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小鳥篇上裴尹 劉長卿藩籬小鳥何甚微、翩翩日夕空此飛。只縁六▲(「隔」のみぎ+羽。カク)不自致、長似孤雲無所依。西城黯黯斜暉落、衆鳥紛紛皆有託。獨立雖輕燕雀群、孤飛遠懼鷹■(「壇」のみぎ+鳥。セン)搏。自憐天上青雲路、弔影徘徊獨愁暮。銜花縱有報恩時、擇木誰容托身處。歳月蹉●(足+它。タ)飛不進、羽毛憔悴何人問。遶樹空隨鳥鵲驚、巣林只有鷦鷯分。主人庭中蔭喬木、愛此清陰欲棲宿。少年挾彈遙相猜、遂使驚飛往復迴。不辭奮翼向君去、唯怕金丸隨後來。【韻字】微・飛・依(平声、微韻)。落・託・搏(入声、薬韻)。路・暮・(去声、遇韻)・処(去声・御韻)。(去声、遇韻)。進(去声・震韻)・問・分(去声・問韻)。木・宿(入声・屋韻)。猜・迴・来(平声、灰韻)。【訓読文】小鳥篇。裴尹に上(たてまつ)る。藩籬小鳥何ぞ甚だ微なる、翩翩として日夕空しく此に飛ぶ。只六▲(「隔」のみぎ+羽。カク)に縁つて自ら致さず、長く孤雲に似て依る所無し。西城黯黯として斜暉落ち、衆鳥紛紛として皆託有り。独立燕雀の群を軽んずと雖も、孤飛遠く鷹■(「壇」のみぎ+鳥。セン)の搏つを懼る。自ら憐ぶ天上青雲の路、影を弔ひ徘徊す独り愁ふる暮べ。花を銜み縦ひ恩に報ゆる時有りとも、木を択ぶに誰か容さん身を托する処。歳月蹉●(足+它。タ)として飛べども進まず、羽毛憔悴して何れの人をか問はん。樹を遶りて空しく随ふ鳥鵲の驚くに、林に巣くひて只だ有り鷦鷯の分。主人庭中喬木を蔭とし、此の清陰を愛して棲宿せんと欲す。少年弾を挾みて遥かに相猜み、遂に驚飛して往復に回らしむ。辞せず翼を奮つて君に向つて去るを、唯だ怕る金丸の後に随つて来るを。【注】天宝のはじめ、洛陽における作。○裴尹 河南府の尹をつとめた裴敦。○藩籬 かきね。○翩翩 飛翔するようす。○日夕 朝晩。○只 ただひたすら。○六▲(「隔」のみぎ+羽。カク) 鳥の丈夫なつばさ。○致 「官を辞する」意をきかせたか。○孤雲 ぽつんと一つだけ空にうかぶ雲。よるべないもののたとえ。○西城 町の西側。○黯黯 くらいようす。○斜暉 傾いた陽光。○衆鳥 多くの鳥。○紛紛 数多いさま。○燕雀群 燕や雀のむれ。つまらない人物のたとえ。○懼 おそれる。おじけてびくびくする。○鷹■(「壇」のみぎ+鳥。セン) 猛禽。○搏 攻撃する。○青雲 仕官して出世すること。○弔影 我が身の影を見て自らあわれむ。○徘徊 あちこちさまよう。○独愁 一人でうれえる。○銜花 『後漢書』《楊震伝》「楊宝年九歳の時、華陰山の北に至り、一の黄雀の鴟梟の搏つ所と為り、樹下に墜ち、螻蟻の困しむる所と為るを見る。宝之を取りて以つて帰り、巾箱の中に置き、唯だ黄花を食はしむること、百余日、毛羽成り、乃ち飛び去る。其の夜、黄衣の童子有り、宝に向かつて再拝し、……白環四枚を以つて宝に与へて曰く『君が子孫をして潔白にして、位三事に登ること、当に此の環のごとくならしめん』」と。○縦 たとい。○報恩 ご恩にむくいる。○択木 木を選んで止まる。出世の手がかりを求めるたとえ。○托身 身をまかせる。○歳月 年月。○蹉●(足+它。タ) 空しく過ぎ去る。○憔悴 やせて疲れる。○鳥鵲 カササギ。○巣 巣をかける。○只 ただ。それだけ。○鷦鷯 ミソサザイ。『荘子』《逍遥游》「鷦鷯深林に巣くふも一枝に過ぎず」。ミソサザイは深い林に巣をかけるが、巣をつくるのは一枝にすぎない。人も各自の分相応に甘んじることのたとえ。○主人 裴尹をさす。○喬木 高く大きい木。○清陰 涼しい木陰。○棲宿 住みつく。○少年 若者。○挟弾 はじきだまを指ではさむ。○相猜 恨む。○驚飛 びっくりして飛び立つ。○奮翼 羽ばたく。○怕 おそれおののく。○金丸 黄金の弾丸。『西京雑記』巻四「韓嫣弾を好み、金を以つて丸と為し、児童常に随つて之を拾ふ」。【訳】小鳥の歌。裴尹に差し上げる。垣根の小鳥そなたなぜ体そんなにちっぽけな、羽をぱたぱた動かして朝な夕なに飛びきたる。ただ翼のみじょうぶにて自ら巣には帰らねど、空ゆくはぐれ雲に似てこれといいたるよるべなし。西の城には闇せまり傾く夕陽すでに落ち、多くの鳥は一斉におのが古巣に帰るなり。独りスズメやツバクロの群をばつねに侮れど、一羽で飛べばタカなどの襲いくるのにビクビクす。ああ大空の雲はるか、おのが影見てなぐさめて空をふらふら飛びめぐり独り愁えるこの夕べ。たといこの先いままでの恩に報いる時あるも、木を択ぶにも我が身をば托する処あるやらん。時はむなしく過ぎ去りて飛べどもなかなか進まずに、翼は疲れ力無くいったい誰をば訪れん。樹を遶りて空しく随ふ鳥鵲の驚くに、林に巣くひて只だ有り鷦鷯の分。殿のお庭の高い木を蔭とたのんで、その枝の涼しい木陰に身を寄せて宿を仮ろうと思います。若者指に弾挾み遥かに我をうらやめば、遂に驚き飛びたちてあちらこちらと逃げ回る。殿に向って飛びゆくに別に遠慮はいたさねど、若者はなつ黄金の弾丸我が身の後ろから迫りくるをただおそる。
January 22, 2008
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時平後送范■(リッシンベンに「倫」のみぎ。リン)歸汝州 劉長卿昨聞戰罷圖麟閣、破虜收兵卷戎幕。滄海初看漢月明、紫微已見胡星落。憶昔扁舟此南渡、荊棘煙塵滿歸路。與君攜手姑蘇臺、望郷一日登幾迴。白雲飛鳥去寂寞、呉山楚岫空崔嵬。事往時平還舊丘、青青春草近家愁。洛陽舉目今誰在、潁水無情應自流。呉苑西人去欲稀、留連一日空知非。江潭歳盡愁不盡、鴻雁春歸身未歸。萬里遙懸帝郷憶、五年空帶風塵色。卻到長安逢故人、不道姓名應不識。【韻字】閣・幕・落(入声、薬韻)。渡・路(去声、遇韻)。台・迴・嵬(平声、灰韻)。丘・愁・流(平声、尤韻)。稀・非・帰(平声、微韻)。憶・色・識(入声、職韻)。【訓読文】時平らぎて後に范■(リン)の汝州に帰るを送る。昨聞く戦罷んで麟閣に図くと、虜を破り兵を収めて戎幕を巻く。滄海初めて看る漢月の明らかなるを、紫微已に見る胡星の落つるを。憶昔扁舟此の南渡、荊棘煙塵帰路に満つ。君と手を携ふ姑蘇台、郷を望むに一日登ること幾回ぞ。白雲飛鳥去りて寂寞たり、呉山楚岫空しく崔嵬たり。事往き時平ぎて旧丘に還り、青青として春草家に近くして愁ふ。洛陽目を挙ぐれば今誰か在る、潁水情無くして応に自から流るべし。呉苑西人去りて稀ならんと欲し、留連すること一日空しく非なるを知る。江潭歳尽くれども愁ひは尽きず、鴻雁春帰るも身は未だ帰らず。万里遥かに懸けたり帝郷の憶ひ、五年空しく帯ぶ風塵の色。卻つて長安に到りて故人に逢ふも、姓名を道(い)はざらば応に識らざるべし。【注】乾元二年(七五九)春、蘇州における作。○時平 戦乱が収まり、平和で何事もない状態になる。乾元元年(七五八)春に長安・洛陽を回復したことをいう。○范■(リン) 范伝正の父。○汝州 唐の河南道に属す。河南省臨汝県。○昨 過去。○罷 やむ。おわる。○麟閣 麒麟閣。漢の武帝がキリンを得たのを記念して建てた高殿。のち、宣帝の時、十一人の功臣の像を掲げた。○破虜 敵をやっつける。○収兵 武器をしまう。○戎幕 陣幕。○滄海 大海。水深く蒼色を帯びるのでいう。○漢月 漢の国の上空にかかる月。○紫微 紫微は天帝がいると考えられた星座。○胡星 北方のえびすの地の上空の星。「星落つ」は賊の首領の死を暗示。○憶昔 昔の色々なことを思い出すと。○扁舟 小舟。○南渡 南の船着き場。○荊棘 いばら。紛糾した事態のたとえ。○煙塵 煙と土ぼこり。戦乱のたとえ。○帰路 帰り道。○携手 手を取り合う。親密なことをいう。○姑蘇台 蘇州市の西南の姑蘇山上にある台。春秋時代に呉王闔廬が築いた。○望郷 遠く故郷のほうを眺めやる。○幾回 いったい何回か、いや、かぞえられないほどであろう。○白雲 空に浮かぶ白い雲。○飛鳥 空を飛ぶ鳥。○寂寞 ひっそりとして寂しい様子。○呉山 呉の地方の山。○楚岫 楚の地方の峰。○崔嵬 岩石多く険しいようす。○往 過ぎ去る。○旧丘 故郷。○青青 草木の盛んに茂るさま。○洛陽 唐の副首都。河南省洛陽市。○目を挙ぐれば今誰か在る、○潁水 河南省嵩山に発し東南流して安徽省にて淮水に注ぐ川。○無情 感情が無い。○呉苑 江蘇省蘇州市。○西人 山西・陝西出身の者。○留連 去りがたくてグズグズとどまる。○江潭 川のほとり。○歳尽 一年が終わる。○鴻雁春帰 渡り鳥の大型や小型のガンは春に北のシベリアの方へと帰って行く。○万里 非常に遠い距離。○帝郷 天子のいる所。みやこ。○風塵 役人生活。○卻 あべこべに。○長安 陝西省西安市。唐の首都。○故人 むかしなじみ。○不道姓名 姓名をなのらなければ。○応不識 きっと私だとわからないであろう。【訳】戦乱おさまって後に范■(リン)が汝州に帰るのを見送る詩。むかしは戦乱おさまりて功臣画く麒麟閣、敵打ち破り武器しまい陣幕巻いて帰路につく。海のほとりで漢の空見上げる月は明らかに、紫微圏からはえびす星消えて平安おとずれる。昔おもえば渡し場に小舟に乗りて漕ぎいだし、いばらは茂り土ぼこり舞いあがる帰路多難なり。君と手と手を携えて登る姑蘇台この別れ、はるか郷里を眺めんと日に登ること幾たびぞ。白雲・飛鳥とび去りてあとに残るは寂しさよ、呉楚の山々岩多く高く険しくそびえたつ。もろもろの事過ぎ去りて世のなか平和おとずれてふるさと還るうれしさよ、青青とした春の草家の近くにはびこりて長の無沙汰を愁うなり。洛陽のかた目をやれば今居る者は誰やらん、潁水なにも知らずげにひたすら流るるつれなさよ。蘇州いままた君去りて西人ひとり数が減り、引き留めようと努めれどその甲斐もなく君は去る。川辺に歳は暮れゆけど愁いは尽きぬ我が心、カリは故郷へ帰れども未だ帰らぬ我が身かな。遥かに抱く望郷の念はいかんともしがたきに、五年空しく過ぎ去りてすまじきものは宮仕え。たとえ長安行き着きて昔なじみに逢おうとも、すでに我が顔わすれさり名前言わねばわかるまい。
January 4, 2008
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