北海のノルウェー海域からポーランドへ天然ガスを運ぶパイプライン「バルト・パイプ」が正式に稼働を始めたのは9月27日のことだ。その日と前日、ロシアからEUへ天然ガスを運ぶ目的で建設されたパイプライン「ノード・ストリーム1(NS1)」と「ノードストリーム2(NS2)」からガスがボーンホルム島の近くで大量に流出している。
バルト・パイプで輸送できる天然ガスの量はノード・ストリームの1割程度にすぎないのでEUがNS1とNS2の爆破で受けるダメージをカバーできるとは言えないが、ポーランドは天然ガスを確保できるかもしれない。NS1とNS2の爆破でバルト・パイプの儲けは大幅に増えることも予想できる。
ノード・ストリームの流出状況から考えて瞬間的に大きな穴が空いたと見られ、1カ所あたりの爆発エネルギーはTNTに換算して100キログラム以上だとされている。パイプの構造から考えて事故でそうしたことが起こる可能性は小さく、爆破工作だったと推測されている。
事前の準備にそれなりの時間が必要だったと見られるが、実際、ボーンホルム島の周辺ではアメリカ/NATOが活動していたことは事実である。
例えば 2015年11月、スウェーデン軍はノード・ストリームの近くで爆発物を装着した無線操縦の無人潜航艇を発見、処理している 。その前年にバラク・オバマ政権はウクライナでネオ・ナチを使ったクーデターを実行、ウクライナを通過するパイプラインをアメリカが管理できる態勢を整えたが、ノード・ストリームはウクライナを迂回している。2015年にはノード・ストリーム2の建設に向かって動き始めた年でもある。
ロシア産天然ガスはドイツにとって重要な意味がある。日常生活や生産活動を維持するため、低コストのエネルギー資源を調達できるからだが、それはアメリカやイギリスなどの支配層にとって好ましいことではない。
アメリカやイギリス、つまりアングロ・サクソン系の支配者は19世紀からロシアの制圧を長期戦略の目標にしているが、ドイツがライバルとして台頭してくると、ドイツとロシアを潰すために両国を戦わせようとしてきた。ドイツとロシアの分断は日本と中国の分断と同様、現在でも米英の中心的な戦略である。
米英の支配層が第2次世界大戦後、ヨーロッパを支配するためにNATOを作り上げた。ソ連の攻撃に備えるという意味は建前にすぎない。その下部組織として秘密部隊のネットワークがあり、各国で米英支配層にとって都合の悪い勢力を潰してきた。典型例がイタリアのグラディオが1960年代から80年代にかけて行った極左を装った爆弾テロや用心暗殺、クーデター計画だ。
今年1月には ビクトリア・ヌランド国務次官 が、2月には ジョー・バイデン大統領 がパイプラインを止める意思を表明していることも忘れてはならない。パイプラインを管理する立場にないアメリカ政府が稼働を止めることができると自慢しているのだ。
NATOは今年6月5日から17日にかけて7000名規模の軍事演習をバルト海で実施、艦船45隻、航空機75機が参加している。その際、ボーンホルム島の近くで無人の潜航艇による機雷探索技術の実験も行われていた。
9月2日を中心とする数日間には、アメリカ軍のヘリコプター「MH-60S(あるいはMH-60R)」がNS2の上を盛んに飛行していたとも伝えられている。このヘリコプターには水面化の様子を調べられる機器が搭載され、パイプラインの位置を確認していたと推測する人もいる。
天然ガスが漏れ始めた頃、その海域にアメリカ海軍の強襲揚陸艦「キアサージ」を中心とする船団がいたことは既に本ブログでも書いた。その船団は27日、そこから北海へ向かっている。
調査が進むにしたがい、アメリカ/NATOが爆破したように見えてくるのだが、西側の有力メディアは大音量でそうした情報を封印しようとしている。ジョン・F・ケネディ大統領暗殺の直後、リー・バーベイ・オズワルドの単独犯行という公式見解を事実に基づいて否定するジャーナリストや研究者が現れてきた際、彼らは「陰謀論」というタグを持ち出して調査結果を封じ込めようとした。それ以来、「陰謀論」というタグを彼らは使い続けている。
今のところ「アメリカ/NATOが爆破した」と断定するだけの直接的な証拠はないが、状況証拠はアメリカ/NATOを示していると言えるだろう。米英にとってドイツは潜在的ライバルであり、ライバルに成長する前に潰し、属国化しておく必要がある。その点、日本も立場は同じだ。
1991年12月にソ連が消滅した直後、アメリカの国防総省内でポール・ウォルフォウィッツを中心として世界制覇プロジェクトを作成したことは本ブログでも繰り返し書いてきた。
旧ソ連圏の解体に着手、ユーゴスラビアは軍事的に破壊しているが、それだけでなく中国やEUのような潜在的なライバルを破壊し、覇権の基盤になるエネルギー資源を支配しようとした。つまり中東もターゲットに含まれる。ドイツや日本は中国と並ぶ潜在的ライバルだろう。
このプロジェクトは21世紀に入ってからロシアが曲がりなりにも再独立を成功させ、ネオコンの計算間違いからロシアと中国を結びつけてしまった。米英の支配層はロシアを再び属国化し、中国も屈服させようとしているが、その一方で潜在的ライバル潰すも続けている。そうせざるをえないのだろうが、順調に進んでいるとは言えない。有力メディアが必死に支えているが、早晩、人びとはメディアの嘘に付き合っていられなくなるだろう。