《櫻井ジャーナル》

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2024.07.02
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 NATO(北大西洋条約機構)の事務総長がイェンス・ストルテンベルグからマーク・ルッテへ、またEU(欧州連合)の外務安全保障政策上級代表はジョゼップ・ボレルからカヤ・カラスへ交代するようだ。このふたりをNATO事務総長やEUの外務安全保障政策上級代表は背後にいる支配者に選ばれたと言えるだろう。

 オランダの首相を務めるルッテはロシアを敵対者と表現、「ウクライナの勝利を確実にしなければならない」と主張している。それを実現する手立てを持ち合わせている国であるようには思えないが、ウクライナ政府へアメリカのF16戦闘機を供給すると約束した。F16は旧式の戦闘機だが、核ミサイルを発射できることからロシア政府は反発している。

 エストニアの首相であるカラスはルッテ以上のロシアを憎んでいることで知られ、「モスクワは負けなければならない」と繰り返し発言している。自国の首相としてこうした発言をしても嘲笑されるだけだが、NATOやEUという背景ができると事情は違ってくる。エストニアにはラトビアやリトアニアと同じようにNATO系の軍事訓練施設があり、リトアニアにはポーランドと同じようにCIAの秘密尋問(拷問)施設が設置されているという。

 また、今年3月にNATOへ加盟したスウェーデンでは6月18日に議会が防衛協定を採択した。アメリカ軍はスウェーデンにある17の軍事基地と訓練場にアクセスでき、武器、軍事装備、弾薬の保管が可能になる。自国をアメリカの空母になることを承認、イスラエルや日本と同じようにアメリカ軍の攻撃拠点になるということだ。

 ロシアとの戦争を継続して勝利すると主張する人物を登用しているようだが、これは妄想にすぎない。ウクライナだけでなくNATOの武器弾薬は底をつき、戦闘員不足からウクライナの街角で成人男性が拉致される映像がしばしばインターネット上にアップデートされている。核兵器を使わない限り、戦場でNATO(アメリカ)はロシアに敗れる。そこでアメリカ政府はロシア市民に対するテロ攻撃を始めたのだが、それでも西側の反ロシア派はロシアに勝つという幻想を抱いているのだろう。

 この戦争はNATOが東へ拡大したことから始まる。1990年に東西ドイツが統一された際、アメリカのジェームズ・ベイカー国務長官はソ連側に対し、統一後もドイツはNATOにとどまるものの、NATO軍の支配地域は1インチたりとも東へ拡大させないと1990年に語ったとする記録が公開されている。これ以外にもNATOを東へ拡大させないという約束を繰り返された。

 ロシア駐在アメリカ大使だったジャック・マトロックはソ連大統領のミハイル・ゴルバチョフに対してNATOを東へ拡大させないと約束、ドイツの外相を務めていたハンス-ディートリヒ・ゲンシャーは1990年にエドゥアルド・シェワルナゼと会った際、「NATOは東へ拡大しない」と確約し、シェワルナゼはゲンシャーの話を全て信じると応じたという。(“NATO’s Eastward Expansion,” Spiegel, November 26, 2009)

 その約束を無視したのはネオコンだ。ジョージ・H・W・ブッシュ大統領が1期で終わったのはNATO拡大に消極的だったからだとする説もある。1993年1月に就任したビル・クリントン大統領も当初は軍事侵攻に消極的だった。

 そうした流れが大きく変化したのは国務長官がウォーレン・クリストファーからマデリーン・オルブライトへ交代した1997年に1月からだ。1998年4月にアメリカ上院はソ連との約束を無視してNATOの拡大を承認、その年の秋にオルブライト国務長官はユーゴスラビア空爆を支持すると表明、チェコ、ハンガリー、ポーランドが加盟した1999年3月にアメリカ/NATO軍はユーゴスラビアを先制攻撃、その際にスロボダン・ミロシェヴィッチ大統領の自宅を破壊し、中国大使館を爆撃している。その際にスロボダン・ミロシェヴィッチ大統領の自宅を破壊し、中国大使館を爆撃、この時からNATOは旧ソ連圏を侵食していく。

 米英支配層の傀儡だったボリス・エリツィンもこの展開には反発したというが、国民の怒りはエリツィンの比ではなかった。そしてウラジミル・プーチンが登場してくる。

 元々ウクライナとロシアはひとつの国だったが、ふたつの文化圏に分かれることは確かだ。言語的にも宗教的にもウクライナの東部と南部はロシアだ。1991年8月にウクライナが独立を宣言した当時、東部や南部の人びとはウクライナから離れようとしたが、それを「国際社会」と称する西側の支配層は認めなかった。ウクライナを支配し、次にロシアを征服するのが彼らの計画だったからだ。

 その東部と南部を支持基盤にしていたのがビクトル・ヤヌコビッチである。そのヤヌコビッチが2004年の大統領選挙で勝利したのだが、それを認めたくないアメリカが介入、2004年11月から05年1月にかけて反ヤヌコビッチ運動を仕掛けた。これが「オレンジ革命」である。

 ヤヌコビッチの大統領就任を阻止したアメリカは自分たちの手先で金融界の人間であるビクトル・ユシチェンコを大統領に就任させたが、彼が推進した新自由主義的な政策は貧富の差を拡大させ、国民は怒る。そこで2010年の大統領選挙で有権者は再びヤヌコビッチを選んだ。

 そこでバラク・オバマ政権はヤヌコビッチ政権を倒すため、ナチズムを信奉するグループを使ったクーデターを成功させている。オバマ政権はロシアとの関係を悪化させ、外交的な挑発を繰り広げた。この政権で副大統領を務めたのがジョー・バイデンにほかならない。

 オバマ政権は2013年11月にクーデターを始動させ、年明け後にはネオ・ナチを前面に出してきた。ネオ・ナチはチェーン、ナイフ、棍棒を手にしながら石や火炎瓶を投げ、ブルドーザーなどを持ち出し、スナイパーを使って広場にいた警官や住民を射殺、有力メディアを使い、その責任を政府になすりつけた。

 そうした展開の中、EUは混乱を話し合いで解決しようとしたようだが、これに怒ったアメリカのビクトリア・ヌランド国務次官補はウクライナ駐在アメリカ大使のジェオフリー・パイアットに対し、電話で「EUなんかくそくらえ」と口にしている。アメリカは暴力によって2014年2月22日にビクトル・ヤヌコビッチ政権を倒したが、東部や南部の人びとはクーデター体制を拒否する。

 キエフでネオ・ナチが行っている残虐行為を知ったクリミアの住民は2014年3月16日の住民投票を経てロシアと統合する道を選ぶ。80%を超える住民が投票に参加して95%以上が加盟に賛成したのだ。

 それに対し、4月12日にCIA長官だったジョン・ブレナンがキエフを極秘訪問、22日には副大統領だったジョー・バイデンもキエフを訪問する。そして5月2日、クーデター軍が制圧していたオデッサでは反クーデター派の住民が労働組合会館の中でネオ・ナチの右派セクターによって虐殺された。

 5月9日にはクーデター軍がドネツクのマリウポリへ戦車部隊を突入させ、住民を殺している。デレク・チョレット米国防次官補がキエフ入りした6月2日にキエフ政権はルガンスクの住宅街を空爆している。このマリウポリは内務省の親衛隊がドンバス支配の拠点にし、要塞化するのだが、親衛隊の主力はネオ・ナチにほかならない。

 その間、ドンバス(ドネツクやルガンスク)でも自治(ドネツク)や独立(ルガンスク)の是非を問う住民投票が5月11日に実施され、ドンバスでは89%が賛成(投票率75%)、ルガンスクでは96%が賛成(投票率75%)している。これが住民の意志であり、クーデター体制と戦うことになった。

 それから8年かけてアメリカ/NATOはクーデター体制の戦闘力を増強させるが、そのための時間稼ぎが「ミンスク合意」だったことは本ブログでも繰り返し書いた。

 そして2022年2月21日にロシアのウラジミル・プーチン大統領はドンバスの独立を承認、2月24日にウクライナの軍事基地や生物化学兵器の研究開発施設などを巡航ミサイル「カリブル」などで攻撃しはじめた。部隊がドンバス周辺に集まっていたこともあり、短期間にキエフ政権側は大きなダメージを受け、そして停戦交渉が始まる。

 その交渉を仲介したのはイスラエルの首相だったナフタリ・ベネットだ。​ そのベネットをインタビューした5時間近い映像が昨年2月4日に公開された ​。話し合いで双方は妥協に応じ、停戦は実現しそうだった。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領はNATOへの加盟を諦めるとしたようだ。

 2022年3月5日にベネットはモスクワでプーチンと数時間にわたって話し合い、ゼレンスキーを殺害しないという約束をとりつけた。その足でベネットはドイツへ向かい、オラフ・シュルツ首相と会っている。​ ウクライナの治安機関SBUがキエフの路上でゼレンスキー政権の交渉チームに加わっていたデニス・キリーエフを射殺したのはその3月5日 ​だ。

 4月に入ると西側の有力メディアはロシア軍がブチャで住民を虐殺したと宣伝し始める。マクサー・テクノロジーズなる会社から提供された写真を持ち出し、3月19日に死体が路上に存在していたと主張しているが、疑問が噴出した。

 そうした中、​ 4月9日にボリス・ジョンソン英首相はキエフへ乗り込んでロシアとの停戦交渉を止めるように命令 ​。4月30日にはナンシー・ペロシ米下院議長が下院議員団を率いてウクライナを訪問、ゼレンスキー大統領に対し、ウクライナへの「支援継続」を誓い、戦争の継続を求めている。

 ​ ジェイク・サリバン国家安全保障補佐官とサマンサ・パワーUSAID長官は今年2月23日にCNNタウン・ホールでスピーチ ​、その中でサリバンは「ロシアはすでに(ウクライナでの)戦争で負けている」と主張、パワーはウクライナでの戦争をアメリカとロシアによるもので、アメリカが支持されていると語っている。

 言うまでもなくサリバンの主張は嘘で、ウクライナでの戦闘でロシア軍が勝っていることは確実。ゼレンスキー政権は崩壊しつつある。ウクライナを舞台にした戦争でアメリカが支持されているわけではなく、この点、パワーの主張は正しくないが、アメリカとロシアの戦争だと言うことは事実だ。

 ロシア軍のミサイル攻撃が始まって間もない段階でゼレンスキー政権はロシア政府と停戦交渉を始めていたが、その交渉はアメリカやイギリスによって壊された。両国はロシアを疲弊させ、最終的には破壊しようとしているわけで、ウクライナが破壊されてもウクライナ人が殺されても気にかけない。

 どうしても「ロシアに負けた」という現実を受け入れられない西側諸国のエリートたちは兵器のオペレーターや特殊部隊だけでなく、兵士をウクライナへ派遣し、相当数の死傷者が出ているという。

 そうした中、欧米では徴兵制の復活が議論されているが、そうなると支配層の子どもを徴兵を回避させる仕組みを作らなければならない。ベトナム戦争当時、アメリカには決して戦場へ派遣されない「シャンパン部隊」が存在していた。名簿に名前が記載されているだけという人物をいたようだが、次回はもう少し巧妙な仕組みを作る必要があるだろう。






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最終更新日  2024.07.02 00:21:58


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