと言われている。 皇太子は2017年11月4日からライバルの粛清をはじめ、48時間の間に約1300名を逮捕。拘束された人びとは財産を取り上げられただけでなく拷問された。 その拷問を行ったのはブラックウォーター(すでにXe、さらにアカデミへ名称が変更されているが、今でもよく使われているので、ここではこの名称を使う)だとされているが、皇太子は警護をブラックウォーターに任せようとしているとする情報が流れている。 サウジアラビアを訪問するプーチンはシリア政府とクルドの話し合いを仲介しているという。シリアは2011年3月からアメリカ、イスラエル、サウジアラビアの三国同盟、イギリスとフランスのサイクス-ピコ協定コンビ、パイプラインの建設でシリアと対立したカタール、そしてオスマン帝国の再興を夢見るトルコなどに侵略戦争を仕掛けられた。 その中からカタールとトルコが2016年に離脱する。トルコの場合、シリアでの戦争長期化で経済が苦境に陥ったことが大きい。 シリアでは2015年9月末に同国の政府から要請を受けたロシアが軍事介入、アメリカなどの侵略勢力が使っていたダーイッシュ(イスラム国、IS、ISIS、ISILとも表記)やアル・カイダ系武装集団、いわばジハード傭兵を敗走させ、戦況は一変。そこでトルコの戦闘機が11月24日にロシア軍機を撃墜した。アメリカ軍の命令によると見られている。 その撃墜をトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は2016年6月下旬に謝罪、7月13日には同国の首相がシリアとの関係正常化を望んでいることを示唆。その2日後に軍事蜂起(クーデター未遂)があったが、すぐに鎮圧されている。事前にトルコ政府へロシアから警告があったと言われている。 このクーデターでアメリカはフェトフッラー・ギュレンの一派を利用した。アメリカでCIAに保護されているギュレンを引き渡すようトルコ政府はバラク・オバマ政権に求めるが、拒否される。トルコ政府はクーデター計画の背後にアメリカ中央軍のジョセフ・ボーテル司令官やジョン・キャンベルISAF司令官がいたと主張している。 クーデターの失敗はアメリカを厳しい状況に追い込むことになった。トルコは戦略的に重要な位置に存在するNATO加盟国であり、扱いが難しい。手先のクルド勢力をトルコ軍が攻撃したからといって、アメリカ/NATO軍がトルコ軍を攻撃するわけにはいかないのだ。こうした展開になったことで、クルドは自分の立場を理解しただろう。シリア政府と話し合いが始まっているとは以前から言われていたが、ここにきて協議は進んでいるようだ。 クルドがアメリカの手先として動くことをやめ、「クルドの国」の建設を放棄したなら、アメリカのほかイスラエル、サウジアラビア、イギリス、フランスはシリア占領を続けることが難しくなる。 こうした勢力はイラクの拠点を強化しているが、そのために関係が悪化しているイラク政府を揺さぶっているが、その目論見が成功するかどうかは不明だ。 アメリカの支配力が弱まり、中東のパワーバランスは大きく変化している。そうした中、アメリカを支えてきたサウジアラビアをロシアの大統領が訪問、何が話し合われるのかは興味深い。
2019.10.14
トルコ軍によるシリア北東部に対する攻撃が続く中、アメリカの特殊部隊を誤射したと伝えられている。トルコはシリア北部、トルコとの国境に近い地域からクルドを追い出し、そこへ親トルコのシリア人を入植させようとしているとも言われている。 シリア政府は自分たちの承認を受けずに軍隊をシリア国内へ入れている外国勢力に対し、一貫して侵略行為だと抗議してきた。シリア政府が同国内での軍事行動を認めているのはロシアとイランだけ。ロシアはトルコに対してシリアの主権を尊重するように求めている。クルドはシリア国民だという立場だ。 クルドを手先として利用しているアメリカ、そのアメリカの影響下にあるEUもトルコを批判しているが、アメリカ、イギリス、フランスのようなシリアへ軍隊を派遣している国をシリア政府は侵略者と見なしている。 ドナルド・トランプ政権はトルコに対して事前に攻撃を容認するシグナルを送っていたと言われているが、それを裏切りだと批判する声がアメリカ国内にはある。ダーイッシュ(イスラム国、IS、ISIS、ISILとも表記)と戦う同盟相手だというのだが、ダーイッシュはアメリカによって作り出された。バラク・オバマ政権の政策が称した怪物だということは本ブログでも繰り返し書いてきた。さまざまなタグがつけられたアル・カイダ系武装集団についても同じことが言える。 2011年3月にアメリカを含む勢力はシリアへの侵略戦争を始める。その勢力にはトルコも参加していたが、戦争の長期化で経済が破綻、離脱してロシアへ接近した。 ダーイッシュにしろアル・カイダ系武装集団にしろ、その実態は傭兵。ジョージ・W・ブッシュ政権がイラクを先制攻撃した2年後にロビン・クック元英外相は「アル・カイダ」について、CIAに雇われて訓練を受けた「ムジャヒディン」のコンピュータ・ファイルだと説明している。傭兵の登録リストだ。 2012年8月、アメリカ軍の情報機関DIAはオバマ政権の「穏健派支援」が危険だということをホワイトハウスへ報告している。その時の局長がトランプ政権の最初の国家安全保障補佐官であるマイケル・フリン中将。 その報告書はシリアで政府軍と戦っている武装勢力の中心がサラフィ主義者やムスリム同胞団だと指摘、アル・カイダ系とされるアル・ヌスラ(AQIと実態は同じだと指摘されていた)の存在も記述している。ちなみに、アル・ヌスラの主力はサラフィ主義者やムスリム同胞団だ。 これも繰り返し書いてきたが、ダーイッシュとアメリカとの関係は深く、その事実はさまざまな人に指摘されてきた。例えばアメリカ空軍のトーマス・マッキナニー中将は2014年9月、アメリカがダーイッシュを作る手助けしたとテレビで語っている。 またマーティン・デンプシー統合参謀本部議長(当時)はアラブの主要同盟国がダーイッシュに資金を提供していると議会で発言、10月にはジョー・バイデン米副大統領がハーバーバード大学で中東におけるアメリカの主要な同盟国がダーイッシュの背後にいると語っている。2015年にはウェズリー・クラーク元欧州連合軍最高司令官もアメリカの友好国と同盟国がダーイッシュを作り上げたと述べた。 そして2015年8月、アル・ジャジーラの番組でダーイッシュの勢力を拡大させた責任を問われたフリン元DIA局長は自分たちの任務について、情報の正確さをできるだけ高めることにあると反論。その情報に基づいて政策を決定するのはバラク・オバマ大統領の役目だと指摘している。 ダーイッシュは2014年に売り出された。当初は残虐性が宣伝され、その残虐な集団を殲滅するという口実でシリアを空爆、シリア政府軍を攻撃、インフラを破壊した。その間、アメリカ軍は武装集団へ物資を「誤投下」し、その武装集団は勢力を拡大していく。その武装集団を敗走させたのは2015年9月末にシリア政府の要請で介入したロシア軍だ。 アメリカの軍や情報機関はそうした武装集団の主要メンバーを救出する一方、少なからぬ戦闘員が放置されることになる。クルド側へ入った戦闘員もいるようだ。 このクルドには欧米の侵略に協力してきた歴史がある。イラクを拠点とし、ムスタファ・バルザニに率いられたクルドは1960年代からイスラエルの手先として活動してきたことは広く知られている。その背後にはアメリカや王制時代のイランが存在していた。ムスタファの息子がマスードだ。 アメリカにはイラン、イラク、シリア、トルコにまたがる地域にクルドの国を作る計画があった。中東版「満州国」のような存在で、そこを拠点にして中東全域を支配しようというわけである。そうした意味で、ダーイッシュやアル・カイダ系武装集団からクルドへの手先交代はアメリカのビジョンに合致していたのだが、ここにきてそのビジョンが揺らいでいる。その原因を作ったトルコがアメリカで批判されるのは必然だろう。
2019.10.13
サウジアラビアのモハメド・ビン・サルマン皇太子は孤立化を深め、父親である国王のサルマン・ビン・アブドラジズ・アル・サウドからの信頼も失ったと言われている。 そのサルマン国王が最も信頼していた警護責任者のアブドル・アジズ・アル・ファガム少将が9月28日に射殺された。公式発表では、ジェッダにある友人の家で個人的な諍いから殺されたとされているが、宮殿で殺されたとする情報がある。イエメン情勢やジャマル・カショーギ殺害の真相を国王へ伝えたので殺されたとも言われている。 2017年11月4日から皇太子はライバルの粛清を実施、48時間の間に約1300名を逮捕させた。その中には富豪や少なからぬ王子や閣僚が含まれていたとされている。その際、イスラエル軍は皇太子を守るため、F-15やF-16を含む軍用機をサウジアラビアへ派遣したとも報道された。アメリカの傭兵やイスラエル軍の手を借りて粛清をしなければならないほどモハメド・ビン・サルマンは孤立している。 拘束された人びとは財産を取り上げられただけでなく拷問された。その拷問を行ったのはサウジアラビア人でなく、ブラックウォーター(すでにXe、さらにアカデミへ名称が変更されているが、今でもよく使われているので、ここではこの名称を使う)。 会社側はこの情報を否定しているが、警護の人間が信頼できない皇太子はブラックウォーターのような傭兵会社に頼らざるをえないと見ている人は少なくない。皇太子はできるだけ早く国王に即位したいようだが、その目論見が実現した際、国王の警護はブラックウォーターのような傭兵が担当することになるのだろう。
2019.10.12
オバマ政権は侵略のためにサラフィ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)やムスリム同胞団を中心とするジハード傭兵を使ってきた。「アル・カイダ」や「ダーイッシュ」といったタグがつけられている。 しかし、アル・カイダという戦闘集団は存在しない。ロビン・クック元英外相が2005年7月8日付けガーディアン紙で明らかにしたように、アル・カイダはCIAに雇われ、訓練を受けた数千人におよぶ「ムジャヒディン」のコンピュータ・ファイル。アラビア語でアル・カイダは「ベース」を意味、「データベース」という意味でも使われる。 そのデータベースから傭兵を選び、さまざまなタグをつけた戦闘集団を編成するわけだが、そうした集団のひとつ、アル・ヌスラの司令官だったアブ・アル・エズは、アメリカが第3国経由で彼らに武器を供給していると語っている。 シリアに対する侵略戦争はリビアのケースと違い、アメリカなどが計画したとおりには進まない。ロシアが立ち塞がったのだ。そこでオバマ政権は強引にアメリカ/NATO軍を介入させようとする。 リビアのムアンマル・アル・カダフィ体制が2011年10月に倒されると、アメリカなど侵略勢力は戦闘員や武器/兵器をシリアへ集中させる。そこでシリアでの戦闘が2012年に激化すると言われていた。 その2012年の8月、マイケル・フリンが局長だったDIAはオバマ政権の「穏健派支援」が危険だということをホワイトハウスへ報告した。その中で、シリアで政府軍と戦っている武装勢力はサラフィ主義者やムスリム同胞団が中心だと指摘、アル・ヌスラ(AQIと実態は同じだと指摘されていた)という名称も示している。ちなみにアル・ヌスラの主力はサラフィ主義者やムスリム同胞団だ。 リビアへの侵略戦争でアメリカ/NATOとアル・カイダ系武装集団との連携が露見、オバマ政権は「穏健派」を支援していると主張して弁明していたのだが、そうした勢力は存在しないとDIAは指摘したわけだ。さらに、オバマ政権の政策はシリアの東部(ハサカやデリゾール)にサラフィ主義者の支配地域を作ることになるとも警告していた。それがダーイッシュの出現という形で現実になった。 その報告の翌月、つまり2012年9月11日にベンガジのアメリカ領事館が襲撃され、大使だったクリストファー・スティーブンスが殺された。ワッハーブ派とムスリム同胞団の内部対立だと言われている。オバマ政権は歴史的にイギリスとの関係が深いムルリム同胞団を重用していた。 領事館が襲撃される前日、大使は武器輸送の責任者だったCIAの人間と会談、襲撃の当日には武器を輸送する海運会社の人間と会っていたとされている。当時のCIA長官はデイビッド・ペトレイアス、国務長官はヒラリー・クリントンだ。 2013年の夏になるとアメリカが本格的な軍事介入を始めるという話が伝えられ、9月3日には地中海からシリアへ向かって2発のミサイルが発射された。 ところが、そのミサイルは途中で海中へ落下、後にイスラエル国防省はアメリカと合同で行ったミサイル発射実験だったと主張する。事前に通告はなく、発射実験だとする主張に説得力はない。予定通り実際に攻撃を始めたものの、失敗したと見られている。ジャミングなど何らかの手段で落とされたと推測する人もいる。 その9月、駐米イスラエル大使だったマイケル・オーレンはアル・カイダについて、バシャール・アル・アサド体制よりましだと語っている。オーレンはベンヤミン・ネタニヤフ首相の側近で、この発言は首相の意思でもあると考えられた。 その当時、アメリカではマーティン・デンプシー統合参謀本部議長やマイケル・フリンDIA局長はアル・カイダ系武装集団を危険だと考え、シリア政府と接触していたと言われている。これはオバマ政権の方針と違った。 そこで売り出されたのがダーイッシュ(イスラム国、IS、ISIS、ISILとも表記)。2014年1月にこの武装集団は「イスラム首長国」の建国を宣言、6月にはモスルを制圧した。その際にトヨタ製の真新しい小型トラック「ハイラックス」を連ねてパレード、その後継を撮影した写真が世界規模で流れている。 この写真はダーイッシュの売り出しに利用されたのだが、それを見て奇異な感じを受けた人は少なくないだろう。アメリカ軍は衛星や航空機で偵察、通信を傍受し、人からの情報も利用してダーイッシュの動きを把握していたはずで、パレードは格好の攻撃目標だったからだ。アメリカ軍は動かなかった。 ダーイッシュとアメリカとの関係はアメリカの軍人や政治家も口にしている。例えば、空軍のトーマス・マッキナニー中将は2014年9月、アメリカがダーイッシュを作る手助けしたとテレビで語った。またマーティン・デンプシー統合参謀本部議長(当時)はアラブの主要同盟国がダーイッシュに資金を提供していると議会で発言、10月には副大統領を務めたジョー・バイデンがハーバーバード大学で中東におけるアメリカの主要な同盟国がダーイッシュの背後にいると語っている。2015年にはウェズリー・クラーク元欧州連合軍最高司令官もアメリカの友好国と同盟国がダーイッシュを作り上げたと述べた。 そして2015年8月、アル・ジャジーラの番組でダーイッシュの勢力を拡大させた責任を問われたマイケル・フリン元DIA局長は自分たちの任務について、情報の正確さをできるだけ高めることにあると反論。その情報に基づいて政策を決定するのはバラク・オバマ大統領の役目だと指摘している。つまり、オバマ政権の「穏健派支援」がダーイッシュの勢力を拡大させたというわけだが、これは事実である。 そのフリンをトランプは国家安全保障補佐官に任命したが、CIA、民主党、有力メディアなどは激しく反発する。国防長官だったジェームズ・マティスともフリンは対立した。そしてトランプ政権が誕生した翌月、2017年2月には解任されてしまった。(了)
2019.10.11
2014年にウクライナと香港で実行した工作はロシアと中国にアメリカの本性を見せることになり、両国を戦略的な同盟関係に入らせてしまった。そして今、アメリカから経済戦争を仕掛けられているイランが中国と手を組もうとしている。 ネオコンをはじめとするアメリカの好戦派はイスラエルと同様、「脅せば屈する」という考え方で政策を決めている。国力に大きな差のある国に対しては有効な考え方だったが、相手がロシアや中国になってからは機能していない。 「脅せば屈する」という考えに基づいてアメリカの好戦派が世界制覇プランを始動させたのはソ連が消滅した直後のことである。このプランは軍事力を前面に出したもので、それに基づく侵略戦争が始まることになった。ソ連消滅を冷戦の終結と考え、平和な時代になると考えた人は冷戦の本質を見誤っていたのである。 アメリカの支配層が身にまとっていた「民主主義」という隠れ蓑を脱ぎ捨て、その侵略体質をむき出しにしたのは1992年2月のことである。その直前、1991年12月にソ連が消滅したことでアメリカが「唯一の超大国」になったと認識、他国を配慮せず単独で行動できる時代になったと考えたのである。 世界制覇プランを国防総省のDPG草案という形でまとめたのが国防次官だったポール・ウォルフォウィッツを中心とするネオコンのグループ。そこでこのプランはウォルフォウィッツ・ドクトリンとも呼ばれる。 ウォルフォウィッツは1991年の段階でイラク、シリア、イランを殲滅すると口にしていた。これはウェズリー・クラーク元欧州連合軍(現在のNATO作戦連合軍)最高司令官の話だ。(3月、10月)このプランに従い、トランプはイランに経済戦争を仕掛けている。 当時の大統領はジョージ・H・W・ブッシュ、国防長官はディック・チェイニーだが、ウォルフォウィッツを含め、3人ともジェラルド・フォード政権で台頭してきた好戦派だ。 この好戦派はユーゴスラビア、次いでアフガニスタンやイラクを先制攻撃、リビア、シリア、南オセチア、ウクライナなどでは傭兵を使って侵略を試みている。そのうちリビアは政権どころか国を破壊、今では暴力が支配する破綻国家だ。南オセチアではロシア軍の反撃で手先のジョージア軍が完敗、シリアやウクライナではアメリカの思惑通りに進まなかった。 ユーゴスラビアに戦争を仕掛けた当時のアメリカ大統領はビル・クリントン。第1期目は戦争圧力に抵抗していたが、スキャンダル攻勢を受けたこともあり、第2期目に国務長官を戦争に消極的なクリストファー・ウォーレンから好戦的なマデリーン・オルブライトへ交代、ユーゴスラビアに対する攻撃を始めたのである。 ジョージ・W・ブッシュ政権やバラク・オバマ政権も基本的に戦略は同じ。ヒラリー・クリントンもその世界制覇プランに基づく政策を打ち出すはずだったのだが、それに対抗する動きが現れる。例えば民主党のバーニー・サンダースや共和党のドナルド・トランプだ。民主党内のサンダース潰しを明らかにしたのがウィキリークスである。この内部告発支援グループの顔であるジュリアン・アッサンジは現在、イギリスの刑務所に入れられている。 2016年のアメリカ大統領選挙で当選したのはロシアとの関係修復を訴えたトランプ。そのトランプが大統領に就任する直前、同年12月にバラク・オバマ政権は外交官35名を含むロシア人96名を追放する。トランプ政権が始まるまでにアメリカとロシアとの関係をできるだけ悪化させておきたかったのだろう。 大統領選挙で民主党の候補者に選ばれたのはヒラリー・クリントン。そのクリントンを支援する目的でCIA副長官を辞任したマイク・モレルは2016年8月、CBSの番組でアンカーを務めていたチャーリー・ローズのインタビューの中で、ロシア人やイラン人に代償を払わせるべきだと語る。ローズからロシア人とイラン人を殺すという意味かと問われると、その通りだと答えたのだ。わからないようにと付け加えることも忘れなかった。CIAの副長官だった人物がロシアやイランの要人を殺すとテレビで語ったのだ。 その発言後、ロシア政府の幹部が変死している。例えば2016年11月8日にニューヨークのロシア領事館で副領事の死体が発見され、12月19日にはトルコのアンカラでロシア大使が射殺され、12月20日にはロシア外務省ラテン・アメリカ局の幹部外交官が射殺され、12月29日にはKGB/FSBの元幹部の死体が自動車の中で発見され、17年1月9日にはギリシャのアパートでロシア領事が死亡、1月26日にはインドでロシア大使が心臓発作で死亡、そして2月20日にはロシアの国連大使だったビタリー・チュルキンが心臓発作で急死した。 こうした外交官はモレル発言の後の死者だが、2015年11月5日にはアメリカ政府が目の敵にしてきたRTを創設した人物がワシントンDCのホテルで死亡している。この人物の死にも疑惑を持つ人がいる。 ロシア人やイラン人の殺害を公言した元CIA副長官は問題にされなかったが、その元副長官から重大な証言を引き出したローズは2017年11月にセクハラでCBSのアンカーを辞めざるをえなくなった。2019年に彼は告訴されている。(つづく)
2019.10.11

ドナルド・トランプ米大統領がウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領に対し、ジョー・バイデン前副大統領の息子のハンターについて捜査するように求めたとアメリカ下院の情報委員会へ「内部告発」した人物が民主党の大統領候補と職務上の関係があることが指摘され、「第2の内部告発者」として最初の「内部告発者」の情報源と言われる人物が登場してきた。 7月25日朝の電話でトランプが話題にしたのはジョー・バイデンが2018年1月23日にCFR(外交問題評議会)で行った発言である。バラク・オバマ政権で副大統領を務めていた当時、バイデンはキエフのクーデター政権に対し、10億ドル欲しければ検事総長だったビクトル・ショーキンを解任しろと恫喝、実際に解任されたことを自慢しているのだ。 バイデンは「ウクライナを支援する欧米諸国や国際機関が同国の腐敗問題に取り組む中、同国の検事総長が汚職捜査に消極的だとして解任させようとした」と主張しているが、ショーキンは宣誓供述書の中で、解任の理由は天然ガス会社ブリスマ・ホールディングス(本社はキプロス)を捜査していたことにあるとしている。ハンター・バイデンは2014年4月から同社の重役だが、エネルギー産業に詳しいわけではない。 解任の決断は6時間以内にするようバイデンは要求したとしているが、ジョン・ソロモンによると、5名ほどのウクライナ高官は2015年終わりから16年初めにかけての数カ月かにわたり、バイデンは検事総長を解任するよう圧力をかけていたという。しかもトランプがゼレンスキーへ電話する前、今年2月の初めにはハンターに対する捜査を再開する動きがあったとも伝えられている。ちなみに、ゼレンスキーが大統領に就任したのは5月のことである。 ハンターがブリスマの重役に就任する2カ月前、ウクライナではクーデターがあった。バラク・オバマ政権がネオ・ナチを使い、アメリカへの従属を拒んだビクトル・ヤヌコビッチ政権を倒した。当然のことながら、オバマ大統領もクーデター体制への支援を表明している。 クーデター工作の最前線にいたのはネオコンのひとりで国務次官補だったビクトリア・ヌランド。ジョー・バイデンもクーデターで重要な役割を果たしている。つまりバイデンはウクライナのクーデター体制に大きな影響力を持ったのだが、ウクライナの議員、アンドリー・デルカチによると、バイデン前副大統領はブリスマからロビー会社を介して90万ドルを受け取っているという。 1991年12月にソ連を消滅させたボリス・エリツィンはロシア大統領として腐敗勢力と手を組み、国民の資産を略奪した。その結果、外国の巨大資本やその手先になったロシア人は巨万の富を手にしたが、大多数の国民は貧困化、その時の怒りがウラジミル・プーチン支持につながった。同じような略奪をバイデンは目論んだのだろうが、ソ連/ロシアのようにことは進まなかったようだ。 この計算違いが民主党を窮地に追い込んでいる。ブリスマの問題は封印しなければならない。クーデターで誕生したペトロ・ポロシェンコ政権が2016年のアメリカ大統領選挙でヒラリー・クリントンを支援していたことも明らかになってきた。 また、現大統領のゼレンスキーがロシアとの関係修復に動いていることを懸念している人がアメリカ支配層の中にはいるはずだ。ヤヌコビッチをクーデターで排除したのもそのためだ。「内部告発者」はトランプだけでなく、ゼレンスキーもターゲットにしている可能性がある。
2019.10.10
現在、アメリカやイギリスが中国を揺さぶるために香港で混乱を作り出している。黄之鋒(ジョシュア・ウォン)、羅冠聰(ネイサン・ロー)、周永康(アレックス・チョウ)などが前面に出てくるが、そうした若者の後ろには元王室顧問弁護士の李柱銘(マーチン・リー)、メディア王と呼ばれている新自由主義者の黎智英(ジミー・リー)、香港大学の戴耀廷(ベニー・タイ)副教授、あるいは陳日君(ジョセフ・ゼン)、余若薇(オードリー・ユー)、陳方安生(アンソン・チャン)などがいて、その背後にはアメリカやイギリスの情報機関、つまりCIAやMI6が存在している。 こうした人びとだけでなく、法輪功というカルトも注目されてきた。このカルトが出現したのは1992年。その教義は仏教と道教を合体したものだとされているが、創始者の劉振営はキリスト教の福音主義者で、「エルサレムへ戻ろう」という運動を行っている。 この団体は反コミュニズムでも有名で、アメリカの支配層はその点を評価。アメリカの政府機関であるUSAGM(米国グローバル・メディア庁)から法輪功へ資金が流れているのもそのためだろう。 アメリカやイギリスは中国を揺さぶるため、香港で工作を進めてきた。香港は元々中国の一部だったが、アヘン戦争で中国(清)が敗北した結果、イギリスの植民地になった。この戦争は1840年から42年にかけて行われたが、56年から60年にかけても同じ構図の戦争、第2次アヘン戦争(アロー戦争)が引き起こされている。こうした戦争と並行する形で1851年に「太平天国」が蜂起、勢力を拡大した。この運動は1864年まで続いている。 その後、香港は中国侵略の拠点になるが、それだけでなくユーラシア大陸東岸部におけるイギリスやアメリカの戦略拠点として機能、ロンドンのシティを中心とするオフショア市場ネットワークにも組み込まれた。つまり、香港は地下経済と地上経済の出入り口のひとつでもある。 イギリスやアメリカは中国へアヘンを売ることで大儲けしたが、儲けたカネを扱うため、1865年に創設されたのが香港上海銀行。この銀行は1866年に横浜へ進出し、大阪、神戸、長崎にも支店を開設。明治政府とも深く結びついた。 アヘン戦争で大儲けした会社のひとつ、ジャーディン・マセソンは1859年にふたりのエージェントを日本へ送り込む。ひとりは長崎へ渡ったトーマス・グラバーであり、もうひとりは横浜のウィリアム・ケズウィック。ケズウィックの母方の祖母はジャーディン・マセソンを創設したひとり、ウィリアム・ジャーディンの姉だ。 グラバーとケズウィックが来日した1859年にイギリスのラザフォード・オールコック駐日総領事は長州から5名の若者をイギリスへ留学させることを決め、井上聞多(馨)、遠藤謹助、山尾庸三、伊藤俊輔(博文)、野村弥吉(井上勝)が選ばれ、63年にロンドンへ向かう。この時に船の手配をしたのがジャーディン・マセソンで、すでに独立していたグラバーも渡航の手助けをしている。ケズウィックは1862年にジャーディン・マセソンの共同経営者となるために香港へ戻っていた。後にケズウィックは香港上海銀行の幹部になる。 イギリスが中国へ売りつけたアヘンはケシを原料とする麻薬で、そのアヘンの麻薬成分がモルヒネ。そのモルヒネをジアセチル化したものがヘロインである。ベトナム戦争中、東南アジアの山岳地帯、いわゆる「黄金の三角地帯」は世界最大のケシの産地だった。 そのケシを使って製造されたヘロインは、アメリカが本格的に軍事介入して以降、アメリカの犯罪組織を介して売りさばかれる。この麻薬取引を仕切っていたのはCIAにほかならない。1970年代終盤にアメリカがアフガニスタンで秘密工作を始めてからケシの主要産地は黄金の三角地帯からアフガニスタンからパキスタンにかけての山岳地帯へ移動した。
2019.10.09
シリアからアメリカ軍を撤退させるというドナルド・トランプ米大統領の決定に議会から反発が出ているという。 昨年12月にもトランプはアメリカ軍の撤退を決めたが、この時は議会だけでなく政府内からも反発が出た。ジェームズ・マティス国防長官が辞任したほか、マイク・ペンス副大統領、ジョン・ボルトン国家安全保障補佐官、マイク・ポンペオ国務長官の好戦ラインのほか、シリア特使だったジェームズ・ジェフリーも大統領と対立、撤退は立ち消えになった。 撤退が議論になる理由はアメリカ軍がシリアにいるからである。シリア政府の要請があったわけでなく不法占領、つまり侵略しているのだ。バラク・オバマ大統領は他国を勝手に空爆した上、地上軍を送り込んだのである。 アメリカ軍を送り込まなければならなかったのは、2011年3月から手先として使っていたサラフィ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)やムスリム同胞団を中心とする傭兵の敗北にある。 この傭兵はAQI、アル・ヌスラ、タハリール・アル・シャーム、ダーイッシュ(イスラム国、IS、ISIS、ISILとも表記)といったタグをつけているが、アメリカ、イスラエル、サウジアラビア、イギリス、フランス、カタール、トルコなどに雇われていた。アメリカ軍は空爆で傭兵部隊を支援する一方、シリアのインフラを破壊してバシャール・アル・アサド政権を倒そうとしたわけだ。 当初の予定ではリビアのケースと同じように大規模な空爆を実施するはずだったのだが、シリアではロシアが立ち塞がる。2015年9月末にはシリア政府の要請でロシア軍が介入、アメリカ軍と違って本当にアル・カイダ系武装集団やダーイッシュを攻撃し、敗走させた。 慌てたアメリカなどは傭兵が支配していたシリアの北部を政府側に渡さないため、クルドと手を組む。クルドはアメリカの甘言に乗ったのである。アメリカはクルドを使い、シリアとイラクにまたがる地域に一種の「満州国」を作ろうとしたとも言える。 こうしたプランにアメリカの議員が執着している理由のひとつはイスラエルの戦略。イスラエルやサウジアラビアはイランを制圧しようとしている。アメリカの議会は多額の資金をイスラエルへ流しているが、その一部が議員の懐へ還流している。カネ儲けのためには親イスラエルである必要があるわけだ。 それだけでなく、ジェフリー・エプシュタインの事件でも明らかになったが、イスラエルの情報機関は有力者の弱みを握り、操ってきた。弱みを握られた議員は少なくないと見られている。 メディアの中にも弱みを握られた人物が少なくないと言われているが、カール・バーンスタインが明らかにしたように、情報機関と結びついている記者や編集者のネットワークが存在している。(Carl Bernstein, “CIA and the Media”, Rolling Stone, October 20, 1977)
2019.10.09
トルコ空軍機がシリア北東部、マサカのマリキヤに対する空爆を始めたようだ。その地域はアメリカ軍がクルドを使って支配している地域に含まれていたが、攻撃の前にアメリカ軍は撤退していた。この空爆をアメリカ政府は容認したのだろう。トルコ政府はイラン政府に対し、シリアへの部隊派遣は一時的なものだと説明している。 トルコ軍の動きを知ったクルド系の人びとはアメリカ軍に対し、攻撃から自分たちを守るように訴えていたものの、アメリカ側にそれに応えるような動きは見られない。クルド内にアメリカへの不信が広がることは避けられないだろう。 ドナルド・トランプ米大統領は昨年12月にアメリカ軍2000名をシリアから撤退させる方針を示し、政府内にも衝撃が走った。その意向に従って撤退の命令書に署名したジェームズ・マティス国防長官は抗議のために辞任した。 マイク・ペンス副大統領、ジョン・ボルトン国家安全保障補佐官、マイク・ポンペオ国務長官の好戦ラインのほか、シリア特使だったジェームズ・ジェフリーも撤退の問題で大統領と対立し、結局、撤退は立ち消えになる。 その間、中東を担当するアメリカ中央軍は大統領の意向を無視するかのような動きをしていた。例えば、大統領から命令が出た直後にアメリカ軍はイラクからシリアにある同軍の平坦拠点へ軍事車両や軍備品を150両近いトラックで運び込んだ。シリアとの国境に接したイラクの西部地域に軍事的な拠点を建設にしていたことも知られている。こうしたアメリカ軍の動きにイラク政府は反発、アメリカとイラクとの関係は悪化し、ここにきての混乱につながる。 イラクの治安を担っているハシド・アル・シャービ(人民動員軍)の東部地区を担当している司令官によると、アメリカ軍はシリア東部にいるダーイッシュ(イスラム国、IS、ISIS、ISILとも表記)へ軍事情報を伝えている。 トルコ軍のクルドに対する攻撃に合わせ、ロシア軍とシリア政府軍はシリア北西部にあるアレッポからマンビジュにかけての地域へ防衛のために部隊を派遣しているとする情報がクルドから流れている。 今後、トルコ軍がどのように動くか明確でないが、情況次第でアメリカ軍はシリアから撤退、イラクへアメリカ軍やジハード傭兵を集中させそうだ。そうなるとアメリカはイラクとの関係がさらに悪化する。
2019.10.08
トルコ軍がシリアとの国境近くに集まり、クルドに支配されている地域への攻撃を準備していると伝えられている。戦乱を避けて難民になっているシリア人を帰国させる目的で「安全地帯」を作る作戦を始める可能性があるとレジェップ・タイイップ・エルドアンは10月5日、テレビで語ったが、それを受けての動きだ。クルド側はアメリカに保護を求めているが、アメリカはこの動きから距離を置く姿勢を示している。 トルコはシリアの北部からクルド勢力を一掃しようとしてきた。そのクルドをジハード傭兵に替わる手先としてアメリカが選んだことからトルコとアメリカとの関係は悪化、トルコをロシアへ追いやることになっている。 アメリカをはじめとする外国勢力がシリアに対する侵略戦争を始めたのは、準備期間を除くと、2011年3月。その外国勢力とはアメリカ、イスラエル、サウジアラビアの3国同盟、フランスとイギリスのサイクス-ピコ協定コンビ、パイプラインの建設でシリアと対立したカタール、オスマントルコの復活を目論んでいたと言われるトルコなど。 戦争の長期化で矛盾が生じ、トルコとカタールは離脱。トルコの場合、経済的に結びつきの強かったロシアとシリアを敵にしたことから必然的に経済が破綻、しかもトルコが敵視するクルドをアメリカが手先にしたこともトルコを侵略勢力から離脱させる要因になった。 アメリカがクルドを手先にした理由は2015年9月末からシリア政府の要請で軍事介入したことにある。アメリカをはじめとする外国勢力が送り込んだサラフィ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)やムスリム同胞団を中心とするアル・カイダ系武装集団やダーイッシュ(イスラム国、IS、ISIS、ISILとも表記)のようなジハード傭兵を敗走させた。そこでアメリカはクルドと手を組まざるをえなくなった。 アメリカとトルコは8月、シリア北部に「平和回廊」を作ることで合意、シリア人を帰還させることになったのだが、後にアメリカとトルコによる合同パトロールが実現不可能だとトルコ政府は判断、この合意は壊れたようだ。アメリカはシリア侵略の柱に据えているクルドを守ろうとしているだけだとトルコ側は理解したわけだ。 こうした動きに対し、シリア政府はアメリカだけでなくトルコの動きも批判してきた。シリアはシリア人のものであり、クルドはシリア人だという立場だ。クルド勢力の中には、そうしたシリア政府と話し合っている人たちもいると伝えられている。 ジョージ・W・ブッシュが大統領だった2003年3月、アメリカはイラクに対する先制攻撃で自国の軍隊を前面に出すが、戦争は泥沼化して失敗。バラク・オバマ政権はジハード傭兵を使った侵略に切り替えたものの、これもロシアが登場して失敗した。その間にイスラエルの影響力が低下、サウジアラビア王室はアメリカの傭兵会社に頼らざるをえなくなりそうだ。頭脳を使わず、軍事力で自分たちの妄想を実現しようとしたネオコンは、アメリカを厳しい状況に陥らせてしまった。
2019.10.07
10月に入り、イラク国内が政府に対する抗議活動が続いているようだ。経済的な困窮や失業の問題が理由なのだが、そうした情況にサウジアラビア、イスラエル、アメリカがつけ込み、事態の深刻さを深めている。それに対し、政府は夜間の外出を禁止し、インターネットを使えないようにしたという。 イラクの経済状況を悪化させている最大の原因はアメリカが始めた戦争である。この戦争のベースにあるのはネオコンが描いた戦略。彼らは1980年代からイラクのサダム・フセイン政権を倒して親イスラエル派の体制を樹立しようとしていた。 フセインはCIAを後ろ盾にしていた人物だが、ネオコンからみると従属度が足りなかった。当時はトルコがイスラエルと友好的な関係にあり、イラクが親イスラエルになればトルコ、イラク、ヨルダンの親イスラエル国帯ができ、シリアとイランを分断できる。その上でシリアを潰し、最後にイランを倒すという目論見だった。 1980年代のアメリカには非ネオコン勢力の力もあり、対立が生じる。非ネオコンの主要人物の中にはジョージ・H・W・ブッシュやジェームズ・ベイカーが含まれ、この対立がイラン・コントラ事件やイラクゲート事件が浮上する大きな原因になっている。ブッシュたちはフセインをペルシャ湾岸産油国の防波堤と考えていた。 アメリカ軍が主導する連合軍は1991年1月から2月にかけてイラクを攻撃したが、その際にブッシュ大統領はフセイン体制を倒さなかった。その理由はそこにある。 しかし、フセインの排除を望むネオコンは怒った。この戦争が終わった直後、国防次官のポール・ウォルフォウィッツはイラク、イラン、シリアを殲滅すると口にしていたという。これはウェズリー・クラーク元欧州連合軍(現在のNATO作戦連合軍)最高司令官の話だ。(3月、10月) 2001年9月11日以降、ネオコンの力が強まり、非ネオコン派や統合参謀本部内の反対を押し切って03年3月にイラクを先制攻撃した。サウジアラビアが抜け出せなくなっているイエメンの戦争もイラク侵略が原因だ。 フセイン体制が崩壊した後、アメリカは親イスラエル派の体制を樹立させようとして失敗、シーア派が実権を握り、イランとの関係が改善される。必然的にイラク政府とアメリカ政府との関係は悪化、アメリカはジハード傭兵をイラクに集中させようとしている。昔のネオコンのように、イラクの体制を潰し、親イスラエル派の体制に作り直したいのだろう。 アメリカ、イスラエル、サウジアラビアの3国同盟はテヘラン、バグダッド、ダマスカスを結ぶ交通路を攻撃してきたが、これはイラン、イラク、シリアが連携できないようにするためだ。シリアでロシアに敗れたアメリカはイラクを中東における新たな戦いの舞台にしようとしている可能性がある。
2019.10.06
ロシアのエネルギー会社ロスネフトは同社が扱っている全ての製品、つまり原油、石油製品、石油化学製品、液化天然ガスの契約は基本的にユーロを使うことに決めたという。アメリカ政府が経済的な武器として使っているドルで決済するリスクを考慮してのことだと見られている。 ドルを決済に使う危険性は以前から指摘されていたことで、すでにロシアや中国はドル離れを進めてきた。ロスネフトの決定は遅かったと言えるだろう。ロシア経済に対し、親米派、あるいは欧米信奉派はまだ大きな影響力を持っているが、その影響かもしれない。 アメリカは第2次世界大戦で戦場にならず、産業は戦争ビジネスで大儲けし、裏では支配層がドイツや日本が占領地で略奪した財宝、いわゆるナチ・ゴールドや金の百合を手にする。そうした富は強大な私的権力へと流れていった。 大戦後にアメリカは中国の植民地化を目指すが、失敗。1949年に中華人民共和国が出現した。そして1950年に勃発したのが朝鮮戦争。この戦争でアメリカは勝てず、矛先をベトナムへ向ける。 ドワイト・アイゼンハワーが大統領だった1954年1月、国務長官のジョン・フォスター・ダレスはNSC(国家安全保障会議)でベトナムにおけるゲリラ戦の準備を提案、それを受けてCIAはSMM(サイゴン軍事派遣団)を編成した。そのベトナムからアメリカ軍を引き揚げるように命令したジョン・F・ケネディ大統領が1963年11月22日に暗殺された後、リンドン・ジョンソン新大統領は本格的な軍事介入を開始する。 その戦争は泥沼化してアメリカは疲弊。リチャード・ニクソン大統領は1971年8月にドルと金との交換停止を発表した。それによってドルが金と公定価格で交換できるとう前提で成り立つブレトン・ウッズ体制は崩壊、世界の主要国は1973年から変動相場制へ移行した。 新制度でドルを基軸通貨として維持するため、いくつかの仕組みを作る。そのひとつが石油取引の決済をドルに限定させ、産油国にアメリカ国債や高額兵器を購入させることで還流させる仕組み。ペトロダラーだ。この仕組みの中心に据えられたのがサウジアラビアだった。この役割を果たさせるため、アメリカはサウジアラビアなど産油国の支配層に対し、彼らの地位と資産を保証する。 エネルギー資源の取り引きがドル以外の通貨で決済されるということは、このペトロダラーの仕組みが揺らぐことを意味する。それはドル体制を揺るがし、アメリカの支配体制を崩壊させる可能性が高い。 そうした動きの中心にあるロシアは2015年頃から中国と戦略的な同盟関係を結んだ。2014年にネオコンがロシアと中国に対して仕掛けたクーデターは両国を警戒させ、結びつけることになったようだ。 こうした展開を懸念する人がアメリカ支配層の内部にも現れたらしく、2016年2月3日にヘンリー・キッシンジャーがモスクワを訪問してウラジミル・プーチン大統領と会談している。 その年にアメリカでは大統領選挙があった。2015年の段階ではヒラリー・クリントンの当選で内定したと言われていたが、ロシアとの関係修復を訴えるドナルド・トランプが当選、そのトランプを引きずり下ろすために民主党や有力メディアはロシアゲートなるスキャンダルをでっち上げたわけだ。 2017年1月にトランプ政権はスタートするが、大統領の側近で安全保障補佐官に就任したマイケル・フリン元DIA局長は2月に解任され、その後のトランプ政権はネオコンに引きずられていく。 トランプの娘と結婚、大統領上級顧問に就任したジャレット・クシュナーはビジネスでジョージ・ソロスと関係しているのだが、ソロスはヒラリー・クリントンに対して電子メールで指示していることもわかっている。ネオコンのネットワークは強力だ。 ロシアや中国を屈服させるため、ネオコンはカラー革命や経済戦争を仕掛け、全面核戦争で脅してきた。アメリカの核攻撃に対する対策をロシアは持っているが、中国にはない。そこでロシアは中国のミサイル早期警戒システムの開発に協力しているとプーチン大統領は語った。 アメリカと中露がつばぜり合いを演じている場所のひとつが朝鮮半島。この地域に平和を望む政権をアメリカが潰そうとすることは容易に想像がつく。
2019.10.05
未成年の男女を有力者に提供していたことが問題になって7月6日に逮捕され、MCC(メトロポリタン矯正センター)で死亡したジェフリー・エプスタインに関する新たな証言が出てきた。 証言者のアリ・ベンメナシェは1974年から77年にかけてイスラエル軍の情報機関ERD(対外関係局)に所属、87年から89年にかけてはイツァク・シャミール首相の特別情報顧問を務めている。 1989年にベンメナシェはイランへ武器を不正に輸出したとしてアメリカで逮捕されているが、これはイランを巡る工作で生じた内部対立が原因。イラン・コントラ事件やイラクゲート事件と呼ばれるスキャンダルが浮上したのも対立による暴露合戦があったからだ。 イランへの武器密輸の背景には、1970年代の終盤にズビグネフ・ブレジンスキーが始めたアフガニスタンでの秘密工作がある。アフガニスタンを不安定化させ、ソ連軍を誘い込み、アメリカが訓練して武器/兵器を提供した戦闘員に戦わせるというものだ。 その戦闘員の中心はサウジアラビアが送り込んだサラフィ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)やムスリム同胞団で、パキスタンの情報機関が選んだアフガニスタンの武装勢力も使われた。工作資金はサウジアラビアが提供するほか、パキスタンからアフガニスタンにかけての地域でケシを栽培、それを原料にして作った麻薬のヘロインでも儲けている。 武器密輸や麻薬取引でのカネ儲けに手を出していたグループはふたつで、それぞれアメリカとイスラエルの情報機関が関係している。 この秘密工作はPROMISという不特定多数のターゲットを追跡して情報を収集、蓄積、そして分析するシステムも関係していた。アメリカとイスラエルは別個にそのシステムへトラップドアを組み込んで売りさばいていたのだが、イスラエル版のシステムを販売していた会社の経営者がロバート・マクスウェルだ。 そうした関係でベンメナシェはマクスウェルを1980年頃には知っていたのだが、当時、そのマクスウェルからエプスタインをベンメナシェは紹介されたという。マクスウェルはエプスタインを武器取引へ加えようとしていたようだ。 エプスタインとギスレイン・マクスウェルと会ったのもそのころだとベンメナシェは話している。一般に言われているより10年程前に会っているというのだ。ニューヨーク・ポスト紙の元発行人、スティーブン・ホッフェンバーグによると、ふたりはあるパーティで知り合っている。 その前、1973年から75年にかけてエプスタインはドルトンスクールで数学と物理を教えていたが、76年には投資銀行のベア・スターンズへ転職、その時の顧客の中にエドガー・ブロンフマンがいたという。その父、サミュエル・ブロンフマンは禁酒法時代に密造酒で大儲けしたひとりで、密造酒仲間のルイス・ローゼンスティールやジョセフ・マッカーシー上院議員の顧問だったロイ・コーンと同じように、有力者のスキャンダルをつかみ、脅してコントロールしていたと言われている。 エプスタインは未成年者を有力者に提供、未成年者との行為を映像などで記録して脅しに使っていたのだが、未成年者との性的な行為が法律で処罰の対象になっていると、脅しは効果的だ。意識をなくした女性をホテルへ連れ込み、性的な行為をしても犯罪にならない国で未成年者との行為を厳しく罰する法律が作られたことは興味深い。 エドガー・ブロンフマンの弟、チャールズ・ブロンフマンが1991年に創設したメガ・グループはイスラエルの情報活動を統括しているという。エドガーもそのグループのメンバーだ。 ベンメナシェによると、エプスタインは1980年頃にはイスラエル軍の情報機関へ入っている。ロバートとギスレインのマクスウェル親子もイスラエル軍情報機関の人間だという。エドガー・ブロンフマンやマクスウェル親子との関係を見ると、エプスタインはイスラエルの情報活動において重要な役割を果たしていた可能性がある。 エプスタインが2005年に逮捕された際、地方検事として担当したアレキサンダー・アコスタによると、その容疑者は「情報機関に所属している」ので放っておけと言われたという。イスラエルの情報機関ということなのかもしれない。
2019.10.04
香港で反中国活動に参加していた18歳の若者が警官の発射した実弾を胸に受け、入院したと伝えられている。中国の建国記念式典に合わせて実行された活動はこれまでになく激しいもので、警察側の発表によると、局所的に警官が活動参加者に圧倒され、スパナ、ハンマー、鉄棒、鋭利なものなどを手に警官を襲い、命の危険を感じた警官が警告発砲、それでも襲ってきたひとりを撃ったという。 香港は中国侵略を含むユーラシア大陸東岸部におけるイギリスやアメリカの戦略拠点であり、マネーロンダリング網にも組決まれてきたが、そうした機能を維持して欲しいと考えている人びとが香港に存在していることは間違いない。そうした人びとは今、必死に戦っている。 残念ながら、今回の実弾発砲に「衝撃」という表現は使えない。各国でカラー革命を仕掛けてきたネオコンの手口を知っている人は、活動を仕掛けているグループは警官に実弾を使わせようとしていると指摘していた。情況によっては、自前のスナイパーを用意する可能性もあった。 反中国活動は途中から過激化、火炎瓶や石を投げ、施設の破壊や輸送を止めはじめる。そうした中、市民と乱闘になる場面があり、傘で活動参加者が市民に殴りかかる場面や中国メディアの記者が縛り上げられている様子がインターネット上にアップロードされてきた。 本ブログでも繰り返し書いてきたが、今回の行動の背後にアメリカやイギリスの政府がいることは秘密でも何でもない。香港の活動の中心グループはアメリカの政府や議員と連携、CIAの資金を動かしているNEDの資金が1996年から流れ込んでいることもわかっている。それを含め、アメリカから提供された資金は200万ドル以上だという。 2014年9月から12月まで続いた「佔領行動(雨傘運動)」のときから活動の指導者として元王室顧問弁護士の李柱銘(マーチン・リー)、メディア王の黎智英(ジミー・リー)、香港大学の戴耀廷(ベニー・タイ)副教授、あるいは陳日君(ジョセフ・ゼン)、余若薇(オードリー・ユー)、陳方安生(アンソン・チャン)といった名前が挙がっている。 2014年に反中国派へ数百万ドル出したと伝えられている黎智英はフリードリッヒ・ハイエクやミルトン・フリードマンといった新自由主義の教祖的な学者と親しく、ネオコンのポール・ウォルフォウィッツにも資金を提供、西側の有力メディアに好まれるのは必然かもしれない。 元王室顧問弁護士が入っているというのは滑稽だが、滑稽なのはそれだけにとどまらない。例えば、デモ隊がイギリスやアメリカの国旗、イギリスの植民地であることを示す旗を掲げ、中には拡声器を使ってアメリカ国歌を歌ってきた。 香港で雨傘運動があった2014年、ウクライナでアメリカ政府はネオ・ナチを使ってクーデターを成功させた。その時、アメリカの現場責任者はネオコンでヒラリー・クリントンと親しいビクトリア・ヌランド国務次官補。 準備期間を除くと、ウクライナのクーデターは2013年11月に始まった。ユーロマイダン(ユーロ広場、元の独立広場)で「カーニバル」的な雰囲気の反政府集会が開かれ、約2000名を動員している。EUへの憧れを刺激する内容だったという。その後、反政府運動はキエフ周辺で広がる。当時の大統領、ビクトル・ヤヌコビッチの地盤は東部や南部だった。 抗議活動は暴力的でなかったが、それでも社会は混乱。そこでEUは話し合いで解決しようとするのだが、それに怒ったのがヌランドだ。ジェオフリー・パイアット駐ウクライナ米国大使との電話で次期政権の閣僚人事を話し合っている際、「EUなんかくそくらえ(F*ck the EU)」と口にしている。暴力で政権を倒すつもりのヌランドの気持ちだろう。 その一方、当時のアメリカ大統領、バラク・オバマは2月19日、ウクライナ政府は警官隊を引き揚げさせるべきだと主張している。当時、ヤヌコビッチ政権は西側の圧力に屈し、警官隊に能動的な行動に出ないよう命令していたのだが、立っているだけでも邪魔だというメッセージだ。 ヌランドとパイアットとが話し合った直後、ネオ・ナチは暴力をエスカレートさせる。棍棒、ナイフ、チェーンなどを手に石や火炎瓶を警官隊に投げつけ、さらにピストルやライフルを持ち出してくる。 混乱が深まる中、広場で無差別の狙撃があり、西側の政府や有力メディアは政府側が行ったと宣伝したのだが、2月25日にキエフ入りして事態を調べたエストニアのウルマス・パエト外相は違う結論に到達した。 その翌日、パエトはEUの外務安全保障政策上級代表(外交部門の責任者)だったキャサリン・アシュトンへ電話で、パエト外相はスナイパーの背後にいるのはヤヌコビッチでなくクーデター派だった可能性が高いと報告している。 狙撃の責任者はアンドリー・パルビーだとする人が少なくない。2017年11月にはイタリアの番組に自分たちがユーロマイダンで狙撃したと語る3人のジョージア人が登場した。警官隊と抗議活動参加者、双方を手当たり次第に撃つよう命じられたとしている。この3人は狙撃者グループの一部で、治安部隊のメンバーとしてジョージアから送り込まれたいう。この3人も狙撃の指揮者はアンドレイ・パルビーだと語っている。(ココとココ) クーデター後、ウクライナは街をネオ・ナチが跋扈する破綻国家になってしまった。市民が平和に暮らせているのはクーデター後にいち早くロシアとの合体を決めたクリミアだけだ。 そこで、アメリカやイスラエルに従属、クーデター政権を率いてきたペトロ・ポロシェンコが拒絶され、ボロディミル・ゼレンスキーが大統領に就任したわけだ。そのゼレンスキーはヤヌコビッチと同じようにロシアとの関係修復を図り、東部ドンバスの自治権を認める決断をした。 オバマ政権が2014年のクーデターを成功させられたのは、ウクライナ政府がアメリカ側の要求に従い、ネオ・ナチを野放しにしたことにある。当時、孤立した警官は拉致され、拷問の上で殺害されている。少なからぬ死体は目を潰されていた。中国政府もこうしたアメリカの手口を研究済みだろう。 しかし、鎮圧に出ると「政府の弾圧」を演出するのもアメリカの常套手段。そのために有力メディアは存在する。香港で実弾を使う事態になったことはアメリカの成功だろうが、それでヤヌコビッチのような行動に出ると中国本体が揺らぐ。それも中国政府は理解しているだろう。
2019.10.03
東京琉球館で10月19日の午後6時から「ウクライナのバイデン疑惑」と「イエメンに逆襲されるサウジ」というテーマで話します。予約制とのことですので、興味のある方は事前に下記まで連絡してください。東京琉球館住所:東京都豊島区駒込2-17-8電話:03-5974-1333http://dotouch.cocolog-nifty.com/ 前半はバイデン親子のウクライナ疑惑を取り上げます。ウクライナの検事総長を解任させたことをジョー・バイデンがCFR(外交問題評議会)で自慢したのは昨年1月のことでした。10億ドル欲しければ6時間以内に検事総長を解任しろと恫喝、解任されたという話でした。 バイデンは汚職捜査が進まないことを懸念してのことだとしていたのですが、今年4月、検察当局がジョー・バイデンの息子ハンター・バイデンが重役を務める天然ガス会社ブリスマの汚職を捜査していたことが明らかにされました。しかも圧力は2015年終わりから16年初めにかけての数カ月におよんだといいます。 この話を7月にドナルド・トランプ米大統領はウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領に電話でしました。その内容をアメリカの情報機関は傍受、その通話内容が問題だとして下院情報委員会に「内部告発」、その話を有力メディアが盛んに宣伝しはじめました。今年4月の段階でバイデンは汚職捜査を止めさせる目的でウクライナの検事総長を辞めさせようとした疑いが出てきたのですが、そうした疑惑には興味がないようです。 疑惑を隠す一方、返す刀でトランプを攻撃しようという「ロシアゲート方式」を採用するつもりかもしれませんが、この問題はバイデンだけでなく民主党にとって致命傷になる可能性があります。 後半はイエメン情勢です。イエメンは戦略上、重要な位置にあり、侵略の対象になってきましたが、現在、続いている戦争の原因はアメリカ主導軍による2003年のイラク侵略にあります。 その侵略に抗議するため、フーシ派はモスクで反アメリカ、反イスラエルを唱和したのですが、当時のイエメン政府がそうした行為を弾圧、首都のサヌアで800名程度を逮捕しました。そうしたことが切っ掛けになり、2004年に戦闘が始まったのです。 戦闘はフーシ派が優勢な展開になり、2009年にサウジアラビアはイエメンに空軍と特殊部隊を派遣しました。その年には「アラビア半島のアル・カイダ(AQAP)」が創設されていますが、ほかのケースと同じようにアル・カイダ系武装集団は傭兵です。 資金力や兵器が圧倒的に優位にあり、アメリカやイスラエルの後ろ盾があるサウジアラビアが圧勝しても不思議ではないのですが、そうした展開にはなっていません。9月にはアラムコの石油処理施設が18機のUAV(無人機。ドローンとも呼ばれる)と7機の巡航ミサイルで攻撃され、生産量が半分に落ちるという事態になりました。その半月後にはサウジアラビアの3旅団がフーシ派軍の攻撃で壊滅したと伝えられています。 アメリカの好戦派がイランを軍事的に恫喝、経済的に攻撃している間にアメリカやサウジアラビアの足下が崩れ始めています。 バイデンの話もイエメンの話も今後の国際情勢に大きな影響を与える可能性があります。そうしたことを考えてみたいと思います。
2019.10.02

サウジアラビアの南西部地域にあり、イエメンとの国境に近いナジュランでイエメンのフーシ派軍はサウジアラビアの3旅団を壊滅させたと9月29日に発表、その際に映像も公開している。 フーシ派によると、戦闘でサウジアラビア軍の戦闘車両を相当数破壊し、200名から500名の兵士を殺害、約2000名を拘束したという。この攻撃は偵察を含め、数カ月をかけて準備、サウジアラビアの内部に協力者のネットワークが存在すると見られている。 9月14日に18機のUAV(無人機。ドローンとも呼ばれる)と7機の巡航ミサイルでサウジアラビアのアブカイクとハリスにあるアラムコの石油処理施設を攻撃したとフーシ派は発表、アメリカのマイク・ポンペオ国務長官はイランによるものだと主張、モハメド・ビン・サルマン皇太子のほかイギリス、フランス、ドイツも同意しているが、今回の攻撃で9月14日の攻撃もフーシ派の発表が正しい可能性が高まった。 これまでもアメリカやイスラエルはフーシ派の部隊だけでなく、イエメンの一般市民を爆撃や兵糧攻めで殺害してきた。その相手の反撃でサウジアラビアが厳しい状況に陥ったのだが、勝利が見えない情況でアメリカやイスラエルが本格的な軍事介入に踏み切る可能性は小さいと見られている。 戦況はアメリカやイスラエルにとって好ましくない方向へ動いているわけだが、それだけでなく、今回の攻撃はアメリカ製の防空システムが無能だということも明らかにした。前にも書いたことだが、破壊された石油施設の周辺には88基のMIM-104 ペトリオット・システムが配備されていて、そのうち52基は日本も導入を進めているという新型のPAC-3だった。しかもペルシャ湾にはアメリカ海軍に所属する3隻の駆逐艦(イージス艦)がいた。 湾岸戦争の際、ペトリオット・システムによる撃墜率は70%だとアメリカは主張したが、実際は10%以下だったとされている。 それに対し、ロシア製の防空システムは7割という実績がある。2017年4月にアメリカ海軍の駆逐艦、ポーターとロスが地中海から発射した巡航ミサイル(トマホーク)59機のうち6割を無力化、18年4月にはアメリカ軍、イギリス軍、フランス軍が多方面から発射した100機以上のミサイルのうち7割を無力化した。これはロシア側の発表なのだが、被害情況から、発表は概ね正しいと見られている。短距離用の防空システムのパーンツィリ-S1が効果的だったようだが、ECM(電子対抗手段)が使われたという推測もある。 ネオコンをはじめとするアメリカの好戦派による軍事力の行使はアメリカの軍事的な脆弱さとロシア軍の優秀さを示すことになっている。自らの軍事力を過信してイエメンへ軍事介入したサウジアラビアのモハメド・ビン・サルマン皇太子は厳しい状況に陥った。 ビン・サルマンは国内のライバルを2017年17日に拘束、弱体化させたが、これは敵を増やすことにもなっている。9月28日にサルマン・ビン・アブドルアジズ・アル・サウド国王の個人的な警護の責任者だったアブドル・アジズ・アル・ファガム少将が射殺された。その数日前に解任されていたという。 ジェッダにある友人の家で個人的な諍いから殺されたとされているが、モハメド・ビン・サルマン皇太子に嫌われていたと言われ、権力抗争による暗殺という見方がある。殺害現場は宮殿だとも言われている。真相は明確でないが、サウジアラビア国内が不安定化しているとは言えそうだ。
2019.10.01
全37件 (37件中 1-37件目)
1