inti-solのブログ

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2018.11.01
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テーマ: ニュース(95879)
カテゴリ: 対中・対韓関係
徴用工「解決済み」企業に説明、安易な和解警戒
政府は、韓国大法院(最高裁)による元徴用工を巡る判決を受け、同様の訴訟を起こされている企業向けの説明会を始めた。「徴用工問題は解決済み」とする政府方針を説明し、損害賠償や和解に応じないよう周知を徹底する方針だ。
韓国では係争中の同様の訴訟が計14件ある。新日鉄住金に対する今回の判決を受け、他の被告企業である三菱重工業や不二越などに対しても裁判所の賠償命令が相次ぐ可能性がある。
説明会は、外務省や経済産業省、国土交通省、法務省が合同で~徴用工問題は1965年の日韓請求権・経済協力協定で解決済みとする政府の立場を改めて紹介し、韓国政府に国際法違反の状態の是正を求めている現状などを説明している。

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韓国の徴用工問題の判決をめぐって、ネトウヨや、その親玉である安倍政権が吹き上がっています。挙げ句の果てに駐日大使を呼びつけて抗議したそうです。

しかし、日本もそうですが、韓国も三権分立という制度を持っている国です。裁判所に対して、政府が「このような判決を出せ/出すな」などと指揮命令したり、まして最高裁の判決を政府が取り消したりするのは、北朝鮮ならできるかもしれないけれど、まともな民主主義制度を持つ国ではできないことです。

従来の韓国政府の見解は、日韓請求権協定で、個人補償の問題も完全に解決(日本側の公式見解もそれと同じ)というもので、実際上はむしろ韓国政府の側が日本政府による韓国人戦争被害者への直接の賠償支払いを許さない、という状況があったようです。その公式見解と、この判決はたしかに矛盾します。でも、この判決は(判決文の日本語訳をきちんと読んだわけではありませんが)従来のそのような韓国政府の公式見解自体を間違っていたとする文脈に基づいているはずですから、従来の政府見解と矛盾するのは当たり前です。
日本だって、なんらかの法や制度の違憲性を争う裁判(尊属殺人とか票の格差とか)で違憲性を認める判決が出る場合は、それは当然に従来の政府見解とは矛盾するに決まっているのです。

そもそも、政府対政府の取り決めで賠償問題を終結させたからといって、個人の補償請求権までなくなったわけではないのです。
これは、何も私が勝手に言っていることではありません。日本政府自身が、別の局面ではそう主張して、裁判でもそれが認められています。シベリア抑留者の補償問題です。

戦後、シベリア抑留に抑留された日本兵は50万人以上に及び、過酷な環境、劣悪な待遇によって5万人以上が亡くなるなど、彼らは辛酸を舐めました。そこで、彼らは帰国後、日本政府に対して補償を求めて、度々裁判を起こしています。
ところが、被告となった日本政府は、シベリア抑留者の補償はソ連政府に行うべきであって、日本政府に補償に義務はない、と主張したのです。


日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦は、1945年8月9日以来の戦争の結果として生じたそれぞれの国、その団体及び国民のそれぞれ他方の国、その団体及び国民に対するすべての請求権を、相互に、放棄する。

といしう規定があります(日本語正式条文は漢数字)。しかし、日本政府の言い分は、「放棄した請求権は国家としての請求権であって、個人の請求権ではない。」と言うのです。裁判でそう主張しただけではなく、国会答弁でも言っています。

1991年3月26日 参議院内閣委員会
私ども繰り返し申し上げております点は、日ソ共同宣言第六項におきます請求権の放棄という点は、国家自身の請求権及び国家が自動的に持っておると考えられております外交保護権の放棄ということでございます。したがいまして、御指摘のように我が国国民個人からソ連またはその国民に対する請求権までも放棄したものではないというふうに考えております。
第120回国会参議院内閣委員会議事録第3号 12ページ3段目 より、政府説明員・高島有終外務大臣官房審議官発言

そして、裁判所もこの日本政府の主張を是として、最高裁まで原告敗訴の判決を出しています。
今回の徴用工裁判や、慰安婦への補償問題とは、正反対のことを日本政府と裁判所は主張しているのです。
「韓国は国際条約を無視するのか!!」などと吹き上がっている人たちは、おそらくこんなことは知らない、知ろうともしないのでしょうけど。
この判決は、シベリア抑留問題で示された日本政府のこの見解と整合するものであり、極めて当然のものです。日本政府がこの判決に怒り狂っているのは、筋違いとしか言いようがないのです。

まあ、身も蓋もない言い方をすれば、日本政府は、日本自身の加害によるものであれ、外国から受けた被害によるものであれ、とにかく戦争被害者に対する個人補償を一切やりたくなかった。だから、他国民に対してと自国民に対してで、正反対の言い分を使って、どちらの補償要求も退けてきたわけです。
世間では、こういう行動は二枚舌とか二重基準と言います。その二枚舌のツケがまわってきた、ということでしかありません。(この部分について追記あり、文末参照)

ただし、です。
被告となった新日鉄住金は、韓国内には資産を持っていない、と言われています。それが事実とすれば、判決が出ても、新日鉄住金が従わなければ、強制力はありません。被告の資産がある国(日本企業ですから、当然日本でしょう)で、韓国での判決の履行を求めて、改めて裁判を起こすことになります。


いずれにしても、ことは日本の裁判所での審理という段階に移ります。韓国政府が原告に対しても日本の裁判所に対しても、何かを命じる権限などないことは同じです。

追記
二枚舌と書きましたが、違ったかもしれません。更に、外務省条約局長柳井俊二の答弁がありました。
ただいまアジア局長から御答弁申し上げたことに尽きると思いますけれども、あえて私の方から若干補足させていただきますと、先生御承知のとおり、いわゆる日韓請求権協定におきまして両国間の請求権の問題は最終かつ完全に解決したわけでございます。
その意味するところでございますが、日韓両国間において存在しておりましたそれぞれの国民の請求権を含めて解決したということでございますけれども、これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということでございます。したがいまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできない、こういう意味でございます。

1991年8月27日第121国会 参議院予算委員会会議録第3号10ページ最上段

これは、敗戦によって朝鮮にあった資産を失った日本人に対して、日本政府は補償義務を負わない、韓国政府に請求しろ(シベリア抑留者への対応と同じ)という主張とセットになっていたようです(その限りでは、二枚舌ではなく、論理的整合性は取れている)。
ただし、だから個人補償に応じます、ということではなかった。実際には、「個人請求権はあるけど、日本政府として応じる義務はないよ」ということだったのです。どういう理屈かというと「請求権はあるけど時効だから」「請求権はあるけど国家無答責だから」ということです。でも、ともかく、日韓請求権協定についても、個人請求権はあると明言していました、1990年代当時までは。





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最終更新日  2018.11.02 20:37:10
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