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2006年10月25日
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カテゴリ: ニュース
アメリカ合衆国建国当時の指導者たちが執筆した『ザ・フェデラリスト』について、政治哲学が専門の東京大学助教授・宇野重規氏が次のような解説を18日の読売新聞に寄稿しています;




 現在では想像しにくいのだが、独立当時のアメリカ各州は完全な独立国であった。イギリスの王政と戦い勝利した各植民地は、それぞれ独立した共和国となった。それゆえ、新たに合衆国憲法を制定し連邦政府を創設することは、いわばこれら独立共和国から主権を奪うことを意味した。遠い本国の王政による一方的な支配を嫌い独立したばかりなのに、新たにできる連邦政府に従属しなければならないのか。各州間の根深い対立もあり、人々が警戒心を持ったのは当然であろう。

 このような人々の警戒心に対し『ザ・フェデラリスト』を執筆して説得を試みたハミルトンやマディソンらは、アメリカ人民の利害は一体であり、新たな連邦政府は各州にとって有益であってけっして各州の独立を損なうものではないと、レトリックの限りを尽くして論じている。それどころか彼らは、連邦が当時各州を悩ましていた派閥対立や混乱さえ解決してくれると、当時の政治学の最新の議論を駆使してたたみかける。結果からいえば、現在のアメリカ合衆国を見て、それが元々は13の独立国家の集合体だったことを想起するのは難しい。それだけ合衆国創設期の指導者たちは巧みであったということであろう。

 現在、乗アジアは一つの経済圏として、ますます一体化の度合いを濃くしている。域内貿易比率は圧倒的に高まり、経済圏は各国経済にとっての生命線となっている。ところが、経済に対し政治的な結びつきはむしろ危うい。しかも、今回の北朝鮮の核実験騒動によって、国際的な緊張が高まるばかりか、各国内部の政治状況にも大きな動揺が生じている。各国間の対立が深まり地域の一体性が損なわれても、それで利益を得るものは地域内には存在しないにも関わらず、事態は深刻化するばかりである。

 このような状況において、今回の騒動をむしろ長期的な東アジアの地域新秩序へと結びりけるような政治的英知は存在しないのだろうか。政治に必要なのは冷静な状況認識、長期的な構想力、そして魅力的な言葉であることを『ザ・フェデラリスト』は示している。


2006年10月18日 読売新聞朝刊 12版 21ページ「ウィークリー時評-政治的英知現代に示す古典」

一つの経済圏として一体化の度合いを深めている東アジアは、政治的な一体化が進めばさらに経済的発展が期待されます。アメリカ合衆国建国当時の指導者たちのような英知を、今後のアジアの人々に期待したいものです。







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最終更新日  2006年10月25日 18時18分51秒


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