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February 8, 2012
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カテゴリ: 教授の読書日記



 本書は、「東京R不動産」の仕掛け人である馬場氏が、いかにして房総に自宅を建てたか、という、その顛末を中心に、氏独自の都市論・建築論を語ったものなんですけど、まず馬場氏の結婚をめぐるプライベートな話というのが凄くて、某大学の建築学科に在籍中、彼女さんが妊娠してしまって、そのまま学生結婚。卒業後、しばらくは頑張って大手広告代理店でめちゃくちゃに働くものの、良かれと思って購入した都心マンションでのワンルーム生活の中で、ワンルームゆえのプライバシーの無さから精神的に参ってしまい、それがもとで離婚。

 ところがその後、都心のワンルームを出て多摩の方に引っ越したりしているうちに少しずつ回復し、離婚した妻子と再び同棲するようになり、やがて元妻が妊娠。かくして二度目のできちゃった婚でもとの鞘に収まるという、珍しいパターンなんですな。

 で、そんな自らの体験の中から、「住まい」というのは、それほどまでに住み手の精神状況に影響する、ということを馬場氏は実感するわけです。間違った住まいを選んでしまうと、人間関係まで破綻してしまうよ、と。

 で、どこに住むか、どのように住むかということに意識的になった馬場氏は、その後、色々な経緯の中で、「房総」という土地を発見する。良く考えてみれば都心から余裕の通勤圏でありながら、「湘南」のようなブランド土地とは異なり、何故か都会人から見捨てられている土地。

 そして房総のことを知れば知るほど、房総に本宅を持ち、都会に小さなマンションを持つという二重生活が、自分の生活にとってベストなのではないかということに、馬場氏は気づき始める。

 で、そこから具体的に土地を探し、土地を買い、家を建て・・・という具体的な話になっていくわけですが、その経験の中からまた馬場氏は色々なことを学ぶわけ。

 例えば、大手住宅メーカーに丸投げで家を建ててもらうのではなく、自分で設計し、自分で建設会社を選び、自分の好きなように家を建てようとする人が必ず直面する難題に、馬場氏も直面することになる。

 普通、住宅メーカーを使って家を建てる場合、家を建設している間に掛かるお金は、そのメーカーが立て替えておいてくれるわけです。住宅ローンというのは、家が建った後じゃないと支払われませんので、建てている途中ではお金が下りない。だからその間は住宅メーカーが工務店に支払うべきお金を立て替えてくれる。そういうのを「つなぎ融資」と言うのだそうですが、つまりは住宅メーカーは、銀行のような役割も果たしているわけです。ところが、住宅メーカーに頼らず、すべて自分で建てるとなると、そういう風に「つなぎ融資」をしてくれる人がいないわけですから、最初から必要なお金を用意しておかなくてはならない。



 ま、とにかく、そんな感じで色々なことを経験しながら馬場氏は房総に家を建てるのですが、その家は、かつての自身の失敗に学び、家族がそれぞれのプライバシーと、一所に住んでいるという感覚の両方をバランスよく持っていられるように考えて設計されている。勿論、この家は馬場さんのご家族にピッタリなだけで、誰にも合う住宅ではないのですが、要するに馬場さんの言わんとすることは、住宅というのは、自分のライフスタイルに合わせて作れよ、ということなわけ。

 つまり、住宅というのは、「大きな計画」の中で作られるものじゃないよと。

 で、そのあたりから本書は、個人の家を建てる物語から飛躍し、もっと大きな物語に入っていきます。

 馬場さんは、広告代理店に勤めていた頃、東京都が長年計画してきた「世界都市博覧会」の計画が挫折するのを目の当たりにし、さらにオウム真理教の事件を通じて「都市」が内側から崩壊していくのを見た。そういう経験の中から、大きなマスタープランの元に計画された都市計画なんてものは実現不可能なのではないか、という悟りを持つんですな。だからこそ、「住む」という、人間の存在そのものにかかわるようなことに関しては、絵に描いた餅的な大計画はナンセンスなのであって、「自分はこう住みたいんだ」という個々人の欲求そのものから、都市と人間の住まいとの関係を作り直すべきではないかという感覚を得る。で、それがこの「房総の家」の建設や、あるいは「東京R不動産」のプロジェクトに結び付いたというわけ。

 そして、そういう形で「いい住まい」を提案することこそ、これからの建築家の仕事なんじゃないかと、馬場さんは言います。逆に言えば、今まで建築家は、都市のあり方なんてこととは関わりなく、「施主さん」という個人とだけ付き合うことに満足しすぎてきたのではないかと。

 例えば都心に狭い土地を購入した「施主さん」が、「ここに住みやすい狭小住宅を建ててくれ」と頼んで来れば、「はいはい」と引き受けて、狭小住宅を建ててしまう。それが建築家の腕の見せ所だと思って。

 しかし、今の馬場さんなら、そういう施主さんに向かって、「そんなところに狭小住宅を建てるのはお止めなさい。同じお金を出せば、郊外でもっと豊かに暮らせますよ」と提案するでしょう。またそうやって人々が暮らしの場を移せば、都心は都心で、もっと機能的に改変することができるようになる。それは、無機質な大計画から出た都市再開発ではなく、個人の暮らしを豊かにするための必然的な都市再開発になるはずだと。

 だから今馬場さんは、「新しい郊外」というコンセプトを、一般大衆に向かって広めることが、新世代の建築家としての自分の役割だと、そう自負していらっしゃる。そのいわば宣言書が、本書『「新しい郊外」の家』であるわけですな。


 ちなみに、馬場さんは房総に新しい郊外を見たわけですが、このブログでも何度となく主張しているように、私は八ヶ岳に新しい郊外を見ておりまして、そこを本拠として、東京・名古屋に小拠点を持つというライフスタイルを何とか実行しようとしている点で、馬場さんと基本的に同じ路線の考え方をしている。ですから、この本は私に言いたいことを代弁しているようなところがあり、その点で大いに共感しております。もちろん、実際に個人が住宅メーカーに依らずに家を建てる場合のあれこれについて書いてくれているところも大いに役立ちますしね。

 というわけで、この本、私としては知己を得たような気持で読んだので、もちろん、教授のおすすめ!印を付けちゃいましょう。



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Last updated  February 8, 2012 11:17:38 PM
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釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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