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2018年09月05日
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テーマ: 本日の1冊(3777)


「ビルマ・アヘン王国潜入記」高野秀行 草思社

長い準備期間のあとに、高野さんは人民未踏のビルマ・アヘン王国(ワ州)にたどり着く。アヘンの芥子粒の種まきをした直後にマラリアに罹り生死を彷徨う。経験上マラリアと思いながら、治療する医者がいない。諦め寸前の処で西洋医学に救われる。高野さんは思うのである 。「あれだけ苦しみ、死ぬかと思った病気がほとんど注射一つで治ってしまったのは、一種のカルチャーショックだった。ワ州内では「発展」しているはずのヤンルンですら、マラリアは手の施しようのない謎の「熱病」だったのだ。私はこのとき西洋文明のすごさを実感した。マラリアにもいろいろな種類があり、私が罹ったのが悪性のものだったら、おそらく私は死んでいただろう。一方、もしも私がチェンマイでしかるべき薬を買っていて、発病後、すぐに飲んでいたなら、ちょっと風邪をひいたぐらいでおさまっていたかもしれない。「死」と「風邪もどき」のあいだに横たわる大きな溝。それはワ州と外部世界を決定的にへだてる溝でもある。(81p)」 と。後年、ソマリアで軍隊に襲われたときもおそらく生死の危機があったと思われるのだけど、このような深刻な書き方をしていない。高野さんは、この時日記をつける余裕がなかった。しばらくしてから思い出して書いている。その沈思の時間がこう書かせたかもしれない。「溝」は、この本のテーマを直接表したのと同時に、辺境作家の珍しく見せたホントの危機意識のような気がする。だからこそ、彼の書く文章は価値があり読ませるのである。もちろん、何時ものような「飄々とした」文章の味も価値ではあるのだが。

「ずいずいずっころばし」の童謡は、夢の中で鼠が活躍していたのをそのまま歌にしたのだ、という「発見」(96p)は、いかにも「旅の興奮」が見つける興味深い「意見」ではある。

多分、これで長編3作目の本である。友人の人類学者の薫陶を受けたのか、「後年」よりもきちんと民族調査票を基にしたかなような記述が多い。家族構成、集落の単位、労働習慣、信仰、出産、結婚式etc。あとで書いているが、ホントに100年前の日本の姿と似通っている。ただし、この村を高野さんは「準原始共産制」と規定しているが、不正確なこと極まりない。ケシ栽培の「国家的な管理」も含めて「商品」の自由売買が村の基盤になっている時点で「原始」とか「共産制」という言葉は既に使ってはいけないのである。この辺りの「いい加減さ」は直さないといけないと思う。現に他のレビューでこの言葉が独り歩きしていた。

もうひとつ、「いい加減さ」を批判するとすれば、自らアヘン吸いになり、村の人々が忠告したのにもかかわらず急性アヘン中毒になって、それを反省もせずに書いているのは、やはり納得出来ない。特に「中毒」は、ルポとしての必要性さえない。自らの「文章」の影響力の大きさについて、高野さんは肝に据えるべきだと思う。

2018年8月読了





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最終更新日  2018年09月05日 07時38分51秒
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