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2016年08月12日

小説「アリとギリギリデス」(その4)


 当然、彼とアパートの通路ですれ違っても、無視するようになった。彼の方も困ってしまったようで、私の前でどう態度をとればいいか、いつもオロオロしていたのであった。
 そんなある日、また、ちょっとした出来事が起きる事になった。正確には、私一人が勝手に突っ走ってしまったのだ。
 その日の昼間は、私は仕事で色々と失敗をやらかしてしまい、自分も落ち込むわ、上司からもさんざんに叱られるわで、そうとうにうっぷんがたまっていた。こんな時は、彼氏に優しい言葉の一つや二つでもかけて慰めてもらいたいものなのだが、この時付き合っていた彼氏と言うのがまた特に鈍感なヤツで、電話で連絡をとってみたところ、ひどく素っ気ない態度をとられてしまったのだ。その事で私もいきなりカチンときてしまい、私は彼氏と大ゲンカをしてしまった。向こうだって、なぜ私が急に怒り出したのかが分からなかったようで、当然どちらも謝らずに、電話は切ってしまい、私はますますムシャクシャした気持ちになってしまったのだった。
 その足で、一人で真っ直ぐ居酒屋へ行き、悪酔いするほどお酒を飲んだのだが、それでも気分は晴れず、そんな時、突然、隣の部屋の彼の事が思い浮かんだのである。私も、泥酔して、すっかり気持ちがおかしくなっていたのだと思う。もう何もかもヤケクソなのだから、いっそ自分の事を好いている隣の部屋の変質者と寝てやれ、と決めたのである。もちろん、彼氏への当てつけの意味もあっただろうし、自分を認めてくれない職場や社会に対する反抗のつもりでも、非道徳な事をしてやろうと思い立ったのだと思う。冷静になって思い返してみると、私ってほんとにバカである。
 しかし、この時の私は、もうすっかり、その気になっていた。
 夜遅くにアパートに戻ってきた私は、しつこく隣の部屋の呼び鈴を押し続けたのだった。    (つづく)

「ルシーの明日とその他の物語」

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posted by anu at 16:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説
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