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【本文】同じ帝、立田川の紅葉いとおもしろきを御覧じける日、人麿、 立田川 紅葉ばながる 神なびの みむろの山に しぐれふるらし 帝、 立田川 紅葉みだれて ながるめり わたらば錦 中や絶えなむとぞあそばしたりける。【注】・立田川=奈良県竜田付近を流れる川。紅葉の名所。・御覧ず=ごらんになる。・人麿=柿本人麻呂。・みむろの山=三室山。「みむろ」は、神が天から降って宿る場所。・錦=金糸や銀糸など五色の糸で美しい模様を織りだした厚手の絹織物。転じて、色とりどりの美しいもののたとえ。・しぐれ=秋の終わりから冬の初めにかけて、降ったりやんだりする冷たい雨。【訳】同じミカドが、竜田川の紅葉が非常にみごとなのをご覧あそばされた日に、柿本人麻呂が作った歌、 竜田川に 紅葉が流れているよ ああやって、木々の葉が色づいたところをみると、上流の神が降臨なさるという三室山には 時雨が降ったらしく思われる。ミカドがお作りになった歌、 竜田川 色とりどりに紅葉した葉が入り乱れて流れているように見える もしも、あの川を渡ったら、せっかくのニシキが中央で裁断されてしまうだろうか。
May 14, 2012
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【本文】昔、ならの帝につかうまつる采女ありけり。顏容貌いみじうきよらにて、人々よばひ、殿上人などもよばひけれど、あはざりけり。【注】・ならの帝=奈良に都があったころの天皇。文武天皇のこととも聖武天皇のこととも平城天皇のことともいう。・采女=地方の豪族の子女で、後宮にはいって天皇の食事の世話をする女官。・よばぶ=言い寄る。求婚する。【訳】むかし、奈良時代の天皇にお仕えするウネメがいたとさ。顔立ちが非常に上品で美しく、男たちが求婚し、テンジョウビトなども求婚したが、結婚しなかったとさ。【本文】そのあはぬ心は、帝をかぎりなくめでたき物になむ思たてまつりける。【訳】その、結婚しなかった真意は、ミカドのことを、このうえなくすばらしいおかただと、お思いもうしあげていたからだったとさ。【本文】帝召してけり。さて後又も召さざりければ、かぎりなく心憂しとおもひけり。夜昼心にかかりておぼえ給つつ、恋しくわびしうおぼえ給ひけり。【訳】あるときミカドがお召しになったんだとさ。そうして、そののちは二度とお召しにならなかったので、ウネメはこのうえなくつらいと思っていたとさ。夜も昼も、ミカドのことが気にかかっておいでで、恋しくもつらくも感じていらっしゃったとさ。【本文】帝はめししかど、ことともおぼさず。さすがにつねにはみえたてまつる。なほ世に経まじき心ちしければ、夜みそかに猿沢の池に身を投げてけり。【注】・猿沢の池=奈良市にある池の名。【訳】ミカドは一度は彼女をお召しになったが、とくに何ともお思いにならなかった。そうはいっても、職務上、ふだん姿をお見せもうしあげていたとさ。そうはいうものの、彼女は「もうこのまま生きているわけにはいかない」という気がしたので、夜分こっそり宮中を抜け出して、猿沢の池に身を投げてしまったとさ。【本文】かく投げつとも帝はえしろしめさざりけるを、ことのついでありて人の奏しければ、きこしめしてけり。いといたうあはれがり給て、池のほとりにおほみゆきしたまひて、人々に歌よませ給ふ。【注】・しろしめす=お知りになる。・奏す=天皇に申し上げる。【訳】こんなふうに彼女が身投げしたともミカドはご存知なかったが、なにかの機会に、ある人がお知らせしたので、ミカドがお聞き及びになった。ミカドは非常に気の毒がりなさって、池のほとりにお出かけになって、人々に哀悼の歌をおつくらせになったとさ。【本文】柿本の人麿、わぎもこの ねくたれ髪を 猿沢の 池の玉藻と みるぞかなしきとよめる時に、帝、猿沢の 池もつらしな 吾妹子が たまもかづかば 水ぞひなましとよみたまひけり。さてこの池には、墓せさせ給てなむ帰らせおはしましけるとなむ。【訳】柿本人麻呂が作った歌、わが最愛の人の 寝乱れた髪を 猿沢の 池に生える美しい藻かと 思って見るのが悲しい。と作ったときに、ミカドがお作りになった歌猿沢の 池も冷酷だなあ わが最愛の人が 美しい藻をかづくように もしも頭から飛び込んだなら水が干上がればよかったのに。そうすれば彼女は溺死せずにすんだであろうに。とお作りになったとさ。そうして、この池のほとりに、彼女の墓地をお造らせになって宮中にお帰りになったとさ。
May 13, 2012
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