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井垣康弘 「少年裁判官ノオト」(日本評論社)
♪♪盗んだバイクで走り出す かつて、 尾崎豊 という青年が唄った 「15の夜」 という歌があります。 1992年 、26歳だったかの若さで謎の死を遂げてしまった、伝説の歌手のデビュー曲です。今でも知っている高校生がいるかもしれません。ナイーブで暴力的なまでに激しい少年の感覚を歌った切ない名曲がたくさんあります。まあ、好き嫌いはあると思いますが。
行き先もわからぬまま
暗い夜の帳の中へ
誰にも縛られたくないと
逃げ込んだ
この夜に
自由になれた気がした15の夜♪♪
最後に母親が鑑定人に質問した。 裁判長は、このわずかな可能性にかけて審判決定書にこう記したそうです。
「この子は立ち直れるのでしょうか?」
「わずかなパーセントかもしれないが、その可能性はあります。」
「当分の間、落ち着いた、静かな、一人になれる環境におき、一対一の人間関係の中で、愛情をふんだんに与える必要がある。」 少年Aを救うために何が必要なのか。彼は決定書を書いただけではありませんでした。
審判の後、少年院には年に一度のペースで動向視察に行った。調査官も連れて行くが、審判にかかわった調査官は、年々、転勤でいなくなった。
少年院に入ると、若い法務官から猛烈な抗議を浴びせられた。「マスコミが少年Aのことを報道すると、その夜必ず酔っ払いから『まだ生かしているのか。早く殺せ』との意味の電話がかかってくる。裁判官!そういうことを知ってテレビを連れてきたのですか!」というのである。私は、「担当裁判官が少年院を訪ね、少年にも面会もして成績を見ていることを広く世間に知ってもらうことは、将来、少年Aの社会復帰を世間に受け入れていただくためにも、必要かつ有益な情報提供である」旨力説したが、すんなりわかってくださったのは、院長を含む医師たちだけだったようである。 裁判官も行動するのですね。ぼくが本書を読んで一番驚いたのは、実はこのことでした。
社会のあれほどの悪意を背にしながら、― 警察官、検察官、裁判官、調査官、弁護人、鑑定人、鑑別所の先生方、少年院の先生方 ― 皆で『生きろ』と言い続けくれたことについて、心から感謝したい。
この本の中には、 15歳
にしてこの社会から零れ落ちるように人を殺し、一人ぼっちで絶望している少年を、何とか社会の中で生きさせようとする大人たちがいます。人間が共同で生きることを肯定する為に法律があることをプラグマチックに実践する裁判官がいます。ぼくはこの本を高校生に読んで欲しいと思います。そして、仕事の内容は「職種」によって決まるのか、「人」によって決まるのか考えてみて欲しいと思うのです。 (S)2006・06・26
追記 2019/06/22
2006年ですから、もう10年以上前に、高校生に向けた 「読書案内」
で書いた内容です。わら半紙に印刷して、授業の教室で配布していました。
「少年A事件」
と呼ばれるようになった出来事から10年ほど経った頃でした。事件の現場が、すぐ近所の出来事だったし、読んでくれる高校生のなかには少年を見知っている人が、まだいる頃でした。こうして、話題にすることに、ぼくなりの勇気がいったことを覚えています。
その後、著者の 井垣康弘
は、その手記による情報の公開をめぐって批判され、ネット上などでもかなりなバッシングを受けたようですが、詳しい経緯は知りません。 「少年A」
に関しても、この間、ことあるごとに話題にされながら、あっという間に消えてゆくメディアの喧騒は、落ち着いて考える態度を壊すものであるという印象を残しただけでした。
最近、当時 「タンク山」
と呼ばれた、事件の現場近くを通行することが多いこともあって、 「阪神大震災」、「オーム真理教」事件、「少年A」事件
と立て続けに起こったあの数年間を境に 「何かが変わったなあ」
という気分が、ふと湧いてきます。神戸にすんでいる人間だからかもしれませんが、 「東北の震災や、原発事故の前にすでに何かが変わっていた?」
と感じていたことを確かめたいというのが今の気持ちです。
追記2022・09・06
今年の夏、医師の 中井久夫さん
がなくなりました。阪神大震災直後の 「少年A事件」
で少年の精神鑑定をなさった神戸大学のお医者さんです。亡くなって、思い出したことの一つが、その事件についてでした。
ぼく自身の今日までの生活の中で阪神大震災の経験は、やはり、忘れることのできない経験なのですが、人間というものはそういう経験をどうしながら生き続けているのか、他人事だと思っていたコロナに、思いがけなく感染してみて、つくづくと振り返るのですが、よく分かりません。出来れば 井垣康弘さん
のこの本も読み継がれることを祈るばかりです。
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