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2025年11月15日

神の祝福第１話

テーマ：二次創作小説(1163)

カテゴリ：相棒腐向けBLOO+パラレル二次創作小説：神の祝福

素材表紙は、 mabotofu様からお借りしました。

「相棒」二次小説です。

公式様とは一切関係ありません。

男性妊娠設定です、苦手な方はご注意ください。

二次創作・BLが苦手な方はご注意ください。

何処からか、澄んだ歌声が聴こえて来た。

耳を澄ませてみると、その歌声と共に悲鳴と怒号、そして爆撃機のエンジン音が聞こえて来た。
その瞬間、自分が何処に居るのかがわかった。
熱帯雨林のジャングルに絶え間なく降り注ぐ炎の雨の中で、“彼”は只管刀で人を斬っていた。
誰かが、自分を呼んでいる声が聞こえたような気がした。

熱い。

身体が、熱い―

「何だ、夢か。」
蝉の大合唱と共に夢の世界から目覚めた神戸尊は、ノロノロとベッドから起き上がり、ベッドサイドに置いてある目覚まし時計を見て、素っ頓狂な叫び声を上げた。
「遅刻だ～！」
ドタドタと慌ただしく部屋から出た尊がリビングに入ると、キッチンでは父・孝が朝食を作っているところだった。
「父さん、何で起こしてくれなかったんだよ！」
「弁当要るか？」
「要るっ！」
尊はダイニングテーブルに置かれている弁当をひったくるようにして通学用のリュックの中に入れてそれを背負い、部活の道具が入ったバッグを掴んだ後、マンションの部屋から飛び出した。
（あ～もぅ、寝坊したから着替える時間ないじゃん！まぁ、学校に着いてすぐに着替えたら朝練に間に合うかも！）
マンションのエントランスから外へと出てバス停へと向かった尊は、今まさに自分の目的地である高校行きのバスが停留所から出ようとしている所だった。

何とかギリギリでバスに乗り込んだ尊は、一人の男とぶつかりそうになった。
「大丈夫か？」
「はい、すいません・・」
シルバーフレームの眼鏡の奥で、男が一瞬尊を見て驚いたような顔をしたが、彼はすぐさま奥の席の方へと向かってしまった。
（何だったんだろう、あの人。）

（あ～、何とか朝練には間に合った・・）
道場の更衣室で制服から道着へと着替えた尊が更衣室から出ると、丁度一人の男が道場に入って来るところだった。
その男は、尊がバスの中でぶつかった男だった。
（何で、この人がここに？）
男は尊の視線に気づいたのか、じっと尊を見つめて来た。
「今日から剣道部の新しい顧問をすることになった、大河内春樹だ。君は？」
「あ・・剣道部部長の、神戸尊です・・よろしくお願いします。」
「よろしく。」
男―大河内春樹はそう尊に挨拶した後、練習に入った。
都内で強豪校のひとつとされているこの高校の剣道部は、練習が厳しい事でも有名だった。
「そこ、腰がひけているぞ、しっかりしろ！」
「ちゃんと構えろ！」
地獄のような練習が終わり、尊達がヘトヘトになっていると、チャイムの音が鳴った。
「あ～、疲れた。」
道場にあるシャワー室で尊がシャワーを浴びていると、誰かがシャワー室に入って来る気配がした。
（誰だろう？）
そっと尊がシャワーブースから少し顔を覗かせて入口の方を見ると、腰にバスタオルを巻いただけの春樹が入って来た。
彼はチラリと辺りを見渡すと、尊の元へとやって来た。
「あの、僕に何か用ですか？」
「お前、もしかして俺の事、憶えていないのか？」
「は？」
急に何を言い出すのだろうかと、尊が春樹の言葉に首を傾げていると、春樹は少し落胆した表情を浮かべた後、シャワー室から出て行った。
（何だったんだろう、あの人・・）
昼休み、尊が弁当を教室で食べながらシャワー室での事を思い出していると、教室の入り口の方から視線を感じた。
「あの、神戸先輩ですよね？」
「そうだけど、何？」
「これ、読んでください！」
中等部の制服を着た一人の生徒がそう言ってカラフルな便箋を尊に手渡すと、歓声を上げながら友人達と共に走り去っていった。
（困ったなぁ・・）
小学校時代、女子からモテ過ぎた所為で嫉妬故に男子達から“キザオ”と呼ばれ、無視されたりした苦い経験故に中学受験をして私立の中高一貫の男子校へと進学したのだが、何故か尊は同性にもモテる事に気づいた。
「お、また貰ったのか？モテモテだな、尊は～！」
そう言いながら尊が持っていた便箋を奪い取ったのは、尊の幼馴染・亘だった。
「やめてよ、亘だってラブレター、沢山貰っているだろう？」
「まぁな。」
亘は身長が181センチもあり、がっしりとした体格の体育会系男子で、同性からも異性からも人気がある。
「それにしても、今日赴任してきた剣道部の顧問・・大河内先生だっけ？もしかして、尊に気があったりして。」
「え、大河内先生は男だよ？」
「大河内先生はゲイだっていう噂だよ。もしかして、尊の事を狙っているかもよ？」
「まさか～」
その時、亘の言葉を冗談として笑い飛ばした尊だったが、シャワー室での事もあり、もしかしたら本気で春樹は自分を狙っているのかもしれないと思うと、何だかモヤモヤしてきた。
「部長、部長？」
「あ、ごめん、話聞いてなかった。」
「これ、今度の大会に向けての練習メニューなんですけれど、少しご相談したいんですが・・」
「わかった。」
部員達の相談に乗っている内に、気づけば道場の外は辺り一面闇に包まれていた。
（ゲッ、今日は５時から鶏モモ肉のタイムセールが近所のスーパーであるのに、早く帰らないと・・）
慌てて道着から制服に着替え、道場を出て正門へと向かった尊だったが、夜の学校は昼とは違って不気味なほどに静まり返っていた。
（さっさと帰らないと・・）
正門までの近道である、人気のない裏山の近くの道を尊が走っていると、突然獣のような唸り声が聞こえて来た。
（野犬かな？）
そんな事を思いながら尊が歩いていると、近くの藪の中から何か光るものが見えた。
そして、“それ”は、徐々に自分の方へと近づいて来た。
「神戸、そんな所で何をしている！？」
「キャァァ～、あ、秋山先生かぁ・・びっくりしたぁ。」
突然懐中電灯で顔を照らされ悲鳴を上げた尊だったが、目の前に立っているのが生活指導の秋山だと気づき、安堵の表情を浮かべた。
「もう下校時間は過ぎているぞ？」
「すいません・・部活で帰るのが遅くなってしまって・・」
「気を付けて帰れよ～」
「は～い。」
秋山に背を向けて尊が再び歩き出そうとした時、秋山の叫び声と共に彼の姿が消えた。
「先・・生・・？」
秋山が消えた方を尊が見ると、彼は謎の化物によって喉を喰われていた。
「ひっ」
化物の赤い目が尊の姿を捉えたかと思うと、一直線に彼の方へと向かって来た。
「う、うわぁ～！」
尊は化物に背を向け、安全な校舎の中へと逃げ込んだ。
（大丈夫、これで安全・・）
尊がそう思いながらガラス扉を閉めようとした時、突然化物が咆哮し、その衝撃波でガラスが割れ、破片が雨のように尊に降り注いだ。
「う・・」
地面に打ち付けられ、尊が何とか立ち上がろうとした時、化物の鋭い爪が彼の頬を傷つけた。
（何で、こんな・・）
もう駄目だと思った時、尊と化物の前に一人の男が割って入った。
その男は、春樹だった。
「大河内先生、何で・・」
「今詳しく事情を話している暇はない。」
春樹はそう言うと、尊を横抱きにして化学室へと向かった。
「ここなら安全だ。」
「え、あの・・」
春樹は徐に竹刀袋から一振りの日本刀を取り出し、鯉口を切った後、その刃先を己の掌に食い込ませた。
「なに・・しているんですか？」
「飲め。」
「は？」
突然自分の血を飲めなんて、何を言っているんだこの人は。
「いいから飲め。」
「ちょっと、来ないで！」
二人が揉み合っていると、化学室の窓が割れた。
春樹は舌打ちすると、尊を抱き寄せ、その唇を塞いだ。
「ん、ん～！」
突然男にファースト・キスを奪われ動揺した尊は、何か生温かいものが己の渇きを満たしてくれるような感覚がした。
と同時に、頬の傷が噓のようになくなってゆくのを見て、尊は驚愕の表情を浮かべた。
「それは・・」
「翼手・・この世には生み出してはいけないものだ。」
春樹はそう言った後、尊の唇を再び塞いだ。
「尊、戦え。」
その瞬間、尊の頭の中に様々な映像が浮かんでは消えていった。
何処かの、まるで映画に出て来る城の奥へと“誰か”が向かっていた。
やがて奥には、教会を思わせるかのようなゴシック建築様式の塔が現れた。
息を弾ませ、鍵束を掴んで塔へと走り出し、螺旋階段を上り最上階へと向かうと、蒼い薔薇に囲まれた部屋の前に立った。
その扉には、南京錠がかけられていた。
鍵束の中から一本の鍵を取り出し、“誰か”がそれを南京錠に挿し込んだ。
軋む音を立てて扉が開き、そこには―

尊の切れ長の瞳が、真紅に染まった。

「ソード。」
尊の言葉を聞いた春樹は、恭しい仕草で刀を彼に差し出した。
刀を受け取った尊は、何の躊躇いもなく化物の首を刎ね飛ばした。
真紅の血が雨のように降り注ぎ、尊の白い肌を赤く濡らした。
「尊、どうしたんだ、その血？」
「亘・・嫌だ、何これ！？」
我に返った尊は、化物の返り血で汚れた肌を窓ガラス越しに見て悲鳴を上げ気絶した。
「その様子だと、まだ覚醒めていないのか。」
春樹はそう呟くと、そっと愛おしそうに尊の髪を撫でた後、漆黒の闇の中へと消えていった。
「う・・」
「しっかりしろ、尊！俺だ、わかるか？」
「亘・・」

尊は亘の顔を見て安堵の笑みを浮かべた後、意識を闇の中に沈めた。