がちゃのダンジョン 映画&本
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『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド 』(2007)THERE WILL BE BLOOD上映時間 158分 製作国 アメリカ ジャンル ドラマ ダニエル・デイ=ルイスにアカデミー主演男優賞にもたらした注目作。アメリカン・ドリームを我が物にした主人公の野心と欲望を描いた大河ドラマ。欲望にまみれ、人間不信の主人公には、血や心で繋がる人間よりも富と権力を選んだ。監督は、『ブギーナイツ』、『マグノリア』のポール・トーマス・アンダーソン。ロックな作品が多い監督だけあって、音楽が凄まじい力を持つ。特に油井の火災シーンは、登場人物の恐怖と絶望を音楽が代弁していると言ってよいかも。主人公の息子を演じたディロン・フレイジャーは、本作のためにキャスティング・ディレクターが“発掘”した新人。初めてとは思えない初々しい演技は、まさにダイヤの原石。 【監督・製作・脚本】ポール・トーマス・アンダーソン【原作】アプトン・シンクレア 【出演】ダニエル・デイ=ルイスディロン・フレイジャーポール・ダノケビン・J・オコナーキアラン・ハインズ公式サイトだいぶ、ご無沙汰してしまっておりました。映画も本も、とんと。。久々に映画館鑑賞で、アカデミー作品を観ることができました。ネタバレだらけの、ゆるーい感想です。ご了承ください。。 【こんな話】欲望と言う名の黒い血が彼を怪物に変えていく… 一攫千金を夢見るダニエル・プレインヴューは、幼い1人息子を連れて石油の採掘を行っていた。ある青年から、「故郷の広大な土地に石油が眠っている」と聞いた彼は、パートーナーのフレッチャーと共に米西部の小さな町、リトル・ボストンに赴き、安い土地を買占め、油井を掘り当てる。しかし、油井やぐらが火事になり、幼い息子は聴力を失う。精神に混乱を来した息子を、プレインビューは彼方の土地へ追いやってしまう。 【感想】「マグノリア」の監督。ポール・トーマス・アンダーソン。「マグノリア」は途中挫折しました。旧約聖書的ラスト、空から○○○が振ってくるシーンだけが非常に印象深いです。どうでもいい役はやらない、ダニエル・デイ=ルイス。出演作品の間がとても長く、とことん演じる彼ならではの作品でした。見どころは、彼の演技と、当時のアメリカのようすでした。アメリカの1800年代後半から1900年代前半にかけての暮らしぶりが興味深かったです。生きるのに必死な人たち。と立つ掘っ立て小屋のような家。家畜を飼い土地を耕し、町に発展しようとあがいている感じ。石油(産業)と信仰が、作品の核のよう。西部開拓 独立 南北戦争 。。「大草原のちいさな家」とか「風と共に去りぬ」とか、、アメリカって歴史が浅いとはいえ、ダイナミックなお国柄ですよね。主人公ダニエルは、一攫千金を夢見る山師。石油を掘り当てるシーンから、映画はスタートしましたが、この採掘が、まったくの手作業で驚きますが、、こんな感じで最初はやっていたんだろうな~という感じ。石油が出れば、石油まみれ。題名の「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」訳すると、”そこに血が流れるだろう”石油がブツブツと湧き出す穴に全身浸かりながら桶を汲む。上の人も石油まみれで、手がすべったり、安全対策なんて無い。。手作りの 木製の汲み上げ装置がボッキリと折れて、下の人を直撃、、などあり、穴の中の人は危険です。事故で亡くなる人の血が流れる。石油の黒は、遺体の顔も血もかき消し、見分けがつかない。”そこに”血が流れるだろうというのは、石油採掘現場のことを指すようにも、アメリカという国を指すようにも、思われました。それにしても、”山師”というと聞こえが悪いですが、ダニエルのような人物は、当時どれだけいたのか分かりませんが、詐欺師まがいとかそういう感じではなく、とにかく生きる為に必死と言う感じ。 這い上がろう、抜け出そう、という。自分の土地を持たず、家族とも縁が切れ、当時では、職業もそんなに無いとなれば、こういうタイプの人は山ほどいたんだろうな、と。注目は、ダニエルのそばに、いつもいた子どもです。ダニエルの仕事仲間が事故で亡くなり、遺児を引き取って育てます。よく育てたなと、感心しました。女手も無く、石油探しの旅の生活だったろうに。子ども連れだと、契約時に信用度が増し、有利だから、と言ってましたが、実際、愛情も感じていたと思いますね。子どもの笑顔やぬくもりには、やっぱり癒されたんじゃないかと。いろいろあった人生の中で、成長期の子どもがはしゃぎ、仕事仲間とくつろぐシーンが、ダニエルにとっての一番の幸せな風景だったのだろうと、ラストで分かりました。爆発事故で、子どもが巻き込まれた時には、必死の形相で助けに行く。我が子同然、自分の分身、、だった筈。それが、事故のために障害を生じた子どもに対しては、持て余し、そばから引き離してしまう。身勝手とも冷たいとも見えました。一方で苦慮の末の決断ともいえたのでは、。結果的には、専門の学校のような場所で、手話や教師を得て、子どもには良かったでしょう。ダニエルの傍にいて、ベッドに寝ているだけでは、まともな大人になれないでしょうし。。いろいろあって、手許に呼び戻した時には、ホッとしたようでしたね。抱きしめながら「やっぱり、落ち着く」っと言って、子供に蹴られてましたが。ただし、子どもが長じて、自分から自立しようとすることには、ものすごい裏切りに感じたようなんですね。その辺は、子離れできてなかった親の心情か、自己チューな人格ゆえか、。「自分の声で言ってみろ!」と詰め寄ったのは、こんな距離のある関係になりたくはなかったという心情が感じられました。子どもにとっては、一度捨てられたというわだかまりは、とうとう消えなかったのでは。。帰ってきても二度と、以前のような関係には戻れなかったのかもですね。もし子どもが聴力を失わず、小さい頃のように、心を通わせられる一番の相手だったら。もし、こどもが手話と教師を介さず、ダニエルにもっと歩み寄っていれば。もし、ダニエルが手話を覚えて、子どもと意思疎通をじかに出来るようにしていれば。もし、~だったら、、というのが、とてもおっきく感じました。。ダニエルの喪失感の大きさは、どんだけ~だったことでしょう。でも、やっぱりいえるのは、信じるとか、温かい心とか、どうも、どこかで、無くしてしまったようなんですよね。。そういうのは、人生のどこかで削り取られていってしまったか。話は前後しますが、途中で、現われた、弟と名乗る人物。重要人物でしたよね。この人物が現われたときが、”ターニングポイント”とダニエルも言ってました。この人物の登場で、子どもを手放すことを決断したようですね。子どもの放火は、ダニエルへの警告だったようです。残念ながらダニエルには、その警告は、子どもを追いやる理由になってしまったわけですが。やっぱり、血のつながり、兄弟というのに、ホロリときたのでしょうか。でも、結局は、良い結果にはならない。あの辺の出来事で、ますます、血のつながりや、心のつながりよりも、”金”や”権力”にこだわるようになっていったのでしょうかね。別の意味での"ターニングポイント”だったようです。。石油パイプラインを引くためには、信じてもいないのに、洗礼を受け、大嫌いな青年神父の洗礼にも、ジッと耐え。このイーライという神を信じる青年。ダニエルの宿敵?ともなった男。ダニエルに、石油が出る土地の話を持ち込んだ男の双子の弟。男は、金を手にすると、故郷を捨ててドロン。イーライはというと、信仰をかざしてダニエルに不信の目を向け続けます。石油が金と権力、の象徴で アメリカの繁栄を表す一方で、信仰宗教もどうしても必要な柱だったようですね。明日の幸せのあてが、あまりに薄いと、信仰や神が、心のよすがになるのだろうなと。現代人で日本にいると、リアルにはわかりませんが。イーライが神父のように振る舞い出すと同時にダニエルは、毛嫌いしだしたようですね。イーライ、自称神父というか、正規の手続きなどなく、自発的に教会を立てたり説教をしちゃうので、ちょっととまどいました。当時のような、辺鄙な場所で、無政府状態な場所では、こんな風だったのかなぁと言う感じ。「神がわたしに語りかけています」と、言うだけで、人々は、病気や悩みや懺悔やら、おまかせしちゃう。エキセントリックな説教が、うさんくさい。こういうタイプの説教する人は、「大草原の小さな家」シリーズでもいたので、珍しくは無かったんでしょう。静かな精神性を説くというより、畳み掛けるように、鼓舞するように、神を讃える。それでも、他に何もすがるものがなければ、人々はこの人を受け入れるしかない。ダニエルとイーライは、どうしても互いに相容れないと、感じたようです。ダニエルにとって、信仰は、自分を助けない。自分を助けるのは自分しかいない。イーライの、あの、うさんくささは到底受け入れられるものではなかったでしょう。初めて、石油を当てたのは、自分の才覚だし、その時の穴での事故でも、自力で這い出し、生き延びた。 生き延びられるような軽症で済んだのを、神がお助けくださった、、という発想にはならないわけですよ、この彼の場合。この神も他者も信じない強さが、冨を築いたわけですが。最後の最後、彼の憎悪や孤独が、一気にイーライに集約。なんともかとも。。何と言っていいのやら・・。ダニエルのような人物を、良いとか悪いとか、決められやしません。壮絶な ひとりの人の 人生を見せていただきました。
2008年04月29日