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2016年、話題をさらった作品だが、読み終えて考え込んでしまった。小説を映画化する話はよくある。では、その逆は、 映画のように小説を書くということに込められた意味は何だろう
、というのがこの長い長い小説を読みながら浮かんできた問いだった。
始まりは1937年、事変直後の上海共同租界。小雨の外白渡橋(ガーデン・ブリッジ)を紺色の背広を着た一人の男が渡っていく。彼がポケットから取り出した折り畳みナイフの刃がきらりと光る。検問所で誰何された男は「工部局警察部芹沢一郎であります。」と日本語で答える。
男はビルの入り口で待っていた軍人に促され、「百老匯大廈(ブロードウェイ・マンション)」の19階まで昇降機で登る。そこで待っていたのは陸軍参謀本部謀略科嘉山少佐。
「百老匯大廈(ブロードウェイ・マンション)」は三年前に竣工した、当時、東洋一の高層ビル。その最上階の高級レストラン。眼下には豪華絢爛な魔都上海の夜景、と思いきや。
ついひと月前までなら、この場所から眺める上海の夜景は壮麗のひとことだったに違いない。立ち並ぶ外灘(バンド)のビルには数多の窓が明るく輝き、南京路を中心とする繁華街のナイトクラブやキャバレーのネオンサインの煌めきが、さぞかし目に華やかに映じたことだろう。このレストランには多種多様な国籍の着飾った男女が集まってきて、その夜景を楽しみながら凝った料理に舌鼓を打っていたことだろう。今、芹沢が窓から見下ろす夜の上海の町は暗かった。― 略 ―本来なら上海のきらびやかな夜景を一望するはずの、展望レストランには客らしい客もいない。戦争が始まっているのだ。上海を統治する国際組織工部局警察に所属する日本人警察官を待っていたのは、帝国陸軍参謀少佐。
ひと月前までの上海なら、こんな雨降りの夜でも街の照明が雲に照り映え、それが微光となって大気中に揺曳し、それが窓から射し入ってこのテーブル席をもっと明るく照らしてくれていたはずだ。
「I am not Japanese.」 あれから五十年、生きのびた彼がなぜ、ここで、こう答えるのか、小説を読んでいただくほかはないが、ここでもまた、エンドロールへ転換する直前の映画のように登場人物のその後、物語の結末が語られている。
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