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翌朝は、いつもより早く目を覚まし、わたしはジャングルの静寂の中、いつものババコ園へ向かいました。 つくづく人間というのは「獲らぬ狸の皮算用」の生き物だと思いますが、その時わたしが描いていた頭の中のイメージは、洗剤の忌避効果で「カルガドール(ハキリアリ)」がまったくババコによるつかないババコ園の様子でした。 歩いていくと、いつものようにだんだんと小高い丘の上に立てられたババコ栽培用のビニールハウスが目に入りはじめます。そして次には緑色のババコの葉が目に入っていくハズが・・・・、「あれっ?」、なぜかその朝は目に入ってきません。 目に入ってくるのは、何だか茶色い棒のようなものばかり・・・。 そしてババコ園に到着したわたしが目の前にしたものは・・・(ガーン)。 結論から言うと、選択用洗剤「デハ」の「カルガドール」に対する忌避効果は、話に聞いていたとおり確かにあったのです。 しかしそれはわたしが想像したこととはまったく違う形で現れたのでした。 つまりババコを洗剤で洗い流したことが原因で、ババコの葉のほとんどが枯れ、地面へ落ちてしまっていたのでした。 畑のなかにあれほどいた「カルガドール」の姿もその朝はまったく見当たりません。そりゃそうです、彼らも食料の生産原料となる葉がない場所には、寄り付くことはありません。 再度書きますが、洗剤には彼らを寄せ付けない効果はあったのです。そう抜群な効果が。しかしそれは同時にその植物も枯らしてしまうという究極の犠牲を伴っていたわけです・・・。 今あれから10年ぐらいがたちますが、あのときの朝の光景は今でも鮮明に覚えています。 そして、わたしはカルガドールとの一連の戦いを通して、「自然の営みを人間の力でコントロールしようなんていう考えは、農業においては根本的に通用しない。」ということを知り、「その地域・風土にあった農業形勢や発展がある。」のだろう、ということを学びました。 3年ぐらい前になりますが、広尾にある老舗のスーパーマーケット「明治屋」へ寄ったら、フルーツコーナーに「ババコ」が置かれていることに気がつきました。「こうやって売られているということは、この果物を買う人もいるのだな~。」と思い、そばに寄り、その「ババコ」を見つめていると、わたしの心の中で「甘酸っぱい気持ち」がジンワリと広がっていくのを感じました。 その時はその「ババコ」を買うことはできませんでしたが、いつか「ババコ」を買い、「ババコミルクセーキ」などをつくれる時がやってくるのだと思います。 終わり
2007年07月20日
今のようにインターネットのインフラが整備されていれば、ネット検索によりこの「カルガドール(ハキリアリ)」の適切な駆除方法を知ることができたかもしれませんし、この昆虫の専門家に生態について尋ねることができたかもしれません。 しかし10年前は、まさにこれからネット環境が整備されていく時代で、当時わたしが現地から日本と連絡をとるには、届くまでに2週間ぐらいかかる手紙か、時差を気にかけてかける電話が中心だったのです。 ですから作物の栽培に関する情報収集は、現地の人たちに聞いてまわったり、現地の人からもたらされたりする情報が中心でした。 ところで、「カルガドール」のババコ攻撃につくづく手を焼いていたわたしを見かねてか、学校の校長がある興味深い防除方法を教えてくれました。 それは、「植物の葉を洗剤で洗い流せば、その洗剤の匂いでカルガドールが寄り付かなくなる。」というもので、その校長も国の農業試験場の方から教えてもらったとのことでした。 それは、匂いなどによる「忌避効果」を狙った駆除法ですが、今まで洗剤を使ったそんな防除方法があることなど聞いたことがなかったものの、カルガドールの食害に苦しみ、何か対応策がないだろうか・・・と考えていたわたしは、「藁をも掴む、神にもすがる、そして洗剤にも助けを求める思い」で早速校長に、「それをやってみよう。」と提言しました。 ところでどんな洗剤が良いのかという話になりましたら、校長曰く、「洗濯用家庭洗剤が良い」、特に『Deja(デハ)』がよく効くらしい」ということでした。「デハ」とはエクアドルの一般家庭で広く使われている洗濯粉洗剤で、日本で言えば「トップ」とか「アタック」といった洗剤に該当します。 早速我々は、作業に取りかかりました。大タルに「デハ」の粉末を入れ、そこに水を加え、よくかき回せ、白濁の液体をつくります。そしてそれをジョロに入れ、50~60cmぐらいの高さに育ったババコの木一本一本に、丹念に、たっぷりとかけてまわりました。 辺りには、ほのかな洗濯洗剤の匂いが流れ、洗剤液で洗い流されたババコの葉は光沢に輝いていました。その様子はまさに「効きそう」な予感を感じさせるものでした。 そして地面を連なって歩く「カルガドール」たちにも、右往左往と列を乱している様子が見てとれました。 数時間かけて、一連の作業を終えたわたしたちは、額に汗をにじませながらちょっとした満足感に浸って、これからあらわれるだろう、効果について互いに言葉を交し合ったのでした。 さてその効果、まさに「テキメン」だったのですが・・・・。
2007年07月15日
慣れない外国語を使ってコミュニケーションをしていると、往々にして相手の言ったことをきちんと聞き取れず、自分の中でその話の内容を推測しながら、理解していくということがあります。このカルガドールの女王アリの習性についても、勝手に自分の都合の良いように理解をしていたことを後で知りました。 わたしは巣穴から飛び出してくる女王アリ1匹を捕まえてしまえば、そのアリの巣はいずれなくなり、また飛び出した女王アリが他のところに新しい巣をつくることがないから、この周辺の巣の数は次第に減っていくだろうと考えていました。しかし、この女王アリの巣立ちの行動は、新しく生まれた女王アリたちが、自分の巣を持つための分家することを目的にしていたのです。 ある朝仕掛けたネットを見に行ってわたしはビックリ仰天しました。てっきり網にかかっているのは、一匹の女王アリだけだと思っていたら、なんと何匹もの女王アリがかかっているではありませんか・・・。そしてネットを仕掛けた巣穴をまわるたびに、わたしが手にもっていたビニール袋は、徐々に捕獲された女王アリたちで満たされていくのでした。 この捕獲した女王アリたちをもって学校の用務員のところへ持っていくと、彼はとても喜んで、「よし、今夜これで一杯ビールをやろう。」というのでした。 その夜、口の中に油で揚げたての女王アリを口に放り込み、その彼と地ビールを飲みバカ話をしながらも、わたしは心の片隅で「カルガドールに対する敗北感と、アマゾンの大自然に対抗しているちっぽけな自分。」を感じていたのでした。 しかし何とかこのババコプロジェクトを成し遂げなければならないと考えていたわたしは、諦められず次の防除方法を探すことにしたのです。 そしてそれから数日後にある現地の人から教えてもらった防除策が、わたしとカルガドールのまさに最後の決戦につながっていくことになるのです。
2007年07月06日
わたしは、このババコ園のまわりに、大小あわせるととても数え切れないほどの「カルガドール」の巣があったことを思い知らされました。 なぜならば、発見した巣を掘り起こし、ガソリンを注いで、火をつけて燃やし、「やれやれ、これで完了か・・・」と思うと、他のところにまた別の行列を発見!! そんな連続なのです。 とりあえず執念でババコ園の近くで発見できた巣は全部焼き尽くしたわけですが、探せば探すほど、あちらこちらで蟻塚が見つかります。まさにババコ園のまわりに蟻塚があるというよりは、蟻塚の中にババコ園があると表現したほうがふさわしいのでした。 この現実から、私は今の焼き尽くすという方法ではこの問題を乗り切ることは不可能だということを知りました。しかし、この問題を解決しない限りはこのババコ園の未来はありません。何か他の方法はないだろうか・・・、と思案したわけです。 「己を知り、敵を知れば百選危うからず」という諺があります。まずは敵のことを理解しなければ勝利はありえません。そして必ずその敵(カルガドール)の生態を利用した駆除の方法が存在するはずだ・・・、それに、相手の生活パターンを逆手にとった駆除の方法であれば、こちらのエネルギーも少なくてすむし、自然に与える負荷も少なく、合理的な方法になるにちがいないだろう・・・と考えたわたしは、早速情報収集を始めました。それは少しですが生物学をかじった人間として客観的に、そして冷静にことを為そうとする意地もあったわけです。 するとある現地の人からとても興味深い話を聞くことができました。 それは「乾季のある時期、このカルガドールの女王蟻が巣を抜け出し、新しい巣作りのために移動するので、それを掴まえてしまえば、巣の増加を防ぐことができる。」というものでした。 季節はちょうど乾季を迎えたころで、女王アリが巣を抜け出す時期に近いことを知った私は、ババコ園の周辺にある巣、それもかなり遠くにある巣にまで、その入口に白い捕獲用のネットを張ることにしました。 焼却作戦に挫折感を感じたわたしですが、この新しい妙案に気持ちはすっかり復活し、「これで彼らも一網打尽だ。」と思いながらせっせと網を取り付けました。 それに「その捕まえた女王アリを油で揚げて食べると酒のツマミに最高だ~。」ということも聞いていましたので、昆虫食文化圏の出身(信州)の私は、それがどんな味なのかというのも楽しみになっていました。 しかしこの作戦にも、大きな落とし穴があったわけですが・・・・。
2007年07月04日
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