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「でも変だな。こんなにも包帯が巻かれている割りには全然痛くない」 一瞬気が遠くなりそうになったワタシだったが、見た目とは違ってまったく痛みがないことが疑問である。唯一、背中の羽の付け根あたりが痛いような感覚はあるのだが、痛く無いはずだと思うと本当に痛みが退いてきているし、どうにもよく分からない。麻酔が効いているとでもいうのだろうか? う~ん、ちょっと違うような気がする。「おとなしく寝ていたほうが良いんだろうけど、目を覚ましたことを誰かに伝えたほうが良いかもしれないし……」 なにも無い殺風景な部屋だがベッドはあるわけだし、もしかすると病院のベッドにはつきもののナースコールのボタンでも無いかと探してみた。きょろきょろ♪「ナースコールはついてないのか。あれ? 鏡がある。……え!?」 探していたものは見つからなかったが、その代わりにベッドの頭側の壁に掛かった鏡を見つけたのだった。何となくそこにあること自体がわざとらしい鏡だったが、ふと見てしまった鏡の中にあったのは、左目とともに顔の左側上半分を包帯で覆われたワタシの顔だった。そうか、部屋の景色がやけに奥行きのなくて平板に見えたのは片目で見ていたからなのか。いや、今問題なのはそんなことじゃない。た、大変だよこれは~! 言葉を失ったワタシは、頭の中が真っ白になってきた。まさかさっきの実験の失敗で左目が潰れてしまったんじゃ!? 一気に心臓の鼓動が激しくなる。片目だけとはいえ失明の恐怖の前に、ワタシの理性はどこかに飛んで行きそうだった。だってしょうがないじゃない!「た、確かめなくちゃ」 もしも本当に大怪我をしているのなら、巻かれている包帯を自分で取ってしまうということをやってはいけないのだろうけど、今のワタシの頭の中には包帯の下はどうなっているのか真実を知りたいという焦りの気持ちしかなかった。 恐る恐る顔に巻かれた包帯に手を伸ばすワタシ。ふるえる手でゆっくりと包帯の結び目をほどくと、顔を覆っている包帯をしゅるりしゅるりとはずしていく。あああ、見たいけど見たくないような感じ。き、緊張するよぉ~。あと少し、ほら、もうすぐ包帯が取れて、潰れた目が出てくるんだ。きっとそうだ。ああ、嫌だーーーッ!「……あ、あれ?」 顔から全ての包帯が取れたとき、ワタシの右目に映ったのは、無惨に潰れた左目と焼けただれた皮膚。ではなくて、いつも通りのぷにぷにで透き通るような白い肌と、ぎゅっとつむった左目だった。「なに、これ? はッ!? もしかして何ともないようなふりをして実は目が開かないとか。ああ、もしもそうだったらどうしよう!」 嘆いていても始まらないと、しばらくじたばたしていたワタシだったが、とにかく確かめなくてはと、こわばる瞼(まぶた)を開けてみた。「何ともない。どおして?」 最悪の予想に反して左目はすんなりと開いたのだった。しばらく閉じていたからだろうが、ちょっとまぶしいが、問題なのはそれだけだ。何の異常もない。ぺたぺたと手で触ったりつねったりしてみるが、本当にまったく何ともない。もう、訳が分からないよぉ~。誰か説明して下さい。お願いします。「あははは、まさか身体のほうにも怪我がなかったりして……」 さすがにそんなことは無いだろうと思いながらも、ワタシは意を決して、手足や身体に巻かれた包帯を外してみることにした。 そして、しゅるしゅるしゅると包帯を外してみるとその下にあったのは、白いプラグスーツ(?)だった。もちろんどこも破れていないし、怪我をしているようにも見えない。でも一応念のために、ワタシは自分の身体をペたペたと触ってみた。「まさかもなにも、本当に怪我なんかしていない……」 既に背中の羽の付け根の痛みも、それと意識しなければほとんど感じない程度に収まっていたりする。ワタシは途方にくれてしまった。う~ん、本当に何がどうなっているのやら? というわけで次に何をすれば良いのか分からずにワタシが呆けていると、部屋の外から大きな声が聞こえて来た。「ああ、もう! せっかく巻いたのにもう解いちゃったのかい? 美姫君は分かってないなあ」 これは剣持主任の声! 声のする方向、すなわち部屋に開いた唯一の窓を見ると、そこにはこちらを覗き見ている剣持主任の顔があったのだった。い、いったい何事?
Nov 28, 2005
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第一章「まぶしい……」 目が覚めたとき、ワタシの視界を占めていたのは薄くオレンジ色に染まった白い天井だった。背中に当たるマットの感触と、薄い布団が掛けられている感触からして、どうやらワタシはベッドの上に寝かされているらしい。しかも見た限りの感じでは妖精サイズの部屋のようだが、妙に平板に見えるのが変と言えば変だ。どうにも奥行きというものが感じられない。う~ん、どうなってるんだろう。 ともかくどうして自分がここに寝ているのか、ついさっきまで何をしていたのか、そういったことを思い出すことさえ忘れたまま、ワタシはしばらくぼうっとしていた。 やがてどこからかセミの鳴き声が聞こえてくる。最初は控えめに鳴いていたセミは徐々にその声を大きくすると、最後のひときわ大きな声で自分の存在をアピールすると、急に鳴くのをやめた。 うるさくてたまらないほどだったセミの声が無くなると同時に訪れた静寂の中、あまりの静けさに急にワタシは不安になってきた。「いったいどうしていたのかな? なんだかよく分からない」 ここに寝かされるまでの記憶があいまいなのが、ちょっと不安を誘う。ベッドに寝たまま首を右に向けるとそこには開かれた窓があった。木々の間からは、そんなに綺麗じゃないけれど海が見える。そして対岸の街には、今にも落ちようとしている夕日があった。「とりあえずここがどこだか確かめないと」 独り言を言いつつ、ベットから起きあがろうとするワタシ。身体に力を入れてみる。「あ痛っ!」 その瞬間、背中にズキンとした痛みが走った。今はその感触からして羽を出しているはずがないのに、なぜか出していないはずの羽の付け根に怪我でもしたような痛みを感じたのだ。ワタシは思わず背中に手を伸ばしたが、確かにそこに羽はなかった。いったい本当にどうなっているんだろう。「そういえばワタシは……」 ズキズキとした痛みを感じるたびに、ワタシの記憶がよみがえってきた。そうなのだ。おそらく実験が失敗して……。「魔法を増幅する機械の実験をしていたんだっけ。そして最後は巨大化した羽を実体化しようとしたところまでは覚えている。うん、問題はそれから先の記憶がないってことだね」 ベットに身体を横たえて天井を見上げながら、ワタシは軽くつぶやいてみる。もしかすると異常な状況に置かれているからこそ、努めて明るい気持ちでいようとしているのかもしれない。「とにかく誰かを呼ばなくちゃ」 おそらくここはまだ研究所の中だろうから、部屋の外に出てみれば誰かいるはずだ。問題は部屋には窓がひとつあるだけで、扉らしきものがどこにもないということだ。真っ白なだけの殺風景な部屋に、ワタシが寝ているベットがひとつだけ。研究所の中にしてもいったいここはどういう部屋なんだろう。「羽が問題なく出せるのなら、窓から飛んで出て行くことも出来るんだけどなあ」 先ほどの痛みを思い出して、ワタシは軽くため息をつく。しかし、もしかするともう飛ぶことが出来ないかもしれないという可能性に気づかなかっただけ、その時のワタシはまだ楽観的でいられたのだろう。「やっぱり確かめてみないと始まらないか」 ついさっき起きあがろうとした時には感じた痛みも、ベッドに横たわっている状態ではまったく感じない。もしかするとあの痛みは夢だったんじゃないかと思えるほど何も痛みはない。普通の怪我なら横になっていても痛いはず。やはりさっきの痛みは魔法絡みで普通の怪我による痛みではないのだろうと当たりをつけたワタシは、少しだけ勇気を出してみた。「さっきの痛みが魔法によるものなら、痛くないと強く思えば痛くないはず!」 根拠の無い自信だったが、口にしてみると案外と正解を言い当てたような気がしてきた。というわけでまずは左手を右肩の上に持ってくると、身体に掛けられている薄い布団の端を掴んで、一気にそれを内側からめくりあげた。そしてそのまま跳びはねるようにしてベッドから降りると床に立ち、自分の姿を見下ろしたのだが……。「な、なんじゃこりゃ~」 思わず出てきた妖精少女らしからぬ下品な叫びもしょうがないよね。だって腕から足から胸やおなかまで、身体中に包帯が巻き付けてあったんだもん。もしかしてワタシって、ものすごい重体ですか? なんだか気が遠くなりそうかも。
Nov 24, 2005
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プロローグ 妖精は身体が小さいから、とうぜん喉も小さくて声帯も小さい。だから普通に喋るとキンキンと高く響く声になる。現にワタシの声もそうだ。妖精少女になってしまってからの声は、人間の男の子だった時の、それなりに低く響いていた声とは大違いだ。まあ男から女になっただけじゃなくて、身長が約25cmの妖精になっちゃたんだから、しょうがないと言えばしょうがないんだけどね。 しかし目の前で喋っている妖精の声は違っていた。人間とは比較にならないほど高い声のはずなのに、無駄にキンキンと響くことがない。目を閉じていたら、せいぜい5~6才の人間の女の子が喋っているのと間違えてしまうかもしれない。 彼女の職業が関係するのかもしれないけど、きっと普通に声を出す為にものすごい訓練をしたんじゃないのかな? よく分からないけどね。 ともかく普通の妖精の声が虫の鳴く声だとすると、彼女の声は小鳥のさえずりのようだと言っても良いぐらいの差があった。たとえは変かもしれないけど、それぐらいの違いがあるというわけなんだね。 もっともその声が伝える内容は小鳥のさえずりとは全く違って、とてもまじめで真剣なものだった。まあ、ワタシたち妖精には死活問題とも言えることについて語っているんだから、嫌でも真剣になるというものです。「20世紀末までの人間は、妖精の存在を物語の中の世界でしか知りませんでした。しかし7年前にその状況は一変したのです」 赤い髪の毛を長く伸ばしツインテールにまとめている女の妖精は、若く見えるけどどこか年齢不詳な不思議な雰囲気をまとっていた。それにしてもテレビで見ていたアイドルが、現実にワタシの目の前にいるだなんて状況は、やっぱり緊張してしまう。だって目に見えないオーラがすごいんだもん。 きっと今のワタシは、表情もガチガチにこわばっているんじゃないかな。「異世界の妖精によって引き起こされた召喚事件が、妖精を架空の存在から現実の存在へと変えたのです」 いつもテレビで見せる可愛らしさを残しながらも真剣な表情で語っているのは、世間が妖精アイドルとして知っている坂牧深雪ちゃんだ。その姿からは普段のキャピキャピした様子が想像できない程だ。というか、これが彼女の本当の姿なの? ワタシはますます緊張に身体をこわばらせながらも、そんなことを考えていた。「召喚されて妖精の身体になってしまった人の数は、この私を含めて日本国内だけでも、2万6000人にもなろうとしています。更にこの世界で新しく生まれた妖精の子供達も含めると、妖精の人口は更にその数倍は確実です。2007年8月の、これが日本の現実です」 そうなのだ。ワタシが住むこの世界では、ごく普通の人間がその身体だけを異世界の妖精に召喚されて取り上げられてしまい、代わりに妖精の身体にされてしまうという事件が続発しているのだ。「これからも妖精の人口は増えこそすれ、減ることはありません。ですから妖精と人間がお互いに対等の立場で共存できる道を探すことが、今後ますます重要になってくるのではないでしょうか?」 うわあ、なんだか話が大きくなってきたよ。本当にこんなところに私が居ても良いのかな? ワタシはそっと横にいる剣持主任を見上げてみた。けれどもワタシが感じている不安には気づいていないのか、剣持主任はぴくりとも動かずに坂牧深雪ちゃんのほうだけを見ている。 もしかして剣持主任って、アイドルオタクでもあったの? なにか普通の真剣さとは違う光が眼差しの中にあるんですけど。「異世界の妖精達は、妖精達が言うところの魂の波動が一致する人間に対して夢を通じて呼びかけてきます。その時に交わした会話を集めることにより、ある程度あちらの事情も明らかになっていますが、その内容は驚くべきものでした」 坂牧深雪ちゃんの話は、いよいよ核心へとさしかかってきた。この話が終わったら、いよいよワタシ達へとカメラが向けられるはずだ。そう、カメラなのだ。テレビカメラ! ここはテレビ局の収録スタジオの中。何故かワタシは、『妖精用電波ガード1号・まもるくん』の発売を記念しての特別番組、早い話が宣伝用なんだけど、その番組を収録中なのだ。 しかも何故か例の白いプラグスーツを身につけているから、緊張と恥ずかしさでもう大変なのだ。むぅ~。「妖精が住む異世界では、おそらく宇宙からやってきたと思われるロボット群が侵略行為を行っていたのです。しかも妖精の身体はロボットのような機械に近づくと活動できなくなってしまうのです」 坂牧深雪ちゃんの口調が真剣さを増してきた。どこか鬼気迫るほどだ。スタジオ内がこんな雰囲気になっちゃってるのに、ワタシはうまくそこに入っていけるんだろうか? ワタシの不安をあらわすかのように、胸の中の小さな心臓が回転数を上げている。もう、毛穴から血液が噴き出してきちゃいそう。「次元の壁を越えて人間の身体を召喚してしまうというような、すごい魔法を使う妖精も、ロボットに対しては無力でした。ロボットに近づけないどころか、どうやら妖精の唯一の強みである魔法が効かないらしいのです。というわけで異世界の妖精は、彼らの世界を侵略しているロボット群と戦う手段として、人間の身体を召喚したのです。ひ弱な妖精の身体の代わりに……」 異世界の妖精には妖精としての事情があるんだろうけど、夢の中に出てきた妖精のエルフィンにほとんど騙されるような感じで召喚されたワタシとしては、事情を聞いてもちょっと納得出来ないのが本音だ。異世界の妖精って身勝手だなあと思うし、ロボット達が妖精の世界を侵略していると聞いてもいまいちピンとこない。「話を戻して、突然召喚されて妖精の身体になってしまった元人間の妖精達が、人間社会の中で人間と対等の立場で生きていけない理由がここにあります。妖精の身体は、この世界のパソコンや携帯電話などにも弱かったのです」 そこで坂牧深雪ちゃんはちょっと言葉を止めて、じっとカメラのレンズを凝視した。カメラの向こうにいるはずの視聴者に対して、妖精の立場を無言で訴えているのだろうか? しかし、いよいよ。いよいよだよ! ワタシの出番は!! いったいどうすれば……。「身近に妖精がいらっしゃる環境の方ならもちろんご存知でしょうし、そうでなくてもテレビ等で報道されていますから知らない方のほうが少ないとは思いますが、妖精がパソコンの側に行ったり通話中の携帯電話に近づいたりすると気分が悪くなり、ひどい時には気絶したりしてしまうのです。こんな状態ではいつまで経っても妖精が現代社会において人間と共存するこtは無理でしょう。しかしそれも過去のことになる日が、もうまもなくやってくるのです♪」 さあ、口調が変わってきた。次はきっとワタシがあのモニターにアップで写るんだ。きっとそうだ。張りついてしまいそうなほど身体にピッタリとフィットした白いスーツの下では全身から汗がにじんでいた。もうぐっしょりだし……。ああ、どうしよう!?「妖精はコンピューターや携帯電話等に悪影響を受けて、ひどいときには気絶したり命を落としたりするというのが今までの常識だったのですが、本日はその常識を否定するすごい発明をされた加賀重工の開発部主任の剣持道彦さんと、開発の手伝いをされている妖精の長谷川美姫さんにお越しいただきました!!」 大きな声でワタシと剣持主任を紹介した坂牧深雪ちゃんは、薄く半透明に透き通ったトンボ羽を羽ばたかせてふわりと飛ぶと、ワタシと剣持主任の前に移動する。当然に坂巻深雪ちゃんを追いかけるような形でカメラが動き、ワタシと剣持主任はその視線にとらえられた。離れたところにあるモニターには今この瞬間のワタシの姿が映し出されている。そして緊張がマックスに達したワタシからは徐々に思考能力が失われていく。……な、何か言わなくちゃ。でも何も浮かんでこない。え~ん、いったいどうしてこんなことになっちゃたの~~!!
Nov 21, 2005
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